月面 鈴木学園
───ねぇ知ってる?真夜中に校内を歩いてると、浮かぶ脳味噌が現れるんだって
誰が話したか、誰が言ったか、そんな事は忘れてしまった。曰く、BETAに食われた人の思念、曰く、未だ地球に戻れない死体の思念、曰く……
「馬鹿馬鹿しい……」
かく言う自分は課題に追われており、もう終わりと言う時に明朝提出の簡易的な課題を教室に忘れてしまい、これ以上は内申に響くと言う理由の元、そんな夜中の学園に忍び込んでいるのだ
警備員に話を通しはしたものの懐中電灯だけを渡され、4階立て校舎の中を歩いているのだ
窓から見えるのは、校舎を覆う大きなドームと、その先に見える地球である
多くの学生が時折立ち止まり、ぼうっと眺めるその光景は、真夜中であっても美しく感じてしまう
「っと、早くしないと」
教室の鍵を開け、課題の入ったディスクを手に取る。そのまま教室から出て、自室へと戻ろうとした時、ソレは居た
暗闇にぼうっと浮かぶ、脳。余りの恐怖と噂は本当だったんだと言う事実に脚が震え、腰が抜けそうになる
『おや?こんな時間に何をしているのかな?』
恐らくは脳髄から聞こえてくるであろう声を聞いてしまった。その事実に思わず叫び声を上げながら、自分は警備員室へと走っていた
翌日から、浮かぶ脳の噂は、更なる広まりを見せる事となる
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2025年 4月1日
重信の死から10年。十周忌を終え、年々減っていくはずの参列者の数は、未だ減ることは無い
かく言うのも、減っていくはずの世代の次世代が顔を繋ぐ為にやって来るからである。今や鈴木重信の周忌と言う物は、色々な場所からやって来るお歴々やその次世代が顔を繋ぐ為の場になっていた
無論、それが悪い訳では無い。国内だけでなく海外とも顔を繋げるのは、鈴木グループにとっても悪い話では無いのだ
だからこそ、純一は複雑な気持ちであった。きっと父親が生きていたら笑って流すであろう事を引き摺る自分に少しばかり辟易していると、護衛達が何やら騒ぎ始めている
「純一様、コレを」
護衛の1人が携帯端末を手渡して来たのを受け取り、画面を見る。大々的なまでのバトリングの宣伝であり、何処に騒ぐような物が?と疑問に思っていながら周囲の人間と一緒に見ていれば、動画が再生され始めた
『YOYOYO!!!お前らバトリング好きか?俺様は大好きだ。今や世界的なイベントにまでなったこのバトリング!!!最近じゃかーなーりマンネリ気味じゃないか?拡張武装やら新型武装やら出ても、上位勢が変わらねえとか思ってないか?思う?そうだよなぁ、俺様だって思うぜ。そこで我等が運営はとあるお方からの提案を受け、ある物を景品にする事で色んな所を巻き込もうって算段をした訳だ。それこそが……コレ!!!』
MCの助手らしき銀髪赤目の女性が現れ、その手に抱えているのは培養液に漬けられた脳髄であった。脳髄からは何本かの血管のような物が伸び、栄養と酸素を供給しているのが見て取れる
『鈴木重信様ご本人の脳だ!!!!何でそんな所にあるのか?何でそんな物があるのか?それは秘密だ。だがコレは重信様本人のご意志である事は確認済み!!!あー分かるぜ、偽物じゃないのか?幾らでも詐欺できるだろなんてのは!!!じゃあ重信様、本人や家族にしか分からない事を1つどうぞ!!!!』
「猫のドロップキックに耐えられるように設計しておけば良かった、との事です」
銀髪赤目の女性から出たこの一言に反応してしまったのは、純一であった。その反応を見た周囲はこの情報が本物である事を確信し、全員が懐から携帯端末を取り出して手に取った
『まあ、俺には良く分からねえが……とにかく!!こんな代物欲しがるのは全人類だ!!!けどそんな大勢なんて見れる訳がねぇ。それなら参加者はふるいにかける必要があるよな?だから各国代表チームを決めて貰う!!!各国は戦術機4機とAT4機の8人チームを代表として選出!!!勝ち残った国家が重信様の脳髄を手に入れる事が出来る!!!!シンプルで楽しそうだろう?』
「人権的にも私は今物品扱いだから大丈夫だろ、との事です」
『予選開始は半年後の月面!!!この為だけに作られた超大型のフィールドで行われる!!!!各国政府には今まさに招待状が届いてると思うぜ。おっと!!!重信様の脳髄が月にあるなら取りに行こうとか考えるなよ?奪いに来たら重信様自身が自爆出来るよう設計してあるからな!!!』
「賞品なんだから勝ち取りに来い、との事です」
『ついでだが、我等が運営は今回のスポンサーも大量に募集してるぜ!!!スポンサー応募の場合は下記のリンクから!!!!大会でのレギュレーション確認は上記のリンクから!!!それじゃお前ら、半年後に月面で会おうぜ!!!!!』
動画の終了と同時に、純一の携帯端末には何件もの電話が入っていた
鳴り響く音と同時に、十周忌に参列していた父親の愛人である香月夕呼は、腹を抱えて大笑いしはじめた
全員の視線が向くと同時に彼女は純一へと歩みを進め、まるで海が割れるかのように人々は彼女へと道を開き、その動きを見つめる
「勝ち取りに行くわ、純一。アイツの脳味噌燃やしてやらないと気が済まないわ」
「そうでしょうね。鈴木グループはスポンサーにならざるを得ないと思うのでどうにも出来ませんが……お願いします」
手を振って去っていく後ろ姿を見送りながら、純一はパン、と手を叩く。全員の視線を再度自分へと集め、丁寧な作り笑いを浮かべて口を開く
「では皆さん。半年後、月面で」
その一言を皮切りに全員が動くのに、時間はかからなかった
Q.いったい何が始まるんです?
A.チーム戦ガンダムファイトみたいなもんです
Q.重信くんはどうやって月へ……???
A.企業秘密です