アビドス対策委員会のみんなへ
まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、許してほしい。おじさんにはこういう、古いやり方が性に合っててさ。
みんなには、ずっと話してなかったことがあって。
実は私、昔からずっとスカウトを受けてたんだ。
カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金の大半を肩代わりする……そういう話でね。
……うへ、中々良い条件だと思わない? おじさんこう見えて、実は結構能力を買われててさ~。
借金のことは、私がどうにかする。すぐに全部を解決はできないけど、まずはこれでそれなりに負担が減ると思う。
対策委員会も、少しは楽になるはず。
アビドス高校からも、キヴォトスからも離れることになったけど、私のことは気にしないで。
勝手なことをしてごめんね。
でもこれは全部、私が責任を取るべきこと。
私は、アビドスの最後の生徒会だから。
だから、ここでお別れ。じゃあね。
シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。
お願い、私たちの学校を守ってほしい。
砂だらけのこんな場所だけど……私に残された、唯一意味のある場所だから。
それから、もしこの先どこかで万が一、敵として相対することになったら……
その時は、私のヘイローを「壊して」。
よろしくね。
エメトセルク先生へ
先生ならわかってると思うけど、私は大人が嫌いだったし、信じてもなかった。
シロコちゃんに連れられて来た先生を見た時だって、「悪そうで怖い顔の人が来た」って思ってたくらいだし?
でも、先生みたいな本当の大人に出会えて、私は……ううん。私も先生と同じで素直に言えないや。
先生。
最後に二つだけ我儘を言って悪いんだけど、お願い。
一つ目。シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えてないと、どうなっちゃうか分からない子で。
悪い道に逸れちゃったりしないように、支えてあげてほしい。
あと一つは、あんな絶望でも諦めなかった先生なら……今回も諦めないと思うから。
私に言った事を忘れないでね。
約束だよ、エメトセルク先生。
00Ⅰ
「何なの!? あれだけ偉そうに話しておいて! 切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分で分かってたくせにっ! こんなの、受け入れられるわけないじゃない!」
セリカの声が部室に木霊する。
彼女にとって手紙の内容は到底受け入れられるものではなく、当然この場にいる誰もがその思いを共有していた。
「……助けないと。私が行く。対策委員会に迷惑がかかるし、私一人で──」
「落ち着いてください、今はまず足並みをそろえないと」
自らを犠牲に救おうとした先輩を救わんがために立ちあがろうにも、その場には普段彼女たちを牽引してくれた先輩も、そしてエメトセルクもいない。
このような事態には、必ずそばにいるか連絡を寄越してくるはずの大人が今日に限っては不在。
強いて言うならば、ホシノと同じように付箋にメモ書きを残していたくらいだ。
─準備することがある為、今日は不在
とだけ残して。
「それに、先生とも連絡が──きゃあっ!?」
だが子供の感情など大人は、悪意は待ってはくれない。
邪魔者が排除出来たならば、あとはただ侵略するのみなのだ。
「爆発……!?」
「近いです、場所は……っ!? ……そ、そんな、市内……!?」
最初から約束など守るつもりは無かったということは火を見るより明らかだった。残された対策委員会にはホシノほどの力も、エメトセルクのような秘策もありはしない。
自治区内の映像には、残された数少ない市民を巻き込みつつカイザーPMCが最後の土地を奪おうとする様が明確に映し出されていた。
そして、彼らは目に付くもの容赦なく攻撃し破壊していく。
さながら、蛮族のように。
『……この自治区にはもう、退去命令が下った』
『ふふふっ、ふふふふふふふ…………! ついに、条件は全てクリアした。最後の生徒会がアビドスを退学……これで実質的に、アビドス高等学校は消えた! そして、シャーレの先生も今はアビドスにいない!』
