00Ⅰ
「もうっ、一体何なのよ!」
「カイザーコーポレーションは、あそこで一体何を企んで……?」
「『宝物を探している』、と言っていましたが……」
「あの砂漠には何も無いはずです。でたらめを言っているんだと思います」
帰ってくるなり、あの場と帰り道で吐き出せなかった想いや考えを対策委員会のメンバーは口々に話し始めた。
終始無言の帰り道だったから、正直心配していたがやはりいい空気ではない。
「いやいや、今はそれよりも借金の方でしょ! 利子の方は先生の……とんでもない話のおかげで何とかなったけど……」
「それでも、あと一週間で3億だなんて……」
この場にいる誰もが理解していること。
正攻法では3億などと到底準備することは出来ない、という事だ。
だが、実際のところ一週間も余裕はない。理事のあの様子を見るにすぐに行動に出たがるだろう。
ファダニエルの存在を警戒しつつも、奴にやられる前にアビドスを倒そうとするはずだ。
ファダニエルの野望への対処などしようがない事くらい少し冷静になればわかる事だ。
「……行ってくる。あそこで何をしているのか、調べないと」
「し、シロコ先輩!? 行くって、一体どこへ……?」
「PMCの施設。徹底的に準備すれば、何とか潜入できると思う。行って、何をしているのか確認する」
逆にこちらは追い詰められた側のアビドス。
冷静な判断よりも、博打的な策を取ろうとし始める。
行ってどうするのだ、と言ってやりたい。そんな事をしても次は無事で帰って来れる確証はない。勿論、私が見ている限りでそんな行動をしたら助けはするがシロコやホシノ、いや対策委員会全員が思い立ったら一人でも何かをしてしまうタイプだ。
「ま、待ってシロコ先輩! それより今は、3億の話の方が先でしょ!」
「……3億円はもう、真っ当なやり方じゃ準備出来ない。何か、別の方法を……」
預託への対策が先か、PMCの目的を探るのが先か。
それぞれが別の方向を向いてしまっている。
これでは協調して理事を出し抜くなど到底できない。
「だ、ダメですよ! それではまた……」
「……私はシロコ先輩に賛成! 学校が無くなったら全部終わりなんだから、もうなりふり構ってられない!!」
「……それは『アシエン・ファダニエル』さんの話に怒ったカイザー理事と同じになってしまうんじゃないでしょうか」
「それは……」
ノノミの発言が暗雲立ち込める話の流れを堰き止めた。
アビドスを散々苦しめておきながら、ファダニエルの目的のためにただ無差別に巻き込まれたとわかるや否や激怒した理事。
その醜い姿をお前たちは見たはずだ。
「私たちが苦しいから、大変だから他の人を苦しめても良い……そんなわけないと私は思います」
「じゃあどうやって3億用意するの! ……わ、私だってあんな奴みたいにはなりたくないけど……」
全員思ったのだろう。
こんな無様で醜い大人にはなりたくない、と。
だが手段は選べないから。
「それは……私にもわかりません……本当に強盗をしたら知らない誰かを踏みつけて、傷付けて私たちは生き残れるかもしれません。けど、それはホシノ先輩も仰ってたようにアビドス対策委員会じゃ無くなってしまいます」
まさにアモンが苦悩した問いそのものにノノミは自分なりの答えを見つけつつあるのだろう。
問題の解決法はわかりはしないが、それでも他者を踏みつけ、足蹴にし、傷付けてまで生き残るのは違うのではないか。
もっと他にやりようがあるのではないかと。
勿論、この問いには難しい面もある。
アビドスが生き残る、すなわち理事の破滅だ。
よって誰も傷付けないエンディングなど存在しない。
その問いを投げたアモンとて、その行為を他人に行ってきたのだから。
だが、シロコやセリカからすればそんな綺麗事ではアビドスを救えないと言いたいのだろう。誰もあんな醜悪な奴にはなりたくはないが、それでも生き残るためなら仕方ないじゃないか、と。
「ほらほら、みんな落ち着いて〜。頭から湯気が出てるよ〜?」
別にシロコやセリカ、ノノミにアヤネも言い争いをしたいわけではなくいかに現在の問題に対処するべきなのかを真剣に議論していただけだ。
だが、このままいけば決定的なスレ違いを起こす可能性もあった。
ホシノの言葉がその空気を変えたのだ。
