「アンタらの脳味噌、使い潰すから」
復活したシリンダー達の前で、講義を行うようにその女性は告げた
否、知っている。世紀の天才と言われる香月博士であろう
自分の知っている彼女はもう少しだけ若かったような気もするが、如何せんまだ意識がはっきりしていない
否、意識ははっきりしている。目で見ているのでは無く、カメラを通してみているような感覚だと言えば分かるだろうか?
「……質問する前にしっかり考えてるみたいで結構。やっぱり頭の良い連中は考える癖がついてて好きよ。まあ……そのせいで喰われて死んだんでしょうけど」
そう。自分を含め、周囲にあるシリンダーに浮かぶ脳髄には見覚えがある。自分が喰われる前に見た、BETA製の人類研究用シリンダーだ
ざっと見れる範囲だけでも(それでも180度ぐるりと見えてしまうが)知っている名前を見かける
しかし最初に彼女が言った言葉が気にかかる。使い潰すとはどう言う意味だろうか?
「よく冷静で居られるわね?自分達がしっかり喰われたって事認識してるんでしょ?」
『今ここで騒ぐ事でも無いからね、ミス香月』
「今はミズ香月よ。結婚したの♡」
『HAHAHA、ナイスジョーク』
「うるっさいわねシリンダー割るわよ」
あんな女狐が結婚する事があると言うなら、明日にでも人類がBETA全てを駆逐するだろう
それ程までにこの女狐は非常識であり、論理的に考える女だ
学会に殴り込んだと思えば、いきなり全方位を論文で殴りまくった事は忘れない
絶対あの時の事許さねえからな女狐
「ま、でも有難いわ、話も早く終わりそう。最初に言った通りよ、アンタらの脳味噌……正確には処理能力を使い潰して、凄乃皇弐型…HI-MAERF計画の置き土産を操作。ML機関の減速や機体制御に役立って貰う」
『それは構わんが、我々で出来るのかね?アレは確か馬鹿みたいな処理能力が必須だ。ここにいる面々全員を使ったとて……』
「安心して。もっと増やすから」
最低でも200人は使い潰す。彼女はそう告げて、我々に減速数式や機体制御の為の数式を提示した
質が無いなら量で対抗するまで。彼女は自らが手がけたであろう何かを思い出すように告げながら、我々に対しての講義を続けた
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10月 20日
0700
凄乃皇 弐型 横浜基地より発進。ML機関の暴走を防ぐ為の最終回路の取り付けが再度確認され、オリジナルハイヴ攻略の助力とされる
0900
国連軍及び米軍の合流を衛星軌道上にて行う為に待機するも、各戦線にて想定以上の被害が発生している為に援軍は送られず
0100
横坑内の部隊が危機的状況にあり、地表にBETAがいない事を確認した為強行突入
0105
突入完了。第一射によってモニュメントを半壊させる
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『今の一射で何人消えた!?』
『分からん!!何人かバチバチして逝ったのは見えたぞ!!』
『くわばらくわばら。減速の為に式を解き続けねば死ぬぞ』
この凄乃皇弐型に、コクピットは無い。正確にはコクピットを取り外し、200個以上の脳味噌シリンダーを詰め込んだ
数式を解き続けなければML機関が強制停止され、自分達は2度目の死を迎える事となる
しかも意識がある状態でBETAに食われるのだ、2度目はゴメンだと言わんばかりに、シナプスがパチパチと弾けるような音を聞きながら、彼等は必死に数式を解いていく
『きんもちぃぃぃいいいいiiii』
『また一人逝った!!クソ、第2射撃てるのかコレ!?』
『反重力の計算はどうした!?ワシに回ってきとるぞ!?』
『光線級出現!!フィールド組はどうした!?装甲が融解してる!!』
処理をする為の量が足りない。圧倒的に。どれだけ計算が早かろうと処理速度に限界はあり、一射するだけで半分近くのシリンダーが使用不可になる現状、最早凄乃皇弐型は囮でしか使えない
否、それで良いのかもしれない。先程の一射でBETAの脅威度判定がコチラに移り、地下からせり上ってくる音が聞こえる
せめてもう一射だけ。次々と処理の為にやってくる数式を無限に解き続けながら、がくん、と機体が大きく揺れるのを感じる
正確にはカメラアイからではあるが、シリンダーが大きく揺れているのだ。横坑内から出てきたBETA……恐らくは要塞級クラスが触手で機体を抉ったのだろう
死ぬな、これは。誰もがそう思いながら計算を続け、第2射の準備が整った瞬間───
最終回路が作動し、凄乃皇弐型は最低限の生命維持装置のみを作動させながら着陸した
『ここまでか。惜しかったなぁ』
『第2射でモニュメントを吹き飛ばせば、もっと囮として活躍出来た。まあそもそも1射でシリンダーの半分近くが吹き飛んだのが痛すぎたの』
『諦めが早い!!奴等が食い破るまでまだ時間はあるぞ。ML機関が暴走しないようにするのも最後の仕事だ』
シリンダー自爆機能を何人かが使い、シリンダーごと脳髄が弾け飛ぶのを見つめる
あの女狐の最後の良心だった。シリンダー下部に装着された爆薬によって、最後は痛みすら感じず弾け飛ぶ事が出来る
最後の仕事が終われば、我々も使うしかあるまい
『よし、良いぞ……もう直ぐ……』
メキャリ、メキャリと音を立てて装甲が喰われていく。ああ、また食われる。最悪の最後を迎える
嫌だ、食われたく無い。そう考えた瞬間、このコクピットごと爆破すればいい事に気がついた
計算を続け、最後の1つを解き終える。瞬間、目の前には戦車級が現れた
『ようクソッタレ。帰ってきたぞ』
そう言いながら、死んだ連中の爆薬まで全てリンクさせ───
凄乃皇弐型のコクピットは、爆発音と共に弾け飛んだ