スキール音を響かせながら現金輸送車が旋回する。並みの装甲車よりも丈夫な車体は、弾痕や衝突によるキズと凹みだらけではあるものの、機能に一切の影響はない。
急加速に振り落とされないように、荷台の強盗は慌てて掴まった。
「オイ、どこいくんだ!置いていく気か?!」
取り残されたことに気づいた強盗が、走り去る輸送車に向かって叫ぶ。捕食者から目を逸らした彼は頭を散弾に砕かれ、それ以上言葉を発することはなかった。
オルカは仕留めた獲物を一瞥することもなく、逃げ出した輸送車を見つめたまま、8ゲージに弾を込めた。
強盗のリーダーが運転する輸送車が、マーケットガードの装甲車を跳ね飛ばし逃走する。あたりに散りぢりになっていたガードたちが慌てて射撃するも、輸送車が止まる様子はない。エンジンを唸らせ、真っ直ぐに大通りを駆け抜ける。
「いくらすばしっこいからって、車に追いつける筈が無え。逃げちまえばこっちのもんだ!」
ディープに来て早々に厄介な相手に目をつけられて、仲間も殆ど失った。もうこの街にはいられない。しかし、自分にはカネがある。ディープの他にもブラックマーケットはあるし、潜伏先にも困らないだろう。
そして、仲間と武器を集めて、改めてこの街に来るのだ。より強力な兵器と、より多くの仲間で、今度ははじめから、オルカを仕留めに行ってやるのだ。
眉ひとつ動かさずに部下を蹂躙していたオルカの顔が、恐怖と苦痛によって歪む様を想像し、強盗のリーダーは下卑た笑みを浮かべ……
強い衝撃が車体を襲った。横滑りし、ビルの壁面に叩きつけられそうになるのを、リーダーはかろうじてたて直す。
「何だ今のは!」
どこぞのバカにぶつけられたか、あるいはマーケットガードの新手か。車外に身を乗り出して外の様子を窺う部下が、信じられないものを見たかのように叫んだ。
「り、リーダー!オルカが……!!」
スレッジハンマーの頭を車体にめり込ませ、まるでウォータースキーのように左腕一本で車に引っ張られながら、ローラースケートで滑走するオルカが、そこにいた。
リーダーは慌てて速度計を確認する。一度衝撃で減速したものの、その針は時速100キロメートルを過ぎて加速していることを示していた。
ディープの大通りは真っ直ぐで見通しが良い。先回りなどしようがない。
オルカは自分のその足で、走行する車両に追いついてきたのだ。
「クッソぉ!!」
リーダーは悪態をつきながら輸送車を蛇行させオルカを振り落とそうとするが、それより早く。
彼女は銃口を輸送車の前輪に向け、引き金を引いた。
巨大な金属塊をぶつけられた車軸が捻じ曲がる。回転軸がブレた前輪はひとしきり暴れると、横向きになり車体に食い込んだ。
高速のまま前輪が固定され、急制動がかけられた輸送車は、つんのめるように前転した。
・8ゲージ
オルカの持つ水平二連式ショットガン。広く使われているものは12ゲージだが、オルカのものはより口径の大きい8ゲージ。名前はないので、使用する弾薬の番径で呼ばれている。21.2mmという、砲と呼んで差し支えない口径を持つ。
二つのアウターハンマーを持つ中折れ式で、トリガーもふたつ。
取り回しを良くするため、銃身とピストルグリップより先のストックを切り詰めてある。