エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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しかしまあ、にぎやかなことだ……。
同志が集うと活気づくのは、私たちの時代から……どの世界も変わらないな。


1-10 未来が為、黒法衣よ再び

00Ⅰ

 

「アロナ、施設内の掌握は完了したか?」

『はい、バッチリです!完全制御は10分だけと言う制限はありますが、今やエメトセルク先生が銀行のボスです!』

 

別に銀行のボスになるためにしたわけではない。

これから強盗することになる『劇団』の仕事が円滑に進む様に手配しただけの事。

今回は長期戦ではなく、電光石火の如き速度で目的の『証拠』を手に入れ退却する必要がありそのためには科学的な力も必要だった。

 

当初、私も現地へ同行し共に襲撃に参加しようと考えていたのだが背丈、服装でわかりやすいと言われてしまい共にあると言いながら支援役になってしまったのだ。

 

「……服など別にどうとでもなるのにな」

 

共に背負うと誓った以上は現地に居てやるべきであり、そうすれば不測の事態においても音声に頼らずともこの目で判断ができる。

だが、施設そのものを遠隔からでもハッキング出来るのは『シッテムの箱』を持つ私くらいだ。

だから通信で対応ができる任務に就くと言うのも納得はしている。

ただ、ほんの少し不満なだけだ。

 

『こちらブルー。全員、配置についた』

 

役者が舞台に上がったか。

ならば、この『劇団』の総支配人として号令をかけねばならない。

 

「目的はただ一つ。集金記録を奪取する事。心配するな、お前たちが役を演じられる様にこちらで銀行内のシステム制御は奪っている。だが、10分の時間制限付きアンコールは無し、終幕後は速やかに退却だ。そのため多少のアドリブは付き物、恨みっこなしだ」

『了解』

 

フロア内のマーケットガード排除などはわざわざ言うまでもないだろう。発案者のシロコがその程度を想定しないはずがない。

では早いところ始めるとしようか。

 

「では、上演開始だ」

 

00Ⅱ

 

私の合図と共にロビー内のすべての明かりが消灯し暗闇が全てを染め上げた。

魔法とは違う科学の力ではあるが、ここまで来ればある意味では魔法に近い。遠隔でここまでやれるのだからな。

 

『な、何事ですか? 停電!?』

『い、一体誰が!? パソコンの電源も落ちてるじゃないか!』

「よし、片付けろ」

 

ガトリングが武器であるノノミを除いたメンバーが暗闇に紛れマーケットガードへと発砲し制圧する。

今回の場合はあまりノノミには暴れさせてやる事は出来ないが堪えてもらいたい。

適材適所と言う言葉があるからな。

 

『銃声っ!?』

『うわっ! ああああっ!』

『うわああっ!』

『なっ、何が起きて……うああっ!?』

 

機械型であれば暗視程度は使えるだろうと踏んでいたが、あいにくとロビー内に居たのは人間だった。

通信から流れてくる悲鳴と、『シッテムの箱』から見れる映像によってロビー内が制圧された事を確認……アロナのハッキングと言うのは本当に便利なものだ。私が演劇を見逃さない様に一部のカメラはきちんと動いているのだから。しかも、制御はこちらだから相手側からは見れない。

 

私からすればこちらも十分魔法に近い事だと思う。強いて言うならば誰しも勉強すればある程度はできるのがハッキングで、生まれ持った才能によってはどうにもならないのが魔法と考えている。

 

「制圧を確認。では、明かりを灯す。第二幕に移れ」

 

『全員その場に伏せなさい! 持っている武器は捨てて!』

『言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆』

『あ、あはは……みなさん、ケガしちゃいけないので……伏せてくださいね……』

 

セリカとノノミはきちんと悪役を演じているが、ヒフミはやはりこういった荒事には慣れていない様だ。ペロログッズに対しての熱意を見る分には慣れていると考えたのだが、私の思い過ごしだったらしい。

