00Ⅰ
──モモイ!!いつになったら脚本が上がるんだ!
──ちょっと待ってよ!!急かさないで!!
──お前の設定如何によっては、キャラの見た目を変えなきゃならないだろう!
──先生が前のやつ没にするからじゃん!!
──ミドリ、キャラの服装だがもう少し個性を付け加えてみるのはどうだ?
──小さなアクセサリーを追加とかでもいいですか?
──そう言うのでいいはずだ。
──ユズ、きちんと休みは取っているか?プログラミングがわからない私が言うのもあれだが、休みは取れ。
──先生、ありがとうございます。ベストを……尽くします!
──休みも含めて、ベストを頼むぞ。
──アリス、テストプレイの方はどうだ?
──はい!大きく問題はありませんが、特定の行動をすると進行不能になります!!
──……それは大きな問題だろう。
初動こそ休みをしっかり取って気持ちに余裕を持ってやろうと決めてやっていたのだが、終盤に入れば入るほど俗に言う『修羅場』の状態へと突入した。
各々しっかりと自分の仕事をこなしてはいるのだ。
だがやはりモモイの作業は難航していた。
TSCの一作目にあった独特の文脈を生かしつつも物語としての統合性は確保、更には真の意味で想定を超える展開を用意させて……と当初の目標を掲げてしまった以上は私もなかなかに厳しく上がってきた脚本を添削しては没を繰り返した。
結果、作業の遅れを憂慮した私がミドリに指示をし先行して登場人物の見た目がおおよそ決定すると言う事態になってしまいモモイの設定によって細部のみを変更する状態になったのだ。
それ自体は監督として作品全体を見ての指揮だから間違いではないと思う。
脚本ありきで見た目を決めるという方法は制作に何ヶ月と猶予があれば可能であったが6日しかないのならば背に腹は変えられない。
そして4日目に差し掛かったころ。
「うわぁぁぁん!先生、無理だよぉ〜〜!」
と頭から湯気でも出ているのではないかと言うレベルで知恵熱を出したモモイが私に泣きついてきた。
「何が無理なんだ?」
「だってこんだけ書いてると、何がおかしいかわからないんだよ!!最初の方なんて何処がダメとか言わないで没を繰り返されるし……」
確かに最初は全体的におかしいと思ったから没を出した。
それ以降は大まかに序盤がおかしい、中盤がおかしいと修正させたが終盤に入ってモモイの動きは止まってしまった。
「正直なところを言えば、別に今の時点で作品としては成立しているぞ」
「じゃあなんで没なの!?」
「起承転結のうち、転から結への流れを見てみろ。現在の脚本では重要なキーワードは何度も登場していたり、キャラクターの考えや指針は一貫しているだろう?」
「それはそう……けど、出した伏線はできるだけ回収したいじゃん!」
「それが問題なんだ。いいか、TSC2のメインストーリーにおいて拾われない伏線があるのは当然のことなんだ」
「それだとぶん投げって言われない?」
モモイの言いたい事はよくわかる。
出された伏線は全て解消した上でエンディングを迎えるべきだと言うのはある意味で一つの書き方として間違ってはいない。
だがそれは序盤や中盤にある程度片付ける必要があり、そうしなければ終盤に詰め込みすぎて展開が駆け足になりがちだ。
実際、今の脚本は終盤の駆け足度合いはなかなか高い方だと思う。
そうなると、読み手側は色々と疲れてしまうだろう。
「ある程度はそれでいいと思うぞ私は。今回のTSCが2なように3を作るとき用の伏線として置いておくというもの手だろう」
「次回作って気が早すぎない?」
「お前たちのゲーム制作が今回で終わりだと言うのなら好きにすればいい。だが、もし今後も作品を作っていくと言うのならそう言う事を考えて作ってみてもいいんじゃないか?」
「そういうもんかな~」
出来る限り一作品に全てを収め切りたいという考え自体は分からないでもないからこそ、モモイの腑に落ち無さそうな態度も理解できる。
そんなモモイだったが、私の顔をまじまじと眺めてふと何かを思いついたのか再び脚本つくりを始めた。
一体どういう事なんだ。
私の顔に答えなどなかったと思うのだが……。
それとも何か、私の言葉使いを捩ったキャラでも出すつもりか?
