その間にお気に入りやUAが凄い事になっていて嬉しいです!
今後も頑張ります。
00Ⅰ
治安の悪さと言えば、ゲヘナ。
そう言われているこの地に、私は足を運んだ。
理由はもちろん、ヒナの力を借りるためだ。
トリニティへの助力はヒフミに頼んだ所、生中継を見ていたのか快諾を貰えた。
むしろ、やらせてほしいとすら言ってのけた彼女の想いにも応えるためにゲヘナでの交渉を失敗するわけにはいかなかった。
だが、到着しゲヘナ学園へと向かう途中で多くのトラブルを目撃することになった。
カツアゲ、万引き、喧嘩……
治安の悪さと言うが、これはもはや秩序すら無いのではないか、と思うほどに酷い。
しかし、こんなものはゲヘナでは日常。
ふと横を通りかかったラーメン屋が爆発すると言う大事件も起きた。
最も、首を突っ込む時間は無かったので今回は犯人の銀髪を見逃したお礼として『食への冒涜』について語られた。
つまりはその飲食店が悪いのだろう。何故爆破までするのかは理解できなかったし、理解しようとも思わなかったが。
おそらくこれが噂のテロリストなんだろうな。
温泉開発のテロリストと並んで私が見た中で衝撃を受けたニュース。
そして彼女がその頭目。
テロリストは黒舘ハルナと名乗り、私がシャーレの先生と知るとモモトークを半ば強引に交換してきた。
これでは私がテロリストの共犯ではないか、と思いつつも彼女の人当たりはよく今度何か食べに行こうと言う話になった。
にしても、ただ歩いていただけで数多くの事件を目撃したな。
あいつは旅の先々で頼みごとを請け負っていた。その中にはかなり困難なものもあっただろうに一体どうやってさばき続けたと言うのか。
既に幸先が不安だが、一番不安に思っているのは風紀委員会の窓口だ。
チナツやヒナに出会えればそのまま話をして通してもらえるだろうが、アコならまずい。
この間の事を根に持っていたら、それについて謝罪するだけじゃなくご機嫌までとる事になるのだから。
そんな時間はない。
だが、幸か不幸か私が最初に出会ったのはノーマークだったイオリだ。
なぜノーマークだったかと言えば、そこまでやり取りをしていない風紀委員だったからだが負けず嫌いなんだろうなと言うのは想定で来た。
「おい! 不審者、そこで止まれって……シャーレの先生か」
「不審者……随分な言い方だな。イオリ?」
まあ黒服の服装を見た後だから、格好で不審者と言われても文句は言えないのかもしれないが……
だいたい、背の高さで察してくれ。
知らない仲でもないだろうに。
「それで、何しに来た?」
「ヒナに話があってな。頼み事、それも重要で可及的速やかに行わなければならないものだ」
「はぁ? 風紀委員長に会いたい? ゲヘナの風紀委員長に、そんなに容易く会えるとでも思ってるのか?」
結論から言おう。
アコよりはマシだが、歓迎はされておらず中に通しても貰えないレベルの信用のなさだった。
いや、確かにお前たちの事を倒したがアレはアレ、これはこれだろう。
さて、どうしたものか。
万魔殿に頼んでも本懐を果たせない以上、何とか交渉をするしかないが。
イオリの好きなモノなど、私は知らないぞ。
だがイオリは代替え案を提示した。
「そうだな、じゃあ土下座して私の足でも舐めたらヒナ委員長に合わせてやる!」
そう言ってやれるものなら、やってみろと言う顔でイオリは私を見てくる。
こいつ今、なんて言った……
土下座して、足を舐めろだと?
この際、土下座くらいはしてもいい。それでホシノが救われるなら安いものだ。
それに、アゼムやあいつの流れるような土下座をこれまで何回見てきたか。
アゼムに至っては、私が説教をするたびにしてくるからもはや土下座のバーゲンセール状態。
あれほど安い土下座はない。それでなぜ許したかって?
土下座をする相手は、私だけだったからだ。
ラハブレアに説教をされたときは上手くはぐらかし、それ以外の相手の時も頭を下げるだけ。
土下座する相手は、私しかいなかった。
だから、許してやってもいいかと思えたんだ。
では、あいつはどうか。
あいつもあいつで大概だった。冒険の行く先々で、よけなければならない攻撃に当たってしまった時に何度もしていたな。
つまり、アゼムの魂を持つ者は皆揃って土下座について一家言ある。
だが、足舐めは別だ。
幾らなんでも屈辱的で、これに関してはあいつらもしていない。
それになあ、年頃の女の子が言う言葉でもないだろう。
悩む私にイオリは追い打ちをかけてくる。
「どうした。それくらいの度胸も無いのか?」
度胸がないだと?
