エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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息抜きにアビドス編に追加の絆エピソードを。
なんかイオリとの文章は書きやすくていい。


イオリ絆ストーリー:思い出は心の中で

00Ⅰ

 

銀鏡イオリ。

 

ヒナ率いる風紀委員会の2年生。優れた戦闘能力と行動力で切り込み隊長のような役割を担う。

と、ここまで書けばかなり立派な人物に見えるのだが……。実際のところは、不憫な役を任されたり、私に土下座と足舐めを要求したり、無鉄砲な部分があったりと案外愉快な奴である。

私はこれまで悪友たちのせいでどちらかと言えばいじられる側だったことが多いと思うが、いい意味でいじりやすい奴が見つかったと個人的には高く評価している。

それに、普段共同で仕事をする上では職務に向き合っているしアコと私が言い合いと言う名のじゃれ合いをすると止める側になって奔走する様を見れると。

だが、風紀委員会のメンバーの中で一番距離があるのは誰かと聞かれたら私はイオリと答えるだろう。

 

それはなぜか。

個人で関わったことが殆どないからだ。

ヒナ、アコ、チナツとは仕事抜きで買い物や謎の賭け等々の時間は作れたが、イオリはと言うと基本的に仕事関係が多く個人で向き合ったことなどそれこそ足舐め事件くらいかもしれない。

 

向こうもそれを分かっているのだろう。

だが、お互い素直じゃないというか言葉使いがきついというか……。

認めよう、時間を作っていないのだ。

 

作るか。

そう思い校庭で横になっている私に声がかかる。

 

「こんなところに横になって何をしてるんだ、先生は……」

「……考え事だ」

「考え事なら別に部屋でもいいのに……」

 

もちろん、休憩のためでもあるがこうして横になって物思いに耽るのは私にとってよくあることだ。

確かあの日……私が『エメトセルク』になった日もそうだったな。

 

「こんな固くて凸凹した石の床で横になっても、痛いだけだと思うけど」

「……草の上だろうと、石の上だろうと。こうして何かを考えたり、物思いに耽ることがよくあるだけだ」

 

どれだけアーモロートの建物で物思いに耽ったことか。

時に横になり、天を見上げては在りし日の思い出が蘇って私の心に響いた。

天を見るのが嫌になって、座っても広がる街並みが私へ突き付けたのだ。

過ぎ去りし思い出を。

 

「物思いって……先生はまだ若いだろうに……」

 

若い。

私の事を『おじさん』扱いする生徒が多い中でイオリは私を若いと思っているらしい。

まあ、外見的には若いはずだ。彼女たちから見たら歳上でも。

しかし、中身は違う。

 

「若い、か……」

「いや、私たちから見たら歳上でも若いと思うんだけど……」

「私が1万年以上生きていると言ったら……信じるか?」

「そんなわけないだろ!」

 

バカにするな、と言いたげな顔でイオリが突っ込む。

 

そうだろうな。

むしろ、この反応が正しくてホシノの反応が異常なだけだ。

別に1万2000年以上の時を生きていると信じて欲しいとは思っていない。それこそ、見た目の20代、30代くらいだと思われても文句はない。

 

「まあ、その反応が当然か」

「いや、本当に1万年も生きてるみたいな言い方をしないで……」

「そうだな。1万年も生きている奴なら足舐め程度は軽々とこなすか」

「だから!あれはものの例えで!」

 

足を舐める知り合いなんていないがな。

あの時はアゼムを思い浮かべたが、ヒュトロダエウスでもしないだろう。

むしろ、驚いた顔をしながらも上手く丸めるはずだ。

 

いや、もしかしたら悪乗りするか。

 

「……って言うか、本当に痛くないの?」

「痛くない。私の感覚がおかしいだけかもしれないがな」

「ふーん」

「気になるなら、お前も横になってみたらどうだ?」

「嫌だ。頭がおかしい人だと思われる」

 

それは心外だ。

別に横になって怪しい行動をしているわけでもないだろうし、テロ行為に勤しんでいるわけでもない。なんなら、ゲヘナの中ではかなり平和的な行動だと思うんだがな。

 

「至って平和的な行動だと思うぞ」

 

足舐めを要求する方が頭がおかしい人だと思われるんじゃないか、と頭の中で一瞬は浮かんだがすぐに掻き消した。

いつまでもしつこく掘り返す話でもない。

たまに思い出すならまだしも、な。

 

