エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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聞いて…感じて…考えて…




プロローグ 
1-1


深き星海の底、多くの魂が眠るこの場所に男もまた『友』の最後の戦いを見届けてからは眠りに着いていた。

 

(全く、最後の最後までお前はやりたいようにやったな)

 

だが、そのあり方こそがアーテリスを救ったのだ。ならば、それでいいのだろう。

 

後はあいつが『宿題』をこなせるかどうかだ。

 

(まあ、あいつなら行くだろう。アゼムのクリスタルを持つ者なのだから)

 

 

星の命運を託したのだ。

アーテリスに今後どのような危機が訪れようとあいつは『投げ出さない』だろう。

そしてその全てをやり遂げた後、きっと必ず、再開する時に言われるのだろう。

 

『私も見たよ』

 

と。

きっと満面の笑みで、少し憎たらしい顔つきで。

 

なら、それを楽しみに待つとしようか。

少し羨ましいが仕方ないのだ、私はあいつに道を譲ったのだから。

 

そう思い私は再び星海の中で微睡へと戻っていく……

 

 

『シッテムの箱』へようこそ、ハーデス先生。

 

00Ⅱ

 

「……私のミスでした」

 

声が聞こえた。

 

「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」

 

頭にノイズが走り、『記憶』が流れ込む。

 

悲しい表情で銃を向ける少女

壊れた機械

 

それは私ではない誰かの記憶、この世界で起きてしまった悲劇。正しくこの世界における『終末』。

無論、私たちの経験した『終末』とは違う。

 

悍ましい怪物……『獣』がいるわけでもなかったが、それでも視た記憶からは『絶望』を感じ取れた。

再び見たい光景ではなかったが……

 

頭の中のノイズとそれによって引き起こされる頭痛から目を覚まし漸くその状態を把握した。

軍服の様な服を身にまとっていながら、されとて軍人とは思えない少女がおおよそ助かりようのない傷を負って座っていた。

 

「……今更図々しいですが、お願いします」

 

ここは現実ではない。

恐らくは精神世界か、それとも風景だけが変わった星海か。

 

「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」

 

私の混乱を意に帰さず、目の前の少女は話し続ける。

衰弱したエーテルで出来る事をしているのだろうか。

 

だが、その努力も虚しく再びノイズが走り、その言葉を聞き取ることが出来なくなる。

 

(時間切れのノイズか……つまり、この世界はこいつによって作り出された空間というわけか)

 

アーテリスで見るどの種族とも違う性質を持つ彼女がなぜ、そのような力を持っているのかまではわからない。

 

「大事なのは経験ではなく、選択」

 

「あなたにしかできない選択の数々」

 

「責任を負う者について、話した事がありましたね──ー今ならわかります──ー大人としての責任と義務──」

 

例え全てが聞こえなかったとしても、彼女が言いたいことは私にも理解はできる。

責任、義務、そして選択。

 

世界が分割されてから、私が歩んできた1万2000年もの期間……同胞を、友を、善き人々を蘇らせるための戦い。

それはオリジナルとして、そしてエメトセルクの座に就く者としての責任であり義務でもあり、己の選択でもあった。

そして、あいつに負けて道を、主役を譲り想いを託すという選択。

 

私の人生に当てはまる言葉でもあるのだ。

故に少女に語られるまでもなく、己が一番理解している。

後悔などはしない。

私の人生はそんな軽いものではなかった。

 

だが、それを理由に少女に説法を説くつもりもない。

これは彼女の終着点なのだろう。

なら、彼女もまた彼女自身の全てを込めているのだ。

 

「だから先生、どうか。聞いて……感じて……考えて……」

 

崩れ始める空間、薄れゆく意識の中でもはっきりと聞こえた。

彼女が何かを私に託そうとしている事、そしてあの負けず嫌いだが最後まで己の意志を貫き未来へと希望をつなげた最後の旧き人が言っていた言葉と同じ文言を。

 

「ヴェーネス……全くアゼムの座に就いた者たちは……」

 

