00Ⅰ
『ここまでは列車で来ることが出来ましたが、ここからの移動手段は徒歩しかありません。もう少し進めばアビドス砂漠……このアビドスにおける砂漠化が進む前から、元々砂漠だった場所です』
『捨てられた砂漠』とはヒナ評だが、初めてこの砂漠を見た時の私も近い事を思った。
あの日は一人で、そして今日は5人で。
だがあの日程、グチグチと文句を言いながら進むわけではなく各々少しだけ話をするだけで長い会話や愚痴などは殆ど無かった。
旅として見るなら、一人旅の方がまだ気は楽な部類だ。
『普段から壊れたドローンや警備ロボット、オートマタなどが徘徊してるので、危険な場所なのですが……今は強行突破するしかありません。皆さん、今一度火器の動作チェックをお願いします。アビドス砂漠で、カイザーコーポレーションが一体何を企んでいるのか……実際に行って、確かめることにしましょう』
さながら機工城アレキサンダーやウルティマ・トゥーレのオストラコン・デカークシの様だが、それらにほどの危険な兵器と言う訳ではない。ただ虫の様に数が多くて面倒な手合い。
しかし、機械相手はキヴォトスでは新鮮だな。機械タイプのマーケットガードとは結局のところ戦う事なく逃げおおせてしまったから、我が先生人生初という訳か。
「けどさ、アヤネちゃん。よく考えると、その情報をくれたのってゲヘナの風紀委員長でしょ。それってなんかおかしくない? いくら風紀委員長とはいえ、どうして他の学園の生徒が、うちの自治区のことをそこまで知ってるわけ?」
『うーん、あくまで推測に過ぎないけど……ゲヘナの風紀委員会はかなり情報収集能力に秀でてるって聞いたことが……だから、アビドスみたいな小規模な学校では考えられないような情報網を持ってる、とか……?』
「ま、そういうこともあるのかもね~」
ヒフミの報告書の内容をある程度把握できているほどの実力だ。ガレマール帝国の諜報員より優秀なのではないだろうか。
一体どんな方法で敵対するトリニティ内の情報にアクセスしたと言うのか。
まぁ知らない方がいいだろう。関わると面倒な事になるのは目に見えているからな。
『委員長という立場でしたら、風紀委員会が把握している情報は全部集約されているでしょうし……それにあの時、あちらの行政官がたしか──』
「まぁ、何にせよ今のアビドスにそれを止める手立てはない、ありがたく受け取っておけ。それにそんなことに時間を使っている暇もないしな」
アコの事を思い出し、自分たちの知らない事を知っていたのだと思った所で今更どうにかなるわけでもない。人数の差がある時点でそういった部分でも差が出るのは目に見えているのだ。
だから気にしても仕方ない、と私は暑さのせいで少しぶっきらぼうに言う。
「ま、行ってみたらそれも含めて、きっと色々分かるでしょ。セリカちゃんが言ってた通り、直接この目で確かめれば早いんだしさ。んじゃ、引き続き進むとしよっか〜?」
あの時こうしておけば良かった、もっと深く考えておけば良かった……そんな事を思って今の歩みを止める時間はない。
ホシノの掛け声を皮切りに、再び我々は無人の荒れ地を進み始める。
どうせまだかかるだろうから、私は出発前のシロコとの会話を思い出していた。
『…………これ。ホシノ先輩のバッグの中から見つけたの』
そう言ってシロコが差し出してきたのは、一枚の紙。
『退会・退部届。アビドス廃校対策委員会、小鳥遊ホシノ……モモトークの通りだな』
「先生以外にはこれを誰にも見せてないし、言ってもないけど……そもそもバッグを漁ったこと自体は、ホシノ先輩にはバレてる気がする』
『どうしてホシノのバッグを漁ろうと思った?』
