00Ⅰ
「ここがブラックマーケット……」
「わあ☆すっごい賑わってますね?」
「本当に。小さな市場を想像していたけど、街ひとつぐらいの規模なんて」
驚くノノミやシロコと同様に私も驚いていた。
私はてっきりスラムに近い場所であると考えていたからだが、そこまで治安が悪い訳でもない。
何なら賑わいで行けば、リムサロミンサのエーテライト前と比べても遜色がない。
だが、逆に言えばこれは危険だ。
『連邦生徒会の手が及ばない場所』がこれほどまでに発展しているという事はつまり、自治区と言っても過言ではないだろう。
それはつまり、『シャーレ』の力もどこまで通じるか分からないのだから。
「うへ~普段私たちはアビドスにばっかりいるからねー。学区外は結構変な場所が多いんだよー」
「来た事があるのか?」
「私も初めてだよー、聞いた話ってだけ。でもここ以外の場所にはへんちくりんなものがたくさんあるんだって。ちょーデカい水族館もあるって、アクアリウムっていう!」
「水族館か……」
私がアーモロートの幻を創り出したテンペストと呼ばれる、黒き海の底を思い出す。
そこを泳ぐ魚たちもよく見たものだ。
「先生も興味あるの?いいよね~、うへ、魚……お刺身……」
「いや、食事ではなくてだな……」
てっきり泳ぐ魚を眺めたいと思ったが、まさかそれを食べたいとは。
まあ魚そのものは美味いから分からないわけでもないが、それでも水族館と言われて食べる方が出るのだろうか……
全て片が付いたら連れて行ってやってもいいかもしれないな、水族館へ。
『皆さん、油断しないでください。そこは違法な武器や兵器が取引される場所です。何が起こるかわからないんですよ。何かあったら私が……きゃあっ!?』
聞こえた銃声で現実に戻される。
アヤネの言う通り、危険な場所である事に変わりはないらしい。
「う、うわああ!まずっ、まずいですー!!つ、ついてこないでくださいー!!」
追われているであろう生徒が叫びながら走ってくるのが見える。あの制服は、それこそブラックマーケットには似合わない……トリニティ生じゃないか。
それもなかなか大きなリュックサックを背負っている。
『あれ……あの制服は……』
「わわわっ、そこどいてくださいー!!」
後ろを追いかけてくる怪しい恰好の……不良に意識を割いていた為か減速する事なくそのままシロコへと突っ込んでいった。シロコには災難だが、正直ホッとしたというのが心のうちである。大体の場合、私に激突するのがこれまでの経験から浮かんでいたからな。
「い、いたた……ご、ごめんなさい!」
「大丈夫?……なわけないか、追われているみたいだし」
「そ……それが……」
事情を話し始める前に不良たちが追い付いてしまった。
ヘルメット団よりも奇天烈な格好……初日に見た不良集団と近い服装でこちらにガンを飛ばしてくる。
「何だおまえらは。どけ!アタシたちはそこのトリニティの生徒に用がある」
「あ、あうう……わ、私の方は特に用はないのですけど……」
私だってこんな奇天烈集団に用はない。恐らくこの場にいる全員思う事だろう、とっとと帰れと。
『思い出しました、その制服……キヴォトスいちのマンモス校のひとつ、トリニティ総合学園です!』
「そう、そしてキヴォトスで一番金を持っている学校でもある!だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」
「拉致って交渉!なかなかの財テクだろう?くくくくっ」
……野蛮すぎる。
危うく漏れそうになる言葉をどうにか止める事が出来たが……いくら危険な場所とは言え探せばまだまともな働き口くらいあるだろうに。
「……シロコ、ノノミ。やれ」
「はい☆」
「ん、了解」
悪いがこんな連中に関わっている暇はない。
私が命じなくても恐らくはそうしていたのだろう、二人は不良の背後に回り込んで当て身で気絶させていた。
……交渉しない分、こちらの方が野蛮だったか。
00Ⅱ
「あ、ありがとうございました。みなさんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした……それに、こっそり抜け出してきたので、何か問題を起こしたら……あうう……想像しただけでも……」
