エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

24 / 53
あとは進み、取り戻すのみ


2-9 黒の舞踏

00Ⅰ

 

私の口上が終わると同時にハルカが爆弾を起爆し理事たちの視界を塞ぐ。

そして、その爆風を跳躍で飛び越え兵士たちを狙うシロコとセリカだったが警戒していた兵士が撃ち落とす─はずだった。

 

「消えた!?」

「馬鹿者!ホログラムかどうかもわからんのか!」

「申し訳ありません理事!しかし、今のはホログラムでは─」

 

しかし兵士は理事へと懸念を伝える前に爆風を縫って切り込んできたシロコとセリカの銃撃により倒れる。

 

そう。

初動で動いた二人は私が創り出した幻影、民間軍事会社とは言え軍隊だ。視界が塞がれても警戒はできている。だからこそ、その幻影を攻撃してしまったのだ。

 

その結果、ホログラムとは違い奴らに判別できない幻影が消滅してしまい混乱した隙に本物の二人の接近に対処することが出来ずに狩られる。

 

「カヨコ」

「わかってる」

 

これまで使っていた弾丸と別の弾丸を装填したカヨコが上空に向かってその弾丸を解き放つ。

通常のハンドガンの弾であれば無駄撃ちだが、今放たれた弾は違う。

 

パニックブリンガーと呼ばれるその技は、放たれた際に爆発と共に触れた敵に対して恐怖を齎すもの。

ならば、使わない手は無かった。

それはカヨコも同じ考えで私が言わずともこのタイミングで使うつもりだったのだろう。

 

爆発によって味方と分断され、理事の計画は頓挫、一部の仲間は突然現れた火球に焼かれ、挙げ句の果てには膝を折りかけていた対策委員会が闘志を取り戻した。

 

カイザーPMCとしては最悪のタイミングで、更には判別不可能な幻影が何度も現れそれを撃てば消え、撃つのをやめれば本物に攻撃されてしまう。

 

そんな思考が、心が追い付かない状態に恐怖を与えたら何が起きるか。

 

「また偽物!こ、今度はどこから来るんだ!」

「もう嫌だ!!助けてくれ!」

 

言わずとも知れたこと。

統率などかなぐり捨てて逃げるか錯乱して闇雲に戦うしかない。

 

だが、それを許すこいつらじゃない。

 

「覚悟してくださいねー!」

 

混乱の隙を見て高所に位置取り、その手に待つガトリングをノノミが乱射する。

高い位置からなら嫌でもカイザーPMCの状態を把握でき、的確に怒りの雨を降らすことが出来るはず。

それに気が付きノノミを撃とうとすれば……

 

「みすみす撃たせるわけないでしょ」

 

アルが兵士を撃ち抜いていく。

アルも特殊な弾丸を持っているそうだが、ただの兵士に使う必要はない。本来なら理事が乗り込もうとしている巨大な機械に使うべきだがそれはまた別の生徒の獲物だ。

 

「エメちゃん、準備はいい?」

「問題ない」

「さぁ、合わせ技いっくよ~!」

 

大量の爆弾が入ったカバンをムツキが放り投げる。だが、流石にムツキの力だけでは後ろの理事にまでは届かない。

そこで私の出番と言うわけだ。

 

「何が、合わせ技だ。まったく……」

 

だが、嫌いじゃない。

 

私の魔法でカバンが幾つにも分裂したかの様に見せかけ、兵士を更に撹乱させる。もうまともに思考することすら出来ない奴らでは巻き込まれたくない一心で空を撃ち続けるしかないが……全て偽者。

 

本命は理事の機械その頭の上にお届けしよう。

 

「何!?ぐあっ!」

 

起爆寸前のカバンが突然目の前に現れたら回避など出来はしない。切り札らしき兵器ごと情けない声を上げて吹き飛ばされた。

 

「アヤネ、全体の状況は?」

『はい、現在私たちが交戦している集団は既に半壊。混乱して同士討ちすら始めてます!分断された部隊も既にヘルメット団によってほとんど無力化されて散り散りに撤退しました!』

 

状況を整えてやれば、アヤネはまさに戦場を俯瞰して把握できる立派な軍師だ。

それにしても、同士討ちとは。

仲間を信じる気持ちもない……いや、そもそも仲間と思っていないのか。

 