言ってくれるな。
「……お前自分の足を舐められて嬉しいのか?」
「……へ?」
「いや、そう言うのが好きな奴は居るだろうから否定はしないし、お前がそういうのが好きで要求するのも認めるが……こう、人前で舐められたいなんて公言する奴は早々いないと言うかだな」
「い、いや! それくらいの、覚悟があるのかって意味で!! 私をそんなヘンタイみたいに言うな!!」
「最初に言い出したのはお前だろう……」
そう言いつつも、まずは頭を下げる。
ちょうど、あの日にヒナがした角度と同じくらいだ。
「……これが終われば土下座でも何でもしてやる。だが、今は頼む。私の大切な、生徒の命が掛かっている。彼女を救うにはヒナの力が必要で、ヒナと話すにはイオリ、お前の力が必要なんだ」
「え……い、命って、そんな大げさな……」
「昨日の中継は見ただろう?」
「見たけど……それで攫われた生徒を助けるためにって事なのか?」
「ああ。アビドスが本当の意味で救われるには誰一人欠けちゃいけないんだ。だから、どうか……」
顔を上げることなく、懇願し続けるしかない。
別に人前で土下座することはなんとも……いや、今回に関してはどうも思わない。
しかし、それでもしイオリにあらぬ疑いが掛けられてもかわいそうだ。
『ゲヘナ風紀委員、男性に土下座を強要し足舐めを要求!』
クロノスが好きそうなワードだな。
「生徒に頭を下げる……大人としてのプライドとか、人としての迷いとかはないのか?」
「捨ててはいけないプライドと、捨てられるプライドは別だ。お前だって、風紀委員の仲間が危機に陥れば捨てられるプライドがあるはずだ」
「……それは、そうだけど……」
駄目か。
ならば、仕方ない。
そう思い、今度は膝を曲げ大地へと当てる。
やはり、したいものではない。
だが、すればホシノが助かるならばそれをする以外にない。
私が魔法で蹂躙して進む救出劇に、何の意味もない。
これまでアビドスの惨状を知りながら放置していた、二大学園に介入させてこそ意味があるんだ。
人は醜いばかりじゃないと、ホシノに見せてやれる。
あそこまで一人で頑張ったんだ、そんな未来を見せてやってもいいじゃないか。
「わ、分かったから!! もういい!! 委員長に合わせたら良いんだろ?」
「ああ。これが終わってなお、足を舐められたいなら……考えておこう」
「だから!! 私は別に舐められたいわけじゃなくて!!」
案外、イオリと話して困らせるのは楽しいなと少し思ってしまった。
散々されてきたから分かるが、いざやる側になると良いものだ。
そうやって、イオリと騒いでいると。
「何だか楽しそうね?」
目的の人物が背後から声をかけてきた。
「い、委員長……?」
「……自分の望みのために膝をつく姿なら、これまで何度も見てきた。でも、生徒のために跪いて、そんな顔をした大人を見たのは初めて」
これまではそうだったのだろう。
だって、生徒は食い物だから。
散々利用して、捨てるだけ。
そう言う大人が跋扈していた。
「顔を上げてちょうだい、先生」
そう言って、ヒナが私を立たせ膝の汚れを払ってくれる。
「言ってみて、私に何をしてほしい?」
00Ⅱ
ヒナへ嘘偽りない私の想いをぶつけ、いくつかの対価を支払う事で協力を取り付けた私は作戦開始を告げるため、砂漠にある対策委員会との集合地点へと合流した。
「さて、お前たち準備はいいか?」
「ん、準備完了」
「補給も十分、おやつもたっぷり入れておきました!」
「こっちも準備できたわ! 睡眠もしっかり取ったし、お腹もいっぱい! どっからでもかかってきなさい!」
今度は遠足に行くわけではないのだが、まあそれくらい余裕のある気持ちと言うのは大事だろう。
切羽詰まってまで戦いたくはないしな。
『私の方も、アビドスの古い地図を全て最新化しておきました』
「ちゃんと寝たか?」
『勿論です! 先生に教えていただいた情報ですと、ホシノ先輩はカイザーPMCの第51地区の中央あたりにいるはずです』
そんな作業あの後に終わらせたとなると絶対に寝ていないと思うのだが……
いや、アヤネは要領がいいから案外直ぐに終わったのかもしれない。
ならもう深くは聞かないでおこう。
「では、最後の確認だ。エメトセルク・ヘルメット団はアヤネと学校の防衛、奴らが学校を狙う事はないだろうが念のためだ。ある程度片付けば、ヘリを用意してあるからこっちへ来い。そして対策委員会が切り込めば、理事はまず間違いなく北方の主力部隊を動かす。そこを風紀委員会が撃破する。便利屋68は自由枠ではあるが、基本的に撃ち漏らしや逃亡、および合流を潰せ。よって基本的に主役は対策委員会、お前たちだ。異論はあるか?」
「ん、先生の作戦をカイザー理事が越えられると思えない」
『今回はコラボレーション出来なさそうだけど……手を抜いたりはしないわ!』
『留守は任せろ! アリ一匹通したりしない!』
ヒナたちには事前に作戦を伝えてあるし、もうすでに配置についたことは把握済みだ。
なら、応答がないのは当然。
最強の伏兵だからな。
後は、開幕の号砲を鳴らせばいいが。
モモトークの通知音が鳴る。
『撃ちました』
とそこには短く。
なら、そろそろか。
「さて、まずはご清聴願おうか。これより始まるフィナーレ、その開幕の音を」
流星群を思わせる爆撃の雨が、カイザーPMC基地一帯へと降り注ぐ。
ヒフミめ、どんな支援をするのかと思ったら砲撃と言うから見てみれば、かなりの規模じゃないか。
これでは、カイザーPMCどもの大半が無力化されてしまう。
だが、見事な号砲だ。
『あ、あぅ……わ、私です……』
気の弱そうな声と共に紙袋を被った少女……『ファウスト』が映し出される。
なるほど、トリニティらしくどこが撃ったか分からないようにするためか。
「あっ! ヒフ──」
『ち、違います! 私はヒフミではなく、ファウストです!』
おい、名前を言ったら意味がないだろう。
それに制服はそのままでいいのか……いや、前回もそうだったしいいか。
「わあ、ファウストさん! お久しぶりです! ご自分で名前を言っちゃってましたが、そこはご愛嬌ということで☆」