ハイデリン──ヴェーネスを認めてはいるがそれでも、己の敵として戦った相手だ。

彼女の後継者にも、多くの面倒ごとに巻き込まれただけではない。

全てが終わったかと思えば、突然謎の空間に呼び出され目の前の少女から同じ言葉を言われるのだ。

恨み言の一つくらい言ってもいいだろう。

 

だが、私はあいつとの別れ際の様に微笑むことにした。

 

誰かに想いを『託す』、その大切さを知っているからこそ。

託されたものを投げだすなと言った私だからこそ。

 

『新しい人生』で何が起ころうとも、受け止めてやるさ。

 

 

00Ⅲ

 

「……い」

 

「……先生、起きてください!」

 

先程の包み込むような優しい声色と違う、鋭く賢い印象を受ける声色が私の耳元で聞こえる。

 

寝ていただと? 

 

本来の想定とは違う。

通常、星海で魂が浄化され新たな生を受ける……つまりは『転生』する時は赤子から始まるはずだ。

それに、『先生』……生涯で言われたことはおそらくない肩書で起こされたが赤子がする仕事ではない。

 

正直なところこのまま狸寝入りと行きたいが、そうもいかんらしい。

ゆっくりと目を開ければ、先ほど見た服装とよく似た格好に紺の髪色、メガネをかけた気の強そうなエレゼンに似た少女が、こちらの様子を窺うように、見つめていた。

最も、エレゼンの頭に輪っかなど浮いていないのだが。

 

「……少々待っていてくださいとは言いましたが……お疲れのようですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは」

 

呆れながらそう言われても、私の知ったことではない。

というより、私が知りたい。

なぜ、椅子で寝ているのか。

そして、見るからに子供ではない目の高さで『転生』しているのかなど。

 

「……夢を見られていたようですね。起き抜けに申し訳ありませんが、目を覚まして、集中して頂けると助かります」

 

夢……

まぁ星海で視ていたものをそう捉えることもできるが、だからと言って仕事を放棄して寝ていたわけではない。

むしろ逆だ。

全てをやり遂げて眠りについていたら、謎の空間に呼び出され今度はたたき起こされたのだ。

 

恐らく私の険しい顔に気が付いたのだろう。

少女は少し申し訳なさそうな顔になった。

 

険しい顔は経験的にそうなったのだ。

別に今の話で表情を変えた覚えはない。

と抗議したいものだ。

 

「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします」

 

殊勝にも一から説明してくれると言うのだ。

一度されたようだが、記憶にないものは仕方ない。

黙って聞くとしよう。

 

「私は七神リンと申します、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生……のようですが」

 

学園都市、キヴォトス、連邦生徒会、先生のよう……

 

全く分からんというのが本音だ。

分割された世界にこのような文明を築いたという話を同志から聞いた覚えはない。

なら、アーテリスの未来か? 

そんなはずはない。

 

私が目を覚ます時間で見れば、そこまで過ぎてはいない。

となれば、これはアーテリスの外……宇宙のどこかにある惑星と捉えるべきか。

 

「……ああ。推測系でお話ししたのは、私も先生がここにいらっしゃった経緯を詳しく知らないからです」

 

私の希望はいともたやすくへし折られた。

説明をするというから黙って聞いていたのに、詳しくありませんと言われたときの気分はどうだ。

あいつから面倒ごとを押し付けられたときに近い感覚だ。

 

「つまり、お前は私がどうしてここに居るのかについて説明できないと?」

「はい。……混乱されてますよね。分かります。こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください」

「遺憾なのは私のほうだ……ああ、厭だ厭だ……」

 

思わず口癖が出てしまう。

年端もいかぬ子供の前で大の大人……それも1万2000年以上生きていた存在の態度として相応しくないが仕方ないだろう。

いつだって説明がない事件に巻き込まれてきたのだから。

 

「……心中お察しします」

「いや、気にするな。お前に言ったんじゃない……いつもの調子で漏れただけだ」

 

