00Ⅰ
「え、どうして!?」
用事は済んだから帰る、という私の発言にモモイは理解できないという声を上げた。
こいつからしてみれば、ここからが楽しい部活動なのかも知れない。それこそ、ゲームなどをして遊ぶんだろう。
別にそれが愚かだとか、おかしいとか、無価値だなんて言ったりはしない。それが日常だったのだろうからな。
しかし、今回は違う。
自分であそこまで言っておきながら、部員数を満たせるとわかるや否なやそちらの楽な道を選ぶ。
それは結局のところ、問題の先送りに過ぎないにも関わらず。
「廃部の危機はアリスが加わることで解決するんだろ?なら、これ以上私がここにいる必要もない」
「でも、これからアリスがゲーム開発部でやっていけるようにしようと思ったのに」
「それはお前たちがあれこれ悩む問題で、私の仕事の範囲外だ」
アリスを上手くゲーム開発部の新入りとして偽造できるかなど、それはモモイたちがどうにかすべき問題だ。
確かに、依頼は廃部の危機をどうにかして欲しいだったが何とかするための『ミレニアムプライス』への挑戦のはず。
だが、アリスが加われば苦難の道を選ぶ必要がない。
となれば、ここからは自分たちで解決すべきだろう。
「先生は力を貸してくれないんですか……?」
「私は言ったはずだぞ、ミドリ。お前たちのゲームが、熱意が、他の何物にも劣らないと私に見せろ、と。しかし、アリスが入るなら作らなくてもいい。結果、モモイはそっちを選んだだろ」
「そ、それは……」
「となれば、私はどうやってお前たちを判じろと言うんだ?廃部になるのは嫌だ、でもゲームを作るのは大変、なら部員を拾えばいい。それでお前は何を証明してくれるんだ?」
モモイの言葉。
自分を幸せにしてくれたゲームたちはガラクタではなく、大事な宝物。そして、それを証明するのだと。
だが、これで何を証明するんだ。
これで部活を守れたら、ゲームの価値が変わるのか。
否、そんなことはない。
ガラクタではないかもしれないが、宝物だと人を幸せにするものなのだと私やユウカがわかるとでも?
変わらないのだ。
ゲームをしない者やそれに熱意を向けない者にとっては以前、ただの娯楽。
『遊び』なのだ。
別にそれが悪いと言っているわけではないが、あくまでそこまでの話だ。
「でも、作っても上手く行くとは限らないじゃん!」
「もちろんそうだな。創作物な以上は合う合わないが人によって分かれる。だが、だからなんだ。例え敗れたとしてもそっちの方がまだ立派じゃないか」
無駄な足掻きと嗤われようとも、必死になって作った物ならば拾うやつもいるはずだ。
だと言うのに、最初から無理だなんだと楽な道を選べば――その先にあるのは、より苦難の道のみ。
「じゃあ先生は無理で元々、やるだけやれって言いたいの?」
「やらない限り、無理かどうかすら分かるまい」
「それこそ無責任じゃん!」
「なら逆に聞かせてくれ。何がそこまでこの部活を守りたい理由なんだ?集まってゲームするくらいこの部活、部室が無くともできるはずだろう」
ゲームに詳しくないが、わざわざここに集まる必要はないことくらいはわかる。
誰かと一緒にやるくらいどこでもできるはずだ。寮の部屋だろうが、公園だろうが、それこそファミレスでもいいはず。
それをあえてこの部室でやる理由は?