それとも、ペロロに対してのみ豹変する存在なのか……

 

『ぎ、銀行強盗!?』

 

聞いたことのある……いや、昨日散々聞いた声が流れてきてしまった。

間違えるはずもないが念のため他のカメラで確認してみれば……便利屋68が居た。

さてはこいつらも金を借りに来たのか。

 

アビドスを倒すため……いや、私を斃す為か。

 

「面倒な……まあ、いい。残り5分もない目的のものを確保しろ」

 

事前に一度『視る』べきだったか。

それを怠ったばかりに便利屋68と言う想定外がいる事に驚かされたが今は構っている暇はない。

この調子で終わらせて貰わないと制御のタイムリミットが来てしまう。

 

『非常事態発生! 非常事態発生!』

『うへ〜無駄無駄一。外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからねー』

『ひ、ひいっ!』

『ほら、そこ! 伏せてってば! 下手に動くとあの世行きだよ!?』

『みなさん、お願いだからジッとしててください……あうう……』

 

手持ちの電話を使えば外部への連絡自体は可能だが、人間というのは悲しい生き物だ。目の前で衝撃的な状況が発生、それも自分の命に関わるとなると途端に思考が固まってしまう。

便利屋68はそうでもなさそうだが、ただ興味深く眺めているだけのため手を打つ必要もなかった。

 

『うへ~ここまでは計画通り! 次のステップに進もうー! リーダーのファウストさん! 指示を願う!』

『えっ!? えっ!? ファウストって、わ、私ですか?リーダーですか? 私が!?』

『リーダーです! ちなみに私は、覆面水着団のクリスティーナだお♧』

『うわ、何それ! いつから覆面水着団なんて名前になったの!? それにダサすぎだし!』

『…』

『うへ、ファウストさんは怒ると怖いんだよー? 言うこと聞かないと怒られるぞー?』

 

……『ファウスト』、機工兵ファウストと同じ名前か。機工兵の方は冒険者たちから『先生』と呼ばれていたそうだから、どちらかと言えば私向けの名前に思えてしまう。もうこれ以上、異名など要らんがな。

ヒフミも名前自体は満更でもないらしい。

 

それでも、『覆面水着団』だけは納得出来ない。あっているのは覆面だけどこにも水着を着た奴はいない。撹乱のための嘘でもこれを信じる奴がいるのか疑問が残る。

 

『監視カメラの死角、警備員の動線、銀行内の構造、すべて頭に入ってる。無駄な抵抗はしないこと』

 

シロコが通報しようとした銀行員に銃を突きつけ、目的の物を奪うフェーズへと入った。

 

『さあ、そこのあなた、このバッグに入れて。少し前に到着した現金輸送車の……』

『わっ、わかりました! 何でも差し上げます! 現金でも、債券でも、金塊でも、いくらでも持ってってくださいっ!!』

『そ、そうじゃなくて……集金記録を……』

『どっ、どうぞ! これでもかと詰めました! どうか命だけは!!』

『あ……う、うーん……』

 

助かりたい一心での行動か、それとも時間を稼ぐ為の賢しい嘘か。

どちらにせよ、銀行員はこちらが求めているものを一向に差し出さない。既にタイムリミットまで5分程度は残ってはいるが。

 

『クライアント、どうする?』

 

咄嗟の判断か、まるで便利屋68が言う様な口調でシロコが私への判断を仰いだ。

この銀行員に付き合って時間を使うか、それとも撃ってしまい自分たちの手で奪うのか。

後者だけは避けたい選択肢だが、前者を選べば5分間お茶を濁されて終わりだ。

 

「私が対処する。一瞬だけ消灯するから、警戒して撤退できるようにしておけ」

『……了解』

 

ならば仕方ない。

既に影は命じるまでもなく我が身を包み込み始めていた。

そして、私が指を鳴らせばまるで早着替えの様に先ほどまでのシャツとズボンから別の衣へと変わる。

 