よくよく見れば目の前の少女……七神リンと言ったか。

彼女も冷静さを取り繕っているだけだ。

つまり、正直なところ彼女だって巻き込まれた側なのだろう。

責めても仕方がない。

 

お互いの混乱が奇妙な連帯感を生みだしたのか、リンは少しだけだが柔らかくなった態度で続けた。

 

「どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない事があります」

「寝ている所を無理やり起こされたんだ、何もなしじゃ困る。それで、わざわざこの私を呼んだのだ、とても重要な事なのだろうな?」

「学園都市の命運をかけた大事なこと……ということにしておきましょう」

 

『命運』とは……

『命運』の為に戦い続けた私に、また覆いかぶさってくるのか。

いい加減、少しくらい眠りについてもいいだろう。

あの時だって、エリディブスに起こされて禄に眠れずそのままあいつと戦って今度はハラハラしながらその冒険を見続けたんだ。

もし、運命があるというなら私はどう足掻いても休めない人なのかもしれない。

 

まぁいいさ。

黙ってついていこう。

 

席から立ちあがり、自分の目線の高さで改めて確信する。

この体は赤子ではない、アシエンとして活動していた時とほぼ同じ目線である。

ちょうどよく鏡がおかれていたので、確認した。

 

服装こそ黒いジャケットに黒いベスト、黒いシャツ、そして黄色いネクタイとエオルゼアらしからぬ恰好ではあるが、その顔は間違いない。

若き頃のソル・ゾス・ガルヴァス、私が憑依しその死後もあいつと決着をつけるその瞬間まで使っていた男の姿だ。

 

この男の顔は、古代人の時の私に何となく似ているのが憎らしい。

だが、まあいいだろう。

別に嫌いな顔ではない。

『なりそこない』たちを皇帝として導いたときの姿だ、『先生』とやらを演じるにはちょうどいいのかもしれない。

 

「先生、どうかされましたか?」

「いや、なんでもない」

 

鏡の前で自分の顔や服を触って確認している私を見て、疑問を感じたであろうリンが声をかけてきたがわざわざ話すことでもない。

これは私の顔じゃない。

なんて言われたら更に混乱するだけだろうからな。

 

エレベーターにリンと共に乗り込み、上へと昇っていく。

そしてようやく謎に包まれていたキヴォトスとやらの姿を見る事が出来た。

 

なんて透き通った……青い空だ。

空に模様が走ってはいるが、それでもこれほどまで美しい青空をじっくりと眺めたことは少ないかもしれない。

それに技術の進歩も目を見張る部分がある。

もちろん、表面だけでは本当に進んだ技術かどうかまではわからないが……

ガレマール帝国首都ガレマルドに負けていないどころか、道などの部分はキヴォトスの方が綺麗に見える。

 

「『キヴォトス』へようこそ、先生」

 

未知の世界を興味深く見る私にリンが声をかける。

もし許されるなら今すぐ『テレポ』を使って各地を見て回りたい。

だが、それは許されそうにないな。

 

「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。これから先生が働く場所でもあります」

 

これが、目の前の都市が学園の集合体だというのか。

学者たちが集ってできた町、オールド・シャーレアンとはまた違った建築様式だ。

これはあいつにも自慢できるかもしれんな。

 

「きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが……でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう」

「その点については適任だ。なんせ、様々な場所に赴いてはその地で活動してきたからな」

 

嘘ではない。

アシエンとして数多くの場所に訪れ、新しい土地で何かをする事については慣れている。

それが『先生』という立場は初めてだが。

 

「だが、わからん。どうして、お前は見ず知らずの得体のしれないこの私を信じているんだ?」

「答えになっているかわかりませんが……あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね」

「全く答えになっていないぞ……」

 

連邦生徒会長という人物はこの私を知っているのか? 