まさかな。
その数時間後に上げられてきた脚本は、本編の伏線を十分に回収しつつもいい形で謎を残す脚本になっていた。
なら、私を見た時の表情は何だったのか結局分からず仕舞だ。
00Ⅱ
「お姉ちゃん!まだ!?」
「モモイ!!まだなのか!?」
「ま、待って、急かさないで!あとこれだけ入力すれば終わりだから……!」
6日の修羅場その最終日。
ゲーム開発部の部室に響き渡っていたのは、ミドリと私の叫びだった。
「あと2分だよ!?急かさずにはいられないって!」
「正確には96秒です、そう言っている間に残り92秒……」
「何でもいいから、早くしろ!!」
「わ、分かった分かった!もうできたから!」
最後の最後まで締まりがないというか余裕を持って終わらせると言う事が出来なかった。
最終日直前になり、モモイが突然キャラを追加するというイレギュラーから始まりそれに伴う整合性云々でここまでの大騒ぎになった。
と言うよりも、どうも突然になってキャラを追加するというのは私以外のゲーム開発部全員が知っていたらしく私が脚本のチェックを終えたら追加する予定だったらしい。
そのキャラのチェックについても私を介さず全員でして問題なかったとの事で私が出来た事と言えばモモイに『早くしろ!』と叫ぶことくらいだったと言うわけだ。
「こっちは簡単なテストだけやって……うんっ。エラーは出てない、モモイ!」
「オッケー!ファイルをアップロード、完了まで予想時間……15秒!アリス、あと何秒!?」
「残り19秒です……!」
「お、お願い……!」
「どうして私がここまで『時間』で焦らなければならないんだっ!」
常に計画をしてそのために必要な行動も準備し抜かりなく実行するのが私で、こんなギリギリになるまで上手く行くか分からないなんていう危ない路を行くのは私の柄じゃない。
それはむしろ、あいつ向けだろうに。
今回だってそうだ。
余裕を持って終われるようなタイムスケジュールを組んだし、もし訂正などがあっても1日くらいは猶予を持てるはずだと。
しかし実態は最後の最後まで全速力で走り続けた日々だ。
ゲーム開発部も寝不足だろうが、私も寝不足だ。
手を貸してやると言った張本人が頑張ってるやつらを差し置いて寝るわけにはいかんだろう。当たり前のことだがな。
しかも私は作業の合間に溜まった事務仕事を片付けた。
リンの奴め……どうしてこう私が忙しい時に限って仕事を押し付けて来るんだ。
しかし寝る間も惜しんで作業している生徒の手前大きな声で愚痴を出すわけにもいかず、眉間の皴を更に濃くしながら仕事をした。
まあ、終わってみれば楽しかったと……言えなくもないがな。
「転送完了……」
モモイのその言葉と共に我々の見ていた画面に表示される文字。
【ミレニアムプライスへの参加受付が完了しました】
「間に合ったああぁぁあ!」
「ギリギリ……心臓が止まるかと思った……」
「次はもう少し余裕を持ってやれよ……」
「あとは……3日後の発表を待つだけ、だね」
本当に焦らされた。
水晶公の目論見を知った時とはまた違った焦りだ。
あれは阻止しようと思えば阻止できるラインではあったが、こっちは私に出来る事はないタイプの焦りだ。
こういった焦りはそれこそいつ以来だろうか……。
それこそ私がまだこの体になる前の……生きていた頃だろうか。
なら私は今きちんと『生きている』のだろうな。
「とりあえず間に合ったけど、まだ結果が出たわけじゃない。3日後には……このままこの部室にいられるのか、そうじゃないのかが決まる。……でも3日って結構長いじゃん?そこで提案なんだけどさ、先にweb版の『テイルズ・サガ・クロニクル2』をアップロードしてみるのはどう?」
「ど、どうして?」