責めるわけではなく、なぜそう感じたのか。
シロコは目を閉じ、語る。
『……ホシノ先輩があそこまで長い時間席を外すなんてこと、今までに無かった。それに、風紀委員会からあんなに追い詰められるまで先輩が来ないなんて』
シロコ自身が言っていたのだ、ホシノは誰よりも前に立っていると。
そんな存在が何故かその日だけは、事態が解決するまで来なかった。
『それがどうしても引っかかって……先輩のバッグを漁ってみたら出てきたの』
己の思う人物像との乖離が、疑念を生んだ。
それも裏切りなどではなく、一人で何かをしようとしているんじゃないかと。
『……ごめん、悪いことなのは分かってる。ホシノ先輩からはもちろん、生徒として、先生にも怒られても仕方ない』
罪悪感はある。
ならば責める事もない。
実際、ホシノの行動は不可解だったのだから。
『私からは怒らない。謝るべきはホシノにだが……とりあえず、この書類は私が預かる。それでいいな?』
『……うん、ありがとう。先生も分かってると思うけど……ホシノ先輩、何か隠し事をしてる』
『さっき話したが、やはり肝心な所では離れていった……まあ、戻ったらもう一度だ。どうあれ、お前は今の気持ちを忘れるな』
多くの秘密を抱えた者同士が話す場合、必要なのは自己開示なんだろうな。
なら、私もより深く……深層を見せる必要があるだろう。
それが例え、重いモノであろうとも。
示すべきなのかもしれない、お前が進もうとしている道……その末路を。
聞いて、感じて、考えて
残念な事だが、今はヴェーネスの言葉が脳裏に浮かんだ。
そしてそれが、まさに今必要な時ということも。
「ここから先が、捨てられた砂漠……」
そんな私の思考は、目的地周辺に到達したセリカの言葉によって現実へと引き戻される。
「砂だらけの市街地に行ったことはありましたが、ここから先は私も初めてです……」
「いや~、久しぶりだねえこの景色も」
「先輩は、ここに来たことあるの?」
「うん、前に生徒会の仕事で何度かね~。もう少し進めばそこにはなんと、かつてアビドスの砂祭りが開かれていたオアシスが!」
「え、オアシス? こんなところに?」
そんなものはどこにもない。
海ならありはする、砂の海が。
よってもはやその祭りをする場所に相応しくはない。
「うん、まあ今はもう全部干上がっちゃったんだけどね〜。元々はそんじょそこらの湖より広くって、船を浮かべられるくらいだったとか。ま、私も実際に見たことはないんだけど~」
「砂祭り……私も聞いたことある。アビドスでは有名なお祭りで、すごい数の人が集まるって」
「そうそう、別の学校からもそのお祭り見たさに人が来るくらいだったからね。ま、砂漠化が進み始めるより何十年も前のことだけど」
「へえ、今となってはこんな光景になっちゃってるけど、ここでそんなすごいお祭りが……?」
「前までは、この辺りも結構住みやすい場所だったらしいよ~。その時はこんな砂埃もなかったし」
ウルダハの様に、砂漠にある一大都市だったのだろうな。
それが砂嵐、砂漠化、果ては陰謀によって引き裂かれ見るも無残な姿に。
かつての姿は私ですら見る事は出来ないが、それでも今立っている場所もかつては人が行き来した場所なのかもしれない。
人の歴史とはかくも脆い。
「ところでアヤネちゃん、まだ目的地は遠そう?」
『指定されたセクター付近ではあるのですが……先生は如何ですか?』
「……ここだな」
人ではないが、気配ならばある。
道中で破壊したドローンとはまた違うもの、大きな構造物。
砂埃で上手く隠したか。
