00Ⅰ
ミレニアムタワーの外。
静寂に包まれた夜空の中で私はモモイとミドリの戦いっぷりを見ていた。
何とも恐ろしい事に想定されていたC&C最後の一人、アスナは予感や直感の類で保管所前で待機していたのだ。
まるで光の加護だと苦笑いしたのもつかの間。
開始された戦闘では、凄まじい戦闘力を見せつけ才羽姉妹をじりじりと追い詰めていった。
やはり地の力ではC&Cには勝てない。
幾ら優れた連携をしようとも、アスナが10とすれば才羽姉妹は合計しても5か6のライン。
故に一旦引いて態勢を立て直す判断をしたミドリは正しいが、そこにカリンの狙撃が襲う。
あちら側の勝負もついてしまったらしい。
さて、お前たちはどうする。
『違う。まだ、失敗じゃない……!』
想定では開始20分後に全員が捕まる計算になっていた。
そうなれば詰みだが、誰か一人でも捕まらなければいいとミドリはそう言った。
それは最初に捕まるアリスへの警戒が薄くなることを見越しての判断。
あいつがフリーになれば、『鍵』を入手して戻ってきてくれると。
そうなれば謹慎を受けたところでゲームは作れるのだ。
戦いに負けて勝負に勝つ……という戦法だ。
取れる中での最善手を取ってなお勝てないのならば、目的だけは果たす。
賢い手だと私は思う。
だが、謹慎程度で済むとは到底思えないのも現実だ。
『この状況なら、諦めた方が賢明だとは思いますけどね』
ユウカが現れ謹慎なら大丈夫という希望は打ち砕かれる。
曰く無条件の1週間停学か拘禁。
それはつまり、ゲーム開発部への『死の宣告』。
『どうにかして、突破しないと!』
『突破? へえ、私たちを?』
ぞろぞろとロボットを引き連れてアカネも合流する。
マキたちについてはまだ軽い処罰の雰囲気を出しながらも、やはりここまで入り込んだモモイとミドリは許されないらしい。
『そう言えば、先生は何処に? てっきり一緒に行動しているのかと……』
もしあの場に居たらそれこそ抗議文を送ってやるとユウカに怒られたのだろうか。
これでは我が身可愛さに逃げ出した腰抜けに見られるかもしれないが……そう今回はそれでもいい。
あの場の誰も、私が今どこに居てこれからこの『劇』をどう変化させるのかも予想できまい。
だが、モモイたちもまた私のプランBを知らない。
『ここで、本当に……? 嫌だ……っ!』
『お姉ちゃんっ……』
『ごめん、ごめんねエメトセルク先生……先生は色々助けてくれて……あんなに私たちにしっかりと向き合ってくれたのに、私たちの力不足で……私たちのせいで……!!』
ごめん、か。
あれほど『厳しい』だの『悪の魔法使い』だのと言っていたがそれでも、それが悪意で言った言葉で無いことくらいは知っていた。
だからこそ、なんとも懐かしい気分になりながらもモモイたちに時に厳しく、甘く接してきたのだ。
そしてこの土壇場でモモイの口から出た言葉は誰かへの恨み節ではなく私への謝罪だった。
自分たちの力不足を認め、自分たちのせいだと。
『先生に、ゲームの力を見せてあげるって言ったのにっ……!』
私との約束。
確かに私は見たいと言った。
言いながら、だらけていたモモイに失望したこともあった。
だがそれでも、モモイは進んできたのだ。
時に率先し、またある時は仲間にその背を押され。
元々の彼女を私は知らないが、それでも私と出会った初日と比べたら成長したと思えるほどに。
今回の計画も殆どが彼女たちで作り上げたもの。
私に手を貸して欲しいとは一言も言わなかった。
もちろん冗談で言うことはあったにせよ、だ。
「まったく……こんな時にまで私の事で謝るな」
プランB。
実際のプランBはモモイたちと同行し、あの場で共にメイド部に立ち向かい私の魔法を使ってでもモモイたちを勝たせるという方向性だった。
しかし、途中で軌道修正した。
それはアリスが仲間について語ったからか、それとも仲間たちの助けを得て前に進むモモイとミドリを見て水晶の塔を登りエリディブスと対峙しようとするあいつを思い出したからか。
何であれ、私が修正したのはこうだ。
モモイたちよりももっと危険な存在、それが現れたならばそちらに付きっきりになり、これが終わった後でも部活は存続できるはずだ。
何故そんな回りくどい手を打つのか。
どうも今回の情報の漏れは作為的なものを感じる。
襲撃に対して準備済み、いくら何でも情報が回るのが早すぎた。
まるでゲーム開発部に『鍵』を取らせたい……いや、意図的に試練を与えているかのように。
『大人』……ゲマトリアやカイザーとは違う。
むしろこれはミレニアム内部での謀。
生徒同士の……。
となればやはり、ここで一度姿を現すのも手かもしれない。
「悪の魔法使い、か」
廃墟でモモイが言った冗談を思い出す。
あの時、思ったものだ。
何とも否定し辛い表現だと。
だが、今はそう。
それでもいいと。
指を鳴らせば、黒法衣が私を包む。
前は闇銀行だが、今回は堂々と学園に姿を現すことになる。
それは下手をすればミレニアムとことを構える事になりかねないが、それでもやる価値はある。
これであいつらが進めるのならば、
だが、その前に眩い光が部屋を包む。
「あの光は……まさかアリスか?」
あいつの役目は『鍵』を入手することだったはず。
言うならおとりに見せかけた本命。だと言うのに、馬鹿正直に戻って来たのか?
