エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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1-8 石は転がる

あれほど偉大な魔導士を、ワタシは他に知らないよ。

ヒュトロダエウス

 

 

00Ⅰ

 

アルたちご一行の『歓迎会』から一夜明けた朝。

ちょうどアヤネが登校しようとしていた所だったために、合流し共に行くことにした。

正直できる事なら生徒一人一人と向き合ってその人物の人となりをより深く知っていきたいと言うのが本音だが、既にアビドスを巡る情勢は大きく動き始めてしまった以上は中々とる事が出来ないと言うのが実情だ。

だからこそ、こういった登校時間などで見かけた際は積極的に話す方がずっといい。

知らず知らずのうちに思いをため込んでいてはそれこそ心にも良くないだろうからな。

 

「アヤネ、おはよう」

「あ、先生。おはようございます」

「随分とお早い出勤だな。登校時間にはまだ余裕があるだろうに」

「今日は利息を返済する日でして……色々と準備があるんです」

「ああ……今月はどうにかなりそうか?」

「はい! 先生のおかげで物資の費用を浮かせられましたし切り抜けられそうです」

「早いとこ、片付けないとな……」

 

子供とする話ではあまりないだろうとは思っているが、如何せんアビドスと切っても切り離せない問題な以上は触れざるを得ないだろう。

今月は間に合わなかったが、来月中には『借金』の片を付けるとしよう。

そして『アビドス対策委員会』を判じる日も近い事も予感としてあった。

 

アヤネを筆頭に対策委員会は立派に『明日』を繋ごうとしている、そして私が関わったことで得られた『機会』を決して逃して等いない。

たとえそれが不格好に他者から見えたとしても。

 

「あ、そういえば。昨日の方々の情報が見つかりました」

「仕事が早い、流石は我が対策委員会の書記兼オペレーター。詳細は後で学校で聞くとして、大まかな情報としては?」

「まず、ゲヘナ学園の生徒だったのですが……」

 

治安と素行の悪さと言えばゲヘナ学園。幸運な事にまだ一度も出向いていないが、まあ調べる限りでは『魔境』と言っても差支えはないだろう。チナツからの招待にまだ応えていないのにも理由があるわけだ。

 

「あっ、おじちゃんじゃん! おっはよー!」

「な、ななっ!?」

「なんだ!! おい、くっつくな!」

 

突然、飛び出てきた小柄な灰色髪娘が私に抱き着いてきた。

アロナが反応しなかった所を見れば危険物ではないと思い私も防御しなかったせいで、かなりの衝撃だったのだが……

200cm近くある私の身長ではもはや浮かんでいるヘイローと髪飾り、多少の髪の毛しか分からない。

 

「じゃじゃーん! どもどもー! こんなところで会うなんて、偶然だね! あははー! ん? 重い? 苦しい? ちょっとだけガマンだよー、おじちゃん!」

「なんでもいいから、は・な・れ・ろ!! あと、おじちゃんではなく……」

「エメトセルク先生でしょ? おじちゃんが嫌なら、じゃーエメちゃんで!」

「……エメちゃん」

 

気の遠くなりそうな程の長い人生の中で多くの呼ばれ方をした。

『エメトセルク』、『ソル』、『ソル帝』、『陛下』……『ハーデス』

だが、それでも『エメちゃん』呼びだけはない。

アゼムですらしなかったのだ。

 

アルといい、こいつといいどうにも私の予想の範囲外の反応をするから困ったものだ。

 

「な、何してるんですか! 離れてください!」

「おっと、引っ張らないでよー……誰かと思いきや、アビドスのメガネっ娘ちゃんじゃーん? おっはよー、昨日ラーメン屋で会ったよね?」

 

私が先に退店した後でも何らかの交流があったのだろう。他校生との交流は悪い事ではない、案外自分たちでは思いつかない事を教えてくれたりもするものだ。

 

「その後の学校の襲撃でもお会いしました! どういうことですか? いきなりなれなれしく振舞って……それに、メガネっ娘じゃなくて、アヤネです!」

 

会議中、あわや机をひっくり返しそうになっていたアヤネの力でどうにか引き剥がして貰えた。

私が無理に引き剥がしてもあまりよくないだろうし、こういう時生徒が居るのは本当に助かると心の底から思う。

 

「ん? だって私たち、別にメガネっ娘ちゃんたちのことが嫌いなわけじゃないし。ただ、部活で請け負ってる仕事だからさ。仕事以外の時は仲良くしたっていいじゃん?」

「いっ、今更公私を区別しようということですか!?」

「別にいいじゃん? それにシャーレの『先生』は、あんたたちだけのモンじゃないでしょ? だよね、先生?」

 