『アシエン・ファダニエル』への恐怖よりも、目の前のチャンス─ホシノとエメトセルクの不在を掴むために動き出した理事にもはや不安の色はない。
完全な勝利を掴むための凱旋にも近しい様子をカメラから伺うことができた。
「お、応戦しないとです! 何はともあれ、アビドスが攻撃されているのを見過ごすわけには……!」
「考えてる時間が惜しい、すぐに行こう!」
「で、ですが、私たちで撃退するにはあまりにも数が……いえ、とにかくまずは、市民の皆さんを避難させましょう! こんな大規模な攻撃……一体どうして、急に……」
疑念を持ち、導き手が欠け、勝ち目すら見えなくとも残された者たちは動き出す。
足を止めるわけにはいかない。
大切な先輩を取り戻すためにも、託されたものを守るためにも、彼女たちは足掻き続けるしかない。
「対策委員会を発見! こっち──ぐあっ!?」
既に学校にまで入り込んだ兵士を蹴散らし、外へと飛び出る。
相手の強さはそれほどでもない、それならば少しは止められるかもしれないと。
「斥候が、もうこんなところにまで……」
「アビドス高校周辺に、カイザーPMCの兵を多数確認! すでに校内にもかなり侵入されています!」
「とりあえず、学校に侵入したやつからやっつけよう! アヤネちゃん、お願い!」
「はい! 学校に侵入した敵を撃退します! 校内の安全を確保した後は、市民の皆さんの避難を!」
だが、始まった絶望への道はそれほど簡単に走破できるものではない。
銃を撃ち、殴り、蹴り付け、そしてまた銃を撃つ。
幾度となくそれを繰り返し、校内から市外へと足を進めていく。
だが、ここまで来るのにも多少なりて傷を負い、疲弊でもつれそうになる足を、無理やりへと先に進めて来た。
そうして、漸く数多の兵士を従え不遜にも彼女たちを見下しているカイザー理事へと辿り着く。
「ふむ。学校まで出向こうと思ったのだが、お出迎えとは感心だ」
ここにはその男の余裕を崩せる者だともういない。
警戒した小鳥遊ホシノも、手玉に取り嘲笑うエメトセルクも。
そして、恐るべき壮大な破滅願望者も。
「……これは何の真似ですか? 企業が街を攻撃するなんて……いくらあなたたちが土地の所有者だったとしても、そんな権利は無いはずです!」
『それに、学校はまだ私たちアビドスのものです! 進攻は明白な不法行為! 連邦生徒会に通報しますよ!』
「スカウトなんて、最初から嘘だったってこと? ……いや、それよりもホシノ先輩はどこ?」
「この悪党め……ホシノ先輩を返して!」
正論と大切な者の行方を問う4人の想いなど、届くはずもなくまるでうるさい羽虫や負け犬を見るかのような態度で理事は返す。
「……くくくっ、何を言ってるのやら」
知っていて嘲笑うためか、それとも知らないがより彼女たちを苦しめるためなのか。
どちらにせよ、この男にとって重要なのは目障りな存在二人がいない事だ。
それで勝てるのだから。
「連邦生徒会に通報だと? 面白いことを言うじゃないか、今すぐにでもやってみたらどうだ?」
やれるものならやればいい、と大きく手を広げ煽る。
それは連邦生徒会が介入などしないという見込みを持っての対応。
「だが、君たちはこの状況について、今まで何度も連邦生徒会に嘆願してきたのだろう? それで、一度でも動いてくれたことがあったか?」
「…………」
どれほど縋ろうと意味はない。
実際に動いてくれたのは連邦生徒会ではなく、シャーレであり、エメトセルクただ一人だったのだ。
「無かったはずだ。何せ連邦生徒会は今、動けないからな。いや、連邦生徒会でなくても良い。今までどこか他の学園が、君たちのことを助けてくれたことはあったか?」
他人が苦しんでいる時に進んで手助けをするものなどいない。
それが学園ともなれば尚更。
自分たちに矛先が向かないならば、勝手にしろ。
どれほどの理不尽、不当であろうとも。
「……そろそろ分かっただろう? 誰一人、君たちに手を差し伸べる者はいない。そして、アビドスの最後の生徒会メンバー、小鳥遊ホシノが退学した。アビドスの生徒会は、もう存在しないも同然。君たちはもう、何者でもない」
「…………!」
