風と火のうた   作:枯華院 清日

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前回の話に番号を振り忘れていたので初投稿です。

ポンコツがよぉ…!


10 目的

 

 

 

 

 

 

 

「お前の適正は護衛だ、幾つかある依頼を回そう。襲撃までに人を一方的に傷付ける事に慣れておけ」

 

銃を収めた傭兵団の団長、ノーマンがそう告げる。

何を見ていたのか、光のみを映す眼からは知る由もないが、この判断に承服しかねるとアールが噛み付く。

 

「待ってください!今のもそうですけど、僕は大丈夫です!やり遂げてみせます!」

「大丈夫とは何がだ」

 

問われる。

咄嗟に口にした言葉、何が大丈夫なのかという問いに対しての解答は。

 

「さ、最初の仕事だってやりました。だから、僕は」

「殺人も厭わないと言いたいのか。

違う、お前はその任務において、能動的に人を殺していない。

報告は見た、手腕自体は見事と言える。だが相手を盾に使っただけで、お前が銃で仕留めた訳ではない。ましてもう一人を縊り殺してもいない。

そうなった事と、そうした事、この差は明確だ」

 

だが、と続けられる宣告。

 

「良い、悪いの話ではない、向いていないというだけだ。先程の戦闘も同じ、最後に私を投げる前に片手で首を折るつもりで掴めば…」

「あれはあくまで腕試しみたいなものなんじゃないんですか!?だったら!」

「そうだ、しかし。私は殺す気で来いと言った、お前にはそれが出来なかった、それだけの話だ」

 

沈黙。

 

事実のみで塗り固められた言説に返す術は無い。

そも手加減は無しで来るように宣言しているのにも関わらず、横薙ぎや石突きでの刺突等。

必殺の意は込めていたという言葉とは裏腹に、なんとも優しい攻撃なのだと責め立てて聞こえる。

 

静寂を齎した男がその静けさを破った。

 

「…あぁ、そうか。勘違いするな、クビにはしない。あくまで適正の話だ、私に食って掛かる前に落ち着け。

猪突猛進のきらいがあるな、他者に被害が及ぶ前に改めるといい」

 

仕事は当然やってもらう、と締め括られる。

以降誰も口を開く事はなく、ヴェルマに目で促されるままアールは退出した。

 

 

 

 

 

 

窓の開け放たれた室内。

微風が耳に届く事なく掻き消え。適正を測るとした題目での戦闘が行われていた時には、後ろに下がっていた女は、硬質な靴音を鳴らしつつ、何かを言わんと窓辺に佇む部屋の主に近寄る。

 

「彼の目的は何だと思いますか?」

 

しかし紡がれる言葉は先程の一幕への非難ではない。

事実なれば覆しようが無いからだ。実のところ先の初任務の際、アールの性格では人を一方的に襲う事に向いていないとは直感していた。

 

命令されたから襲撃を行い、結果的に同士討ちを誘発させて殺害及び無力化を成功させたが。もしも相手が油断なく待ち構え、先制攻撃が功を奏さない場合は?

盾にした相手が銃弾に対して対策を怠らず、二対一で銃撃されていたら?

つまりは上手く事が運ばれただけで想定が甘い、これに尽きる。

 

そのうえ、最後には相手に情けをかけるが如き一言。

碌でなし共と教えられて、相手に侮蔑の言葉を述べろとまでは言わないが。なぜこんな事をしてしまったのかという言葉を投げかける、つまり想定も甘ければ思考も甘い、呑気な奴と思われるのも仕方の無い事だ。

 

だからこそヴェルマはわからない。

あの新人は何がしたいのか。

 

「自己申告では人探しだったはずだ」

「本心からではないとお察しでは」

「そうだな、クリスティアンからの報告も目を通したが…当然それだけが目的ではないだろう」

「見当がついていると?」

「ああ」

 

部屋の主、ノーマンが振り返る。相変わらずその目から何かを窺い知る事、相手を映しているのかさえ知る手立てとならない。

ただし、それでも相対した何かを観察する事にかけては、この傭兵団でも随一である。

その男の見識は。

 

「復讐…仇討ちが妥当だ」

 

 

彼の放つ弾丸と同じく、慮外へと向かう事はない。

 

 

「よくある話ですね」

 

そんな物かという安堵か、あるいは合点がいったからか、一つ荷が降りたと言外にある声。

 

「そうだな、身辺に借金などなく。あれだけ動ける人間でありつつ、まるで人を殺めようと考えていなかった人間が。こんな仕事をしようとするのには普通の、よくある事だ。

ともかく期日としては、お前に尋ねた事から4月の初頭前後に何かあったと考えるべきだ。この時点でアールと接触した団内の関係者は候補から外れる」

「クリスティアンを含めてバートラム達は移動中か募集の為に動いていて、荒事はありませんからね。私も事務仕事に掛り切りでした」

 

単純な話として、先ずもってアールとは初対面。なおかつ彼と関わった人間は、最近は誰も物騒な事をしてはいないのである。

 

「なので気にすることは無い。何か言い返そうとしたのも、お前は復讐する相手に何も出来ないと言われたように感じたからでしかない。

使い道はある。真正面から人の命を奪えないならば撹乱として暴れさせるか、偵察か斥候で無力化させる要員として。何より護衛が最も適している、盾を持たせれば大凡何が相手でも仕事を全うするだろう。

以上だ、何か質問はあるか」

 

そう言い終わると、ノーマンはただ静かにヴェルマを見つめる。

言葉以上の他意は無く、純粋に抱えているかも知れない疑問に答える為に静寂が用意された。

 