そのほとんどを黒色で構成し、細部には紫色のラインや金色の装飾が施されたローブに怪物の様な爪があしらわれた手袋……我が執念の象徴であり、同胞たちの『使命』の証……アシエンの黒法衣。

 

覆面がない私が顔を隠すならと真っ先に浮かんだのは、あいつの旅路で見たカエル、ブタ、ゾウなどの被り物ではなくやはりこの服と仮面だ。

 

私は深くフードを被り、あの戦いで捨て去った『赤い仮面』を再び身につけた。

この服を着るだけで身と心が引き締まる。

私にとっての『仕事着』はスーツや連邦生徒会のコートでもなくこちらだ。

それは単純に歴の長さから来るものだけではなく、やはり『目的』と『罪』を突き付けるためでもある。

だが今回はそう、目的は同じでも行動がバラバラになりがちだったあの時とは違う。

全員で背負うと決めたのだ。

 

「冥きに眠る同胞たちよ……私の我儘を許してくれ」

 

同胞たちへは謝るべきだろう。

彼らからしたら、崇高な理念の衣であり強盗に使う物ではないと。

だが、それでも私に力を貸して欲しい。

今度は『今』の為、過去ではなく未来を見る者たちと共に『罪』を背負う為、仮面を必要とする私に。

 

ラハブレアの爺さんが見たら言うだろうか。

エメトセルク、お前もアゼムから影響を受けたのか……と。

それとも、星海での出来事を踏また上であればこの星での私の役割として認めてくれるのだろうか……

 

もし、不満があればまた次に再会出来た時にいくらでも聞こうじゃないか。

今はただ彼女たちの『未来』の為に、舞台に上がろう。

 

00Ⅱ

 

「この程度の人員のみで突破出来るとは……やはり所詮は短命なる者たち、『我等』の敵にはなり得ぬか」

 

絶対的な『尊厳』を感じさせる若き男、『氷の様な冷徹さ』が宿る女、『炎の様な苛烈さ』が滲み出る老人、そして『冥きに眠る者への墓守』を務めるような男、聞く者によって捉え方が異なるであろう声を、一瞬の消灯ともに鳴り響かせ私はロビーへと姿を現す。

 

「なっ…!?」

 

それは覆面水着団の誰かの声かもしれないし、はたまた闇銀行の間抜けどもか……

誰が声を上げたかもはや特定などできない。

 

()()の目的のモノはまだ手に入っておらぬようだな、覆面水着団よ」

 

『我等』とは私自身……謎の黒法衣に組織性を持たせるための方便。

そして、今回の『我々』はあえて違いを作ればシロコたちが正体を察する事が出来るだろうと考えた。

 

「も…申し訳ございません……意外と手間取りまして……」

 

私の問への返答をまさか、ヒフミが私の演技に乗りながら返すとは思っていなかった。

中々上手いじゃないか。

 

「ファウストよ、貴様の覆面水着団が優秀だと認めたからこそ『我等』が力を貸してやったというのに。しかし、まあよいだろう」

 

そう言って私はそのかぎ爪を銀行員の首に向ける。

その爪はまるで返答次第ではその命を容易に奪ってやると言わんばかりに鋭く、そしてこのキヴォトスでは異質であった。

 

「哀れな組織の駒よ。貴様らの上の組織が行っている資金の流れが記された書類……それはどうもデータベース上ではなく今貴様が持っているようだな」

「はっ、はい!!」

「それを『我等』に差し出すのだ」

 

まるでデータベースを覗いた事があるようにしておいた。

これで後でカイザー側に報告が行った際、奴らは驚愕するだろう。

この謎の黒法衣たちは既に多くの不正を知っている可能性があると、そしてその組織を血眼になって探すだろう。

この謎の組織を、ありもしない存在を。

 

「そ……それは……」

「今この場でその哀れな命を差し出すでも、構わん。『我等』の大願、そのための贄となると言うのならば」

「こ、これです!!こちらになります!!」

 