「公的な部活も、委員会も、生徒会も、自治区すらも無いアビドスは、学園都市の学校として自立・存続が不可能だと判断……仕方ないな、この自治区の主人である我がカイザーコーポレーションが、あの学校を引き受けるとしよう。そうだな、新しい学校の名前は『カイザー職業訓練学校』にでもしようか」
勝利に酔いしれ、もはや対策委員会のことなど眼中ない。
ただよりもっと苦しめ、絶望させてやれればそれは愉快だと言わんばかりに喋り続ける。
もしこの場にエメトセルクが居たのならば笑うだろうか。
「え……? な、何を言ってるの……!? 生徒会が無くても、アビドスには対策委員会がある! 私たちがまだいるのに、そんな言い分が通じるはずないでしょ!」
『…………それは』
アヤネは返事を濁す。
そう、本当に認められているならばセリカの指摘は正しいがそうでないからカイザーPMCは行動を開始したのだ。
「…………アヤネちゃん?」
『対策委員会は、公式に許可を受けている委員会じゃない……』
「…………えっ?」
『対策委員会が出来た時には、もうアビドスには生徒会が無かったから……』
「え、えっ……!?」
唯一の縋り付くことが出来そうな希望すらも、儚く消える。誰かが希望を抱けば抱くほど、絶望はそれよりも一つ用意され嘲笑うのだ。
なんて無意味な努力なのかと。
「そうだ。所詮非公認の委員会、正式な書類の承認も下りていない。つまり、君たちの存在を示すものは何も無い」
自らを犠牲にしてまで救われたはずのアビドスの火は意図も容易く消えかけようとしている。
「だが喜べ。アビドス高等学校が無くなれば、君たちはもうあの借金地獄からは解放されるのだからな」
欲しいものを手に入れられたのならばそれは借金ではなく、買い物になる。
カイザー理事の買い物は見事に成功したのだから、本当に彼には笑うしかないのだろう。
「そんな、そんなことになったら、今までの私たちの努力が……」
「…………ほう、まさか本気だったのか? 本気で何百年もかけて、借金を返済するつもりだったと?」
愚かだと、嘲笑う。
「これは驚きだ。てっきり、最後に諦める時『でも頑張ったから』と自分を慰める言い訳をするために、ほどほどに頑張っているのだと思っていたが……いったい君たちは、どうしてあんなに努力していたんだ? 何のために?」
「あんた、それ以上言ったら……」
だが、理事は止まらなかった。
「シャーレの、エメトセルクと言ったか? あの男も偉そうに宣う割には既にアビドスに居ない。なんせ、奴はDU区から出ていないのだから。所詮はその程度の青二歳、君たちを見捨て─」
全てを言い終わる前に、理事の足元に弾丸が撃ち込まれる。
「次は撃つ」
誰よりも先にエメトセルクに懐いたシロコにとって、目の前の男が自分たちの努力を嘲笑うだけではなくエメトセルクを罵倒するのは許せるものではない。
「で、ですが……」
『今ここで戦って、何かが変わるんでしょうか?』
「アヤネちゃん!?」
『今も、すごい数の兵力がこちらに向かって来ています……。たとえ、戦って勝てたとしても……その後はどうすれば……? 学校が無くなったら、もう戦う意味がありません。学校をどうにか取り戻せたとしても、私たちにはまだ、大きな借金が残ったまま……』
絶望は一度広まれば止めどなく広がり他者を飲み込む。
かつて、エメトセルクに言われた言葉を思い出す余裕など無かった。
まして、彼女たちはあのエメトセルクを倒した英雄ほど心が強いわけでもないのだから。
『取引された土地だって戻ってきません。何より、ホシノ先輩もいない、生徒会も無い、こんな状態で……私たちみたいな非公認の委員会なんかに、これ以上、一体何が……』
ドス黒いタールの様に心を沈め、そしてその人の生きる気力すら奪う。
もしここで強く心を持てたなら、あと一歩進む力があったのなら。
『どうして、どうして私たちだけ、こんな……』
だが、その一歩は重い。
「そう。君たちにはどうにもならない」
追い打ちをかける理事は知らない。
己が青二歳と馬鹿にした男は、自分よりも遥か長い時を生きそして幾度となく暗躍してきた存在だと。
最古の魔導士たる彼がこの事態を、本当に把握できていないはずはない。
既に理事の手から零れ落ち、あの男の手の中にある事すらわからない。
そして初めに生じた綻びに気が付かずここまで、理事は進んでしまった。
だからこそ、その綻びが広がり事態を変える。
