風と火のうた   作:枯華院 清日

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日が開いたので初投稿です。


4 焼失

 

 

 

別れの瞬間はいつも突然来るもの、そう言っていたのは、たぶん母さんだったと思う。

 

 

 

 

 

木々の間を走り抜けた先。巨人が降りてきた、そう言われれば納得してしまう足跡。料理か何かをしていた火が移ったのか、目に見える範囲のほぼ全ての家は、炎に抱き締められているか、力加減を間違えたサンドイッチのように見えた。

 

「嘘だ…」

 

僕は、自分の口からなんと言ったかもわからず、その光景を前に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

「レイラ!!」

 

親友が家族の安否を確かめる為の叫びで、我に帰る。

 

「…ぁ…父さん!母さん!姉さん!エントー!ルビナ!」

 

そうだ、誰か、無事な人は。

 

「みんな!…誰か居ないのか!?」

 

ただ家に向かって走る、家族でなくとも、誰かは。

耳に帰ってくる何もかもが焼ける音が煩わしい、目が痛い、心臓が五月蝿い。喉が痛い、呼吸が乱れる。

 

「あ…」

 

家の前、地面に出来た大きな血のシミ。

そのすぐ近くに、父さんが普段から道場で使っていた槍と、片腕が一本。

誰がどうなったかなんて、考えるまでもなくて。

 

 

 

 

 

 

雨が降っていた、今日、雨が降ると誰かが言っていた気がする。

 

「…お二人とも、風邪を引きますよ」

 

掛けられる声に、誰も声を返さない。

椅子の時もそうだったが、どこからともなく出したであろう傘の柄を肩に掛けられる。

そんな事を気にも留めず、親友と二人して道場の外の片隅に置かれている椅子に座り込んでいた。

涙は出ていなかったと思う、ただ、受け止めきれずに呆然として、燃え尽きた建物達を見ていた。

 

「…レイラちゃんは?」

「…いや…」

 

どれくらい時間が経ったのか、互いの家族について、互いが聞いたとしても、表情が抜けきった顔を見ればどうだったかは察することが出来てしまう。

今、口を開いたのも、なんの意図もない独り言を呟いたのと同じだ。

 

「…なぁ」

「…うん…」

「…どうする?」

「お墓を…作ろう…」

 

 

 

 

 

 

それから、お墓を夜通し作った。

といっても木で作った墓標をいくつか。

遺体が残っていて、それが誰かわかればその人の名前を刻んで。

二人して、止まらない涙を拭いもせず。

 

ナナさんも手伝おうとしたが、断った。

これは自分達が、自分達だけがやるべきだと思ったからだ。

 

結局、僕等の家族で見つかったのは父さんの片腕と焼けた弟だけだった。

そういった作業を終えた後、アレディと椅子に座っていたら気付かないうちに少し寝てしまっていた。

 

肌寒さをあまり感じなかったのは、いつの間にか掛けられていた毛布のおかげだろう。

 

「どうぞ、オーナー」

「…ありがとう」

「アレディも」

「…あぁ」

 

まだ薄い陽射しで目が覚めた、朝が来たのだろう。

ナナさんが差し出した温かなコップを受け取る、口にしてみれば、中身はお茶だろうか。周りに何も残ってないはずなのにどこから持ってきたのかは、そのうち聞いてみよう。

 

「アール、お前はこれからどうする?」

「仇を探すよ」

 

どういう意図で聞いてきたのかはわからない。

それでも、今はこれしか考えられない。そう思って答えた。

 

「じゃあ、街に行かなきゃな」

「アレディは?」

「はぁ?俺もに決まってんだろ。第一、お前だけだったらチンピラ辺りに騙されて野垂れ死んじまう」

「いやそんなまさか…」

 

流石に数回は行った事がある場所だけれど、そこまで危険な所じゃなかったはず…!

 

「田舎者って顔に書いてあるような奴が、そこらで物珍しげにキョロキョロ見回ってたらケツ毛の一本、タマの一つも残らねえよ」

「そこまで荒んだ所じゃなかっただろ!?」

「わかってないねえお坊ちゃんは…」

 

やれやれと肩を竦めながら僕をからかうアレディ。

実際、心配してくれてるというのもあるが、自分も仇を探すつもりなのだろう。

身の回りの物の調達や、狩った獲物の換金にもよく一人で出かけるのもあって、自分より馴れているというのも事実だ。

一人でもと思っていたけれど、いわゆる世渡り上手というか、買い物や卸売りに何度も一人で街へと足を運んでいる人間が着いてきてくれるというのは心強く感じる。

 

「ナナさんは?」

「オーナーに同行いたします。移動、休憩、戦闘。全てのサポートはお任せください」

「で、結局。あんたは何者なんだ、そろそろハッキリと答えて貰えねえと信用も何も無いぜ」

「…オーナー・アールの使用人のようなものとお考えください」

 

アレディが眉間の皺を深くしながら、その返答に納得していない事を隠しもせずに言い返す。

 

「いいか、こいつは何も気にせず飲んだけどな、この飲み物が何なのか、どこからこのコップを持ってきたのか、ありもしない飲水はどこから湧いてきてどうやって温まってるのか。傘も毛布も意味がわからねえ、あんたはわからねえ事が多すぎる」

「………」

「そして何より、だ」

 

あの時のFRに似た姿は何なのか。

 

「…少しだけ、説明いたしましょう。私が様々な物を用意し、お二人の治療や地下からの脱出を可能としたのは、混乱を招かないように言いますと、魔法のようなものが使えるからです。これはあくまで例えとしてお受取りください。

