一話
1983年 4月1日
俺こと鈴木重信は、半ば無理矢理帝国軍へと入隊させられた
と言うのも、俺の送り付けた設計図がお偉いさんにまで見られて、これだけの才能を放置していい訳が無いと言う理由だけで、強引に決められたのだ
勿論、俺としてはめちゃくちゃ嫌だった。北海道の土地を買う予定もあったのが全てパーだ
『鈴木重信。貴官は訓練兵では無く、戦時技術士官として任命する。これより帝国軍第四工廠に趣き、貴官が設計した新型機体開発に当たれ』
慣れぬ敬礼と共にその訓示を受け、俺は内心、何処かワクワクしながら第四工廠とは何処かと問うた
すると、命令してきた佐官はさっと視線を逸らし、先程のハキハキとした口調から一変、モゴモゴと、まるで言いにくい事を言わねばならないと言わんばかりに口を開く
『あ、あー……その、だな。第四工廠は……』
訓示の紙にも書かれていない第四工廠の場所。第二工廠は東京だったし関東かな、と思っていれば、差し出されたのは一枚の地図と、行き方であった
「…………福島県?東北?」
疑問符が浮かぶと同時に、だよな、と言わんばかりに佐官の目は細まる。ちょいちょいと人差し指が曲げられ、佐官に顔を寄せては、ボソボソと話してくれた
『……内密に頼む。お前の事を手に入れられ無かった財閥連中が圧をかけてきてな、本来なら第一工廠で採用する筈がそこになった。第二工廠に置いてあった試作機やPR液精製機?とやらは全てそちらに運び込まれているから安心しろ』
要するに政治と金の話である。まあ私的にはATを量産出来れば何処だって構わない。問題は量産させてくれるかどうかだけだ
「訓示、確かに拝命致しました。それでは」
ビシッ、と慣れぬ敬礼を再度して、部屋を後にする。とにかく荷物を持って福島県まで行かねばならぬのだ。さらば宿舎よ、さらば同期になるハズだった者たちよ、たった半日だったけどキャンプみたいで楽しかったよ
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「……迎えは無し。いや、当たり前か」
一人に対して迎えなど出せるものか。新幹線から降り、更にそこから電車に乗って降りて、目の前に広がるのは田園風景。本当にこんな所に工廠なんて物があるのか
いや、もしかしたら秘密基地的な物かもしれない。地下とか山の中とか。そしたらテンション上がるなぁ
「…………」
歩く。歩く。タクシーも無ければ人気も無い。いや、人気はあるが、手作業で農作業している人達は半ば殺気立っている。恐らくだが、昨今の石油事情のせいでトラクター等の農業機械を動かせず、手作業でやらねばならない事への不満と怒りだろう
「えーと、まだ歩くのか……?」
徒歩三十分と書かれた地図と紙を交互に見ながら、果ての見えないと言っていいほどの田園を歩く。疲れた、休みたい。そんな事を考えていれば、ようやく目立った建物が目に入る
やった、ようやく着いた。そう考えては早歩きで建物へと向かい、意気揚々と正門にまで到着して……
「…………寝てる……」
門番は詰所の中で寝ていた。グースカとイビキをかいて。傍らには合成酒まで置かれており、飲んだくれなのは目に見えて理解出来る程だ
「あの!すいません!!起きてください!!!」
そう言ってゆさゆさと門番の身体を揺さぶり、起こす。少なくとも挨拶くらいはと思い起こした瞬間
「うるせぇ!!!」
銃床が飛んできて顎にクリーンヒットをくらい、俺は意識を手放した
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目を覚まして真っ先に目に入ったのは、見知らぬ天井であった。顎の下に貼られてひんやりしている湿布を感じながら、ゆっくりと身体を起こす。どれくらい気絶していたのだろうか。あの門番ぜってえ許さねえ
「あら、起きたわね」
ガラリと音を立てて部屋の中に入ってくる女性。作業着から見てこの工廠の人間だろうか
ポニーテールで纏めており、髪の色は茶色。垂れ目で何処かおっとりしたような彼女を見ては、顎の痛みがぶり返す
「初めまして。私は涼宮。ごめんなさいね、門番の彼、貴方の顎打ち抜いてから気づいたらしいの」
「……そうなんですか」
そもそも飲酒して門番してんじゃねえ。そんな当たり前の文句が出かかったものの飲み込む。彼女に言っても仕方無いと理解しているからだ
「ところで涼宮……さん。ここって第四工廠……なんですよね?」
はて、よくよく見たら彼女の作業着は泥汚れが目立つ。本来の工廠なら油汚れの方が目立つハズなのだが
「ええ、そうよ。あ、そうだった!」
ビシッ、と自分よりも慣れぬ……と言うよりは完全に忘れていたと言わんばかりの敬礼をしては、彼女は顔を綻ばせ、こう告げた
「涼宮茜(すずみや あかね)少尉です、鈴木重信戦時技術士官。……よく分かって無いんだけど、戦時技術士官って事は少尉扱いでいいの?」
「多分そうかと」
俺もよく分かってない。何せ全部急に決まった事だし
「でしたら、先達として教えないといけないわね。立てる?」
「はい、問題ありません」
軽い脳震盪である。なによりも顎の痛みのお陰で意識がはっきりし過ぎて気絶も出来そうにないのだ
涼宮少尉に案内され、廊下を歩いて気付く。工廠と言う割には廊下が板張りである。普通はコンクリートとかで作る筈では
そして更に気付く。第二工廠のような油の臭いや、ガリガリと書類を書き上げる音が無い。寧ろどちらかと言えば田んぼの匂いの方が強い
「さあ、着いたわ。ここが帝国軍第四工廠の工房よ」
夕焼けに一瞬だけ視界が赤く染まり、目が慣れ、見えてきたのは…………
「………………え?」
工廠とは名ばかりの、運び込まれた試作ATとPR液精製機のみが鎮座する、広い空間であった
田園、田園、また田園
誰が何と言おうとも、先に続くは田んぼばかり
その中にポツンと建つは第四工廠。帝国軍が誇る四つ目の工廠
嘘を言うな!!!!
誰が言ったか左遷の場。才能潰しの一等地
ここは、面倒な者が行き着く、最後の場所
次回 マブラヴ〜鉄のララバイ〜
第二話
芽をだす事すら許されぬ、最後の場