指揮系統が麻痺どころの話ではなく、もはや無に等しい状態の残党に向かってシロコのドローンがミサイルを放つ。

徹底的にこの場で殲滅しろ、とは言っていないがまあシロコならそうするか。

なんせ、私もそうするからな。

 

「……くっ、ならシャーレの先生を撃てば!」

 

懸命にも立ち上がり私を撃てばいいと思った賢くも愚かなカイザーPMCの銃口が火を噴くが、私に届く寸前で見えない壁によって弾かれてる。

 

『今回は私に守らせてくれましたね、先生!』

「約束したからな」

 

アロナもハッキングばかりではつまらないだろう。約束通り、今回の攻撃への対処は任せてみたがきちんと守ってくれたな。

 

「な、なんで……確かに撃ったはず!」

「はぁ〜。頑張ったで賞くらいはくれてやる」

 

私が虫を払うかの様に腕を振るえば大気が震撼し突風となり兵士たちと爆風を吹き飛ばす。

私自身が戦う気は無かったが、これくらいは正当防衛の範囲内だろ。

 

爆風が晴れ、目視でも戦場を把握できる様になればそこに広がっていたのは先ほどまでの精強そうなカイザーPMCの軍勢ではなく、仲間を置いて我先に逃亡する者や諦めて立ち尽くす者ばかりで、ほんの数人のボロボロの兵士が、同じ様に無様な姿となった理事を何とか守ろうとしているだけだ。

人としての善き面もなければ、知略も今一つ。

更には人望もないときた。

 

なら、お前に何があるんだ。

 

「さて、理事くん。何か秘策くらいは用意しているよなあ。まさか、あの、ガラクタと化した機械だけだなんて言ってくれるなよ?」

「貴様……!」

「おぅおぅ、いかにも……って顔だ……お前に表情なんてないけどな。さっきまでのお前より今の泥だらけのお前の方が似合ってると思うぞ?なんせ、御自慢の計画と一緒であまりにも無様なんだから!」

 

私は最近は余りしていなかった、芝居がかった動きと声で理事の神経を逆撫でしていく。

我が孫ヴァリスに言ったときの様に『くん付け』の方がより理事には効きそうだと考えたが正解だったようだ。

 

「……な~んて。恨むなよ、これが私のやり方だ」

 

別にお前に恨まれた所でどうという事はないがな。

だが、そうやって煽れば煽るほどお前はどんどんとドツボにハマっていく。

これだから、辞められない。

 

「さぁ、すねている時間は終わりだぞ坊や。お前だって、どうするべきか理解はしているはずだ」

「……くっ、一度退却だ! 兵力の再整備に入れ!」

「は、はいっ!」

「覚えておけ、この代償は高くつくぞ……!」

 

はいはい、とまともに聞いていない態度を示したことで理事は更に激怒しつつも取り巻きの兵士に支えられながら逃げて行った。

もし理事が人間なら今頃、頭の血管の一つや二つ切れていたんだろうが面倒なことに機械だからそう簡単に終わってくれない。

 

だが、それで終わってもつまらないだろう?

 

「たっ、退却命令っ!」

『本部から退却命令。繰り返す、本部から退却命令が下った。なんとしても、HQに帰投せよ』

 

何とかその命令だけを伝達し規律などない逃げっぷりをカイザーの軍勢が見せてくれた。

いつみても気分がいいな、こういうやつが負け台詞を吐いて逃げていくのを見るのは。

 

「先生、追撃する?」

「いや、あのダメージだ。それにカイザーコーポレーションそのものに発生した損害も含めると数日では立て直せないだろう」

 

そう言って私はシロコに端末でニュースを見せる。

 

『カイザーコーポレーション、役員に不正疑惑!?』

『学園を陰謀によって借金地獄!鬼畜の所業に迫る!!』

『カイザーコーポレーションの株価が下落!!』

 

そんな数々のニュースがシロコの目に入り少しだけ彼女の顔が緩む。

ざまあみろ、と言いたそうな顔だ。

 

「いや~、あれこそ正に本物の三流悪党のセリフって感じだね。『覚えておけー』なんて実際に初めて聞いたよ」

「想定通り、大体上手く行った。風紀委員会相手でも通用すると良いけど……」

「お前たちのおかげで、アビドス対策委員会は立ち上がれた。助かったぞ」

「いいのよ、そういう依頼だったし。それに先生とのコラボレーション、楽しかったわ!!」

 

