風と火のうた   作:枯華院 清日

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古戦場中なので初投稿です。


3 帰途

 

 

 

 

 

 

足元が音もなく揺れる、といっても立っていられない程ではなく、微かなものだった。

 

「要救助者。呼称、アレディ氏を確保。機内に一時収容。上昇します」

 

揺れているが、そもそも音があんまりしていない。

この白い部屋の中で響くのは自分の呼吸音と、彼女の無機質さを感じる声だけで、何があるかもいまいち見えない。

アレディの確保をした、ということはどうにかして瓦礫を退かしたのだろうか?

上昇する、とは聞こえたけれど、これもどういう事なのか…。

 

「周辺に脅威は認められません。機体一時停止、オーナー。これより、操作は如何しますか?」

 

オート、セミオートを推奨します。

という声。さっきと変わらず意味がわからないが、疑問は後だ、とりあえずは、どうなっているのかわからないけれど、この部屋から出てアレディと周囲の安全確認をしなくては。

 

「その…オートとかセミオートとかはよくわかってないんだけれど、とりあえず部屋から出してほしい。アレディもどこかにいるなら一緒に」

「かしこまりました。当機はオート機能、一時停止状態を継続。オーナー、救助者の両名を当機より降ろします」

「うん…ありがとう…?」

「お気になさらず、当然の機能です」

 

当機、機能。更に不明な事が増えていく。

村への道すがらに聞くにしても、少し時間が足りないんじゃないだろうか。

何にせよ、地下と、この部屋から出られてアレディも助かったのならかなり幸運だった。

そうだ、そのお礼も改めて言わなければ。

そう考えていると、外の景色、見慣れた村への道が目に入る。

 

だけではなかった。

 

「これ…は…?」

 

いつの間に部屋から出たのか、そんな事を気にしているどころではなくなった。

見たこともない何かが、こちらを覗くように、片膝を着き傅くようにしていた。

 

それはあまりに大きく、全体の形は人のようで、深い赤。一部には白や黒も使われてはいるが。

あまりにも目を引く異様、恐らくは指の一本にさえ、冷たい金属の質感が見える。

熟した林檎より尚赤く、日に翳した手の赤より暗く、炎そのものより燃える赤色。

 

「ここは…外か…?アール?何がどうなって…」

 

見惚れていた。

呆気に取られるのではなく、圧倒的な威容を携えた芸術品を目にした時の如く。

それは少し離れた場所にいつの間にか居た、親友から発せられる無事を告げる肉声にさえ、反応が遅れてしまう程に。

 

「…あっアレディ!良かった…本当に無事だった…。まず落ち着いて聞いてほしい、僕にも何が何だかわからないんだ。でも、この…何かが僕達を助けてくれたんだと思う」

 

推測の域を出ないけれど、そうとしか考えられない。それでも親友の表情は、安堵の色を一切見せることはない。

 

「…おう、お前こそ落ち着け。そんで、そいつからゆっくり離れろ」

「どうしたんだ?」

「いいから、落ち着いて、離れろ。そいつは…こんな辺鄙な場所に有る訳ねえ、兵器だ」

「兵器…?」

 

この赤い巨人は、兵器?

どうしてそんなものがここに?

そういえばさっきのナナという彼女は?

 

「否定します、当該個体…私は軍事物資、並びに特定国家の所属ではありません」

 

どこからともなく声がする、間違いなくこの巨人から発せられている。

しかも、さっきの彼女の声だ。

 

混乱した頭をそのままにしつつ、親友のいる方へゆっくりと後退りする。

 

「…少々お待ち下さい」

「あぁ? アール、いいから離れろ。何してくるかわかんねえぞ」

「………はぁ」

 

巨人がため息を吐いた。

かと思えば、見る間に縮み、色も変わり。強い光を伴って。

 

「これで宜しいでしょうか、私は、そちらに危害を加えません」

 

光が収まれば、普通の女性が喋っていた、ナナという人と同じ声で。

 

見れば、髪と肌は異質なまでの白、しかし所々赤い。

服装は黒と白の簡素な作りのローブのような物、靴はブーツ、なのだろうか。

服から出ている手足そのものはほっそりとしている。

男性ながら自分より細身で色白なアレディとは比べるべくも無い、自分の実の姉や母のように成人している女性そのもの。

顔自体も驚く程整っているが、瞳が仄かに赤く輝きを放ち、自身が理解の及ばない何かである事を主張しているかのようであった。

 