『あ、あれ!? あう……! いえ、その、このL118は、トリニティの牽引式榴弾砲ですが……と、トリニティ総合学園とは一切関係ありません! 射撃を担当している皆さんにも、そう伝えておきましたので……』
立派で凄まじい砲撃だったぞ。
トリニティの砲撃術は、優秀だな。
どこまで牽引してきたのかは知らないが、それでも的確にあの忌々しい構造物一帯を破壊してくれているのだから。
『……す、すみません、これくらいしかお役に立てず……』
謙遜する必要はない。
これで、対策委員会の負担は減った。
負ける気は毛頭ないが、それでも出来るだけ完勝させてやりたいと私は考えているからな。
そして、お前は見事にティーパーティーを動かした。
知り合いがどの程度の権力者なのかは知らないが、そう簡単にできるものではないはずだ。
「助かった、ファウスト。請求書は『アシエン』にでも送っておけ」
「うん、すごく助かった」
「はい! ありがとうございます、ファウストちゃん!」
『あはは……えっと、みなさん、が、頑張ってください!』
そう言ってヒフミからの通信は切れた。
つまり、トリニティの援助はここまでという事だ。
むしろ、ここまでにしてくれないと主役の引き立て役がいなくなってしまうからな。
「火力支援の直後に突撃、定石通りだね」
『はい! 敵は砲撃により混乱状態です、今のうちに突破しましょう!』
そして既に基地内には前回同様に、対策委員会の幻影が送り込まれており混乱をより過熱させている。
「お前たちの偽物で戦力を分散させた。まあ碌に残っていないだろうが、これで基地内は殆ど無抵抗でいける」
「ん、先生の作る偽物は効果的だからね」
そういってシロコは私へサムズアップする。
信用し過ぎだ。
だが、その信用に応えるのが私、エメトセルクだ。
「では行くか。次の舞台を始めるため、この悲劇に幕を下ろすぞ」
00Ⅲ
結局、私の選択は間違っていた。
私がアビドスを救うために、犠牲になる事こそがカイザー理事や黒服にとって必要な条件だった。
そして、私が居なくなったアビドスはただ蹂躙された。
私が見れたのはそこまでだったけど、もうどうにもならないんだ。
──また、大人に騙されたんだ
──ごめん、みんな。私のせいで、全部……
どれだけ後悔しても、もう取り返しはつかないことだった。
私はみんなを救えなかった。
シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん……
また裏切っちゃったよ、ユメ先輩。
どれほど謝っても、誰もその答えを返してくれない。
むしろ、頭の中にみんなの幻影が現れては私を責め立てる。
それを私は黙って聞くしかなかった。
だって、私が悪いんだから。
もしここに先生が居たら、嗤ってくれるのかな。
なんて無様なんだ、私の言う事を聞かなかったからだって。
でも、先生の幻影だけは現れなくて……
それが余計に私を苦しめた。
──私は、お前の選択を止めはしない
──お前が取る選択を、私は理解できる。だからこそ……決してお前を見捨てたりはしない。お前が望もうと望まなかろうと。それは他の奴らも同じだ
その言葉だけが何度も蘇っては消えていく。
ううん、無理だよ。
きっと、みんな私に裏切られたって思っているんだ。
なのにどうして。
先生の言葉に縋ろうとするんだろう。
どれだけ見渡しても、黒い空間で、誰もいないのに。
みんなを捨てたのは私なのに。
「未練なのかな……」
なら、私の人生は後悔と未練しかない。
──ねえ、ホシノちゃん。私ね、ホシノちゃんと初めて会った時、これは夢なんじゃないかって思って、何度も頬をつねったの
まただ。
──ホシノちゃんみたいな、可愛くて強くて、頼れる後輩がそばにいてくれるなんていう夢みたいなことが、本当に嬉しくて……
その想いを私は……
──うーん、上手く説明できてないかもしれないけど……ただ、こうしてホシノちゃんと一緒にいられることが、私にとっては奇跡みたいなものなの
それが日常なんだから別に特別じゃないなんて思ってたな。
大げさだって。
奇跡はもっとすごくて、珍しいもののことだって。
──ううん、ホシノちゃん。私は、そうは思わないよ。ねぇ、ホシノちゃん。いつかホシノちゃんにも可愛い後輩ができたら、その時は……
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
私は先輩の想いを踏みにじって、託されたものを放り投げたんだ。
それだけじゃない。
その可愛い後輩さえも……
そうやって、後悔に苛まれていたら私の前に小さな青い鳥がいた。
ああ……ついに幻覚まで視るようになったんだ……
『こんにちは、私が二番目に出会う、あなた』
鳥が喋ってる。
はは……
私ももう終わりなのかな。
『私はあなたの音を聞き、想いを感じ、考えを知りたいのです』
想い?
考え?
そんなの……決まってる。
それをどうして、こんな鳥に話さないといけないの。
何が悲しくて、幻覚なんかに……
『どうか、仲良くしてくれませんか?』
私がどれだけ無視しても、鳥は諦めずに話しかけてくる。
違う。
まるで私と話す事が目的みたいに……
じゃあ、先生がこれを?
ううん。
先生が用意したものならもっと直球にぶつかってきそうだから違う。
やっぱり、幻覚なんだよ。
でも、どうしてか。
この鳥の声は頭の中に響いてくる。
嘴が動いていないのに。
『悲しい色。そう、あなたは、絶望しているのね』
まるで私の心を読んでいるみたいで……
腹が立った。
「あなたに……私の何が分かるの」
『これが私の力……。周囲の想いを読み取り、自分の想いを返しているのです』
魔法。
先生が使う魔法とは違うけど、この鳥も魔法を使えるって事なのかな。
じゃあ、やっぱり先生の関係者なのかな。
……いいや。
どうせ、一人で沈んでいるくらいならこの鳥と話してみようかな……
「私はね……人の想いを踏みにじって、守るべきものも守れなかったんだ。だから、恨まれて当然だって……」
『本当に、そうなの?』
「……え?」
『その人たちは、あなたの事を本当に恨んでいるの?』
当たり前じゃん。
さよならも言わずに出ていって、そしたらカイザーPMCが襲撃したんだよ?
