Side ココア
私、保登心愛はもうすぐ高校生になる15歳。今は進学先の高校がある街で、下宿先を探しつつ散策しています。
木組みの家と石畳の町並みがお洒落で、歩いていてもとっても楽しいのですが……、迷子かもしれないです……。香風さんというお宅に下宿するのですが……どこにあるんだろう? そんな中、私の目に留まった一軒の喫茶店。その看板にはコーヒーカップとウサギがモチーフになっていて、店名は
『rbbit house』
だそうです。ウサギ。きっと中にはウサギがいる!! せっかくだから、ちょっと休んでいこうかな。重厚感ある趣のドアを開けると、カランカランというベルの音がお迎えしてくれる。
「うっさぎ~うっさぎ~♪」
ウサギをモフモフしながらコーヒーが飲む。想像しただけでも笑顔になっちゃうよ。楽しみだな~。ウサギの歌を口ずさみながら、店内へ。
「いらっしゃいませ」
そう言って出迎えてくれたのは中学生くらいの小柄な女の子。お店の制服であろう青の格好が、髪の色ともマッチしていて、すごく可愛い。それと、その女の子の頭に乗っている白い毛玉。なんだろう、アレ? ていうか、ウサギ。ウサギがいない!!
「あの、どうかされましたか……?」
もしかしたら隠れているのかもと思って辺りを見回していると、女の子が戸惑いながら質問してきた。だから素直に聞いてみた。
「ウサギがいない!?」
「………(なんだ…この客)」
女の子は凄く怪訝な目をこっちに向けています。これがいわゆるジト目というものでしょう。それはさておき、やっぱりあの白いもじゃもじゃが気になるのです。
「……もじゃもじゃ」
「……は?」
「あ、いや、その……」
あ! 声に出てた!?
「これですか? これはティッピーです。一応うさぎです」
えっ!? その白いもじゃもじゃが、ウサギさんなの!? だって耳は短いし、それにまん丸な体だし。あ~でも、モフモフしたら気持ち良さそう。そう、モフモフできるんだったら、どんな動物も大歓迎だよ!
一先ず落ち着いて、席に座った私に女の子が聞いてくる。
「ご注文は」
「そのウサギさんで!」
「非売品です」
切り返しがあまりに早かった。でも、負けられないよ!!
「……せ、せめてモフモフさせて!」
勢いよく椅子から立ち上がってお願いすると。
「コーヒー1杯で1回です」
「じゃあ3杯でっ!!」
「……かしこまりました」
待つことおよそ数分。私の目の前には注文した3杯のコーヒーが置かれている。さて、せっかく頼んだんだもの、しっかり味も満喫しないとね! シンプルなデザインのカップを口元へ。いい香りが鼻腔をくすぐって、ちょっと幸せ。
「この上品な香り! これがブルーマウンテンかー」
「いいえコロンビアです」
……あれぇ? ま、まぁ気を取り直して2杯目を頂こう…。
「この酸味……キリマンジャロだね」
「それがブルーマウンテンです」
そ、そんなぁ…。 こ、今度こそ。最後だし、きっと当たるよ!
「安心する味! これインスタントの……」
「うちのオリジナルブレンドです」
……ご、ごめんなさい。まぁ、“兎”にも角にも。お、上手いこと言っちゃったかも! ティッピーと呼ばれていたウサギさんをモフモフする権利をもらったので、私は早速ウサギさんを抱っこしてみた。凄い……温かさともじゃもじゃの奥のふわふわ。モフモフのし甲斐があるね!
「はぁ~もふもふ気持ちいい~。いけないよだれが……」
「のおおおおお!」
……のおおおおお?
「……今このウサギ叫ばなかった?」
「気のせいです」
おかしいなあ、でも今はモフモフすることが最優先!
「それにしてもこの感触癖になるなあ」
「ええぃ早く放せ小娘が!」
……小娘? 今絶対に小娘って言ったよ!
「何かこの子にダンディな声で拒絶されたんけど」
「私の腹話術です」
「腹話術!?」
「そんなことより早くコーヒー全部飲んで下さい」
そっかぁ、腹話術かぁ……。でも確かに喋ったような気がするんだけどなぁ……。まぁ、いいか。それより、道を聞いた方がいいよね。
「私ね、春からこの町の高校に通うの」
「はあ」
「でも下宿先を探してたら迷子になっちゃって…。香風さんちってこの近くのはずなんだけど知ってる?」
窓の外から視線を女の子へ戻す。すると、女の子は目をまんまるにしてこっちを見ていた。え? 私、何か変なこと言ったかな?
「……うちです」
「……え?」
「だからうちです。うちが香風です」
「えっ!?」
ま、まさかそんなことがあるなんて! たまたま立ち寄ったこのお店がそうだったなんて!!
「凄い! これは偶然を通り越して運命だよ!」
「…………(いきなり運命感じられた…)」
かくして私は無事に下宿先に辿り着くことが出来たのです! ふぅ、良かったよぉ。
「私はチノです。ここのマスターの孫です」
「私はココアだよ。よろしくね、チノちゃん」
チノちゃんかぁ、可愛い子だなあ。おっと大切なことを伝えてなかったや。
「あと高校の方針でね、下宿させて頂く代わりに、その家でご奉仕しろって言われてるんだよ」
「うちで働くということですね」
喫茶店ってどんな仕事するんだろう? やっぱりコーヒーを淹れたりするのかなぁ。接客もいいよね。そんな感じでいろいろと考えていたら、
「といっても家事は私一人で何とかなってますし、お店も十分人手が足りてますので……何もしなくて結構です」
いきなりいらない子宣言されちゃった…。衝撃的!! 食い下がったり泣き付いたりした挙句、なんとか落ち着いて、ここのマスターに話をしなければならないと思い至った。
「そうだ、ここのマスターさんはどこ? ご挨拶しておきたいんだけど……」
「祖父は去年……」
少しトーンの下がったチノちゃんの声。あっ、もしかしてお爺さん亡くなって…。私ったらすごく空気を読めない発言を…。じゃあ、もしかして…。
「そっか、今はチノちゃん一人で切り盛りしてるんだね…」
私より年下なのにしっかりして!
「いえ、父もいますし、バイトの方も2人いて…」
チノちゃんが何か言っているけど、きっと本当は寂しいんだ。だから! 私はチノちゃんのお姉ちゃんにならなきゃ! 思い切りチノちゃんを抱き寄せる。少しコーヒーの香りが漂ってくる。
「私を姉だと思って何でも言って!」
「あ、あの……」
「だからお姉ちゃんって呼ん」
「じゃあココアさん。早速働いてください」