私は差し出された書類をそれが目的のモノであるかを確認し、わかるとそのかぎ爪を首から離してやった。

忠誠よりも命が大事なはずだ。

こんな訳の分からない奴に消されたくて、銀行員になったわけでもないだろう。

 

「発信機もなしか。賢明な判断だ、そのようなものを付けていれば貴様の命など吹き消される炎と同じなのだからな」

 

そう言って、書類をシロコへと手渡す。

これで目的のモノは手に入ったという合図にはなるだろう。

 

「ブルーよ、その書類の内容等見ようとしない事だ。命が大切ならば駒に徹するがいい」

 

少し酷いアドリブではあるが、必要なものだ。

共に『罪』は背負うと言った、だがその中でも少しくらいこいつらが狙われないようにしても許されるだろう。

むしろそれくらいはさせて欲しい。

 

「う、うん。了解」

 

私の普段との差に戸惑っているのだろうか。

仕方ないか。私自身もアシエンの全員と言うよりかは特定の個人……ラハブレアの爺さんに寄せ過ぎている気もする。

アシエン・ラハブレア、世界を渡り身体を変え使命を果たそうと常に燃え盛り続けた男。

そして、その依り代に成り済ましている間は疑わせることなく演技を続けた男でもある。

だからこそ、私は敬愛しそして寄せてしまうのかもしれない。

 

もし、ラハブレアが『先生』なら言葉は足りずともその行動で語るだろう。

きっと私よりも迷いを見せずに動いて。

記憶を取り戻したエリディブスならもっと上手く立ち回れるはずだ。判じるにせよ、行動を共にするにせよ。

オリジナルの中で一番、私が最も向いてないと思う。

それでも、いやだからこそ。

私はお前たちから学び、そして不格好ながらも共にあろう。

 

「では、愚かな銀行……いや、闇銀行とでも言うべきかな?諸君らの上層部にもよろしくお伝え願おうか。『我等』はこのキヴォトスを()()させし者……天使い『アシエン』。ではな、小さき命よ」

 

残り2分弱。

ここらが引き際だ。

目的を達成しただけではなく、しっかりとこの裏世界に『アシエン』なる存在を刻む事が出来た。

これからは、裏社会を生きる者も『アシエン』に戦々恐々とすることだろう。

突然現れ、そして消えていくそんな私に。

 

『それじゃ逃げるよー! 全員撤収!』

『アディオ〜ス☆』

『け、ケガ人はいないようですし……すみませんでした、さよならっ!』

 

既に撤退を開始する覆面水着団を守るように私が立ちはだかり、その手に炎を宿す。

 

「優秀な駒をみすみす差し出すと思ったか?劫火よ、走れ!」

 

私の詠唱と共に、複数の火の球が現れ眩い閃光と共に爆発し煙を発生させる。

既に彼女たちは退却したようだ。

ならば、私もこんな場所に用はない。

煙によって視界を妨げているうちに、消えるとしようか。

 

00Ⅲ

 

『はひー、息苦しい。もう覆面脱いでいいよね?』

『のんびりしてらんないよー、急げ急げ。追っ手がすぐ来るだろうから』

『できるだけ早く離れないと……間もなく道路が封鎖されるはずです……』

「その点は問題ない。通信機能だけはまだ妨害しているからな」

 

『テレポ』で我先に合流地点に到着し、その過程で既に元の服装に戻っていた私は『シッテムの箱』で状況を確認していた。

10分とはあくまで施設の完全制御であり、徐々に復旧されようとも内部の情報だけは確認できるようにアロナがしてくれていたようだ。

 

『やつらを捕えろ! 道路を封鎖! マーケットガードに通報だ! 一人も逃すな!』

『だ、駄目です! 通信機器が妨害されています! 恐らく、『アシエン』が既に手を打っていたものと思われます!』

 