「……おやおやおや。記憶から再現されて呼び出されたら、私に怯えていた方が随分と大きな顔で勝利を喜んでいるじゃないですか」
丁寧な言葉使いにも関わらず、相手を小ばかにした声。
かつて、人として苦難した男。
人を醜いと思い、だから終わることこそ、ただひとつの正しい答えだと判じた男が綻びより今再び現世へとその姿を現す。
「なんだ、貴様は」
「あなたが心の底から待ち望んでいた男、『アシエン・ファダニエル』ですよ」
自らをファダニエルと名乗る男の顔に、アシエンの証である赤き紋章が現れる。
「……なっ!」
先ほどまでの余裕から一転。
思考に入れないようにしていた存在、全てを巻き込む破滅願望者。
対処の仕様がない危険人物。
その存在が、勝利に酔いしている時に限って現れる。
「ああ、安心してください。今日の所は、あくまでご挨拶に伺っただけですから。嬉しいでしょう? あなたの楽しい楽しい、くだらなくて、無価値な勝利の瞬間を、私にぶち壊されるのは!」
そう宣うファダニエルに対してカイザーPMCの兵士が攻撃をするもそれら全ての攻撃がまるでそこにファダニエル自身がいないかのように通り抜けていく。
その光景すらもファダニエルは楽しそうに眺め、今度は馬鹿にした顔で対策委員会の少女たちを見る。
「それにしても、あなたたち。あのエメトセルクから教えを受けているのに、このザマですか。なら、あの男の目も曇りましたねえ」
「……何がわかるの?」
「わかりますとも。少なくともあなたたちよりも長い時間表向き行動を共にしてましたからね。だから、よーく知っていますとも」
とても憎いような、恨めしいようなそんな顔を浮かべながらファダニエルはシロコへと返答を返した。
それくらい知っていますとも、と。
その事実と、ファダニエルが実在したこと、そして何より無様だと笑われたことはアビドス対策委員会を絶望の淵より少しだけ現実に戻させるにはいい刺激ではあった。
そして、その目に輝きが戻る事こそがファダニエルの目的だったかの様に彼は続けた。
「まったくこんな役目をさせるためにわざわざヘルメスじゃなくて『私』を再現するとは……これも終末を起こした事への当てつけですか。……癪ですが、ここまでさせたんですから私が一番嫌いな終わり方にしてくださいね」
ここには居ない誰かに対して不満と少し下手な期待を述べてファダニエルは消えていった。
そしてそれが合図だったかのように、新たな局面を迎える。
「なっ!? き、北の方で大きな爆発を確認!」
「合流予定のブラボー小隊が巻き込まれて──!」
「何!?」
一度爆発が起これば、それは連鎖し次々の新たな爆発を生む。
初めは北から、そして次は東へと。
爆発は地鳴りとなり、カイザー理事の計画の破綻を告げる。
「東の方でも確認! 合流予定だったマイク小隊も、大量のC4の爆発で……!!」
「何が起きている!? アビドスの連中は、ここにいるので全員のはず……!!」
己の敵をアビドスと、エメトセルクのみだと考えていた理事にとって爆発による部隊の壊滅報告は寝耳に水であり、その思考が纏まる前に爆発に巻き込まれ言葉を述べることは叶わなかった。
「全く……大人しく聞いていれば、何を泣き言ばっかり言ってるのかしら……」
ゆっくりと、されども力強く。
ハイヒールの音が鳴り響く。
それはかつてアビドス対策委員会と敵対し、事故とは言え憩いの場を壊してしまった者たち。
だが、今は違う。
この事態を掌握している男から事前に依頼を受けた、アビドス対策委員会の仲間。
「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……それが、あなたたち覆面水着団のモットーじゃなかったの?」
『な──あ、あなたは!?』
常に側にいるのが仲間なのではない。
思いも寄らぬ援軍が新たな道を切り開く事もあるのだ。
そう、かの英雄が一人絶望と対峙しようとした時に友を想う気持ちによって光の速さを超え、本来であれば到達不能であるはずの「終焉の地」へと乗り込んだ一人の男の様に。
そして、この筋書きを描いた男が用意したこの場は。
陸八魔アルにとって、正しく彼女に相応しい『舞台』である。
「何をすればいいのか分からない、どうすればいいのかも分からない。やる事なす事、全部失敗に終わる。ここを潜り抜けたところで、この先にも逆境と苦難しかない……」