それにユメ先輩だって。
私が最後に言った事を許してはくれないはず。
『あなたは、戦っている。暗い道で一人ぼっちで』
「……」
『でも、あなたの心は一人じゃない』
「誰もいない! 私と一緒に苦しんでくれる人なんか、ここから諦めずに立ち上がれる人なんかいない!」
私はエメトセルク先生じゃない。
あの光景を見て、それでもなお1万2000年も壊れずに戦う人なんてあの人くらいだ。
「誰が私を助けてくれる? 誰が私を許してくれる? 誰が……私を……」
言葉にならなかった。
まだ救われたい、許してほしいなんて思ってた。
勝手だよね。
けど、やっぱりできることならここから出てみんなを助けたい、謝りたい。
でも、できないよ……
『なら、あなたが立ち上がれるように私が謳うね』
黙って聞いていた鳥が、突然そんなことを言い始めた。
「謳う?」
『そう、あなたが絶望に打ちひしがれているなら、そんな絶望を払う希望の唄を』
希望の唄。
希望なんて……ないのに。
だけど、鳥は謳う。
実際に何かを歌っているわけじゃない。
けれど、確かに私の中に誰かの物語が入ってくる。
膨大な時間の記憶が、早送りで、それでもその時に抱いた想いは私の心へと深く刺さって。
──聞いて……感じて……考えて……
それは出会いの物語。
数多くの仲間に出会い、心の底から友達と呼べる人も出来た。そして、相容れない敵や信念を持つ敵との邂逅。
全てが意味ある出会い、そして英雄を彩る。
──英雄に……悲しい顔は似合わぬぞ……
それは別れの物語。
唯一無二の親友、旅の仲間、お互いに歩み寄れたかもしれない敵。
そして、人を信じ最後まで子供たちに愛を与えた母のような人。
数多くの出会いがあれば、必然的に多くの別れがある。
そのたびに、英雄は悲しみされとて涙は流せない。
友達との約束があるから。
──お前はもう戦えない……戦う目的がない
それは葛藤の物語。
自分の力が足りないばかりに救えない命、英雄を友と呼ぶ超越者との戦い。終末を止めたいのに目の前の命を救えない苦しみ。
その手からこぼれ落ちるのはいつもかけがえのないもの。
数多くの物語があり、そしてその物語のフィナーレは英雄が龍に乗り、絶望を希望で救うことで終わりを迎えた。
数多くの想いが、私の中に入ってくる。
究極の名を関する兵器、1000年の祈りを宿す友の仇、英雄を友と言う男。
そして、終焉を謳うもの。
数多くの強敵との戦いを経験した英雄にとっての最強の敵は私もよく知る人だった。
前髪の一部だけが白色、長身で、額に石。
何とも気だるげで、それでいてその目には確固たる意志がある男。
「……エメトセルク先生」
だが、この人の記憶を通して見る先生は『先生』ではない。
それは、相入れぬ敵でありながらも敬意を持てる敵。
もしかしたら、友と呼べたかもしれない存在。
だが、それ故に倒さなければならない存在。
それはあの日、私が見た景色。
終末のアーモロート、その最果てにて。
向かい合う『英雄』と『英雄』。
ある英雄は影を、別の英雄は光をもたらす。
この星の『過去』を生きた者とこの星の『今』を生きる者。
それぞれが決して譲れないものを胸に宿して。
──決着をつけよう、エメトセルク
眩き光の柱を伴い英雄は覚悟を示す。
どちらの道が続いて行くのか、その決着をつけなければならない。
そして、一度は失望した存在が何度でも立ち上がるその姿勢がまるで本当は見たかったものかのように。
もう片方の英雄もまた覚悟で答える。
──いいだろう……そこまでして望むなら、最後の裁定だ!
何度も立ち上がり、反逆の意思を示そうとも。
反逆者は一人だけじゃない。
互いが運命への反逆者なのだ。
──勝者の歴史が続き、負けた方は、反逆者として名を記される。この星の物語における悪役がどちらか、決めようじゃないか!
そして、先生は前へと進む。
──我は真なる人にして、エメトセルクの座に就きし者
私たちに名乗った名前は嘘ではないけど、真名ではない。
けど、そのエメトセルクという名前もまた先生が誇りを持った名前。
だが、英雄とのふとした会話で本名を聞かれた。
その時は答えなかった。
だが、今は違う。
先生の目の前に立つ人はまさしく英雄。
ならば、時が来たのだと。
──己が名を、■■■■! 冥きに眠る同胞がため、世界を奪い返す者なり!
名前は聞こえなかった。
それは英雄だけの記憶だから。
私が自分で聞かないといけないものだから。
これまで見たどの闇よりも深く、決して邪悪なものではない想いの力を持った闇が、先生をあるべき姿へと替える。
背中から巨大な腕が二本、片方には紫の結晶で造られた杖。
本体は魔法使いの様な外見の異形。
冥王。
でも、変わらない。
どれだけ姿が変わろうとも。
先生は誰かの想いを背負って戦える人。
──その想い、その願い、その祈りのすべてを、私が背負おう!
想いを乗せた翼を広げる姿。
もう数が少ない仲間たち、その中でも当時の記憶を持って抱いた想いを覚えているアシエンは先生だけ。
──絶対に……ここで終わりにしてなるものかッ!
