ナナ視点です。
街と言われる場所、その目と鼻の先にやってきました。
「腰っつーかケツが痛えな…」
私のオーナー様、その親友とされる男。アレディ氏が愚痴をこぼす。言われてみれば、馬になった私に乗り続ければそうもなるのでしょう。
しかし目立たないように配慮して移動したのだから、多少は我慢をしてほしいと思います。本来であれば、奇異の目に晒されてもどうにか出来るのに、迂遠な方法を取ったのですから。
オーナー様の肉体的・精神的負担の為にやった事であって、彼を置いてきても良かったのですが。とは言いません。私はデキるタイプなのです。メンタルケアから予防だってお手の物。
「ありがとうナナさん、お陰で早く着いたよ」
検問も混んでないし、バッチリだね。と仰るオーナー様、名前はアール様。
どこぞの誰かとは違い、感謝の言葉が愚痴より先に出る、その心意気、イエスで御座います。
なまっちょろい方とは鍛え方がちがうのでしょうね。
犬の尻尾の一つや二つを生やしておけば、扇風機が如く振り回している所です。オーナー様が猫派だった場合嫌がられてしまうかもしれないのでやりませんが。
「参りましょう、何を探すにしましても。善は急げと申します」
人の形に戻りつつ、努めて機械的にオーナー様方へ街に入ることを促す、内心はオーナー様に褒められてウキウキです。
児戯に等しい行為で褒められるとは、いいんですか?勘違いさせて。
それにしても簡素な検問所…。
木組みと石と初歩的なコンクリート造りしか無い。それも重機の類で作ったのではなく、人々のお手製であることが細部から見て取れます。
色々とダメになったのは知りましたが、ここまでとは。
ダメになった。それもそのはず。
先程の出発前の説明、というより私の言い訳の裏で行っていた限定的な観測調査によると。
どうやら、私があの場所に閉じ込められている間に、全体の平均気温から推測すると地球そのものが寒冷化したと思われます。
そしてオーナー様の村にあった、使われていない機械の状態から、電子機器類はなんらかの電磁波による故障。
なおかつ役に立たなくなった事から触れられることもなく、機械たちには経年劣化の痕跡がありました。
唐突過ぎる寒冷化と電子機器の機能不全。人類の多数が耐え切れた訳ではないでしょう。
しかしオーナー様の故郷の村があった事から。人類が衰退してから復興し、どの様な解決策によるものかはわかりませんが、寒冷化を乗り越えるなど、結果的にかなりの時間が経過している。
これらを踏まえると、現状への推測にリソースを割かなくともわかります。大規模な戦争があり、滅ぼし合うまで続いたのだと。
人間は自分を含めて馬鹿ばっか。
父達がそう言って笑っていましたが、なるほどと言わざるを得ません。
そんなことを内心で少し考えつつオーナー様方の後ろをついて歩いていますと。
「ナナさん、大丈夫?ひょっとして疲れたのかな」
やっ…優しい…!
歩調を遅らせて歩いていた私に対し、オーナー様の心配そうな声掛けが届きました。
正体不明ではぐらかしてばかりの何者かにこうまで心砕いてくださるとは。
人々を笑った父達に、人間捨てたものではないですよと教えたいですね。
「そもそも疲れたりすんのか?」
やはり人間はダメかもしれませんね。
いいんですか?ぶち滅ぼしますよ?オーナー様以外。
つつがなく検問を抜けると、そこは街でした。
直接辺りを見ると人、人、人。
一人が長かった私には中々刺激的です。ここに到着するまでの景色も中々刺激的でしたが。
ともかく。
動体反応から推測するに人口は一万人弱でしょうか、生命の強さを感じますね。
大人も子どもも老人も、圧倒されてしまいます。子どもを抱いた母親の姿もあります、こちらは生命の神秘ですね。
「とりあえず宿探しだな、安くて長く泊まれりゃなお良し。見つかんなきゃ今日は野宿だ」
後払いの所が有ればいいんだがとオーナー様と同時に検問を抜けて来たアレディ氏が言う。大きい弓矢は解体して持ち込んでいるようですね、手際が良かったので街にくるのも慣れているのでしょう。
「そうだね、着くまでにちょっとした獲物でも見つかれば良かったけど。…うん、どこかで稼げなければ僕たちは野宿で、ナナさんは宿に泊まってもらおう」
アレディもそのつもりだろうし、いいかな?なんて私に確認をとるオーナー様。検問所から出てきた際に、村からお持ちの槍は厚い布で覆われていらっしゃいました。物騒な物はよくないのですね。
しかし本気ですか?気候や周辺状況から考えれば確かに野宿したとしても死ぬ事はないでしょう。けれどそこまで私に優しくしようとするとは…。
「いいえ、直面する問題は私が解決いたします」
しかしここで優しさに浸るのは悪手ッ!