才羽姉妹は1年生。アリスは……不明だがこの調子では1年生になるだろう。
確か部長が居ると言ったが……ロッカーの中の奴がそうだなんて言うなよ……。
「……」
「お前があそこまで言った理由はなんだ。所属不明経歴不明のアリスを受け入れてまで残したいわけは」
「私たちが守らないと。ユズの居場所が……寮に戻るわけにはいかないから……」
「居場所だと?」
「うん」
何らかの理由があって寮には戻れない。
ユズという少女にとってはここが居場所であり、帰るべき場所……。
まあ、ここを居場所と言うくらいだ。恐らくは対人関係だろうが……。
なるほどな。
ただ駄弁るために、遊ぶためにここにいるだけではないと。
その為なら、確実な手段を取りたいわけか。
「……お前はユズの居場所を守るために今取れる確実な手を取りたいと」
「……そう」
それならば、約束を反故にしてまで楽をしたいわけではないと言うならば。
「はぁ~、ならあの時あそこまで啖呵を切る必要はなかっただろうに」
「あれは……やっぱり悔しいじゃん。ゲームを馬鹿にされるのはさ」
「だからってなあ……」
「先生にだってあるでしょ、馬鹿にされたくないもの」
「……」
勿論ある。
私がどう思われようが構わないが、同じ志を胸に戦った同志や散っていった同胞を馬鹿にされるのは許せない。
そして、キヴォトスに来てその範囲は広がったのかもしれない。
私が認めた生徒の覚悟や想いを嗤ったり馬鹿にするのも腹が立つ。
甘くなったのか、はてさて。
「それでも、先生にとって私の選択が嫌だって言うなら……諦める」
「……ここを守る覚悟か」
ゲーム機を投げたり、馬鹿にされたからと大きく出たり、下心有りとはいえアリスを拾ったり……直情的な奴だとは思う。
ユズという生徒の居場所としてここが機能するくらいには、居心地が良く楽しい場所なのだろう。
そしてそうしているのは、ゲームだけではなくモモイやミドリがいるからでもあるのかもな。
だが、だからこそここを守るという覚悟は強い。
私がモモイに見た輝きは間違いではなかったらしい。
なら、ここで切り上げるには早いか。
「ああ、厭だ厭だ。お前が本当に楽をしたいだけのやつならどれだけ私が楽だったか……」
「どういうこと!?」
「覚悟があるのなら……私が帰るには早いのかもな」
「じゃあ!」
「ただし!ゲームはちゃんと作る事だ。お前の選択に理解は示すがそれでも、私が見たいんだ。ゲームの力っていうのを」
「えぇ~!!先生、厳しい!!」
厳しいだろうか。
全員に平等だと思うんだがな。
やる事はやれ、譲れないモノ、守りたいモノがあるならそれを守るのは手伝ってやる。
別に性格面でネチネチ言ったつもりもない。
まあ、それでも必要なら厳しくするがな。
00Ⅱ
アリスに『テイルズ・サガ・クロニクル』をプレイさせるという企画が始まってはや3時間が経過した。
結論から言おう。
詰め込み過ぎたのだ、このゲームは。
凄まじいワードから始まるチュートリアルでの突然死。
曰く王道に拘りすぎても古くなるから、予想できる展開ほどつまらないものはないから。
それ自体は別にいいとは思う。だが、野生のプニプニとやらが突然銃を発砲したり母親がヒロインだったり、前世の話だったりと。
ゲーム性自体は特に文句はない。
難しい内容というのか、意地悪な内容というのかはわからないが別に簡単なゲームばかりが正しい姿ではない。
私が気になったのはストーリーの展開や台詞回しだ。
だがこれが初めてならそこまで大きく言うほどじゃない。
むしろ、こう言うものかと思える。
『今年1番のクソゲー』と言うほどなのか?
そして、アリスはこれをクリアした。
私?
一応見ていたぞ、時たま生徒たちにモモトークを返してはいたが。
「もしかして、本当にゲームをやればやるほど……。アリスちゃんの喋り方のパターンが、どんどん多彩になってきてる……!?」
「勇者よ、汝が同意を求めるならば、私はそれを肯定しよう」
「うん、確かにそう……かも?」
別にゲームじゃなくても良かったんじゃないか。
映画を見せるなり、小説を読ませるなり。
これでは喋る言葉全てがゲームのキャラクターになってしまうのではないか。
「ゲームからそのまま覚えたせいで、ちょっとまだ不自然かもだけど……言葉を羅列していただけの時よりは、かなり良くなったと思う!」
機械的な言葉を使うよりかはまだ人間らしいのかもしれない。
それでいいのか……否、良くないと思うがそれを指摘するべきかどうかもわからん。
私も別に子供の教育が得意というわけでもないし、事実上親になった才羽姉妹の方針が大きく間違わない限りは放って置こう。
「と、ところでその……。こういうのを面と向かって聞くのは緊張するんだけど……わ、私たちのゲーム、どうだった?面白かった!?」
「……説明不可」
「え、ええっ!?なんで!?」
当たり前だろう。
私も内容を理解するのに苦労した。
獣道を進んで行くような感じ、と言えば伝わるだろうか。
「……類似表現を検索。ロード中……」
「も、もしかして、悪口を探してる……?そんなことないよね?」
「……面白さ、それは明確に存在……」
「おおっ!」
するのか?