『……!? 皆さん、前方に何かあります! 巨大な町……いえ工場、或いは駐屯地……? と、とにかく、ものすごい大きな施設のようなものが……?』
「ほんと、先生の目は便利だね~。けど、今のところ、私たちからは干からびたオアシスしか見えてないけど……」
『恐らく見間違いではないと思うのですが……とりあえず、肉眼で確認できるところまで進んでみてください!』
科学的な方法での隠蔽もしていた可能性はあるが、それでもここにあると言ってアヤネが入念に調べれば見逃すはずもない。
彼女の判断を疑う者など居やしない、皆進む。
そして、ようやく。
「…………」
「何これ……」
人工的な建物、正しく前哨基地の様な構造物がそこに広がる。
さながらそれは、ガレマール帝国が征服した土地に建てる魔導城のように広大に、そして確実に存在した。
「この張り巡らされてる有刺鉄線、優に数キロメートル先までありそう……」
「工場……? 石油ボーリング施設、ではなさそうな……一体何なのでしょう、この建物は……?」
「こんなの、昔は無かった……」
つまりホシノがアビドスに入った2年前には存在していなかったと言う事。
その言葉通り、建物に目立った傷や汚れはない。
そして、見る過程で一つのマークを見つけた。
そうそれは、ヘルメット団の少女を救った時に見かけたマークであり、彼女の言葉からも出た存在。
その一点を見ていた私の視線を追ったホシノもまた、そのマークを見つけ呟く。
「……カイザーPMC」
『……はい。ホシノ先輩の仰る通り、カイザーPMCのようです』
「カイザー……? こいつらもカイザーコーポレーションってこと!?」
『はい、カイザーコーポレーションの系列会社で……』
「もうどこに行ってもカイザー、カイザー、カイザー! 一体何なの!?」
「それに、『PMC』ということは……」
「え、何かマズい言葉なの?」
マズいと言うのは少し違うが、それでもいい物ではないな。
「民間軍事会社、まあいろいろとやるがわかりやすく言うと軍隊だな」
「軍隊ぃ!?」
一企業が金融、工業、軍隊まで持っているとなれば次に狙うのは国……ここでいう自治区か。
ウルダハの砂蠍衆の方がまだマシだろう。あれは有力者たちの寡頭制だったがカイザーの場合は競合できる相手が殆どいない状態。
なら当然、『国』を持てば誰も手を出せなくなる。
「退学した生徒や不良の生徒たちを集めて、企業が私設兵として雇っているという噂がありましたが、まさか……」
ノノミの言葉の先を聞く前に、けたたましい警報が鳴り響いた。
正直、道が痛くなるくらいに煩くそしてそれは私たちを発見したと理解させるには十分だった。
「け、警報音……!?」
「バレたなあ」
「バレたなあって、先生軽すぎでしょ!!」
正直ここに入った時点でバレずに帰るのは私が魔法でも使わない限りは不可能。そして、その程度のリスクくらいは想定して入ったはずだがやはりいざ見つかると慌てふためくのは年相応だ。
「これ、何だか大ごとになりそうな予感なんだけど……」
「これは……ヘリの音……?」
「それに、この地面の揺れ……恐らく戦車」
『大規模な兵力が接近中! 包囲しに来ています! 仰る通り、装甲車以外にも戦車やヘリまで……! ものすごい数です!』
魔法で全員連れて帰るか?
現状で私が大々的に魔法を使ったのは『アシエン』としてのみ。
風紀委員会との戦いでは目視など不可能だったはず。
故に、ここで使うのは悪手になるかもしれない。
では、戦うか?
いや、それも避けるべきだろう。
いくら対策委員会が強くても、軍隊を相手にするのは体力的に厳しい。
逃げるのがいいが、そうすればこれ以上の情報は得られない。
もし逃げ切ることができなければ?
