マブラヴ〜鉄のララバイ〜   作:rezeaizen

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鈴木重工が町工場から重工へと向かう中で、最も難航したのが土地の確保でした
利便性の高い場所は大抵が財閥が買い取っていましたし、軍事上重要な場所は軍の物で、当初は北海道に作ると計画されていた重工計画は遠く島根の地にまで飛ぶ事になりました
皮肉な話ですが、これが日本の命運を分ける工場になるとは誰も考えていなかったのです

─── AT博物館 本土防衛の要の章より抜粋 ───


先ずは目先の事に対処しましょう

思った以上に帝国軍開発局の力は強いらしい。正確に言うならこの商機に乗ろうと言う連中が多いと言う事かもしれないが、この3ヶ月で鈴木工場は銀行から多額の融資を受け、人工筋肉培養槽やPL液精製装置を開発局主導で作製

土地問題に関しては不動産屋がやる気だったのか、それとも開発に失敗した土地を売りつけたかったのか、リゾート開発用地を買い取る形で決着が着いた

 

「はい、と言うことで到着しました上海〜」

 

1983年 7月28日

夏休み。開発局からの学校への圧力と俺の努力によって補習無しで勝ち取ったこの休みは、ATに必要不可欠な物の商談によって潰れるだろう

そう、ATを作るにはBETAの筋肉と血液が必須なのだ。開発局ではサンプル用に持ってこられていたBETAをバラして作ったはいいものの、日本においてBETAの死骸など貴重品である。大陸に行けばそれこそ腐るほどあるだろって?だから来たんだよ

無論、この旅行に来る前に税関及び軍部には話を通してある。税関はそんな大それたことすんのかみたいな目で見てきたし、軍部は開発局の狂人がまた何かしようとしてる、取り敢えず許可してやるか。で済ませてしまった。やっぱり開発局って狂人の集まりらしい

 

「気を付けて下さいね。日本人ってバレると女性が凄い勢いで押し寄せて来ますから」

 

「だからこんな物々しい雰囲気なんすね〜」

 

空路が使えない為船に揺られる事2日間。大阪から出た船に揺られて船酔いを経験し、大陸に足を踏み入れると同時に目につくのは、ライフルを持った警察官である

ジッサイコワイ。とは言うものの、彼等が警戒しているのはいつ何処から現れるかも分からないBETAと、何とか日本行きの船に密航しようとする者達のみであり、コチラには一切見向きもしない

 

「中華統一戦線の高官との話は任せて下さい。言い方は悪いですが、彼等は横流しのスペシャリストですから」

 

「それがこっちの得になるんだから物事って分かりませんよね」

 

私が話をつけて来ます。私が戻るまでは前線に近いと言う現実を知ると良いでしょう。珍しくまともな事を言う狂人は、軍の施設へと入って行った

 

─────────────────────

「此処もか」

 

護衛の男が持っているガイガーカウンターがカリカリと音を立てる。避難民の荷物や、売られた荷物を買い取った店頭では特に顕著だ

恐らくは放射能汚染された砂塵が服や食品に付着、それが綿にも付着、そして汚染される……その繰り返しを経てしまったのだろう

質の良さそうな服も、恐らくは命からがら持ち帰った食品も、何もかもが放射線を発しており、ガイガーカウンターを向けるだけで店主は嫌な顔をし、安心安全を謳う所はガイガーカウンターの持ち込み自体を禁止している

 

「人からまで……」

 

何人かとすれ違えば、カリカリと音が鳴る。最早汚染されていない人の方が少ないのでは無いかと思える程に

立ちんぼをして何とか金を得ようとしている女性も、乞食をして小銭を得ようとしているガリガリの男も、店先で呼び込みをしている子供からすらも

 

現実。確かにあの人はそう言った。日本でヌクヌクしている自分では絶対に分からない現実

生きる為に汚染され、汚染されねば生きていけぬ。遠からず日本ですらこうなると言う現実

そんな現実に打ちひしがれる事を、あの人は許容してくれない。俺にこの現実を受け入れて、先に進めと言っている

 

「君の作る機体が、こう言った事態を少しでも緩和出来ると願うよ」

 

「……そうですね、俺もそう願ってます」

 

恐らくは、どう足掻いても日本は侵攻される。ATを幾ら生産したとて、戦況にとっては焼け石に水でしかない

だからこそ、ATをとにかく早く増産したかった。水をかけ続ければ、焼け石はただの石へと戻るのだ

もっと単純に。もっと簡単に。戦場の歩兵全部がATに乗れるくらいに。そんな考えを決意しながら、俺達は集合場所へと足を進めた

 

─────────────────────

 

「いやー、良かった良かった。直ぐに話がついたよ。買取りを提案しただけで目の色変えてきたし」

 

何処で買ったのやら、中華風の扇子で顔を仰ぎながら肉まんを頬張る狂人はホクホク顔で上海を楽しんでいる

今までガイガーカウンター片手にぶらついていたのがアホらしくなるが、それでもあの決意だけは変えてはならない。多くの人を救う為に作るのだ

 

「けど、あくまでコレは開発局が予算から買う物だ。結構無理して捻出する。……その意味は分かるよね?」

 

「分かってますよ。重工になったらそっちの要望は聞き入れます。……親父にバレたら殺されるなあ」

 

名義上、鈴木工場は親父の名義だ。だが現在計画している重工計画の名義は俺である。親父には早々に北海道に逃げてもらう計画も含めて話し込んであり、この狂人と俺は共犯者だ

電子処理されていない、ただの書類なんて言うのは幾らでも改竄が出来る。大きな渦に飲み込まれていく感覚ではあるが、これが神様の望みなのだから仕方無い

せめて親くらいには生きていて欲しい。結局のところ、未来を知る俺の唯一の願いは、そんな小さな物だったのだ

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