いや、見ている分には楽しめたがアレをいざ遊ぶとなるとなかなか大変だと思う。
何せ不親切なゲームだ。それはいいのだが、妙な所で説明が入るのが問題だ。
親切なのか不親切なのか、どっちかに寄せるべきだと思う。
「プレイを進めれば進めるほど……まるで、別の世界を旅しているような……夢を見ているような、そんな気分……もう一度……」
目の前の男が別の世界の住人だと知れば驚くのだな。
アーテリスではよくあること……でもないか。
私やあいつらがおかしいだけで、世界を越えて活動することはないだろうし。
「もう一度……」
そう言いながら、アリスは涙を流した。
「ええっ!?」
「あ、アリスちゃん!?どうして泣いてるの!?」
「決まってるじゃん!それぐらい、私たちのゲームが感動的だったってことでしょ!」
「感動で涙を流すような内容ではなかったぞ」
「ちょっと!!先生、酷いよ!」
どう見てもギャグよりだろう。
むしろ、本編のすべてがギャグで構成されているのではないかとすら思うほどだ。
どうして野生のプニプニという魔物が銃を撃つんだ……。
「でも、ありがとうアリス!その辺の評論家の言葉なんかより、その涙の方が100倍嬉しいよ!あー、早くユズにも教えてあげたい……」
「……ちゃ、ちゃんと、全部見てた」
まさかロッカーにいるのがそうだとは……いや、大体察していたが……。
どうも本当に、ユズらしい。
「え?ロッカーが勝手に開いて……」
「きゃあああっ!?お、お、お化け!?」
「そんなわけないだろ。落ち着いてよく見ろ」
赤毛に小柄で人見知りしそうな少女。
ああ、なるほど対人関係で何かあったとは思ったが……。
わからんでもない。人付き合いは疲れるからな。
だが、ロッカーに隠れることもないだろうに……。
「ユズ!」
「ユズちゃん、あれだけ探しても見つからなかったのに!いつからロッカーの中にいたの?」
「み、みんなが、廃墟から帰ってきた時から……」
私やアリスが居たからか。
アリスはまだ大丈夫だろうが、確かに身長の高い黒シャツ男は確かにパッと見関わりたくはないだろうな。
モモトークで仲間内には伝えていてもよかったとは思うがな。
「あ、アリスと先生は初めてだよね。この人が私たちゲーム開発部の部長、ユズだよ」
部長らしさ、と言うのはない。
アビドス対策委員会、風紀委員会、美食研究会、本人たちは怒るだろうが便利屋68……それらのトップはトップらしい風格がある。
しかし、ユズにはいい意味でない。つまりはこの部活の中では変に気負う必要もないと言う事でもある。
「えっと、あの、その……」
初対面の相手、それも自分の背丈よりも遥かに上の目つきの悪い男に対してやはり緊張しているようだ。
だが、伝えたい相手は私ではないだろう。
「ほら、お前が伝えたい相手はアリスだろう?」
「は、はい」
想いとは他人越しでは伝わらないものだ。
だから、例えしんどくてもまずは一歩。踏み出すのも大切だ。
そうしてなお辛いなら、私が助ける。
だが、その心配は不要だったようだ。
「あ、あ、あ……」
「あ……?」
「……ありがとう」
照れながらも感謝の言葉を伝えてみれば、どうだ。
他の言葉も出てくるだろう?