「ヒフミだったか?そんなに怖いのならわざわざこんな怪しい場所に来なくても……」
「あ、あはは……それはですね…実は、探し物がありまして……それがブラックマーケットで密かに取引されていると聞いたものですから……」
「探し物?」
自らを危険に晒してでもなお手に入れたい物か。
兵器の購入、な訳はなさそうだ。
もしそうなら、それこそもう少し顔を隠して来るだろう。
だが、可能性がない訳でも――
「えっとですね、ペロロ様の限定グッズなんです」
「……ペ、ペロ…なんだって?」
「これです。ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!」
ヒフミが自慢げに取り出したペロロ様と呼ばれるぬいぐるみ。
なんだこの、かなり挑戦的で何とも言えない鳥は。
しかも、口の中にアイスを押し込まれているという構図だ。
「限定生産で100体しか作られていないグッズなんですよ。ね?可愛いでしょう?」
ずい、と押し付けるようにヒフミがそれを見せてくる。
これが、可愛いだと?
口の中にアイスを突っ込まれて白目を剥いているこの鳥が!?
もしこの鳥が実体化して襲い掛かってきてみろ、恐怖するしかない。
デブチョコボやピクシー族からは「伝説のバケモノ」と言われるジャイアントビーバー、何故か飛ぶアンビストマ等それが可愛いという者を当時は理解できなかったが、今ならわかる。まだ、あれらの方がマシだ。黙っていている分には可愛らしさくらいは感じられるかもしれない。
だが、こいつにはそれがない。
むしろ、唾棄すべき存在であるメガセリオンと同じくらいの忌避感がある。
もしヘルメスが当時、この鳥を創造しイデアとして登録していたらと思うと寒気がする。
「……とても、独特な、シルエットでいいと思うぞ」
だがそれでも、否定はしないでおく。
もしかしたらこれがこの世界の若者の流行であると言うのならば、おかしいのは私の方で何とか感覚を慣らしていくしかない。
「わあ☆ モモフレンズですね! 私も大好きです! ペロロちゃん可愛いですよねえ! 私はミスター・ニコライが好きなんです」
「分かります! ニコライさんも哲学的なところがカッコ良くて。最近出たニコライさんの本『善悪の彼方』も買いましたよ! それも初版で!」
「……モモ、フレンズ?」
「……いやあ一何の話だか、おじさんにはさっぱりだなー」
「ホシノ先輩はこういうファンシー系にまったく興味ないでしょ」
「ふむ、最近の若いやつにはついていけん」
「それ、先生のセリフじゃん……」
「おい、どういう意味だ!」
私は生徒たちの世代を理解をしようと務めている側だ。
何なら積極的にそれを実践し時に失敗し学びなんとかこいつらと同じ側に立とうとしている。
確かにモモフレンズなるものを知らないし、顔文字作戦は痛い目を見た。
それでも、もしこの鳥が流行と言うなら何とか理解しようとすら思っているのに。
むしろ、流行してそうなのにそれを知らないお前たちの方がどうなんだと問うてやりたいくらいだ。
「それでグッズを買いに来たのですが、先ほどの人たちに絡まれてみなさんに助けられたわけです……ところで、アビドスのみなさんは、なぜこちらへ?」
「私たちも似たようなもんだよ。探し物があるんだー」
「そう。今は生産されていなくて手に入れにくい物なんだけど、ここにあるって話を聞いて」
「そうなんですか、似たような感じなんですね」
あわよくばカイザーではない黒幕に繋がる何かを手に入れたい所ではある。
だが、それは難しいだろうな。
そいつの目的が分かっていないが、まさかカイザー側と同じなどという事はないだろう。
相手が何処までこちらを知っているのかも分からないのだから、あったらいいな程度ではあるのだが。
そんなに甘くはないか。
「ヒフミ、お前の用事は終わったという解釈でいいか?」
「は、はい。終わりました」
「なら助けてやった礼として、迷える我々を案内してくれないか?」
「えっ!で、でも私もそこまで詳しくないですよ?」