慌てふためく奴らを見るのは敵である限り気分のいいものだ。

ラハブレアの爺さんめ……存外、こういう部分は楽しんでいたんじゃないのかとすら思えるくらいに。

私自身、楽しかったからな。

 

「あと少しだ、走れ」

 

『テレポ』で連れて行っても良かったのだが、万が一体に異変など出た大変な事になる。

だからこそ、予定通りそこは陸路で脱出してもらう事になったわけだが。

不用心と言うか、何というか。

シロコ以外は既に覆面を外して行動している。暑くて息苦しいのはわかるが服を変えられないのならせめて覆面くらいは着けておくべきだろう。

シロコの場合は別の理由だろうが。

 

『あの、シロコ先輩……覆面脱がないの? 邪魔じゃない?』

『天職を感じちゃったって言うか、もう魂の一部みたいなものになっちゃって、脱きたくないんじゃなーい?』

『シロコ先輩はアビドスに来て正解だわ……他の学校だったら、ものすごい事をやらかしてたかも……』

『そ、そうかな……』

 

後輩からの中々に鋭い評価を受けてか、流石のシロコも覆面を外す。

まあ後輩からの言葉をすんなりと受け入れられるのはいい事だ。

私はどうだったか……

そしておそらく通信越しに急いで覆面を外したアヤネ、そもそもお前は通信だけでホログラムを出さないなら着けなくても良かっただろうに。

 

そうして、最高の演技を見せてくれた劇団員たちが合流地点に着いた所で

 

『封鎖地点を突破。この先は安全です』

 

とアヤネが報告した。

その報告と同時に私も路地から姿を現す。

多少驚かれはしたが、数々の謎の現象についてへの驚きではなくヌルりと路地から出てきた事への驚きだった。

……もしかしたら、ホシノが事前に話していたのか。『化物』を見る目ではなかったのが正直なところうれしい。

 

「任務は完了だな。お前たち全員、素晴らしい演技だったぞ」

「やった!大成功!」

『本当にブラックマーケットの銀行を襲っちゃうなんて……ふう……』

 

流石に疲れが見えるな。

こういう時に人間と言うのはアドレナリンという脳内物質を生成し興奮を維持するらしいが、それが消えてしまうとこのように疲れ果ててしまうようだ。

もちろんこれは、キヴォトスに来てから知ったことなのだが。

 

「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってるよね?」

「うん、バッグの中に……」

「……へ?なんじゃこりゃ!?カバンの中に……札束が……!?」

 

こればかりは仕方ない。

主目的を果たすために、私が登場した事で筋書が変更になったことと混乱した銀行員が悪い。

シロコが悪いわけではなく、私か銀行員の責任だろう。

 

「……そうシロコを責めてやるな。仕方ないだろう、まさかあんなに混乱されるとは思ってもいなかったんだし」

「うへ、軽く1億以上はあるね。本当に5分で1億稼いじゃうなんて」

 

皆、1億という金額に一瞬だけ目を輝かせるがすぐに現実へと引き戻された。

確かにこれを使えば残り9億ほどにはなるが、結局それがカイザーコーポレーションの陰謀に使われるのならば持っていても仕方がないのだ。

 

もちろん、寄付するという選択肢もある。

恵まれない者たちが多少なりとて善き未来を歩めるように。

だがそれは、余裕のある者がすることで今絶賛苦しんでいる者がするべきことではないのだ。

 

さて。

お前たちはどう『選択』する?