コラボレーション。

共に戦う事を指しているのだろうか、確かに風紀委員会の時は守ってやっただけでそれ以外はアルたちの戦いだけで対処した。

だから正しく共同作業は今回が初めてだ。

 

「さて、ホシノの居場所については私に任せろ。どこに連れ去ろうとも、見つけ出してやる」

『本当ですか、先生!?』

「ただし!お前たちも連戦だ。今日は一旦帰って補給諸々の準備だ」

『はい!ホシノ先輩を少し待たせることになりますが……それでも直ぐに助けられるように準備しておきます!』

 

きっと次が、今までで一番規模が大きな戦いになるだろう。

そのためにはもう少し力がいるがそれについても二つほど当てはある。

囚われのお姫様を助け出すには、それ相応の出迎えが必要だろうしな。

 

「……先生、勝手に参加して悪かったな」

 

今回の功労者たちのリーダー、ヘルメット団にも関わらずあの砂漠の時と同様に彼女はヘルメットを外していた。

唯一私が計劃に含めていなかった要因。

確かにこいつらがちょろちょろと動いて居たりアビドスを見ていたのは知っていたが、それだけでここまでするとは思っても居なかった。

 

「お前」

「……何?」

「いい顔をするようになったな」

 

その言葉が嬉しかったのだろう。

満面の笑みで、少し目元に涙をためながら頷いた。

 

「先生のおかげだよ……。あなたの言葉があったから、私を助けてくれたから、私たちは自分たちの『明日』を考えられるようになったんだ。だから、そのお礼をしたかった。全員じゃないけど、大勢が賛同してくれたんだ!」

 

新しいお前を見せろと言ったが、こんなに直ぐに再会するとも思ってなかった。

だが、今のお前の顔は『合格』だよ。

 

「虫のいい話かもしれないけど。私たちもこのまま戦わせてほしい!」

「また、ケガをするかもしれないぞ」

「はっ!ケガなんて慣れてるし、あの理事の吼え面が見れるなら何度だって戦ってやるさ!私たちカタカタヘルメット団残党改め『エメトセルク・ヘルメット団』が!!」

 

擬音を自分たちの団の名前に入れるのがお前たちの流儀だろうに、それを破ってまでわざわざ私の名前から取ってくるというのはそれなりの覚悟の表れなのだろう。

……私がヘルメット団の頭目みたいな名前なのは突っ込みたいところだが。

 

「なら、好きにしろ」

「おう!」

 

まあその名前でお前たちがいいなら特に言う事はないか。

お前たちの想いも連れて行ってやる。

 

本当に、きちんと向き合えばいい生徒ばかりじゃないか。

例え道を誤っても、手を差し伸べれば自分たちで正しい道へと帰っていく。

そして、自分たちが本当にするべきことが何かを考え、悩みながらでも進んでいける。

そんな奴らを利用して、捨てるなどと。

 

なぁ、黒服。

 

端末に届いたメッセージ……その送り主であろう黒服へ会いに行くとしようか。

 

00Ⅱ

 

夜。

呼び出された建物は一般的なビルであり、悪の城らしき荘厳さなどは持ち合わせていなかった。

おそらくは私に会う為だけに用意した場所なのかもな。

 

別にそれで正体を探りたいわけじゃない。

お互いに会話を交わせばそれだけで十分だろう。

 

扉をノックもせずに、ぶっきらぼうに開けて入ればそこには確かに黒い服で揃えた異形が居た。

 

「……お待ちしておりました、エメトセルク先生。あなたとは一度こうして、顔を合わせてお話ししてみたかったのですよ」

 

紳士的な対応のお手本のような振る舞い。

声からすれば男だが外見的には判別つかずだ。

なんせ外見が、文字通りの異形。

まさに真っ黒なマネキンが服を来て動いているというのが正しく、人であるとは到底言えない。

まあキヴォトスからすれば私も十分におかしな存在だろうがな。

 

「……貴方のことは知っています、連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。あのオーパーツ『シッテムの箱』の主であり、連邦捜査部『シャーレ』の先生。貴方を過小評価する者もいるようですが、私たちは違います」

「ああ、漸くか。理事みたいな坊やに舐められるのにもいい加減、飽きてきた所だったんだ」

 

