エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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新章開幕。


Vol.2 時計じかけの花のパヴァーヌ編 第一章 古代人とゲーム
1-1 いざ冒険の始まり!


ゲーム。

私にとっては関わりのない分野であり、キヴォトスに来てからも触れてこなかった娯楽。

興味がなかったわけではなく単純に、私向けでなさそうだとか時間がないからとかそういった些細な理由だ。

 

だが、娯楽とは言え一つの作品であり当然それを創る者たちがいる。そして、その生徒たちが廃部から救ってくれと言うのならば私が出向いていかない理由にはならない。

例え、あまり役立てない可能性があるにしてもだ。

 

だがそれにしても……

アビドスの依頼といい、この依頼といい。

無くなってしまう危機が多すぎやしないか? 

 

エメトセルクの手記6

 

00Ⅰ

 

「プライステーションが壊れちゃったじゃん!!」

「いや、そう言われてもだな……」

 

目の前でゲーム機が壊れたことに全身で悲しみと怒りを表現する少女に私は困惑していた。

いやむしろ、私はそれが危うく頭に当たる可能性があったわけなのだが……。

 

どうしてこのような事になったのか。

まずは振り返りから始めるよしようか。

 

──ゲーム開発部は今、存続の危機に陥ってます。生徒会からの廃部命令により破滅が目の前に迫っている今、助けを求められる相手はあなただけです。勇者よ、どうか私たちを助けてください! 

 

「ふむ……『勇者よ、どうか私たちを助けてください!』……送り先を間違えているんじゃないか?」

 

どう見ても送る相手を間違えている。

私は勇者ではないし、そもそもゲームに詳しくないからだ。

しかも。

学校がミレニアム、というのが余計に引っかかった。

 

ミレニアムの生徒会と言えば、『セミナー』でありそこには私の当番として定期的に補助してくれるユウカが在籍している。

しかもユウカから『セミナー』のメンバーについての話や後輩メンバーへの愚痴などを聞かされていた為に、カイザーコーポレーションのような理不尽な理由で廃部命令を出したわけではないだろうと思ったのだ。

つまり想定される問題として、部員不足、実力不足、素行不良などが考えられるわけで、私が解決できるとすれば部員不足と素行不良くらいだ。

もし、ゲーム制作へのスキルが致命的に足りていない場合はどうにも助けようがない。

 

なぜか。

それは簡単だ。私にゲームに関する知識が皆無だからな。

何をどうやってああいう作品として完成させるのかなど全くわからず、その点においてネットで調べて語ろうにもゲーム開発部の方が専門だからむしろ逆効果になりかねない。

私にある知識と言えば、演劇や映画好きからくるシナリオや演出への助言程度。

よって、この依頼はある意味ではアビドス対策委員会からの依頼よりも個人的な難易度は高い。

 

「……断るわけにもいかんしなあ」

 

どんな理由があれ、こうして助けを求めてきた生徒を無碍にするのは先生としてどうかと思うしまあ何事も経験ではある。

懸念としては、私自身に知識がないこととアビドスへ行く日を減らさなければならない可能性があること。

 

「まあ、どうにかなるか」

 

まずは、一歩踏み出すのが冒険の始まりである。

それにいい加減、ミレニアムの地を踏んでみてもいいかもしれない。

 

結局は好奇心と職責に負けて私はミレニアムの地を踏んだ。

もちろん、知り合いとゲーム開発部の面々へのお土産『アビドス・コーヒークッキー』を持ってな。

 

「キヴォトスの中ではやはり、最先端だな」

 

ミレニアムサイエンススクール。

歴史こそトリニティやゲヘナには劣るが、技術の分野では他の追従を許さないキヴォトス三大学園の一角。

曰く合理と技術に重きを置いているだとか、「最先端」「最新鋭」と言えばミレニアム製だとか。平たく言えば、アーテリスの民にとっての古代アラグ帝国のようなものだ。

 