『シャーレ』の先生という肩書は存外知られているのか、はたまた彼女たちが撤退した後に調べたのか。

どちらにせよ、今の発言は正しい。

私が『生徒同士の問題』には出来るだけ力を使いたくない理由がそれだ。

『シャーレのエメトセルク先生』は誰のモノでもなく、公平に生徒たちを見るべき存在であり初めに依頼を受けたからという理由で片方の贔屓ばかりではいけない。

依頼は完遂するがそれはそれとして依頼主側から見たら『敵役』の生徒にも事情があるのだがらきちんとフォローをするべきだ。

決してお前は間違えている、などと言ってはいけないし見捨ててもいけない。

勿論、今のアビドスの様に『生徒同士』とは到底呼べない状態にまで発展している事を私が察知すれば昨日の様に力を行使するが……

 

敢えての『先生』呼びはその確認でもあるのだろう。

私たちの先生でもあってくれるよね、と。

 

「ああ。私はお前たちの先生でもある、お前たちが望む限りそうあり続けるつもりだ。だからアヤネ、普段まで敵視する必要もない」

「って言ってるよ?」

「先生は甘すぎですよ!」

「あはは!」

 

そんなに相性が悪いとは思わないが昨日の今日、流石に難しいか。

 

「あ! そういえば、エメちゃんの名前は知ってるけど私まだ自己紹介してないよね?」

「する暇もなかったしな」

「じゃあ今するね! ムツキだよ!」

 

ムツキか。

何と言うか私の友人に似ている気がするな、主に性格面が。

もしそうならアルは振り回されるだろうが、誰よりもアルの気持ちを理解している相手でもあるはずだ。

いい仲間を持ったな、羨ましいよ今を楽しくやれるのだから。

 

「ムツキ、お前……昨日の事は怒ってないのか?」

「先生が傭兵たちを騙した事?」

 

既に確認済みか。

 

「あの後、アルちゃんが何で逃げたのか電話したら『あんたが自分で契約は終わりって言っただろー!』って言われててまたびっくりしてたよ」

 

その光景が目に浮かぶな。まず間違いなく、昨日の様に半ば白目を剝いているのだろう。

 

「先生もしかして、魔法使いとか?」

「どうしてそう思うんだ?」

「だって、私たちがラーメン食べてる時間に、アルちゃんが傭兵に帰れって言うのはムリじゃん。電話もしてないし」

 

さてどう答えるか。

変に誤魔化してもムツキなら何となく裏がある事くらいはすぐに理解するだろう。

ならば、あえて魔法使いだと言っておけば冗談で済ませられる可能性が高い。

キヴォトスに私が使う魔法などないのだから。

それにこういう時、大体あいつは直球に言って信じてもらえてなかったという判例もある。

 

「そうだ。そして、お前が生涯知る中で最も強大な魔導士でもある」

 

何故かそう名乗りたくなった。

あいつならそんな風に名乗りそうではあるし、魔法使いの括りにされるのならムツキの出会う中では最も強大な魔法使いでありたい。

あいつに魔法の何たるかを説き、ヒュトロダエウスが私に座を譲った理由だからこそ譲れないプライドがある。

 

「やっぱりー! じゃあ、今度は私たちに『イイ』魔法をかけてね、先生」

「……お前たちが窮地に陥った時はな」

「やったー! アルちゃんにも伝えとくね、私たちがピンチの時はエメちゃんが助けてくれるって! ……約束だよ」

 

そう言って彼女もまた行くべき場所へと進み始める。

だが何か言い残した事があったのだろう。

 

「あ、そうだ! アルちゃん、次は負けないってなんかモチベ高いから雇い直すとかは難しいと思うよー!! そんじゃ、バイバ〜イ。アヤネちゃんもまた今度ね」

「また今度なんてありません! 今度会ったらその場で撃ちます!」

 

その返答に無邪気な笑顔でもう一度手を振って今度は振り向かず住宅街へと消えていった。

朝から元気な奴だ。

 

「先生、大丈夫なんですか? 魔法なんて……」

 