この人、あるいはこの人の形をした何かが、数秒前まで兵器と呼ばれた何かと同じ存在と思う方が難しい。

だが、自分達と同じ普通の人間とかけ離れた存在だということだけはすぐに判断できる。

 

「オーナー、そしてアレディ氏。改めて名乗ります、セブンあるいはナナとお呼びください」

 

それは見た目に限らず、纏う雰囲気、声の抑揚、何より表情が欠けている事。

似ているからこそズレが目に付くのだ。

だが。

 

「えっと…ナナ…さん、だよね?…ありがとう、と、よろしく…?」

 

アールは思考停止していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

挨拶は基本、した方もされた方も嫌な気分にはならない。何よりされて嫌がる奴は、まともな状態じゃ無いか、そいつがまともじゃ無いんだから、ちゃんとやっておくといい。

というのはアールの父、ディーノの談。

 

「はい、こちらこそ宜しくお願い致します、オーナー。先程からの件ですが、どうぞお気になさらず。あの程度であれば、私の…」

「普通に話してんじゃねーよ!いや、何がどうなってんのかわかんねえけど!何もわかんねえけど!」

「…オーナー、アレディ氏は混乱しており説明が必要なようです。私が情報収集を行う傍ら、オーナーも交えて質疑応答の時間にするべきかと提案いたします」

「説明が必要なのは俺だけじゃ無いだろ!?」

「………」

「あぁ、うん、お願い…?」

 

アレディと比べてどこか惚けているのがアールである。

 

 

 

 

 

 

それはさておき。

 

「それでは、質問をどうぞ」

 

どのような疑問にも、知り得る範囲でお答えします。

と言ってこちらに立って向き直すナナさん。因みに質問者側の僕達は、いつの間にかナナさんの背後にあった椅子に座らせて貰っている。

僕は何が何だかわからない、最早お手上げである。

した方が良さそうな質問をまとめる為にも、アレディの質問を優先しよう…。

 

「まずは…あー…あんたは誰だ?」

「セブンあるいはナナとお呼びください」

「名前じゃなくて…クソッ、ナナ、あんたは何者…いや…出身と、何でここに居るかって理由と目的、俺たちを助けたのなら、見返りが必要なのか…出来るだけ嘘を付かないでくれよ」

 

そう、嘘を明確に看破する手段をこちらは持ち得ない。彼女の裁量によっては、如何様にもなる。

 

「悪意のある虚言は機能制限されています、ですが、現状混乱させてしまうだけの情報は話せません。それでも出来る限り、必要と思われる補足も交えてお答えします」

「頼むぜ…」

 

アレディも全部を鵜呑みには出来ない、それがわかっているからこそ、懇願にも似た言葉が絞り出される。

 

「はい、まず出身ですが、既に滅んでいます。場所だけ同じ地点ならば、帝王国の島出身です」

「…滅んでるっていうのは…いやダメだな、次だ」

「はい、では次の質問ですが…」

 

疑問が更に増えている、だがしかし、返答自体は丁寧にしてくれている。

端的、なおかつ平坦に続々と述べられていく彼女の質問に対する答えを掻い摘むと…。

 

出身地はもう無い、場所自体は帝王国の島。

村の地下には居たのは、実は元から居てずっと長い事一人で過ごしていた。

助けた理由は、偶然にも条件が揃って僕と契約をしたから。だから僕らの命も助けたし、治療もした。

見返りは必要ないし、これからも僕に協力する。

契約なので、裏切ることはない。

との事だった。

 

契約。

能動的にした覚えはないし、いつしたのか、どうして条件とやらが揃って成立したのか。わからない点が多い。何より非常に気になる事が一つある。

 

「その、ナナさん。さっきの巨人と今の姿はどういう事なのか教えてもらえるかな…?」

「私の力の一部です」

「人間じゃないって事だろ?」

「………」

 

アレディの相槌、ともすれば非難にさえ聞こえる言葉にナナさんが押し黙ってしまう、どことなく嫌がっているような、悲しんでいるような…。

 

「それにあのデカい時の、俺は知ってるぜ。俺らが生まれる前からやってるくだらねえ戦争の、その兵器と形が似てる」

「FRと呼ばれる兵器群の事でしょうか」

 