「まっ、とりあえず今日はこの辺にしとこう。うへ~、じゃあ解散解散~。一回頭を冷やして、また明日集まる事にしようよ。これは委員長命令ってことで」
「何にせよ、一週間以内に理事とは決着を付ける。その策を明日授ける」
幾つかの策を用意している。そして、そのどれも理事待っている結末は同じ。
ただ、その過程で想定される苦難が違うだけ。
そして、ホシノと私の言葉によって対策委員会の長い一日が終わりを告げた。
シロコ、ホシノ、私以外の。
00Ⅱ
「ん~? シロコちゃんと先生は何かまだやることある感じ?」
残ったのが私たち二人という事もあってホシノは少し面倒くさい顔を浮かべる。
当然だろうな、昼間にひと悶着あった二人だ。
「……先輩、ちょっといい?」
「うへ〜、二人ともおじさんとお話したいことがあるの? 照れるな~しかも、先生は今日で2回目、モテモテだー……でもさ、今日は疲れたし、色んなことがあったじゃん? また明日話そう、大体どんな話かは分かってるから」
また明日、と。
だがその明日は来るのか、と私は思う。
お前は彼女たちと違う明日を見ているじゃないか。
それじゃあ、シロコの想いにどうやって応えるつもりなんだ。
「……ん、分かった。先生……」
シロコはこれ以上問い詰めても、先ほどの様な口論になりかねないと判断し私へと任せようとする。
「ああ。ゆっくり寝ろよ、シロコ」
「ん、じゃあまた明日……」
私に任せろ、と言いたいが結局何をしても選ぶのはホシノ自身。
その選択が気に食わないからと私が手を出すことは出来ない。
だが、お前が私に任せた以上はいい結末を用意するさシロコ。
「うへ~、先生やるねえ? 私の可愛いシロコちゃんと、いつの間に仲良くなったの? いやいや、やっぱり先生は侮れない大人だな~。おじさんは流れに付いていけなくて何だか寂しいよ」
ホシノは話すことはない、これ以上聞かないでくれ、と私に訴えかけるようにただ言葉を紡ぎ続けていた。
だが、私は黙って一枚の紙を出す。
「それって……うへ~、いつの間に……! これ、盗ったのはきっとシロコちゃんだよね? 全くシロコちゃんったら、いくら何でも先輩のかばんを漁るのはダメでしょ~。先生、きちんとシロコちゃんを叱っといてよ~? あのままじゃとんでもない大悪党になっちゃってもおかしくないってー」
私が何も言い出していないのに、こうしてただ無言で退部届を出しただけなのに。
ホシノは懸命に言葉を放ち、矛先を盗み出したシロコへと向けようとした。
まさしく己を守るために。
もちろん、シロコの行いも褒められたものではないが……。
今回は悪意でやったわけじゃない。
「それで?」
「……」
私が聞きたいものはお前のそんな逃げじゃない。
ホシノもそれはわかっているのだ。しかしそれでも、自分の話はなかなか出来るものじゃないだろう。
「……どうしても?」
「別に話さないと言うなら責めはしない。だが、私はお前と腹を割って話をしたい。互いに仮面を外して、な」
私は踏み出す。
お前の境遇、大切な思い出、そして未だ捨て去れない後悔。
それらをお前の口よりも先に知ってしまった。
だからこそ、私もまたお前に話をしなければならない。
お前を責めるためでも、否定するわけでもない。
ただ、一つの結末として。
お前は知る権利を持っている。
「はあ、仕方ないなあ。面と向かってっていうのも何だし……先生、ちょっとその辺一緒に歩かない?」
と、廊下を指しながら。
私自身、この部屋で話すのも違うと思っていたからホシノと一緒に廊下に出る。
「けほっ、けほっ……うわぁ、ここも砂だらけじゃ~ん……」
校舎の中で砂を踏みしめる音が鳴る。
掃除と言っても限界がある。5人では、すべてを管理することはできない。
「ま、仕方ないんだけどね。掃除しようにも、そもそも人数に対して建物が大きすぎて……」
だが、ホシノはそれでもこの学校が好きなんだろう。
言葉とは裏腹に目はそう物語る。
「うへ~、せっかくの高校生活が全部砂色だなんて、ちょっとやるせないと思わない?」
「お前は、この場所を愛している。過去も、今も……な」
「……今の話の流れで、本当にそう思う?」
「本当に厭なら、砂色の思い出を護るためにここまではしない」
「……流石、長生きだね先生」
私が長生きだからそういう考える至るわけではない。
