(※ファイアーエムブレム聖戦の系譜で著名なスキル)
「……装…ら……レベ……定…短……開始…」
おかしい。誰かの声が聞こえる。
誰かが出入りする為の経路は一つしかないはずで、それなら親友を見つけているはずだ。
全部見渡せた訳ではないが、気絶する前よりうず高くなっている瓦礫の山から察するに、アレディのいる出入り口方面とは、恐らく完全に分断されてしまった。
意識と視界が鮮明になるにつれて膨れ上がる、何より当然の疑問。
「おはようございます、オーナー様。独自判断から、緊急要件としてオーナー様と、その他一名の怪我の治療を完了済みです」
後遺症、傷跡、ともに無し。
そう言ってくるこの女性の声は、そもそも誰だ?
「君…は…?」
誰なのか、という問い掛けに、言うが早いか。
「私は…そうですね、セブンまたはナナと呼称ください」
違う、それだけではない、今は何時で、ここは安全なのか、村の皆は無事か、アレディはどうした。
意識が明瞭になるにつれ、更に疑問が湧き出てくる。
その前に、冷静になれば思い浮かぶ当然のこと。
名前はさて置いても、何をしにここにいるのか、追い剥ぎや野盗…にしては自分が無事なのは変だ。
それに、さっきよりも薄っすらとした明かりの中、ほぼ見えないが、息を切らしてはいないし、焦っている感じもしない、少なくとも山野を駆けてきたようにはとても思えない。
「恐らくオーナー様の抱えていらっしゃる疑問にお答えします」
何も言っていないが、そんなに怪訝な気配を出していたのだろうか、僕の疑問に答える?そもそもオーナー様とは?
「まず一つ、衛星による時間補正修正後ですが。現在時刻はおよそ午後の5時、まもなく夕暮れ日没となるでしょう。天気は曇り、降水が予想されます。雨具をお持ちでは無さそうなので、アイドリング状態解除後に用意いたします。
二つ、ここは博物館です。オーナー様が清掃してくださっていた所、地震ではなく、高重量の何かが地面と衝突してこの近辺にまで及ぶ揺れとなり…」
「ま、待って!」
「はい、再度確認したい場合。お好きな時に御命令ください」
立て板に水、あるいは一方的な言葉の洪水だった。
気を取り直して、とにかくこちらの疑問に答えてはくれるようだから…。
「君は…?」
「セブンまたはナナとお呼びください」
…ついさっき聞いた言葉と似た返答、本当は素性について聞きたかったが、たぶん、その事については答えてくれなさそうだ。ずっと大きな抑揚も無く喋っているし、何を考えているのかをこちらが推理するより、今まさに確認したい事を絞って手短に質問するべきだろう。
「そうだ、アレディ!彼は無事なのか!?」
「直近にいる男性の事であれば、はい、肯定します。診察情報から、施設崩落による石片の落下、それを頭部に受けて気絶、軽い意識不明状態でしたが、オーナー様の治療後に同じく治療を実行、物理的に呼び掛ければ今すぐに目を覚ますと推測します」
あぁ良かった…ってそれだけじゃない、他の人達はこの揺れで無事なのか!?
「村の皆は!?」
「不明です、周辺に民家の跡地は存在しています。詳細な情報に更新したい場合、地上に出て情報収集する必要があります」
「不明…?と、とにかくここから出られる?」
わからない何て聞くまでもない。
この人もこの場から動いていないんだから、わかる訳がない。ダメだ、どうにも気が動転している。
「地上への階段は、現在瓦礫により閉鎖されていますが。オーナー様の承認によるアイドリング状態解除後、垂直方向へ発進する事により脱出可能です」
そうか、と全部に得心いった訳ではない、よくわからない単語が多い、が。
現状としては。アレディは無事、村の様子はわからない、ここから出る事はできる。ということだろうか…。
「じゃあ…とりあえず、アレディを助けてからここを出なきゃ…だね?」
「かしこまりました、アイドリング状態を解除しますか?」
アイドリング…?
さっきも言っていたけれど、どういう意味で言っているんだろう。
「それはよくわからないけど…何にせよ、やらなきゃ。えっと……ナナ…さん?」
「はい、しかし私に対して敬称は不要です。オーナー様」
「えぇ?じゃあ…うーんいや、やっぱりナナ…さん、も様とか付けなくていいよ。僕はアール、瓦礫で見えないけど向こうにいるのがアレディ」
よろしく、と声の方向に声と手を差し出す。
気絶してから姿勢を整えてはいないけど、これ以上無礼を働くのは、相手が何であれ良くはないと思った。
「はい、オーナー・アール」
「…よくわからないけど、どっちかだけでいいよ。あんまり仰々しいのもちょっと怖いし…」
「………」
間、逡巡しているのだろうか。
はっと気付く。
何か知らないだけでこの人の嫌がる事をしてしまっているのか…!?
何気なくよろしくなんて手を差し出したけど、思っている以上に手が汚れているとか?
こういった時の機微については親友の方が敏い、怒っているのか、困らせてしまったのか、どうすれば…!
「…かしこまりました、オーナー。早速ですが提案と確認をします。アイドリング状態を解除、機能一部起動後にアレディ氏を救助、搭載後に脱出。その後はオーナーの手動操作か自動操作、補助操作を選択の上、バックグラウンドで情報集積しつつ、オーナー呼称目的地、村を目的地として移動しますが、よろしいですね?」
良かった、怒ったりしていたのではない、だろう、たぶん。
考えの整理をしてくれている時間だったに違いないと思うことにした。
「わからない所は、出来れば後で説明してほしい…けど、とにかく行動しよう。ここに居ても危ないだけだろうから」
中々に難解だったり現状と結び付かないような、不可思議な単語もあるけれど、ひとまずアレディと一緒にここを出て村に戻るための行動をする…のだと思う、不明な点の多過ぎる、この女性…?ナナさんの提案に乗って行くしかないのも現状仕方ない。
そうと決まった。直後。
「では開始します」
始める事を、そう自分に告げる声。
それと同時に自分の頭に何か、きっと恐らくは彼女の手が触れる。
「起動キー取得、オーナー承認によりアイドリング状態解除」
声が続くと同時に何かが回る音、声の方向から巨大な心臓が動くような音がする。
薄い明かりが、何かに光が吸い込まれていく。
何も見えない暗闇の中、自分を中心に何かが膨らんでいる!
「システム、制限起動、行きましょうオーナー」
理解出来ないことの濁流に呑まれたすぐあと。
会話していた時に、聞こえていた声が響く、白っぽい空間にぽつりといる自分。
さっき頭に触れてきた手の感触は、人にしては冷たすぎた、なんて事を考えていた。