風と火のうた   作:枯華院 清日

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予約投稿を出来たと思ったら出来てなかったので初投稿です。


入団

 

 

 

 

 

 

 

 

お試しでの仕事から移動だけで一週間が過ぎていた。

 

傭兵団の本部がある場所までの道のりは思った以上に長くて、自動車って凄いんだなぁと馬車に揺られながら考えていた。

 

同行してくれたのはヴェルマさんだけで、クリスさんは新人教育で忙しいのだとか。

もう一人か二人着いてきてくれた方が…。違うな、率直に、言葉を濁さずに言うと綺麗な女の人と二人だけというのがちょっと辛い。もっと具体的に言うなら、凄く緊張する。

 

「アールくん?どうした?」

 

それを知らずか、こうやって心配してくれる。

家族やレイラちゃんの時は緊張しなかったし。ナナさんの時はそれどころじゃなかったのも大きいけれど、こうまではならなかった。

ここ最近は安眠出来ていないけれど、それとは関係なく精神の平静を保つのに苦労している気がする。

 

「何でもないですよ。それより、もう少しで到着するんですよね?」

「あぁ、首都まではそうだ。本部も程近いが数日は宿舎で休める。団長と会うまではゆっくりすると良い」

 

ふ、と微笑みながら休むように言うヴェルマさん。

自分ではわからないが、そんなに疲れてる顔をしているのだろうか?

そういえば、傭兵団の団長さんがどんな人なのかは聞いていなかった。

 

「団長さんってどんな人なんですか?」

「…難しい質問だな」

「それってどういう…?」

 

ヴェルマさんの眉間に谷が出来る。

 

「悪人ではない、が。端的に言えば、何を考えているのかわからない、私生活すら謎だ。仕事の伝手もどうやって得たのか、経歴もわからん、ただわかるのは異常なまでに強いということだけだ」

 

私どころか君よりも。

そう言って人物評価は続く。

 

「人を見透かすのが上手く、こちらには何も見せない。そんなつもりはないと言われた事もあるが、どこまで本気なのやら…」

「不思議な人なんですね」

「そうとしか言えんよ。…緊張してきたか?」

「いえ…。や、やっぱり緊張してるかもしれません」

 

会って話してみない事にはわからない。けれど、何だか凄まじい人という事はわかった。

謎が謎を呼ぶ人。色々な不安を募らせる僕を乗せて、馬車の車輪は回り続けた。

 

 

 

 

 

 

そして、首都に着いて数日休んでから。

本部に案内される時が来た。

 

数日前休むことになったのは団長さんが忙しくて、直接会える日がずれ込んだから。

 

休むといっても宿舎でひたすらゴロゴロとしていた訳じゃなくて、土地勘を得る為に走り回ったり、倒れる寸前まで鍛え直したりはしていたけれど。

 

宿舎といえば、傭兵団の本部からは離れているらしいけれども、タダで雨風凌げる場所を貸してくれている。調理場も自由に使って良いそうで、親切な所だと思う。

肝心の部屋は机と椅子それとベッド一式と窓しか無くて、少し殺風景だ。

 

不思議だったのは、宿舎内で人とすれ違う事がなかったこと。人の気配も無くていっそ不気味ささえ感じた。

ヴェルマさん曰く。普段から人がずっと出払っていて、住んでいる人が居ないのだとか。

 

そういえば、ヴェルマさんといえば一緒に食事に行ったりもした。

本部に足を運ぶ機会が多いから、おすすめの飲食店が何軒かあるらしく、紹介してくれたんだ。

その時に初仕事のお金を渡されたので、そのまま奢られるのも何となくみっともないかなと思って、ヴェルマさんが席を外した時に支払っておいたら顔を赤くして怒られてしまった。

 

理不尽…!