アビドスでは建築物と言える建築物が殆どなく、説得に赴いたゲヘナでは建築物の破壊の方をよく見ていた関係かしっかりとした建築物を見ることのできる初めての学区と言えるだろう。

もっとも、私が見たかった伝統ある建築ではなく正しく合理性や技術力に重きを置いたビル群ばかりなのだが。

 

「あ、先生!」

 

聞き慣れた声が私の耳に届き、振り向く。

 

「奇遇ですね。ミレニアムに用事ですか?」

「そのまさかだ。ユウカ」

 

早瀬ユウカ。

最初の当番であり、志願者が増えた現在でも何故か知らないが当番になっていることが多い生徒。

増えた以上は無理に私の当番をするよりも、セミナーの仕事や青春を優先したらどうかと言った際には不機嫌になられてしまい宥めるのに苦労したものだ。

 

そして、ユウカの後ろにいるのは初めて見るが恐らくセミナーメンバーの中で一番話題に上がる事が多い、ノアと言う少女だろう。

コユキと呼ばれる後輩は言うなら、元気で困った後輩であり目の前の少女とは対照的。会長の可能性もあるが……会長らしい風格ではない。むしろ補佐をする方が向いてそうだ。

 

「はじめまして、先生。 セミナーの書記、生塩ノアです。先生については色々とユウカちゃんから伺ってます」

「エメトセルクだ。良い内容だと嬉しいがな……」

「ふふ、当番の次の日は必ずその日の先生について話すんです」

「ちょ、ちょっとノア!」

 

そんなに話す事がある存在なのか私は。

書類に向かって厭だと言ってることの方が多い気がするぞ。

いやもちろん世間話に花を咲かせることもあるが……まあ大体は文句だ。

頼むから顔文字の話はやめろよ……。

 

「そ、それより先生! どうしてミレニアムに?」

「仕事だ。言っとくが内容については言えないぞ……」

 

仕事で来た、という発言に少し残念そうな顔をするユウカだった。

言いたい事は分かる。ミレニアムに来るならせめて一報をくれたら良かったのにだろう? 

 

「ほら。用事が終わったらお前に渡そうと思ってた土産だ」

「これ、『アビドスのコーヒークッキー』じゃないですか! 数量限定で中々買えないって話なのに……わざわざ買いに行ってくれたんですか?」

「まあ、そんなところだな」

「そういえば先生はアビドスの部活顧問でもありましたね」

 

生中継事件以降、私がアビドスで活動していることはキヴォトス中の周知の事実となっていた。その過程で名乗る際は連邦捜査部『シャーレ』の先生およびアビドス対策委員会顧問と付けているから最近ではインタビュー記事やゴシップ記事でもそう書かれることが多くなったのだ。

例え仕事で会えない日があっても、心は隔たれていないのだとあいつらに伝え続ける意味もある。そうした経緯もあってか、コーヒークッキーくらいならと用意してくれていたのだ。

金はもちろん払ったぞ。

 

「ありがとうございます! 後で食べて感想伝えますから、セミナーにも寄ってくださいね!」

「それでは先生」

「ああ」

 

ユウカとノアもセミナーとして日々多忙なのだ。それに私にも仕事がある。

話そうと思えば幾らでも話せる仲ではあるが、そこは互いに察し合えるさ。

 

そして再度認識した。ユウカやノアが悪意で部活を廃部にすることはないだろうと。

では一体何をやらかしてたんだ。

 

そう思い問題の部活へ向かおうとすると叫び声が聞こえた。

 

「あ! 危ない!!」

 

刹那、風を切りそれなりの速度でこちらに向かって側面から飛んでくる物体を反射的に障壁で防御した私はケガをすることがなかったが……

 

「ぷ、プライステーションがぁぁぁ!!」

 

物体──恐らくゲーム機だったものは無残にも破壊されていた。

 

00Ⅱ

 