その言葉、一つ一つが今のアビドスを指し示す。
一縷の望みすらも抱けないほどに苦しく絶望した状況。
だが。
「だから何なのよっっっ!!」
『え、えっ……?』
「仲間が危機に瀕してるんでしょう!? それなのに、くだらないことばっかり考えて、このまま全部奪われて、それで納得できるわけ!?」
アルにとっても、先ほどファダニエルが述べた言葉と同じ思いを持っている部分はある。
アビドス対策委員会は、少なくとも自分たちよりは長い時間、エメトセルクと共に過ごしてきたはずだ。
その過程であの男が一度でも絶望し、膝を折ったことがあったのかと。
尊敬した男の変わっていく様を見て、されとて最期は看取れず。
しかし、それでもその想いを一身に背負い進み続けた男と並び立っていたのは便利屋68ではなくアビドス対策委員会だったはずだと。
「それにね……先生が、あなたたちを見捨てて逃げる? そんなこと、先生が……あの『エメトセルク』がするわけ──いいえ、できるわけないでしょ!!」
だからこそアルは吼える。
自分たちにアビドスを救うために手を貸して欲しいと頭を下げたあの男は、アビドスを背負いそしてそのためならば自分がどんな目に遭おうとも必ず成し遂げようとするアウトローだ。
そんな人が、お前たちを見捨てるのかと。
絶対にしない、嫌、できないのだ。
それが出来るならあんな顔はできない。
あの顔は、一人になっても戦い続けた者だけが出来る顔だった。
「いやいや、アルちゃんその辺で勘弁してあげなよ。メガネっ娘ちゃんは繊細なんだから、こういう時もあるって」
『ど、どうしてあなたたちが……!?』
「んー? まあ、エメちゃんがこれくらい予想しない訳ないでしょ」
『せ、先生が……!?』
アルに続き、便利屋68もまた各々武器を構える。
それこそが、彼からの依頼。
「あはっ。それにしても、私の可愛いメガネっ娘ちゃんを泣かした罪は重いよ? だからもうこれは……ぶっ殺すしかないよねっ!」
「ふふっ、ふふふふふ……準備はできています、アル様。仕込んだ爆弾もまだまだたくさんありますので……」
「……埋めておいた爆弾で、敵の増援を遮断。その間に敵の指揮官を無力化させて、指揮体系を崩壊させる。これで相手集団を一気に瓦解させる……本来なら、風紀委員相手に使うはずの戦術だったけど。ま、先生の依頼として、予行演習ってことにしておこうか」
どんな手段を取っても確実に遂行する。
それこそが、彼が見込んだ便利屋68なのだ。
「目を開けなさい。もしここにエメトセルク先生がいたら、あなたたちにどんな言葉をかけるか。それを思い出すのよ」
アルの言葉が視界を晴らす。
アヤネも混乱する頭では当初受け入れられなかったものの、少し冷静になれば受け入れられた。
確かに、あの先生ならば全てに対策をしてから不在になるはず。
これまでだって、エメトセルクはアビドス対策委員会の窮地を幾度となく救ってきた。
そして、思い出す。
あの日、ムツキがエメトセルクにぶつかった後にエメトセルクがムツキやアヤネに言った言葉を。
─お前が生涯知る中で最も強大な魔導士でもある
確かに彼は魔法使いの様に幾度となく彼女たちの窮地を救い。
─ お前も最後まで希望を捨てるなよ
常に諦めずに立ち向かうことを第一に言ってきた。
「理事! 爆発から生き延びた兵士がヘルメットを被った不良集団に襲われています!」
「ヘルメット団だと!?」
そしてエメトセルクが救いの種を撒いてきたのは、アビドス対策委員会だけではない。
砂漠でもはや生きることを諦めた一人の不良もまた救われたのだ。
だからこそ、彼女も仲間たちと共に再び戦うことを決意したのだ。
『普通の青春』を守るために戦うアビドスへの償いと、エメトセルクへの恩返しとして。
そしてなにより、自分たちの『明日』を掴むために。
『ヘルメット団がどうして……』
『確かに私たちはアビドスを襲って傷付けた。だから、信じてもらえないかもしれない……けど、エメトセルク先生が私たちに道を示してくれたから……だから私たちは、その眩しさを守るために戦うよ』
役者は揃った。
あとは主役たちが立ち上がるだけ。
「ヘルメット団に、便利屋が今更出張ってきて何になる! まだこちらには予備の兵力も存在するのだ! 貴様らの抵抗など無──」
