風と火のうた   作:枯華院 清日

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予約投稿なので初投稿です。
便利な時代!


5 沈痛

 

 

 

 

 

 

親友に申し訳ない事をさせてしまった。

彼が肌見放さず持っているネックレスと指輪、それは彼の両親の形見。

 

「……」

 

ナナさんはそれを差し出したアレディを何も言わずにじっと見つめている。

無表情なのはずっと変わらないけれど、何か言いたげなのは何となくわかる。

 

「…できねえのか?」

 

アレディはほんの少しだけ不安そうに尋ねている。

出来そうだから、といった理由で差し出されたそれは。たぶん、ナナさんが全く同じ物を出せなかったとしても、最後の手段として何かあった時に使うつもりだったんだろう。

 

今まさに色々と思い出してしまうであろうそれを。

例え本物でなかったとしても、それを売り払うという行為は嫌だと思う。

 

無力感。

何か出来れば、そう思いつつも今すぐにどうにか現金を用意する事は僕にはできない。

父さんの槍を持ってきてはいるけれど、これをどこかに持ち込んでも、一泊分のお金にはならないだろう。

また山に行って狩りをしたとしても、必ず獲物が狩れる保証はない。

 

およそ全てが燃え尽きた村に居ても仕方ないとわかっていて、着の身着のままこの街に来たとはいえ、誰かに甘えるしかない自分の現状に些細な苛立ちすら覚える。

 

「…複製可能です、ですが本当に」

 

「良いんだっての、あんたもアールも気にし過ぎだぜ。こんなとこでウジウジやってないで、足が付かねえように金作って。そんで宿探して、さっさと飯食って今日は寝ちまおう」

 

そんで明日から本番だと、恐らくは自分を慮っての発言を遮るアレディ。

 

「…うん、そうだね。そうしよう」

 

僕は努めて平静に答えるしかなかった。

そう、落ち込んでいても仕方ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ〜…こいつは商国のだねぇ、結構な物だけどいいのかい?」

「行き掛けの駄賃ってことで、親のを勝手に持ち出してきたのさ」

「はっは!家出か何かかい、変なことして親御さんに心配かけんなよ兄ちゃん!」

「おうよ、今んとこ心配どころか笑ってるかもな。まぁでもあんま大声で言えたもんでもねえな」

 

だから内緒だぜ?と古物商のおじさんと喋るアレディ。街には何度も来ているだけあって、こういった話もお手の物なのだろう。

 

一方の僕とナナさんは、アレディに言われて店の外で待機している、3人で入っても家族にも見えないし、盗品だ何だと変に勘ぐられかねないとのことだ。

 

 

「そういやおっさん、ここ最近妙な連中とか見なかったか?なんかでっかい影が見えたって聞いたんだが…」

 

「いやぁ俺はとんと知らねぇなぁ、噂で言えばどこぞの傭兵団が人手を集めてるって聞いたぐれぇよ。何処でドンパチやるかはわかんねえけど、ま、ウチの店が潰れなきゃ御の字ってもんだ」

 

「そりゃそうだな!」

 

店内の二人の談笑が外にまで響く。

傭兵団なんて来ているのか。

団なんて言うからには中々の大所帯だろうから、一人や二人探すのは容易なはずだ。

 

喋りに遠慮の無いアレディは、ある程度年齢を重ねた人との会話が上手だ。

逆に同年代くらいだとつっかかるような態度に思われるのか、ある程度の付き合いがないと嫌われやすい。

 

初対面の人にも噛み付くような物言いになるのは、ナナさんとの会話の時もそうだ。傍目から見ていると怒らせたりはしないかと肝が冷える。

 

そういえば、隣で微動だにしない彼女は退屈ではないだろうか?

形見の品の複製もそうだけれど、そもそも馬に変身?してここまで連れてきてくれたのだから。疲れたりはしないのか、少し心配になる。

 

「ナナさん、疲れたりとかしてな」

「御心配ありがとうございます、オーナー。ですがこの程度で疲労することはありません」

「そ、そっか…」

「はい、どうかお気になさらず」

 

話を両断されてしまった…。

まさか機嫌が悪いのだろうか。

それとも二人きりは嫌だったりするのかもしれない。

凪いだ湖面より動かない表情と仕草から推測することは困難、というよりほぼ不可能だ。

雑談しようにも、会話の糸口が一切見当たらない…。

付き合いも昨日今日だから、そもそも会話が嫌いかもしれないし、うーん…。

そんな取り留めもないことをつい空を仰ぎながら考え込んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあなおっちゃん、ありがとよ」