 

「私たちに必要なのは書類だけ。お金じゃない。ここでこのお金を持っていったら、次はどうする?その次は?こんな方法に慣れちゃうと……ゆくゆくは、きっと平気で同じことをするようになるよ」

 

ホシノが全員を見た後に、私を見て胸の内を明かす。

犯した『罪』は書類を強盗したことであって金を強盗したことではない、と諭すように。

 

「そしたら、この先またピンチになった時……『仕方ないよね』とか言いながら、やっちゃいけないことに手を出すと思う。そうやって学校を守ったって、何の意味があるのさ。おじさんは、そう思うよ」

 

悩む後輩への先輩の想いなのだろうが、どうしてもその言葉は私に刺さってしまう。

かつて自分たちが生きていた頃の姿に戻すため、鏡像世界の統合およびゾディアークの復活を計画しその為ならば文字通りどんな手段でも行った。

霊災を引き起こし大勢を手にかけ、利用し傷付けた。

もしそれで私たちが同胞たちを取り戻していたとして、私の友は暖かく迎えてくれたのだろうか。

 

疑問に思って、星海で尋ねた時にヒュトロダエウスはこう返した。

 

『過程や結末がどうであれ、キミは最期まで投げ出さずに一人で背負い続けた。そんなキミを賞賛を送らずに何を送ればいいんだい?』

 

と。

 

その言葉でどれほど救われただろうか。だが、それでも私にだって思うことはあるのだ。

あの時の私は、友が愛してくれた私ではなかったのだと。

だから誇り高き目標があって心まで本当の『悪』にならずに済むのなら、我が儘だが『善き人』のまま生徒には進んでほしい。

 

「いくら頑張ったって、きちんとした方法で返済をしない限り、アビドスはアビドスじゃなくなってしまう……」

「うへ、そういうこと」

「だから、このバッグは置いていこう!みんなもそれでいいよねー」

 

誰一人文句を言う事はなかった。

全員が一瞬だけ私を見て、同意の言葉を述べていく。

 

『……今更、罪が一つ増えたところで私が変わる事はない。もう数え切れないほどこの手を汚してきたのだからな』

 

あの言葉が原因だろうな。その汚れが強盗の類で無いことくらいこの場の全員が察しているのだろう。

ホシノが言った言葉、その行きつく先が私でありそして、そうなって欲しくないという私の我が儘も汲んでくれている。

強いて言うなら、『それでいい』だろうが別に言うこともない。

自ら選んでくれたのだから。

 

『……!!待ってください! 何者かがそちらに接近しています!』

「追手のマーケットガード!?」

『……い、いえ。敵意はない様子です。調べますね……あれは……べ、便利屋のアルさん!?』

 

アヤネの言葉と共に全員が急いで覆面で顔を隠す。

だが、私はこの場で『早着替え』を披露することはせずに待った。

忽然と消えた『アシエン』がここで悠長に雑談しているのもおかしな話だろうし、それに『私』はまだ罪を被っていないからな。

 

「はあ、ふう……ま、待って!!」

「……!」

「あ、私は敵じゃないから……って、え、エメトセルク先生!!」

 

そんな固まるほどじゃないだろうに。

お前の計画を策によって瓦解させた私がここに居たとしてそれはあるかもしれないことだ。

 

「アルか……随分と、全力で、来たんだな」

 

いつの間にあの場から抜け出してここまで来たのか、そればかりはとても気になる。

ただ全力で走って来たとでもいうのか。

 

「ま、まさか先生が……彼女たちと知り合いだなんて!!もしかして、先生は……」

 

『アシエン』と気が付かれたか?

いや、魔導士とムツキに伝えたがアルは信じないだろうと思っていた。

 

「……まあ、知り合いだが」

「謎の存在『アシエン』……まさか先生もそれを知っていてここに?それに、あなたたち……銀行の襲撃、見せてもらったわ……。ブラックマーケットの銀行をものの5分で攻略して見事に撤収……稀に見るアウトローっぷりだったわ」

「……!?」

 

まさか強盗行為そのものを賛辞を言う為だけにここまで走ってきたのか?

