たまにはね?
00Ⅰ
荒廃しもはや何もない砂漠ー
命の輝きなどとうに忘れたかのように浸食を続け、残された者の足掻きすらも呑み込もうとする無限の砂。
散った者もいれば、逃げた者も。
等しくあるのは無意味な時間。
そこに一羽の鳥が流星の如く舞い降りる。
こんにちは! 私がここで出会う、最初のあなた。
鳥は只、何も存在しない空間を眺めそして謳い始める。
私はあなたに敵対する者じゃありません。
あなたの音を聞き、想いを感じ、考えを知りたいのです。
だから、あなたのことを教えて、くれませんか?
希望の唄は始まったばかり。
00Ⅱ-Ⅰ
「はあ……」
「アルちゃ〜ん、さっきから溜息ばっかりだよ、テキパキ荷物運ぼう?」
「はぁぁ……」
何ともやる気がないと言うか、憂鬱そうと言うか。
兎に角、心ここにあらずというようなため息が便利屋68の事務所……正確には旧事務所に響き渡っていた。
風紀委員会との騒動後にいろいろあって事務所を出る事になったとムツキから連絡を受け、報酬の問題なのかと思って訪ねてみてが、どうもそればかりではないらしい。
「え、えっと、これはどこに運べばいいでしょうか?」
「ん? これ……ああ、アルちゃんが天賦の才を発揮した書道の残骸じゃん、あっちの燃えるゴミでいいよ」
「捨てないでよ! 持っていくに決まってるじゃない!」
「でもこれ、書道の授業の宿題で書いたやつでしょ~? ほんとに要る? それにこれ、『一日一悪』って何? どういう意味?」
「き、きっと10年後には10億円ぐらいの価値が……」
サインでもそれほどの価値を生み出すのは難しいと思う。
それこそ、アルの長い人生が終わって更に多くの時が流れた時にようやっとそれくらいの価値が付くかもしれない。
『偉大なアウトローのスローガン』だとかでな。
10年ではどれほど偉人になってもそこまでの価格は厳しいだろう。
「……はあ」
「打っても響かないし、元気ないねぇアルちゃん……」
「社長、どうしたの」
「アルちゃん、事務所を引っ越すのがイヤみたい。でも風紀委員会に場所を知られちゃったし、任務も失敗でクライアントからも狙われるだろうし、仕方ないでしょー?」
今の場所を去るのが嫌だと言うのはよくある話だ。
思い出の詰まった場所ならなおさら。
「そういえばアビドスとの戦いも、中途半端な感じで終わっちゃったね」
「し、仕方ないでしょ! 依頼を受けた以上、今になって狙うなんて……できるわけないじゃない!」
「……はあ。あのカバンのお金も、全部あのラーメン屋の修理代として置いてきたし。本当にこの社長は……」
「う、うるさい! うるさい! だって、だって……! ハードボイルドなアウトローな先生ならきっと……」
なるほど。
あの強盗した金は傭兵を雇う訳でも、再起を図るわけでもなくラーメン屋の為に使ったのか。
そしてそれを悩んだ末、私ならそうするかもと……
私なら……というよりも、あいつなら間違いなくお前と同じ選択をしたさ。
だから、胸を張ればいいのだ。
そんな選択を出来るやつは本当に少ないのだから。
「……本当に、手のかかる社長だ」
「でもこういうのがうちのアルちゃんだもんね? 一緒にいてすっごく楽しい!」
「はい、私もそう思います! アル様! わ、私、アル様がいなかったらきっと今こうして生きていないはずなので……。元気出してください! 私が一番尊敬しているのはアル様ですから!」
「う、うるさい! わかってるわよ!」
そういう性格には善き理解者が集まるものだ。
『光のアウトロー』でも名乗ってみたらどうだ、と言ってやりたい。
だが、今日はその要件で来たわけではない。
「邪魔するぞ」
「うわっ!!」
