──最強の存在。
その言葉を聞いて誰を思い浮かべるだろうか。
災厄の狐の異名を持つワカモ、アビドス対策委員会のホシノ……
私がこの時点で出会ったキヴォトス最強の生徒候補たちはみなそれぞれの事情を持ち、明かせぬ過去を持っていた。
そして私が今日であったゲヘナ最強の存在……ヒナもまた身の丈に合わない苦労を背負っている様に見えた。
だから、私は少し後悔したのだ。
彼女の組織にした──
随分と大人げない行動を
00Ⅰ
『エメトセルク先生! 大丈夫ですか!?』
アロナの声が響く、本来ならこういう場面はアロナに任せればいいが対処できる時間があるとどうしても自分で対処してしまうのが私だ。
だがそれでも、とっさに生徒を優先したために一瞬遅れた障壁生成をアロナがカバーしてくれたのだ。
命の恩人、と言うべきなのだろうな。
「……問題ない」
『良かったです……でも、先生は自分を守れるからって無茶しすぎです!! こういう時は、少しくらい私を信じてください!』
「次があれば……お前に頼むよ」
『シッテムの箱』は現状、便利なハッキングマシーンと仕事の振り分け等にしか活用出来ておらず本来の役目である私の守りの面ではあまり有効活用されていないのだ。
だが、今回は本当に助かった。
思ったより早く飛んできた擲弾を防ぐためには、一つの穴も許されずもし穴に当たっていれば私は無事でも生徒がどうなったか……おそらく死にはしないだろうが、気分の良いものではない。
「何……?」
『砲撃です!! 3kmの距離に多数の擲弾兵を確認! 50mm迫撃砲です! 標的は私たちではなく便利屋の方みたいなのですが……兵力の所属、確認できました!! ゲヘナの風紀委員会! 一個中隊の規模です!』
また新しい登場人物か……
だが、ゲヘナの風紀委員会と来たか。
なら、対処は出来るな。
「アロナ」
『はい! なんでしょうか!』
「パンデモニウム……ああ、癖でそう言ってしまうな。『万魔殿』の連絡先を調べられるか?」
『その程度、スーパーアロナちゃんにかかればお茶の子さいさいです!!」
「完了したら表示して、いつでも連絡できるようにしておけ。あと、会話があれば逐次録音しろ」
『了解です!』
もちろん正当な理由での行動なら目を瞑らざるを得ないが、こちらが納得できない行動ならば『大人』の方法で対処する。
「全員、武器の準備を……もうしてるか」
「ん、先生はこういう時絶対言うから」
「よし……なら」
一番防壁を厚くすることが出来た便利屋の方を見やる。
「私が守ったんだ、問題ないと思うが念のために聞くぞ。無事か?」
「傷一つないよ! 服が汚れたけどね……」
「風紀委員会、狙いはお前たちだ」
「……っ、社長、ムツキ、ハルカ! 早く隠れよう、やつらが来た!」
やはりゲヘナ内での組織と言えば名前の上がる風紀委員会は便利屋68にとっても相対したくない相手か。
擲弾では無傷と言っても、自爆分のダメージはあるだろう。
だが、こいつが逃げを優先するほどの相手か?
