「なあなあ、純一ってあの鈴木なのか?」
「どの鈴木だよ」
中学校の昼休み、教師に黙って持ってきたATの雑誌を見ていた友人の1人が声をかけてくる
雑誌には父親である重信のインタビューが掲載されており、その中で自分の子供について言及しているらしく、友人は揶揄うように言葉を続ける
「しらばっくれんなよ〜。重信さんの長男なんだろ?」
「そうだ、て言ったら?」
「今日お前ん家行く!!」
「違うって言ったら?」
「今日お前ん家行く!!」
「どっちも同じじゃねえか」
成程、どうやらこの友人は我が家に来たいらしい。自分としては全く問題無いのだが、我が家には父重信直筆の設計図が大量に転がっている
大抵は書きたいから書いた!実現出来るかは知らん!と言って放置されているのだが、子供心にマッスルシリンダーを使用した多脚戦車なんて欲しがる奴の方が多いだろ、なんて考えを元に、そのほぼ全てが自分の学習机の中に仕舞われている
「…まあ、母さんが良いって言ったら良いよ」
「マジ!?やったー!!!」
現金な男だ。そう思いながらも公衆電話で母親に確認を取れば、まさかのOKが出てしまったではないか
困った、実に困った。友人の目はキラキラと輝き、何とか断ろうと考えている内に放課後になってしまい、迎えの車に友人を乗せる結果となった
「すっげー!!!俺リムジンなんて初めて乗った!!!!」
「ああうん、だろうね……」
運転手がニコニコと笑っているのがバックミラー越しに見える。これだから嫌なんだと思いながら、前後を固める装甲車にも友人は釘付けになる
「なあなあ!!!あの装甲車に乗ってる人達って、鈴木家お抱えの護衛部隊なんだろ!?やっぱりお前重信さんの息子なんじゃん!!!」
ああ、どんどんバレていく。そんな事を考えながら友人は呑気に装甲車の運転手に手を振り、運転手や護衛達もヒラヒラと手を振り返すではないか。勘弁してくれ、ただでさえ目立つんだから
車を走らせる事20分程、友人と宿題を片付け終えた頃、我が家には到着した
「すっっっげー!!!!!!ほんとに邸宅だ!!!!隣に建ってるのって、九條様の家なんだろ!?!? 」
「そうだよ…分かったから静かにしてくれ」
この調子だと泊まるとか言いかねない。そんな事を考えながら友人と我が家に上がれば、女中がいつものように荷物を受け取りにやってくる
今日は友人が居るから良い、と断れば彼女はまるで物珍しい物を見たと言わんばかりに手で口を押さえ、一礼して足早に去って行った
「本物のお手伝いさんじゃん……!!!俺旅館くらいでしか見た事無いのに…!!!」
一々感動してくれるのは嬉しいが、多脚戦車やら強襲上陸用ホバーボードの設計図を見せたらどうなるのだろうか。卒倒するんじゃなかろうか
友人を自室へと連れていくと、その途中にある製図室の前で彼は足を止めた
「……なあ、ここってまさか……」
「ああ、父う……父さんの趣味部屋だ。入るか?」
「入って良いの!?」
「ああ。今は居ないし」
父上は昨日お偉いさんに怒られてくるよと言っていた。かなり長引くと言っていた事を考えながら、一応ノックしてから入る
……居る。何か腕に変な物着けてサングラスかけてる
「うぅむ、やはり壁を走るのは短時間になるか。粘着質の物体を手に仕込むか……」
「…………父上、入ります」
何かに集中していると、父上はノックしようが返事をしない。と言うか今日は遅くなるんじゃ無かったのか
息子の声に気付いた父上が振り向けば、サングラスを額にかけ、隣に立つ友人を見る
「……純一のお友達か!!!いやぁ良く来てくれた!!!!」
「えっ、あ、その」
「純一には友達が居ないと思っていたんだが、居てくれて良かった。いやぁ〜よく来てくれた。君、ATは好きかな?いや、マッスルシリンダーは好きかな?」
「えっと、その」
「ああ待ってくれたまえ、確かここに基礎用の……」
「父上、友人が話せないです」
ガサゴソと棚を漁ろうとする父上を止め、顔を真っ赤にしながら恥ずかしいと言わんばかりに溜息をつく