どう転んでも、私が介入しない限りは好転しない。
なら、あえて相手の策に乗るだけだ。
「落ち着け、どうせバレてるんだ。むしろ堂々とした態度で撤退して包囲させてしまえ」
「そんな! それじゃあ私たち捕まるじゃん!」
「安心しろ、いざとなれば私がやる」
その言葉に4人全員が私を見る。
そして、全員葛藤することなく即断した。
「ん、先生その時は任せる」
「頼んだわよ、エメトセルク先生!」
「私も先生を信じます」
「うへ、先生のあれを体験できるんだ」
私に命を委ねる判断を疑うことなく下した彼女らと共に私は不法侵入したわりに堂々と施設から退去しカイザーPMCの包囲が完成するのを待った。
そこで黒幕に会えると期待して。
そして期待通り、包囲は完成し。
「侵入者とは聞いていたが……アビドスだったとは。まさかここまで来るとは思っていなかったが……まあ良い」
格好と図体だけは立派な機械が出てきた。
そして、そいつが現れた途端にホシノの目つきが変わる。
ほう、ならこれが。
「あんたは、あの時の……」
「……確か、例のゲマトリアが狙っていた生徒会長……いや、副会長だったか?」
そして予想通り、これだけが黒幕ではないようだ。
『ゲマトリア』、そんな名前の奴がいるとは思えないから恐らく組織名か。
何にせよ、その口は軽そうだな。
「……ふむ、面白いアイディアが浮かんだ。便利屋やヘルメット団を雇うよりも良さそうだ。私は、カイザーコーポレーションの理事を務めている者だ。そして君たち、アビドス高等学校が借金をしている相手でもある」
「……嘘っ!?」
「では、古くから続くこの借金について、話し合いでもするとしようか」
ああ、そうやってどんどんと口を滑らせていけ。
そうしている間に、私はお前を判じることができそうだ。
せいぜい、見せてくれよ。
お前の醜さを。
00Ⅱ
「アビドスが、借金をしている相手……」
『か、カイザーコーポレーションの……』
「正確に紹介すると、カイザーコーポレーション、カイザーローン、そしてカイザーコンストラクションの理事だ。今は、カイザーPMCの代表取締役も務めている」
丁寧な自己紹介、と聞く者によっては思うのかもしれないが実際のところこれは、まるで勲章かの如く己の権威をひけらかしているだけにすぎない。
そして表立って攻撃せずに撤退した判断は正しかったようだ。
まず間違いなく難癖をつけてくるだろうからな。
「もう知ってるだろうが、一応、挨拶させてもらおう。連邦捜査部シャーレの顧問、エメトセルクだ」
「なるほど、貴様がシャーレの」
「そしてお前がカイザーの、ねぇ」
貴様、お前。
厳密には貴様は元々は敬語だったのだが、その役割は貴殿にとって変わられ相手を見下した時に使う言葉になってしまった。
よって、どう見ても素晴らしい初対面の挨拶ではなく、むしろ互いに見下し合っている。
まあ、こいつにどう思われようと私はどうでもいい。
それこそ荒野に転がる草くらいにどうでもいいものだ。
「遠足のつもりが随分と立派な建物を見かけ、危険なものだと困るから捜査部らしく見にきたら、何とまさかお前たちの建物とは」
「白々しいな」
「シャーレの権限によって行われる正式な捜査を白々しいとは、勤勉な市民の姿とは言えないんじゃないか」
私とカイザー理事の間で行われる会話に意味などない。ただお互いの権利の主張でしかないのだから。
「では、この侵入はシャーレの権限の下で行われた違法なものではないと?」
「あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる超法規的機関……つまり、私たちの行動は違法ではない。それくらいはわかってるだろう?」
「ふん……」
機械とは便利なものだ。
なんせ表情がないんだから。
人なら多かれ少なかれ表情に現れてしまうのが常。出ないやつは既に心が壊れている。
「おおかたアビドスがシャーレに依頼して、調査でもさせた。そんなところか」
カイザー理事はどうも私の行動をアビドス側が依頼したからだと勘違いしているようだが、実態としては違う。
元々は『アビドスの案内』とされた遠足で、その過程で見つかった物の調査を私が開始したと言う体だと言うのに。
深読みか、それとも意図的か。