「そ・も・そ・も! 投げたお前が悪いだろう!」

「でも、壊すことはなかったじゃん!!」

「なら、私の頭で受けろと言うのか!?」

 

そう。

どうみてもここがゲーム開発部であり、依頼主の可能性がある相手と絶賛口論しているのである。

 

側面から飛んでくる物体がもしゲーム機であると知っていても私には防御する権利があるはずだ。それを壊れたからと文句を言われる筋合いはない。

いやもちろん、可愛そうだなとか少し申し訳ないなと思う気持ちくらいはあるが……

 

「お姉ちゃん……先生がどうやって防いだにせよ、投げたのはお姉ちゃんなんだし……」

 

ヒートアップする私とピンク色の生徒とは対照的に瓜二つな緑色の生徒は落ち着くように求める。

姉妹か。

そして、妹の方が理性派と……苦労するな……

 

「ふーんだ。そう言うミドリだって、プライステーションが壊されたときは悲鳴上げてたくせに」

「そ、それは、私たちゲーム開発部の財産リスト第1号だったし……」

「お前たちの思い出の品だったのか……」

「そうだよ!!」

 

それは本当に申し訳ない事をしたな。

いや、思い出の品を投げるのもどうかと思うのだが……

 

「はぁ……なら、これを直せば解決か?」

「こんなになったらもう直せないよ……先生、どう見ても機械系ダメそうじゃん」

 

いや、アラグ帝国の技術や魔導技術ならそれなりにはわかるぞ。

それに……まあ何であれ壊したのは私だしな。

 

まあ、物体の時間程度ならどうにかなるな。

指を鳴らせば、無残な姿となったゲーム機が先ほどまでの姿が嘘かの様に投げられる前の姿へと戻る。

その光景に姉妹は驚きの声を上げているが、それよりも先にしてもらうことがある。

 

「騒ぐ前にせめて動くか確認したらどうだ」

 

私が言い終わる前に、ピンクの方がゲーム機を起動し動作の確認を行っていた。

 

「凄い! 直ってる!! ありがとう!!」

「一体どうやって直したんですか?」

「まあ、そうだな。不思議な手品……と思っておけ」

「先生、もしかして凄い人!?」

 

どうして私はこうも初日から魔法を使うことになるんだ。

これじゃあ、文字通りの便利屋じゃないか。

……アルのスカウト、受けてやるべきだろうか。

 

頻繁に魔法を使ってばかりの自分はどうなんだと考える私を尻目に姉妹は財産が復活したことの喜びを溢れんばかりに表現し、特にピンクの方は先程までの怒りが嘘かの様に私を褒めてくる。

それにしても、初日からこんなに騒がれるのはアビドスでも見なかったな。今回は最初から警戒せざるを得ないほど重いモノを背負わされている生徒もいないらしい。

なら、良いことだ。

 

「先生は、あのシャーレから来たんですよね?」

「うわっ、本当に!? じゃあ、アビドスの中継でカッコイイこと言ってたあの人なんだ!! しかも、私たちが送った手紙を読んで、本当に来てくれるなんて思ってなかった!」

「随分と、面白い文面だったからな」

 

私は勇者ではないし、ゲームに詳しくもないがそれでも相手に興味を持たせるいい文ではあったと思う。

現に、私が好奇心に負けてきたわけで。

 

「あらためて……ゲーム開発部へようこそ、先生!」

「先生に来ていただけて、嬉しいです」

 

先程までの暗雲立ち込めた空気はどこへやら。

暖かい歓迎の空気がそこにはあった。

子供とはこうあるべきなのだろうな。別に先ほどの口論で私は不快に思ったりなどしていないし、怒る理由もあったからな。

 

「私はゲーム開発部、シナリオライターのモモイ!」

「私はミドリ。イラストレーターで、ゲームのビジュアル全般を担当しています」

「あとは今はここにいないけど、企画周りを担当している私たちの部長、ユズを含めて……」

「「私たちが、ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部だよ!」」

 