なんとなくぞっとするやつ、とホシノは言っていたが確かにキヴォトスで見たホラー映画などに登場しそうな外見かつこちらをしっかり調べたうえ話をするからそう思うのも当然か。

 

亡霊や死霊の類かと思ったが、そうでもないようだ。

 

「まず、はっきりさせておきましょう。私たちは、あなたと敵対するつもりはありません。むしろ、協力したいと考えています。私たちの計画において、一番の障害になりうるのはあなただと考えているのです」

 

確かにこのままいけば黒服の計画はご破算になる。ホシノを隠していたとしても、私なら見つけ出す事が出来てしまう以上は一番の障害と言うのは当たっている。

 

「私たちにとってアビドスなんて小さな学校は、全くもって大した問題ではありません。ですが先生、あなたの存在は決して些事とは言えない。敵対することは避けたいのですよ」

「随分と高く評価してくれたものだ、理事よりは見る目があるな」

「当然です。キヴォトスには存在しない謎の力……ここでは『魔法』と呼びましょうか。その魔法を制限もなく行使されてはこちらとしては対策の打ちようもありませんからね」

 

そう言って黒服は指で私の魔法を数え始めた。

 

「私が確認したのは、瞬間移動・幻影創造・火や風などの現象を発生させる。この三つですが、恐らくあなたはそれ以上の『魔法』を使えるのでしょう?」

「使えると言えば、どうする?」

「もし、望んだ相手に『死』を与える魔法などを使えるのだとしたら……それは脅威以外の何物でもありません」

 

望んだ相手に死を与える魔法。

『デス』程度なら使えるな。

あいつはそんなもの簡単に超えて来てしまうから使う事すら考えなかったが、確かにキヴォトスでは明確な脅威だろう。

 

効果があるのかは知らないが『冥界戻り』なども当然、世の理を乱すものだ。

 

だが、一番理を乱しているのは創造魔法だと思うが。

 

「あれこれ質問するより、まずは自己紹介くらいしたらどうだ?」

「……おっと、そういえば自己紹介をしていませんでしたか? 私たちはあなたと同じ、キヴォトスの外部の者……ですが、あなたとはまた違った領域の存在です」

 

アーテリス出身ではなく、どこか別の星かもしかしたら異界出身なのかもな。

だからなんだ、という話だ。

こいつにも何らかの異能があるのかもしれないが、私の魔法に対する警戒は本物。

それでいいじゃないか。

 

「適切な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております。私たちのことは『ゲマトリア』、とお呼びください。そして私のことは、『黒服』とでも。この名前が気に入っていましてね」

 

その名前は私と被っているからやめて欲しいのだがなあ。

今は連邦生徒会のコートを着ているからいいが、普段は脱いでいるのだからもろ被りだ。

区別して『黄ネクタイ』とでも私は呼ばれたらいいのか?

ごめんこうむる。

 

「私たちは、観察者であり、探求者であり、研究者です。あなたと同じ、『不可解な存在』だと考えていただいて問題ございません。一応お訊きしますが、ゲマトリアと協力するつもりはありませんか?」

「私も観察者だが、生憎とそれは一人でやるのが好みでね」

 

同じく観察する者でも、見ているモノが違うのでな。

それに私は、判じたいのだ。

探求や研究など、昔にしたことだ。

 

「……左様ですか」

 

一応訊くと言っておきながら、その答えは残念だったようだ。

 

「真理と秘義を手に入れられるこの提案を断ってまで、あなたはキヴォトスで何を追求するおつもりなのですか?」

 

諦めるのかと思えば、より追及してくる。

何なんだこいつは、大人の外見のわりに対応が随分と子供の様じゃないか?

それに真理や秘義だと……。

 

そんなもの、遠の昔にアーテリスでやり尽くしたことだ。

星の真理、そして今なお使えている私の秘義。

わざわざ、第二の人生で前の人生と同じことをする必要もない。

 

「昔した事をなんで今更、お前たちと一緒にしなきゃならないんだ。それに、そもそもお前たちそのものに興味がないんでな」

 

追求するものは、ある。

だが、それはこいつらには理解できるものでもないと思っている。

 