百歩譲って知っている事については保留しても、どうやって星海から私の魂を引き上げ実体化させたのか。

しかも、ソルの肉体に。

 

考えれば考えるほど疑問が湧き上がるが、それをリンが知っているとも思えない。

 

「……それは後でゆっくり説明することにして」

 

連邦生徒会長という存在については説明して貰えそうだとは感じた。

アシエンも今の生きるアーテリスの民からすればその目的から正体までわからない恐ろしい秘密主義の集団だっただろうが、目の前の連邦生徒会という存在も私からすれば秘密主義的だ。

 

「着きました」

 

チン、と到着を知らせる分かりやすい音がなりエレベーターの扉が開く。すると、既に大勢の子供が屯し騒いでいる空間に到着する。

なるほど、待合室のような場所へと案内されたわけだ。

足早にエレベーターを降りたリンに続く。

もう少し空を見ていたかったが仕方ない、先に仕事を片付けて昼寝がてら空を見に行くとするか。

 

「ちょっと待って! 代行! 見つけた、待ってたわよ! 連邦生徒会長を呼んできて!」

 

リンを見かけるや否や、やや青みの濃い紫色の髪色をした少女がハキハキと文句を言いにきた。

 

連邦生徒会長……またこの言葉だ。

やはり立場としては偉い……ますますいつ接触したのか不明である。

そしてもう一つ。

手に武器を持っているではないか。

銃である事くらいはわかる、私だって銃を使った事はあるからな。

だがそれはアーテリスでみた銃の中ではあまり類似したものがない。

銃を専門に使う事ができたあいつと違って私の専門はあくまで魔法なので深くまではわからないが……それでも血の気が多い事だ。いや待て、この場の全員が銃を持っているじゃないか……

 

もしかしたらアーテリスよりもさらに治安の悪い場所に呼び出されたのかもしれない。

 

「……うん? 隣の大人の方は?」

 

空間の比率で見れば、子供ばかりで私のような大人はいない。

故に嫌でも目につくのだろう。

特にこの体の背丈は高いからな。

 

「主席行政官。お待ちしておりました」

 

今度は背が高めで黒髪……ついでに狙撃銃か。

これならわかるぞ。

確かあいつが旅の途中で使っていたな。

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

今度の少女の得物は拳銃か。

一番わかりやすい。

 

にしても、驚異の女性比率だ。

少年兵ならぬ少女兵という訳か。確か漆黒の王狼が拾った子供たちを使った計画があったな……

全く我が孫ながら凄まじい事を考えるものだ。

今更子供が武器を持って戦うという光景に驚きはしないが、それでもあまり気分の良いものではない。

私とて、同胞の未来ーひいては子供たちの為に戦ったのだ。

無論、その過程で多くの『今を生きる者』の子供が死んでいた事も知っているが。

 

「ああ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」

 

小声だが、傍に居る私にははっきりと聞こえる声で今の現状を評価するリンを見てやはり何か近いものを感じた。

私も何度あいつらに言ったか。

『嫌だ! 断る!』

『ああ、厭だ厭だ……』

『また、面倒ごとか!! 何度言えばわかるんだお前は!』

ある意味ではお約束の対応だったが……

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん」

 

私も同じ立場ならおそらく同じように言うだろうな。

もう少し芝居がかっているのかもしれないが……

にしても、その歳でその性格では苦労するだろう……主に組織内での立ち位置に。

 

「こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています」

 

何とも懐かしいものだな。

随分と昔の……使命の為に感情を捨て去ろうとしても必ずと言っていい程蘇る『雑念』。

他人が私と同じ対応をしているというのは見ていて存外面白い。

 

「今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」

「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ! 数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ! この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

 

ああ……どこへ行こうが『人』は変わらないな。

むしろ、暁の連中が特別に変わっていたのだろう。

問題があれば率先して、誰かを助ける『誰か』になれる存在。

基本的に人は『誰か』になろうとはしないし、『誰か』を求め続ける。

 

流石に子供に求めるのは酷か……

 

 

「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したとの情報もありました」

「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

……聞き間違えか? 2000%だと? 