「別にいい。ここで油を売ってても不良の仲間が来るだけだ、それなら我々と固まっていた方が安全だと思うが。それに、モモフレンズについて私も知りたいしな」
そう言って、私は後ろを見る。
思った以上の大群がこちらに向かって走ってきている以上、選択の余地はない。
選択の余地を減らし、更にはヒフミの興味のあるモノで釣る……何ともあくどい方法だとは思うが、『善悪の彼方』という本のタイトルに興味を惹かれたのも事実だ。
『先生、どうしましょう……完全に敵対モードです!』
「目的を忘れるな、余計な道草を食う気はないぞ。さて。どうするヒフミ?」
「わかりました!こっちです!」
旅は道連れ世は情けと言うだろう。
と言っても、巻き込まれたのはこちらが先だが。
00Ⅲ
一方、その頃ーー
『……ふむ、興味深い報告だ。ここまでの練習は拝見したよ。で、実戦はいつだ?』
「……うえ?あれが実戦だったんです……が……あ、いえ、何でもありません。も、もちろん実戦はすぐにでも……と言う感じで……あ、えっと、1週間以内には……はい」
周りに動揺が広がる。
言わなくてもわかるわよ……
けど、クライアントを失望させるわけにもいかないし……
「ふふっ。はい、そうです……お任せください」
そう言って漸く緊張した電話を終える事が出来た。
「……はあ」
正直、クライアントにも『全て』は教えていない。『シャーレ』の先生の計略によって傭兵が逃亡したこと、そして何故か私が傭兵との契約を終了していたこと。
というより、言えるわけがなかった。
「やつれたねえ、アルちゃん」
「社長、一体どういうこと……?まさか、また戦うの?」
「……あのクライアントは、私も詳しくは知らないけど、超大物なのよ……この依頼、失敗するわけにはいかないわ」
ムツキとカヨコの言葉は痛い程わかる。
だが、それでも仕事をこなさない事にはお金も入ってこないわけで……
「だけどアビドスの連中、思ったより強かったじゃん。アルちゃんが雇ってた傭兵をクビにしちゃったし……」
「そ、それは本当に、私じゃないわよ!!」
「そこだよ、そこ。ただでさえ強いアビドスの連中にセットでついてくるのが、あのエメちゃんだよ?私たちだけじゃ無理だって」
そう。
あの物凄くカッコいい挨拶で登場したエメトセルク先生が一番の障壁なのよ……
ラーメン屋で会って大して時間が過ぎていないのに、私の雇った傭兵をクビにして『別の傭兵』を待機させていたなんて。
初めこそ次は負けないなんて思ってはいたけど、時間が経つにつれて先生の『計略』を打ち破る方法なんて思い浮かばないって思い始めてた頃にこの電話よ……
「それに、エメちゃん魔法使いだし……」
「だから、そんなわけないでしょ!きっと、ふかーい計略を張り巡らせて見せたに違いないわ!」
「本人が言ってたよ?『お前が生涯知る中で最も強大な魔導士』って。あの目は嘘じゃないと思うんだけどなー」
朝、ムツキが来るなり報告したエメトセルク先生との会話。
危うくズルい!って言いかけたけど、その内容自体はとても興味深かった。
けど、魔法使いなわけないじゃない……
「……もし、本当に魔法使いならどうするの社長?」
「カヨコまで……」
「じゃあ、アルちゃんはどうやって説明するのさ。ラーメン食べてる時に電話もしてないのに、アルちゃん本人が来て傭兵と話すなんて無理だよね?」
「そ……それは……へ、変装とか!」
「……エメちゃんの身長、たぶん200cmくらいあるよ」
やめてよ、何とか魔法なんてないって考えてるんだから。
音声の加工でも、ホログラムでもなく、私自身が現地で話したって言っている以上は変装でもないんだろうし……
「わっ、私が先生を何とかしましょうか?」
「魔法を使うかもしれない人に銃が効くとは思えないけど……」
我が社員の半数がエメトセルク先生を『魔法使い』として考え始めてるわね……
「もうさ。依頼やめて、エメちゃんに助けてもらったら?」
「そ、そんなの出来るわけないじゃない!!」
私たちがピンチの時は助けてくれるって言ってくれたとムツキから聞いてはいるけど、先生に勝てないから諦めます助けてくださいなんて、アウトローとして言えるわけないわ!