「ゲーム、面白いって言ってくれて……もう一度やりたいって言ってくれて……。泣いてくれて……本当に、ありがとう」
とうのアリスはなぜ感謝されるのか理解出来ていないようだったが、やはり作り手からすればその言葉は感無量なのだろう。
「面白いとか、もう一度とか……そういう言葉が、ずっと聞きたかったの」
「ユズちゃん……」
誰もその言葉をかけなかった。
むしろ、酷評した。作り手の努力も想いも汲み取らずに。
創作物にそう言った評価は付きものだが、作り手からしたらそんなことは関係ない。
せめて一人くらいは肯定してくれる人が欲しい。
それはエゴでも何でもない。
作品を出せれば満足なんてタイプの創作家の方が稀だ。
あのサメを創った職員はどっちだったんだろうな……。
00Ⅲ
「とにかく、あらためまして。ゲーム開発部の部長、ユズです。この部に来てくれてありがとう、アリスちゃん。これからよろしくね」
「よろ、しく?……理解。ユズが仲間になりました、パンパカパーン!」
「……なんだって?」
ゲームのやり過ぎだ。
まともな会話というよりは、本当にゲームのキャラクターの様になってしまったじゃないか。
しかもなんだ、パンパカパーンって。
「合ってないですか?」
「あ、うん。だいたいそんな感じ、かな」
わからん。
キヴォトス女子高生の流行すら完全に把握していない私には、ゲームは未知のジャンルすぎる。
だが、ここで学んだ会話の言い回しを他の生徒にしてもまず間違いなく私の頭がおかしくなったと思われることくらいはわかるさ。
「ふふっ、その様子だと、本当にわたしたちのゲームを楽しんでくれたんだね……仲間が増えるのは、RPGの醍醐味の一つだもんね」
RPGとは仲間が増えていくもの、か。
なら、あいつの旅は正しくRPGなんだろうな。
そして私はそう、倒すべき敵の一人で。
……する気はないが、あいつの旅でゲームを作ればそれはそれで面白い内容になるんじゃないか。
「あ、もしRPGを面白いなって思ってくれたのなら……。わたしが、他にもおすすめのゲームを教えてあげる」
「ちょっと待ったぁ!アリスにおススメするのは私が先!良質なゲームをやればやるほど話し方も自然になって、私たちの計画の成功率も上がるんだし!さあ、まずは『英雄神話』と『ファイナル・ファンタジア』と『アイズ・エターナル』と……」
「何言ってるの、アリスちゃんはゲーム初心者だよ!?『ゼルナの伝説・夢見るアイランド』から始めるのが一番だって!」
「これだけは譲れない、次にやるべきは『ロマンシング物語』だよ。あ、でも第三弾だけはちょっと、個人的には、やらなくても良いかなって……」
「悪いが一人ずつゆっくりと話してくれ……」
アリスも何を言われているのか分かっていない顔をしているが、私もまったく理解が追い付かない。
出た作品が多すぎるし、タイトルだけでどういうゲームなのか全く見当もつかない。
せめて一作品ごとにプレゼンでもしてくれた方が助かると思うのだが……
「……期待。再び、ゲームを始めます」
そう言ってアリスは彼女たちの輪に入り、次に遊ぶゲームを物色し始めた。
その光景はなんとも微笑ましいもので、暖かくもある。
「なら、お前たちはゆっくりゲームをしておけ。今日は流石に帰る」
「え~先生もやろうよ!」
「お前たちの依頼を続ける以上はもう少し自分の中でもある程度の理解を持っておきたい。それに他の仕事を片付けておかないとそれはそれで面倒だしな」
「あの、先生はこれからも来てくれるんですよね…?」
「ああ。ここがお前やモモイたちの居場所でありそれを守りたいというのは嘘ではない以上は、切り上げるのは違うなと思った。それに、ユウカにああ言った手前もある」
私は部室のドアを開け、帰る前に一度振り返る。
「だが、アリスにはゲーム以外にも触れさせろよ。小説とかを読ませればきっと話し方が自然になるはずだ」
先に予告しておきます。
新拡張アーリ―アクセス開始以降は更新が遅れます!許してください!
ストーリー気になるし、金策もしたいんです!
モモイについて。
仲間想いのいい子です。そういう面でエメトセルクにとっても懐かしさを感じる生徒かもしれません。だから、無性に期待してしまうのかも。
厳しさについて。
厳しいというより、文句言いながらも見捨てない先生だと思ってます。
仲間について。
いつか、エメトセルクが仲間になりましたって言われる日が来るのかな。
それはヒカセン的には羨ましい限りです。
黄金のレガシーについて。
召喚士がエクソダス打てるのに驚きました。
じゃあ、暗黒騎士か黒魔にだってエメトセルクっぽい技があってもいいじゃんね。
次回更新をお待ちください!
番外編について(基本的に1話完結予定です。私の休憩用と言う部分もあります)
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古代人関係の先生
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その他ヒカセン関係の先生
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エメちゃんを書け!