「あ、エメちゃん!」
「……先生、来たんだ」
一応招かれているような文面だったのだが、アルには言ってなかったのだろう。
そこまで驚かれる見た目ではないと思うのだが。
「え、エメトセルク先生!? ど、どうしてここに……!?」
「招かれたからだが……あと、お前が忘れてるものを渡しにな」
「えっ?」
私は懐から細長い茶封筒を4つ取り出し、まだ片付けられていないテーブルへと置いた。
このためにわざわざ、ユウカに連絡して上手く誤魔化せるように、経費として計上したんだ。
『弾丸費』としてな。
「ほら、手を引いたことへの報酬だ」
「ほ、本当にくれるの!?」
「いや、仕事に対価を支払うのは当然だろう……違うのか……?」
まあ、世の中には賃金の後払いを拒む者もいるだろうがそれでも原則としては対価を払うべきだ。
そして何より、この私が未払い逃亡などしたくない。
「こちらからの表立って出来ない仕事については、追って詳細を送るさ。私自身立て込んでいてな」
私がそうやって説明している間にも、4人とも封筒の中身を確認しそれが現金であり案外多い事に驚いている。
後でリンから小言を言われるのだろうが、屁理屈なら幾らでも用意できるし丸め込む事くらいは出来るはずだ。
なんせ、連邦生徒会が手の回らない仕事を委託したという体なのだから。
「……先生、ちょっと多くない?」
「キヴォトスの相場を知らんからなあ」
「……詳細な振り分けは見れる?」
「作ったが、もう提出して元データは誠に遺憾ながら、不慮の事故で、消えてしまった」
多さに突っ込むとすれば真面目なカヨコだろう。
それくらいは想定していたし、データを見たいと言われることを見越してUSBに移動させて『私しか取り出せない場所』に片付けた。
よってここはそう。
察しろ、という訳だ。
「……先生、ありがとう」
「なんの話かさっぱりわからないな。依頼に対する報酬だから、感謝するのは私の方だ」
「……」
聞くな、調べるな、察しろ。
私の半ば強引な方法に少しカヨコは呆れた顔をしたが、それでもそれ以上聞くこともなかった。
便利屋68の面々は、人として賢い。だから、野暮な事もしない。
「エメちゃん、何で現金なの?」
「……どこぞの誰かさんの口座が凍結されていたからな」
「うぐっ」
誰とは言ってない……いや、この場合は丸わかりだが……
実際、金を断つというのは最強の攻め方だ。
ヒナ、もしくはアコは懸命な手を打ったのだ。
だから、面倒でもこうして現金化して渡す必要があったのだから。
最も、現金にする必要がなくてもここには来ただろうが。
「さて、私は行く場所があるんでな。もう一つの依頼については、おいおいな」
「あ、エメちゃん! 朝方、流星が見れたって話聞いた?」
「……流星?」
「そうそう。アビドスの砂漠付近に流星が落ちたかも―って。でも流星にしては小さいとかで、結局嘘なんじゃないかって」
流星、メテオ……
私が起こした現象ではない以上、考えられるのは二つ。
1つは自然現象で隕石が降って来た。
この場合、小さいという部分から大騒ぎする案件ではない。
そして、もう1つ。
これは可能性の考慮にすら入れたくはない。
しかし、この私が何故かこうしてこの地にいる以上は避けては通れない可能性であり、最も危険なパターン。
メーティオン。
ヘルメスが作り出した、流星の名を冠する青い鳥のエンテレケイア。
命の意味、生きる意味を問うために彼が送り出し、そして戻った者。
そして、終わりを謳った黒い鳥。
だが、彼女たちはあいつによって倒されたはずだ。
しかし、全ての個体が消滅したのかと言われたらそこまでは分からない。
もしそれで残った個体がまだ終焉を謳っていたとしたら?