 

そんなこんながあって、本部までの道を見渡しながら歩いていると。

 

「オッ」

「え?」

 

人生初の客引きに遭ってしまった。

都会って怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスティアンから聞いた話。

つまりこの目の前で客引きに遭い、そのまま無駄な買い物をさせられそうになった青年は。私の命を狙っていた瞬間があるらしい。

この押しの弱さ、というか気の弱さで?とは思う。

この一件だけではなく。本部近郊までの移動期間、たった一週間程度の付き合いだが、それでも無闇に誰彼構わず危害を加える奴ではないと思う。

人を見る目という物にはそこそこ自信もあるが、しかし人は見掛けによらないとも言う。

 

考えるべきは、私を殺そうとしていたらしい瞬間。その会話の意味。

あの日から一週間程前、何があったのかを知る必要がありそうだ。

しかし尋ねても本音は返ってこないだろう、後日それとなく鎌をかけても躱された。調べるというのも困難を極める、正確な出身地を聞いてもはぐらかされるのだから手詰まりに近い。

恐らくはクリスティアンやバートラムに聞いても無駄だろう、小さな村の出身とだけ返答されるのが関の山だ。

 

交友関係を洗うか?

これも難しそうだ、下手に怪しまれたら今度こそ死ぬかもしれない。

そうだ、この動悸は命の危険を察してのもの。決して先日の食事で紳士的な対応を見せられたからとかではない!

 

違う、落ち着け私。誰に言い訳をしているんだ。

そんな私の考えをよそに。

 

「ありがとうございます、助かりました。ヴェルマさんが本当に頼りになる人で良かったです!」

 

やめろ!変な事を言うんじゃない!

しかもどことなく顔を赤らめてはにかむな!

 

くっ…くそぅ…。

ちょっとズルいんじゃないか?

恐らく危険人物だというのに妙に人畜無害で幼い感じを醸し出して、飲食の代金も。

 

「こういう事、してみたかったんです」

 

なんて言いながら済ませておくし。

不公平じゃなかろうか、まさか危険人物は危険人物でも私の命以外を狙う何かしらの刺客なんじゃないか?

 

いや待てよ、連れてきたあいつが悪いんじゃないか?

許せん…殺してやる…殺してやるぞ…クリスティアン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤子は人を写す鏡、そう言ったのは誰か。

誰であろうともわからないが、もしそれが真実ならばこの男は赤子なのか。

 

窓の多い部屋、伝書鳩の為だと言われている。

ガス灯、蝋板、木簡、書類。何より大枚を叩いて購入したという電化製品に囲まれた男を見てヴェルマ・ベスパと自称する女は思う。

 

悠久の時を経て尚補修され、現存する高層ビルの一室で傭兵団の長を務める男は待っていた。

 

「…そうか」

 

何に対しての得心か、表情を変えないまま呟かれる言葉。槍を携えた青年、アールを見ての一言。

案内したは良いが、何を考えているのか。感情すら見えない双眸からは何かを読み取る事は不可能だ。

 

「先に非礼を詫びよう。説明不足があったそうだな」

 

これはクリスティアンの事についてだろう。真意には恐らく気付いている為、表面上の、無駄な軋轢を避けんが為だけの謝罪が告げられた。

さて、と間が置かれる。

 

「私はノーマン。このファナドゥルアルビアーグ傭兵団の団長に就いている、団の名前が長いようならファナドゥルと呼称するといい」

 

簡潔な自己紹介。そして言外に相手への自己紹介を促している。突き放すような言い方ではないが、そこに慮るような感情は見出せない。

 

「僕はアール・シオンです。これから宜しくお願いします、ノーマン団長」

「ああ」

 

新人との自己紹介は済んだとばかりに、短い返事のみを返す。

場が静まる。ノーマンに悪気があってのことではない。言うべき事は終わったのだと確認しているだけだ。

どうにも居心地が悪いとアールが感じるのも無理からぬ事であった。静寂に耐え切れずに質問をする。

 

「そ、それで…これからの予定は…」

「決まっている。後日正式に通達するが、私とヴェルマに同行し、この場にいない他団員達と共同でとある拠点の襲撃を行う。今回は班を編成する為、まずはお前の適正を見よう」