自己紹介しながらお互いに私の前に来るように押し合っている様は、仲睦まじい光景だ。

それに、名前も何と憶えやすいことか。見た目とヘイローの色そのままだ。

 

それにしても、シナリオライターとイラストレーターか。

つまり、モモイは脚本担当でミドリは衣装や演出の担当という事だろうか。

ならどちらにもそれなりに、芝居好きとしてのアドバイスはできるかもしれない。

 

「シャーレの先生およびアビドス対策委員会顧問のエメトセルクだ」

 

先生という事は知られていても、名前まではしらないかもしれないしこいつらもアビドスの事を知っているなら肩書は着けるべきだと思ったのだ。

 

「エメトセルク……カッコいい名前! なんか天使みたい!!」

「それに、名乗り方も何だかカッコいい」

 

天使か。

真理の天使……いや、関係はないな。

まあ、座の中でも響きとしていい名前ではあると私も思っている。

言い難いこともなく、ムツキのように略して読みやすいかもしれない。

後にも先にも、エメちゃんと言うのはあいつくらいだと思うが。

 

そして、こいつらが廃部の危機の理由がわかったぞ。

どう見ても人が足りないんだろう。アビドス対策委員会ですら5人いるのに、ゲーム開発部はここにいないメンバーも含めて3人だ。

それは部活より、同好会に近い。

 

「よしっ! じゃあ先生も来たことだし、『廃墟』に行くとしよっか!」

「おい、廃部の危機を救うのにどうして廃墟なんかに?」

「あ、じゃあ最初から順に説明するね」

 

むしろ、最初にしてくれ。

 

「えっとね、まず私たちゲーム開発部は今までずっと、平和に16ビットのゲームとかを作ってたんだけど」

 

16ビット……? 

ますますわからん。ゲームにも種類はあるのだというのはわかるが……

 

「ある日……急に生徒会から襲撃されたの! 一昨日には、生徒会四天王の一人であるユウカから最後通牒を突き付けられて」

「最後通牒?」

 

平和にゲームを作っていたのなら、そんな突然廃部にされたりしないだろう。

理事じゃあるまいし。

 

そう考える私に、ついさっき聞いた声がまた聞こえた。

 

「それに関しては、私から直接ご説明しましょうか?」

 

00Ⅲ

 

「出たな、生徒会四天王の一人! 『冷酷な算術使い』の異名を持つ生徒会の会計、ユウカ!」

 

危うくその異名に吹き出しかけた。

冷酷ではないが、算術使いではあるし何というか黒魔道士が好きそうな異名の付け方じゃあないか。

 

「勝手に変な異名を付けて、人をモンスターか何かみたいに呼ばないでくれる? 失礼ね。それよりも……」

 

ユウカにとって、私の仕事先がゲーム開発部だったのは意外だったようだ。

いや、流石に言えないだろ。廃部させないために来たんですとは。

 

「……さっきぶりです先生。……クッキー美味しかったです」

「ああ……何というか、すまんな」

「……はあ、こんな形で会うなんて」

 

お互い嫌な再会だった。下手をしたら今回はユウカと対立する可能性もあるわけだ。いくら私でもユウカ相手は手こずるだろう。

私の性格を知っている相手だし、何より普段から世話になっているのが大きい。

 

「モモイ。本当に諦めが悪いわね。廃部を食い止めるために、多忙なエメトセルク先生を巻き込むだなんて。けど、そんなことをしても無意味よ。例えエメトセルク先生だとしても、部活の運営については概ね、各学校の生徒会に委ねられているんだから」

 

正論だ。

逆にアビドス対策委員会が特殊なだけだ。

きちんと生徒会があるなら、もちろんそれを決めるのは学校の生徒会であるべきなんだ。

そして、ユウカは私がこういったルールについてはある程度きちんとしていることを知っているからこそ、話を続ける。

 

「ゲーム開発部の廃部はもう決まったことなの、これはもう誰にも覆せない」

「そ、そんなことはない!」

 

だが、モモイは諦めずユウカに食って掛かる。

 

「言ってたでしょ、部員が規定人数に達するか、ミレニアムの部活として見合う成果を出せば……」

「……それができれば良し。もしできなかったら廃部、部費はもちろん部室も没収する。私、そこまでちゃんと言ったわよね」

 

モモイよ、ユウカ相手に議論するのは骨が折れるぞ? 