「……もう一回傭兵を雇うわ」
「お金全部使い果たしちゃったじゃん」
「……融資を受ければいいのよ」
「は?アルちゃんはブラックリスト入りしてるでしょ。それに、また雇ってもエメちゃんに同じ事されるだけだと思うよ」
『お前たちが大人に雇われていなければここまではしない』
そうね。絶対、あの人なら手を打つわ……
傭兵をずっと見張っているわけにもいかないし、そうしたところで別の方法で対処されそうよね。
「はあ……」
「認めたら?エメちゃんが魔法使いかもって」
ムツキがここまで言うのも珍しいわね……
それでも魔法使いだから無理ですっていうのは違う気がするのよ。
むしろ逆で、魔法使いだと認めても挑んでいく方がエメトセルク先生は認めてくれそうだと思う。
けど……
「見てなさいよ、エメトセルク先生。このままじゃ終わらせないんだから!」
……とりあえず、ブラックマーケットで融資を受けられるか聞いてみようかしら。
00Ⅳ
「あら! あそこにたい焼き屋さんが!」
「あれ、ホントだー。こんなところに屋台があるなんてね」
かなり歩いたが目ぼしい収穫は企業がこの場所の違法な事柄を巡って利権争いをしている噂がある事と専用の金融機関や治安機構がある事くらいだ。
それ以外は別に来なくともわかった事柄ばかりだった。
……あと、モモフレンズのキャラクターはそれなりに多く存在しその中には確かに可愛らしいキャラクターいるという事もわかったな。
やはり、ペロロという存在を可愛いとは思えなかったが。
「食べたいなら、私が払うから好きに食べろ」
「ううん、私が食べたいからいいんですよ☆ みんなで食べましょう、ねっ?」
お前が居るから対策委員会は暖かい空間であれるのだろうな。
誰かひとりでも欠けていたのなら、こいつらがここまで戦い続ける事は無理だっただろう。
そう、屋台で注文をするノノミの背を見て思う。
『絆』か……
「おいしい!」
「いやあ、ちょうど甘いモノが欲しかったところだったんだー」
「あはは……いただきます」
「ほら、先生も」
シロコがそう言って、差し出したたい焼きを一口齧る。
甘い物か……そういえば久しく食べていないな。
最後に食べたのはいつだったか……
本当に、とても遠い記憶だ。
アゼムとヒュトロダエウス、そして私。
3人でアゼムが貰って来た果物を食べて時以来か?
