エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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嵐を進み、答えを探し出す。


2-5 君を救う痛み

00Ⅰ

 

「あ、先生! 柴大将のお見舞いは、もう終わりましたか?」

「ああ。大けがじゃないし何より、心が大丈夫なら幾らでも、やり直せるさ」

「……心が大丈夫なら幾らでも……そうですね☆」

 

心が折れなければ、どれほど苦しくてもその一歩を踏み出せるのなら……

全ての世界を救うことだって、出来る筈だ。

 

「……」

「どうした?」

「いえ……先生がいらっしゃった頃から、色々な事が変わったと思ったら、次々と色んなことが私たちの前に立ちはだかって……」

 

ノノミの不安な気持ちは痛い程わかる。

いい方向に変わっていった事もあれば、知ったが故に苦しむ事も増えた。

だが、それが『生きる』という事。

 

「……それでも私たちはアビドスのために進むしかありませんし……先生も、一緒にいてくださいますよね?」

 

不安なのだろう。

数多くの変化と敵が現れ、アビドスを取り巻く状況は目まぐるしく変化してきた。

これが1か月もしないうちに起きたのだ、当事者たちは混乱し不安にもなるだろう。

それくらい当然だ。

 

「お前たちが絶望しない限り、頽れようとも支えてやる。だから気にせず進め」

「そう仰っていただけると、心強いです!本当に……先生は、みんなのお父さんみたいですね」

 

父親、か。

そう言われるほどにお前たちにとって私と過ごした時間が意味のあるものだったならば素直に嬉しいことだと思えるようになった。

お前たちのお陰で私もまた、この『新しい人生』を受け入れ始めている。

 

だからこそ。

託されたもの、目の前にあるものを下らない連中に壊されてたまるものか。

 

「……他の奴は?」

「シロコちゃんは先生が来るほんの少し前に来ました。アヤネちゃんとセリカちゃんは調べものがあるそうです」

「なら、私たちも行くか」

「はい!」

 

そう言ってノノミと私が教室へと入ろうとしたのだが……

 

『いたた……痛いじゃ~ん、どしたのシロコちゃん』

『……いつまでしらを切るつもり?』

 

大きな物音と共にホシノとシロコの口論が聞こえてきた。

ただの喧嘩ではない事は嫌でもわかる。会話の流れから察するにホシノが何かを隠していて、それをシロコが勘づいた、と言った所だろうか。

 

「今の音は……!?」

「こんな時間から、まったく……」

 

ノノミからすれば仲の良いアビドスでは早々みられない口論に驚き、私からしたらこれからについて話す日にも関わらずここまでシロコが怒るのはきっと碌でもない事だと。

なんにせよ、このまま放置してもいい結果にはならないだろう。

 

扉を開けるノノミに続き、私も教室へと入った。

 

「うへ~、何のことを言ってるのか、おじさんにはよく分からないな~……?」

「……嘘つかないで」

「嘘じゃないって~……ん?」

「ホシノ先輩!シロコちゃん!?どうしたんですか!?」

「お前が仲間に怒るのはよっぽどだろうが、それでも一旦は落ち着けシロコ」

 

流石にシロコも私たちの前でこれ以上、ホシノを詰める事は出来ないようだがそれでも最初に見えたのは不満の表情。

 

「……ホシノ先輩に、用事があるの。悪いけど、二人きりにして」

「それでお前が聞きたい事を、ホシノから聞き出せるのならそうしてやるがな」

「先生の言う通りです☆それに対策委員会に、『二人だけの秘密♡』みたいなものは許されません。何といっても、運命共同体ですから」

 

運命共同体、という言葉に少しだけホシノの眉が動く。

なるほど、問題の原因はこれか。

運命共同体を揺るがしかねない行為をホシノが行おうとして、それにシロコが気付いたと。

 

シロコの勘というものには驚かされてばかりだ。

別に私のような長生きと言うわけでもない、ノノミと同じ歳でありながらまるで野生の勘でこちらの考えを当ててくる。

 