「3日間も待てないよ!それに、審査員の評価より先に、ユーザーの反応を見たくない!?」
「うーん、でもちょっと怖いかも……低評価コメントも心配だし」
「私はモモイの意見に賛成だ。そもそもどれほど優れた作品にも下らない低評価のコメントは付き物、そしてお前たちの作った作品は素人の私から見ても面白いと思える出来だ。なら、胸を張って大海へと漕ぎ出すがいい」
実際、完成した作品をプレイしたわけではないが脚本や基本動作、キャラクターの絵柄にアリスのテストプレイを見る限りは素晴らしい――各々の現在できる最大限の力を発揮していた出来だと思う。
何よりも作っている最中で誰も妥協することがなかった。
そう、全力で臨んでいるからこそ良い出来では満足せず更に改善しようと苦労していた。
そんな奴らへ私が出来るのは、その素晴らしい作品の船出を祝うことくらいだ。
「先生の言う通り、自信を持って見てもらおうよ!私たちはベストを尽くしたんだから!」
「そ、それはそうだけど……」
「……うん、アップしよう。作品っていうのは……見てくれる人、遊んでくれる人がいてこそ、完成されるものだと思うから。わたしは……わたしたちのゲームを、きちんと完成させたい」
「ユズちゃん……」
「大丈夫。もし前みたいに、低評価コメントのオンパレードになったとしても……。全力で頑張ったから。それに……みんなが一緒だから、きっと受け止められる。私はもう、大丈夫」
一度の失敗は次の一歩を踏み出すことを躊躇わせるものなのかもしれない。
だが、それは決して歩みを止める理由にはなり得ない。
少なくともお前たちはあの日の、『テイルズ・サガ・クロニクル』を作った時のお前たちよりも、強い。
その場にいたわけではないがそれでも私には分かるのだ。
ゲーム制作を通して得た出会い、経験、葛藤がお前たちをまた一つ成長させたのだろうと。
まあ、抜けているところも多いがな。
「それじゃあ今すぐアップロードー!」
「ああっ!ま、待って!心の準備が……!」
「転送完了!プレイして感想を貰えるまで少なくとも2,3時間はかかるだろうし、後はしばしの休憩ってことで!」
「……はあ、そうだね」
こういう時のモモイの行動力は他の奴らを引っ張っていく力があるとつくづく思う。
4人全員が異なる性格で、各々の弱点を補っていけるのだと思えば本当に良いパーティーだ。
後は座して待つのみと言った所だが……私からすれば少し眠りたいのだがな……。
そう思っていたころにアリスが徐にコンピューターの前で座り始めた。
時間どころか2、3分しか過ぎていないと思うのだが……。
「アリス、何をしている?」
「待機します。みなさんがダウンロードを始めたようです、気になります」
「これからゲームをプレイするまでにまだ時間がかかるだろうし、待っててもそんなにすぐは来ないと思うよ?」
「はい、それでも待ちます」
「わ、わたしも……。どっちにしろ、緊張で眠れないし……わたしも待ってる」
これでは意気揚々と眠りに入ろうとした私の感性がおかしい事になってしまうのではないか。
もちろん当事者たちからしたら緊張するのも分かるんだがな。
「……うん。ダメ、私もドキドキしてきちゃった」
「私は心配でドキドキが止まらないよ……うぅっ、自分で言い出したのに緊張でおかしくなりそう!」
「……この雰囲気では私だけ寝る事は出来んな」
「逆に先生は寝れたんですか?」
「別にどうという事はない。むしろ落ち着かない時こそ眠りを取るべきだと……そう長年の経験から学んだな」
「先生の場合、緊張することなさそうだよね!」
失礼な。
私だって緊張することは大いにある。
ただあくまで自分の中で抱え込める『器』が広いだけの事だ。