「聞きたい事はそれだけか?なら、私は帰らせてもらう。ホシノを救い出す仕事が残ってるんでな」

「……やはり、彼女を見つける方法もあなたは持っているわけですね。……クックックッ。ですが、あなたの行動に正当性がない事にお気づきですか、先生?今のあなたに一体何の権利があって、そんなことをされるのでしょうか?」

 

権利と来たか。

言葉遊びか、それとも契約書でも結んだのか。

理事と同じようなことをこいつも言うのか。

 

「ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。届け出を確認されていないのですか?」

「確認くらいしているさ」

「……ほう?」

「だが、顧問である私がサインをしていない。そう言うお前は確認が漏れているみたいだな」

 

ホシノの退部届は確かに本人の署名があった。

だが、私自身がサインをしなければ正式に承認されたものではない。

 

「いやあ、書いてやっても良かったんだが何処かの誰かさんのおかげで忙しくてなあ」

「……」

「だから、あいつはまだ対策委員会の所属で、副生徒会長。そしてそれらが例え意味をなさずとも、私が救わねばならない大切な教え子である事実は変わりようがない」

 

あいつにしてやろうと思ったことを私はまだしてやれていない。

水族館にだって連れて行ってない。

連れて行ったのは、アーモロート。それも終末の。ただそれだけだ。

 

私があいつへ贈るものはこれから、渡す。

 

「……なるほど。あなたが『先生』である以上、担当生徒の去就にはあなたのサインが必要……そういうことですか」

「書類上はな。そして、権利についてだが。お前にはなくても私や対策委員会にはあるのだよ。あいつを救い出す権利が」

「なるほどなるほど……。中々に厄介な概念であり、在り方ですね」

 

生徒と先生だけではない。

一人の人としてホシノとの約束を果たすため。

それこそが、私の持つ権利だ。

 

「お前たちはあいつらを騙し、踏みにじり、苦しみを利用した。そうしてくだらない企みを成就させようとしたのだろうが……私がそれをご破算にしてやるだけだ」

「確かに仰る通りです。他人の不幸よりも、私たちは自分たちの利益を優先しました。それを否定はしません。私たちの行動は、善か悪かと問われればきっと悪でしょう」

 

自分がどちらの側かを理解しているだけ、理事よりはまだ話していて面白い。

アレは煽っている分は面白いが、会話となるとつまらないしな。

 

「しかし、ルールの範疇です。そこは誤解はしないでいただきましょうか」

 

あくまで自分はルールの範囲内でした事だ、と黒服の白い空洞が広がる。

なるほど、お前にとっては『ルール内での活動』が美学なわけか。

 

「アビドスに降りかかった災難は、私たちのせいではありません。アビドスを襲ったあの砂嵐は、大変珍しいとはいえ、一定の確率で起こり得る現象です。誰か明確な悪役がいるわけではない、天変地異とはそういうものでしょう。私たちはあなたのように自在に天変地異を起こせるわけではありませんからね」

 

最後の言葉が私に対する皮肉に聞こえた。

つまり、黒服にとって私は『ルール外の存在』と言いたいのだろうな。

 

「私たちはあくまで、機会を利用しただけ。砂漠で水を求めて死にゆく者に、水を提供する……ただし、一生奴隷として働いても返済できない額で。ただそれだけのことです」

 

実際に後がない者を利用した私だから、わかる。

本当に、ただそれだけのことだ。

むしろ、私の方がこいつよりも悪に近いだろう。

 

そうすれば救われると言って働かせた後に用済みだと始末した事だってあるのだから。

 

「さして珍しくもない、世の中にはありふれた話でしょう。何も私たちが特別心を痛め、全ての責任を取るべきことではありません。私たちが初めて作った事例でもなければ、私たちがそれをしなかったところで消えるものでもないのですから」

 

目的の為に他者を利用する。

それに心を痛める必要はない、だってそれは自分たちがする前からあったことでしなくても別の誰かがしたかもしれないから。

 

まあ、それはそうだろうな。

 

人の醜さ。

 

「持つ者が、持たざる者から搾取する。知識の多いものが、そうでない者から搾取する。大人なら誰もが知っている、厳然たる世の中の事実ではありませんか?」

 

大人で無くてもそれくらいは知っているだろう。

そうやって人は己の利益を追求する。

 

だが、それはあくまで醜い部分を見ただけだ。

本来の人は、そう言ったものばかりではない。

それを大人と説くこいつは何もわかっちゃいない。

そもそも人は大人であろうと、子供であろうと同じ人なんだ。

 