パッと見た限りでは、それこそホシノ級の奴など見当たらないが……
「ちっ……!」
一度目の攻撃の効果を確認できるほど、煙は晴れていないにも関わらず再び便利屋68へ飛んでくる擲弾を防壁を貼り防ぐ。
このままでは埒が明かない。対策委員会は念のため戦闘準備は済ませていても、実際に戦うかは彼女たちが相談している最中。
そして、便利屋68は私が防壁を張っている間はそこから動けない。
「何をしている! 逃げるなり、戦うなりさっさと決めろ!」
「エメちゃん、これまだ持つ?」
「この程度では割れない! だが、相手が生徒な以上は私に出来るのはここまでだ! お前らが決めない限り、砲撃は止まない」
色がない防壁だからこそ、目視で確認するのは難しいがそれでもそう何度も防いでいては怪しい限りだ。
今ならまだユウカの様なシールドと言い張れる。
「……先生、ごめん。風紀委員会だけなら私たちでもどうにか出来るけど、ヒナが来てたら私たちだけじゃ勝てない」
ヒナ、と言う存在については私も何度か記事で見かけた事がある。
曰く、『最強』。
一人でほとんどの敵を倒せてしまう、まさしく正義の執行者。
カヨコの反応を見るに誇張ではない。
となれば、私たちが相手にするのは
しかしだとしたら、それほどの強者らしい魂を見掛けられないのはどう言う事だ。それにここまで念入りに砲撃をする必要もないだろうに。
「なら、とっとと尻尾を巻いて逃げろ! 今なら爆風に紛れて逃げられる。敵に無様な姿を晒さずに済むんだからな!」
随分なモノ言いだと自分でも思ってはいる。
勝てない相手から逃げるのは悪い事ではない、かの英雄様もそうやって何度も危険な局面を切り抜けてきた。
私がいた第一世界では、ユールモアの大将軍・ランジートに幾度となく苦戦させられそして逃げるという手を使っていた。
齢88歳でありながらあの男は異常な強さを持つだけではなく、踏み込んで跳躍するだけでまるで『テレポ』でも使ったかの様な速度で移動できたほどだ。
もし件のヒナという少女があの老兵レベルであれば、さもありなん。
だが、それでもこの言い方はアルなら気に障るだろうなと。
幾ばくかの邪な考えを含んでいた。
「……ふふっ。ふふっ、ふふふふっ」
「……社長?」
まだ付き合いは短いがそれでも、こいつの好きなモノや譲れないモノくらいは分かっているつもりだ。
そして、私の邪悪な作戦は見事に成功したのだ。
「……ねえカヨコ、あなたはもうとっくに私の性格、分かってるんじゃなくて?」
「…………」
「こんな状況で、こんな扱いをされて、先生に守られて、まして……
「……あはー」
アルの発言に、ムツキがこれまでに見たことのない凶悪な笑みを浮かべる。
なるほど、やはりお前たちはイイ仲間だよ。
「甘く見てくれるじゃない、エメトセルク先生!!」
「……戦うなら、次の砲撃は守ってやらんからな」
「結構よ! あなたと並び立つに相応しい、
ラハブレアの話が余程、響いたのだろうか。
私が爺さんを形容するときに使った言葉をそのまま引用して使ってきた。
ならば、こちらもお前の礼儀で返そう。
「私と並び立つだと? ふん、そんな言葉はな、あの風紀委員会を全員倒してから言え!」
私の笑みに、アルたちは戦闘準備で応えた。
よし、こちらもいけるな。
「で、アビドス対策委員会としての対応は決まったか?」
『はい、他の学園の風紀委員会の暴挙を許しておくわけにはいきません!』
「せっかく、先生と私が纏めた話をめちゃくちゃにして!!」
他二人も同様らしい。
では、もう言う必要もないか。
私は携帯を取り出して見知った『魂』を持つ者へと連絡をかける。
風紀委員会の集団の中に居たのは確認済みだ。
「久しぶりだな、チナツ」
『え……!? ……まさか、シャーレのエメトセルク先生!?』
『ん? シャーレ? なんだそれ?』
チナツの電話口から聞いたことのない生徒の声がする。
まあ、それもそうか。
にしても、声がデカいな……
「ゲヘナに来てくれと言うのを無視した腹いせにこれか?」
『い、いえ。そういうわけでは……むしろ先生こそどうしてここに……!』
「どうしてって、私はシャーレだぞ? 仕事に決まってるだろうに。まあそんな事より、こんなことになって残念だよ」
『イオリ、この戦闘は行ってはいけません!』
チナツは自分自身が私が指揮する戦闘を経験している。
そして、そのうえで私が戦車を破壊するところも目撃してしまっているのだ。
となれば当然、その『不思議な爆発』が自分たちに向くことを警戒する。
しかし。
『もし邪魔するなら、部外者とはいえ問答無用でまとめて叩きのめす』
『あっ、待ってください! ……止められませんでした』
「なら仕方ないな」
『……』
敢えて一呼吸を置く。
別にチナツやイオリと言われた少女、風紀委員会に恨みがあるわけではない。
