が、それは実に無知で愚かな判断だと言えるだろう。
『便利屋68』との出会いは決して感動的なものでも、魅力的なものでもなかった。
ラーメン屋で突然、私に飛びついてきた陸八魔アル──社長をみて思ったものだ。
「なぜこんなに目を輝かせているのか」
と。
後に私は彼女たちとの交流を経て考えを改めることになる。
彼女たちは、善良ながら悪に憧れる無垢な少女と、そんな少女に惹かれその夢を共に歩める少女たちの集まり、『善き人』たちであると。
そして、そんな『善き人』が私の『アウトロー』な一面に憧れを持っている事が実に心苦しい。
だから、どうか。
これが過去に届くのならば。
白いシャツを着て、眉間の皴をしっかりと隠しておけ。
00Ⅰ
「ハードボイルド……だと?」
「そう! あなたの恰好、立ち振る舞い、そして何より、そのオーラ!! まさにハードボイルドだわ、何ならアウトローさも感じるもの!! お仕事は何をしてらっしゃるのかしら!!」
「ああ……? えぇ……?」
何なんだこの小娘は!
人を見るなり、歓声を上げて詰め寄って言葉の弾丸を浴びせられている。
オーラだと、まさかこいつ私が『何か』をしようとしたのが分かったのか?
いや、そんなはずはない。
ホシノに『テレポ』を見られて以降はかなり警戒して察知され辛い方法にしている。
だが、もし見たのだとしたら?
駄目だ、対応方法がわからん。
見たのなら誤魔化せんだろうし、生徒な以上手荒い手法は使えない。
かと言って素直に話すのも違う。
「その……褒めているのか?」
「勿論よ!!」
褒めているのか。
しかし、アウトローの意味は社会秩序からはみだした者、つまりは無法者。
私はアウトローだったのか……?
むしろ皇帝と十四人委員会は社会秩序側だ……ああ、アシエンは確かに分割後の世界では社会秩序からはみだした者ではあるか、命の理すら超えていたのだから。
だが、どうもアウトローと呼ばれて嬉しくない。
いや、言葉の意味を抜きにしてもだ。
アーテリスではアウトローを自称する者は多くいたがそのどれもが、ポンコツだった。
故に、私もそのポンコツの仲間入りなのかと。
逆にハードボイルドについては、まあ当てはまる部分もある。
非情,非感傷的,シニカル……非感傷ではないな、むしろ感傷的だがそれ以外はアシエン時代ならそうだし、シニカルについては皮肉な態度をとる様だからそうだな。
「ああ……ならまあ、いいか」
「ええ! そ、それで、お仕事は何を?」
「アルちゃん、その辺にしときなよ! おじちゃん困ってるよ」
「あ、ご、ごめんなさい! つい興奮してしまったわ……」
いや興奮して喜んでいるのは別にいい。
だが、まただ。
またおじさん扱いじゃないか……
もう半ば諦めの領域だ。
否定しようにも言われ過ぎて、否定することに疲れ始めた。
「……すまないが、会計を済ませてもいいか? この後、
「っと、私たちもこの後
なんて善良な心の持ち主なんだ。
残念だが、片方の用事しか上手く行かないのが本当に心苦しいが……
せめて、4人分の飯代でどうかこらえてくれよ。
00Ⅱ
結局、アルと呼ばれた少女のせいで私は心を視る事は出来なかったが……
『もう一つ』はどうにか出来た。
そのおかげで傭兵たちの兵力もわかり、それに対する対策も打てた。
私がここまで手を出すのもどうかと思ったが、『相手』があまりにもしつこい以上少しくらいゲスな手段を使っても怒られないだろう。
だが、あの4人……
確かにヘルメット団よりは手練れだな、只の不良ではない。
しかしそれでも負ける事はない、それも絶対的に。
地の利はこちらにあり、敵の武器も把握している。
マシンガン、スナイパーライフル、ハンドガンとショットガン。
こちら側よりも、武器の種類が豊富だが逆に盾役がいない。
よって、攻撃役がフォーカスを受けてしまうので攻撃だけに集中できない。
なら、こちらの構成を崩せはしないだろう。
何なら、数も我々の方が
問題は、二度と来ないレベルで倒せるかどうかだ。
ラーメン屋での口ぶりではお金がないらしいから、これに失敗すれば報酬すら振り込まれないだろう。
となれば、持久力でこちらが勝れるはずではあるのだが……そう簡単に終わる気はしない。
「うへ~。先生、先に帰るなら一言言ってよぉ」
ああ、こちら側の5人もぞろぞろ帰還したか。
先に来たのがホシノで助かった。
「ラーメン屋に来た集団、お前どう見た」
「狙いは私たちだね」
「ああ、それに対する手を打った。他の奴に聞かれたら話を合わせてくれ」
「……また、先生にしか使えない術?」
「ああ」
「どうして先生は、そこまでするの?」
「それは……前に話した理由と変わらない。だから今は『化物』と思われていても構わない」
「……『化物』。流石に先生をそこまでは──」
「先生も、ホシノ先輩も速いですよー」
ちょうど残りの4人も戻って来た為、必然的に切り上げざるを得ない。