それはいくら何でも統治機構が機能していなさすぎだろう。

しかも、戦車やヘリコプターときた。

もしアーテリスで魔導アーマーやその他の兵器の不法流通が2000%以上も増加したら。

考えたくもないものだ。

 

「…………」

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの? 今すぐ会わせて!」

 

実質的な国のトップが何週間も不在……前言撤回だ。

この少女が怒るのはもっともだ。

流石に不在ならすぐに声明を出すべきだろう。

それを何週間も放置とは褒められたものではない、いやむしろ怒られるべきだ。

なに? お前も病気で死んで後継者を決めなかっただろ、だと? 

 

あれは計画のうちだ。

この無計画な事態とは違うぞ。

 

「……連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

「……え!?」

「……!」

「やはりあの噂は……」

 

おいおい……

この私を『先生』という役職に推挙した人物が行方不明だと? 

なら、どうやって私が来たことを聞き出すのだ。

 

「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした」

「それでは、今は方法があるということですか、主席行政官?」

 

この流れはまず間違いなく嫌な流れだ。

何度も経験したぞ……

 

「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」

 

リンの発言と同時にその場にいた全員が私を見る。

それみろ!と叫びそうなのを、眉間に皺を寄せながらぐっと堪える。

 

「ハァ……本当に、思った通りの答えだ」

 

『助けて、エメトセルク!』

 

頭の中であいつの声が聞こえた気がした。

本当に……全く……

 

星の命運を懸けて戦った後は見ず知らずの少女たちを導く『人生』。

人を導いた事はあるが、子供ばかりの国ではない。

私から見たら若い者たちばかりではあったが、それでも成熟した大人もいたのだ。

だが、今回は今までとは違う。

 

アシエンでも、古代人でもなく、一人の『私』として向き合えという事か。

ハーデスとして、エメトセルクとして。

 

「この方が?」

「ちょっと待って。そういえばこの先生はいったいどなた? どうしてここにいるの?」

「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」

 

三者三様といった反応だが、まぁ私が『先生』に見えるかと言われたら見えないだろう。

 

「はい。こちらの先生は、これからキヴォトスで働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です。……問題は私自身も先生の名前を存じ上げない事ですが……」

 

私の名前を知らないのに私が選ばれたとわかるのか? 

外見の特徴でも伝えていたのだろうか? 

それにしても連邦生徒会は少し穴だらけ過ぎないだろうか……

 

「行方不明になった連邦生徒会長が指名……? それに、先生の名前もわからないなんて……ますますこんがらがってきたじゃないの……」

 

こんがらがるだけで済ませられる目の前の少女は中々だな。

私など右も左もわからんぞ。

 

とは言え、こうなっては名乗るべきだ。

 

「ハ……いや、エメトセルクと申し上げる」

 

光あふれる世界であいつにしたときと同様に丁寧に、されとて芝居がかったお辞儀と共に『かつての』座の名前を名乗る。

ハーデス、それこそが我が真名。

それを名乗ろうとしたが、踏みとどまった。

その名を知る者はごく少数の、『認めた』者たちだけでいい。

 

もしこの世界で名乗るに相応しい相手を、認められるほどの輝きを持つ者がいたなら名乗ろう。

今は……これでいい。

 

「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……い、いや挨拶なんて今はどうでもよくて……!」

「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」

「誰がうるさいって!? わ、私は早瀬ユウカ。覚えておいてください、先生!」

「ミレニアムサイエンススクール……随分と興味深い名前の学校だ。お前の名前も覚えたぞ、ユウカ」

 

『先生』単品では何というか締まりがない気がする。

アシエン・エメトセルクをアシエンと呼んでいるようなものだ。

ま、そんな事は置いておくか。

 

サイエンス……科学……こちらの世界にも興味深いものは多そうだ。

それにしても、このユウカと言う少女は喜怒哀楽が激しいな……

何というか、これまた似たものを感じるぞ。

面倒ごとを押し付けられたときの私に。

 

「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」

「連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることも可能で、各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行うことも可能です」

 

つまり私は何の苦労もせずに、皇帝の様な権力を手に入れる事が出来たというのか? 