 

 

 

凪いだ大海の瞳。相も変わらず奥底に何が潜むのかすらわからんとヴェルマは諦める。

疑問も捻り出す事はない。どうせその内、嫌でも答え合わせの機会はあるとだけ思っていた。

 

「質問が特に無いならば解散とする」

「…そういえば、団長は4月の頭に何を」

 

ふと思い出した、普段から仕事以外に何をしているのか知らないが、推定復讐者の彼の身に何かがあった日。その前後に眼前の男は何をしていたのか。

 

「武器調達だ」

 

非常にありふれた返事。

仕事道具を調達しに行っていただけ。

質問したは良いが、実はこういった面白味のない答えだとは予測していた。ここまでつまらない…というよりも人間味さえないとは思わなかったが。

 

「何かこう…無いんですか?」

「なにかとはなんだ?」

「…いえ、いいです」

 

自分の事は華やかな趣味の無い女と自覚しているが。対面している相手は、自分より輪を掛けて趣味どころか何も無い。

面と向かってため息を吐くことはしないが、ほんの少しだけ、落胆さえ覚える。

もういいと会話を切り上げる事が無理矢理に感じられても、この人の心が揺らぐ事は無いとだけは確信を持って言える。

 

「…そうか」

 

その証明として、納得したと含みがあると思われる短い返事。会話を楽しむという考えは彼の辞書に無さそうだ。

お喋り腐れ男…ではなく、クリスティアンとアールと団長を足して割ればちょうど良くなるのではないか?

 

「えぇ、では私もこれで失礼します」

 

そんな胡乱な考えをしつつ、用向きの無くなった部屋から出ようと扉へ向く。

 

まぁ本部宿舎の自室に戻っても何も無いが。

そうだ、急ぎではないが土産物でも贈る用意でもしよう。いや、ナイフの調整も良いか。とにかく所用を終わらせたら一人で酒でも飲むか。

 

「いや待て、一つだけ補足がある」

 

非常に珍しい。急用でもなく呼び止められるとは。

明日は火薬か、はたまたFRでも降るのだろうか?

 

「…何についてでしょうか」

「拠点襲撃まではおよそ二週間ある、それまでにアールには護衛の仕事を回すが。それらの仕事には、ヴェルマ、お前にも同行してもらう」

「は…?」

「退職勧告をしろ、という訳ではない。

折衝の問題は無いだろうが、万が一何かあった時の為の保険だ。補填はしよう」

 

急に何を言い出すのか。補填をするということは何か面倒事が起きるとわかっていて、その上で私にその役目をしろと?

 

「誰彼構わず害意を振りまく為に質問を繰り返していたのでは、余計な時間が掛かる。早々にこちらが標的ではないと示せ、他の団員との顔合わせもその方が円滑に済むだろう」

「…わかりました、それだけですか?」

 

納得はするが、どうにも厄介事は増えるものだ。

今日だけで一気に疲れてしまった、戻ったら先に仮眠を取ってシャワーでも浴びるか。

 

気にも留めないだろうが、礼節として。返事を待ちつつ、緩やかに足の爪先を出口に向かわせようとしたその時。

 

「ああ、以上だ。因みに言っておくが、うちは団内恋愛については禁止していない」

 

…いま、なんていった?

 

団内恋愛??

そもそもの恋愛の意味さえ知らなそうな団長が急に何を、さっきの模擬戦で本当は知らない内に頭でも打ったのか?

 

「団長、それはどういう?」

「クリスティアンからの報告にはお前がアールにときめいていたと書いてあったが…。違うのか…?

ふむ…。気にしなくていい、同行させる事に私の…いわゆるお節介という物は含まれていない」

 

報告書に何書いてるんだあのクソ男!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファナドゥル傭兵団の宿舎は、ノーマン団長の居た本部とは少し離れた所にある。

 

そこでここ数日は寝泊まりさせて貰っているけれど、自分に割り当てられた部屋まで、どうやって戻ったのか。この日はあまり覚えていなかった。

 

ノーマン団長が僕に言った事は正しい。

 

やるべき事の為なら人の命も奪えるなんてクリスさんとヴェルマさんには言った。

でも結局、自分から攻撃は出来ても殺害までは出来ていない。山の獣と対峙した時とは訳が違う。

動物なら良いのか? と言われれば、食べて生きる為と割り切れる。現にそうして生きてきた。それでも、人を相手にする時は違う。

 

最初の仕事で盾にした人を蹴飛ばしたのも、咄嗟にそうしたからというだけ。明確な殺意なんてものは抱けていない。

 

父さんから教わった技を人間に振るう時も同じだ。

人を殴る感触、骨の軋む音、血を流させた時、槍で穿つのも、棒で打ちのめすのも。全部苦手だ、嫌いとさえ言える。

 

そういう時、そして初仕事の時にも、どうしても頭の片隅で過る考えがある。

 

動物達とは違う自分と似た姿、言葉を話して、誰かと笑い合うことができる。

例え数秒前までその人を知らなくても、彼等には親がいて。恨まれるような事をしていたとしても、いい事だってきっとしていた筈だと。

 

あぁ、村から、唯一の親友の下からも飛び出して、僕はどうしたいんだろうか。

村を焼き払った奴が憎いのは本当だ。それでも、これから先に仇を見つけた時に、もしも相手が善人で、仕事だから仕方なくやった事だなんて言われたら…。

 

考え無し、猪突猛進。

これもノーマン団長に言われたことで、辛くなるほど的を射ていた。

 

 

 

 

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