それが良いか悪いかは私にも分からないところではあるが……。
ピロン、という小気味良い音が室内に響く。
「あっ、初コメ」
「何て!?何て!?」
<hermet021:わお、これ前回クソゲーランキング1位を取った、あれの続編?もうゲーム作りはやめたと思ってたけど、懲りないねぇ>
「……」
「どこにでも評論家気取りの奴はいるものだな」
「アリスも、先生も、こういうのはあんまり気にせず」
「マキに連絡。該当IPアドレスの方角に対して、最大出力のビーム砲を食らわせてきます」
「そ、それはダメ!」
「こんな評論家気取りのコメントに一喜一憂するためにやってるわけじゃないだろう?こんなものはな、無視するに限る」
そもそもこいつはプレイしていないだろうに。
我々が見るべきは実際にプレイした者たちの感想だ。
こんな下らないご意見ではない。
<Kotoha0507:前回の『TSC』は確かに、手放しで賞賛できる作品ではなかったかもしれません。ですが新鮮味があり、少なくともありふれた作品ではありませんでした。今回の2ではどんな目新しさを見せてくれるのか、楽しみです>
「お、徐々にちゃんとした反応が!」
<QueenC:さて、鬼が出るか蛇が出るか……せっかくなら中庸なんかじゃなくて、例えどっち側だったとしても、振り切った体験を期待したいね>
<kirakiraNO1:前作はやったけど、良い思い出としては残ってない。それどころか苦い記憶がいくつも鮮明に思い出せるくらい。でもどうしてかな……続編だって知ってるのに、ついダウンロードしちゃった>
「す、すごい!なんか私たちのゲーム、めちゃくちゃ期待されてない!?」
「全体的になんか、『時限爆弾を楽しそうに解除しようとしてる』感じっていうか……」
「怖いものみたさ、みたいな」
そんな心配を他所にコメントは留まる事を知らずに鳴り響き続けた。
<cat0808:2時間後に補修でテストがあるんだけど……そんなことより今はこのゲームがやりたい気分>
<You-me:テストなんてこれから先、いくらでもあるじゃん。これを遊ぶ最高のタイミングは、アップされたばっかりの今だけなんだよ!>
いや、補修のテストは合格しなければならないものだろう。
最高のタイミングについては同意するが、最適なタイミングではないだろうに……
私自身は補修なんて言う不名誉、受けたことがないがな。
にしても、そうか。
きちんとファンがいるんじゃないか。
『クソゲー』であることが、ファンがいない理由にはならない。
確かに酷い言葉を書かれたりもしたのだろう。
だが、アリスがそうであった様にこのキヴォトスには『TSC』が好きな奴はきっとまだいる。
「だ、ダウンロード数がもう2000を超えてる!?流石におかしくない!?」
「おかしいものか。それだけお前たちには良くも悪くも前作の『評判』がある。最初に言ったはずだぞ、悪名は無名に勝るとな」
「た、確かに言ってたけどこんなことになるって思ってなかったし……急に怖くなってきた!!」
「……ドキドキします」
「うぅっ!期待と不安で、心臓が爆発しそう!」
初動は大成功だと思うのだが。
感想なんてどうせ2、3時間後にしか分からないんだから逸るだけ無駄だろう。
正に座して天命を待つってやつだろうな。
しかし天はそんな待ち方を許しはしなかった。
モモイの心臓が爆発したにしては大きな音と衝撃が部室を襲う。
「ほ、本当に心臓、爆発しちゃったんですか?」
「そんなわけあるか!!攻撃だ!!」
「え、こ、攻撃!?なんで、どうして!?」
やはり『鏡』の件だろうな……。
まあ、いつかは仕返しに来るだろうと考えてはいたがこのタイミングか。
