マブラヴ〜鉄のララバイ〜   作:rezeaizen

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帝国軍開発局のバックアップを受け、鈴木重工は躍進を遂げる為に事業拡大を推し進め始めました
しかし問題がありました。何せこの頃の鈴木重工は町工場の1つ。帝国軍開発局から流れた噂から他重工が開発者を確保しようと動くのは、最早自明の理と言えるでしょう

─── AT博物館 開発者の災難から抜粋 ───


親父ィ……金貸してくんね???

「いやあ、貴方のお子さんは本当に凄い!!!素晴らしい!!!この歳であんな傑作を生み出すなんて!!」

 

「は、はぁ……」

 

1ヶ月。俺は帝国軍開発局にカンヅメになりながらスコープドッグの調整や試験、PL液の調整を繰り返し、制御ユニットの調整まで完璧に終えた後、自由登校期間が終わる事に気がついた

さすがに卒業式をサボるのはマズイ。そんな事を開発局の人に伝えると、何言ってんだコイツ、と言う顔をした後、まだ中学生だった事を思い出してくれた

 

開発局(狂人集団)の1人が工場を見たいと言ってきた為、父親の許可無く連れ帰ってきたが、出迎えてくれた父親に対して肩をバンバン叩きながら褒めたたえている様は、どこか恥ずかしくて堪らない

運転手が母親に菓子と酒を手渡しているのを呆然と見てから、何枚か書きかけの設計図が製図室にあった事を思い出し、ふらりと製図室へと向かう。現実逃避がしたかったのだ、アレに熱中している時は外の事なんて関係無いから。そんな考えで製図室の扉を開けると、中に居たのは設計図を見ながらうんうんと唸る作業着を着た金髪青眼の女性達であった

 

「すいません、部屋間違えました」

 

睡眠不足から来る幻覚だろうか、それとも部屋を間違えたか、改めて部屋を確認して間違っていない事を確認し、再度部屋へと入る

相も変わらずそこに居るのは金髪青眼の女性達だ。部屋の中に甘い匂いがするように感じるのは、退化したフェロモンの名残だと言うが

 

『アナタがこの設計図引いたの!?』

 

「なんて?」

 

1人の女性が此方に一気に詰め寄ってきた。身長高いな、俺の顔だとこの豊満な胸に埋められそうになる。ニュアンスからしてドイツ語っぽいが、興奮しているせいで早口になっており、一方的に捲し立ててきている。他の女性達も設計図を見ながら我を忘れて意見交換している

今って確か昼休みだっけ、この人達昼飯食べるのも忘れてるのか、なんて考えながら、矢継ぎ早に話してくる女性に対して、あいどんすぴーくいんぐりっしゅ、なんてしか返せなかった

 

『ああごめんなさい、アナタが軍に連れていかれた後に採用されて……この設計図見させて貰ったわ。軍にコレを持って行ったんでしょう?多分だけど今の凝り固まってる軍じゃコレを量産するのは不可能よ。コンセプトとして素晴らしいけれど、今のドクトリンじゃ絶対に採用出来ないわ』

 

「あいどんすぴーくじゃーまん」

 

助けを求めるように窓から外を見れば、わちゃわちゃと喚いている声を聞いて、開発局の人が走って製図室に入ってきた。どうやら語学も堪能らしく、目を爛々と輝かせて話しかけ、俺を拘束しかけていた女性を引き剥がさず、俺の後ろに立って両肩に手を置いてきた

正直俺にも分かるように話して欲しい。俺はこの地獄を生き残る為に確かにATをぶっ込んだが、人間関係でも地獄をみたい訳じゃ無いんだ

 

『初めまして!!!私は帝国軍開発局の阿笠と申します。アナタもこの設計図の凄さに驚いた口ですね?この設計図はこの子が引いて、更には我々が作った試作品も完璧に仕上げてくれたんですよ!!!』

 

『初めましてミスター阿笠。私はクラーラ・ヘラー。西ドイツで人工筋肉の研究をしていたわ。設計だけじゃなくて、エンジニアも出来るの!?米国に居たらアメリカン・ドリーム一直線じゃない……軍部はなんて言ってるの?この……スコープドッグ?を量産するつもりはあるのかしら?』

 

『軍部にはまだ表立って伝えてはいませんが、良い返事は貰えないでしょう。それだけの予算をかけるなら戦術機をもっと作った方が良いと言うでしょうし、現在のドクトリンに組み込むには如何せん大き過ぎますからね』

 

