エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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注意:今後のブルーアーカイブ本編のストーリー展開によっては、今回の設定との齟齬が生じる場合があります。ですが、ここはエメトセルク先生時空ということでご容赦を


推奨BGM:漆黒のヴィランズより『Tomorrow and Tomorrow』
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もしくは

推奨BGM:暁月のフィナーレより『デュナミスの欠片』
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エピローグ 手放さない明日

アビドス対策委員会。

私が先生として携わった最初の依頼であり、大仕事。

そこで出会ったのは、自分たちに出来ることを懸命に行い続ける少女たちだった。

 

だからこそ、私は彼女たちと向き合いそして支えたのだ。

時に迷い、苦しみ、自己犠牲を行って。

それでもなお、立ち上がりこの結末に辿り着いたお前たちへ

 

私から花を贈ろう。

エメトセルクの手記5

 

00Ⅰ

 

全てを終え5人揃って『青春』を貫き通した少女たちが、彼女たちの帰るべき場所へと凱旋する。

 

それを迎える者はかつて彼女たちと戦い今は手を取り合う者たち。

最初こそ、ホシノは驚いていたものの彼女たちの決意やアヤネの説明で警戒を解いていき徐々にではあるが受け止め始めた。

 

この結末は私一人では決して辿り着けなかったもの、お前たち全員で勝ち取った誇るべきものだ。

 

故に、私にはまだやる事がある。

 

全てを捨てながらも、結局はそれを拒み『今』を選べたホシノ、お前にはまだ私は何もしてやれていないからな。

夕暮れの校舎を眺めている5人と新しい『明日』を選ぶため道を変えた者たちへ私は後ろから声をかける。

 

「お前たち、目を閉じていろ」

 

幸いな事に、私の言葉を誰一人疑う事なく目を閉じる。

そうだ、それでいい。

取るべき形はもうホシノが決めている。

 

ならば、ひとつ指を鳴らす。

──ご覧あれ、この物語のエピローグを。

 

00Ⅱ

 

先生の指を鳴らす音の後、私が聞いたのは随分と賑やかな歓声と目を閉じてていてもわかるほどの明るさ。

 

随分と不思議な状態だからと目を開けたらそこには……

 

「……砂祭り」

 

場所が違うから正確には砂祭りではないのかもしれない。けどその喧騒と暖かさはまず間違いなく砂祭りだって思えた。

 

「先生、何で……」

 

そう思って振り向いた所にエメトセルク先生はもう居なかった。

私が謝らないといけない人、そしてありがとうを伝えないといけない人……なのに彼はあの音と共にまるで泡が弾けたかの様に消えた。

 

いや、もしかしたらあそこに居るのかもしれない。

屋上。

見上げれば、先生は居た。

 

「今日の主役はお前たちだ、今この時間、砂漠が見せる蜃気楼を精一杯楽しめ!」

 

そう言って、手を振ってる。

先生からのサプライズプレゼントに、シロコちゃんたちとヘルメット団の子たちは喜んでお祭りに混ざっていく。

 

けど、私はまだ混ざるわけにはいかない。

先生にも混ざって欲しかったし、それに先生の過去を知ったこと、そしてどうしても面と向かって先生の顔を見て聞きたいことがあったから。

 

だから、私は走った。

連続した階段を駆け上がり、その息が上がろうとも私は止まることなく登りきり屋上の扉の前まで来た。

 

「はぁ……先生、ちゃんと……はぁ……、居てよね」

 

いつもより重い扉を開ける。刹那、本来そこにはないはずの、花びらが舞う。

虹色の花……これって、エルピスの……

 

そして、目が再光に順応して来た時に私は見た。

もう二度と会えないと思っていた先輩を、大切だった人を。

 

「……ユメ……先輩……」

 

目の前にいる彼女はとても儚く今にも消えてなくなりそうな存在でありながらも、確かにそこにいた。

罠かと一瞬は身構えたけど、彼女からは邪悪な気配を感じなかった。

なら本当に……

 

「あの人に我儘を言ってほんの少しだけ、時間をもらったんだ」

 

あの人……

こんなことが出来て、そしてその場には現れない人物。

私には一人しか浮かんでこなかった。

エメトセルク先生だ。

でもどうやって。

先生は確かにエルピスで英雄を魔法で補強してあげてたけど、こんな事も出来るんだね……

 

「ホシノちゃん、ごめんね、きちんとお別れを言えなくて」

「そ、それは……私だって!」

「ううん。ホシノちゃんの言ったことは間違ってなかったんだよ。だから、私はホシノちゃんに会うことも出来ず、消えることも出来ずに彷徨うだけだった……砂漠であの人に、エメトセルクさんに見つけてもらうまでは」

 

まさか本当に先生はここまで見越して計画してたのかな? 