これが終わったら幾らでも時間は割いてやる。
しかし、結果的に私の『計劃』を妨害するような事態になったことへの
「盛大にもてなそうじゃないか、風紀委員会諸君?」
そう言って私は連絡を切った。
00Ⅱ
カヨコの言う通り『風紀委員会だけ』なら相手にならないと言うのは間違いではなかった。
確かに、ヘルメット団よりは強いが個々の強さで突出していたのはイオリくらいでそれ以外の一般的な風紀委員会の兵士―はそこまで強くは無かった。
確かに統率について言えばこれまで戦ったどの集団よりも『軍隊』として優れていたのだが、致命的だったのはあれだけ放った砲撃が何の成果も挙げられていなかった所であり、それを知らずに突撃してきた所をハルカが恐らくは対アビドス対策委員会用に設置していた爆弾で数を減らし、何とか越えてきた者も7人からの集中砲火を受けて倒れていく。
こういう時、爆破のプロがいるだけで随分と変わるものだと私は眺めながら思っていた。
「な、なに?! 私たちが負けただと?!」
「先生……こんな形でお目にかかるとは……先生がそこにいらっしゃることを知った瞬間、勝ち目はないと判断して後退するべきでした……私たちの失策です」
「久しぶりだな、チナツ。まあ、よくやったんじゃないか? こっちの方が事前準備が良すぎただけだ」
チナツが止めようとしたのは間違いではないのだが、それを指摘すればまず間違いなく知ったことではない行くぞと号令したイオリが悪い事になる。いや、確かに失策ではあるから指摘すべきなのだが……
こちらとしてもざわざわ教えて次回対策しますとされては面倒だしな。
今後もある場合ではあるが。
「それで? 所属は聞くまでもないだろうが……何しに来た?」
『それは私から答えさせていただきます』
風紀委員会の端末から、ホログラムが投影され中々に凄まじい恰好の人物が現れた。
キヴォトスに来て見た中で異色と言えばワカモの服装だったが、これはまた別次元で異色だ。
どれくらいかと言えば、イシュガルドやガレマルドでは凍えるレベルだ。
「アコちゃん……」
「アコ行政官……?」
『こんにちは、アビドスの皆様、そして『シャーレの』先生。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します』
行政官。
説明のために出てくると言うことは、彼女がこの事態の首謀者か?
『今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「アコちゃん……その……」
『イオリ。反省文のテンプレートは私の机の、左の引き出しにあります。ご存知ですよね?』
随分としょんぼりした顔でイオリが俯く。
反省文はイオリだけが書くべきものではなくお前たち全員が書くべきものだろ、と今この場で言ってやりたいものだ。
実際、イオリの責任ではないだろう。監督していたなら、お前の責任でもあるはずだろうに。
『行政官ということは……風紀委員会のナンバー2……』
『あら、実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして……』
「本当にそうなら、そこの風紀委員たちがそんなに緊張するとは思えない」
だ、誰が緊張しているって!? 、とイオリが吠えてはいるがシロコが正しい。
補佐や秘書如きがこれほどの圧を味方に出せるだろうか。大体そういう手合いが口うるさくして来てもうるさいと思われるのが関の山。
つまり、アコは少なくとも風紀委員会においてはその実力を認められた存在。
単純な武力ではなく、頭脳担当と言った所か。
『……なるほど、素晴らしい洞察力です。確か……砂狼シロコさん、でしたか?』
「……」
少し威圧感を感じる笑顔で対応をするアコにシロコたちは警戒を解かずに対応しようとしている。
しかし、これでは相手に立て直す時間を与えるだけだ。
「そんな事はどうでもいい。説明すると言いながら武器を構えているというのは落ち度のある側として随分と無礼じゃないか」
故に私は口を挟んだ。
次はハルカの事前準備無しだ。流石にそれでこの人数の相手は連戦もあって危険だろう。
『それもそうですね、『シャーレ』の先生。失礼しました。全員、武器を下ろしてください」
アコの合図で全員が武器を下ろす。
だが、私はアビドスと便利屋に武器を下ろすようには指示しない。
何より、目の前の少女は私をわざわざ肩書で呼ぶ。
『先生』だけならまだしも、『シャーレ』までつけると言う事はこちらを警戒している証拠だ。
故に、正当な報復をしているだけの我々が武器を下ろす必要はないだろう。
『先ほどまでの愚行は、私の方から謝罪させていただきます』
「なっ、私は命令通りにやったんだけど!? アコちゃん!?」