しかし理事はあくまでアビドス側からの依頼として進めるようだ。
故に彼女たちを嘲笑する。
無価値な努力だ、と。
「……要はあなたがアビドス高校を騙して土地を奪って、搾取した張本人ってことで良い?」
「……ほう」
「そうよ! ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私たちをずっと苦しませてきた犯人があんたってことなんでしょ!?」
「ふむ……?」
「あんたのせいで私たちは……アビドスは……!!」
その想いは正しい怒りであり、何ら間違いなどはない。だがそれを放つ場面ではなく抑えるべき場面だったのだ。
お前たちは相手の不快な態度という挑発にのり、うちに秘めた怒りをただ放ってしまった。
相手の思うツボだと言うのに。
「やれやれ……最初に出てくる言葉がそれか。勝手に私有地へと侵入し、善良なる我がPMC職員たちを攻撃しておいて……だが、口の利き方には気を付けた方が良い。ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所。まず君たちは今、企業の私有地に対し不法侵入しているのだということを理解するべきだ」
「だから、言ってるだろう。シャーレの権限において違法じゃないとな。しかも、我々は攻撃などしていない。随分と都合のいい頭のようだが……機能の限界か?」
どうせ理事がアビドスに対して狙いを定めている以上はどのような態度をしようとも彼女たちに不利益な行動をするだろう。
なら別にこちらが遜る必要もない。
「貴様も口の利き方に気を付ける事だ、シャーレ。貴様がどのような権限があろうとも、ここでは我々がルールなのだ」
都合のいい頭、と言う言葉が思いの外効いたようで露骨に声のトーンが変わっていた。仕方ないだろう、機械相手に感情を探るのはかなり難しい。
だが煽って抑揚と行動が変わるなら占めたものだ。
「さて、話を戻そう。……アビドス自治区の土地だったか、確かに買ったとも」
再び矛先をアビドスに変えた理事は、先ほどまでの余裕を持った尊大さが戻っていた。
こいつは根本からアビドスを見下しているのだろうな。
私の様に手を出しても自分が不快になるだけの相手に構うよりは、心の平穏を保てる。
「だからどうした? 全ては合法的な取引、記録も全てしっかりと存在している。まるで、私たちが不法な行為でもしているかのような言い方は止めてもらおうか。わざわざ挑発をしに来たわけではないのだろう?」
流石に初動のリスク管理はしっかりと行っていたようだ、例えバレたとしても合法だと言い切るように。
詐欺師も大体の場合はそう言う。
罠に嵌めたかもしれないが、選択したのはお前たちじゃないか、と。
──しかし、私たちが撒いた種に、黒い感情を注いで育て、花を咲かせたのは……いつだって、お前たちだったよ
そう。
どんな世界だって、そうさ。
「ここに来たのは、私たちがここで何をしているのか気になったからか? どうしてアビドスの土地を買ったのか、その理由が知りたいのか?」
目の前の役者は、酷く上機嫌で言葉を放ち続ける。
それが、それこそが余裕なのだと言いたいかの様に。
「それならば教えてやろう、私たちはアビドスのどこかに埋められているという、宝物を探しているのだ」
宝物。
何十年もかけて見つけ出す程、企業が社運をかけて臨むほどの価値がある宝物。
古代アラグ帝国の秘宝……のような類なのだろうと私は勝手に解釈した。ホントの本当に、宝物庫探しをカイザーが行うとは到底思えないからだ。
そんな、あいつじゃあるまいし。
「そんなでまかせ、信じるわけないでしょ!」
「それはそう。もしそうだとすると、このPMCの兵力について説明がつかない。この兵力は、私たちの自治区を武力で占拠するため。違う?」
確かにPMCの兵力については説明がつかないという指摘は正しい。
だが、後半の見方は私怨が混ざっているだろう。
「いや、それは違うな。そもそもそんなつもりなら、私が来る前に手を出しているだろう」
急遽招集した兵力ではなく、最初からここに配置することを決めていたものと思える。
恐らく掘り出した宝物に対してか、それを狙う他の組織……例えば他校や他企業に対しての兵力だろう。