まさかな。
皇帝時代にも食べたような……いや、あったのかも知れないが、私が思い出したのはよりにもよって旧い方だ。
何故だろうな。こいつらとの『旅』は何故か在りし日の思い出を思い起こさせてばかりだ。
「……美味いな」
本当に心の底からそう呟いた。
「ここまで情報がないなんてありえません……妙ですね。お探しの戦車の情報、絶対どこかにあるはずなのに、探しても探しても出てきませんね」
全員が一通り食べ終わった頃にヒフミが我々の要件についての意見を述べる。
流石、マンモス校トリニティ生の意見だ。
「販売ルート、保管記録……すべて何者かが意図的に隠しているような、そんな気がします。いくらここを牛耳っている企業でも、ここまで徹底してブラックマーケットを統制することは不可能なはず……」
「そんなに異常なことなの?」
「異常というよりかは……普通ここまでやりますか? という感じですね……。ここに集まっている企業は、ある意味開き直って悪さをしていますから、逆に変に隠したりしないんです」
そうしてヒフミは、一つの建物を指しながら言葉を続ける。
「例えば、あそこのビル。あれがブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です」
「闇銀行?」
「ブラックマーケットで最も大きな銀行のひとつです。聞いた話だと、キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているそうです……。横領、強盗、誘拐などなど、様々な犯罪によって獲得した財貨が、違法な武器や兵器に変えられてまた他の犯罪に使われる……そんな悪循環が続いているのです」
「その循環が続けば、銀行は儲かり続ける。だから、銀行が犯罪を推奨し治安が更に悪化。結果、キヴォトス全土がその被害に遭うが銀行は知ったことではないのだろうな」
「その通りです。まさに銀行も犯罪組織なのです」
世に戦乱の種をまくため造られた国ーーガレマール帝国を興した私にはよくわかる。
霊災を起こすには、大きな力がいる。
蛮神召喚を行うエオルゼア諸国を悪だと国民に思わせ、侵略戦争を開始すればエオルゼア諸国の者たちは更に蛮神を召喚する。
神龍などその最たる例だろう。
だがそれでどれだけ原初世界の民が苦しもうが、我々アシエンには関係がない事だった。
世界の統合こそが我々の目的故に。
「ひどい!連邦生徒会は一体何やってんの?」
セリカの怒りはもっともだ。
キヴォトスの中央政府と言ってもいい存在が、こんな違法行為を放置しているとなればそこに住み実害を受けている者からしたらたまったものではないのだ。
「現実は、思った以上に汚れているんだね」
「何も、汚れているだけではない。きっとな」
「……先生」
どの世界も大なり小なり汚れているだろうが、それだけじゃないはずだ。
争った者同士が手を取り共に進む事も、そして清き心を持つ者が報われる事だってあるはずなのだ。
それがこのキヴォトスではまだ無いのかもしれないが。
「え、あれ…?な、何で!?あいつは毎月うちに来て利息を受け取っているあの銀行員……?」
ただじっと怒りを篭めた目で銀行を睨みつけていたセリカが声を上げる。
目線の先を見て見れば確かに、先ほどアビドスで利息を受け取った銀行員の姿だった。
漸く、大きな収穫があったか。
「あれ、ホントだ」
「えっ!? ええっ……?」
「……どういうこと?」
資金洗浄か。
これまた随分と大胆に、まあ借金をしている側がこんな場所まで来ていると予想していないのだろうがそれでももう少し隠れてやればいいものを。
『今日の午前中に、利息を支払った時のあの車と同じようですが……なぜそれがブラックマーケットに……!?』
「か、カイザーローンですか!?」
「ヒフミちゃん、知ってるの?」
「カイザーローンと言えば……かの有名なカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者です……」
「有名な……? マズいところなの?」
「あ、いえ……カイザーグループ自体は犯罪を起こしてはいません。しかし合法と違法の間のグレーゾーンで上手く振舞っている多角化企業で……。カイザーは私たちトリニティの区域にもかなり進出しているのですが、生徒たちへの悪影響を考慮し、『ティーパーティー』でも目を光らせています」