『違います!』
「何?」
最初に戦う意味を、自分たちの存在意義に諦めをつけようとしたアヤネがこの戦いの口上を始める。
『先生は確かに今この場にいません! けど、エメトセルク先生は言いました、最後まで希望を捨てるなと』
あの時は魔法なんて、奇跡なんてとどこかでは思っていた。
だが、今ならばそう。
奇跡を起こせると信じて。
「『お前たちが絶望しない限り、頽れようとも支えてやる。だから気にせず進め』そう私に言ってくれたんです!」
ノノミもまたそれに続く。
何気ない会話で、綴られた言葉であってもノノミにとっては大切な言葉で。
居なくとも、常に彼は傍にいるのだと。
「誰かが頑張れば救われるというときに、その「誰か」になれるって」
最初はすれ違い、それでも自分と向き合う為に一晩中運転し助けに来てくれた後にかけれらた言葉はセリカにとって嬉しかった。
「今の気持ちを忘れるな。確かに迷いもしたし諦めようともしたけど、でも諦めない」
シロコの行動を口では叱りつつも見守り、想いを肯定してくれたのだ。
──お前は自分が、自分たちが懸命に足掻き苦しんだ原因をつまらない話で済ませるのか!
自分たちの事を考え、怒りすらしてくれた人が自分たちを見捨てる筈がない。
ホシノを奪われたから、エメトセルクが助けてくれないから、連邦生徒会から認可を受けていないから。
それらは戦わない理由ではなく、諦める理由にもならない筈だ。
だからこそ、アビドス対策委員会にこんなことで立ち止まっている時間などはない。
「希望、諦めるなだと……! そんな言葉に何の意味が──」
「「「『だから、決して絶望なんてしない!! 私たちはアビドスを守って、ホシノ先輩を取り返す!!』」」」
「ッ!!!」
彼女たちの決意がその場の絶望を払いのける。
それこそが、待ち望んでいたセリフだと言わんばかりに。
「合格だ」
聞きなれた声と共に指を鳴らす音が響いた。
00Ⅱ
「「「『だから、決して絶望なんてしない!! 私たちはアビドスを守って、ホシノ先輩を取り返す!!』」」」
まったく、お前たちときたら……いつだって眩しい。
例え一度絶望しようとも、思い出し何度でも立ち上がってくる。
もし折れていても、私がどうにかしたと言うのに。
舞台装置として創り出したあいつは、私の目が曇ったと言ったがどうだ。
これこそが、私が見て守ろうと思う者たちの姿だ。
確かに迷い、膝を折り、時に理不尽を嘆くこともあるだろう。
だが、それでも必ず最後は私の期待その遥か上を行く。
アモン、お前が悩んだ問いへの答えじゃないか。
彼女たちは、他者を踏みつけ、足蹴にし、傷つけながら生きたりなどしない。
それをしないように踏みとどまって、何度だってより良い未来の為に戦う。
善き人たちだ。
「ならば、私も最後の裁定を終えよう」
私は黒シャツの上に連邦生徒会のコートを羽織る。
『先生も動かれるのですね』
「ああ。これを見て動かないほど私は終わってないさ」
『……』
「お前はどうする?」
既に全キヴォトスへと放送されているこの光景をみて、リンはどう動くだろうか。
『……いいでしょう。普段の借りを返すのと、カイザーコーポレーションへの牽制も含めて先生の策に乗ります』
私の策。
アビドスに来た日の夜にアロナに調べさせていた通り、部活には要件がありアビドス対策委員会がそれを満たしていない事は把握していた。
だが、それをどうこうすれば理事をこの場に引き摺り出す事は難しい。
よって、放置して奴の計画を思う通りに進めさせてやった。
更に連邦生徒会が調査していた確証の取れてはいないカイザーコーポレーションや理事の不正行為を昨晩クロノススクールの報道部へリンの許可を得た上でリーク。
その見返りに報道は生中継する予定の映像を見てから発表するのと、『未来への布石』への協力を取り付けた。
その後はアルたちと接触し理事が行動に出るだろうから録画しろと言ったが……どうも彼女たちに後から接触したヘルメット団がそれを買って出たらしい。
……これは想定外だったがな。
もちろんそれに気付かれないように、アロナにカイザーPMCの端末への妨害を行わせ私はこうして廃ビルの中で状況を見ていた。
理事の言った私がDU区から出ていないというのは奴が私の『テレポ』を知らないと踏んだからだ。