「スられたりすんなよー!」

 

売却と情報収集が一通り済んだようで、アレディがこちらに戻ってくる。

直前までどうにか沈黙を打破して彼女が何者なのか聞こうとしてはみたものの。

 

「申し訳ありません、今は説明できません」

 

この一点張りである。

どうにかアプローチを変えて会話を引き出そうとしても、ずっと僕の顔を見つめてくる。

何か煤とか土とかが付いていたのだろうか。

 

考えれば考えるほど、本当に何故僕らに着いてくるのか、目的も考えも何もかもわからない存在が甲斐甲斐しく協力してくれたりするのは、ナナさんには申し訳ないけれど不気味さすらある。

 

「何やってんだお前ら?」

「いや、なんでもないよ」

「そうか…?そんじゃあまずは宿屋と飯だな。部屋は2つ、3食昼寝じゃなくて酒付きで良いよな?」

 

硬貨で膨れた革袋を持ち上げながら確認してくる。

まったく頼りになるよ親友は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当は食事も睡眠も必要ないのですが。それを言っても不気味に思われてしまうでしょう。

ここはこの厚意を受け取るしかありません。

 

大袈裟な身振り手振りと満面の笑みで感謝を表現した方が良いのもわかりますが。身振り手振りはさておき、私の口調は冷徹に、顔はまさしく鉄面皮となるようになっています。

父曰く。

 

「無感情系美少女いいよね…」

「いい…」

 

とかなんとか言っていたのを聞いたことがあります。

プロ同士は多く語らないそうです。

結果として現在実害を被っているのですが、嗜好を押し付けるのは如何なものかと思います。

 

まぁ人との食事や飲酒に興味津々なのでありがたく受け取りましょう。

 

 

 

 

 

それからあれよあれよと言う間に。

 

「宿はここにしようか」

「飯も一緒で、あんまり現金持ちたくねえから。前払いでちょうどいいな」

 

あっという間に宿が決まり。

 

「今日の分の食事は無いみたいだから、食事に行こう。アレディおすすめはあるかな」

「あるぜー、酒も飲んじまおう」

 

食事に行く事に。

私としては、もう少し頼ってほしいと思いましたが。

現地に馴染みのあるアレディ氏が先導する方が早いであろうというのも事実。

少し口惜しいですね。

え?まず不気味な女は頼られない?

少しくらい夢見てもいいんじゃないですか!?

 

 

 

 

「じゃあ、乾杯」

「乾杯」

「…乾杯…?」

 

乾杯、という言葉に対し疑問が浮かんでいるのが私です。

なるほど、こうして集まっている時にアルコールを嗜む場合は、音頭が必要なのですね。

 

グラスに入ったこれは葡萄酒、ワインですね。知ってはいますとも。肝心の味は…ふむ。アルコールと、葡萄の香り、甘味は薄いので糖を利用して発酵させたのでしょう。

店内はガス灯で照らされており、それも手伝ってか、どことなく柔らかな味と感じる雰囲気です。

 

人影もまばらではなく、かといって満員でもない。ほどほどの賑わいを見せています。

アレディ氏のオススメだそうですが。目立つ場所に埃や汚れはなく、それぞれの食卓に清掃も行き届いているようで。内装の色合いを見ても一般的にセンスが良いとされるのではないでしょうか。

ひょっとして女性を連れ込んだりしてたのでは?いやらしい男…!

あんな事やこんな事を楽しんでいたのですねッ!

 

「ここの油煮が旨いんだ」

「パンと食べると一層美味しいね」

 

街に来てからずっと、どこか不安気な顔をしていたオーナー様も食事を楽しんでいらっしゃいます。

不安そうな顔も素敵でしたが、微笑みつつ食事に興じる朗らかな顔も良いですね。

へへ…お、お兄さん…あっちで私とあんな事やこんな事をしませんか…。

 

「……」

「ナナさん、何かダメな物とかあった?」

 

無表情で食べ進める私に、美味しい?と尋ねるオーナー様。

その気遣いでお腹いっぱいです、その顔で小麦一本齧れますね。

スマイルに金銭は発生しないと言いますし、私がパンを食べてオーナー様が微笑み、そしてそれを副菜として更にパンが美味しくなる。

 

実質的な永久機関がここに完成しました、気遣いと熱視線による第二種永久機関です。誰にも熱を渡さないので破綻していますが。

これはもう夫婦…は気が早いですね、まずは婚約を前提に結婚しましょうか。するならやはり大恋愛の末の結婚ですよね、憧れますよ、とても。

 

「問題ありません」

「そっか、苦手な物があったら言ってね」

 

そうですね。苦手な物は貴方がいない世界でしょうか。

本当はこういった冗談を…。いえ、本気ですが。

ともかく言葉を口に出して抱きついたり出来れば…。

 

恨めしや動作抑制機能。この心の内の三分の二は純情な感情をお伝えできないとは!