だから、先生は引かなかった。
相手が稀なるつわものだからこそ、先生もまた全力で命を賭けて戦ったんだ。
そして、その過程で先生は英雄を救った。
──ならば、覚えていろ。私たちは……確かに生きていたんだ。
自分を斃した者へ。
主役はお前に譲ろう。
だが、己の想いを貫くならかつてここに生きた者たちもいたことを忘れずに背負って行け。
そう言いたいみたいに。
そして最後は笑顔だった。
今度は託せたんだね、先生。
どうして先生との記憶だけがピックアップされたのかわかるよ。
この記憶の持ち主も、先生への想いがあったんだ。
傍らに立ち、敵として向き合い、想いを託され、そして最後には悲しまないようにしっかりと宿題を残されて。
それはどこまでいっても、私の知っているエメトセルク先生でありどれほど擦り切れていようとも芯は変わらずにいた。
そして、私は……
そんなエメトセルク先生の生徒、まだそう言っていいのかわからないけど。
それでも、私は先生の生徒でありたいよ。
なら、こんなところで終わるわけにはいかないんだ。
英雄だって最初は苦しんで迷ったけど、最後には終焉を謳うものを倒した。
こんな些細な躓きで、私がみんなにもう一度会ってきちんと謝るのを諦める理由になんかならない。
ユメ先輩から託されたものを、私は投げ出したけど。
もう一度拾わせてほしい。
『これは別の物語。あなたには、あなたを待っている人たちがいる』
もう一つの唄。
それは私が今一番会いたいみんな。
私が絶望させてしまったみんな。
けど、そこにいるみんなの目は希望を捨てていなかった。
──先生は確かに今この場にいません! けど、エメトセルク先生は言いました、最後まで希望を捨てるなと。
アヤネちゃんが最初に言葉を始める。
先生は希望を捨てない先の答えを知っているから、私たちにもそうなって欲しかった。
──『お前たちが絶望しない限り、頽れようとも支えてやる。だから気にせず進め』、そう私に言ってくれたんです!
ノノミちゃんの言葉が、私の背中を押す。
先生は私たちが倒れたとしても、支えてくれる。
だから後ろは気にしないでやりたいようにやれっていつだって見守ってくれた。
──誰かが頑張れば救われるというときに、その「誰か」になれるって
先生もまたその「誰か」だったから。
自己犠牲なんて嫌いだったはずなのに、自分が一番自己犠牲をしてるそんな大人。
そしてその言葉がある限り、セリカちゃんは諦めたりしない。
──今の気持ちを忘れるな。確かに迷いもしたし諦めようともしたけど、でも諦めない
多分シロコちゃんは、先生に私の退部届を見せた時に怒られたんじゃなくてそう言われたんだね。
戦う目的はいつだって、見失ったりしない。
一度の失敗や、くだらない策略で終わらせるものじゃない。
──だから、決して絶望なんてしない!! 私たちはアビドスを守って、ホシノ先輩を取り返す!!
「……あぁ……そっか」
ユメ先輩。
これが先輩の言っていた『奇跡』なんだね。
大きなものが、もっと凄いものが奇跡なんじゃない。
いろんな形の歓びを拾い集めて、失ってそしてまた見つけては生きていく。
そうやって積み重ねられた想いを叶えようとする可能性が起こすのが奇跡。
そして彼女たちは求めた場所へ至るんだろう。
『うん! 綺麗な色。これであなたも進めるかな?』
「……私はまだここで終われないみたい」
『あなたは一人じゃない。たくさんの想いが今のあなたを作って、そして他の人への繋がっていく』
そう言って、青い鳥は飛び立つ。
希望の唄をさらに広めるため。
私のように頽れそうな人を支えてあげるために。
『あなたはみんなに会いたいって強く願いながら、踏み出して。その想いが、必ず、みんなのところへ導いてくれるから!』
私の周りを旋回し、流星の如く壁を突き抜け飛び去った。
「……ありがとう」
私にできることは、みんなを信じること。
きちんと謝ること。
そして、何よりも『明日』を望むこと。
そうやって希望を継いでいく。
私がいつか、本当の意味で長い人生を終えた時に、この旅は良いものだったと言えるように。
だから、私も進むんだ。
例え武器が無くとも、ここから出ないといけない。
みんなを、先生を想うと不思議と力が湧いてくる。
まるでそれは英雄が見せた力、想いの力のようで。
なら、この力で超えよう。
すると、あれほどきつく縛られていた拘束が嘘かの様に壊れていく。
『先輩はすぐそこにいるはずです!!』
声が聞こえる。
それは待ち望んでいた声。
やっぱり、奇跡はあるんだね。
ユメ先輩。
00Ⅳ
肝心の理事は隠れたままではあったものの、それなりの抵抗があった。
もはや引けない、ここを失陥すれば命すら危うい者たちの我武者羅の抵抗。
だが、所詮は負け行く者たちに過ぎない。私たちを止められる強き者などいなかった。
強いて言うなら、弾丸費が嵩むだろうということくらいで。