『命令に「まずは無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれてましたか?』
「い、いや……状況を鑑みて必要な範囲で火力支援、その後に歩兵の投入……戦術の基本通りにって……」
『ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?』
ああ、本当にイオリが言った通りの指示しかしていないのだろうな。
それで制圧出来ていれば恐らくは説明などせず撤退していたのだろうが、上手く行かなかったので現場の責任にしてここはとりあえず自分には落ち度がないという立場を取ると。
『失礼しました』
何とも心の籠っていない謝罪だ。
いや、いちおう部下の行いは受け止めている風には見えているが中身はない。
『私たちゲヘナの風紀委員会はあくまで、私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました』
狙いは便利屋68で我々ではないという風に視線を便利屋へ向ける。
こういう手合いはつまり、別の狙いがありそうだが。
『あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言いきれないでしょうし……やむを得なかったということでご理解いただけますと幸いです』
認識を改めよう。
相手は少女だが、政治家タイプだ。
この謝罪行為すらも行いそのものを有耶無耶にするための交渉のカードに過ぎず、そして向こうはこちらにそれに長けた生徒がいないと踏んだのだ。
シロコの名前を知っているという事は、トリニティの『ティーパーティー』同様にアビドスの現状をある程度は知っているはず。
故に賢い選択だった……この私がいなければな。
『先ほども言いましたが──』
何かを言い返そうとしたアヤネを私は手で制す。
こういう相手には正論では勝てない。そして、お前はまだ政治家ではない。
全ての問題が解決した時にこういった問題に対処するようになるが、今はこんな些細な問題に頭を悩ませるべきではないんだ。
「のらりくらりかわす方法としては、非常に高得点だ。なんせ、この場にはお前みたいなタイプの
『……エメトセルク、先生でしたね。私はただアビドスの生徒会の方と話をしたいだけなんですが?』
「だから言ってるじゃないか、非常に高得点だと。生徒会なんて存在しない事くらい調べはついているだろうに、わざわざ、回りくどく、話して時間を稼ごうとしているんだからな」
こういう手合いの対処法は相手の神経を逆なでする事だ。
どうせこの場でまともな『誠意』が帰ってくることもないだろうし、それにこちらには『切り札』の用意も出来ている。
生徒相手に大人げはないが……それでも『政治』に関わる者への授業として言いたい。
『随分と高圧的ですね……いくらシャーレでも風紀委員会の公務を妨害する権利はないと思いますが?』
「だったら、その公務が正式な公務であるという証拠でも見せたらどうだ? その方が一番手っ取り早くアビドス対策委員会を納得させられると思うぞ?」
説明を行う監督者ないし、責任者として出てきたのがナンバー2の行政官。
という事は、委員長であるヒナは不在だろう。
一人で制圧できるほどの強さを誇る者がこの場にいるなら早々に出撃させるだろうし、もし戦場に出ずともそれこそ証拠くらいは出せるはずだ。
『……なるほど。こういう事がお得意なんですね、『シャーレ』の先生? 前職は政治家でもされていたのでしょうか』
「どうだろうなあ? 一国の政治家かもしれんし、独裁官だったかもしれんし、もしかしたら皇帝かもな?」
『……』
アコからすれば何とつまらない冗談だと思っているかもしれないが、全て事実だ。
ソルとして軍制改革を行い、国家の最高指導者『独裁官』に就任。そして、その後は共和制を廃して初代皇帝になったのだ。
だが、生徒からしたらどう聞いても嘘に聞こえるだろうな。
「で? 証拠はいつ見せてくれるんだ。証拠もなしに便利屋だけの為にこんな大勢の兵隊を連れて来ました、これも活動なんです理解してください、じゃあ誰も納得しないだろう?」
『証拠とおっしゃいますが、それをあなたに提示する義務がありますか? 兵力についても便利屋を逃がさない為に必要なわけですから──』
「
『あら?』
このまま続くようでは『切り札』を切るかと考えていた矢先、アコの発言をカヨコが遮る。
……嘘だと。
少なくとも兵力を多く連れてくるのは理にかなっているだろう、ヒナがいなければどうにかなるという相手なのだから。
ということは、私は根本的なモノを見逃したということか。
「最初からあんたが狙ってたのはこの状況だった」
『……面白い話をしますね、カヨコさん?』