なんだかんだしっかりと見送ったアヤネが私へ心配の問いを投げる。

当然か。

昨日の幻はしっかりと逃げた後に消えたし、爆発と同時に消えたのもその後の戦闘で有耶無耶にはできている。

そのため、私が本当に魔法を使うと知っているのはホシノくらいで、ムツキだって実際に見たわけではなくあくまで魔法と思う事で謎の現象を片付けたい節もあるだろう。

あの言葉だって私が『味方』になってくれるのかの念押しでもあった。もし本当に信じていたのなら、窮地にあってもなお、魔法があると信じ続けたなら魔法で助けてやるさ。

 

「まあ、よく言うだろう。最後まで絶望しない者にのみ奇跡はあると」

「そうでしょうか」

「ああ、私はそれをこの目で見たからな。だから、お前も最後まで希望を捨てるなよ」

 

00Ⅱ

 

それから私たち二人は無事に学校へと到着し、アヤネはせわしなく返済の手続きを行い始めた。

利息だけで788万円、完済するまでは軽く見積もっても300年は越えるという私の算出は当たっていた。

正確には309年だそうだが。

何かの計画があるにせよ、よくカイザーローンは融資したものだ。下手をすれば、金も戻ってこず欲しいものも得られない可能性があるにも関わらず。

どう見ても定命の存在相手にする借金の返済計画ではない、『不滅なる者』相手なら可能なプランだろうが、その場合は逆にカイザーローン側の人材が入れ替わり過ぎて把握できないだろう。いくら機械とは言え309年生きるのは想像できない。テレビや動画で見る限りカイザーコーポレーションの社員がオメガやオミクロン族の様な機械生命の中でも特別に優れた存在という訳でもない。

 

絶対の自信でもあるのか、それとも希望的観測から始めた杜撰な計画なのか。

何にせよ、返した金の使い道も調べなければならない。

電子マネーという文化があるにも関わらず、わざわざ現金で返す仕組みにしているのだ。

十中八九、碌な使い方をしていないだろう。

 

こういう所がどうも抜けのある計画に思えてしまう。少しでも悪だくみな得意な奴がいたら違和感に気が付き調べられてしまうだろうに。アビドス相手だから上手くいっているだけで、そのアビドスに私の様な者が来たらなど考慮に入れていない。

だからこそ思う時もある。

 

カイザーコーポレーション以外にも黒幕が居るのではないか、と。

 

もしそうならこっちの黒幕は中々賢い。

カイザーコーポレーションの影に見事に隠れつつ策略を張り巡らせ、聡い者が陰謀に気が付いたとしてもその矢面に立たされるのはカイザーコーポレーションなのだから。

 

……だがこればかりは手掛かりなしでは如何にもならない。わかりやすいカイザーコーポレーションとは違い痕跡がないからこそ想定するしか出来ないが、それによってカイザーコーポレーション側への対応を鈍らせるわけにもいかない。

故に私が導き出した結論は、

『わかっている方を先に片付ける』

だった。

 

「全員揃ったようなので始めます。まずは、ふたつの事案についてお話ししたいと思います」

 

朝、アヤネが行っていた事の報告─アルやムツキについてと、もう一つについてはわからないが、何らかの進展があったのだろう─の為に私たちは部室にて会議を始める。

 

「昨日、私たちを襲ったのは『便利屋68』という部活です。ゲヘナでは、かなり危険で素行の悪い生徒たちとして知られています」

 

私は彼女たちが『かなり危険で、素行が悪い』とはあまり思えない。実際、ゲヘナで起きた事件を見ればそれは良くわかるはずだ。

『温泉開発と称して地面に大きな穴を開ける』

『飲食店を爆破する』

などと言ったニュースにも上がる様な行為をアルたち……改め便利屋68が行ったと言う情報はない。

訂正しよう。

便利屋68は理由もなくそう言った行為をしてはいない、だな。

『温泉を開発したかったから』や『何かが気に食わなかったから』と言いたい事はわかるが、だからと言って普通はしない行動をしているわけではない。依頼を受け『仕事』として行っている以上、私から見れば理性的な方だと思う。

 

「便利屋とは頼まれたことは何でもこなすサービス業者で……便利屋のリーダーはアルさん。自らを『社長』と称しているようです。彼女の下には3人の部員がいて、それぞれにも室長、課長、平社員の肩書があるとのことです」

「いやぁー、本格的だねー」

「社長さんだったんですね☆すごいです!」

「いえ、あくまでも『自称』なので……それで今はアビドスのどこかのエリアに入り込んでいるようです。今朝も会いましたし……」

「自称でも、社長として部下を持って仕事をしているのは凄い事じゃないか。若くして起業とはなかなかできる者ではないと思うが……」

「それが……おそらく勝手に起業したのではないでしょうか」

 

