『少佐、現着しました。見渡す限りVIPか軍のお偉いさんばかりですよ』
『
『了解。各員抜かるな。我々の任務はこのオークションを如何にして平穏無事に終わらせるかだ』
2008年 6月4日
BETA大戦終戦記念日。5年の節目を迎えたその日に際し、重信氏はオークションを開催した
五摂家や武家が何とか骨董品を処分したいと言うので、この目出度い日なら財布の紐も緩むだろう、と言う魂胆の元開催された物で、その程度なら在野の金持ちや成金が買うだけで終わった筈であった
問題があるとすれば、重信氏が禁書庫と呼ばれる製図室の金庫を開き、新型機の設計図とATのアップグレードパーツの設計図を出すと言い出した事だろう
鈴木重工側もこの事は寝耳に水だったらしく、何とかして止めようとしたものの押し切られ、この2枚の設計図がオークションに出されると言う話は、早々に世界中に広まった
結果、日本の終戦記念式典には大勢の外人が参列する事となり、オークションの為に来たついでの参列として、長く語り継がれる事となった
『とは言ってもお偉いさん達守る為の警備まで入ってるから、無線帯域はパンパンだぜ。少しでも周波数ずらせばあらゆる情報が入ってきやがる』
『暗号通信にだけ気を配れ。他の警備達と連携出来るようにもしたい』
『了解……おいマジか、ロシアの大統領まで来てるらしいぞ』
『……余計な情報は仕入れなくて良い』
情報省所属の少佐は溜息をつき、会場の監視カメラ映像を確認する。どのカメラも問題無く作動しており、どのカメラにもVIPが映っている
胃がキリキリと音を立てて痛くなりそうなのを感じながら胃薬を飲み込んで何とか意識を保たせながら、再び肺の中から空になるまで溜息をつく
『溜息ばっかりついてると幸せが逃げるぜ、少佐』
『今このオークションに居る時点で逃げてるさ』
ちげえねえ、なんて笑う部下達の声に少しばかり癒されながら、開場と同時にVIP達がオークション会場へと入っていくのを見送る
ああ、一安心だ。そう考えた時、視界の端で何かが動いた。懐から銃を抜き、動いた何かに向ける
ジリジリと距離を詰め、引き金に指をかけると、動いた何かは股下を潜り抜けて部屋を出ていった
ATよりも静音だが確かにその特有の甲高い音だけを残し、ソレは姿を消していた
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『では皆様お待ちかね、重信氏の禁書庫からの贈り物。この世にまだ出ていない、出してはいけない場所から出された、世界を変えるであろう設計図の1つ。何と今回はその設計図通りに組み立てた仮設機まで持って来て下さいました。重信氏のご入場です!!!』
会場が割れんばかりの拍手と共に現れた重信氏はサングラスをかけ、首に何かの装置を取り付け、手を振りながら現れたが、その手に持っているのは設計図だけであり、仮設機は何処にも見当たらない。説明と違う、なんて一瞬の反応の後、会場内に聞きなれない音が響く
壁を走り、椅子の下を潜り抜け、空中宙返りを披露しながら現れた、全長20cmほどの新型機体
「さて、今回ご紹介しますは全長20cm、重量5kg、超小型高機動AT、ナイトくんです」
壇上に上がる超小型AT。どこからどう見てもF4のプラモデルでしか無いそれは、重信氏の動きに合わせてくるくると動き回る
側転してみたり、匍匐前進してみたり、スケートのように走ったりと、やりたい放題に動いては、礼儀正しく一礼する
「ナイトくんはこの専用コントローラーを着用して操縦する事が可能です。この20cmの体躯にはあらゆる技術を詰め込みました。AT顔負けの高性能レンズ及びカメラを搭載、その映像はサングラスへ投影。数マイクロ秒の誤差はありますが、ほぼリアルタイムで映し出します。運動性能は皆様御覧の通り、短時間ですが壁を走ることも可能で……」
まるでラジコンでも動かすように自由自在に機体を動かす重信と、ぽかんとするVIP達
一瞬の後、笑いにも似た溜息が会場を包み込むものの、1部の人間だけは笑う事をしなかった
主に軍やそれに連なる者達だけがその有用性を見出し、頭の中で算盤を弾いて幾らまで積めるかを計算し、出来るだけ周囲の人間が玩具である、と言う認識で居て貰う為に、わざと笑いを溢す
「操縦距離は無線なら300m、光ファイバーがあるならどれだけでも、衛星中継の場合は2、3秒ほどの誤差及び遅延で動作します。耐荷重は5kg、PR液の自動交換機能も付属、駆動時間は通常で40時間を……」