「…でも」

「ですので、きちんと状況の説明もしてくれない悪い子には……お仕置き☆しちゃいますよ?」

「う、うーん……」

 

シロコはホシノの考えを知りたい。

ホシノはシロコの追求をのらりくらり回避したい。

そして、ノノミはこの危うい空気を変えたい。

 

誰もその行動に悪意などありはしない。いや、むしろノノミに至っては人数の少ない、もはや家族同然とも言えるアビドスの中での喧嘩など見たくないのだろう。

 

この場合、私がすべきは誰の肩を持つわけでもなくそれでいて真っ当な意見を言うことだが……

私自身がアビドスでしてきた立ち振る舞いを思い返せば、ホシノの様に振る舞うこともあったのだ。

さて、どうしたものか。

 

「えっとねぇ……実はおじさんがこっそりお昼寝してたのがバレちゃったんだよね〜。まあ、それで少しばかり叱られちゃったのさ。にしたって、そんなに怒らなくてもいいのに〜。シロコちゃんは真面目だなぁ」

 

流石に苦しい言い訳だった。昼寝をしただけで痛いと言わせるほどシロコが詰め寄るのか、と言う話だ。

シロコは確かに突拍子もない案を思い付いたり、血気盛んな部分はあるが決して意味もなく仲間を攻撃する様な奴じゃない。

 

だからこれはノノミの善意に乗っかってこの場を切り抜けようとする嘘なのだ。

 

「ま、人にはそういう時もあるよね〜。そろそろ集まる時間だし、行こっかー」

 

だが他の者が何かを言う前にホシノは会話を切り上げそそくさと教室から出ていった。

そしてシロコもまた一瞬だけ私を見てやはり不満がある事を伝え出ていく。

まったく、秘密を作るなら悟られ辛くやれよ。

 

「……」

「お前は良くやったよノノミ。だが、今はシロコにも考える時間が必要だ」

「……ありがとうございます。二人とも何か、言いたくないことがあるみたいですね」

「あいつら二人だけの問題なら当事者だけで考える方がうまくいく場合もある……もし無理ならまた手を貸してやればいいだけだ」

 

あまりうまいフォローではなかったと言ったあとで後悔した。

どう見ても二人だけの問題じゃなかったのに。

だが、シロコが原因を言わないと言う事は他のみんなに知られたくない事なのだろう。

それくらいは気を使ってやらないとな。

 

「……ふぅ。仕方ありませんね。誰しも言いたくない秘密の一つや二つくらい、持っているものでしょうし……」

「誰しもな。だが、お前みたいに親身になって向き合う奴もそんなに多くないさ。だから、あいつらが話したくなった時には聞いてやってくれ」

「はい☆私たちも行きましょうか。みんな帰ってきてるかもしれません」

 

ノノミの予想通り、部室には私たち二人以外は揃っていた。

勿論、気まずい雰囲気と何かあったのだという雰囲気を醸し出しながら。

 

「……な、何、この雰囲気?」

「何かあったんですか……?」

 

何かあった、のは事実だがそれを今ここで蒸し返した所で何の意味もないだろう。

どうせ全員から詰められた所でホシノはとぼけるだろうし、私もどちらかの肩を持つことはない。

よって、この場での最適解は本来の目的に立ち返る事。

 

「──さて、現状を纏めていくぞ」

 

ひとまず私はアヤネとセリカが持ってきたであろう資料を広げ、ホワイトボードにここ数日で起きた事件を書き連ねていく。

借金状況、銀行強盗、ヘルメット団と便利屋68が受けていた依頼──そして、カイザーコーポレーションの狙いについてはあえて下に空白を設けた。

 

「大将からアヤネとセリカに話をした、と聞いた。よって、答え合わせの時間だ」

 

そういってアビドス自治区の土地の台帳、『地籍図』を指し示す。

 

「以前お前たちに話したのは、『学校は何を差し出したか』だった。そしてその答えがここにある。カイザーコンストラクション──つまりアビドスの殆ど全ては、カイザーの手にあるという訳だ」

「そんな……!?」

「……っ!?」

 