大急ぎで窓の外を見る。
変わらない、青い空がそこには広がっている。
よって、終末はまだ始まっていない。
「エメちゃん、どうしたの!?」
「先生!?」
ムツキとアルが私の行動に驚いているが、それは当然かもしれない。
流星が観測できたよ、と言う話に突然大慌てで窓の外を確認するなど普通は考えない。
「ムツキ!」
「な、なに!?」
「その流星が落ちたと思われる場所は何処だ」
「確か、砂漠の誰もいない場所かな。そうそう、ここら辺」
そういってムツキは携帯の画面を私に見せてくる。
近いな。
それも、私が初めて来たときに何かを感じた場所付近。
アビドスに現れ、そしてその近くにいる者への接触を図った場合を考慮しよう。
私の知っている生徒の中で避けるべきは、ホシノ。
彼女の内に秘める気持ちをメーティオンが汲み取った場合に起きる事……
例えホシノが隠したとしても、メーティオンの性質上それは無意味だ。
カイザー如きに私の『計劃』は妨害されなくとも、メーティオンが相手ではどうにもならない。
特に多感な子供にあの『絶望』は耐えられるはずもない。
「すまん、行く場所が出来た」
「……先生、気を付けてね」
ムツキの声掛けに反応する間もなく、私はその場を後にした。
00Ⅱ-Ⅱ
結論から言えば、隕石も無ければメーティオンも居なかった。
居たのは酷く不格好な蠢く気配だけ。
『…………』
魂の類ではあるが、死したのかそれとも肉体から抜け出してしまったのか。
定かではないが、既に元の体を構成することが出来ていないと言う事はそれなりに時間が経ったとみるべきだろう。
『…………』
何かを懸命に伝えようとしているが、今の姿では伝える事も出来ない。
仕方がないから、その存在の構成を手伝うことにした。
ほんの少しの魔力を与えるだけで、みるみるうちにその存在は構成されかつての姿を取り戻す。
白シャツにハーネスベルト、そしてネクタイをそのベルトの下に通すスタイル。
更には膝ほどまであるロングヘアー……
それは既知の生徒と同じ。
だが、体躯は大きく異なる。
「お前は……」
まあいい。
さぁ、お前は何を話してくれる。
00Ⅲ
砂漠での一仕事を終え、私は本来の予定であった柴大将の見舞いに来た。
元々はセリカらと共に見舞う予定だったが、想定外の存在の来訪の可能性に備えて向かったのだ。
だが、大将の顔を見るに私が一人で来て良かったのだろう。
「おう、先生か。わざわざ悪いね」
「怪我の原因に私が強引に引っ張ったのもあるからな……」
とっさの判断でかなり強く掴んで引っ張ってしまった。
それでもし今後ラーメンを作れなくなったらと。
「気にしないでくれ。大した怪我じゃないからさ」
「それに、店を守ってやれなかった」
「いいんだ。どうせ……」
「畳むつもりだった、か」
この調子を見るに恐らくセリカたちにも話しているのだろう。
ならば私も知らぬふりをする必要もない。
「……先生は知ってたのかい」
「証拠のない予想ではあるがな」
「……ちょっと前から退去通知を受け取っていてね」
土地を手に入れる。
その為に借金をさせてその権利を手に入れたのだろう。
だからなんだ、という話だ。
借金のカタに土地の権利書と言うのはよくある話だ。
学校に対しては珍しいのかもしれないが、個人で考えれば本当によくある。
だからこそ、個人で借金をしたことがない生徒にはわかりにくい話なのかもしれない。
「よく続けていたな」
「セリカちゃんも頑張っているし、愛着もあったからね」
「……命の危険もあるだろうに」
キヴォトスの大人には私
大将のように素晴らしい人もいる。
だが、絶対的に数が少ない。
子供などどうでもいいと思っている者たちばかり。
「先生は何処まで知ってるんだい?」
「……全て、と言いたいがそうでもない。だが、こう考えているのだろうと予測する事くらいは出来る」
「それをあの子たちに話した?」
「……いや」
そうか、と呟くでもなくただそっと心から漏れたように対象は呟いた。
その事について責められるかとも思ったがそうでもないらしい。
恐らくはそう、あそこまで頑張ってるのだから知らなくてもいいことだと大将も思ったのだろう。
「先生に頼みがある」
真剣な顔をして、大将が私を見る。
この流れだ、厭でもわかる。
「あの子たちの事を、頼む」
そう言ってただ頭を下げた。
私の様に当事者だからというわけではない。ただ見ていた者として、そして身近だった者としての想い。