なるほど。

校則上、ルール違反。

事業内容が地域貢献であったり、かなりの規模を誇るものであれば学校も暗黙の了解で許すかもしれないが、金さえもらえば何でもする類であれば許されるはずもないか。

『自由と混沌』を校風にしていると見たが、それでも一定の縛りはあるらしい。

 

「校則違反ってことですね。悪い子には見えませんでしたが……」

 

私だってノノミの意見に同意する。

アルはあんな性格だし、ムツキにしても『仕事で敵なだけ、普段は違う』ときちんとした線引きをしている時点で悪人ではないだろう。

むしろ負けたことや騙されたことに恨みを持っていない分、すっきりとしたいい性格と言える。

 

「いえ、それが今までかなり非行の限りを尽くしたようで、ゲヘナでも問題児扱いされているようです。そんな危険な組織が私たちの学校を狙っているのです! もっと気を引き締めてないといけません!先生もですよ!」

「そう言われてもだな……引き締まる相手ではないというか、何というか……」

 

 

実際戦う分にはもちろん警戒するが、あまり邪悪な計画を立てるタイプでもない以上はそこまで普段から警戒するべき相手でもないと思う。

それに、問題児と言えばゲヘナ生の大半がそうだと思うのだが。

記事の見出しでは『問題児ではない生徒を探す方が大変』とかなんとか。

 

「……続きまして、セリカちゃんを襲ったヘルメット団の黒幕についてです! 先日の戦闘で手に入れた戦略兵器の破片を分析した結果……現在では取引されていない型番だということが判明しました」

 

特に指示はしていないが自分たちで現地に赴いて破片を回収し、分析するとは見事な行動力だ。しかもそれが、返済に追われていながらならなおさら。

 

「もう生産してないってこと?」

「それをどうやって手に入れたのかしら」

「生産が中止された型番を手に入れる方法は……キヴォトスでは『ブラックマーケット』しかありません」

 

『ブラックマーケット』、名前からして怪しい名前である。

もう少しなかったのか、それともその怪しさからつけられたのか。

 

何にせよ、あいつなら言うのだろうな。

エオルゼアのマーケットの方がブラックだ!! 毎回1ギル低く出品されるんだよ! 、と。

 

だが、どうもこの『ブラックマーケット』という言葉は私以外の全員を緊張させるものとしては十分だったらしい。

 

「ブラックマーケット……とっても危ない場所じゃないですか」

「そうです。あそこは中退、休学、退学……様々な理由で学校を辞めた生徒たちが集団を形成しており、連邦生徒会の許可を得ていない非認可の部活もたくさん活動していると聞きました」

 

言い方は悪いがスラムだな。

そして、そういった場所こそカイザーコーポレーションが影響力を発揮しやすい場所ではあるだろう。

光の当たらない、それこそ秩序から見捨てられた場所。

私だって、利用する奴を探すならそういった場所で燻っている連中を焚き付ける。

もう失うものが殆どない連中など、格好の餌食。捨て駒にするにはちょうどいい。

 

何処に行こうと、どんな世界だろうとそれは変わらないか。

 

「非認可……便利屋68みたいに?」

「はい。それから便利屋68も、ブラックマーケットで何度か騒ぎを起こしていると聞きました」

「では、そこが重要ポイントですね!」

「はい。ふたつの出来事の関連性を探すのも、ひとつの方法かもしれません」

「よし、じゃあ決まりだねー。ブラックマーケットを調べてみよう」

 

キヴォトスにおける治安の悪さ、その発生地点の可能性が高い場所に行くわけか。

まったく、こいつらの行動力には驚かされるばかりだ。

これが私が関わって事で変化した『台本にない未知の物語』であるならば良いのだが。

 

「先生はどう思う?」

 

一言も発さず、5人を眺めていたからだろうか。

ホシノが私に伺いを立てるように聞く。

 

その表情は……

私たちが言わなくても、先生は一人で行こうとしたよね、と私に言いたいかの様で。

子供が『大人』の行動を気に掛ける必要はない、それが自分たちに害を成す時以外は。

だから、私はせめてこの視察を前向きな気持ちで捉えられるように語るとしよう。

 

「決まってる。楽しい楽しい『社会見学』に行くぞ」




次回はいよいよ、ブラックマーケットへ。

今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)

  • 原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
  • 変則(エ→パ1,2→兎)
  • その他(コメントでお願いします)
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