相手の目を見て、本心を知ろうとすれば厭でも見えてくるもの。
そして、偶然話を聞いてしまったもの。
「…………砂漠化が進む前、アビドスはかなり大きくて力のある学校だったって言われてるけど……そんな記憶も実感も、おじさんには全く無いんだよね。最初から全部めちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つない学校だった」
己の気持ちを整理するかの如く、ポツポツとホシノが話し始める。
「おじさんが入学した時のアビドス本館は、今はもう砂漠の中に埋もれちゃったし。当時の先輩たちだって、もうみんないなくなった。今いるここは、砂漠化を避けて何回も引っ越した果てに辿り着いた、ただの別館」
そう言いながら、ホシノは砂を拾い上げまた地面へと零す。
それはまるで己の青春の儚さを示すかのように。
「……ま、でもここに来てシロコちゃんやノノミちゃん、アヤネちゃんにセリカちゃんと会えたから……うへ、やっぱり好きなのかもしれないなぁ……」
悲しい笑顔だった。
そんな顔、お前には本当に似合わない。
儚さも、悲しさも、お前を彩るべき色ではないんだ。
「……なら、どうして書いた」
「……先生、正直に話すよ。私は二年前から、変なやつらから提案を受けてた」
そこからホシノはカイザーコーポレーションから提案を受けていたこと、それを入学直後から何度も受けていたと。
そして、この間……つまりは、風紀委員会とも悶着の際にもあったのだろう。
──あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ。
──アビドス高校を退学し、私共の企業に所属する。その条件を呑んでいただければ、今アビドスが背負っている借金の半分近くをこちらで負担しましょう。
──ククッ、ククククッ……さあ、答えを聞きましょう。もしイエスならば、こちらにサインを──。
その存在こそが、変な奴であり、理事が言っていた『ゲマトリア』なのだろう。
だが、その提案は断ったらしい。
「それは誰から見たって破格の条件だった。でも、当時は私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するって思ってたからこそ、ずっと断ってたけど……」
“当時は”、“けど”。
それでもやはり、受けるべきなのだと考えて退部届を書いたのだろう。
立派な、自己犠牲……
だが、ホシノは続きを言わずに話を変えた。
「……あいつら、PMCで使える人材を集めているみたい」
なるほどな。
理事の計画、それを進めろと言ったのはこういうことか。
どんな理由であれ、返済不可能な状態に追い込んでホシノがその選択をせざるを得ないように追い込む。
それが、理事とゲマトリアの協力関係の条件なのかもしれない。
「お前に提案した奴の名前はなんだ」
「……分からない。私も、あいつの正体は知らない。ただ、私は黒服って呼んでる」
黒服。
何とも私たちアシエンと似ているな。
今の私の服装も黒だ。
『ゲマトリア』の黒服か。
「何となくぞっとするやつで……キヴォトス広しといえども、ああいうタイプのやつは見たこと無かったし……。ただ、怪しいやつだけど、別に特段問題を起こしたりもしなかった」
そうやって策略を張り巡らすタイプは表立って行動を起こすのは稀だ。
それこそ、他の奴が動けなくなった時くらいだ……そう、私の様に。
「何なんだろうね。あのカイザーの理事ですら、黒服のことは恐れてるように見えたけど……」
なら今日から理事はもう一人も恐れ続けることになるだろう。
そして、明日からはさらに一人追加だ。
黒服を恐れる必要が無いようにしてやるさ、私の善意でな。
「でも、今は『アシエン・ファダニエル』だっけ? その人の事も恐れてると思うけどね」
「……だが、お前は退部届を用意した」
「……うへ」
気まずそうに私から目を逸らす。
出来ればバレたくはなかったが、それでもお前は迷ったんだ。
「まあ、一ミリも悩んでなかったって言ったら嘘だし。ちょっとした気の迷いっていうか。……うん、もう捨てちゃおっか」
そう言って、私からその退部届を取り上げようとするが私が腕を上げれば例えホシノとは言え届かない高さへと至る。