「頭は切れるようだな、シャーレの先生。そうだとも、数百両もの戦車、数百名もの選ばれし兵士たち。数百トンもの火薬に弾薬。たった五人しかいない学校のために、これほどの用意をするはずがない。冗談じゃない。あくまでこれは、どこかの集団に宝探しを妨害された時のためのもの。ただそれだけだ、君たちのために用意したものではない」
どこかの集団。
なるほど、案外これは使えそうな言葉だ。
こいつが何かをしたとしても、それをある程度は縛れる集団を私は知っている。
そして、私はそのメンバーだ。
「君たち程度、いつでも、どうとでもできるのだよ……例えばそう、こういう風にな」
だが、理事は行動を起こす。
「……私だ……そうだ、進めろ」
「な、何……? 急に電話……それに「進めろ」って、何のこと?」
「残念なお知らせだ。どうやら、君たちの学校の信用が落ちてしまったそうだよ」
見せしめにカードを切った、という意味だろう。
恐らく、そのカードを切る行為こそが奴らの計画の新しいフェーズを進める第一歩。
『こちらカイザーローンです。現時点を以ちまして、アビドスの信用評価を最低ランクに下げさせていただきます』
『……!?』
『変動金利を3000%上昇させる形で調整。それらを諸々適用した上で、来月以降の利子の金額は9130万円でございます。それでは引き続き、期限までにお支払いをお願いいたします』
『はい!? ちょ、ちょっとそんな急にどうして……!?』
約1億を来月に支払え。
そんなことが出来るなら、1年かからずに10億の返済は出来ている。
つまりこれは……
明確な宣戦布告だ。
「きゅ、9000万円!?」
「……くっくっくっ。これで分かったかな。君たちの首にかけられた紐が今、誰の手にあるのか」
「ちょっ、嘘でしょ!? 本気で言ってんの!?」
「ああ、本気だとも。しかしこれだけでは面白みに欠けるか……」
尚も満足せず、よりアビドスを絶望させようと。
理事は追い打ちをかける。
「そうだな、9億円の借金に対する保証金でも貰っておくとしよう。一週間以内に、我がカイザーローンに3億円を預託してもらおうか。この利率でも借金返済ができるということを、証明してもらわねばな」
法外、という言葉を知らないのかこいつは。
どうせ初めの時点でアビドスの炎は掻き消されていたも同然。
そこにさらに、一週間以内に3億ときた。
絶望させてしまえと。
『そんな……! そんなお金、用意できるはずが……今、利子だけでも精一杯なのに……』
「ならば、学校を諦めて去ったらどうだ?」
彼女たちを踏みにじるように、詰める。
「自主退学して、転校でもすれば良い。それで全て解決するだろう、そもそも君たち個人の借金ではない。学校が責任を取るべきお金だ。何も君たちが進んで背負う必要は無いのではないか?」
「そ、そんなこと、できるわけないじゃないですか!」
「そうよ、私たちの学校なんだから! 見捨てられるわけないでしょ!」
「アビドスは私たちの学校で、私たちの街」
故郷を、思い出の地を捨てて逃げてしまえと。
そんな事が出来るなら、遠の昔にしているであろう相手に対しての随分な物言い。
「ならばどうする? 他に何か、良い手でも?」
理事の問に答えられない彼女たちを私は見やる。
拳を握りしめ、されとて言い返せず。
かつて銀行強盗を行う前に見た、あの光景と同じ。
絶望へのカウントダウン。
そして今回は強盗の様な真似は出来ない。
仕方ない。
助け船を出すかと思った矢先、ホシノが声を絞り出した。
「……みんな、帰ろう。……これ以上ここで言い争っても意味が無い、弄ばれるだけ」
「ほう……副生徒会長、さすがに君は賢そうだな。……ああ、思い出したよ。賢そうな君と一緒にいた、あの全くもってバカな生徒会長のこともな」
「…………」
バカだと。
例え志半ばで退場したとはいえ、アビドスを救う為に奔走した彼女を。
お前如きが……
その言い方に、態度に腹が立ち。
座の紋章が浮かびそうになるのを何とか堪える。
だが、それでもお前にだけ気分よく終わらせるとでも思っているのか。
「では、保証金と来月以降の返済についてはよろしく頼むよ。お客様。ふふっ、ふはははは…………! 存外悪くない時間だったな。さあ、お客様を入り口まで案内して──」
「私の指示に従った……いや、正確には断れないに近い権限を持つ相手に渋々従わざるを得なかった者に対して随分な行いじゃないか」