逃げずに向き合うさ、安心しろ。
そして、今戻った4人には申し訳ないが休む日はないぞ。
「校舎より南15km地点付近で大規模な兵力を確認!」
「まさか、ヘルメット団が?」
「ち、違います! ヘルメット団ではありません!」
「……傭兵です! おそらく日雇いの傭兵!」
「へえー、傭兵かあ。結構高いはずだけど」
まあ、高かっただろうな。
これから払う事になる『授業料』よりは安いものだが。
それよりもきちんと機械で『補足』されて助かったよ。
雑に用意したとは言え私がやったんだ、それくらい『誤魔化して』もらわないと困る。
「これ以上接近されるのは危険です! 先生、出動命令を!」
「先に言っておく、傭兵は気にするな。お前たちがするのは4人の相手だけでいい」
事前に少しだけ話をしたホシノ以外は当然、理解できない顔をするが、気にすることはない。
「さてせっかく、違う顔ぶれが来たんだ。挨拶くらいはしてやらないとな」
確かにこれは……アウトローかもしれないな。
00Ⅲ
「あれ……ラーメン屋さんの……?」
「ぐ、ぐぐっ……」
「誰かと思えばあんたたちだったのね!! ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」
「あははは、その件はありがと。それはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ」
「残念だけど、公私はハッキリ区別しないと。受けた仕事はきっちりこなす」
ほう。
仕事に対してきちんとした向き合い方をしているじゃないか。
かつての私は……きちんと区別できていたかと言われたら怪しい部分もある。
しかし、基本的にはその理念は正しいと思う。
「困りますねぇ、お客様。せめて一言ご連絡いただかないと、歓迎の準備がまだなんですが」
だからこそ私もこいつらの『敵』でないとな。
残念だが、この場ではお前たちと刃を交える必要がある。
そうしないと、お前たちだって『仕事』にならんだろう。
「あ! さっきのハードボイルドな人!! どうしてここに!?」
「どうしてって、私はこいつらの顧問だからな」
「ええぇ!?」
「おっと失礼、申し遅れたかな。『シャーレ』の先生にしてアビドス対策委員会の顧問を務めるエメトセルクと申し上げる」
まさにこのタイミングこそ名乗りに相応しい、故に大げさにされど丁寧に一礼をする。
約一名「カッコいいッ……!」と喜んでいるが……
まあ、これから起きる『劇』の分は楽しんでくれたらいい。
「さて。先に言っておくが、帰る気はないか? 私だって、褒められない手は使いたくないんだが……」
「ふふふ……例え、あなたの頼みでもそれは無理よ!」
「……本当に?
「あら、意外と交渉するのが好きなのね。けど……」
自らの髪の様に赤い銃をこちらに向けて吼える。
「仕事よ」
いい顔だ。
認めよう、お前もまた『意志』を貫ける者なのだと。
なら、見せてやろうじゃないか。
お前がアウトローと言った男……その一面を。
「総員! 攻撃!」
アルの響き渡る攻撃命令と共に、傭兵たちは攻撃を──
開始しなかった。
「ちょっと! 攻撃よ!? ……えっ!? どういうこと!?」
「……裏切った?」
「シロコ、傭兵だけに向けてドローンのミサイルを撃て」
「ん、了解」
事情を話していないにも関わらず躊躇う事なく命令を飛ばしたシロコによってドローンは種明かしの為の花火が放たれ無事、『傭兵』だけを爆風が覆う。
そう、それでいい。
「う、うわわわわ!」
「なんてちからだー」
……もう少し力を入れるべきだったな。
いくら何でも棒読み過ぎる気がするが、始まった以上は種明かしだ。
「一つ言っておくが……」
アルたち4人に向けて私が言葉を紡ぐ。
それは全ての種明かしと、もしかしたら見ているかもしれないカイザー側への警告もかねて。
「お前たちが大人に雇われていなければここまではしない」
「……ッ!」
「ど、どうしてそれを!?」
ミサイルによる爆風が風によって徐々に消えていく。
本来ならそこには仕返しのために武器を構える傭兵がいるはずだが……
「にげろー!」
「勝てるわけがないー!」
明らかに下手くそな演技で逃亡を始める無傷の情けない傭兵の後ろ姿しか無かった。
それも初めの頃からよく見ると数が合わない。
直撃を受けて怪我をしている筈の傭兵は何処にもいない、まるで居なかったかの様に。
なるほど、あの程度の強度はミサイルでやられてしまうのか。
「ちょっと!! 逃げないで戦いなさいよー! こらー!!」
「……アルちゃん、ちゃんとした集団にお金払ったよね?」
「払ったわよ! 確かに少し値切りはしたけど……それでも、しっかりと払ったわ!」
「ああ、お前は確かにきちんとした傭兵を雇っていたし、任務に忠実な奴らでもあったぞ」
「じゃあ、どうして!」
「……『