「……先生、それじゃあ破れないよ」
「その選択が、本当に、アビドスを救うと思うのか?」
「……」
私は更に踏み込んでいく。
ここで渡せば見かけ上は破るかもしれないが、どうせホシノの事だもう一つくらいは用意しているはず。
だからこそ、問うのだ。
「シロコに詰められたお前なら分かるはずだ。どんな結果になるのかくらい」
そもそも、ホシノを犠牲にしても借金は半分しか減らないのだ。
なのに……
「お前が犠牲にならずとも、何とかしてやると言っただろう」
「先生、今必要なのは、確実な方法……奇跡なんて信じても起きないんだよ」
──今必要なのは、確実な方法だ。私たちには、この星を護る責任があるッ!
ああ、私もそう言ったさ。
奇跡なんか、全員が納得できる方法なんか、そしてアゼムですらそれを起こせるわけがないと。
その方法の過程で、それを信じてくれた友を失ったんだ。
「……」
「そんな悲しそうな顔しないでよ~。ほら!」
その言葉で手を下ろしていた私から、ホシノは退部届をひったくり破り捨てた。
「うへ〜、スッキリした。これで、この話はおしまい」
そういって、服の砂埃を払い落す。
顔に出てしまったのは悪手だった……
「けど、うん……。私も先生のこともう少し知りたいな」
だが、ホシノは話を切り上げ逃げることはなくただ私を見て、そう呟いた。
それはまるで、最後だからという言葉を押し殺しているかのように。
「何がそこまで先生を悲しい顔にさせたのか、先生の1万2000年に何があったのか……」
そう言って、私に近づく。
「だから、次は先生の番だよ」
私も話したんだから、と。
会話のボールを私へと渡す。
「……何が来ても、目を逸らしたりしないからさ」
覚悟をした目で。
たとえ受け入れられずとも私の過去を生徒へ、いや一人の善き人へ話す時が来たのだ。
なら、もう私もはぐらかさずに見せてやろう。
私はちょうど隣にある空き教室の扉へと手をかける。
「我が愛すべき日々の思い出であり……執念のはじまり。お前に知ってもらうため、今ひとたびの再演といこうじゃないか」
私は教室の扉を開け先に部屋へと入っていく。
そしてホシノもまた私に続き、本来なら暗く寂しいだけの教室へと入っていく。
00Ⅲ
「これって……」
私が教室に入るなり見たのは、本来見るはずだった光景とは違った。
整っていてとても綺麗な街並みに、先生の身長でも見上げるのに苦労しそうな高い塔。
そしてそこよりも遥か上より降り注ぐ温かい日差しと風。
そこを歩く人たちも変わってた。
みんな私の2倍以上はありそうな身長で、黒い服に白い仮面をつけて歩いていた。
だから、アビドスじゃないことは先生に聞くまでもなくわかる。
そして、先に入った先生はまだ見つからない。
「ホシノ」
「先生、ここ……って……」
後ろからいつもの声が聞こえ振り返れば、そこにいたのはいつもの先生とは違う、先生だった。
髪の毛は茶色と白色のセンター分けじゃなくて、真っ白の乱れ気味のオールバック。
おでこにある白い石は無くなって、よく見ると目の色も少しだけ違う。
服装も周りと一緒の黒いローブだけど、仮面をつけずに胸元に他と違う赤い仮面を提げていた。
その赤い仮面は確か、銀行強盗で先生が着けてた仮面だ。
私の知っている先生とは違う、だけど間違いなく目の前の人は先生だと思う。
「どしたのその格好」
「これが、本来の私。そして、これから見るお前のためにわかりやすくしてやっただけだ」
そう言うといつものように先生を黒い靄が包み込みいつもの見慣れた先生の姿へ戻る。
「……先生の術って便利だね、ほんと」
「お前たちには万能に見えるか。だが、これでも救えないものがある」
そう言って先生は目の前の光景を懐かしそうに、そして今まで見たどの先生の表情よりも複雑な表情をした。
「ここは、アーモロートと言ってな。私の大切な場所だった」
だった。
過去形なんだ。
でも、ここにはカイザーコーポレーションや黒服みたいな奴は居なさそうなのに。
「いい世界だったんだ、穏やかで朗らかで……。余裕のなさから生じる、さもしい争いをしなかったし、ときに異なる意見を持ったとしても、同じ分だけ認め合えた」
また、過去形。
本当に先生の言う通りの場所ならどうしてそんな悲しそうな言葉遣いなの?