アヤネとセリカは事前に把握していたからか、険しい表情のまま変わる事は無かったが、他の3人はそんな事を想定していないという顔つきだった。

 

そんな私の話をアヤネが補足する。

 

「……既に砂漠になってしまった、本来のアビドス高校本館と、その周辺数千万坪の荒れ地。そしてまだ砂漠化が進んでない、市内の建物や土地まで……所有権がまだ渡っていないのは、今は本館として使っている校舎と、周辺の一部の地域だけでした……」

 

本当に救えない話だ。

どれだけ返そうとももう手遅れなのだ。

あと残った現在の学校以外は既に掌握されてしまっている。

 

そして私が思ったのは、本当につまらない計画だと。

自分たちの土地を手に入れる為だけに、本当にくだらない事をしてくれたものだ。

何の見るべきモノも、褒めるべき箇所も、認めてやるべき価値も持ち合わせていない。

 

「で、ですが、どうしてそんなことに?学校の自治区の土地を取引だなんて、普通できるはずが……先生の言う様に土地が目的だったとしても、もっと他にやりようが……」

「いや、無かったのさ。議決権を持つアビドスの生徒会にはもうそれしか手が無かった。だが、だからこそ最後に残ったこの場所だけは渡せなかった、そうだなアヤネ?」

「……はい。ですので、生徒会がなくなってからは、取引は行われていません」

「そっか、2年前……」

 

そうだ、ホシノ。

今のお前、その始まりだ。

お前が入学した時に、接した相手。それが、その人こそが最後の人だ。

だからこそ、奔走したのだ。

 

「何をやってんのよ、その生徒会のやつらは!! 学校の土地を売る? それもカイザーコーポレーションなんかに!? 学校の主体は生徒でしょ!? どうしてそんなこと……っ!」

「こんな大ごとに、ずっと私たちは気付かないまま……」

「……それぞれの学校の自治区は、学校のもの。あまりにも当たり前の常識です……先生は初めから分かっていたんですか?」

 

各々が意見を述べ、最後にアヤネが私を見る。

彼女から見た私の行動方針、その謎が漸く解けたのだろう。

ならばもう、隠すこともないのだ。

 

「借金の話を聞いた時点で、おおよそ学校の権利狙いなのだろうと察したさ」

「じゃあなんで!なんで黙ってたのよ!!」

 

セリカの怒りは最もだ、それを責めたりは出来ない。

もしもっと早く知れていたのなら、と。

 

「……お前は自分たちの努力が無意味で、舞台上で踊らされているだけの哀れな役者だ、と言われて納得できるのか?それも、出会ったばかりの素性も知らないこの私に」

「……」

「いいや、できるわけがない。私だって似たようなことを言われたときに信じられなかったさ……」

 

エルピスであいつから、これから起きる事態を聞きそして私がアシエンとして暗躍しあろうことか、計画失敗の要因にあるあいつを自ら招いたと聞いたときに激高したものだ。

当事者はそんな話を部外者に言われても信じられない。

 

「……そして何より言えるものか。お前たちの事を何も知らなかった私が」

「……ごめん、先生が私たちに向き合って色々話すようになってくれたのは知ってるのに……」

「私が、もう少し早く気付いていたら……先生も話せていたのかもしれません……」

「お前たちの誰の責任でもない、それだけは間違いないんだ」

 

1年生のアヤネが気が付いた時点でもう遅かっただろう。そして、何より分かったからと話を打ち出せるのかという問題もある。

だから、お前たちが過剰に責任を感じる必要はないんだ。

 

「……うん、それはアヤネちゃんが気にすることじゃないよ。これはアヤネちゃんが入学するよりも前の……いや、対策委員会ができるよりも前のことなんだから」

「……ホシノ先輩、何か知ってるの?」

「あ、そうです! ホシノ先輩も、アビドスの生徒会でしたよね?」

「え? そ、そうだったの!?」

「それに……最後の生徒会の、副会長だったと聞きました」

「うへ~、まあそんなこともあったねえ。二年も前のことだし、そもそも私もその辺の生徒会の先輩たちとは、実際に関わりは無くってさー。私が生徒会に入った時には、もう生徒会の人たちはほとんど辞めちゃってたから」