「平和的って……」

「別に温泉を掘り当てろだとか、飲食店を爆破しろと言っているわけじゃない。やらずに判断するのが一番良くないと思うが」

「うーん、確かにそれはそうだけど……。でもお昼から校庭で横になるなんて、変」

「世の中、自分の尺度や規則が全て正しいわけじゃない。時には相手の視点に立って初めてわかることもある」

 

立ってみて、理解できないこともあるだろうがそれはそれで学びを得られる。

私だって、『なりそこない』の日々が全部不愉快だったかと言われたらそんなことはない。

ソルを友と呼んだものもいたし、そこに生きる者たちの文化にも触れた。

 

それでもなお、譲れなかったが。

 

「まあ、そこまで言うなら一回くらい……」

 

興味がないわけではなかったようだ。

イオリがわざわざ私の隣で横になる。

いや、誰も隣で横になれなんて一言も言ってないのだが……

 

「どうだ?」

「……固くて痛い……」

「……そうか」

 

固くて痛い、か。

慣れていないからなのかも知れない。だが、どんな場所で横になろうとそこにあるものがあるはずだ。

 

「……でも、いい天気だ」

「こうして、青空がある限り自分の悩みも些細だと思える日もある」

「先生も、空をみて何か考えたりするんだな」

「むしろ、先輩だと思うぞ」

「変な先輩……。でも固くて、痛いことをおいといたら……いいかも」

 

それはよかった。

 

「先生の考え事は?」

「……お前と話す時間を作れていないな、と」

「そんなことで悩むなんて、やっぱり変な大人だ」

 

悩みと言うには随分と些細なことだったとは思う。

私がこれまで思い悩んできたことの中でも、度合いでいけばかなり些細で簡単な問題。

だが、今の私にはそれなりに大きな問題で。

 

「でも、先生が真剣に生徒の事を考えてるって言うのは良いと思う」

「……だといいがな」

「確かに先生は、適度にサボるし芝居臭い時もあるし、アコちゃんと言い争いするし……」

「……」

 

良い先生ではなさそうな行動だな、我ながら。

特にサボりなんてな。

 

「けど、生徒の事になると真剣だって事は私も分かってるから!」

「褒めても何も出ないぞ」

「別にそういう意味じゃなくて!」

「いや、わかってるさ」

 

ほら、存外物思いに耽るのも悪くないだろ?

 

 

00Ⅱ

 

あの日からイオリとの会話の回数も増え、風紀委員会での仕事もより楽しく感じられ始めたある日のこと。

私はわざわざ、ブラックマーケットのある商人を訪ねていた。

 

曰く、ある生徒の卒業アルバムが取引されていると。

 

本来なら殴りこんで取り押さえてもいいのだが、この商人が盗み出したりしたわけでもないだろうから私が購入してその生徒に返却するつもりだ。

 

「お、やっと来たか。シャーレの先生が、急に私たちのブラックマーケットのところに近づいてきたときは何事かと疑ってたけど……。くすくすっ、まさか先生もこんなことに興味があるとはね。見直したよ」

 

別に興味はない。

何なら個人の思い出や写真を勝手に販売している行為に腹が立つ。

しかし、それを口に出してしまうと面倒なのも事実だ。

 

「それで、これは本物か?」

「もちろん、私たちブラックマーケットの商人の仕事は確かさ。お金さえきちんとくれれば……が、私たちのモットーだからね」

 

金で問題を解決できる場所、という意味ではブラックマーケットは楽な場所ではある。

面倒事は省いて淡々と進められるからな。

 

そう考えながら、私はアルバムが本物であるかを確認する。

 

「ふむ。確かに本物だな」

 

誰かに見られても面倒だ。とっとの金を渡しておさらばするとしよう。

そう思った時、イオリが飛び込んできた。

 

「そこまでだ、悪党!」

「うわっ?なぜゲヘナの風紀委員会がこんなところに……!取引は完了したことだし……さらば!」

 

流石は闇商人。

逃げ足に関しても一級品だった。

となれば、私が残されることになり……

ああ、厭だ厭だ。

 

「ちっ……逃がしたか。でももう一人は捕まえたから……」

「おい。私を闇商人の括りに入れるな」

「……先生?」

 