それに私が『アシエン』を知っているまで読めるのはいいが当の本人と思っていないようだ。

同様に、『覆面水着団』がアビドス対策委員会とゲスト1名で構成されているとも知らないと。

 

「わ、私も頑張るわ! 法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂! そんなアウトローになりたいから!」

「いや、そうは言ってもだな……」

 

この際、アウトローに憧れるのは度外視しても強盗は基本的にするべきじゃないだろう。

仕事ならまだしも、いや仕事でもだ。

 

「そ、そういうことだから……な、名前を教えて!」

「名前……!?」

「その、組織っていうか、チーム名とかあるでしょ? 正式な名称じゃなくてもいいから……私が今日の雄姿を心に深く刻んでおけるように!」

 

ホシノが困惑して私を見る。

うへ……なんか盛大に勘違いしてるみたいだね……先生、どうする?、と目で訴えかけているがこればかりは知らんと言いたい。

 

「ああ…えーっとだな。何だったか、お前たちの名前」

「私たちは、人呼んで……覆面水着団!」

「……覆面水着団!? や、ヤバい……!! 超クール!! カッコ良すぎるわ!」

 

初めてノノミのネーミングセンスが受けた瞬間である。写真で取れるのならばとっておくべきだ。

本当か?本当に、クールでカッコ良いのか?

若者のセンスと言うのはまだまだ、掴めるものではないな。

ペロロ然り。

 

「うへ〜本来スクール水着に覆面が正装なんだけどね、ちょっと緊急だったもんで、今日は覆面だけなんだー」

 

スクール水着に、覆面……

ここまでくると、カエルやブタの着ぐるみとかしたあいつよりもたちが悪い。

そんな奴らが強盗などするわけないだろう。

それにそれはもう、裸で走り回っているのと大差ない別の犯罪集団だ。

 

「そうなんです! 普段はアイドルとして活動してて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗に変身するんです!」

 

今は昼だ。

 

「そして私はクリスティーナだお♧」

「『だ、だお♧』……!? きゃ、キャラも立ってる……!?」

「うへ、目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これが私らのモットーだよ!」

「な、なんですってー!!」

「…………」

 

もうだめだ。

こうなっては『覆面水着団』を見込んで依頼をした『アシエン』がただの変人コスプレ仮面と思われかねない。

 

「……何してるの、あの子たち……」

「わー、アルちゃんドはまりしちゃってるじゃん。特撮モノのイベントに連れてってもらった子供みたいな顔してる!」

 

アルの後ろにはムツキたちも追いついてきて、笑っている。

ムツキなら大体察しているだろうから、余計たちが悪い。

 

私は眉間に皴を寄せて、悪乗りを続けるノノミとホシノへ訴えかける。

ここは私がどうにかするから、早く帰れ!っと。

 

「おっと、このままいるとこわーい『アシエン』さんに見つかって何か言われるかもしれないからそろそろ帰ろっか!行こう、夕日に向かって!」

「それじゃあこの辺で。アディオース~☆」

 

私の圧に対して、こわーいと冗談振りながら『覆面水着団』は帰路に就いた。

強盗の時よりも疲れたな。

 

「そ、それで先生……」

「なんだ、『覆面水着団』についてならもう辞めろ聞きたくない」

「ち、違うわよ!!」

 

そう言って、先ほどの輝いた目から真面目な目と変わりアルは続ける。

 

「せ、先生は……え、えーっと……」

「アルちゃん、ズバっと聞いちゃいなよ!エメちゃんは本当に魔法使いなのーって」

「なんだ、その事か……」

 

『アシエン』ですか?とか『覆面水着団』のメンバーですか?と聞かれたら流石の私も反応に困ったが、魔法についてならもういいだろうか。

ムツキに言った内容と違う内容でもおかしいし。

 

「ほ、本当に……?」

「ああ、私は魔導士だ」

「え、ええええ!!」

「ほら、言ったじゃん!!」

 

恐らく便利屋内でも対策会議が開かれたのだろう。

どうやって、アビドスを倒すか。

その過程で必ず私の話題になるはずだ。

 

「と言うか。エメちゃんさ、『アシエン』なの?」

 