私の口出しに表情は見えないが、やはり不快そうな態度で理事が返す。
「口を挟まないで貰おうか。貴様がどのような権限で何をやろうと我々が責める事は出来ないのかもしれないが、アビドスは違う。彼女たちは自分で、信用を下げた。それに対して、企業として対処する事の何が悪い?」
私とアビドスを切り離して対処することにしたのだろう、その構えを崩す程の力は……
それこそ実力で行使するか、搦め手でこいつを除外するかしかない。
「そもそも、貴様が借金に関わる事自体が理解できん。先生という立場だから、アビドスを救いたいなどと息巻いたのかもしれないが貴様に借金を返済できるわけでも、土地を取り返せるわけでもない。身の程を弁えることだな」
「身の程だと? 八ッ、お前こそ今の自分の立場を、カイザーコーポレーションの現状を理解できてないんじゃないか?」
「……何?」
理事と会った時点で、アビドスに更なる試練が覆いかぶさってくることも、私や彼女たちが罵倒されることも想定はしたさ。
だが、お前如きが彼女たちの想いを簡単に語っていいわけないだろう。
ここからは私の仕返しだ。
「……『アシエン』」
「……ッ! 貴様、なぜそれを!?」
「いやあ、驚いたよ。私が前に居た土地で暗躍していた、あの『アシエン』がまさかキヴォトスに存在して、お宅の系列の銀行の襲撃までしていたとはなあ」
『アシエン』。それはカイザーコーポレーションにとっては自分たちに害を成す存在であり、未だその正体を掴めない存在。
それは理事の反応を見るだけで明らかだ。
「……シャーレの先生よ、お前はなぜ奴らを知っているのだ」
「だから、前の土地に居たからだよ。そして、奴らのメンバーと接触したこともある。ここに来てからも、な」
「……」
全てが嘘なら見抜かれるが、真実を織り交ぜた嘘は見破られ辛い。
実際、アーテリスに存在しメンバーと接触したのもまた事実。
ここに来てからは……私が『アシエン』だからまあ嘘ではないだろう、正しくもないが。
「『アシエン』について、教えて貰おうか?」
「それが人にものを頼む態度か? 私の中で、
「貴様ッ!」
理事の神経を逆撫でするのに最適な言葉、奴が余裕を持って言った言葉をそのまま送り返す。
これは腹が立つだろうなあ。
会社としても、『アシエン』は放置できない。その情報は何としても手に入れたいし他の者より先に手に入れたらそれこそ自分の地位がまた上がるかもな。
この私に暗躍で勝ろうなど、1万と2000年早い。
「……貴様が本当に知っているはずもない、ハッタリだろう」
「メンバー構成、人員、目的……そして、私に接触してきた奴の名前と性格……話すことは多いが、それを信じないと言うなら、ここまでだな」
「……では、3億円を預託については無しにしよう」
「いや、毎月約1億の利子の方を無しにしろ。話はそれからだ」
お前との決着など、1週間以内に着ける。
だから、どうせ3億円の預託なんてものは消えてなくなる。
なら、もしかしたら残る可能性の利子についてだ。
「……よかろう」
暫し悩んだ理事であったが、やはり情報は欲しかったのだろう。再び端末を取り出し、銀行へと連絡を取る。
「……私だ、先ほどの利子についてだが……誤解があった様だ。元の利子に戻せ」
『かしこまりました!』
「これで情報を貰えるな?」
そうだ、それでいい。
これで少しはこちら側の心の余裕が出来るだろう。
それに、全てを話すわけではないしな。
「そうだなぁ。『アシエン』は13人のメンバーで構成され、それぞれのメンバーに従う組織が存在している」
ラハブレアの下にいた四助祭……黒い仮面のアシエンがその代表例だろう。
私には……いなかった。
強いて言うなら、ここでは覆面水着団か。
「そして、私に接触してきたメンバーだが……」
この場合、誰にするかについてはあらかじめ決めていた。
本来ならこういう事にその座を出したくはないが……お前の転生体のした行いに対する少しの仕返しだと思ってくれよ、ヘルメス。
「……『アシエン・ファダニエル』という男だ」
──言ったでしょう? すべてを殺して、死にたいんだって。
──世界を救う? いいえ、あなたたちは今から世界の敵になる。何もかもを終わらせるために!