いい加減、気付いてくれ。

このキヴォトスに私ほどの身長の高さの男性は居ない。

明らかに大きな背丈の男性、と見たらもう私と思っても良いだろうに……

 

「どうしてここに……いや、それよりも、さっきのあの密輸犯と何を取引したんだ?」

「……これだ」

「これは……アルバム?ってこれ、私の小学校の卒業アルバム!?……なんで先生がこんなものを?」

「なんでって……取引されていると聞いて他人に渡らないようにと思ってだな」

 

まさか返そうと思った張本人が来るとは考えてなかった。

あの商人め、足取りを掴まれるとはまだまだ甘いな。

 

「嘘をつくな!絶対怪しいことに使おうとしただろ!」

「怪しいこと?」

「うっ……それは……」

「あのなあ……。お前の卒業アルバムで私がどうこうするように見えるのか?」

 

思春期か。

だが、あいにくと別に深い意味はなく本気で返すつもりだったのだ。

私の思い出は写真にならなかったが、こうして形として残せるものがあるならそれはそれでいいことなのだから。

 

「な、なんであれ!これは没収だ!!」

「別にいい。そもそも、返すつもりだったしな」

「え?」

「だから言っただろ。他人に渡らないようにと思って、と。もう失くすなよ」

 

過程がどうであれ、目的は果たせたのだ。

ならば、もう帰ってもいいだろう。

 

私はイオリがどう思おうが構わないと帰路に就こうとしたが。

 

「見た?」

「何を」

「私の写真」

「ああ。本物か確認するためにな」

 

誰しも幼い時があるのだと、改めて実感した。

調べたところ、小学校卒業から4、5年しか過ぎていないだろうがそれでも大人になっているな、とは思った。

健やかな成長と言うのは、いつだって心を温かくしてくれるものだ。

まあ、実の息子には違ったかもしれないが。

 

「なら、先生のも見せろ!」

「は?」

「私の卒アルの写真を見たんだから、先生の昔の写真を見せてもらう!これでお相子だ」

 

そう言われてもな。

キヴォトスに来てから、先生の証明書やアビドス対策委員会と集合写真を撮ったりはしたがそれ以前、アーテリス時代の私の写真はない。

あったのは肖像画だが、そんなものここに持ってきていない。

 

「写真なんてないぞ」

「嘘だ!キヴォトスに来る前だって写真くらい撮るだろ!」

「あいにくと、元の場所では撮らなかった。もしあったとしても、どこかのモノ好きの隠し撮り」

「えぇ……」

「肖像画ならあったが……もう燃えたかこれまたモノ好きの家に飾られているかもな」

 

『地平の彼方へ』

なんて題の肖像画だったな。

あれは今頃どうなっているのだろうか。燃えたかそれとも、あいつ辺りが保管でもしているのだろうか。

 

なんであれ、もしコレクターとして保存しているなら本当にモノ好きな奴だ。

 

「じゃあどうやって思い出を振り返るの?」

「自分の記憶だ。むしろ、写真なんてなくて良かったんだ。あったと思うと……私が今の私ではなかったかもしれない」

 

アーモロートを模した街を創るくらいだ。

写真なんてあろうものなら、それこそずっと見ていたんだろうか。

それとも、もしあれば擦り切れていくラハブレアやエリディブスをもう少し止まられていたのか。

 

「……記憶だけじゃ、いつか忘れてしまうかもしれないじゃん」

「だからこそ。私は記憶や心の中にある思い出を捨てようと思っても捨てられなかった。どうして、今私がこうしているのかを示す砦として。使命を思い出させるための杭として」

 

心の中にあるからこそ、より大切なのだと私は思う。

自分が見て、聞いて、感じて、考えたこと。それを心に焼き付ける。

手記に書くのもいいだろう。だが、写真として残すのは私にはまだわからない部分ではある。

 

「先生は1万年以上生きてるって前に言ってたけど、もしそれが本当だとしたらそれこそ本当に思い出すのも大変だと思うけど……」

「案外ふとした拍子に脳裏に浮かび上がるぞ。ああ、あいつならこうしたかなとか。私にもこんな時があったなとか」

「私はまだ20年も生きてないからわからない」

「一瞬一瞬、それでもその積み重ねが大切な思い出になって胸に焼き付けばそれでいいと私は思う。生きた長さよりも、濃さ……とありていに言えばな」

「濃さ、か」

 