「『ティーパーティー』……あのトリニティの生徒会が、ね」
まあ、雇った相手の人生が崩壊しようが犯罪かと言われたら確かにグレーではある。
それ自体がどれだけ人として許せなかったとしても別に法律上問題なければ犯罪ではないのだ。
『罪』ではあるがな。
そしてヒフミの情報の出どころにも大体の察しがついた。
ヒフミ本人が『ティーパーティー』の関係者か、もしくは知り合いが所属しているのだろう。
通りで無駄に詳しい訳だ。
こんな無法地帯の『下調べ』を一人で行ったところで然したる成果も得られないだろうが、生徒会ともなれば話は違ってくる。
「ところでみなさんの借金とはもしかして、アビドスはカイザーローンから融資を……?」
「借りたのは私たちじゃないんですけどね……」
「そこは話すと長くなるんだよねー。アヤネちゃん、さっき入っていった現金輸送車の走行ルート、調べられる?」
『……駄目ですね。すべてのデータをオフラインで管理しているようです。全然ヒットしません」
「先生の方は?」
ホシノが期待の目を私へ向けてくる。
セリカの時の様に、と言いたいのだろうがそれは無理だ。
私は『別の場所』を通すことで魂を視ているのであって、今来たばかりの車や運転手がどのルートで来たのかを『過去視』するのはむしろあいつの領分だ。
魔法でどうにかする事は出来る、出るのだがそれにはある程度の準備が必要だ
「やろうと思えば出来るが……手荒な手段になるとだけ言っておこう」
「……そっか」
これが終わった後に銀行員を捕まえてやればいいのだが、銀行員が耐えられるかどうかも分からない。
下手をすれば殺してしまう――機械の場合は破壊してしまう可能性もあるのだ。
そんな行為を白昼堂々とするわけにはいかない。
「そういえば、いつも返済は現金だけでしたよね。それはつまり……」
「私たちが支払った現金が、ブラックマーケットの闇銀行に流れていた……?」
「じゃあ何?私たちはブラックマーケットに、犯罪資金を提供してたってこと!?」
「付け加えるなら、お前たちの返済した金がお前たち自身の首を絞めていた……と言う事だ」
もうここまで来たら隠している必要もない。
私は既に推論を立てた為、確たる証拠さえ手に入れれば良かったのだが、それを手に入れる前にこいつらが答えに行きついてしまった。
助けてやったヘルメット団の少女が言った事だ、彼女たちはカイザーPMCに雇われていたと。
アビドスはカイザーローンに借金し、その金がブラックマーケットの闇銀行に流れヘルメット団が融資を受ける……もしくはブラックマーケットを経由せずそのまま金を持って行った可能性もある。
つまり、自分たちがせっせと返済した金で自分たちを苦しみ続けさせたという訳だ。
「「「「「……」」」」」
やはり言葉を失くすか。
当然と言えば当然だ、これだと余りにも救いようがない……道化じゃないか。
私だってもし己の使命が仕組まれた事であったのなら、怒るだろう。
だが、彼女たちは怒りに変えられるのか。
そのまま絶望してしまうのではないか。
「……あ! さっきサインしてた集金確認の書類……。それを見れば証拠になりませんか?」
ヒフミの閃きも虚しく消えていく。
このままここに居ても駄目だろう。
魂の色が淀んできてしまっているという事は、やはり絶望しているのか。
ここまでだな。
「帰るぞ」
「……え」
「十分な収穫はあった。ここにこれ以上いても何か解決するわけでもない。後は私に任せて――」
「……違う」
シロコが呟く。
その目には確たる意志が宿っている。
「何が違う、だ。集金確認の書類を手に入れる術は今のお前たちにはない。ここに居る誰にもな」
「……だからって、先生に任せるのは違う」
シロコの発言によって対策委員会全員が我に返り、そして同じような目でこちらを見る。
その目は私が見たかったモノ。
例え一度は絶望しようとも再び立ち上がる者の目……
「まさか、あれだけの数のブラックマーケットのガードと戦うつもりか?そんな無謀な事は辞めておけ。今、こうしてお前たちが再び立ち上がっただけでいい」
「うん、他に方法はない。例の方法しか。」