そう思っていると、一筋の光が目に付く。
実験室がある建物の壁を貫いて天へと昇っていく眩き光……
それは知らない人から見ればただの不思議な現象だが、私には分かる。
「……メーティオンか」
やはり、キヴォトスに来ていたか。
しかし、ホシノがいるであろう場所から出てきたメーティオンの色は、青。
ならば、問題はないはずだ。
それに今は、メーティオンよりもホシノが大切なのだから。
ヘリでこちらまで来たアヤネと合流し私たちは建物の扉を壊していく。
黒服が特別に準備させた建物の扉だからだろうか、1枚1枚が異常に堅く時間を取られてはいくが
それでも着実に私たちは前へ、更に前へと前進していく。
今更、扉如きで諦めるわけがない。
そして、最後の扉まで至る。
そう、その先にはホシノが既に待っているのだ。
だが、やはり最後の扉だけは一筋縄ではいかなかった。
「ん、壊れない……もう一度……」
何度撃とうが、爆発させようがびくともしない。
半ば撃ちたい放題でここまで来た弊害か、弾薬も既に底を尽きつつある。
蹴っても殴っても、流石にそれは壊れないだろう。
それにな、ホシノを助けに来たのはお前たちだけじゃない。
「お前たち、ホシノを助けるのはお前たちだけじゃない。私もいることを忘れるな」
そう言って私は全員に闇の力を与える。
それはかつてあいつが私と戦った時に見せた光の力、その模倣のようなものだ。
「これは……」
「さあ、思いの丈ありったけの力で最後の一撃を放て。これがお前たちの示した未来なんだと示してやれ」
全員が頷き、そしてその闇を一つの武器へと替え構える。
ホシノのショットガン。
やはり、お前たちはそれを選び壁を超えて行くんだな。
放たれた力が扉をこじ開ける。
そして、その先には彼女。
お前たちが取り戻すために立ち上がった存在、全員そろってアビドス対策委員会だと言い切らせた存在。
小鳥遊ホシノ。
「……みんな、本当に……」
目の前の光景を待ち望んでいながらも、本当に助けに来てくれるものなのかと思っているような顔をしたホシノがそこにいた。
だが、その目は曇ってなどいない。
なら、それでいいじゃないか。
「その顔を見るに、私との約束を思い出したみたいだな」
「はは。恥ずかしながら……ね」
ホシノのことだ。
きっと、後悔や絶望に苛まれ一人この実験室で苦しんでいたんだろう。
だが、もしかしたらそう。
希望を運ぶ青い鳥が彼女に謳ったんだろう。
確かに絶望は希望よりもひとつ多く用意されているのかもしれない。だが、それで希望が打ち消されるわけではない。
むしろ希望とは想いの数だけ膨れ上がっていくものなんだ、と。
その過程で何を聞いて、感じて、考えたのかは知らない。
しかし、彼女の目がそれを語っている。
決して、悪いものではなかったと。
「……お、おかえりっ! 先輩!」
「ああっ、セリカちゃんに先を越されてしまいました! ズルいです!」
「ホシノ先輩、おかえりなさい!!」
「おかえりなさい、です!!」
「おかえり、ホシノ先輩」
これがお前の繋いだ希望を、継いだ者たちだ。
良い顔をしてるだろう?
「みんな、ただいま……色々、本当にごめんね」
謝ることじゃない、と皆が否定しそしてまた笑いそして涙を溜めながら抱き合うその姿を少し遠目で見て私は思ったのだ。
お前ほど上手く出来たかわからないが、私も誰かの笑顔を守れたぞアゼム、と。
そんな私を彼女たちが見る。
ああそうだな、面と向かって言うのは少し恥ずかしいがそれでも伝えると約束したのだ。
だから、彼女たちの輪に私も混ざる。
「ホシノ、本当に、本っ当にお前は……無茶ばかりしてくれたな。そのおかげで、方々に出向くことになった。だが……」
ホシノの顔が何とも優しい顔に変わる。
……さては、メーティオンめ。私の過去を視せたのか?
「おかえり。そして、よく頑張った。今日まで一人で戦い続けたお前に、心からの賛辞を贈ろう」
そう言って私はホシノの頭を撫でた。
人の頭を撫でるなんて、最後にしたのを思い出す方が難しいくらいで……
随分とぎこちなかったが、それでも撫でてやりたいと思ったのだ。
「うへ……先生も、本当に、本っ当に諦めが悪いんだから……」
そう言って私を見る目は優しい。
「ただいま。先生。約束、守ってくれてありがとう」
ああ。
おかえり、ホシノ。
00Ⅴ
ホシノとの感動的な再会がひとしきり続いた後、私たちは帰るべき場所に戻る準備をしていた。
アビドス対策委員会の戦いは一区切りが付き、次の公演を始めるため今は第一幕のエンディングなのだ。
だが、私は違う。
先生として、顧問としてこいつらとのエンディングを迎える前にまだ一仕事だけ残っていた。
それは彼女がすべきではないことであり、『私』がしなければならないことだ。
それにどうせお前には何も残っていないんだ。
ここで逃げて終わりはつまらないだろう?