 

悲しいが事実だ。

結果、ホシノは二人での日々を過ごす事になる。

そして、彼女が去った後は一人でいた以上はもはや生徒会としての体を成していなかっただろう。

それを責めるのは余りにも酷だろう。

それにホシノと彼女だって、借金は背負わされたもののはずだ。

 

「その時はもう在校生も二桁になってたし、教職員もいない。授業なんてものは、もうとっくの昔に途絶えてた」

 

思いを馳せるように淡々とホシノは語る。

 

「生徒会室も、そうと言われなければただの倉庫にしか見えないところだったし、引継書類なんて立派なものは一枚も無かった。ちょうど砂漠化を避けようとして、学校の建物を何度も移してた時期だったってこともあってね」

 

恐らくその際に重要な書類が何点か紛失しているだろう。

そのせいで真偽が確かめられない事情も多く、それを二人でやっていたのだろう。

 

「そもそも最後の生徒会って言ったって、新任の生徒会長と私の二人だけだったし。……その生徒会長は無鉄砲で、会長なのに校内でも随一のバカで……私の方だって、嫌な性格の新入生でさ。いや~、何もかもめちゃくちゃだったよ」

 

『こうしてる場合じゃないですよ!今すぐ探しに行きますよ!!』

『うん!これで私たちも大富豪だよ、ホシノちゃん!』

 

『助けてくれー、偉大なるエメトセルク~!』

『お・ま・え・は!どうしていつも一人で勝手に出ていって私を巻き込むんだ!』

 

楽しい思い出。

それは思い出すだけで、心を温かくするはずのもの。

 

「校内随一のバカが生徒会長……? 何それ、どんな生徒会よ……」

「成績と役回りは別だよ、セリカ」

「そもそも、セリカちゃんも成績はそんなに……」

「わ、分かってるってば! どうして急に私の成績の話になるわけ!? 一応ツッコんでおいただけじゃん!?」

「うへ~、いやいや、正にその通りだよ。生徒会なんて肩書だけで、おバカさん二人が集まっただけだったからね。何の間違いだか、生徒会なんかに入っちゃって……いや~、あの時はあちこちに行ったり来たりだったねえ」

 

だが、そんな楽しい思い出も心を擦り減らす呪いへと変わっていく。

 

「ほんっとバカみたいに、なんにも知らないままでさ……」

 

『もう付き合ってられません!生徒会は終わりです!』

 

ほんの些細な行き違いで。

 

『あの馬鹿の考えなど知ったことか……!今必要なのは、確実な方法だ。私たちには、この星を護る責任があるッ!』

 

自分が忘れてしまっていたがために。

 

後悔、癒やしない心の傷。

どうすれば時が戻るのか、と何度でも想っただろう。私は涙を流せなかったが、もし流していたのならそれこそ数え切れないくらい涙したのだろう。

 

私と同じ。

失って初めてかけがえの無い日常だったのだと気が付いて、それを捨てられない。

だからこそ、その思い出……『過去』を見て動く。

 

『バカみたい』な話さ。

ほんの少し心の余裕があったのなら、相手をもっと信じていたなら。

言わずにすんでいた言葉、伝えられていたはずの想いを言えたはずなのに。

 

「……ホシノ先輩が責任を感じることじゃない。昔の事情は知らないけど、実際に生徒会が解散になった後……アビドスに対策委員会ができたのは、間違いなくホシノ先輩のおかげ」

「う、うん……?」

 

先程まで自分を詰めてきたシロコが称賛してくると思わなかったのだろう、ホシノは珍しく本気で困惑したような顔をする。

 

「……ホシノ先輩は怠け者だし、色々とはぐらかしてばっかりだけど、大事な瞬間には絶対に誰よりも前に立ってる」

「そうです。セリカちゃんを助けに行く時、真っ先に先頭に立ったのもホシノ先輩でしたし……」

 