でももしそうなら……

本当に一人で背負い過ぎだよ。

一度は投げ出した私が言うのは違うかもしれないけど、それでも先生はたった一人で何処までもこの結末を信じてくれていた。

 

「私が……あんな、あんな事を言わなかったら!!」

「それは違うよ、ホシノちゃん」

 

私がユメ先輩に言いたかった事。

それは己の行いへの謝罪だ。

 

「確かに言われた時は少し悲しかったけど。それでも、ホシノちゃんは私の想いを継いで戦ってくれた。今じゃ可愛い後輩に囲まれて羨ましいよ!」

「で、でも! 私……私には……」

 

ユメ先輩がいて欲しかった。このハッピーエンドを一緒に見て欲しかった。

先輩があれほど言った『奇跡』がある一人の、一人で全てを背負いそれでもなお戦い続けようとする人のおかげで果たせたのに。

1番にそれを見るべき人が、私の側にいて欲しかった人がそこにはいなかった。

私は何もしてあげられていないのに……

 

「私も見たよ。砂漠に咲いた一輪の花を。聞いたよ、希望の唄を」

 

今日砂漠に響き渡った希望の唄。

青い鳥が運んでくれた、どこかの誰かの勇気。

そして、彼女が唄った通りに。

 

──私はホシノ先輩を信じる

──いつか、後輩が出来たら……

 

約束はいつまでも消えず、確かに残り続けた。

 

──決して絶望してくれるなよ

──だから、決して絶望なんてしない!! 私たちはアビドスを守って、ホシノ先輩を取り返す!! 

 

困難の中でも、胸を張って生きていく人たちがいたから。

私も希望の翼に乗れた。みんなの為に自分が犠牲になるんじゃない。みんなの為に私は帰らないといけないんだと。

 

──あなたが絶望に打ちひしがれているなら、そんな絶望を払う希望の唄を

──もう二度とお前に後悔などさせるものか

 

だから私も手を伸ばしたんだ。

みんなが唄う希望の唄が、アビドス全てに響き渡る様に。

 

「ホシノちゃん! 私の分まで背負ってくれてありがとう、ごめんね一緒に居てあげられなくて。私が残してあげられるものはないけど……」

 

ユメ先輩の体が徐々に光を発して消え始める。

 

「ま、待ってください! 私はまだ!!」

「ううん。私はホシノちゃんの言った事に怒ってないよ! ただ、私が一緒に居てあげられなかった事を謝りたかったの。だから、お願い……あの時……出来なかった……笑顔で……」

 

途切れ始めた声でもわかった。

笑顔でお別れをして欲しい、と言いたいんだって。

なら……泣いてぐしゃぐしゃになってるけどそれでも頑張って笑顔を……

 

「いっつもそうですよ……ユメ先輩……」

「ひぃん、ごめんね…………これで……さ……ありがとう、ホシノちゃん。私の分も、ちゃんと楽しんで……ね」

 

最後は私の頭を撫でて、そして今度こそ本当のお別れだった。

頑張って出した笑みも引いていき、涙がこぼれた。

確かにあの日よりはいい、本当の意味でのお別れを出来た。

けどやっぱり、私はあの英雄みたいに泣かずに堪えることは出来ないよ。

 

そう思い、目線を下げると先程まで彼女のいた場所に一輪の虹の花があった。

それはもう切られて枯れるだけのはずなのに、そんな気配すら見せずに虹色に輝き続ける希望の花。

 

「……ちゃんと……残してるじゃないですか」

 

力なく崩れ、その花を抱え私は泣くしか出来なかった。

エメトセルク先生を探しに来たはずなのに、あの人が用意した『ご褒美』にただ泣き崩れるしか出来なかった。

 

一頻り泣いて、少しだけ落ち着いた時に後ろから今聞きたい声が聞こえる。

 

「きちんと、送り出せたか?」

「……もう、本当にずるいよ先生は……こんな景色と……ユメ先輩にもう一度会わせてくれるなんて……もう、生きるしかなくなったよ」

 

助けて欲しいと望んだ時点で私は生きる事を選んだ。けど、今度は本当の意味で託された。

そんな私を先生は満足げな顔で見る。

 