「……最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか、理解できなかった。風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由、それも私たちを狙って?」
まあそこはそうだ。
わざわざ外交問題を抱えてまで乗り出す程でもない。
風紀委員会がカイザーコーポレーションの側とも考えられない以上、危険な橋を渡らずともゲヘナに戻った所を狙えばいい。
「こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方じゃない。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」
証拠を一向に提示しないと言うのはつまり、万魔殿もしくは風紀委員長の正式な裁可を受けたものでない。
とすれば委員長が極秘裏に命じたかアコの独断専行だが、前者はカヨコの指摘を信じるならば消える。
『…………』
「それに、私たちを相手するにしてはあまりにも多すぎるこの兵力。他の集団との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく。とはいえ、このアビドスは全校生徒集めても五人しかいない……なら結論は一つ」
アビドスでも、便利屋でもないとなれば残るは……
盲点だったな。確かにその可能性はあるはずだが最初に消したよ。
なんせ、狙っても無駄だから。
「アコ、あんたの目的は『シャーレ』。最初から、エメトセルク先生を狙ってここまで来たんだ」
00Ⅲ
「な、何ですって!?」
「先生を、ですか……!?」
対策委員会の驚きが木霊する。いや、私自身も驚いてはいるさ。
チナツの報告を聞いていないのか?
何らかの方法で戦車を破壊した私をどうやって狙うんだ。
それとも、非現実的としてチナツが消した報告を上げたか。
『ふふっ、なるほど。……ああ、便利屋にカヨコさんがいることをすっかり忘れてました。のんきに雑談なんてしている場合ではありませんでしたね……まあ、構いません』
アコがまるで私がやるように指を鳴らすと、待機していた部隊が続々と展開を開始する。
本当に私とやり合う為に揃えたというのか。
随分と冒険家だな。
『12時の方向、それから6時の方向……3時、9時……風紀委員会のさらなる兵力が四方から集結しています……!』
「……増員」
『まだいただなんて……それに、こんなにも数が……!』
確かに、多いな。
ホシノ抜きの実働3名+便利屋4名では重いだろう。私を守る兵力と考えれば確かにアコの選択は間違ってはいない。
根本から間違えてしまっている点を除くがな。
『うーん……少々やりすぎかとも思いましたが……シャーレを相手にするのですから、これくらいあっても困らないでしょうし……。まあ、大は小を兼ねると言いますからね☆』
なんとも余裕そうな口ぶりだ。
こんだけ部隊が居ればそれはそうなるだろうが。
既に事態はお前の手の中にはない。
こちら側が主導権を握っているとも知らずに……
『それにしても、流石カヨコさんですね。先ほどのお話は正解です。……いえ、得点としては半分くらいでしょうか? 確かに私は、シャーレと衝突するという最悪のシチュエーションも想定していました。しかし、この状況を意図的に作り出したわけではありません。それだけは信じていただきたいのですが……どうやら、難しそうですね』
「独断とバレるや否や、これとは。信じてやろうにも準備済みじゃあ無理だな」
『仕方ありませんね。事の次第をお話ししましょう。……きっかけは、ティーパーティーでした。もちろんご存知ですよね、ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にある、トリニティ総合学園の生徒会のことです』
ついこないだその組織と関わりのある生徒と会ったばかりだ。
そして敵対とは生ぬるい、一部では憎悪し合う関係である事も知っている。
『そのティーパーティーが、シャーレに関する報告書を手にしている……と。そんな話が、うちの情報部から上がってきまして』
ヒフミ、あいつ本当に報告したのか。
なんて律儀で義理堅い奴なんだ。元気付けるための嘘でも良かったのに……
この恩は必ず返すさ。
ペロロのフィギュアあたりで手を打とうじゃないか。
『当初は私も『シャーレ』とは一体何なのか、全く知りませんでしたが……ティーパーティーが知っている情報となれば、私たちも知る必要があります。それで、チナツさんが書いた報告書を確認しました』
「確認するのが遅くないです……?」
あんなものだいぶ前なんだから確認くらい終わっていると思っていたらつい最近なのか……
ゲヘナ内での仕事が多いんだろうな……その点は同情はできる。