『え、えー…重信様、まさかこの玩具の設計図が、コレなのですか?』
あまりの勢いに気圧されていた司会者がようやく口を開き、重信に問い掛ける
当たり前と言わんばかりにそうですよ?なんて言う重信の発言に、会場は改めて笑いに包まれた
『え、えー……ではこの玩具の設計図、100万円から!!』
司会者もその有用性に気付いて居ない。否、気付いているのは1部の人間だけである
気付いている人間は周囲の自国参加者から金を借りるつもりで札を上げ、値段はゆっくりと上がっていく
『そう言えば重信様、この設計図通りだとこの玩具が出来上がるのでしょうが、機能を限定したりすればもっと小さく出来るのですか?』
「出来ますよ?駆動時間も短くなりますが、10cm程度までなら小さく出来ます」
この説明に札が更に上がる。1億円を更新し、桁が跳ね上がっていく。譲れない、言ってしまえばこの玩具は情報収集と言う点において革命を起こしかねない物だ
コレがあるだけであらゆる面で有利になる。10cmほどの隙間さえあれば、あらゆる情報を手にする可能性があるのだ
『2億を超えました、上限無しですが思った以上に上がりますね』
技術に全く興味が無い司会者は上がっていく額に驚くばかりである。重信が何をしているかと言えば、事前に会場内を走り回って撮影してきた物をスクリーンに映しており、その有用性を披露してばかりいる
5億円程度にまで膨れ上がり、段々と決着が着きそうな空気が流れ始めた頃、オークション会場のドアが開き、情報省の人間らしき男が札を掲げる
「10億円」
『10億円!!!出ました、10億円です!!!他に居ませんか!?』
恐らくは情報省と帝国軍が共同で出せる最高額が提示されれば、他の参加者はほぼ全員が見送る結果となり、2枚目のアップグレードパーツ設計図はロシアが4億円で競り落とし、オークションは盛況のまま幕を閉じた
この後、重信は帝国軍や情報省からねちねちと文句を言われ、仮設機のナイトくんを売ってくれないかと言う要望をすべて跳ね除けるよう妻から厳命された
仮設機は子供達の玩具となり、最終的には砂場で爆発炎上し、砂の中へと親指を立てながら沈んで行った
超小型高機動AT ナイトくん
全長20cm、重量5kg、かつて作ったAI搭載超合金から着想を得て作られた代物
一見すればF4のプラモデルであるが侮るなかれ、長時間の駆動が行えるようにPR液浄化装置を備え、高効率マッスルシリンダーとの合わせ技によって駆動時間は40時間を超え、ローラーダッシュでの時速は最高10km/h、全力跳躍は垂直3m以上、耐荷重5kg、PR液が無くなりかければ近くのPR液に目印をつけて自動で交換し、更にはATのような3種カメラを搭載、専用のデータ保存カードを挿入しておけば映像や音声、写真撮影まで可能と言うこれでもかと機能を詰め込んだ逸品
専用の人体接続コントローラーを使用すればラジコン操作では無く人体からの直接操作が可能であり、光ファイバーの有線通信操作、2.4GHz帯の無線通信操作、衛星通信による操作など、最早玩具では留まらず、爆弾等の持ち込みや自爆による破壊工作まで可能な偵察兵器にまでなった
が、ここまでの装備を組み込むとお値段も高くなり、これ一機でAT一機が作れるお値段になる
無論、このような高性能でなければ相応に安く出来るものの、重信曰く「小さくして詰め込めるだけ詰め込む事が技術の粋と言うものだ」として頑として譲らなかった
この設計図が帝国軍に渡った事から、海外では日本からの旅行者、ビジネスマン、外交官に至るまで、ラジコン及びそれに似たような物の持ち込みが厳しく制限される事となる
ATアップグレードパーツ
主にPR液浄化装置とAT用高効率マッスルシリンダー製作方法の設計図
武装の設計図も何個かあり、従来の背中に装着するような物で無く、肩の先端に取り付ける使い捨てミサイルや180度回転ブースター等の設計図が記されている
しかしながら、浄化装置や高効率マッスルシリンダー以外はどれもこれも極端過ぎる事からロシアでは試験的に生産するのみになった
が、これに目をつけたのが米国のバトリング運営会社であった。バトリング運営はロシアと契約してライセンス生産を開始。軽量ATや重装AT用の補助武装として販売を開始した所爆売れした
これによって武装の幅が広がり、アメリカでのバトリングは更なる盛り上がりを見せる事となる