アルではなく、言うだろうと思われたムツキから切り込まれた。

逃げてもいいのだと。

だが、『アシエン・エメトセルク』としての私がそれを否定する。

例え、この世界でもその名を名乗ったのならば背負い続けろと。

それこそが、その名を利用した者が取るべき『責任』だと。

便利屋68がそれを周りにバラすとも思えないし、もし私がそれを認めて彼女たちが手を取り合える仲間となれば、アビドスの力となってくれるだろう。

 

「……そうだ」

「やっぱりー!魔法使いがエメちゃん以外いても困るよねーって思ってたんだ」

「……本当に魔法使いで、『アシエン』なんだ」

 

ムツキとカヨコか。

二人はすんなりと受け入れてくれた。

だが、肝心のアルは固まったままだ。

 

「ちょ、ちょっと待って!!じゃあ、エメトセルク先生は本当に、魔法使いで『アシエン』なの!?」

「だから、そう言ってるだろう……」

「じゃ、じゃあ!『アシエン』ではなんて名乗ってるの?」

「……は?」

「ほら、組織での異名くらいあるでしょう?本名を名乗るわけにもいかないし……」

 

そもそもだが、エメトセルクという名前が本名ではないのだ。

私自身が、エメトセルクと呼ばれた時間の方が長いだけで。

 

全ての生徒に向き合うと決めているのならば、遅かれ早かれ真なる名前を教える日が来るだろう。

それがどのタイミングかは生徒によって違う。

 

「第三の座、『アシエン・エメトセルク』だ」

「第三の座……『アシエン・エメトセルク』……第三の座ってカッコいいけど、『アシエン・エメトセルク』は本名そのままじゃないかしら」

「一つだけ、教えてやる。私は確かにエメトセルクと呼ばれた時間の方が長いが、それは本名ではない」

「……え!?」

 

便利屋68に衝撃が走る。

当然だ。ニュースにもなった男の名前が実は偽名で本名は別。

しかもそれを明かすのは本人たちは知らずとも、キヴォトスで初めての相手なのだから。

 

「勘違いするな。エメトセルクと呼ばれた方が長いと言っただろう?元々は本名だったが、仕事の関係で『エメトセルク』になり、後から其処に『アシエン』が付いた。だから私を指す名前として『エメトセルク』は間違ってない。友ですら公的な場では『エメトセルク』と呼んだから嘘じゃない」

「……エメちゃんの本名はなんて言うの?」

 

ムツキの言葉は全員の思いなのだろう、揃って私を見る。

教えろ、という圧を感じるがそれを名乗るわけにはいかない。

お前たちは『まだ』だ。

 

「……ここでそれを聞くか?まあ、いつかときが来て、お前たちはそれを知るかもしれないし知らないまま終わるかも……だ」

 

そう言って私は懐から『シャーレ』の名刺を出してアルへと手渡す。

モモトークの連絡先や事務所の連絡先諸々が書かれた便利な名刺だ、使ったことはなかったのだが。

 

「だがそれでも、『私』を知りたければ……そして、お前たちが共に『仕事』をする決心がついたら、連絡しろ」

 

そう言って、私は1億円が入ったカバンを置いて帰路についた。

その金でもう一度再起を図り、挑むならそれもよし。どうせカイザー側の金だ、その時は全力で相手をしようじゃないか。

逆に手を取り合って戦うと言うのならば、例え再び擦り切れようとも最後まで共にあろう。

 

私はいつもの別れ際の挨拶として、手を払うように振り対策委員会の後を追った。




めちゃくちゃ悩みました。
けど、やっぱりエメトセルクにはヒカセンの着ぐるみシリーズを着せる事は出来なかった。
ヒルフィルさんに変装しても良かったんですけどね(声繋がり)、やっぱり罪を共に背負うとなればこそかなと。

それにしてもラハブレアって演技力もしっかりしてたなと改めて思います。

さて、キヴォトスで初めてエメトセルクの名前を知るのは誰になるのか。

今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)

  • 原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
  • 変則(エ→パ1,2→兎)
  • その他(コメントでお願いします)
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