そして、信じてはいただけないと思われますが、FRと呼称される物と姿が似通っているのは偶然です」

「説明になってねえぞ」

「しかし、事実です。何より、姿が似ていても中身は違うというのは、人間を始めとして、動植物でも同じでしょう」

 

ナナさんが説明、あるいは弁解を続ける。

 

「私は、契約したオーナーに害を成すことは出来ません。…私を殺す事は不可能かと予測出来ますが、それでもどうしても信じる事が出来ないのでしたら。

貴方がお持ちの弓で私を撃つ、またはオーナーが手にしていらっしゃる棒で私を穿つなどをしていただいて構いません」

 

ですので、ほんの些細でも良いので、どうぞ信用ください。と説明を終えた。

 

「…まず間違いなく、ここを襲ったのはFRだ。地下で掃除してた時に揺れたのも連中がどっかから降りてきたからだろうよ。

それでも自分は、ここの事と関わりが無いしFRとは似てるだけ、アールに攻撃出来ないから信用しろってか」

「はい、肯定します」

「…魔法使いさんよ、ちょっとそこで突っ立ってな」

「かしこまりました」

 

言うが早いか、アレディは少し離れて弓矢を構える。

今日、成人の儀からずっと背負っていた弓矢だ。

警告も無く、風切り音が2つ。彼女の頭の真横と首を掠めるように矢を放ったのが見えた。

 

「身動ぎも瞬きも無しか」

「当てる気が無いようでしたので」

「…チッ」

 

見透かされた事が悔しかったのか、動けば当たるように狙った彼はどこか苦々しげだ。

どこまで信用が置けるかを見る為とはいえ、声掛けも無しで放たれた二矢をただ見つめていた彼女が言う。

 

「一先ずの信用はしていただけますでしょうか。足りない場合は…そうですね、この場で衣服を外し、持ち物を改めるというのは如何でしょうか」

 

衣服の肩口辺りに指を掛けながら言う。

急にちょっと破廉恥じゃないか!?

親友の返答によってはこの場でストリップが開催されてしまうのか!?

もしもそうなれば、なんかもう気まずさが勝つんじゃないか!?

 

「そこまでしねえよ!」

「冗談です、半分は」

「半分本気ならなお悪いわ!!」

 

ふふ、とナナさんが声だけ、無表情で笑う。

良かった、冗談だったらしい。危うく僕達の情緒が滅茶苦茶にされるところだった。

 

「…食えねえヤツだが、仕方ねえか」

「食べられますよ」

「変な事言うんじゃねえよ!?」

「事実ですが」

「わかったこの話はやめだ!はい!やめやめ!!」

 

食べてみますか?と続ける彼女を無視して、アレディが僕に向き直す。

 

「とりあえずは、これも連れて行く。何か変な動きをしたら俺が撃つ、これでいいか、アール」

「良いんじゃないかな、よくわからないのは同じだし。全部信じ切るのは難しいよ」

 

本当は僕もちょっと怖いからね、と言うと。

 

「実は、オーナーがお飲みになられたその飲料、私が魔法で用意したものです。つまり毒無し、私100%飲料です」

 

…まあ、何となくそんな気はしていたけれど、急に本人から言われると複雑だ。しかも無表情で。

味や匂いは普通だったし、体調もおかしくなっていない。むしろ、体が軽くなっている気がするくらいだ。

何が入ってるのかは、聞かないでおこう。

短か過ぎる付き合いだけれど、冗談も言う人なんだなぁ…なんて考えてしまう。

冗談だよね…?変な物入ってないよね?

やっぱりちょっと怖い人なんじゃないかな…。

 

「気を取り直して…街に行こう、まずは情報を集めて足取りを探さなきゃ」

「宿探しに資金調達もな…忙しいもんだが、今から行けば夜までには着くだろ」

「徒歩で、ですか?」

 

これからの事について確認すると、また変な発言が飛び込んでくる。

 

「歩くに決まってんだろ」

「お忘れですか?私がお二人をどうやって運んだのかを」

「いや、ナナさんそれは…」

「ひょっとしてあんたも天然ってクチか?ただでさえ目立つFRが、更に真っ赤なのが堂々と街に行ってみろよ。良くて通報、悪くて銃撃だ」

 

アホか、と締めるアレディ。

確かに赤い巨人、というよりはひたすら目立つ兵器が突然やって来たら街中大混乱は間違いない。

ところであんたも天然って聞こえたが、僕も天然ボケだと思っていたのか?

結構しっかりしているつもりなんだけれど…。

何を考えていたのかがわかったのか、親友から冷ややかな視線が送られる。

まさかこれが読心術…!?

 

「問題ありません、現時点で最もありふれた交通手段に見えればよろしいのですね」

 

ナナさんがよくわからない事を言い出した。

僕に向けられていたアレディの呆れた目線が、彼女に注がれる。

 

「何言ってんだ?」

「大きめの馬が良さそうですね」

「ナナさん…?」

 

何をしようとしているのかを聞く前に、彼女がぼやけた。詩的な表現でもなんでもなく。彼女の体という煙が空気に溶けるようになって、一瞬だけ光を放ったかと思えば。

 

「出発しましょう」

 

声だけはそのままに、人を数人乗せても苦ともしないと雄弁に語る馬体を持つ赤茶色の馬がこちらを見ていた。

 

 

 

 






ナナちゃんのひみつ

そのに
ナナちゃんアイ

夜でも何がどこにあるかはっきりわかるぞ!
かくれていてもすけて見えるからかくれんぼも強いぞ!
一回見たら色々なさいげんもできるんだ!

本当はいやらしい事が目的の機能なんじゃないの?
正体見たり!って感じだな。
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