何せ、きちんと抜かりなく公平にできる生徒だからな。

 

「あなたたちは部員数も足りない上に、部活としての成果を証明できるようなものも無いまま、もう何か月も経ってるんだから……廃部になっても、何も異議はないはずだけど?」

 

もしアーモロートの人民弁論館でこの議題が話されても、殆ど全員がユウカが正しいと言うだろう。

私だって、ユウカの方が筋は通っていると思う。しかもこの調子ではユウカは何度も同じことを言っているはずだ。

 

「異議あり! すごくあり! 私たちだって全力で部活動してる!」

 

だが、アゼムなら恐らくモモイ側だろうな。同じようなセリフを言いそうだ。

あいつに人民弁論館は向いてないな……

 

「だからあの、何だっけ……上場閣僚? とかいうのがあっても良いはず!」

「それを言うなら『情状酌量』でしょう。それより、今なんて言ったかしら? 全力で活動してる’……? 笑わせないで!」

 

理論整然と、そして時に感情も混ぜて。

ユウカは感情が出やすいから、その点も会話ではいい方に作用するときもある。逆もあるがな。

 

「校内に変な建物を建てたと思ったら、まるでカジノみたいに装飾してギャンブル大会を始めるし、レトロゲームを探すとか言いながら古代史研究会を襲撃するし……」

「それは……なかなかだな……」

 

弁護してやろうにも、救いの手を出すタイミングがない。

いやむしろ、今のところ部員不足、素行不良という懸念点を2つも満たしているじゃないか。

せめて最後の1つくらいは大丈夫だと言ってくれよ。

 

「おかしいでしょう!? 『全力』かもしれないけど、部活動としては間違ってるわよ! それに、これだけ各所に迷惑をかけておいて、よく毎度のように部費なんて請求できるわね!? 真っ当な言い訳くらいしてみたらどうなの!」

 

もう帰ってもいいだろうか。

こればっかりは、ユウカが正しい。

私もそう判じざるを得ないくらいには、部活動をしていないのだ。

 

「と、時には結果よりも、心意気を評価してあげることも必要……」

「負け犬の言い訳なんて聞きたくない」

「聞きたいのか聞きたくないのかどっちなのさ!?」

「無意味な言い訳は聞きたくないってことよ。ミレニアムでは『結果』が全て」

「け、結果だってあるもん! 私たちだって、ゲームを開発してるんだから!」

 

負け犬……は少し言い過ぎだろう。

モモイたちも、謎の活動以外にもきちんとゲーム開発をしていると言っているのだから。

 

「そ、そうですよ! 『テイルズ・サガ・クロニクル』はちゃんと、『あのコンテスト』で受賞も……」

「『テイルズ・サガ・クロニクル』? 何にせよ作品はあるんだな」

 

それも受賞していると言うならいいじゃないか。まあ、おそらくそれすらもこれまでを消せるほどの『結果』ではないのだろうな。

 

「……そうね。確かに受賞、してたわ」

「それでもだめなのか?」

「先生はゲームをしない方なのでご存知ないですよね。『テイルズ・サガ・クロニクル』……このゲーム開発部における、唯一の成果です。ゲームそのものもさることながら、レビューが大変印象的でした」

「印象に残る作品じゃないか。それこそ、成果として認められる気がするのだが……」

「レビューはこうです。『私がやってきたゲーム史上、ダントツで絶望的なRPG。いやシナリオの内容とかじゃなくて、ゲームとしての完成度が』、『このゲームに何が足りてないのかを数えだしたらキリがないけど……まあ、一番足りてないのは正気だろうね』」