「そういうことですから……アビドスから手を引いていただけないでしょうか、先生。ホシノさえ諦めていただければ、あの学校については守ってさしあげましょう。カイザーPMCのことについても、私たちの力で解決いたします。あの子たちもどうにか、アビドス高等学校に通い続けることができるはずです。そしてこれは、あのホシノさんも望んでいることのはず。いかがですか?」

 

てんで駄目だ。

交渉にすらなっていない。

学校についても守るプランは準備済み、カイザーPMCも今日の打撃はグループ全体に波及し火消対応に追われている。

こちらの見返りはない。

 

「お前、私の事を観察していたくせに昼間のあいつらを見ていなかったのか?」

「……もちろん、見ていましたよ」

「あの光景を見てなお、この提案に乗ると本気で思っているなら……お前との話は私にとって、只の時間の無駄だったということだ」

「ホシノの『選択』を無視すると言うのですか?」

「残された者は取り戻すと選択したんだ。なら、ホシノの選択がどうあれより良い結末を迎えさせるだけだ」

 

選択は自由だ。

だが、その選択は別に他者を縛るものでもない。

あれがホシノなりの今の答え。

 

そして、対策委員会は別の答えを見つけ出した。

なら、その答えの方がより良い未来があるとホシノに示すだけの事。

 

「……どうして?どうあっても、私たちと敵対するおつもりですか?」

「逆だよ、黒服」

「逆?」

「お前たちが、この私と敵対するつもりか?」

 

黒服の交渉には幾つかおかしな点があったが、その中でも最たる例は敵対するか否かの部分だ。

黒服は最初に、私を斃す術などないと言っているからこうして何度も私に諦めるように呼び掛けているはずなのに、『私たちと敵対するつもりか』などと言う。

 

つまり、黒服としては私と敵対したくないのだ。

だったら、選択するのは私じゃない。

お前だ。

 

「確かにあなたは強大です、戦う術など幾らでも持ち合わせているのでしょう。それにあなたには今は必要ないと思われているのかもしれませんが、大人のカードもあります。しかし、そんな力をあの子たちに使うのですか?放っておいても良いではありませんか。元々、あなたの与り知るところではないのですから」

「そんなのだから、お前は真理や秘義にも到達できていないんだろう。もっと見るべきものすら知らずに、くだらないものを追い求めて何がしたい?明かして力を手に入れて誇示できたら満足か?その力で世界をより善くしようともしないお前が、私に力の使い道について指図をするな」

 

確かに私だってお前が言うような悪事を働いたさ。だが、それは私の力で同胞を、世界を取り戻せればと思ったからこそだ。

決して、こいつらのようにただ己の力を誇示したいがためにしたのではない。

 

星を善くしようとしたわけでも、幸せそうな笑顔を取り戻そうしたわけでもない。

 

そんなやつに力の使い先について講釈される言われはない。

 

「なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?」

 

まるで理解できないからか、まるで壊れた機械のようになぜかを問い続ける。

そのなぜを己で解き明かしてこその、探求ではないのか。

 

私なりの答えなんて幾らでもある。だがそれは私の答えでお前の答えなんかじゃない。

他人の答えで知ったつもりになっても、それは何の意味もない行為だ。

 

「理解できません、なぜ?なぜ断るのですか?どうして?先生、それは一体何のためなのですか?」

 

やはり子供にしか思えない。

自分の理解できないものを、知ろうとするのではなくそれを知っていそうな人物に聞く。

想像を働かせることもない。

どれほど壮大な目的を掲げようと、仰々しい見た目をしていようとも、中身は子供じゃないか。

 

「私が見たいからだ」

「……どういう意味です?あなたがその強大な力を使って守ってあげる理由にはなりません。あなたは彼女たちの保護者でも家族でもないのですよ」

 

どれほど父親のように思われたとしても、私は彼女たちの本当の父親などではないし変わってやることも出来はしない。

 

だがそれは私を止める理由にはならない。

 

「あなたは偶然アビドスに呼ばれ、偶然あの子たちと会っただけの他人です。一体どうして、そんなことをするのですか?なぜ、取る必要のない責任を取ろうとするのですか?」

 

偶然出会っただけの他人を助ける、か。

 

――何で助けたのかって?それは、そこに困ってる人がいたから。……それに、あの島で作られる葡萄はおいしいからね

 