『連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人の先生が担当している、超法規的な部活。それにどうもその報告書には『アシエン』なるこれまた正体不明の存在が現れたとの記載があると。どう考えても怪しい匂いがしませんか?』
『アシエン』という言葉に反応して便利屋全員が気付かれないようにチラリと私を見る。
……見るんじゃない。
それにヒフミよ、お前はどういう報告書を書いたんだ……
だが、アコの指摘は正しい。
『シャーレ』の権限や大人が管理している、という点は怪しいと思うのは当然だ。
そして、その統括者である私が『アシエン』なのだからなおさらな。
『『シャーレ』という組織は、とても危険な不確定要素に見えます。これからのトリニティとの条約にも、どんな影響を及ぼすのか分かったものではありません』
……条約ねぇ。
内容は詳しく知らないが、友好条約か不可侵条約──そんな類だろうか。
お互い憎しみ合っても意味はないという事なのだろうが、どう見ても上手く締結できる気がしない。
特にトリニティに居るゲヘナ生を毛嫌いする一派などは爆発するのではないか。
こんな面倒くさい問題には関わりたくないものだ。
『ですからせめて条約が無事締結されるまでは、私たち風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです。ついでに、居合わせた不良生徒たちも処理した上で……といった形で』
ついでに。
そんな事の為にわざわざ忙しいアビドスに更なる問題を持ち込んできたのか。
「ついで、だと……?」
アコの考えがわからないわけではない。
だが、今の私は『アビドス対策委員会顧問』も務めているのだ。
到底、呑めるものでもそして『計劃』の為にも放置できる問題でもない。
それに、なんであれどんな生徒でもこんな陰謀のついでに処理されていいはずはない。
だから今回ばかりは、少しきつく行くぞ。
「ハッ! そんな、そんな自分たちの事情の為だけにわざわざアビドスに来てこの私を捕まえると? 本当に、この程度の数で?」
嗤う。
不確定要素だろうが、面識があるチナツを使うなりして私に接触すればいいのだ。
そのうえで決裂した上ならわかるが、そういうわけではない。
『……何がおかしいのですか?』
「ムツキ、言ってやれ」
私を狙うと言ったあたりから、なんとも言えないやめておいた方がいいという顔をしていたムツキにここは投げよう。
期待通りの言葉を言うはずだ。
「エメちゃんを捕まえるのは辞めた方がいいと思うよー、と言うか無理だよね」
「無理に決まってるわよ!! むしろ、そんな方法があるなら教えて欲しいわ……」
「た、多分、先生を捕まえるのなんてキヴォトス中を爆発させても……無理だと思います」
「……アコ。確かに『シャーレ』と戦うためにこんだけ用意するっていう考えは間違ってないけど、あんたは致命的なミスをしたんだよ」
ムツキを筆頭に各々、私の被害にあった被害者たちは語る。
雇った傭兵を勝手に自分の姿を使ってクビにされ、目の前で数多くの魔法を見たからこそわかる。
悪い事は言わないから辞めておけ、と。
『……致命的なミス?』
「……お前、便利屋が一度とて私を斃す方法を考えなかったと思うのか?」
『……まさか』
「それくらいこいつらも考えた。だが、そんな手は何処にもありはしない」
私の言葉と共に空が、大地が震え始める。
『これは……!』
「じ、地面が揺れてる……!」
「まさか……あの時の戦車のように……?」
この場すべてを巻き込む現象は、敵味方問わず篩いに掛ける。
これを受けてなお、立ち続ける者ならば、と。
私としては随分と甘い裁定だ。終末の再現をしたわけでも、闇の波導を放つわけでもない。
ただの振動だ。
だが、突然起きた不可思議な現象に戸惑い恐怖を覚え右往左往する風紀委員や逃げ出そうとする者までいるではないか。
風紀委員でまだ平静を保っているのは、イオリとチナツ、そしてホログラムで直接的な被害を受けないアコくらいだ。
逆に対策委員会と便利屋は多少の混乱はあれども、皆この程度の圧に屈するような者はいなかった。
それは私と過ごした時間の長さもあるだろうが、心の持ち方でもあると思う。
背負いそして未来を掴もうとする者たちと、己の信念を貫こうとする者たち。
良い生徒を持ったと、つくづく思うよ。
もったいないくらいだ。
だからこそ、私は一歩前へ進む。
「なんだそのザマは? この程度で戸惑い逃げ出すようでは、私に挑む資格すらない。お前たちがついでに処理しようとした便利屋を見ろ! 誰一人折れていないじゃないか! それでよく、ついでになど言えたものだな」
だから、『不合格』だと言うしかない。
純然たる事実。
私は生徒を相手に戦う気は無い。それでも、防御はするし度が過ぎる様なら先ほどのハルカの様に手を打つ。
しかし、もし戦うなら?