 

中々に興味深い内容だった。

ただまあ、評価など当てにはならんと思うものだが。

むしろ、私はゲーム開発部を見直したぞ。

 

「わ、私たちのゲームは、インターネットの悪意なんかに屈しな──」

「例えユーザー数が無限にいたとしても、たくさんの評価が収束すれば、それは真実に一番近い結果よ。それに、あなたたちの持っている『結果』はその『今年のクソゲーランキング1位』だけでしょう?」

「そ、それはそうだけど……っ!」

「クソゲー、と言うのはつまり悪いゲームだ、という事か?」

「はい、そうです」

 

ほう。

つまりこいつらは製作した作品でそれを受賞できたと。

自分たちだけで作り上げて。

なら……

 

「なら、次は『今年の良いゲームランキング1位』を目指して作ればいいだけじゃないか」

「……え」

「世の中には数多くの創作物が溢れている。そして、どれだけ頑張っていい作品を作っても話題になることもなく消えていくものさえある。だが、『テイルズ・サガ・クロニクル』はそうじゃない。今は悪名かもしれないが、悪名は無名に勝るとも言うしな」

「せ、せんせ~い!」

「た・だ・し! 何が問題だったのか、どこは変えずに変えなければならないのはどこか。そこから逃げるのはユウカの言う通りの『負け犬』になるぞ」

 

英雄も初めは駆け出しであり、俳優もまた最初は棒読みかもしれない。

だが、一回目である意味の伝説を作れるこいつらなら、次も伝説を作れるかもしれない。

 

「先生は甘すぎです!!」

「賛否を呼ぶ……むしろ、否が多い作品くらいがちょうどいいんだ。称賛一色の作品の方がつまらないこともある」

「……『テイルズ・サガ・クロニクル』は否が殆どですけど……」

「お前も『結果』を出すチャンスくらいは残しているんじゃないのか?」

 

ユウカの事だ。

きっとそれくらい用意している。

 

「……やっぱり、先生と話すと何か調子が狂います」

「それにな、お前だけが『悪役』である必要もない。そう言うのは私の方が向いてる」

 

モモイやミドリに発破をかける言葉は用意していただろう。だが、それを本心から言いたいかと言われたら悩むはずだ。

相手の事を想った言葉でも、受け取る側がそう取らずに恨まれることだったある。だから、こういう時のために私がいるんだろう。

 

「部室がなくなれば、ここにあるものも無くなるぞ? せっかく、私が直してやったゲーム機も、他の思い出の品々もガラクタになってしまう。それでもいいのか? それとも、お前たちのゲーム開発への熱意は何か作品を一つでも作れて後はダラダラすればいいや程度のものなのか?」

「……っ!」

 

私の言葉にモモイが決意の籠った目を向ける。

そう、それでいい。元は何か秘めたる想いを持ってこの部活を結成したか、あるいは加入したはずだ。

なら、今再びそれを思い出して戦え。

 

「私たちの……『切り札』……それを使って、今回の『ミレニアムプライス』に私たちのゲーム。『TSC2』……『テイルズ・サガ・クロニクル2』を、出すんだから!」

「モモイ、あなたの言っていることは……まあ良いわ。先生があそこまで言ってくれたんだし。先生が期待した『何か』、私も気になるし。いいわ、今日から『ミレニアムプライス』までの二週間……この短い時間でどんな結果が出せるのか、楽しみにしてるわ」

 

二週間だと? 

