赤道上から伸びる軌道エレベーターから、地球の衛星軌道上にあるゴミを掃除するATの姿がよく見られると評判です
え?AT以外の機械ではやらないのか、ですか?もちろん競合他社がゴミ掃除用ロボットを投入したりもしているのですが……ATのように汎用性が高く使い勝手が良い、と言う面から未だATが採用されてしまっているのが現状です
─── AT博物館 宇宙で働くATより抜粋 ───
『中隊長!!李が……A5がやられた!!敵は……戦術機だ!!!!』
「馬鹿な!!」
中隊が即座に戦闘態勢を取った瞬間、戦術機のような何かが壁から飛び出してきた
計5機、仮称戦術機モドキであるソレを見て、全員が息を呑む
確かにソレはジョン・ドゥであった。だが、装甲は突撃級の装甲のような材質に置換されており、爛々と光る目玉は、ダウンサイズされた光線級の目玉である
間違い無い。この5機は、佐渡ヶ島攻略の際の陽動作戦で失われた10機の内の5機だ
『この野郎!!!!李の仇!!!!』
「待て!!迂闊に近づくな!!!!」
同じ機体であるならば条件は同じ筈。だが隊長である如月特務大尉には嫌な予感があった
それは、人間が制御するジョン・ドゥと、BETAが制御する同じ機体では、反応速度の違いが如実に現れると判断したからだろう
人間は無意識的に肉体にリミッターをかける。それは神経接続されているジョン・ドゥにも適用される
ソ連でスペック通りの時速600kmを出せたのは、火事場の馬鹿力でもあり、衛士が元々走り幅跳びの選手であった事も含まれる……詰まる所、生命の危機を判断した脳がそうさせたのだ
だが、普通の人間は違う。ジョン・ドゥに乗っていても力はセーブしてしまうし、カタログスペックなんて出し切れる筈も無い
突っ込んだ1機のジョン・ドゥが98式長刀を振りかぶりながら、36mmで牽制する。対戦術機においてセオリー通りの戦い方であり、本来なら戦術機の装甲にも穴は開く
だが、先程も聞いた通り、敵の戦術機モドキはこの劣化ウラン弾を弾く程の装甲を持っている
そして何よりも、敵はスペックを出し切る事が簡単だ
『やめ』
跳躍装置を使って突っ込んだジョン・ドゥは、簡単に引き倒された。先頭に立っていた戦術機級は36mmをものともせず、長刀が振り下ろされる前に体勢を屈め、一気に突進した
クラウチングスタートにも似たその体勢は、戦車級や突撃級の走りの始まりと何ら変わり無かった
ただ違うのは初速であった。戦術機モドキは自らの特性を完全に理解して、初速で時速600kmを叩き出したのだ
無論、そんな事をされれば人間は反応出来ない。彼の断末魔が聞こえる前に、ジョン・ドゥと戦術機モドキは直線上の壁にめり込んでいた
そして、ソレは執拗にコクピットを殴りつけてトドメを刺した。まるで知っているかのようにグシャグシャに変形するまで、何度も、何度も
「各機惑わされるな!!!我々の目標は反応炉だ!!!アレを破壊すれば我々の勝ちだ!!!」
『そ、そうだ!!アレを壊せば』
また一機、断末魔すら上げられずに戦術機モドキの餌食になった。
散開して対処に当たらせるのは愚策と判断した俺は、AT部隊に戦術機モドキ1体の対処を任せ、残りを戦術機部隊で対応する事とした
無論、ATがこの戦術機モドキに勝てる方法は無いに等しい。倒す方法があるとしたら、
それは無論、こちらも似たような条件であるが
「隊長、どうするんだ?早々に片付けないと後ろからグシャー、だぜ?」
「……2番機、相撲は好きか?」
「あん?嫌いだよ、何言って……おい、まさか」
「そのまさかだ」
戦い方は至ってシンプルで良い。奴等はその速度と装甲の硬さを使って戦っている
言うなれば突撃級となんら変わらない。なら、最初から戦い方は決まっている
「来るぞ!!」
大相撲 鉄原場所の開幕である。数の上で言えば3機余る此方は、早々に戦術機モドキと1機ずつ取っ組み合いをして、残った機体のパイルバンカーや
問題が無い訳では無い。何せ此方はフルスペックを出せる訳では無い。CQCでも柔道でも何でも良いが、どうにかして敵の勢いを殺さねば早々に此方が潰される
「取った!!!」
突っ込んできた戦術機モドキを最初に捕まえたのは、通称ダルマ女である。彼女は再生義肢になってから日頃の訓練として合気道を修行していた