むしろ私がどうにかしましょう。
オーナー様を合法的に甘やかさねば…!
「最優先事項としてオーナー様の資金難問題を扱い、これを解決します。この街での取引に使われている貨幣を見せてください」
「えっ」
私の得意分野の一つ。
解析と複製。
オーナー様方にご理解をいただくには、この原理を説明するのは難しいのでしませんが。
どこからともなく毛布や飲料等を出したのは、こういったカラクリがあった訳です。誰がカラクリですか、蹴飛ばしますよ。馬の脚で。
つまりは手短に言いますと、直接目にした物を細部に至るまで解析、それを元に周囲から集積した物で構成するのです。
ただし記憶になければ作れませんし、魂を持つ方々は複製できませんが。
どうです?アレディ氏が靴に隠し持っていたこの硬貨を見事、完璧に複製して手から出すこの私の…。
「バカ!凄えけどバカ!」
「なっ」
アレディ氏に罵倒と同時に頭を軽く叩かれました。
解せませんね。驚きこそすれ、損傷しない速度なので避けませんでしたが。プライドを含めた場合はかすり傷を受けました、殴打ですが打撲ではなく擦過傷。
「警察に見つかったら捕まるよ…」
何という事でしょう。
人類はセキュリティ対策を捨ててはいなかったのです。割と末法、世はまさに世紀末な治安かと思えばそんな所は引き継いでいたのですね。
検問から少し離れた所だったのも助かりました、目の前でやらかしていたら取り調べとかを受けていたのでしょう。
なるほど検問を行っていたのは警察に類する者だったのですね。銃器を持っていたのは少し驚きましたが。
それよりもオーナー様が少し悲しそうな顔をしていらっしゃいます。
何という事をしてくれたのでしょう。
だ、誰がこんな事を!
「今のでアンタのできる事がちょっとわかってきたぜ。でも現金はマジでやめろよ」
「………」
うるさいですね、反省してまーす。
「あんまりそういったことはしないでね…」
「かしこまりました」
深く反省致します。
始末書か反省文が必要でしたら、それこそ複製など行わず誠心誠意書かせていただきます。
「ひょっとして、コレも手品みてえにパッと出せるんじゃねえか?」
「アレディ、それは…」
私の反省から間を置かず。最後の手段として、必要だったら売るつもりだったと言って、アレディ氏の服の隠しポケットから指輪とロケット付ネックレスが取り出される。
これはきっとただの装飾品ではないのでしょう。
…あの焼けた家々の中で探し出して持ってきたのかはわかりませんが。それこそ火事場泥棒…は、していないでしょうから、元々持っていた物かもしれません。
オーナー様が戸惑いの表情を見せていましたので、恐らくはとても貴重か、思い入れのある類の物。
止めようとするオーナー様を手で制し、アレディ氏は続けます。
「いいんだよ、本物を売るわけじゃないんだからな。親父もお袋も笑って喜ぶさ」
「ごめん…」
謝罪するオーナー様に、いいって言ってんだろと照れた様子を見せるアレディ氏。
本当に切迫した事態になれば、本物も偽物もなく彼は手放すつもりだったのでしょう。
両親が喜ぶなんて台詞が意味するものは、これは形見だろうということ。
父達よ、見ていますか。
人間は、愚かなだけではないようです。
そういえば、この複製した硬貨はどうしましょう。
引っ込めておけ?そんなー。
おまけ
ナナちゃんのひみつ
そのさん
ナナちゃんブレイン
スーパーコンピューターより計算がはやいぞ!
乙女回路搭載型だ!
心の中はすごく感情ゆたかだぞ!
色々なことをたくさん知っているぞ!
こんな胡乱な思考でスパコン並を名乗るなんて各方面に失礼だよね。