だが、驚かされたのはそれだけではない。
第三校舎屋上……ウタハとカリンのいる屋上でも眩い閃光が走る。
どういうことだ。制圧されたはずだ。
まさか、一瞬の隙を見つけて閃光弾でも使ったと言うのか。
言うなら只の『部活』それも、他人のためにそこまで。
『人』の善意。
嘘偽りのない優しさ。
そんなものをこんな場所で見せられることになるとは。
『アリスちゃん!?」
『どうしてここに!?』
『生徒会の差押品保管所に向かう途中に、考えていました。『ファイナルファンタジア』、『ドラゴンテスト』、『トールズ・オブ・フェイト』、『竜騎伝統』、『英雄神話』、『アイズエターナル』……そして『テイルズ・サガ・クロニクル』……』
一体何を言うつもりだ。
いや、何かは想像できてしまう。
だが本当にそれだけの理由で?
お前はアゼムでも、『光の戦士』でもないと言うのに。
『どんなゲームの中でも、主人公たちは……決して、仲間のことを諦めたりしませんでした。なので、アリスもそうします。試練は、共に突破しなくては!』
「仲間のことを諦めたりしない……か」
キヴォトスに来て、まさかそんなセリフを改めて聞くことになるとはな。
ああ、そうだ。
あいつも最後まで仲間の事は諦めなかった。己がどれだけ傷付き壊れかけようとも独り立ち上がり向かってきたのだ。
諦めの悪さ。
だがそれこそが、私が認めたあいつの想い。
良いだろう。
脚本を変更だ。
アリスは本来の役目を果たしに行ったと見て私が出ようと思ったが……。
勇者に憧れる少女が居て、それに続く仲間がいる。
共に試練を、壁を壊して進もうと言うのならば。
私が何度でもその路を創ってやろう。
前はその想いに打ち倒され、今度はその想いを守るために。
「それではご覧あれ、悪の魔法使いが魅せる勇者一行との寸劇を」
00Ⅱ
「っ逃げられる!」
「いえ、そうはさせません!」
「残念だが、既に脚本は大幅に変更されているのだ」
前回とは異なり今回は『ラハブレア』に近い声のみを発し、モモイたちを守るように私……いや、『アシエン』が姿を現す。
「一体どこから!?」
「ユウカ、気を付けてください! あの衣装は、近頃キヴォトスに現れた謎の組織『アシエン』のものです!」
ある程度噂になり各校の秩序を守る組織から認知されているだろうと想定はしていたが、いざ言われてみるとそんなに有名になったのかという思いが湧いて出てくる。
にしても、衣装で判別されているのか……。
まあ確かにキヴォトスでこんな黒法衣見かける事はないだろうが……まだ、仮面で覚える方が個で区別できるからいいと思うのだが……。
「ほう、『我等』の事を知っているとは。勉強熱心な事は褒めてやろう」
「『アシエン』がどうしてここに?」
「それを諸君らに言う必要はあるまい。語った所で理解など出来ぬのだから」
正直なところ、きちんとした理由を用意していないと言うのが答えなのだ。
『鍵』を狙いに来たのならわざわざこのタイミングでなくてもいいし、アリスの力を見たいのならばあのまま放置でも良かった。
だからまともな理由はない。
「さて……」
だが、私にはある。
モモイたちの前に障壁を張り、追手が来れないようにしてやる。
これはどう見ても魔法だが……気付くかどうか。
「これって……」
「時間がない、そのまま行け。『悪の魔法使い』が時間を稼いでやろう」
「!! せん……ううん、ありがとうフードのおじさん!!」
察しのいい教え子で助かるよ。
それと、今回の『おじさん』呼びは許してやる。
とっととお前たちの目的の『鍵』を取ってこい。
この障壁がある限りはユウカやアカネたちが進む事はできない。
合流する場所など伝えてすらいないが……あいつらの部室であることくらいは分かってくれるだろう。
「どうして、『アシエン』がゲーム開発部を助けるのですか?」
「『我等』もまた『鍵』に興味があってな。正確には『鍵』を使って引き起こせる事象、だが」
「そのためにわざわざこのタイミングで?」
「むしろ感謝して欲しいものだ。わざわざ見る事の出来る時を選んできてやったと言うのに」
「どういう意味よ」
別に『鍵』を手に入れるくらい私一人なら造作もない。
どれほど強固なセキュリティだろうが、飛んできてしまえばすぐに手に入れられる。
ここで重要なのは『アシエン』がこのタイミングで現れる事。
つまりは、はっきりと示すのだ。
何を企んでいるのかは知らないがそうそう上手くはいかないぞと。
「その気になれば『鍵』だろうと、機密だろうと諸君らに気取られず手に入れられると言う事だ」
「随分と自信があるようね。……けどこれだけ厳重な警備に一瞬も映らずに瞬間移動でもしてきたみたいに……ん? 瞬間移動?」
何か思い当たる節でもあるかのようにユウカが思案し始める。
まさか『テレポ』で突然現れた私を見て驚愕こそすれ、そこから立ち直りその正体を考察しているとでも言うのか?