「人は、生きる限り苦しむだろう、絶望もするだろう。だが、その度に立ち上がればいい。そうやって人は強くなっていく」

「どれだけ辛くても?」

「ああ、決して過去に向かって進むな。未来に向かって、明日に向かって進めば必ず生きる意味を知る。躓きそうになったら、その花を見て思い出せ。お前の帰るべき場所は在るのだと」

「先生もさ……『過去』だけを見ていたわけじゃないと思うよ。未来で見られるかもしれない笑顔のために戦ったんだと、私は思う」

 

先生や英雄はどう思うかはわからない。

けど今の先生を知ってる私にとっては、先生も確かに未来を見ていたと思う。

 

そんな私の言葉に先生は少しだけ困ったような顔をして続けた。

 

「メーティオン、あいつの旅路を見せたのか……まあ、これでお相子か。私も勝手にお前の過去を聞いたしな」

 

先生の事だからユメ先輩から私の過去を聞いたことを、申し訳ないって思ってたんだ。

確かに他の人から聞くって言うのは褒められたことじゃないのかもしれないけど、私だって同じだしそれに先生ならそれを聞いて悪い事はしないって思えるから。

 

「アレを見てまだ私を先生と思えるのか?」

「だって、あの経験があったから今の先生があるんでしょ? 確かに先生は悪い事もしたかもしれないけど、理事や黒服がやった悪い事とは違うよ。それこそ、背負うモノの差だと思うんだ」

 

その言葉を聞いた先生は、少し口を開けてポカンとした表情になる。

そんなにおかしかったかな? 

 

「子供のくせに憎いことを……」

「それに、先生だって自分のしたことに誇りを持ってるでしょ? じゃあ、やっぱり先生は『善き人』なんだよ」

 

エメトセルク、またはアシエン・エメトセルク。

偉大な魔導士で、偉大な皇帝でもあった人。

世界を脅かす存在でありながら、世界を取り戻すために戦った旧き人。

 

そして、今は。

私たちアビドス対策委員会の顧問で、先生。

かつて友達がそうだったみたいに、世界の今を知り、解決すべき問題があれば、拾い集めて、私たちを救ってくれた。

だから、先生はどこまでいっても『善き人』。

 

「ねえ、先生」

「なんだ」

「一つだけ、聞いてもいい?」

 

希望の花を手に持って先生の顔を見上げる。

英雄ほどの覚悟を示したわけではないけど、それでも。

見たから。

知りたいんだ。

 

「先生の……本当の名前が知りたい」

 

先生は真剣な表情に戻って、一度目を閉じた後で。

 

「我が名を、ハーデス。お前たちアビドス対策委員会の顧問であり、共に在る先生だ」

 

あの英雄の記憶と同じ、微笑んだ先生がいた。

 

00Ⅲ

 

あの結末から、早いもので既に1か月が経過した。

初めの2週間ほどは各所への調整の為に毎日アビドスへと赴いていたが、現在はアビドスに一日中いる時間は週に3回程度まで減っている。

それは離れて行ったわけでなく、いい加減『シャーレ』宛で届く依頼を裁かなければならないと考えたからでもある。

 

さて、『未来への布石』についてだが凡そ上手く行った。

まず借金についてだが、契約については違法性がないという判断になったもののその過程があまりにも詐欺まがいであったためカイザーコーポレーションは土地の返還か借金の大幅な減額を迫られた。

その交渉中も理事の記憶から得たスキャンダルを小出しに流し続けることで、カイザーコーポレーションが大幅に譲渡した。

 

土地についてはカイザーコーポレーションが借用し、毎月その分の料金を1000万円払うという新しい契約を結び振り込みが遅れた場合はアビドス側は一切の借金の返済を行わなくていいという条件が付いた。

更に借金についても今回の騒動の賠償金として7割をカイザーコーポレーションが負担する形に。

つまり、総額は3億となり利子はなし。土地を貸している料金分で毎月の返済額を賄える額へとなった。

 

その代わり、カイザー理事の身柄はカイザーコーポレーション側に渡しカイザーPMCが砂漠から掘り起こされたものについてもアビドス側への報告の義務はなし。

指名手配すらも解除したが、別に問題はない。

既に『新しい』理事になった後だから、好きにすればいいさ。

 