「この砲撃は46mm砲……カリン先輩の!」
「ひゃっ!?」
「遠距離攻撃を確認、部室に対して11時の方角!距離、約1km……!」
「ぜ、前回の仕返し!?」
「十中八九そうだろう。いいか、全員ここを出るぞ!お前たちの部室が見るも無残な姿になるのは流石の私も見たくないんでな」
ゲームは作り上げ、後は結果を待つだけだ。
ならば消化しきれなかった因縁を片付けるにはいい機会なのかもしれないが……。
今回はまず間違いなくC&Cは全員揃っているだろう。
流石に何度も『アシエン』が登場するのもおかしいため今回はゲーム開発部だけで何とか退ける必要があるのだが、幾らなんでも修羅場後のこいつらには厳しいとは思う部分はある。
だがそれでも、守りたかった場所を失わせるわけにはいかない。
その苦しみは誰よりも知っている。
「はいっ!」
「アリス、私とユズが前に立つ!」
「はい。アリスは先生とみんなを守ります」
私を守る……か。
本当にキヴォトスに来てからよく言われるその言葉に最近は慣れすら感じ始めた。
本来ならその方がいいのかもしれない、とも。
『先生』という存在は戦闘力がない方が調和のとれた存在なのではないか、成長の機会を奪わないのではないかと。
だが、何の因果か私にこの役目を押し付けたんだ。
なら私は何処まで行っても『私』として臨むだけだ。
「モモイ、準備はいいか?」
「うん、行こう!!」
00Ⅲ
「はぁ、はぁ……。何とか逃げ切れた?」
初動の可愛らしい見た目の機械たちは造作もなく対処できたのだが、カリンの射撃などに対応しつつとなるとこちら側にも限界があり途中からは逃げを優先し続けた。
その結果、開始した時点では明るかった外も今や既に月明かりが照らしている。
「こ、これからどうする……?」
「もうミレニアムプライスへの出品は終わってるんだし……とりあえず結果が出るまで、このまま逃げ続けよう!」
「逃げ切れるとでも思ったか?」
聞いたことのない生徒の声が安堵していたゲーム開発部と私の耳に届く。
今度はなんだ、とごねてやろうとした刹那、何かが風を切る音……これは銃弾か。
「ちっ……!」
銃弾が狙っていたのはミドリ。
流石にモモイの時の様に襟を掴んで助けるには遅すぎたのだ。
だから私は結局、自分自身の力に頼らざるを得なかった。
「きゃぁっ!」
いくら目の前で銃弾が弾かれたとしても直前まで狙われていた恐怖、衝撃というのはぬぐい切れるものではない。
それに防壁もすんでのところで張れただけだ。
私を対象にして守るよりも、誰かを対象にして守る方が色々と面倒なんだ。
「……なるほどな」
命中しなかった事への不満でもなければ、まるでそれ自体が威力偵察のつもりで放っていたかのような口ぶちで登場した生徒。
その独特の服装のセンスについても印象に残る部分ではあったが、やはり一番目を引いたのは大変失礼な話ではあるがその身長。
モモイやミドリと大して変わらないところを見ると恐らくは140cm後半。
彼女の服装から察するにC&C。
そして、私がまだ見ていないC&Cとなると噂のネルなのだろう。
しかしこのキヴォトスにおいて各校の最強候補を見た時にどうしてこうも身長が低めになるのだろうか。
別に背が小さい事を馬鹿にする意図は決してないのだが、こう私自身の首が痛いというかだな……。
まあ何はともあれ漸くご対面と言うわけか。
「どうりで、いちいち良い判断だと思ったぜ。さっきこのチビたちを指揮したのも、ミレニアムの差押品保管所を襲撃したのも、あんただったか」
「買いかぶり過ぎじゃないか?私がしたことと言えば、徹夜でのゲーム制作の監督くらいだぞ」
「はっ!随分と謙遜するじゃねえか。あたしの銃弾を弾いておきながらよく言うぜ。先生……って呼べばいいのか?」