「例の方法だと?」
戦う以外にどうやって書類を手に入れるつもりだ。
私の様に魔法を使えるわけでもあるまいに。
理解が追い付いていない私とヒフミを置いて、他のメンバーは納得し始める。
「なるほど、あれかー。あれなのかー」
「あ……!!そうですね、あの方法なら!」
「何?どういうこと?……まさか、あれ?まさか、私が思ってるあの方法じゃないよね?」
「……だから、どの方法だ」
そう言い終えてふと、先日の会議を思い出す。
『銀行強盗』
いやまさか。
「残された方法はひとつ……銀行を襲う」
「はいっ!?」
「だよねー、そういう展開になるよねー」
「はいいいっ!?」
あれほど絶望しかけていたのに、瞬時にこの考えに至れる事。
そして、謎に準備がいいシロコに私は頭を抱える。
この流れは止められないか。
「わあ☆ そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」
「えええっ!!?? ちょ、ちょっと待ってください!」
「はあ……マジで? マジなんだよね……?……それなら、とことんまでやるしかないか!!」
ストッパーであるはずのセリカまでこの結論に至った以上は、アヤネではもう止められないだろうな。
絶望するなと初めて会った日に言ったが、こういうことをしろと言う意味ではなかった。
『……はあ、了解です。こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし……どうにかなる、はず……』
無事に……と言うか誠に残念なことに最後の良心すらもこの流れに呑まれ覆面を被り始める。
「ごめん、ヒフミ。あなたの分の覆面は準備が無い」
「うへー、ってことは、バレたら全部トリニティのせいだって言うしかないねー」
「ええっ!? そ、そんな……覆面……何で……えっと、だから……あ、あう……」
「それは可哀そうすぎます。ヒフミちゃん、とりあえずこれでもどうぞ☆」
「たい焼きの紙袋? おお! それなら大丈夫そうー!」
「え? ちょ、ちょっと待ってください、みなさん……」
そして不運にも、私が巻き込んだばかりに居合わせたヒフミもまた懸命な抵抗虚しく無視され、たい焼きの紙袋を頭から被せられている。
「ん、完璧」
「番号も振っておきました。ヒフミちゃんは5番です☆」
「見た目はラスボス級じゃない? 悪の根源だねー、親分だねー」
「私も…ご一緒するんですよね……う、うあぁ……わ、私、もう生徒会の人たちに合わせる顔がありません……」
「問題ないよ! 私らは悪くないし! 悪いのはあっち! だから襲うの!」
……それは違う。
その言葉は間違えている。
悪いのは向こうだから、何をしてもいい、悪くないのだと言うのは違う。
「それじゃあ先生。例のセリフを」
シロコが急かすように言う。
なるほど、私がそれを裁可すると思っているのか。
今の状況なら致し方ないと、自分たちは被害者だから何をしても悪くないと。
「『今』のお前たちでは駄目だ」
故に私は彼女たちに否定を与えた。
00Ⅴ
「……なんで、先生? チャンスは今しかないんだよ」
シロコが心底不満げに私に詰め寄る。
確かにこいつらが銀行を襲い証拠を抑えるチャンスは今しかないだろう。それについては同意できる。
それにあの流れでは私が許可を出すと思うのは当然だろうし、私自身良く戦闘の前には口上を垂れていたからこそ否定されるとは思っていなかったのだろう。
「自分たちが被害者だから何をしても許されると本気で思ってるのか?勿論、お前たちの立場は重々理解しているつもりだ、私自身共にあったしな……だが、自分たちにとってカイザー側が『悪』だから襲って当然で何の『罪』も無い、そんなわけがないだろう」
それが悪人への報復だろうと、崇高な目的を果たす為であろうと、如何足掻いても『罪』は犯すのだ。
そして、それは消えない。
「でも、そうしないと証拠が手に入らないじゃない!それに、犯罪行為をしてるんだから『悪』で間違いはないでしょ!」
「犯罪が『悪』なら、これから同じ犯罪をするお前たちも『悪』だ」
「それは……」
「それ見たことか。お前たちは自分がする行いの『責任』を背負う覚悟が全くない。怒りに身を任せて、やり返すぞと言っているだけじゃないか。そんな浮ついた気持ちで行うのなら、認めないぞ」