摂理に逆らってでも噴火を止めた理由にしては、軽い理由だなと思ったものだが。

それがアゼムだ。些細な理由でも人を助ける理由になる。

だからこそ私はあいつなら、どんなことでもやりとげるだろうとも思っていた。そしてその先に待つ未来を思うと、多少は愉快な気分になったのだ。

 

だが、ここにあいつはいない。

だから偶然会った他人を助ける人は居なかった。

だが、それはもう過去の話。今は違う。

 

「私が彼女たちを守り、責任を共に背負ってやることがより良い未来に繋がっていき、彼女たちが心からよかったと思えるならば。それで彼女たちの眩しさと想いの可能性が見れるなら、私はそれでいい」

「……『眩しさ』と『想いの可能性』」

 

私の答えが黒服の想定していないものだったのだろう。

『大人』だからだとか、『責任』について話をすると思っていたのだろうか。

 

私はあいつらの責任を一人で全て取るつもりはない。

共に背負い、そして自らが取るべき部分は取らせそれ以外は私が取る。

そうしなければ、何の成長もないだろうと私は考えている。

 

己のした行動、選択に責任は付き物だ。

それを自分なりに考えて、どうすればいいのか。自分たちで悩みそれでも道が見えない時は、私に聞き、何かを感じてくれれば。

そうやって、その生徒がまた次の生徒に手を差し伸べていける環境を作ってやること、それが私のすべきことの一つだ。

 

「困りましたね。大人についてや責任についてのお話であれば、こちらも考えを述べられます。しかし、『眩しさ』と『想いの可能性』については私自身は価値を見出していない。ですが、先生は既にそれが価値あるものだと知っていて、その為に動くのが『先生』としての役目であると己の中でもう決めてしまっている。それを見るためならば、真理と秘義、権力、お金、神秘も必要ないと手放せる。そして私たちの求めるものをくだらないと判じてしまえる」

「お前に理解できるとは、思ってないがな」

 

結局のところ、私が『ゲマトリア』の望むものや求めるものがくだらないと言えたのはこれまでの経験があるからだ。

それはもちろん、これまでの会話で『ゲマトリア』がそれを手に入れた先の展望を述べない所から出した結論ではあるが。

 

逆に黒服には『眩しさ』や『想いの可能性』を素晴らしいと思う経験がなかった。

だからこの話を黒服が理解するには、結局のところ見るしかない。

そして、お前が本当に探究者ならばそれを見たいと思うはずだ。

 

「クククッ、クックックッ!面白い。先生、あなたはワザと私にあなたが追求するものを教えた。そうすれば、私が必ずそれに興味を持つと計算して。良いでしょう。交渉は決裂です、先生」

 

あれほど心を砕いて交渉していたにも関わらず、黒服は自ら交渉は決裂だと言い切った。

そして、私の期待通り興味を持ったな。

 

「私はあなたの事を気に入っていましたし、今回の会話で更に気に入りました。私たちの探求をくだらないと仰るのなら、見せていただきましょう。あなたの言う『眩しさ』と『想いの可能性』を」

「お前が望もうと、望まなかろうと厭でも見る事になるだろうさ」

「アビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室にホシノはいます。『ミメシス』で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを、生きている生徒に適用することができるか……そんな実験を始めるつもりです。そして、もしホシノが失敗したらあの狼の神が代わりに、と思っていたのですが……どうやら前提が崩れてしまったようですね」

 

狼の神。

黒服の狙いがホシノ、つまりは生徒だったことを考えればおのずとその答えは見えてくる。

アビドス、狼……砂狼、シロコ。

強欲な連中だ。

 

「そんなにべらべらと喋って良かったのか?」

「ホシノの居場所くらいあなたなら私から聞かずとも知りえたでしょう。それではあなたへの期待を示すことになりませんからね。私たちの目的をお伝えすれば私の期待も示せるかと。微力ながら、幸運を祈ります」

 

思いのほか黒服は子供の様な部分もあったが、会話が出来る相手だったし自分の美学には誇りを持っているタイプの存在だった。

そして、『ゲマトリア』としての目的も聞き出せたのだ。まあ、上々な収穫だろう。

 

そう思い席を立ちあがった私に黒服が声をかける。

 