残り三分の一は不純な情動です。

ところで、ワインの樽に泥水が一滴でも入れば台無しといった考えがあるそうですね。

ふむ…言葉を口から出す…。

…えっ、く、口に出す!?良いんですか!!?

 

「アレディ、オーナー。ありがとうございます、食事とは良いものですね」

「気にすんな、一応その…礼だ」

「一人よりみんなで食べた方が美味しいからね。アレディも素直じゃないけど、助けてもらって感謝してるのは本当だよ」

「余計なこと言うなよ!?」

 

オーナー様がアレディ氏の本音を代弁すれば、軽やかな笑顔と照れ隠しの微笑み。

食事の楽しさ、味わいに一役買うのはこの賑わいなのでしょう。

 

その後、やいのやいのと語らう2人を見つつ、食事は終わりました。

 

「じゃあナナさん、また明日、昼前にね」

「かしこまりました、失礼します。オーナー」

 

宿に着くなり解散です、もう少しこう…お酒も入って…ね!なにか無いのですか!ナニか!!

とは思いつつも、御二人が昨日からしっかりとした睡眠を取れていないのも事実。

オーナー様の部屋へ行く姿に後ろ髪を引かれつつ、私の部屋へ参りましょう。

ちなみにアレディ氏はさっさと部屋に行きました。オーナー様と相部屋だそうです、私と代わってくれませんか?

 

 

 

 

ナ〜ナッナッナ!

この私が大人しく待機する訳がないでセブンねぇ…!

語呂が悪いですね、ですが伝え聞く『ニチアサ』なるものに出演する日は近い気がします。

 

そう、夜です。

今の私の気分はハイスクールの皆様が修学旅行とやらで夜にキャッキャウフフと騒ぎたい時と同じです、なにせ初めての宿にお泊りです。

アルコールは燃料にしかなりませんが、この場では言い訳としても使えます。卑劣で結構です。卑怯もラッキョウも好物です。

嘘です、ラッキョウという物は食べた事がありません。

 

さて、私の視覚・聴覚はとてもスゴイので、遮蔽されていてもかなりの範囲を知覚可能となっています。

具体的には、私の居る宿の3階部分からオーナー様達のいらっしゃる2階部分まで薄布の如し。

壁に耳あり障子にメアリー、部屋の防犯にナナが有りーです。加えて365日、24時間連続稼働可能です。

私のアピールポイントですね。

隙あらば突撃します。

私のアピールポイントですね。

引く事を覚えましょう?遠慮の心?

そこになければ無いですね。

 

急いでオーナー様の部屋を確認しますと。ふむ、なるほど。アレディ氏とそれぞれのベッドで寝転がりながら何か喋っておられますね。ただし、お互い壁に向かい合って毛布を被っておられるようですが。

 

では盗聴…ではなく、相互理解の為の知識の収集を…。これは後学の為です!やましい気持ちはありません!

…やらしい気持ちは少しあります!

 

「…なんで…みんな…父さん、母さん…」

「レイラ…ちくしょう…」

 

…当然、それは当たり前の感情というものでしょう。

御二人とも、悲しみからすぐに立ち直れる訳がありません。肉親や親類といがみ合っていた訳でもなければ、一緒に暮らしていて情が湧かない事なんてある筈もなく。

それが一度に全て失われた時たるや。

 

背を向けて弱音と涙が相手に悟られぬように、自分だけが助かってしまった後悔。

あるいは、誰とも知らぬ下手人への憎しみ。

その悔恨を吐き出していたのです。

 

私に睡眠は不要ですが、眠る事自体は食事と同じく可能です。

ですが、御二人の押し殺した哀惜が消え、寝息に変わるまで。

ただ目を閉じて、安寧を祈っていました。

神がいるとすれば、安穏と過ごせたはずの彼らに。どうか今だけは悪夢が遠ざかればと。

 

 

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