詭弁でもなんでもいい、言い返してみろ。
私だって分かっているさ、この場でお前たちが取れる最適な解はこれなのだと。
ならば、なればこそ、勢いでも怒りでもない己の意志で『選択』してほしい。
終わった後に、やらなければ良かったなどと後悔する事はあってはいけない。
「先生は会議の時に言った。『どこかの馬鹿な大人』が銀行を襲うかもってそれはいいの?」
よく覚えているな、確かにそう言った。
シロコからすれば、私がやるのと自分たちがやるのとで何が違うのか疑問に思うのだろう。
まだこの歳だからそれは当然の疑問で、そしてそれは答えなければならない。
「お前たちは私が『善人』だとか、『成るべき存在』とでも思っているのか?……今更、罪が一つ増えたところで私が変わる事はない。もう数え切れないほどこの手を汚してきたのだからな」
「……」
私は決して善人でも、こいつらが憧れ目指すべき相手でもない。
逆だ。私は崇高な目的の為に数多くの罪を犯した。
決して、目指してはならない。反面教師にするべきだと思う。
「……先生こそ、覚悟がないんじゃないかな」
「なんだと?」
「『お前たちを知り、助言し、そしてその『選択』を見て判じる』って先生があの夜言った言葉だよ。確かに、先生から見たら私たちは『覚悟』が足りてないのかもしれないけどさ……それを先生一人が背負ってどうにかするって言うのはそれが優しさなのはわかるけど……中途半端でも『選択』した私たちから逃げてるんだよ」
「ホシノ、お前……」
まさかそんな切り返しをされるとは思っていなかった。
あったとしても『わからず屋』だとか『それでもやるんだ』程度の子供なりの仕返しだと。
だが、その子供に言われたのだ。
『お前は向き合うと言いながら、本質的には向き合おうとしていないのだ』
と。
セリカの時に起きた間違いとは違う、より根本的な間違い。
私はこいつらに『善い選択』をして欲しい、影であるのは私でいいと、私の様になるなという願望。
ホシノだけではない。
シロコも私に背負わせるのは違うと言った。だが、それはこのような行動にでると想定していなかったからではあるが、それでもアレは間違いなく『覚悟』だったのだ。
それを私はその選択をただ間違いであると決めつけたのだ。
判じるために向き合うでもなく、ただ己が納得できない言葉で言い訳をしたからという理由で。
「それに水臭いよ先生-。先生はもうアビドス対策委員会の顧問なんだからさ、何をするにしても私たちと『共犯』じゃないと」
「そうよ!私だって先生みたいに『悪』とは何かみたいなのまで考えてなかったけどさ、全員で『責任』を背負えば軽いかもしれないじゃない」
「そうですよ。先生もたまには私たちを信じてください☆」
「私たちの活躍を見てて」
『どうせやるなら、みんなでやりましょう。先生』
永き時を生き、そして死してなおまだまだ私が学ぶべき事は多いという事か……
「まったく、どいつこいつも生意気な奴らだ……!」
私は一歩前へと進む。
それは己だけが後ろに立つのではなく、彼女たちと並ぶため。
「いいだろう……そこまで言うのなら、お前たちと共にやろうじゃないか!さあ、銀行を襲うぞ」
エメトセルクが生徒に銀行強盗を許すのかどうか、許したとしても流れで許可はしないんじゃないかと悩みました。
アビドス編はエメトセルク先生の今後の先生人生を決める物語でもあるのでこういう形でもいいかなと思いました。
今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)
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原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
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変則(エ→パ1,2→兎)
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その他(コメントでお願いします)