「先生、帰る準備終わったよ」
シロコが一向に準備を進めない私を心配してか声をかけてくる。
こんな場所に長居は不要だ、と言いたいのはわかるがまあ待て。
『どこへ行くつもりだ!!』
耳障りで聞きたくはない声のはずだが、今回だけはその声が聞きたかった。
今回はきちんと自慢の兵器『ゴリアテ』に乗り、数人のオートマタの兵士を連れて、帰りの準備を終えた私たちの前に負け犬が姿を現す。
「カイザーの理事……!? 逃げ出したんじゃ、なかったんですね……」
アヤネの戸惑いはごもっともだろう。
カイザーPMCの基地は壊滅状態であり、部隊も同様。にも関わらず、理事は先ほどの戦いでは姿を表さず今になって出てくると言うのはおかしな話だ。
「しつこい……」
「ああもう、どこまで邪魔すれば気が済むのよ!」
シロコやセリカのもううんざりだと言わんばかりの台詞もよくわかる。
私からしたら探し出す手間が省けて良かったが、アビドス対策委員会からしたら感動のエンディングを妨害しにきた無粋な存在だ。
『対策委員会……ずっとお前たちが目障りだった』
人生の絶頂から突然叩き落とされ、今やこれまで馬鹿にしてきた対策委員会よりも無様な状態にまで落ちぶれた理事から出たのは、やはり恨み言だった。
『これまで、ありとあらゆる手段を講じてきた……! それでもお前たちは、滅びかけの学校に最後まで残り、しつこく粘って、どうにか借金を返済しようとして! あれほど懲らしめたのに、徹底的に苦しめたのに、毎日毎日楽しそうに!』
どうせこれがお前の意志で口を聞ける最期の機会、負け犬の遠吠えとして聞いてやるつもりだが……
本当に情けない限りだな。
『貴様もだシャーレ! 私の計画は完璧だった!! 貴様やアシエンが余計なことさえしなければ……貴様らと対策委員会のせいで、計画がっ!! 私の計画があぁぁっ!!!』
今だに最初の方は計画が上手くいっていたと勘違いして喚き散らしているが、それは随分と都合のいい頭だよ。
「ふん、あんたみたいな下劣で浅はかなやつが何をしようと、もう私たちの心は折れたりしないわよ!」
「はい! あなたみたいな情けない大人に、私たちはこれからも負けません! 絶対に!」
「ホシノ先輩は返してもらった、けど御礼参りはできてなかった」
そう言って、武器を取り出し構えようとする対策委員会を私が止める。
お前たちの仕事はホシノを救出して終わり。
「先生!?」
「お前たちは絶対に手を出すな。ここからは『悪い大人』の時間だ」
私はホシノへ『シッテムの箱』を渡す。
アロナにも悪いが、『私』だけでしないといけない。
「これを預かってくれ、ホシノ」
「……わかった。けど先生、忘れないで。今は対策委員会が先生の帰る場所なんだからね」
帰る場所か。
ああ、ここが私に出来た新しい帰る場所だ。
ならば、それを壊そうとしていた奴を放置など出来ないだろう?
「まったく……。お前の役目は終わったんだから無粋な真似はしないでもらいたいなあ、理事くん? ああ、失礼。これからは『元』理事だったな」
既にカイザーコーポレーション内での立場はなくなり、これが終われば指名手配。
だから、理事と呼ぶのはおかしいが『元』理事と呼ぶのも面倒くさいんだ、これが。
私の言葉が気に食わなかったのだろう、ゴリアテと随伴の兵士が私だけに発砲を開始する。
絶賛蜂の巣にされているであろう私を助けようと動く対策委員会のメンバーは……いない。
心配そうな目を感じはするが、絶対に手を出すなと言われた以上は私を信じ待つだけだ。
『貴様さえっ、貴様さえいなければ!! 私がこんな目にあう事も無かったのだ!!』
何としても息の根を止めたいのだろう。
爆発の裏で私が退屈そうにお前の言葉を聞いているのも知らずに。
『私がどれだけの時間をかけて、この計画を準備したと思っている!! それを、ぽっと出の貴様ごときにィ!!』
確かに、私はこいつから見たらぽっと出の存在だろうなあ。
その気持ちは分からんでもない。
あいつに負けた奴らはみんなそう思った瞬間があるだろうさ。
トドメと言わんばかりに頭に搭載した大砲から砲弾まで放ってくる。
もちろん、それすらも無意味だが舞台装置にとってはこれが最後の抵抗だったのだろう。
弾切れ、か。
「それで? もう長い長い演説は終わりか?」
『ば、馬鹿なッ!? あれほどの弾丸と砲弾を撃ち込んだと言うのに!』
「所詮は、この程度か……。これでよくもまあ彼女たちを嗤ったものだな」
手を揮えば、私の手から放たれる波動は漆黒の旋風となりゴリアテと兵士を蹂躙する。
これまで使った魔法とは違う、私の魔法、闇の力。
たった一撃で身を守る兵士とゴリアテを破壊された理事は必至の思いで操縦室から這い出て、私に向かって錯乱しながら手に持った銃で私を撃つ。
届きすらしない、無意味な銃弾をありったけ撃つ。
「ば、化物……なぜ、なぜだ! なぜ、貴様に傷一つ付かないのだ!!」
カチ、カチとその銃が弾切れであることを示す無情な音だけが響き渡る。
それが分かれば銃を投げ捨て、背を向けて逃亡を図り始めた。
なんだ。
どうせ終わるならと命を散らしに来たのかと、思えば命惜しさに逃げ出すとは。
幾ら舞台装置とは言っても、もう少し誇りというものがないのか。
次は黒き鎖で以って無様な存在を縛り上げる。
そもそも逃げす気など、毛頭ない。
「な、なんだこれは!? 鎖など、一体どこから……」
「言っただろう。お前の結末は、ただ一つだけだ、とな」
「わ、私を殺すのか!? お、お前は先生だ! 生徒の前で、私を殺すなど──」
なるほど。
こいつは私の言葉を『殺してやる』という意味だと捉えていたようだな。
そんなわけないだろう。
今更こんな奴を殺して痛む良心なんてこれっぽっちもないが、死なせるなど
まだ、利用価値があるのに。
「は~……どうして、死ねるなんて思ったんだ? お前は私の可愛い生徒を、アビドス対策委員会を嗤った。そんなお前が死などと言う安息に至れるわけがないだろう?」
「なにを……」
「お前が自分の意思で聞ける最期の会話だ。すべての種明かしをしてやる」
そう言って私は芝居掛かった動作で説明を始める。
さあ、これがお前の結末だ。
