横浜基地隣の我が社の工場では既にジョン・ドゥやジェーン・ドゥの量産体制に入っている為テストパイロットも必要無い、米国が出向させてきたウォーケン少佐も横浜基地へと送り込み、教官2名体制にしてしまうと言う無茶まで通しましたが……その結果として教育カリキュラムが実戦的になったのですから、良かったと言えるでしょう
─── AT博物館 衛士訓練学校に出向した者達より抜粋 ───
2000年 5月10日
横浜基地 国連軍衛士訓練学校
ここに集められている衛士候補生は、全員が厄介者扱いによって集められた者達である
首相の娘、現将軍の双子の片割れ、国連事務次官の一人娘、鈴木重工からの出向組etc……
そんな彼等を一纏めにし、押し込んだこの場所では、現在実機による訓練が行われている
「撃震ってこんなに動かしにくいの、か!!」
『白銀、貴様まさか、鈴木重工で戦術機に乗っていたとか言うんじゃないだろうなあ?』
「ノー・マム!!ATと比べました!!!」
『ATと比べるとはいい度胸だ。白銀機を落としたら私がPXで好きな物を1つ買ってやろう』
「「「イエス・サー!!!」」」
「ウォーケン少佐あああああぁぁぁ!!!」
体感型BETA殲滅アクションゲーム『ヴェンジェンス』の全国大会優勝経験者である彼は、それはそれは有名人である
何せATで要塞級を倒せる事を示したのが彼であるし、事実として大連では彼の動きを真似たミッションディスクを使用して要塞級を倒したと言う報告もある
だからこそ、彼が戦術機乗りになると言う話が出た瞬間、横浜基地所属の国連軍スコープドッグ部隊から大反対が巻き起こった。それ程までにあの動きは素晴らしいのだ
ラタビノット基地司令がこれは鈴木重工側からの要請である、と直々にお触れを出さざるを得なくなる程であった事から、その反対度合いが分かるだろう
余談ではあるが、この横浜基地に所属しているほぼ全ての人員はヴェンジェンスをプレイした事がある。それ故に白銀候補生が暇になった瞬間、ヴェンジェンスでの対戦申し込みが後を絶たない為、これまた直々に対戦禁止のお触れが出たのだが……それでも隠れて対戦していると言う噂が後を絶たない。
さて、現在彼はジョン・ドゥと言う最高峰機体から一気にランクダウンした機体に搭乗している。元より天才肌的な素養がある彼にとって乗りこなす事は然程難しくないと思われていたが、AT、ジョン・ドゥと直感的に乗りこなせる機体から一転、確実な制御をしなければ動く事もままならない既存の戦術機には、とても苦労している
だがそれでも。彼は天才である。事実、現在も1対3だと言うのに比較的優勢に立ち回っている。天才だからか、それともまだお互いに未熟だからだろうか
「貰った!!」
2機が彼を貼り付けている最中、背後から現れた御剣機が長刀で下から切り上げる。反応する事の出来なかった彼の機体が映像とは言えバッサリ斬られて、試合終了の合図が鳴り響く
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「いやさすがに無理だってアレ……」
「4対3で数の有利はあったのに、最初に使えなかったのが悪いな」
「そうね、どこかの誰かさんがきちんと指示に従ってくれたら楽だったんだけど」
「あの指示だと直ぐにビル上から狙撃される。カバーを取っていても貼り付けにされて詰められる」
「ま、まあまあ2人とも!!」
ウォーケン少佐に買ってもらった甘味を堪能している勝者チームを横目に、今回負けた反省をする委員長、動きと指揮に文句を付ける彩峰、その2人を宥めようとする純夏
委員長の指示に従って動いたら俺だけ生き残っちゃったのがな〜……なんて反省していれば、頭の上に柔らかな感触が乗っかる
「それならこっちに来てもいいのよ白銀〜。ATは良いわよ〜」
「そうそう、貴方が来たら百人力なんだから」
そうやって勧誘してくるのはAT部隊である。あちらも訓練終わりなのか、ニヤニヤと笑いながら招待するその行動は、やけに扇情的であり、明確な意図が透けている。以前からではあるが、色気を使ってでも自分をATに乗せたいのだろう。正直行きたい気持ちが無い訳では無いが、鈴木重工との契約上そうもいかない
横浜基地の食堂は基地と訓練学校、両方の食堂を兼ねている。基地1つで食堂1つは当たり前なのだが、如何せん有名人である彼は注目の的であり、同時に誘惑される事も多々ある。基地司令も個人的な事まで口を出す訳にも行かず、頭痛の種が1つ増えてしまっている現状だ
「白銀は戦術機の正規訓練を受けに来ているんです、申し訳ありませんが中尉、それ以上は鈴木重工に話を通して下さい」
「あらやだ、冗談の効かない子たち。ふふ、まあいいわ、いつでも待ってるから、ね」
別に、いつもこんな事がある訳では無い。ブッキングするとよくある事ではある。だからこそ、こんな事があると凄く空気が悪くなる
やけ食いのように甘味が消費され、純夏からはじっとりとした目で見られ、御剣からは溜息が漏れる
「……さ、座学の為の準備でもしましょ」
「賛成。その意見には同意出来る」
こう言う時だけ息がピッタリな犬猿の仲の二人を見ながら、俺はすっかり冷めてしまった合成食を掻き込む事しか出来無かった
つかの間の休息 僅かな青春
誰かに与えられたその安息は いつか必ず終わりが来る
嗚呼せめて この時間がもう少しだけ長く続きますように
そんな祈りすら押し潰し 奴等は無慈悲にやってくる
次回 マブラヴ〜鉄のララバイ〜
佐渡ヶ島ハイヴ攻略 前哨戦
歴史は 転換点を迎える