そうだ。

確かに過去でお前は間違えたのかもしれない。だが、それでもその選択が今のお前を作りこうして善き後輩たちに恵まれたじゃないか。

だからこそ、私も言おう。

 

「……うへ~、そうだっけ?よく覚えてな──」

「お前は仲間のため、大切な存在のためにいつも必ず一番前だ」

「……セリカちゃんのときは、先生だって……」

 

そう言って矛先を変えようとしても無駄だった。

 

「ホシノ先輩は色々とダメなところもあるけど、尊敬はしてる」

「ど、どうしたのシロコちゃん!? 急にそんな青春っぽい台詞を……! おじさんこういう雰囲気、ちょっと苦手なんだけど!?」

「……や、なんとなく、言っておこうかなって思って」

 

シロコの言葉はまるでホシノをここに繋ぎとめようとしているかのようだ。

何処にも行かないで欲しいここにいて欲しいのだ、と。

 

言い争った原因は、そういうことか。

 

「え、えぇ……?」

 

ホシノ、お前がどれだけ過去を向こうとも。

ここに居る者たちは決してお前を見捨てたりはしない。

お前だけが背負うのを良しとはしないさ。

 

なんせついこの間まで部外者だった私にさえ、そう言えるお人よしたちだ。

だからこそ、私もお前を見捨てたりしないさ。

 

 

00Ⅱ

 

「さて、ここからは私の推測を基にカイザーコーポレーションの計画について述べていくが、答えとは言えないだろうがそれでも可能性は高いはずだ」

 

ホシノを繋ぎとめようとする流れが一旦落ち着き、一息ついたところで私が己の推測を話し始める。

 

「アビドスの生徒会が土地を売った理由は、さっきも言ったがもうそれしか碌な『資産』が無かったからだろう」

「借金のために、土地を……」

「はい、私もそう思います。当時すでに学校の借金はかなり膨れ上がった状態でした」

 

ホワイトボードに書いた簡単な地図をぶり潰していく。

 

「だが、砂漠化が進む土地に大した価値なんてつかない。その場合、どうなる?」

「それで、繰り返し土地を売ってしまう負の循環に……ということでしょうか」

「何それ、なんかおかしくない? 最初からどうしようもないっていうか……」

 

成績は褒められたものではないと言われていたが、セリカの発言は鋭い。

 

「それが答えだ。どうしようもないから土地を売って更に借金をする。これが狙いで、無事アビドスは藁にも縋る思いで罠へと喜んで進んでいった、其処に救いがあると信じてな」

「え? え……どういうこと?」

「あ〜……なるほど、そっか」

 

セリカはまだ疑問符が残るようだが、ホシノは納得したようだ。

そしてそれはシロコも同様で、

 

「……アビドスにお金を貸したのも、カイザーコーポレーション」

「……!」

「ということは……」

「最初は本当に価値がない土地を売っていたのだろうが、結局一度そんな劇薬に手を出したが最後。借金を返すためにより高い価値のある土地を売り、気が付けばどうだ。無事、カイザーコーポレーションはアビドスの土地を手に入れましたとさ」

 

土地が狙いならその土地の所有者を罠にはめて奪っていく。

善意の第三者を装って。

追い詰められた者に選択の余地などありはしないのだから。

 

「元々、そういう計算だったのかもしれない」

「アビドスにお金を貸した時点で、こうなるように全てを……」

「だいぶ前から計画していた罠だったのかもね。それこそ何十年も前から……それくらい、規模の大きな計画だったのかも……」

 

人の寿命で行けば、何十年は長い計画の部類に入るのだろう。

その長い計画がここまで簡単に想定されるようなものという事に私はうんざりした。

もう少し善意の第三者を大々的にやるべきだったのだ。

何を焦ったか排除する方向に動くなど、進んで計画を失敗させたいのか。

 

そんなに土地が欲しいのなら、開発させてくれなどと言えばもっと穏便かつバレずに済んだかもしれないと言うのに。

 