おい、それは流石に想定していなかったぞ。ただまあ、モモイ自体は何らかの計画があって『ミレニアムプライス』に勝てると踏んだのだろう。

なら、それに乗ってやるか。しばらくアビドスに顔を出す時間が減るが。

 

先生、ありがとうございます

「何がだ」

「ほら、私がだけが『悪役』にならないようにしてくれたので……」

「仕事は仕事。それでも、言わずに済むならそれがいいだろう」

「それでは先生。また、シャーレで会いましょう!」

 

そう言ってユウカは丁寧に一礼をして去っていった。

まったく、出来た奴だよお前は。

お前にも恩があるからな、これくらい変わってやるさ。

 

「お姉ちゃん、今から私たちがゲームを作るより、部員を募集する方がまだ良いんじゃないの?」

「それならこの一か月、散々やってみたでしょ……結局、誰も入ってくれなかったし。『VRですら古いのに、何がレトロ風ゲームだよ』ってバカにされるのは、もううんざり」

「……」

「それに、まだ他に希望はある」

 

どうもモモイとミドリの間で計画の共有が出来ていないようだが、まあモモイは見るからに思いついたことを行動に移すタイプだからな。

それでも、あそこまで言う以上は何かはあるのだろう。

 

「さっき言ってた、『切り札』って一体何のこと?」

「それはもちろん、先生のことだよ」

「……悪いが私はゲームについて何も知らんぞ」

 

いや本当に。

何一つ知らない。そんな素人を切り札と思われてもなかなか期待が重すぎる。

背負った以上は投げ出さないが、それでも私がゲーム作りをするのは無理だ。

厭だからじゃない、能力的に無理。

 

「それでも、あんな手品できるんだから!」

「あのなあ……」

「それに、私たちの目的は『廃墟』にあるの。そこは連邦生徒会が出入りを制限してた、ミレニアム近郊の謎の領域。実際のところ、具体的に何がどう危険なのかを誰も知らない」

「なぜそこまで、廃墟に拘る必要──」

「良いゲームを作りたいから!」

 

私が言葉を言い終わる前に、モモイは強い口調で即答した。

それは彼女の想いが詰まった言葉。

 

「私は、証明したいの」

「証明だと?」

「そう。たとえ、今の私たちのレベルは『今年のクソゲーランキング1位』に過ぎないとしても。私が大好きな……私を幸せにしてくれた、このゲームたちが……決してガラクタじゃない、大事な宝物なんだってことを!」

 

熱意。

それはどこまでも純粋で、眩しいもの。

例え他人に嗤われたとしても、その価値を証明するのだと戦う者。

前回は砂漠で、今回はここで。

また、良い輝きを見られそうだ。

 

「いいだろう。そこまで言うなら、この私がお前たちに力を貸し、判じようじゃないか」

「……先生」

「私に見せてみろ。お前たちのゲームが、熱意が、他の何物にも劣らないと言う事を」

 

では、新たな冒険を始めるとしようか。

 

「そのために、廃墟で目的のモノを見つけるぞ」

 

彼女たちが、良い結末へと至れると信じ私は共に歩むだけだ。




ゲーム開発部とエメトセルクの物語が始まります。

プライステーションについて。
多分、エメトセルクなら防御するしそれで壊れるよなぁと。

ユウカについて。
原作では一人で嫌な役を引き受けて発破をかけるユウカですが、エメトセルクならそこは彼がやるでしょう。
それにお互いの性格はよく知っているはずですから。

ノアについて。
本来なら出るタイミングではないですが、出そうと思いました。
エメトセルクが魔法を誤魔化せない生徒になるだろうなと思ってます。

ゲーム開発部について。
開幕の関係上あれですが、純粋なのでエメトセルクの手品はきっと喜ぶかなと。
1章ではそこまで派手な魔法を使わない予定ではありますが、どうなるか……

アビドス対策委員会について。
エメトセルクなら救って終わりではないだろうなと思いました。たぶん、どこまでも気にかけて面倒を見る人です。
なんで、こうしてしっかりと肩書も付けちゃう。
コーヒークッキーはこれからも出るかも。

次回もお楽しみに!

番外編について(基本的に1話完結予定です。私の休憩用と言う部分もあります)

  • 古代人関係の先生
  • その他ヒカセン関係の先生
  • エメちゃんを書け!
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