ブラックマーケット・ヒーロー   作:げに味わい深きレモン

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ディープという街-1

 

 

「ん……先を越された」

 

 

 半ば暴走するような挙動で走り回る現金輸送車を追いかけながら、砂狼シロコは下唇を噛んだ。

 あのクリオネ銀行の輸送車は、数日前から目をつけていた獲物だ。この近辺に来て初めての襲撃計画ということでそれなりに張り切って情報を集めていたのだが、先に襲撃され金庫の中身が減ったとなれば話は変わる。

 

 ロードバイクを止めて、スマホを操作する。自動制御で輸送車を上空から追いかけていたドローンのカメラを操って、周りの様子を探る。

 輸送車に乗った実行犯が非常に目立つ動きをしているために、追手のマーケットガードの装甲車はそちらに殺到している。しかしよく観察すれば、別の道から輸送車についていくような動きをする、マーケットガードのものではない装甲車が複数いるのだ。

 

 今回の犯人は輸送車に乗っている者だけではない。そのことに気づいてからは、犯人が捕まった瞬間を狙って輸送車を強奪する作戦も考え直すべきだと判断し、とりあえずこっそりと後を追うことにしたのだ。

 

 悪人が盗んだものを取り返しつつ()()をもらうだけなら、先生やホシノ先輩も怒るまい。

 シロコは一人で頷くと、ペダルに足をかけなおした。

 

 

 

 キヴォトス有数の規模を持ったブラックマーケット、通称『ディープ』。

 アビドス砂漠から少しばかり離れた、海岸線沿いの都市。その廃墟にあるのがこの街だ。

 元々はアビドス高等学校の学区だったらしいのだが、数十年前にアビドス砂漠によって中心地と切り離された結果人口が急激に減少、一時は人っ子一人いない巨大なゴーストタウンと化していた。

 勢力の衰えていた当時のアビドス高校の生徒会はこの都市の領有権を放棄。他の学園や企業も荒れ果てたこの土地に見向きもせず、次第に忘れ去られていった。

 

 しかし20年ほど前。どこから流れ着いたのか、行き場をなくした不良たちの集団がここで暮らすようになった。初めのうちは、ただ細々とガラクタを集めて利用し生活していたのだが、港を利用し船を出し、他所で略奪してきたものを持ち帰る者が現れ始めた。

 それからの発展は目まぐるしい。学園に所属しない子供が力を持ったと見るや、それを食い物にするためにギャングが流入し始め。それが分裂し抗争を始めれば、違法な商人がが武器を売りに訪れ。

 

 やがて、大きな闇市場が出来上がった。力のあるものが幅を利かせ、弱いものが餌を求め光に寄れば、暗闇から現れた巨大な(あぎと)に呑み込まれる。その様子を光の届かぬ深海になぞらえて、人々はこの街とブラックマーケットを『ディープ』と呼び始めたのだ。

 

 

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