「何それ!? ただただカイザーコーポレーションのやつらに弄ばれてるだけじゃん!生徒会のやつ、どんだけ無能なわけ!? こんな詐欺みたいなやり方に騙されてなければ──!」

「セリカ。追い詰められた者にとれる選択肢など、初めから無いんだ。生きるために泥水を啜る者がいるように、な」

「…………先生」

 

悔しいんだろうな。

お前の顔を見ればそれくらい痛い程わかるさ。

だがな、実際そうなんだ。

 

追い詰められた者はどんな手だって使う。

生き残った同胞の半数を贄として差し出す事さえ……

 

「お前の怒り、悔しさ……よくわかるさ。だが、生徒会が悪意を持ってこんな事をしたんじゃないと、お前だって分かってるだろう。だから、その想いはぶつける時が来るまで取っておけ」

「……わ、私だって分かってるわよ! た、たまにゲルマニウムのブレスレットとか買ったりするし、下手したらここの誰よりも分かってる! 悪いのは騙した方だってことは! でも!……悔しい、どうして……ただでさえ苦しんでるアビドスに、どうしてこんなひどいことを……」

 

悪徳企業の都合でただでさえ苦境にある者が追い詰められるのを理不尽だと思うだろう。

悪人のために犠牲にされるのは、不当だと。

 

私だって、自分の所業を置いておけるなら子供をこのような手で騙すなど好みの手法ではない。

 

だからこそ食い物にされた。

 

「……苦しんでる人たちって、切羽詰まりやすくなっちゃうからね~。切羽詰まると、人は何でもやっちゃうものなんだよ」

 

それはどこか自嘲するように呟かれた。

文字通り何でもしたからな、それは私にも刺さる言葉だ。

 

「ま、よくある話だけどね。ただそれだけだと思うよ、セリカちゃん」

「……そうだな」

 

このような事件、表沙汰にならない場合も含めれば数多く起きていることだろう。

それがたまたま自分たちに降りかかっただけのこと。

他人に起きていたら、気が付く前にその他人は壊れているだろう。

どうしてそんなことに、と思ったころにはもう救えない。

 

だが、今回は違う。

理不尽も、不当な行いも、そして悪意すら。

この私がいる限り、もう二度と踏みにじらせてなるものか。

 

「学校の借金。このアビドスが陥っている状況、そして私たちが先生と一緒に見つけ出してきた幾つかの糸口。全てが少しずつ、繋がり始めています」

 

アヤネが進行役を変わり進め始めた。

そうだ、二度と悔しい思いをしない為にもアビドスは進まなければならない。

 

「幸か不幸か、お前たちの敵は大きなミスをした。最後の土地を手に入れたいが為にわざわざヘルメット団を雇ってまでお前たちを攻撃してしまった。その結果、自分たちの目的までバレ始めたのだから、ここを掴むしかないだろう」

「では、カイザーコーポレーションの狙いはお金ではなく土地だった、という結論で良いと思います!」

「でもアビドス自治区は、もうほとんどが荒地と砂漠、砂まみれの廃墟になっているのに……」

「確かに……こんな土地を奪ったところで、何か大きな利益があるとは思えませんが……」

 

不毛な土地。

だが、それこそがいいのではないか。

連邦生徒会すら投げ出した土地の廃校予定の学校。

それを手に入れたら、自分たちの学校と土地を正式に手に入れられる。

そして、ヒナの言っていた砂漠での活動。

 

強欲だな。

二兎追う者はなんとやら、と言うだろうに。

 

「1つは自分たちの土地と学校を手に入れるため、と私は予想している。だが、それよりも気になるのはヒナから聞いた砂漠での企みだ。やつらの施設か何かがあるのだろうが、知っているか?」

「うーん」

 

まあ、アビドス生に見られるような場所には建てないだろう。

もし立てるならもう少しマシな場所に建てるはずだ。

私が見に行ってもいいが、こうなると恐らく全員が行くと言い出すだろうな。

 

その期待に応えるようにセリカが声を上げた。

 