父上はこう言う所があるから嫌なのだ。子供心にそう思いながらも、父上は自分くらいの頃にはもう軍で働いていた事を考えれば、この行いも少しだけ分かるような気がする
「おお、すまんな純一。今触っていたのは最新の玩具でな。サングラスに投影されるタイプの…」
「サイン下さい!!!」
友人の声と共に、1冊のノートが出される。まるで用意していたと言わんばかりに取り出されるそれは、車の中でしていた宿題のノートである
父上は一瞬呆気にとられるもニカッと笑い、さらさらとノートの裏表紙にサインを書き込んだ。これでこのノートは友人の家宝決定だ
「すっげー!!!!本物だ!!!!ひゃっほい!!!!!」
喜ぶ友人を見ながらそんなに良いものか?なんて宣う父上のお尻を
サングラスをかけてコントローラーで動かせば、見知った中庭であった
「……父上、これ、軍の人に嫌味言われませんでしたか?」
「ん?ああ、ねちねち言われたが……」
サングラスとコントローラーを外し、友人に押し付ける。友人は最新の
自分も一言くらい何か言ってやろうと考えたものの、この新しい玩具に惹かれてしまうのは父親の血か、それとも男の子だからか
「さ、遊んで来なさい。壊してもいいぞ〜」
結果としてこの一言がトリガーとなり、中庭の砂場にやってきた野良猫と戦い、最新の玩具は自分達が触って2時間で砂場の海へと沈んだ
Q.多脚戦車って出来るの?
A.出来ます。そしてこの設計図は重信氏没後に遺品として純一くんが受け継ぎ、対BETA用多脚戦車として様々な惑星に送り込まれます
Q.それって対人で使われますか??
A.逆に使われないと思いますか?
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鈴木重工製 マッスルシリンダー多脚戦車
通称 スパイダー
蜘蛛のような8本足、甲虫類のような6本足、動物のような4本足まで、様々なマイナーチェンジが存在する鈴木重工の傑作戦車
操縦手と砲手の2名だけで運用が可能であり、ATのようにメンテナンスも容易である為、主に地球以外での運用がなされている
人類が火星や金星と言った重力の違う場所へBETA排除へ赴く場合の問題として、陸上火力の不足が懸念されていた
マッスルシリンダー作成の為にはBETAの死骸が必須であり、荷電粒子砲等の死骸も残らないような陸上火力は、ハイヴ以外での使用を推奨されていない(その惑星の環境まで変えてしまう懸念もあるため)
従来の戦車を持ち込む事も考えられたが、発動機関であるディーゼルエンジンを使用する事が出来ない事、核動力や燃料電池では余りにもコストがかかりすぎる事から、新型戦車の開発に着手する事とならざるを得なかった
この時、ATの飽和需要問題に当たっていた鈴木重工が手を挙げ、鈴木重信氏の長男、鈴木純一氏が指揮を取り、様々な場所に協力のお願いに頭を下げ、多脚戦車を完成させた
この時に使われた設計図は鈴木重信氏直筆の物であり、純一氏が完成までに細かい所を変えるだけで済んだと言う話が当人から語られており、重信氏の基礎設計力の高さに脱帽する他無い
試験は地球重力の7分の1である月面にて行われ、六本足多脚戦車は抜群の安定性と砲撃精度を見せる結果となった
人員不足である地球において、2名のみで運用出来ると言う事実が宇宙軍の評判を買い、地上で暇を持て余していた元戦車兵を宇宙に上げる理由ともなり、平和を満喫していた元兵士達からは、「俺達は蜘蛛に絡め取られた」として、通称のスパイダーが名付けられたと言われている
鈴木重工はこの商品のライセンス生産を即座に開始し、ハイヴ内用の30mm機銃のみを装着した蜘蛛型(壁に張り付く事が可能)、安価で安定性は落ちるものの、ロケット弾等の発射に最適な動物型などを発売し、宇宙においては鈴木の1強と言わせ締めるほどの影響力を持つ事となった
余談だが、多脚戦車にAIを組み込んだパチコマなる物が設計図の端に描かれていたらしいが、これには入念にバツ印がつけられていたと言う