「エメトセルク先生。ゲマトリアは、あなたのことをずっと見ていますよ」

「そして、私もな」

「クックックッ」

 

その白い空洞をせいぜい大きく見開いておけ。

アビドスが迎えるフィナーレを見逃さぬように。

 

00Ⅲ

 

「おかえり、先生」

「先生、お待ちしておりました!」

「先生!」

「先生……」

 

アビドス高等学校に戻ると、教室で四人がしっかりと準備を整え私を待っていた。

しかも、何故か歓迎ムードだ。

私はお前たちに計劃を話していなかったのに。

 

「……お前たち、私に何か言うことや聞くことがあるだろう」

 

少なくともお前たちを辛い目に遭わせたのだ。

どんな罵詈雑言でも甘んじて受け入れよう。

 

「……先生は確かに自分の計画を話してくれなかった」

「ああ、そうだな」

「けど、先生が初めからずっと言ってくれた約束を忘れて絶望しそうになったのは、私たちだから」

「そうです。先生はいつも、諦めるな、絶望するなって私たちに言ってくれてました」

 

こいつら……

もう少し怒っても良いだろう、いや怒るべきだ。

いつも私に文句を言わずに許してばかりでは駄目だ。

 

「でも『アシエン・ファダニエル』が出てきてからの展開は本当にびっくりしたんだから!」

「あの人が、以前先生が話した人なんですよね。全てを巻き込んで死のうとした人」

「ああ、あれが『アシエン・ファダニエル』だ」

 

こいつらを煽るために出したのではなく、理事を煽るために出したはずだったが……

いや、あいつの性格を再現しすぎた結果が対策委員会への煽りに繋がったんだろうな。

 

「物凄くムカついたけど、言ったことは間違ってなかったのがもっと腹が立つ!」

「……セリカちゃん。でも、うん。あの時点だと、本当に間違ってなかったね」

 

文句を言われるかと思えば、自省する心でそれを受け止める。

あいつの言葉があり、その後にアルから受けた激励がお前たちの心に再び火を灯したならいい結果だったな。

それでもファダニエルは随分な物言いだったと思うが。

 

「ヘルメット団の皆さんとも話をして、今後も協力していただく形になりました」

「許したのか?」

「これまでを全部許したわけではありません。けど、私たちの『眩しさ』を守るために戦ってくれると言った『今』のあの人たちを信じます」

 

そうアヤネは笑顔で語る。

お前も初めに会った時から、成長したな。

いや、この場の全員が人として一歩成長したのだろう。

 

ヴェーネスが信じたものは、これだった。

困難の中で、苦しみ足が縺れ、時に絶望しようとも。

消えない光を探し、進み続ける。

 

いつか私もこの旅を終えれば、また違った答えを彼女に出せるのだろうか。

 

「先生、嬉しそう」

「当たり前だ。私の言葉を思い出してお前たちは立ち上がったんだぞ?心の底から、お前たちの『先生』で良かったと思ってる」

「じゃあ、ホシノ先輩にもそう言ってあげてください☆」

「ああ、あいつに『おかえり』と『よく頑張った』、そして私からはもう一つ。今の言葉を贈るために」

 

まだ、大団円を迎えたわけではないのだ。

ここからが、最後の戦い。

 

「先生の事だから、もう作戦は用意してるんでしょ?」

 

セリカが信頼した顔を私へ向ける。

 

「無論だ。あいつを取り戻し最高の幕引きと行こうじゃないか」

 

その為に、私の策を彼女たちへと話すのであった。




黒服なら、エメトセルクが興味を持つものに彼も興味を持つと思うんです。

原作先生の『先生』としての在り方の違いとして、エメトセルクは大人としての責任にそこまで重きを置いていません。
大人、子供ではなく一人の「人」として見るのを大切にしています。
だから罪は共に背負うけど、責任は全部背負わない。
もちろん、大人が子供へ害を成すなどは別ですが。

これはアルフィノやアリゼー、皆さんのヒカセンの年齢を考えての設定です。
前者は開始時点で16歳。
つまり、生徒の年齢なんですよね。
それに、エメトセルクの年齢から見たら殆どみんな子供だろうって思うんです。

次の話も出来ていますが、分割にするか纏めて出すかを迷ってます。

今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)

  • 原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
  • 変則(エ→パ1,2→兎)
  • その他(コメントでお願いします)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。