「そもそも出来過ぎた話だと思わないか? 銀行強盗に『アシエン』を名乗る者が現れて直ぐに、ファダニエルと私が接触。そして、お前の前に姿を現すまでの期間の短さ。しかも、13人もいるのにわざわざお前が一番嫌がりそうなファダニエルが来るなんて確率的も偶然が重なり過ぎている」
「だが、『アシエン・ファダニエル』は実際に私の前に──グッ!?」
更にきつく縛り上げる。
「黙って聞け。そして更に偶然にもちょうど同じような時期にアビドス対策委員会の顧問に就任した男がいた。そしてその男はついこの間、キヴォトスに来たばかりの『シャーレ』の先生。しかも、そいつは前の場所でも『アシエン』に関わりがあってファダニエルとも接触している。更にさらに、この男はお前の穴だらけの計画を見事に破壊し、今こうしてお前を見下ろしているなあ?」
「……そんな馬鹿な!! そんな……あり得る筈が……」
「さて、改めて自己紹介と行こうか。私は、連邦捜査部『シャーレ』の先生。同時に、アビドス対策委員会の顧問として彼女たちの行動を見守ってきた者……しかして、その実態は……」
そっと右手を自分の顔へと翳し、下ろす。
そうすれば奴が最も見たくないであろう、赤き紋章が浮かび上がる。
「その紋章はッ……!!」
「『アシエン・エメトセルク』と申し上げる」
「……ッ!!!」
己の行動が全て私の手の上で踊らされていたのだと漸く理解したのだろう。
拘束に抵抗する気力すら失くしたようだ。
「なら……最初から貴様は……」
「そう。お前の無様な計画をアビドスに来た初日で凡そ予測した私は敢えてお前の計画が上手く行くように適度にお膳立てしつつも、彼女たちのより良い結末のために利用させてもらったのさ」
「より良い結末……だと……!?」
「アビドスに渦巻く悲劇を終わらせ一人の生徒を縛る鎖を断ち切り未来へと解き放つために。そして、お前たちカイザーコーポレーションを適度にへこませるための材料としてな」
そう言って私は足元に転がる理事を嗤う。
あの日もそう決めたな。
お前たちの計画が崩れた時、嗤ってやると。
「ま、待て!! 情報なら幾らでも話す!! だから、だからどうか……」
「情報なんてお前の口から聞き出す必要はないんだ。お前の記憶、それをそのまま抜き出すくらいの術を私が持っていないとでも?」
「そ、そんな……」
「お前から記憶を抜き出して、心があるならそれも塗りつぶす。そうして出来た『新しい』お前を送り込んでじっくりとカイザーコーポレーションをいたぶってやる。だから、こうしてベラベラと喋ってるのさ」
既に裁定は終わってるんだ。
何処まで行ってもそれが覆る事はない。
粛々と私の『計劃』を進めていくだけだ。
アビドスの状態を見て思ったことは私が『表』を変えるだけでは生徒の現状や心を変えることは出来ても、完璧ではない。
ならば、『表』を先生として『裏』をアシエンとしてこのキヴォトスを変革させるほかない。
故に、『新生』などと言ったのはあながち嘘ではなかった。
「ではな、舞台装置」
「ま、まって──」
指を鳴らし理事を『檻』へと飛ばした。
これで本当の『終わり』だ。
服についた砂埃を払い、ホシノたちの元へと戻る。
「……先生、理事は?」
「安心しろ、生きている」
「あいつをどうする気?」
「お前たちのために、せいぜい働いて貰うさ」
少し後味が悪くなってしまっただろうか。
いや、どうせあのまま放置しても理事はこいつらに倒されていただろうからそこまで変わらない。
そして、それを深く聞く必要もないと考えたのだろう。
全員が私に一任するという雰囲気だ。
「帰るか」
「うん、そうだね。そう言えば、学校を空にしても平気だったの?」
「ああ。お前が見たらきっと驚く連中がお前の帰りを待ってるぞ」
そう言って私たちはヘリに乗り込む。
さあ、ホシノ。
お前への贈り物の準備は出来た。
この夕暮れとその後に訪れる夜が、新しい『明日』をお前に見せるだろう。
だから、今は胸を張って帰ろうか。
流石にエメトセルクが足舐めするわけもなく……
というか、しないだろうなと思います。
土下座については……私のヒカセンはギミックミスでワイプした際はしますが皆さんのヒカセンはしないかもしれません。
メーティオンについて。
彼女を出した理由が今回のシーンです。正直、ホシノが一人暗い部屋で苦しみ続けるのは辛いと思いますしこの二次創作ではFF14のテーマでもある希望を大事にしたいと考えてました。
なので、待つ側も希望を持って待ってて欲しいなと思ったんです。
本名が聞こえないのも、それを知っている現代の人はヒカセンだけだと思っています。(ラハくんも知ってるのかな?もしかしたら、見逃してるかもしれない。シーンの背後にはいるんですけど、戦闘時にはいないからここら辺は私の独自解釈としてどうか。あと、詩人は例外で)
だから、そうそうヒカセンが他人に見せるのかなって言う。
また、ヒカセン最強の敵として書いた理由は前回の生放送で出たランキングが元ネタです。
理事の末路について。
本編よりも悲惨な結末になったと思います。指名手配で降格して終わり、なんていう結末をエメトセルクが許すとは到底思えません。
これについては、相手が悪かったとして言えないと思います。本編先生やアニメ先生ならいつか許されることがあったのかもしれませんが、ことエメトセルクでは無理だろうなあと。
さて、これで終わり……ではありません。
エメトセルクはホシノにまだしてあげてないことがありますから。
これからも、頑張ります!
今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)
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原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
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変則(エ→パ1,2→兎)
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