アビドスでは見ることが出来ない街並み。
今悪意に塗り潰されそうとしている土地と比べたらどれだけいいか。
「お前、この街並みをどう見る」
「平和でみんな優しそうな人たちだなって。それにお昼寝には良さそうな場所がいっぱい。アビドスもさ、いつかこんな場所になれたらいいのに」
「……私もよく友と昼寝をしたものだ」
先生の歳について、私は信じていた。
1万2000歳以上なんて、普通はありえないけど先生にはそうだと思わせるだけの雰囲気や、重さがあった。
だからそう。
今、友達について話す先生は本当に古い記憶なんだと思う。
「だが……明日は燃え殻となり塵となった」
先生の言葉と共にまるで一瞬で時が過ぎたかのように街並みは崩れ、大火災に見舞われる。そして、空を見ればこの世の終わりみたいな赤さで、隕石が降る。
先ほどまで談笑していた人々が逃げ惑い、一度見たら忘れられないほど気持ちの悪い見た目をした怪物が人々に襲い掛かる。
「なに、これ……」
これが、さっきまで見てたアーモロートと同じ街なの?
「さあ、終末のアーモロートに案内しよう」
先生はもう何度も見た光景だという風に進んでいく。
私は置いていかれないように、こんな場所で一人になりたくなかったからついて行った。
正直、もう見たくなんてない。
戻れるならさっきまでの街並みかアビドスに帰してほしい。
けど、私は先生に言ったから。
生半可な覚悟で聞いた訳じゃない。
何とか先生の隣に追いついて一緒に進めば、アーモロートで起きた恐ろしい事件の実態がより見えてきてしまう。
「最初の獣は、醜悪な姿をしていた」
先生の言葉と共に現れた化物は、毛むくじゃらの細長い犬みたいだったけど横にはたくさんの口があった。
確かに気持ち悪い見た目をしてる。
そして最初の獣と呼ばれたそれは、
あらゆる命の存在を拒むかのように、災いの流星を降らす。
現地の人たちは多くの犠牲を出しながらも何とかこの化物を倒した。
「それを倒したとて、終末は止められない」
だが、その頑張りもまるで意味がないと先生は更に先へと歩み始める。
「大地は崩れ、水は血となり、文明は燃え尽きる……」
立派で美しかった建物は、無残に崩れ去りそして道には多くの人が息絶えていた。
けど、それすらも始まりなんだと先生は呟く。
次に現れた獣はさっきのよりはまだマシな見た目をしていたけど。
「一度、恐れを抱いたら、もう歯止めは効かない」
太った鳥のような獣が叫べば恐怖を掻き立て、その恐怖が新たな獣を生み出していく。
一度でも、怖いと思ったらそれで終わりだなんて。
それでも、心を強くもって残った人たちが鳥の獣を倒した。
もう、終わりにしてほしい。
余りにも救いがなさすぎる。
けど、これも途中の経過。
「災厄は、この程度ではない……真相を見せてやろう」
次の光景は、宇宙から見た星だった。
その星は見るからに、滅びそうになっていて……
暗くなっていた。
それでも、進み続ける人たちの前にこれまでの獣よりも更に強大な獣が立ちふさがった。
「最後の獣は、絶望の底から現れた……その言葉は、破滅の光。逃げ惑う事しかできない」
人々の恐怖を模った顔をいくつも貼り付けたような場所から、眩い光が放たれ残った人たちを消し去っていく。
さっきまではまだ耐えていた人たちも、勝てないと絶望しその魔法が獣に変わって仲間を襲う。
「なんのために……ここまで頑張ったの?」
私が呟いたのか、倒れた人の言葉なのか、それとも同時だったのかもうわからないけど。
思う事は同じだったんだ。
「そして、私たちは思い知った。途方もない犠牲を払わねば、もはや星は救えない、と」