『やっぱり……歩兵、戦術機、戦車の間に立てるこの機体は素晴らしい物よ!!!BETAとの直接戦闘での歩兵死傷率や戦車損耗率を考えれば、明らかにコレを作って配備した方がよっぽど死傷者が減るわ!!!』

 

「あいどんすぴーくいんぐりっしゅ。じゃあ俺は部屋戻ってるから……」

 

疲れる。自分を挟んで話すのは是非ともやめて欲しいなんて考えながら白熱する議論から抜け出し、自室に戻る為に一旦外へと出れば、またも親父が誰かに捕まっている。スーツに身を包んだ営業職らしき人だが、高級車らしき物が複数台停まっているのを見てしまえば、否が応でも嫌な予感が頭を巡ってくる物だ

大方開発局の人員から漏れたのだと言う事に疑念は無い。あそこに居るのは研究開発の事ばかりを考える狂人ばかりだったし

……いや待て、それに馴染んでいた俺もジッサイ狂人……???

 

「君が、新しい機体の開発者かい?」

 

事務所横の喫煙所からコチラを見つけ、急いでタバコの火を消して駆け寄ってきたスーツ姿の男性。何で俺が開発者なんて言うのを知っているのか、人の口に戸は立てられないとでも言うか、渡された名刺を両手で受け取って頭を下げる

名刺に書かれているのは富嶽重工の文字。確か跳躍ユニットを主に生産している所だった。戦術機の雑誌で跳躍ユニットの特集が組まれていた時に見た覚えがある

 

「我が富嶽重工は君のような若く聡明な人材を欲している。河崎や光菱では君の自由は制限されてしまうだろう?どうかね、高校卒業後……いや、中学を卒業したらウチに……」

 

「抜け駆けはいけませんなぁ富嶽さん。この人類の危機に御社の利益だけを考えるのはよくありません。ええ、実によくない。どうだろう?そっちの富嶽よりも良い条件で我が光菱に……」

 

「オイオイオイ我が社を袖にするとはいい度胸じゃないか。君が作ろうとしているのは新しい戦術機なんだろう?だったウチはそのノウハウもある、是非とも我が社に……」

 

醜い争いである。光菱と河崎は戦術機を製造している会社であり、グループ企業の親会社に当たる

取り敢えず3枚の名刺を貰い、目の前でバチバチと火花を散らす3名に対して開発局から話が行くと思いますので、と告げて引き取らせ、父親と母親は彼等の去り際に大量の酒やら菓子やらを持たされ呆然とするばかり。そして製図室での議論が終わったのか、音もなく開発局の人が後ろに立っていた。こういう事するのほんとやめてほしい

 

「あの3社は君も知っての通り、戦術機も製造している。ラインは最早空いていないと言っても良い。富嶽も近々帝国軍謹製の新型戦術機をラインに並べる。詰まるところ、君があの3社に行ったとて、ATの開発量産はされないと考えた方が良い」

 

「なら帝国軍主導でやってくれるんですか?開発局自体は相当乗り気ですよね」

 

両肩に手を置いて、俺が逃げられないようにしてくる狂人にそんな事を聞いてみる。舐めた口を聞いているとは自負しているが、しかしながら、そんな些細な事を気にする程、開発局の人間は人間が出来ている訳では無い。1ヶ月寝食を共にして過ごしてきたが、そんなマトモな事をするならもっと開発と研究をしたいような人間の集まりだった

だからこそ、開発局は独自のルートを作ろうと躍起になっていた。財閥を通さず、癒着が出来、新しい物を簡単に取り込んでくれるルートが欲しくてたまらなかった

 

「それも考えましたが、恐らくは民意と大蔵省がそれを許さない。それに、帝国軍としてもあの3社ばかりにいい思いをさせる訳にもいかない。未だ武家やらなんやらがのさばるとは言え、表面的には敗戦国であり民主国家……鈴木くん、この町工場を重工にしませんか?」

 

「……良いですね、ソレ」

 

悪巧みと利害の一致。この時もし、3社の人間の誰かが居たとしたら。鈴木重工は産まれず、スコープドッグが戦場を駆ける日は、本州にやって来たBETA相手の時だっただろう

 

この悪巧みが世界を変える。よく分からない親会社らしい人物達の対応に疲れて戻ってきた父親にニコニコと笑いかけながら、お疲れ様と声をかける

珍しく疲れた顔をしている父親のおう、と言う言葉を聞き流しながら、肩を揉み、ニコニコと笑いながら告げる

 

「親父ィ……(北海道に土地買うから)金貸してくんね???」

 

キレの良い右ストレートが、重信の頬を撃ち抜いた

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