「じゃ。おつかれぇ」
「お疲れ様だ」
「ばいばーい」
「また明日、です」
モカとリゼがココアとチノに別れを告げて帰路につく。空は茜色に少しだけ濃紺が混じり、モカとリゼを夕日が照らす。
モカがリゼと腕を組もうとするのを、リゼが拒みながら締めようとするのを、さらにモカがいなす。そんな風に歩くこと十数分。鉄製の門が見えてくると、モカがスキップとともにリゼより数歩先を歩く。そして、
「お帰りなさいませ、お嬢様」
恭しく一礼するモカの仕草は、完全にメイドのそれだった。
「あぁ、ただいま。モカ」
喫茶ラビットハウスにアルバイトとして働く亦里萌佳の本業は、天々座家に仕える、リゼ専属のメイドさんなのだ!
一方ラビットハウスの居住スペースでは、ココアとチノが夕飯の仕度に取り掛かっていた。
「夕飯はシチューでいいですか?」
髪をポニーテールに結い上げ、エプロンを身に着けたチノがココアに問いかける。ココアは頷きながら、
「野菜を切るのは任せて!」
と言って、冷蔵庫から野菜を取り出す。二人がキッチンに並びながら調理を進めると、
「なんかこうやってると姉妹みたいだね♪」
ココアのテンションが少しずつ上がっていく。花が咲くような笑みをチノに向けるが、
「はぁ……」
反応は薄い。少しだけ思案顔を浮かべたチノがぽつりと、
「(姉妹……か)ココアお姉ちゃん……ですね」
そう呟いた。この一言がココアのハートを射抜き、
「もう一回言って」
右手にピーラー、左手に人参を握ったまま頬を染めて待ち続けるのだった。
「………………」
「お願いもう一回」
だがしかし、チノがお姉ちゃんと呼ぶことはなかった。
夕食を終え少し時間が経ち、チノはお風呂に入っていた。そこにココアが突入する。
「チノちゃーん、お風呂入ろ! ココア風呂だよー!」
「ココア風呂!?」
疑問符を浮かべるチノに入浴剤の小袋を見せる。粉末をサラサラといれると、ふわりと甘い香りが広がる。チノの隣に座ってお湯に浸かるココア。
「ね、今日は一緒の部屋で寝てもいい?」
「一緒に……ですか?」
「うん♪ 一杯お話したいことあるし」
にこりと微笑むココアにたじろぐチノ。
「ふ、不束者ですがお手柔らかに……」
「へ?」
ぶくぶくとお湯に沈みながらチノが言ったセリフをココアが疑問符を浮かべる番だった。
しばらく浸かって洗いっこを済ませた二人。パジャマに着替えてココアはチノの髪を乾かす。チノの父はドライヤーを使わないため、ドライヤーはチノの部屋に置かれている。
ココアはドライヤーの風をあてながら、指でチノの長い髪を梳く。ふと、ココアがチノに問いかける。
「そういえば、ティッピーは?」
「父と一緒です」
目を細めながら、ココアに髪を好きにさせるチノ。もう十分に、懐いている様子がなんとも微笑ましい。
「そっかー。ぎゅーっとして寝たかったのになー」
「ティッピーは抱き枕じゃないですよ」
「じゃあチノちゃんぎゅーっとして寝ようかな」
にこりと微笑むココアを鏡越しに見て恥ずかしくなったチノは、膝に乗せていたうさぎのぬいぐるみをココアに投げつけるのでした。
所変わって天々座邸。セミダブルとも言えそうなくらい広いベッドにうつ伏せで寝るリゼ。形と大きさに恵まれた胸が、17とは思えないくらいに艶かしい。
……ただ、していることはあまりに子供だった。
「聞いてくれよワイルドギース。今日、新入りが入ってきてなー、こいつがなかなか変わったやつでさ」
リゼの髪色に近い色をしたうさぎのぬいぐるみ、ワイルドギース。
「練習用ラテアートが余りまくって大変だったよー。当分カフェラテは飲みたくない……」
そんな彼(?)に話しかけるリゼ。……一見クールな彼女の、意外な一面である。
「ってなにやってんだ私はー! 寂しくない。寂しくないぞー!」
ただ、話しかけてからその恥ずかしさに悶えるのが一連の流れなのだ。ベッドの上で少しじたばたしていると、ケータイが光っていることに気付いたようだ。
「ん、メール? あれ、ココアからだ」
営業が終わって着替える前にお互いの連絡先を交換したばかりなのだ。ココアからの初めてのメール。そこには、
「……あいつ、こんなの作っていたのか。明日からもがんばろう、か」
ラビットハウスの四人をラテアートで描いたものが、添付されていた。その写真をそっと待ちうけにしたリゼの笑顔を、こっそりと見つめるモカ。
彼女たちの夜はまだ長い。
どうしてこんなに時間が空いてしまったのか……。
言い訳はしません。二期が始まるまでにもう少し更新したいです。
受験生の身ではありますが、頑張りますのでよろしくおねがいします。