予想通りあの馬鹿は私がいないものとして愉快に踊ってくれた。
そして最後にこの状況をリンに見せ、私が提案したアビドスの、彼女たちの為の『未来への布石』、その最終認可を貰ったというわけだ。
理事、これが計劃の立て方と動かし方だ。
子供を騙してそれでいて、抜けばかりのお前のそれは計画じゃない。
ただの無意味な行いだ。
よって、お前ごときが彼女たちの未来を奪う事などこの私が認めるものか。
だから、指を鳴らそう。
私の想定を遥か越え、仲間たちで立ち上がれた若き命へ。
その鎖を解き放ち、未来を拓かんがため。
「合格だ」
鳴り響く声と音と共に、破壊された電光掲示板が修復され現在の状況がキヴォトス全土へと生放送されている事を告げる。
「な、なぜこの状況が中継されているのだ!! 一体誰が!!」
「火の球……? 理事危険で──ぐあっ!?」
便利屋68の起こした爆発とは違う、より禍々しい炎の球が柱と成ってカイザーPMC兵士たちを焼き払う。
安心しろ、お前たちの命は取らないでおいてやる。組織の末端まで刈り取るほど暇じゃないんでな。
そして、対策委員会の前に小規模な爆発を起こし私がそこへ飛ぶ。
「まったく、お前たちときたら……どいつもこいつも諦めが悪い」
「!?」
『先生!!』
「ん、遅刻だよ先生」
「もう、ホントに遅いわよ!」
「でも、来てくれて良かったです☆」
どうやって来たかではなく、遅い事に文句を言えるお前たちが私は好きだ。
「まあ、当然か。なんせ、
「馬鹿な!? 貴様は、DU区から出ていない筈!! アビドスの駅にも兵士は居たのだ、一体どうやって!」
「お前の大好きなファダニエルと取引をした……とでも、言っておくか?」
「取引……だと!?」
勿論嘘だ。
ファダニエルは私の記憶を基に創り出した幻影。いくら嫌味を言おうとも所詮は私が設定した通りの行動を行うだけ。
だが、そう言う方がお前はもっと悔しがるだろう?
なら、いくらでも嘘を言ってやるさ。
「それにしても滑稽だったぞ? 自分の計画が、疾うの昔に崩壊していることに気が付かず勝利に酔いしれる様は」
だが、と。
私は前へと歩く。
「私の可愛い生徒を嗤ったんだ。お前ごときが、な……」
そして、止まる。
裁定は終わった。後はただその通りに行ってこの醜い何かを掃除するだけだ。
「お前が求めた結末になど、至らせるものか。お前の結末は、ただ一つだけだ」
これくらいでいいだろう。
こいつに最大の絶望をくれてやるのはこの後、ホシノを救い出してからでいい。
まずは予告に留めておいてやる。
「さて、アビドス対策委員会は絶望に倒れず自らの未来を掴むために立ち上がった。ならば、賛辞と口上のひとつくらいは垂れてやろう!」
私の口上を待ち望んでいたかのように、私の横に彼女たちが並ぶ。
この前は私が彼女たちへ進むことで、そして今日は彼女たちが私の元へ進むことで。
私が迷えばお前たちが先へ、お前たちが迷った時は私が先を拓こう。
「カイザー理事よ、彼女たちの物語はお前によって終わらない! そして、必ず5人揃って未来を掴む。それが、アビドス対策委員会から送る答えだ!」
エメトセルクは絶対に口上を垂れる。
どれほどの絶望であろうとも、きっと彼女たちはエメトセルクの約束を思い出し立ち上がるでしょう。
うまく纏められたかは分からないけど。
そしてそれこそが、エメトセルクが見たかったモノ。
ファダニエルは理事への嫌がらせのために出しました。
理事の末路ですが……エメトセルクを怒らせたらどうなるか皆さんもご存知でしょう。
今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)
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原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
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変則(エ→パ1,2→兎)
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その他(コメントでお願いします)