隣で私が崩れないように支えてくれた先生がこの後の話を始めるとまた風景が変わって、今度は再び街中に飛ぶ。
『どうして……お前はまだ生き残るべきだろう……! 残って、星の再生に向けて局長としての務めを果たせ……!』
悲痛そうな叫び、その声は今の先生よりも若い。
そう、さっき見せてくれた先生の声だった。
『うちの職員たちは、みんな優秀だ。何人か残ることになっているから心配はいらないよ』
紫色の髪を三つ編みにした青年が先生へと返答する。
これがさっき言ってた友達なのかな。
その返答が、それ以外の事が、そして何より愛した故郷の惨劇が。
先生を憔悴させてる。
『……アゼムは、キミたちを見捨てたわけじゃない。いつもみたいに、自分が心からよかったって思える道を探して、今でも抗っているんだと思うよ』
アゼム。
先生は今まで何度か知り合いの話をしていたけど多分今喋っている人とアゼムって人のことだと思う。
けど、先生はその名を聞いた途端にその顔を歪めた。
『あの馬鹿の考えなど知ったことか……! 今必要なのは、確実な方法だ。私たちには、この星を護る責任があるッ!』
「……ッ」
ついさっき私が先生に言った言葉と同じ。
それを怒りに身を任せて、先生は友達へと吐き捨てる。
さっきの先生の悲しそうな表情は、自分が言った光景を思い出したからなのかな。
でも、私は今凄く後悔してるよ。
心の中では先生に何がわかるんだって思って言ったけど……
先生は奇跡なんて、無いんだとこの時にもう思い知っていた。
それも、突然に訪れた何の対策の仕様もない理不尽で。
『キミは正しいよ、エメトセルク。だからワタシは十四人委員会の策に懸けるんだ』
十四人。
あれ、アシエンって十三人なんだよね。
私はてっきり最初から十三人っていう半端な数なんだって思ってたけど、違う……まさか。
その、アゼムって人が十四番目だったの……?
もしそうなら先生はどれだけ苦しめられているんだろう。
友達をここで失い、もう一人は行方知れず。
『ごめんね、
口の動きはエメトセルクとは言っていないのに、私にはエメトセルクと聞こえた。
そんな青年はいたずらっ子がするような仕草で謝りもう振り返る事なく進んで行った。
そして、先生は……その背に言葉を掛けることも出来ずに拳を握り締め悔しそうな顔をしているだけだった。
先生も失ったんだね。
でも、この人の犠牲で救われたって事だよね?
お願いだから、これでこの惨劇が終わってほしい。
だけど、その期待を裏切るかのようにまた場面が切り替わる。
今度は暗い玉座の間、銀行強盗した時の格好で先生ともう一人の男の人が話をしている。
『分かたれた命が、蠢いている。あの輝きに満ちた世界は、どこに消えた──? こんな結末が、星を愛し、そのために生きた我らの終着点か。いや──終わりになどするものか──!!』
その声には、凄まじい程の執念が篭っていた。
「……失敗したの?」
「我等の同胞、半数を捧げ創り出された機構へ、更に半数捧げて漸く私たちは終末を防いだ。だが、それでは問題の根本を解決する事が出来ないとした一派が反旗を翻し機構を十四に分割してしまった」
先生の友達が命を捧げた。
それ以外の人もみんな進んで命を捧げた『救済』は、奇跡を起こしてくれなかった。
それじゃあ、先生はただ失っただけだよ。
紫髪の人だけじゃない。
アゼムって人と仲直り出来てないじゃん。
「これが、私の1万2000年に及ぶ執念のはじまりだ」
これが先生の1万2000年じゃない。
ここからが、1万2000年のはじまりなんだと。
先生はこの後、それこそ気の遠くなる時間戦い続けたんだ。
流石にそれを見せてはくれないみたいだけど、もう見たくない。
何でこんなに苦しまなきゃいけないの?