そして、アビドス対策委員会は正式な部活として承認され私の監督下で『アビドス新生計劃』が始動した。

これはアビドスの未来を創るという挑戦的な計画だが、既に彼女たちは借金返済後のアビドスを見据えて行動を開始した。

また、エメトセルク・ヘルメット団たちもアビドス高等学校に所属することになり借金の返済や立て直しのために尽力している。

どうも、私が話したあいつの話が気に入ったようでコーヒークッキーを作って売り上げをアビドス復興に使うとしてキャンペーンを開始したとか。

SNSでも中々に話題になり、購入するためにアビドスへ来る他校生も増えてきたらしい。

柴関ラーメンも屋台として再び営業を再開し、対策委員会や便利屋68の憩いの場として賑わっているそうだ。

 

あまりにも出来すぎたハッピーエンドになったが、それだけあいつらが頑張ってきた証拠なのだ。私がそのために面倒な交渉を行うなんて別にどうと言う事はないさ。

 

しかし素直に喜べない点もいくつかはある。

 

まず、私が借りを作りすぎたために各地に奔走することになったこと。

ヒフミへのプレゼントに始まり、風紀委員会の仕事の手伝い、便利屋68への仕事の斡旋と監督、リンから渡される膨大な事務仕事。更には経費としてかなりの額を使い込んだ為に、その書類作成を手伝ってくれたユウカからはなかなかに詰められたものだ。

 

次に、黒服。

あの後呼び出されたので赴いたが、曰く出来すぎたエンディングだとクレームをつけられた。更には『眩しさ』や『想いの可能性』についても興味は持てるが真理や秘義を超えるものとはまだ思えないと言われた。

だが、今後も私の行動を観察することでその価値を見出せるかを判じるそうだ。

なんと言うか、黒服とは妙な関係性になってしまったな。敵……とはまた違う関係だ。

 

だがこれらは全て私に対してで、アビドス対策委員会に何か面倒なことが起きるわけではない。

それくらいは甘んじて受け入れるさ。

 

ああ、後はあいつら全員が『シャーレ』への入部届を提出してきた。正直そんなことする暇があるなら青春をしろと言いたかったが、今度は私の重荷を背負うんだと息巻いていた。

まったく……誰から教えを受けたのか聞いてみたいものだ。

 

そんな私は今溜まりに溜まった事務仕事をほぼ徹夜して片付けコーヒークッキーを片手に新しい依頼を眺めている。

 

「ふむ……『勇者よ、どうか私たちを助けてください!』……送り先を間違えているんじゃないか?」

 

さて、次の冒険はどんな出会いと驚きに満ち溢れているのだろうか。

 

つづく




これにて、アビドス対策委員会編は完結です。(三章は少なくともまだ先)

エピローグについて。
アビドス編を書くうえで、最初に書いた話がエピローグでした。
エルピスの花、ユメ先輩についても同様で最初に名前を明かすのもホシノにしようと考えてたんです。
今回見せた蜃気楼もエメトセルクが見せるフィナーレならしそうだなって思ってたこと二つです。
私の中のエメトセルクは根が善人で背負ったものを決して投げ出さない。そして、言ったことは必ずする人という解釈です。

名乗りについて。
己が名、ではなく我が名の理由ですが、これはエメトセルクの声優である高橋広樹さんが生アフレコの際に言ったからです。
私自身、どっちのバージョンも好きで両方使いたかった!

ハッピーエンドすぎる気がしますが、彼女たちはあんだけ頑張ったのでこれくらいはいいんじゃないかと思います。

黒服について。
定期的に連絡をしたりされたりする関係になるんじゃないか、と思います。

コーヒークッキーについて。
リーンとガイアを見ていて、こういうのもいいんじゃないかと。確かに借金問題は殆ど解決しましたがそれでも未来を想えばアビドスに新しい名物があっても良いと思いますし、エメトセルクの些細な話もきちんと聞いていたんだという形としていいんじゃないかと思ったんです。
値段は安め、ほんのチャリティーみたいな気持ちでも買える。中継を見て少しは協力するかってなった時にお求めやすくなってます。

エルピスの花について。
対策委員会の部室に飾ってます。

今後の方針。
一日の期間でしたが、原作通りという事で花のパヴァーヌ1章へ行きます。なのでエデン条約ファンの方はしばらくお待ちください。
正直、アビドス編がシリアス路線で書き過ぎたような気がするのでパヴァーヌは少しマイルドな方向性で。
番外編や絆ストーリーは合間合間に更新していく方向です。


それでは、次回の更新をお待ちください!

今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)

  • 原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
  • 変則(エ→パ1,2→兎)
  • その他(コメントでお願いします)
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