「しかも、よく分からない障壁を出す現象……それじゃあまるで……」
幾らなんでも答えに行きつくまで早すぎないか?
確かに私は初日に戦車の中に潜り込んだ後、直ぐにユウカの元に戻ったりもした。
だが、それ以降特に表立ってそれを使った記憶はない。
しかもユウカの前で私の障壁を見せた事すらない。
あったとすれば戦車をフィンガースナップで爆破した事とアーモロートのグラスくらいなもので……。
まさかその『怪現象』と今回の『壁』を結び付けたとでもいう気か?
「もしかして……エメトセルク先生ですか?」
「……ほう」
賢いとは思っていたが声も背丈も、服装すら違う『アシエン』を演じている私をたったあれだけの材料で見抜くとは。
事前に魔道士だと名乗ったかつ察しのいいムツキならまだしも。
数学的にあり得ないような事象をあえて受け入れて推察するなどと。
これは中々に骨が折れるな。
「何を持って『我等』……いや『私』をあの男と判じるのだね?」
「エメトセルク先生も突然消えたと思ったらすぐに戻って来たり、戦車をフィンガースナップだけで爆破させたりと言った『あり得ない』現象を引き起こすからよ」
「そんな数少ない根拠だけで『私』の正体に迫ろうとしたのは立派だが、生憎と私は『エメトセルク先生』ではない」
下手に嘘をつけば苦し紛れの言い訳にしか聞こえないだろう。
だが、『エメトセルク先生』と『アシエン・エメトセルク』が違うと言うのは嘘ではないだろう。
事実、『エメトセルク先生』はここまで暗躍しないからな。
「その証拠は?」
「君には『私』の声がどのように聞こえているかな?」
「確かにエメトセルク先生の声じゃない。けど、『あり得ない』現象に『声を変える』が含まれているとしたら証拠にはならないわ」
我がキヴォトス人生最初の当番は中々に手強い。
普通の生徒ならここで確かにそうかもと終わるかもしれない。
今回は複数の声を混ぜたわけでもないから、周りと違うなんて言われないようにしたにも関わらずだ。
「それに『鍵』を使った現象が見たいならこの後にでも盗んで渡すなりすればいい。わざわざモモイたちの窮地に現れて場を乱す必要もないはず」
「言ったはずだろう、諸君らのためにわざわざこの状況で来たのだと。それにもし『私』が君の言う通りあの男ならばわざわざゲーム開発部から離れずに共にいるのではないかね? それだけではない。アビドスの一件でもわざわざファダニエルと接触する必要もないではないか。自ら早々にカイザーコーポレーションを破壊し尽くすだけで済むだけのこと」
「それは……」
ユウカは私の性格をよく知っている。
故に『私』ならこの場にいるだろうと指摘すれば答えに窮するだろう。
もしユウカが私の性格を深く知らなかったならば賢く切り返せたのかもしれないが、今回は彼女の人の好さに助けられたな。
「どちらにせよ、ここであなたを倒せば明らかになりますね」
そう言いながら武器を構えたのはアカネだ。
流石C&C、私を倒せばその正体を明かせると判断するのは間違ってはいない。
私を倒せるのならばだが。
「よもや、この『私』に挑むつもりか?」
「あなたこそ、残ったロボットと私たちと戦って無事に済むと?」
「その程度の数でこの『私』を倒そうなどと……」
言い終えるかどうかの際で再び姿を消し、今度はユウカとアカネの後ろに回り込む。
「ッ!」
「しかしあの男に救われたな。諸君と戦えばあの男と戦う事を意味する。『我等』も今の段階ではあの男と事を構えるほど暇ではない」
「待って──」
「ではまた会おうではないか。ミレニアムの優秀な生徒たちよ」
これ以上長々と話して何かボロを出しても困る。
それにお前たちとは戦えないんでな。
いつか正体を明かせる日が来たら、いくらでも愚痴は聞くさ。
さて。
モモイ、ミドリ、アリス──
この私がここまでしてやったんだ。
『鍵』を手に入れて戻って来い。
ゲーム開発部のこう言うところ、エメトセルクは絶対好きだと思います。
あとはユウカなら『アシエン』の正体がエメトセルクだと気付くんじゃないかなと。
番外編について(基本的に1話完結予定です。私の休憩用と言う部分もあります)
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古代人関係の先生
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その他ヒカセン関係の先生
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エメちゃんを書け!