こういう時でもアレディは冷静だ、しかも僕より博識なので質疑応答の類は

「そうだ、って知ってんのかよ。水晶玉みてえな形からデカい人型に変わって、人を乗っけて人を殺す兵器。前線に並ぶって名前だが、別になんの事はねえ、兵器は兵器だ」

「肯定します。兵器は兵器、人殺しの為だけの物、ということについては、ですが」

 

ナナさんは無表情を崩さず、しかし平坦な声から嫌悪を隠さない。それを聞いてアレディは、皮肉を込めている事を隠さないまま口の端を吊り上げて続ける。

 

「綺麗事を言わねえだけマシか」

「否定します。感想ではなく単なる事実を述べているだけです、何より、私をそれらと同じ存在と思われるのは不愉快です」

 

意地の悪そうな笑顔を見せつけるままに言葉が続く。

 

「へぇ、確かに人の形になるFRなんざ確かに知らなかったが。さては新型かなんかで、そのプライドでもあんのか?」

「アレディ氏は、私を試しているのですか?」

「氏なんて要らねえよ、呼び捨てにしてくれ」

「………かしこまりました」

 

FR、聞いたことのない単語だが、どうやら二人とも何かしら知っているようだ。後で何なのか教えてもらおうと思ったが、それよりも大事な事を思い出した。

そう、まさしく失念していた、アレディは見た目こそ細身で白い、頼り無さげに見えるタイプだが、基本的に口が悪い。

口さがないともいうが、面と向かって皮肉も軽口も悪口も平気で言う。

ある程度付き合いがないと非常に誤解され易い男なのだ。

 

「アレディ、止せ。気が立ってるのかもしれないけど、助けてくれた恩人にいくら何でも失礼だ」

「…悪かったよ」

「オーナー、私はアレディの事が苦手かもしれません」

「そうかい、俺はやっとあんたの事が気に入ってきたぜ」

「アレディ!」

 

一旦落ち着かせるために、止めようとしてもこれである。

気に入ってきた、という言葉も冗談半分かもしれないが決して嘘ではないのもわかる。彼が相手を本当に気に入らないなら、軽口でからかいもしないはずだ。かといって正体不明に変わりのないナナさんに気を許したわけでもないだろうのもわかる。

 

「…現時点での質疑応答は以上で宜しいでしょうか」

 

無表情は変わらないが、呆れたようなため息とともにナナさんが話を切り上げる。ついでとばかりに僕らが椅子から立ち上がると同時に、ナナさんが手を払うと椅子が消え去った。そこには最初から何も無かったかのようだった。

 

結局のところ、当座の疑問は…解消されたり、されなかったり。増えたり減ったりだったが。有意義な質疑応答だったと思いたい。

 

とにかく今は村に戻らなければならない。

村の地下が駄目になる程の揺れだ、僕の家だけでなくアレディや他の住民の皆の家が無事とは限らない。

父さんと母さんなら倒れてきた建物くらいは、殴り飛ばしそうなものだけれど…他の姉と弟妹、アレディの妹のレイラちゃんの安否は不安が残る。

他の近所の皆もそうだ。万が一という場合はいくらでもある。

 

「よし、急いで村に戻ろう」

「だな」

「…っ……はい」

 

まだ付き合いが短いどころの話ではないが、ナナさんが言葉に詰まったのは何となくわかった。

理由は思い当たらないが、何か不安なのだろうか?

自分でも説明出来ない、この早く戻らなければという焦燥感は何なのか。

 

おおよその答えは、村への道を三分の一程度歩いた木々が少なくなってくる所で察する事になった。

「アール…あっち、村だよな?」

「……そのはず」

「じゃあ、なんで…あっちから何かが燃えた臭いがして火の粉が見えるんだ?」

「…走ろう!」

 

ただ誰も彼もの無事を祈り、走る。

 

 

 

 




おまけ

ナナちゃんのひみつ

そのいち
ナナちゃんポケット

ふくの中のポケットとは違うらしいぞ!
それでもだいたい何でも入れられるすごいポケットだ!
くわしい説明をしてはくれないけど、物をかくしたりもできるんだ!
お父さんやお母さんにもないしょでおやつもかくせるぞ!

澄ました顔してとんでもねえ能力だな、何を隠し持とうとしていたんだ?国家の存亡を憂うわ…。

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