わざわざラーメン屋でこいつらの横を通り過ぎたのは絡まれるためじゃない。
心は視れなかった分、探すのに時間がかかったが見つけてしまえばこちらのもの。
第一世界で初めてあいつの前に姿を現す時にした対策と同じ方法……こいつら4人の幻を作り出し待機していた傭兵に契約は終わったから帰るように命じて、わざわざ人数分の傭兵の幻とすり替えておく。そして食事を終え合流し共に『仕事』へ向かわせる。
結果、4人しかいないのに大軍を連れた気持ちになってここに来てしまったわけだ。
その過程で多少傭兵にやる気が感じられなくても、元々値切った報酬なのだから彼女たちも突っ込むことはない、そう信じたわけだが見事に成功したと言えるだろう。
「先生が雇い直したの!?」
「さあな。だが、それくらい想定するのが、真のアウトロー……とでも言っておこうか?」
帰らせた傭兵から支払われた金額は聞いているから、問題が片付いたらしっかり返してやるつもりだ。幾らカイザー側が雇ったと思われる相手でも生徒は生徒。なけなしの金で雇った傭兵が早々に帰っていて更に負けたとあっては本当に困窮してしまう。
また気にかける相手が増える事になるが、今更4人くらい問題はない。
「私からのアドバイスだ。相手の土地で『仕事』の話はしない事、外部の人間を使うなら初めからアテにしない事、そして何より……」
だんだんと私についても理解し始めたのだろう、対策委員会の面々は私の策への疑問よりも先に『準備』を完了している。
「アビドス対策委員会には手を出さない事だ。だが『来客』はしっかりと歓迎しよう」
00Ⅳ
アルたち4人は強かった。もし、しっかりと傭兵を引き連れていたならば勝負の行方は分からなかったかもしれない。
それだけは間違いないが、いかんせんまともに戦える状況ではなかった。
裏切りであれば混乱しても何とか動く事が出来るかもしれないが、あろうことか雇ったはずの相手が威嚇射撃に近いミサイル一発で逃亡するとは考えないだろう。こればっかりは、私が言った部分ではあるが酷だ。
結果いくら戦い慣れていようが、4人と支援役1人対4人では分が悪い。特に構成が整っている対策委員会側を崩すのは至難の業であり、徐々に追い詰められていった。
それでも、初めの言葉通りに仕事を完遂しようとしたのは立派だ。
こちらも完勝はしていない、むしろ攻めきれなかった。
「あ……うう……エメトセルク先生……しっかりと学ばせて貰ったわ、アウトローの戦い方を……!き、今日の所は、先生に免じてここまでにしておいてあげるわ! でも、これで終わったと思わないことね! アビドス!!」
「あはは、アルちゃん、完全に三流悪役のセリフだし、先生にそれ言いたいだけじゃん」
「うるさい! 逃げ……じゃなくて、退却するわよ!」
今時なかなか聞かないような見事な捨て台詞を吐いて、アルたちは撤退していった。
アウトローの戦い方と言うよりは私たちが得意とするような暗躍する側の邪悪な方法と言った方が正しいだろうし、あまり生徒が真似して欲しいやり方ではない。
それこそ先ほどの会議で出た『詐欺』に近いやり方なのだから。
それに退却できる判断力も立派だった。追い詰められ危機的な状況になればなるほど、
『まだ戦える』
『もはや小細工はあるまい!』
等と言って継戦しようとする者が多い。
かく言う我々、アシエンも相手を見くびり追い詰められそしてもう何もないだろうと高を括って負けた者もいる。
正常な判断が出来なくなり、ありもしない『希望』に縋るよりは潔く撤退出来るのは賢い証拠だ。
が、あの調子ではまた来るのが目に見えている。
傭兵をもう一度雇うほどの財力はもう残っていないだろうが、カイザー側が追加で資金や装備を渡す可能性もあり、アルもまた今回の様な手には引っかからないだろう。
となれば、次はこちら側が別のカードを切る必要があるがどうするか。
まあ、次に会うまで時間はあるはず。もう少しだけ考える事は出来るはずだ──
「あっ、おじちゃんじゃん! おっはよー!」
次の朝に会うことになるとはこの時の私は考えてもいなかった。
エメトセルクは『悪』に憧れてほしくはないと思います。
闇の力をいいなと思う分には喜びそうですけどね。
アルちゃんとの絡みはこれから増えていきます。
今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)
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原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
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変則(エ→パ1,2→兎)
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