海軍は陸軍の提案に反対である
技術開発局は両者の提案に反対である
農林水産省は貴官ら全員を殴り倒す所存である
〜ゴングの音〜
1981年 4月1日 夜
俺の歓迎会が行われた。俺の顎を打ち抜いた門番は土下座して謝ってくれたから許したが、改めてこの第四工廠の規模に溜息が出る
総勢は20名ほど。しかも大半はやる事も無い為、昼間は近所の田んぼや畑の手伝いに行っているらしい
……これが工廠?町工場じゃなく?涼宮さんに牡丹鍋を器によそわれ、食べながら考える。あ、この牡丹鍋滅茶苦茶美味しい
涼宮さん曰く、ここに居る連中は全員優秀だが、政治や軍で扱いの難しい連中が集まっているらしい
「じゃあ、涼宮さんもそうなんですか?」
「はい?ええ、そうです。私陸軍中野学校出身なんです。情報省とは別口のスパイだったんですけど、ボーイング社から情報持ち帰ったらここに左遷されました」
「……それって優秀だけど手元に置いとくと危険だから左遷したって事ですよね」
つまり、ここに居る連中は全員そんな連中である。酒飲んで騒いでるのを見ながら牡丹鍋を腹に押し込み、明日からどうしようかと考える。俺は基本怠惰なのだ、あらゆる事で楽をしたい。農作業なんて極論言えばしたくない。エアコンの効いた部屋で製図してたい
「あ、それと工廠の端で日本酒密造してますけど秘密にしておいて下さいね?」
言わなきゃ知らなかったのに!!!!
──────────────
翌日、涼宮さんと一緒に近隣農家へと挨拶回りをしながら改めて気付く。全て手作業で農作業している
牛を使ったりしないのか?と考えていれば、涼宮さんが教えてくれた
「牛一頭を飼う程の余裕がありませんから。牛の世話をする為の人手すら足りません」
成程盲点だった。牛を飼うにせよ、仔牛から育てるにせよ、まず買い付けと輸送で金がかかる。そして餌も買わねばならない金がかかる
しかも、農耕牛なんて今のご時世扱っている所の方が少ない。大半は肉牛か乳牛だ
何よりも、機械化農業になった現在で牛を使っての農業など非効率過ぎるのだろう
「……涼宮さん。次の家でトラクター見せて貰えますかね?」
涼宮さんは俺が何を考えているか分からないと言った目で俺を見たものの、頷いてくれた
──────────────
翌日から、俺は工廠の人達に協力して貰ってPR液精製装置と、マッスルシリンダー製造ラインを作る事に従事していた
局長に頼み込んだら……いや、頼み込む必要も無かった。局長室に入った瞬間、新聞を読んでいた局長はこちらを一瞥し、なんかやるの?良いよ。の二つ返事で全てが終わったからだ
俺は農作業に向かう人員に声をかけ、説得を試みた……のだが、こちらも二つ返事で了承してくれた。久しぶりに工業製品触れるなと笑い、こんなガキの言う事を聞いてくれるのだから、こちらとしては平身低頭する他無い
さて、そんなこんなで、我々は丸一週間かけてマッスルシリンダー製造施設を作り上げた。皮肉な話だが、本当に作業に従事してくれる工廠の人員は優秀な人間揃いであった
俺が渡した設計図を見るや否や、ホワイトボードが持って来られ、配置図が描かれ、生産効率の話をする。まだ注文した要撃級の死骸すら届いてないのに
元々第二工廠で使われていたPR液精製装置とマッスルシリンダー製造装置が配置される間、俺は他の人達にさっさとやれと促され、マッスルシリンダー製エンジンの設計図も書き上げる事となった
とは言え、こんな物は簡単である。マッスルシリンダーの利点はとにかく設置や付け替えが簡単である事と、それなりの馬力が出る事である
さらさらと書き上げるついでに、メンテナンスブックも作っておく。PR液の交換時間と、壊れ易い箇所の修理方法。中和剤を使った消火方法、メンテナンスの仕方……等々、小冊子程度になったのは許してほしい
翌週になってから、ようやく要撃級の死骸が届いた。正確にはエネルギー切れの個体であり、エネルギーを突っ込めばまた動くような新鮮な個体だ
それと同時にトラクターを工廠へと運び込み、マッスルシリンダーの作成と共に、トラクターのエンジン載せ替え作業が始まった
正直この時が一番楽しかった。要撃級をバラバラにし、筋繊維を取り出してマッスルシリンダーへと変え、血液はPR液へと精製し、あの恐ろしいBETAが、人間社会の為に姿形を変えていくのは、ある種の恐怖にも似た何かを思い起こさせる
試作で作ったマッスルシリンダー製エンジンを乗せ、工廠内でトラクターを走らせる。最初は馬鹿みたいな速度が出て皆でゲラゲラ笑い、そこからは試行錯誤の連続であった。低速で、尚且つその溢れる馬力をトラクターから外部出力へと。今まで使っていたアタッチメントの類も使えるように試行錯誤を続け、工廠は久しぶりに工廠の仕事をしたと言っていいだろう。……いやそうでもない気がするけど、それはこの際置いておこう
──────────────
そうして三週間キッチリかけて、マッスルシリンダー製エンジンを積んだトラクターは返された
我ながら良くやったと思いながら試運転を見れば、納品を手伝ってくれた涼宮さんとハイタッチして。農家の人達に凄い感謝をされながら恥ずかしそうに笑えば、涼宮さんはニコリと笑い、特許を出しましょうと言ってきた
技術開発局への当てつけと、第四工廠の権威上げの為に。促されるまま俺は特許申請の為に書類を書き、帝国軍第四工廠の名前で、マッスルシリンダー製農作業用エンジン、通称とるーぱーくんを特許申請する事となる
そして、これが帝国軍だけでなく政治まで巻き込む事になるのは、この時は知る由もなかった
元スパイは嘯く この技術は秘匿すべきでは無いと
局長は頷く 別にいいんじゃないと
当事者は笑う 意趣返しだこの野郎と
傍から見る者は恐怖する 新たな戦争の幕開けだと
ここは第四工廠 権謀術数渦巻く世界と無縁な場所
次回 マブラヴ〜鉄のララバイ〜
第三話
毒牙の恐ろしさを知らぬは 幸せなのか