「ああもう、そんなことを考えるより、アビドスの砂漠はうちの自治区なんだから、実際に行ってみればいいじゃん! 何が何だか分からないけど、この目で直接見た方が早いって!」

「……ん、そうだね」

「……いや~、セリカちゃん良いこと言うねえ。こんなにたくましく育ってママは嬉しいよ。泣いちゃいそう。ティッシュちょうだい」

「な、何よこの雰囲気!? 私がまともなこと言ったらおかしいわけ!?」

「あ、あはは……そんなことは……でも、セリカちゃんの言う通りです」

 

流石、銀行強盗すらあの場で即決できる面子だ。やはりお前たちならこの問題を乗り越えられるはずだ。

それに今回は覚悟を問うまでもない。

 

見に行けば引き返すことは出来ないだろうが、それを躊躇う者たちじゃない。

なら、私もそれに従うまでだ。

保険をかけてな。

 

「なら、これは私からの提案と言う形にするぞ。少し落ち着いてきたからアビドスを案内する企画ということで。では、全員一時間ほど休憩してから出発だ」

 

私の意図は理解したのだろう、全員が明るい返事を返し各々が休憩へと向かい始めた。

そして私も()()でもしに行くかとしたところを追いかけてきたシロコに呼び止められた。

 

「……先生。出発する前に、ちょっと時間が欲しい」

「さっきの事か」

「うん」

「お前が理由なく仲間を傷付けるわけない。それで今から、ホシノと話そうと思っていた。なら、出発前にさっきの教室で」

「ん。念のため内容はモモトークで送っておく」

 

まったく。

本当にイイ後輩じゃないか。

 

00Ⅲ

 

屋上の塔屋に上り、私は一人黄昏ていた。

理由はもちろん、シロコからのモモトークだ。

 

「はぁ…こういう時、お前たちならどうする。真正面から切り込むか、それとなく指摘するか、それとも好きにやらせたうえで救うのか?」

 

ここにはいない友人二人を思い浮かべる。

アゼムは3番目、ヒュトロダエウスは2番目の側だと思う。

そしておそらく、こういった事は二人の方が得意だろうな。

 

私か?

残念だが、1番目だろう。

迂回なんてしない側だ。

だが、今はそれをするべきタイミングじゃない。

これから砂漠に行こうと言うのに。

 

「ありゃ、先生居たんだ。そこ、おじさんの昼寝スポットなのに」

 

背中を丸めて考え込んでいたら、件の人が扉を開けて外へと出てきた。

遅かったところを見るに、ノノミ辺りと喋っていたのだろう。

 

「ああ……私も高い所が好きでな」

「うへ~。でも、絵になるねえ先生のその姿」

 

確かにこの態勢で何かを考えたり、想いにふけったり、黄昏た回数は数知れない。

もはや癖なのだろう。

 

「……私に何か話があるの?」

 

一向に言葉を発さずに、ただ空を眺めていた私の様子を訝しんだのだろう。

先にホシノが切り出してきた。

 

「まあな。他の4人とは二人で話す時間も多かったが、お前とはあの日以来無かった」

「セリカちゃんが誘拐された夜だね。あの時はおじさんびっくりしたよ~。先生があんな――」

「闇を纏ってた、か」

「……うん」

 

私の魔法の中でも『テレポ』はやはり異色なのだろう。

術者が闇の中に吞み込まれる、もしくはそれを纏いながら消えていくのだから。

 

「あの日はごめんね、先生を疑って」

「疑って当然だ。逆の立場なら、当然怪しいと思うさ」

「でも、先生を化物だなんて思ったりはしてない。むしろ、逆。あの後の先生を見ていて思ったんだ。いい人なんだって」

 

いい人、か。

どうなんだろうな。予想した事を共有せずに自分だけで問題を解決すればいいと考える大人がそれに該当するとは思えない。

 

「先生はさ、私たちに隠してる事もあるよね」

「隠していることだと?」

「過去の話。前職の事とか特に。多分それは、私たちに関係がないからなのかな」

「後は既に終わった事、だからだ。今だに悩む事はあるがな」

 