一度とは言えあの強者揃いの暁の血盟を一撃の下に無力化させた私だ。あいつらほどの諦めの悪さと強さがない者に……この程度で逃げ惑う連中に負けるはずがない。
今の私は、暁の血盟の様に『今』を生きる者たちの未来を背負っているのだから。
『……言ってくれますね』
「ほう。流石に風紀委員会ナンバー2ともなれば文句くらいは言えるか。イオリにチナツ、そしてお前はまだ背負うモノがあるようだな。ならやはりここは、お前との戦いの土俵『政治』で決着をつけてやる」
そういって私はアロナに調べさせた万魔殿の連絡先を入力した携帯をアコが見えるように掲げる。
「『シャーレ』として、『アビドス対策委員会顧問』として私はゲヘナ学園の生徒会、『万魔殿』に正式に抗議する!」
『なっ……!?』
これはアコも想定外の様だ。
当然だろうな、だがこれも『政治』。
そもそも言ったようにお前と私の戦いの場は『政治』だ、魔法で無力化なんて無粋な前はしないさ。
『どういうつもりですか!!』
「どうって、お前たち風紀委員会がアビドスの権利を侵害しているがこれはゲヘナ学園の正式な判断ですか、なら抗議しますというだけじゃないか」
『ですから、私の判断だと!』
「だから、するんだよ」
先程までの余裕もなく、アコは慌て始めた。
自分たちの組織外、しかも敵対している組織に抗議などされたら、と。
『……あなたはッ、問題を収めるのではなく大きくしようとしています!!』
「そうか? むしろ収めようとしてるだろ。『万魔殿』と敵対している風紀委員会の行政官が自分の考えで、勝手に、アビドスに大量動員し権利を侵害しています! と言うだけだ。そうなれば、『万魔殿』の議長は飛びつくだろうなぁ、なんせあの、風紀委員会の、大スキャンダルだ。しかも、外交問題までセットで」
アコにとっては問題を大きくしようとしているかもしれないが、アビドスからすれば撤退させると言えばそれで収まるし『万魔殿』としてもうれしい限りだろう。
議長が風紀委員長と敵対していて、妨害工作を行っているというのはSNSで事前にリサーチ済み。
驚くべきことに風紀委員会所属と書いている生徒が堂々と公言していたあたりは周知の事実なのだろう。
ならば、これを使わない手はないのだ。
「あとは、録音データも送れば完璧だな」
『まさか、最初からそのつもりで……!』
「自分で言ってたじゃないか、こういう事がお得意なんですね、と」
お前が言ったんだ、と私はアコを指指す。
自分が優位に立てば立つほど人は無駄な行動をするものだ。
わざわざ説明などせず、慢心せずに叩き潰せばいいのに余裕を見せ始める。
嬉しいことにアコの性格は神経を逆撫でされると抑えるのではなく喰ってかかる性格だった。
更にこちらには何故か内情に詳しいカヨコの鋭い援護射撃が付いてきた。
となれば、初めにアコの神経を逆撫でしどんどんと口を滑らせた時点でこちらの勝ちだったのだ。
悔しそうな顔を浮かべ、アコが言った。
『……卑怯です』
「いいか、アコ。これが『政治』だ。例え汚い手段でも己の目的の為なら全て使って、目的を果たす。お前は立派に立ち回ったが、『政治』に一家言ある者として言うなら根回しくらいはきちんとしておけ」
こうなってはもうアコにも抵抗する気力はなかった。
もし攻撃をしようものなら、それこそ『万魔殿』が何を言ってくるかわからない。
そしてアコは肝心の根回しをしていない。
嫌いだから、敵対しているからと事前に根回しをしないというのは戦いにおいては正解だが、『政治』においては不正解どころか、落第、不合格だ。
基本的に『政治』とは事前にどれだけ根回しをしたかによって決まる。敵対する相手にすら、プレゼントやら見返りを用意することで仲間に引き込むか、『敵対しているような演技』をしてもらわなければならない。
議長が無理でも、他の万魔殿のメンバーであったり風紀委員長に言って暗黙の了解でも取り付けておけばいい。
だが、それをしていない以上はもう勝負はついた。
私が連絡をすればもうアコに打つ手はないのだ。