セリカを実の娘の様に見守ってきていたのだろう。
だからこそ、か。
「私も、アビドスを追い詰めている奴と同じ碌でもない存在かもしれないぞ?」
「そうは思わない」
「根拠があるのか?」
「……先生の話を、盗み聞きしちまってね」
私の話……おそらくラハブレアについての話だろう。
別にアレは盗み聞きでも何でもないだろう。
聞こえてしまったものに、私も目くじらは立てない。
「勝手な憶測だが……先生の知り合いの話、先生も共に戦った仲なんじゃないか?」
「……なぜ、そう思う」
「その人について話す時の顔、さ。まるで変っていった様を知っているようだった。だから、先生もその災害以前を取り戻すために戦ったんじゃないかってな」
「……」
話過ぎたか。
いや、いずれ明らかになること。
アルたちも既に何かを察してはいるのかもしれない。
いやむしろ、アルたちは知っているだろう。
ラハブレアがアシエンであり、そして私もアシエンである以上はそう。
ラハブレアと私は同じ目的の為に、戦ったのだと。
「その話を聞いていたのなら、そして憶測を立てたなら少しくらいは思うはずだろう。私もまた、同胞と同じく冷酷、無慈悲、非情なのではないか、彼女たちを託すには手が汚れすぎているのではないかと」
「確かにあの話を聞けば、先生もまたセリカちゃんたちに言えないような事もしてきたんだろうと思う。それは先生の顔、そして雰囲気からもわかることさ」
「なら、なぜ託すんだ?」
「それは、先生も『誰かのため』に戦ったからさ。私利私欲のためじゃなく」
思い出のため、愛した者のため、そして星のため。
命の理から外れようとも、私たちは確かに戦った。
あの日を、あの光景を、あの笑顔をもう一度見るために。
それは例え、終末に関する記憶が消されていたとしても変わらない。
いや消されていなくとも私は同じことをしたのかもしれない。
「だからだ。『誰かのため』に自分の手を汚してまで戦って、罪を背負う人なら。きっと、あの子たちを救えると信じたいんだ」
信じたい。
託す相手としては大きなリスクを伴う存在だと、話を聞いてなお思う。
『誰かのために』と言う想いは本物だとしても、その過程で多くの所業を成した存在。
恐らくはカイザーコーポレーションの者ですら、そんな事は出来ない事を。
それでも大将は私を信じれる相手だと判じた。
「あとはそうだな。先生は託されたものを、投げ出す人じゃないと思ったのさ」
『私に託されたものを、投げ出すなよ』
『エメトセルク!!』
繋ぎ目に飛び込むあいつに向けて言った言葉。
それをこうして言われることになろうとは。
随分と……憎い事をしてくれるじゃないか。
ならば。
答えは一つだ。
「いいだろう。私の座と名前に懸けて、あいつらを救おう」
砂漠でも託された、今更一人分の想いを託されたとして折れる私ではない。
『エメトセルク』、それは私の名前であり、誇りであり、生涯のあり方。
友の祈り、明日への望み。
それらすべてを背負ってきたのだ。
ならば、私の翼にまた想いが乗ると言うならば受けて立つまで。
「ありがとうな、先生」
「だが、私からも一つ条件がある」
「なんだい?」
「全てが終わったら、あいつらに『おかえり』を言ってやってくれ」
「ああ。きっちり6人分、言ってやるさ!」
その言葉で十分だ。
この場で語るべきことは全て語った。
あとはそう。
結末に向かって進み続けるだけだ。
本当に終わりが見えてきました。
既に本編とは違う方向になってきましたが、それでもエメトセルクだから出来る事で結末に行きたい。
アビドス編は彼の先生としての在り方を定める物語でもあると以前にも言いましたが、それが伝わっていますと幸いです。
さぁ、結末へ向けて進もう!
今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)
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原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
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変則(エ→パ1,2→兎)
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