そう。

アーテリスでの、私の役目は終わった。

何故か記憶や力が残ってそのまま転生したからこそ悩むが、それでももしアーテリスで転生していれば覚えていない事なのだ。

 

「……先生に初めて会った時、警戒したんだけどそれと同時に……重いモノを感じたんだ」

「……重いモノ?」

「私たちじゃ理解できないくらい長い時を見てきた人、って言うのかな」

「長い時ではあったな」

「先生は幾つなの?」

 

その質問はまだされたことがない。

おじさん扱いをされることはあっても、実際の年齢を聞かれたことはない。

これまでならはぐらかしただろうが、相手はホシノだ。

隠す必要もない。

 

「1万2000歳以上、だな」

「……長生きだね」

「疑わないのか?」

「先生ははぐらかす事はあっても、嘘はつかない人だよ。それに、あんな事が出来るんだもんそれくらい生きてても不思議じゃないって言うか驚けないって言うか」

 

魔法を見た後ならそれくらいは許容できるのだろうか。

魔法のあるアーテリスですら私たちは異色だったが、魔法のない世界ならそもそも魔法が異色だからそれを気にすることもないのか。

それとも、単純にホシノだからなのだろうか。

 

後者だろうな。

 

「1万2000年以上も生きてたならさ……私たちの問題なんてバカみたいだよね」

 

随分と自虐的な言葉だった。

それはおそらく覚悟を決めてもなお、やはりどこかに残る葛藤との決別をするための問いか。

 

「バカなものとは思わない。むしろ、お前たちみたいに手を取り合って前に進める奴の方が少なかったさ」

「意外。もっとそんな人見てきたのかと」

「最後に出逢えた。だが、それまでは何度醜い命だと思ったことか」

 

不完全な命。いや、命と呼ぶに相応しくない『なりそこない』と。

自分さえ良ければいい、そのためなら他人を犠牲にしても構わない。

そんな光景を何度目にしてきたか。

 

「……じゃあ、先生はさ。私たちを見て判じるって言ってたけど、どうだった、醜い命だった?」

「お前たちは……眩しい。これほど長く生きてなお、お前たちから学ぶ事も多い。決して、醜い命なんかじゃない」

「……そっか」

 

どうだった、醜い命だった……

全てが過去形の言葉で述べられていた。

 

「お前たちは、誰かが頑張れば救われるというときに、その『誰か』になれる」

「……」

「だが、それはお前たち全員が揃ってこそなのかもな」

 

シロコから聞いた問題については、砂漠から戻って話をするつもりだ。

だからこそ、ここは私なりの感想を述べるだけ。

 

「だからお前も、夜の見回りは減らせよ。しっかり寝て今を楽しむべきだ」

「うへ、バレてたか……って、それを知ってるって事は先生も寝てないって事だよ?」

「私はいいんだ。大人だから」

「うわ~、大人特有のズルい逃げ方だ~」

 

そういってホシノは笑う。

お前にはその笑顔が似合う、苦しんだ顔など見たくない。

 

「って、そろそろ時間か~」

 

そう言ってホシノはこの場を去ろうとする。

だが、その前に立ち止まってまた真剣な顔をした。

 

「先生、ありがとね」

「何がだ」

「先生には色々言ったけどさ、それでも先生は私たちと向き合ってくれた。そのおかげかな、今は先生の事信じてる。だから……」

 

一呼吸を置いて。

 

「アビドスのことよろしくね」

 

問題に触れなければ、やはりこのように離れていくだけか。

なら砂漠から戻ったら予定より早いが……ホシノには見せるか。

だが、その前に。

 

この場は繋ぎとめる言葉を。

 

「ああ。お前とお前の可愛い後輩たち全員、私が守るさ」




エメトセルクとホシノの会話は中々難しいです。
どちらも深くは明かさずにっという会話になってしまうのでどうしてもこれでいいのか迷う時があります。

さて、いよいよ砂漠ですね。

今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)

  • 原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
  • 変則(エ→パ1,2→兎)
  • その他(コメントでお願いします)
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