もちろん、法を整備できるかまではわからないがそれでも破格の権力だ。

ラハブレアの爺さんが聞いたら泣いて驚くだろうな。

なんせ、他人の体に憑依せずとも勝手にその時代の権力者になれるのだから。

 

「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……シャーレの部室はここから約30㎞離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に「とある物」を持ち込んでいます」

 

また『分からない』だ。

この組織、本当に大丈夫なのか? 

十四人委員会ですら統制が取れていたぞ……

約一名勝手な事をする座がいたがな。

 

リンは手元に持つタブレットで目標となる地点までのルートを指し示す。

30kmか。

この場に誰もいなければ『テレポ』で直ぐに行くこともできるが……

流石に今この場所で、新人の先生が目の前から消えましたとなると更に混乱を呼ぶだろう。

 

つまり、リンやユウカたちに案内してもらうしかないわけだ。

ま、付いていくと言うのは悪いことばかりではない。

人となりを知れるいい機会だ。

 

「先生を、そこにお連れしなければなりません」

 

ほら、見ろ。

案内を買って出てくれた。

再びタブレットを操作し、今度は通信を行っている。

なんて便利なんだ。

 

「モモカ。シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」

 

ヘリ……おそらくこちらの世界でヘリと呼ばれるものは人を運ぶものなのだろう。

戦闘兵器のための物ではなく、電車などに近いという事か。

にしても手際がいいものだと感心しているとホログラムが浮かび上がる。

技術については驚かされてばかりだ。アラグ帝国の様な技術を持っているという訳か。

 

『シャーレの部室? ……ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?』

「大騒ぎ……?」

『矯正局を脱出した生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』

「……うん?」

『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?』

 

雲行きが怪しくなってきた。

まさかな? 

 

『それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものがあるみたいな動きだけど?』

「……」

『まあでも、とっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリー来たから、また連絡するね!』

 

ぷつ、と余りにも軽い音と共に通信が打ち切られた。

なんて無慈悲で残酷なのだろうか。

と言うよりもだな……

 

「…………っ」

 

怒りか想定外の事態への動揺か。震えているリンをちらりと横目で見る。

分かるぞ、その気持ち。

仕方ない、ここはリンが冷静になれるように……と言うより私の鬱憤も含めて一芝居うってやろうじゃないか。

 

「昼飯だと……? 自分たちが所有している建物が、武装集団に占領されたのによりにもよって昼・飯・だ・と!? どうなっているんだ、連邦生徒会は……」

 

大きな声を上げ、大げさなジェスチャーで頭を抱える私を大勢が驚いて見る。

リンですら、先ほどまでの表情から驚きに変わっている。

これでいいだろう。

誰かが己の怒りを代弁してくれた時、存外冷静になれるものだ。

 

「……先生、ありがとうございます。……少々問題が発生しましたが、大したことではありません」

 

私の意図を理解したリンが感謝と心配はないと伝えてくる。

それでいい、お前のような奴は落ち着いて采配を揮う方が向いているだろう。

大勢の人を判じてきたのだ、直ぐにわかるさ。

 

だが、私は一つだけ忘れていた。

リンの問題解決手段が他の生徒に向くことを。

悪だくみした顔で、ユウカたちを見ているではないか。

 

「……?」

「な、何? どうして私たちを見つめてるの?」

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」

「……えっ?」

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

「ちょ、ちょっと待って!? どこに行くのよ!?」

 

リン、お前もか……

そう言いかけた言葉を呑み込んで私もついていく。

ま、いい機会ではないか。ユウカたちからしたら溜まったものではないかもしれないが、私からしたらちょうどいい。

 

エメトセルク『先生』として、この世界を視て……そして、判じよう。

あいつが救った宇宙の、其処に生きる者たちの未来を。

 




エメトセルクがかつての青春を思い返したり、またアゼムに自慢できるといいなと思いました。

皆さんのイメージするエメトセルクだといいなぁ

今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)

  • 原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
  • 変則(エ→パ1,2→兎)
  • その他(コメントでお願いします)
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