「はい?」

「は?」

 

唐突な宣言。

どうにも脈絡を意図的に無視しているきらいがある。そのせいで見事に振り回される当人達からすれば溜まったものではないが、振り回す本人に気にしている素振りは見られない。

特異な拳銃を二丁携えてノーマンが続ける。

 

「構えろ、こちらは装備を含めて手加減しよう。お前は殺す気で来るといい」

「団長、いくら何でも性急では?」

 

ヴェルマが諫めようと声を上げた。

実力や戦いぶりに関しては報告が届いているであろう、にも関わらず。手加減有りと告げてまでこれから戦闘をしようとするがその必要はないはずだ。

 

「開始の合図がある戦闘ばかりではない。負傷はさせないし、する気はない。邪魔にならないように下がっていろ」

 

しかし断固として前言撤回する気はないらしい。

ヴェルマに下がるようにだけ言い、二丁の拳銃を両手に構える。最早語る気はないと、真一文字に結ばれた口元だけが雄弁だ。

こうなると如何に止めようとも決して止まらない人間だと彼女は知っている。

 

「…行きます」

 

その様子を見ていたアールは、事態を飲み込み切れてはいないながらも槍を構えた。

臨戦態勢に入った人間に対して、交渉による戦闘回避が望めるほど、自身の弁が立つとは思っていないからだ。

 

「好きなタイミングでいい」

 

だが、腕の方も立たないと思ってもらっては困る。

自負している訳でなくとも。これまで過ごしてきた人生とその鍛錬の成果、その一端は眼前にいるこの人に見せねば亡き父に顔向けができないと思った。

 

 

 

 

 

 

開幕。

槍で薙ぐ、戦闘機能を削ぐ為の手足や頭ではなく、胴体そのものを狙った只管に当てるための一撃。

先手は譲られているので、当然間合いを詰めると同時に槍を放った。そのままなら柄に巻き込んで、後ろに下がれば穂先が切り裂く。

 

「……」

 

だが避けられる。無感情に、驚く事も無いと声は上がらず、瞬き一つなく。詰めた間合い分後ろに跳ばれていた。

 

ならば。

 

「…シッ!」

 

振り抜く直前の槍の勢いを殺し、反転させた得物を両手で握り込む。

摺り足で近寄り。足の反発、腰の捻り、背中を回し、肩から腕に、全ての力を手と一体化する槍へ伝達させる。

捩じ込まんとするは正中線上の水月。石付きにて、先程と同じ胴体に向けて渾身の力を込めて突き穿たんとする。

 

当たれば必殺に相違ない、銃弾と見紛う一撃。

先程と同じように跳躍での回避をしようものなら空中で撃ち落とされる鳥と同じ末路が待つ。

しかし相手は飛ぶばかりが能の鳥ではない。

 

「……」

 

またも無言、品定めする眼に動揺はない。

放たれた必死の槍を一瞥するでも無く、身を捩り、奇妙な拳銃で矛先を逸らす。

 

回避の一助となった拳銃、その二丁ともに銃剣が如き切っ先が付いている。

取り外し可能な物ではなく、最初からそう作られている不可思議な存在。重心のバランスが崩れるデメリット、更には狙いの付け難さ、ナイフを使った際と比べての取り回しの悪さ。

しかしそれらを無視した上で運用可能ならば有用足り得ると眼前の景色が述べる。

 

「ゴム弾だ、骨は狙わん」

 

槍を滑らせたそのままに、槍そのものを脇で挟み封じた。距離としては四肢を使う打撃も、銃剣での刺突も届かない中途半端な距離。

だがこれは銃剣ならではの距離。

 

銃声が二つ、下腹部と太腿に向けて奏でられる。

 

ノーマンは狙いを付けていない。わざとそうしたのではなく、狙う必要が無いのだ。

鍛錬か天性のものか知る由もないが、反動を手指だけで相殺し、確実に命中させる。

極論だが、銃弾が銃身から離れるまで、銃口が標的から動くことが無く。また、標的が動かず風雨や重力によるズレを修正すれば、引き金を絞り込む手が木石だろうと当たるのだ。