「流石に知ってると思うが、エメトセルクだ。呼び方なんて好きに呼べばいい」
大体は『先生』か『エメトセルク先生』だが、何処にでも例外はいるものだ。
とは言っても現状では二人くらいだが……。
そう言えばアルに一度だけ呼び捨てにされていたような気がするが、まあそれもあの場での例外だ。
「アカネが調査した、例の『エメトセルク先生』……噂は大げさじゃなかったみてぇだな……」
「どんな噂かは知らんが、変な期待などしてくれるなよ。それでお前は前回のリベンジと言った所か?」
「そんなくだらない理由で来るわけねぇだろうが」
「なら何故こんな面倒な事を。まさかと思うが私と戦いたいなんて言うなよ」
そんな理由なら本当に辞めてほしいものだ。
『生徒』には基本的に手を出したくない。
緊急事態でそれしか対処する方法がない場合なら考慮する余地はあるが、それでも私の魔法を機械ではなく『生徒』に向けるなどと。
それに相手が強いのであればあるほど、それを誇りにしている可能性すらある。
それを砕くのは私の『先生』としての流儀には反する。
なんなら魔法だけではない。
ソル時代は兵士として戦場を駆けたのだ、魔法を使わない戦闘経験もある以上は冗談で頭を叩く事すらしない私だ。
もしいつか、遺憾ながら私が『生徒』を相手に戦う時が来たのならそれ相応の準備が必要だ。
決して生徒が致命傷を負わない程度に魔法を手加減し放つ必要があり、そんな加減を最強候補の生徒に出来るかどうかなどいざ知らずだ。
「確かに先生にも興味はあるが……まずはそこの、でこ出してるあんた。あの時は、よくもあたしを騙してくれたな……?」
「ひっ……!す、すみません!」
「やるじゃねえか、褒めてやるぜ。怯えたふりをしてブルブル震えながら、あたしを騙すなんてな。大した演技力だ」
矛先がユズに向き一瞬身構える事になったものの、内容と言えば自分を騙したことを素直に賞賛するというものだった。
しかし、私とモモイは顔を見合わせてお互いの考えが同じであることを確認し合っていた。
『怯えているのは素で怯えていたのだろう』、と。
「まあそれは良いとして……そっちのバカみたいにデケぇ武器持っているあんた。あんただよ、あんた!」
どう見ても呼ばれているのはアリスだが、当の本人はキョロキョロとしているだけ。
他にでかい武器なんてないだろうに…・・・。
何とも要件の多い奴だと思うがまあこっちも余計な事をすればそれこそ面倒な事になるだろうと話を黙って聞くしかできない。
「アリスのことですか?」
「そうだ、てめぇには用がある。C&Cに一発食らわせてくれたらしいじゃねえか……?ちっと面貸せや」
これはあれだな、俗に言う不良に絡まれる構図だ。
今時、面貸せなんていう直球なセリフで切り込んでくるとは思っても居なかったのだが……。
しかし、そうか。狙いはアリス一人。
アリスの武器の破壊力があれば負けはしないだろうが、どう転ぶか。
「あ、アリス、このパターンは知っています。『私にあんなことをしたのは、あなたが初めてよ……っ』告白イベントですね。チビメイド様はアリスに惚れていると。スチル獲得です」
「おい……」
告白イベントだか何だか知らんが、『チビメイド』はいくら何でもまずいんじゃないのか?
服装と言葉使いから考えるにネルの性格では許されないと思うのだが……。
「ふ、ふっざけんなこの野郎っ!ってか、誰がチビメイド様だ!?ぶっ殺されてぇのか!?」
案の定であった。
かなりの剣幕で怒りを示すネルにゲーム開発部はそれぞれ『怖い』だのなんだのと反応を示すが……流石に容姿について触れるのは不味かろう……。
いや、私だって思ったぞ?
