マブラヴ〜鉄のララバイ〜   作:rezeaizen

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重信の脳髄の行方のお話


外伝7

2013年 6月4日 カリフォルニア マッスルシリンダー生産プラント

 

この日、1人の男が定年退職を迎えていた。鈴木重信の腹心であり、鈴木工場の頃から重信を支えて来た男である

長く会社に尽くしてきた男は、何処か寂しい感覚と誇りを胸に、重信から直接の手渡しで、高級な時計と花束を手渡された

 

「……この後、話せるか?」

 

花束を腕に抱え、重信と握手をしていれば、皆からは見えないようにボソリと呟く重信の言葉に、頷いて答える

重信と別れ、社員達に見送られながらプラントを後にする。少し離れた場所で、重信と車が待っていた

 

「この老いぼれに今更何をさせようと言うのかな?重信くん」

 

「その呼び方、懐かしいな……乗ってくれ。中で話そう」

 

重信手ずから開けられる車のドア。米大統領の乗るビースト顔負けのドアの厚さを支えにして乗り込めば、重信も直ぐに乗り込み、車が発進する

段々と遠くなっていくプラントを見つめていれば、これまた重信手ずからにシャンパンを注いでくれるでは無いか

 

「これはこれは……かなりの大仕事が待っていますかな?」

 

「そうだな。貴方にしか話せない事で、頼めない事だ」

 

チン、と音を立ててシャンパングラスで乾杯して。一息に高級なソレを飲み干しては、五臓六腑にしみわたる冷たさを噛み締める

仕事終わり、否、責任の終わりを痛感しながらも、何処か心は空っぽだ

 

「そんな勢いで飲むなよ。酔いが回るぞ?」

 

「後は家に帰って日本への帰国準備だけですから。妻も息子達も協力してくれてますし」

 

「……貴方以外には頼めなかったんだ。あの頃はな」

 

互いに、何処か遠い目をする事が多くなった。過去を懐かしむつもりは無いのに、この歳にもなるとお互いに過去の事ばかり思い出すのだ

 

「……ま、昔の話は良い。それで、私に頼み事があるんだろう?重信くん」

 

「そうだ。最重要で、絶対に貴方以外の誰かに頼んだ方がいいのは分かってる。だが、貴方にしか頼めない事だ」

 

真剣な表情。彼がこう言う表情をする時は、かなりヤバイ事を頼む前兆だ

以前この態度で頼まれたのは、PR液を満載したタンクローリーを四国の橋で爆破させる為に集めてくれと言われた時だ

あの時は、自分一人でその責任を負った彼に、自分は何も声をかけてやれなかった

 

「もし俺が貴方よりも先に死んだら、俺の脳髄を真っ先に確保して欲しい」

 

「縁起でもない事を言う物じゃない。重信くんよりも私の方が歳上なんだぞ?」

 

「分かってる。分かってるからこそ、貴方にしか頼めない。俺が死んだと言う報告が入ったら、コレを使ってある人物と連絡を取り、ソイツを使って俺の脳髄を摘出してくれ。タイミングは任せる」

 

手渡された携帯端末。中にあるのはたった一つの連絡先と、通話ボタンだけ

嫌な予感が頭の奥を掠めている。否、これは確信と言っても良い。あの時と同じ感覚、彼は恐らく最悪の未来、自分の死期を予測している

 

「出来るかどうか分かりません。それに、護衛の方が通してくれるかどうか……」

 

「それも問題無い。貴方は功労者であり、俺の腹心だ。俺の死体と一緒に居られる時間なんて作れるさ」

 

頭の奥が冷えきっているような、痛みにも似た感覚が思考の邪魔をする

やめろ、やめてくれ、私は君が死ぬところなんて想像したくない

なのに何故、私は……こんなにも君の最期の願いに応えたいと思ってしまうんだろう

 

「……監視カメラ等の記録は?」

 

「問題ない。ソイツはカメラに映らない」

 

「……ようやく重荷が降りたと思っていたのに」

 

「すまない。だが、最後のピースが貴方なんだ」

 

彼は恐らく、自分に程近く、自分が死んだ事を早く知れる人間が欲しかったのだろう

白羽の矢が立った事を光栄と思えるほど自分は若くなく、それを断れるほど、彼に薄情にはなれなかった

 

────────────────

2015年 4月1日

重信くんが亡くなったと言う一報が入ると共に、私は携帯端末を取り出した

通話ボタンを押して数コールの後、重信くんからソイツと呼ばれる人物は通話に出たものの、分かったの一言で切られてしまった

話すことも無く切られた事に不信感を感じながら、私達は慌ただしく準備を終え、翌日の通夜に備えた

 

翌日、防犯上の観点から重信くんの遺体と別れの挨拶を出来る者は極一部に限られていた

その中でも親族を除けば、私は一番最初であった。霊安室へと通され、別れを告げられるのは10分だけだと、重信くんの護衛だった男に告げられる

重厚な扉が閉まり、監視カメラも無い密室はしんと静まり返る

 

「……居るのかい?」

 

重信くんの遺体の毛髪が揺れる。まだ50だと言うのに、その髪の毛は白髪ばかりである

私が声をかけたのは、その毛髪に触れた誰かに当てたものだ。重信くんからソイツと呼ばれる人物は姿を現し、静かにのジェスチャーと共に、自らの義体腹部を開き、機械による摘出手術を開始した

 

彼の腹部には何かしらのゲルが満たされたシリンダーが挿入されており、そこに脳髄を入れると言う事を否応無く理解させられる

私はその光景を見ないようにしながら、備え付けの椅子に座り、ため息をつく

 

「全く。最期の最期まで君には振り回されてばかりだ。私より先に逝くなど、余りにも早いじゃないか。君のご両親に報告する此方の身にもなってくれたまえよ」

 

ただ静かに、摘出手術の音を聴きながらごちる。摘出が終わったのは8分と言う超短時間であり、一見すれば脳髄が無いことなど分からない程見事に傷口を縫い合わせる姿を見ながら、ゆっくりと立ち上がる

 

「……重信くんはこれから何処に?」

 

「機密事項だ。……だが、そうだな。これから重信様は、お前達を見下ろす事になる、とだけ」

 

それはまさか、なんて言葉を紡ぐ前に、ソイツと呼ばれた者は目の前でその姿を消した

熱光学迷彩。彼が昔言っていた夢物語の一端を見た気分に何処かで懐かしさを覚えながら、私は促されるまま霊安室から立ち去った




Q.部下を使った自作自演ってコト!?

A.はい!!

Q.熱光学迷彩って違法なんじゃないですか!?

A.そもそも裁く法律が無いので違法でも何でもありません

ソイツ
重信が作った義体。全身に熱光学迷彩を装備し、腹部には脳髄を収容するためのシリンダー、脳髄摘出用の機械が仕込まれている。この義体を誰が操縦しているのか、どうやって作ったのか、全てが不明である。重信の脳髄をある場所に届けた後、コレはこの世から消滅している
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