極論、長く生きようが無意味な人生を送ることだって出来ると思う。逆に10数年でも濃い人生を送れば価値ある人生だ。

 

あいつとの戦いや、キヴォトスでの経験を経てそう思う。『なりそこない』だと、子供だと思おうがそれでもその人生で積み重ねてきた想いは何者にも砕けないだろう。

 

「まあ、キヴォトスに来た以上はここの文化に従うさ。イオリ、携帯持ってるか?」

「え、あるけど」

「貸してくれるか?」

「変なことに使うなよ……」

 

そう言いながらも警戒することなく、差し出してきた。

私はその携帯の中で、カメラのアプリを起動し徐に自撮りの構えをとる。

 

「お、おい!何してるんだ、先生!」

「なんだったか……ああ、そうだ。ピースだ、イオリ」

 

イオリの許可を得る事もなく、写真を撮る。

写真映り……映えと言うのか、全く考慮しない撮り方ではあったもののそれなりにいい形にはなった。

いや、イオリは驚きつつもピースが出来ているが私の笑顔は何と言うか不自然だな……。

だが、まあこれが私の新しい思い出だ。

 

「どうして、私と!?」

「ツーショットを撮ったのはお前が初めてだ。これで、お前は私の秘密を知れたからお相子になるだろ」

「いや!昔の先生を見たかったんだけど!!」

「だから、昔の写真なんて一つもない。別の方法がないわけではないが、ここでは無理だしやりたくない。いらないなら消しておけ」

 

流石に人の目もある可能性がある場所で、堂々と昔の姿を模すわけにもいかない。

それに今のところ、私の『古代人』としての姿を知ってるのはホシノだけでいいはずだ。

もし、イオリがより困難に立ち向かいその過程で私の過去が必要になった時に見せるさ。

 

なら今日のところはここまでだ。

だが、帰ろうとする私にイオリは待ったをかける。

 

「ま、待って、先生!」

「まだ、何かあるのか」

「これ」

 

そう言って卒業アルバムを私へと手渡してくる。

確かに金は払ったが、私が欲しいと思って買ったわけではなのに。

 

「先生の写真を貰った以上は……私のも渡さないと、公平じゃない」

「そういう問題でもないような気がするんだが……」

「それに!……何であれ、自腹を切ってでも取り返そうとしてくれたし……」

 

そこまで感謝される謂れはない。

むしろ、勝手に個人情報を見たんだと怒ってもいいと思うのだが。

どうもこういう部分はきちんとしておきたい性格らしい。

イオリらしいと言えば、イオリらしいな。

 

なら、貰っておかないと失礼だな。

 

「そこまで言うなら貰っておこう」

「大事にしろよ!」

「ああ。舐めまわす様に大切にさせて貰うさ」

「だから、またその話か!!」

 

イオリと居ると退屈しそうにないな。

まったく、アゼムにヒュトロダエウスめ……。

 

揶揄うのがこんなに楽しいとどうして教えてくれなかったんだ。

 

なお、後日イオリから記念写真が送られてきたことは内緒だ。




絆エピソードが基本的に真面目ベースだったので、たまには楽しそうなエピソードでもいいかなと。

イオリについて。
エメトセルク的にはたぶん、一緒に居て楽しい生徒だと思います。真面目だし、たまに弄れるし。エピソード選びは悩んだので、エメトセルクが好きな昼寝と卒アルにしました。
原作みたいな距離の詰め方は出来ない分、ゆっくりじっくりと進めていく関係かな。
それにエメトセルクは、真面目な性格なので相性はいいと思う。

ツーショットについて。
隠し撮りや集合写真はあると思いますが、二人で取るのは初めてにしようと思いました。
エメトセルクとのツーショット。ヒカセンのみなさんならしたことあるのでは?

アビドス編3章について。
更新分見ました。
まだ先ですが、どうしようねこれ……。
もしかしたら、アビドス編を再構築しないといけないのかな?

本編について。
次回はまた本編に戻ります。こういう感じで定期的に絆エピソードを更新したいと考えてます。
なので、絆エピソード枠をつくろうと思います。

番外編について(基本的に1話完結予定です。私の休憩用と言う部分もあります)

  • 古代人関係の先生
  • その他ヒカセン関係の先生
  • エメちゃんを書け!
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