 

そしてこの男は、どんなに無茶な態勢からでも、豪雨暴風の最中であっても、外すことはない。

撃つ前から瞬時に命中の可否を判断する能力を含め、必中という名の特殊技能と言える。

 

 

 

一方のアールもやられたままではない。

 

 

これはあくまで眼前の相手の言葉を信じれば、模擬戦形式の実力検査と頭では理解している。なので、まだ戦える。

ゴム弾が何かはわからずとも致命傷は負っていない。単純に痛みを受けただけ。

 

本能もこのままでは終われないと叫ぶ。

死にはしないが死ぬ程痛い。銃弾を受けた痛みを誤魔化す為に闘争心を剥き出しにする。

怯んではならない。

痛苦は無視しろ。

怯懦を抑えろ!

慢心を殺せ!!

 

 

槍の操作を捨てた、両手を自由にした方がこの距離では都合が良い。

相手取るは一対の爪牙を持つ二組の怪物、意思持つ刀のように舞い、鷹のように鋭く振り注ぐ、手に収まるキメラそのもの。そしてそれを身体の一部として自由に操る常識の範疇から外れた人間。

 

凌ぎ切る。

こちらに食らいつく顎も無限ではない筈だ。

 

続けざまに狙われる胸部。

手で銃口を逸らす。

またも狙われる脚部。

先に膝で蹴る。

 

繰り返す事数回、ノーマンは当たらない事を察して引き金を引かず。しかして執拗に銃口を向け続ける。

アールはその銃を時に跳ね上げ、蹴り、逸らす。

どちらかが根負けするまで続くかに見えた獣のじゃれ合いが如き数秒の交差。

 

獣を往なす青年の狙いは戯れることではない。

 

「取ったッ!」

 

猛獣の鋭爪を乗り越えて手首を掴む。

僥倖を掴んだその一瞬に…。

 

衣擦れの音、ある程度の質量が衝突する音。

 

その正体は投擲。

自身の身体を支点にした、背負い投げに近い投げ方。

これは頭から落とす事を目的としていない。

腕ごと捻り上げて、そのまま墜落すれば肩と手が人体の可動域から外れる角度で投げ落とした。

 

 

 

 

 

 

 

勝ったと思った。

 

少なくとも、殺す気で来いと言われてもあくまで心構えの話だろうし、僕が手傷を負わせればその時点で終わるだろうと考えていた。

だからこそ、腕を極めた状態で投げれば勝つと思っていた。

 

「よくやった、だが私の勝ちだ」

 

遠くに佇むノーマンさんの持つ銃が僕の頭を捉える。

どうやって?いつの間に?

 

油断していた訳ではないけれど、全部見える程度の速さじゃなかった。

 

なので推測に過ぎないけれど。

地面とぶつかる前に、僕の背中を蹴って無理矢理跳んで。そのままの勢いで距離を取った…のだと思う。

ただ、確実に掴んでいた手首と腕、というか肩の感触がおかしかったのははっきりと感じた。

まさか…?

 

「あぁ、気付いたか。極められた肩と腕、手首も外して振り解いた、不完全な投げは容易に抜けられる。そして投げられた勢いを活かして、お前を蹴ってここまで跳んだ」

 

淡々と告げられる所業に背筋が寒くなる。

相対したこの人は本当に同じ人間なのだろうか。

 

僕の手元に槍は無く、引き金を絞り込まれるより速く詰められる距離ではない。

 

「負けました…」

 

そう言って両手を上げて降参の意を示した。

それを確認すると、ノーマンさんは銃を懐に収めて事前に用意していた事のように言う。

 

「その実力を認めよう。この時を以て、お前はファナドゥルアルビアーク傭兵団の一員だ」

 

 

 

ああ、まったく世界は広い。

 

とはいえこんなにとんでもない人はそう多く居ないと願うばかりだ。

 

 

 

 

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