ヘルメスの転生体があの性格だったのか、と思う者もいるかもしれない。
私だって、真面目なヘルメスを知っているからこそ思う部分もあるがそれでも、あれもまたヘルメスが悩んだモノと同じ悩みを持っていた。
「その『アシエン・ファダニエル』の目的は、部下はなんだ」
「お前、何か勘違いしていないか?」
「勘違いだと?」
「奴の本当の目的と、『アシエン』の目的は別だ」
「なら、奴の本当の目的とはなんだ!! 銀行で言っていた『新生』などという目的でないと言うなら!」
じっくりと焦らして答える私に、理事も苛立ちを募らせ始めた。
理事の考えを当ててやろう。
カイザーコーポレーションに盾突くなんて、さぞ名目上は素晴らしい目的なんだろうと。
だから、そのためにわざわざファダニエルを選んだんだ。
「すべてを殺して、死ぬこと」
「……?」
「だから、自分が死にたいからそのために全部巻き込んで死んでやるって事だ」
理事も、なんならアビドスの全員も理解できないという顔をしていた。
彼女たちは『アシエン』と共に仕事をした仲間だが、それでも私がこうもスラスラと述べると言う事はそれが完全なでまかせでない事くらいは分かっている。
だからこそ、だ。
思うだろうな。
死にたいなら一人で死ねばいいじゃないか、と。
理事の反応はまさにその通りだ。
「ふざけるな!! そんな身勝手な……壮大な自殺の為に、私の計画が、カイザーコーポレーションが狙われるなど!!」
ほら、自分の身になるとお前だってそんな言葉を使うんだろう?
理不尽だ、不当だと。
己が言った通りのことを他者にしているのに。
──他者を踏みつけ、足蹴にし、傷つけながら、どうして生き続ける必要があるんだ?
ファダニエル、いやアモンに同意できる点があるとすればこの言葉には同意できる。
他者を踏みつけ、足蹴にし、傷つけながら己の身に降りかかると文句ばかり言う醜さ。
勿論そればかりが、人ではない。
あいつらの様に、そうではないと示せる者が居てそれを信じる者たちだっている。
しかし、理事。
お前は正しく醜い人、そのものだ。
もしかしたら、そう言ったファダニエルにも何か経緯があるのかもと考えたりもしない。
自分が今している行為を振り返りもしない。
自分さえよければそれでいい。
所詮、この程度の黒幕か。
「面白いなあ」
「……何」
「自分でしている行為を他人にされたら、理不尽だ、不当だと文句を垂れるその醜さ。本当に……救いようがなくて嗤うしかない」
そういって私は理事が彼女たちにした様に嘲笑する。
これで少しは彼女たちの溜飲が下がればいいが。
「だから言ってやったんだ。アビドスにそれをすればお前を消すが、カイザーコーポレーションにする分には勝手にしろと」
「どういうつもりだ! 貴様の仕事は、キヴォトスの問題を解決する事だろう!!」
「そこには生徒の問題、があると解釈しているし、お前は生徒じゃない。だから、どうなろうが知ったことか。むしろ、苦しんで藻掻いて盛大に消えてくれる方が見ていて気分がいい」
貴様、とあらぬ限りの怒りを篭めてもはや聞くに堪えない言葉で罵倒し続ける理事だがもう用済みだ。
聞きたい事も聞けたし、底も見れた。
これ以上、こんな奴を見ていても時間の無駄だ。
それにお前を終わらせるのは、ここに存在しないファダニエルじゃない。
私
「ではな、理事。せいぜい、暗澹たる闇の中で『
そう言って、私は彼女たちに向き直る。
「今のうちに帰るぞ。ここに居てもお前たちもしんどいだけだ」
「……先生」
「いいさ。さ、遠足は終わりだ」
負け戦になどさせないさ。
例え今、心が辛くても敵の底も見えたはずだ。
だから、胸を張って帰ろう。
明日の為に、お前たちのフィナーレの為に。
展開的に悩みましたが、カイザーの理不尽にエメトセルクがタダで帰る判断を下すとは思えなかった。
それに、生徒を馬鹿にされて黙って帰るほど優しくもないと。
今回はアシエン・ファダニエルの話を出しましたが背景を知らない人からすると本当に理解不能でなんでそんな事に巻き込まれないといけないと思うのではないでしょうか。
私はアモンもヘルメスも好きですが、FF14ファンの間でも評価が分かれるキャラではあるのでしょうか?
カイザーの理不尽についても、人の醜さの一部だと思います。
けど、FF14プレイヤーの方はそればかりが人ではないと思ってくれるはずです。
次回はホシノとの会話ですね……
頑張ります!
今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)
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原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
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変則(エ→パ1,2→兎)
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その他(コメントでお願いします)