しかし。
『アコ』
気怠そうな。
しかしそこには明確な意思と強さの宿る声が通信越しに聞こえた。
『……え? ひ、ひ、ヒナ委員長!?』
「委員長?」
「今の通話相手が……? 委員長ってことは、風紀委員会のトップ……?」
大物登場か。
さて、私のみた記事には写真がなかったからどんな風貌の生徒が出てくるか。
私は便利屋を見て、目で合図する。
ヒナが来たらしいから帰れ、と。
そのアイコンタクトを理解したカヨコが全員に話、既に撤退の準備を開始している。
まあ、ここまでで良いだろう。
私もヒナがいないことを前提に巻き込んだわけだし、ここで消耗されては今後に支障が出る。
『い、い、委員長がどうしてこんな時間に……?』
『アコ、今どこ?』
『わ、私ですか? 私は……そ、その……えっと……、ゲヘナ近郊の市内の辺りです! 風紀委員のメンバーとパトロールを……』
「思いっきり嘘じゃん!」
万魔殿に抗議すると宣言した時と同じくらいに焦り、どう見てもすぐにバレる嘘を連発し始めた。
イオリにチナツ、お前たちはそれでいいのか……
アコも怒られたくないのかもしれないが、もう少しマシな嘘をだな……
これでは、万が一私が大人しく捕まったとしてもその後で詰んでいたと思うのだが。
『そ、それより委員長はどうしてこんな時間に……出張中だったのでは?』
『さっき帰ってきた』
よくある話だ、上司が居ぬ間になんとやらと言うのは。
なるほど、さてはヒナの為にここまでしたのか。自分が泥を被ってもヒナの立場が盤石ならばそれでいいと。
恐らくは万魔殿への牽制もどこか念頭にあったはずだ。
存外、骨のある奴じゃないか。
私の中で風紀委員会への評価など賛否無かったが、アコへの評価は上がった。
お詫びに今度は何か手伝ってやるか。
『そ、そうでしたか……! その、私、今すぐ迅速に処理しなくてはいけない用事がありましで……後ほどまたご連絡いたします! い、今はちょっと立て込んでいまして……!』
『立て込んでる……? パトロール中なのに珍しい、何かあったの?』
『え? そ、その……それは……』
ついでに根回しの仕方と上手い嘘のつき方講座でも開こう。
どうみても、既にバレてるぞ。
「『他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないようなことが?』」
音声と声が二重に聞こえる。
これまた随分と、近くまで来ていたんだな。ならもう、アコは間違いなく反省文案件だ。
「い、い、い、委員長!? い、一体いつから!?」
「!!」
『……え、ええええっ!?』
「……アコ。この状況、きちんと説明してもらう」
声の主は、大きな翼とマシンガン、立派な角とヘイローを持つ。
だが、その体躯は不釣り合いなくらいに小柄。
それに何より──
随分と疲れの溜まった目をしていた
悩んでばかりですが。
エメトセルクの解決法はたぶんこういう感じの相手の弱みを突く形なんだろうなと。
平等に接したい彼ですが、それでも今はアビドスを守る事を優先に動いている時。
それの邪魔をすると言うなら、汚い手だって使います。
でも、アコちゃんやヒナみたいな苦労してるタイプは好きなんだろうなと思ってますのでしっかりフォローしていきます。
『敵役』であって『敵』ではないのですからね!
今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)
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原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
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変則(エ→パ1,2→兎)
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その他(コメントでお願いします)