先生は別に悪いことしてないのに。
前に言ってたよね、今更汚れても気にならないって。
ならここからが、先生の『悪事』のはじまり……
けど、私はそれを悪いことってどうしても判じることが出来ない。
もし失われた時間を、思い出を、あの楽しかった日々を取り返せるというなら。
それが、自分の犠牲で成し遂げられるのなら。
私も先生と同じことをすると思う。
だからこそ、先生はこの光景を私に見せたんだ。
そして漸く数分の、だけど永遠と思われた時間が終わり私たちは元の教室に戻った。
00Ⅳ
「……」
唐突に訪れた惨劇、それに抗おうとした私のはじまり。
『アシエン』の真の目的、多くの犠牲とすれ違い。
そして、後悔。
それを数分に短縮したとはいえ、目を逸らさずに見たホシノは立派だった。
「私は、お前の選択を止めはしない」
「……え」
「今見せたのは、私がなぜどんな手段でも使う様になったのか、その一部だ。あの終末はお前の行動を止めるためのものじゃない」
ホシノを止めることが出来るかと言われたら、恐らくむしろ覚悟を固めさせる原因にすらなりかねない。
だが、アビドスはお前一人で背負うものでもない。
「お前が取る選択を、私は理解できる。だからこそ……決してお前を見捨てたりはしない。お前が望もうと望まなかろうと。それは他の奴らも同じだ」
「それは……」
「お前自身が私に言っただろう、『共犯』だって。お前が黒服の誘いに乗るなら、私は黒服の企みをご破算にしてお前を救い出す」
「……そんな無茶はしないで……って言っても先生は、聞かないよね。だって、あの後も戦ったんだから」
ああそうだ。
個人に起きた悲劇に優劣などない。ただ、私はあの悲劇を経験しお前は別の悲劇を経験した。
それだけの事なんだ。
だからこそ、お互いに譲れないものがあってそのために向かい合うのだ。
「もう二度とお前に後悔などさせるものか。お前が手放すなら、何度だってもう一度握らせるだけのことだ」
「……そっか。ありがとう、先生」
そう言ってホシノは頭の整理をつけ、私へ向き直る。
「先生は、不器用な人だよ。けど、悪い人でも怪物でもない。先生も『誰か』になれる人」
私の言った言葉をそのまま引用して返してくる。
お前が言うなら、そうなのかもしれないな。
「だから先生、みんなのこと、アビドスのこと……私のことを……よろしくね」
そう言って、ホシノは教室から出て行った。
最初から『終末』を見せたところでその覚悟が揺らぐことはないと思っていた。
私がホシノに見せたのは、何があろうと私は諦めない存在であること、そして残された者は必ず取り戻すために動くのだと示したかった。
ここからホシノは苦しむ事になるだろう。
だが、それは『過去』と『明日』を受け入れるための痛み。
私たちに出来るのは、あいつが後悔しないように迎えに行くことだけだ。
一番悪い手を使う計劃だが、最もいい結末へと至る計劃でもある。
なら、私も計劃を……フィナーレへと進めよう。
私は連邦生徒会の建物へと飛び、扉をノックする。
「いつもの借りを返してもらうぞ、代行?」
最後の裁定は近い。
アーモロートへの招待については、悩みました。
けど、ホシノを救うためには必要なピースだったと思います。
終末のアーモロートは視覚的にもインパクトが強くFF14でも素晴らしいIDの一つですが、やはりそれを見るには重いものがあります。
エメトセルクは止めるためではなく、自分自身を知ってもらうために初めてこれを見せる事になるわけですが、ホシノに響くものがあるといいなと思います。
では、また次回!
今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)
-
原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
-
変則(エ→パ1,2→兎)
-
その他(コメントでお願いします)