日の目を見る事が無い筈だった合気は、見事戦術機モドキの突撃をいなし、地面へと叩きつけた。種さえ分かってしまえば対処は簡単、そう言いたげに彼女は戦術機モドキの胸にパイルバンカーで大穴を開けた
瞬間、光線級の予備照射アラートが一瞬鳴った。一瞬の事であった為に彼女は特に気にしなかったものの、次の瞬間にはそれは正しかった事を理解する
AT部隊と戦闘している戦術機モドキが、自らの目玉からレーザーを照射していたのだ。細々と動くATに対して痺れを切らしたかのように。蟻を虫眼鏡で焼く子供のように
「おいマジ───」
取っ組み合いをしていた2番機のコクピットが光線に貫かれる。高温に耐え切れなかったPR液が誘爆し、戦術機モドキごと機体を吹き飛ばした
ナパームのように周囲に燃え広がり、機体装甲の破片が爆発によってATを何機も巻きんで爆発を繰り返す
「3番機!!援護を頼む!!!」
「りょ、了解!!!」
呆気なかった。アレだけ軽口を叩きあっていたのに。アレだけ自信たっぷりだったのに。こうも簡単に死ぬものか
そんな考えはすぐに頭の隅へと追いやった。そうしなければ死ぬからだ。隊長機の組み付いた戦術機モドキの脇腹を殴りつけて、胸部に風穴を開ける。ジリ貧どころの騒ぎでは無い。今までの戦いとは違うんだ、そう頭の中で反芻しながら、4番機と5番機が割り当てられた最後の1機を踏み潰して、最早動いている数の少ないAT部隊の援護へと向かった
隊長からの指示が飛ぶ。身体が動く。長刀を手にして全速力で駆ける。全てがゆっくりに見える中で、鎮座する反応炉に思いっきり投げつける
反応炉に深々と何本も長刀が刺さるのを見て、突撃砲を構える。予備照射アラートが鳴るのも気にせずに引き金を引いて、36mmが長刀を爆発させる様子を目に焼きつける
反応炉が爆発し、戦術機モドキの動きが止まる。私達はサンプルの為に最後の1機をバラバラに切り裂き、他の機体は全て排除した
無我夢中になっていて浅い呼吸ばかりだったのを感じ、深呼吸する
肺に酸素が満たされ、ようやく周囲が見えるようになった。そうして見えたのは、久しく見ていなかったこの世の地獄であった
どのようにして帰路に着いたのか。焼き付いたPR液の臭いだけが頭にこびり付いて、思い出せない
鉄原ハイヴ攻略 完了
抗えば抗うほど 戦えば戦うほど
人は人で居られず 別の何かへと変わっていく
奴等の血に酔い 戦いに酔い 焼け付く硝煙の臭いに酔う
願わくば この戦いの先でこの酔いが覚めますよう
次回 マブラヴ〜鉄のララバイ〜
スエズ運河奪還 1
せめてこの酔いが覚める前に 殺してくれ
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ATTENTION
以下は機密情報であり、許可の無い者が閲覧した場合即座に射殺される
戦術機級
鉄原ハイヴにて5機のみ確認された新種のBETAである
佐渡ヶ島ハイヴ攻略の際の陽動作戦として、鉄原ハイヴでの間引き作戦中に鹵獲された機体である確認がとれた
ジョン・ドゥが従来の戦術機とは違い、マッスルシリンダーによって作られていた為に、鹵獲、解析、改造されたと思われる
内部構造からほぼ全てが改造されており、搭乗していたパイロットは脳髄のみとなって機体の情報処理機構として搭載されていた
内部構造は全てBETAの筋肉や構造で作り替えている為、PR液ポンプやタンクが必要無くなった事から、頭部にダウンサイジングした光線級の照射装置を取り付け、背部タンク跡に冷却装置を取り付けたと思われる
跳躍装置は機体軽量化の為か取り外されており、四肢の先端には採掘の為と思われる鉤爪が装着されている
恐らくではあるが、人間の脳を情報処理機構とした為に多数のバグが発生し、採掘機械として使えない為に反応炉で処理をされる予定だったのであろう
その証拠としてほぼ燃料が空であり、映像記録からも戦術機が接触するまで無反応である
また、光線を照射した後は明確に動きが悪くなる程にガス欠であった事も追記しておく
P.S.
個人的見解になるが、もしコレがバグを起こさず、ガス欠で無く、10機と言う中隊規模であったなら、我々人類は痛手を負うところでは済まなかっただろう
オリジナルハイヴが消滅していなければ、もしコレが量産されていたら、人類は2年も待たずにこの宇宙から消え去っていただろう