どうして最強候補はいつも背が小さいんだと。
だがそれを口に出してしまうと終わりであるという確信はあった。
「はあ……。なかなかイラつかせてくれるじゃねぇか。まあ良い」
「私の教育が行き届いてなかったな……すまん」
「いや、あんたに謝られても……話を戻すぞ。別にC&Cに一発食らわせた分の復讐ってわけじゃねぇ。アシエン然りあちこちに怪しい部分はあったが、こっちとしては正当な依頼の中での出来事だった。そっちはそっちで、あたしらを相手に目標を達成しただけだ」
本当に報復目的では無かったらしい。
私はてっきり口ではそう言いながらも心の中ではと思っていたのだがどうやらそうではなかったと。
お互いやることをやったのだと言う考え方はいっそ清々しいものではある。
そうやって割り切れる奴が多ければ多いだけいいのだが実際はそう上手くいく話でもないのだろうな。
よって私の中でのネルへの最初の理解は、『口は悪いが自分の筋を持っている生徒』と言う認識になった。
ならまあ陰湿な嫌がらせが待っているわけではないのだろう。
「別に恨みはねぇが……俄然、興味が湧いてきてな」
「興味……?」
「確認、って言った方が良いかもしれねぇが……さあ、ちょっくら相手してもらおうか。あたしと戦って勝てたら、このまま大人しく引き下がってやる。お互いを理解するには、これが一番手っ取り早いからな。どうだ、難しい話じゃねえだろ?」
言葉ではなく戦いでお互いを理解するというのは私からしたら野蛮だと思う部分はあるが、そういう理解の仕方もあるのだろうとあいつとの戦いやあいつと我がひ孫の関係で学びはした。
なるほど、武に長ける者にはそう言った理解の仕方があるのだと。
私は出来ればそうではなく言葉で理解してみたい側だがな。
だが、これは1対1の水入らずの勝負。
あいつなら経験した事のある乱入は無し。
よってアリスの方が不利になる。
幾らアリスが強かろうと、戦闘経験は向こうのほうが上だ。
「分かりました」
だが、アリスは迷うことなく承諾した。
自分が負けるとは露ほども思っていないその目。
「お、やる気満々と来たか」
「一騎打ちのイベント戦闘……みたいなものですね、理解しました」
「イベ……なんつった?」
「あの時は狭かったですし、『鏡』を持って帰るという使命がありましたが……今なら!行きます、魔力充電100%……!」
先に打って出たのはアリスだ。
既にエネルギーをチャージし終えた『光の剣』を構え、ネルへと向ける。
「ちっ、これは……!」
「光よ!!」
余りの眩しさに目を細め、それと同時に発生する爆音が私の鼓膜へと突き刺さる。
アリスの攻撃でこうならなかったのは、それこそ遠くで見ていた時くらいなもので……。
だが、これこそがアリス最大の攻撃でありその成果を指し示す福音とも言える。
まあ、校舎はめちゃくちゃだからユウカたちセミナーからしたら聞きたくもない音なのかもしれないが。
「まったく……先手必勝とはよく言ったものだ」
「す、すごい……」
「こんな火力、見たことない……」
こちら側の反応もさることながら、向こう側にも見物客はいるようだな。
十二分な威力ではあったが、恐らく直撃はしていないだろう。
そんなタマではないだろうし。
「……やったか?」
「おい……」
「アリスちゃん!そのセリフはむやみに言っちゃダメ!」
「あ、ネル先輩は三年生でした。言い直します。や、やっつけられましたか……?」
「いや、敬語の問題じゃなくて……!」
お約束をわざわざやる意味があるのかと野暮なことは言わん。
煙が晴れれば恐らくネル側が攻撃に転じるはず。
その前に、一言だけアリスに言っておこう。
「アリス、振り向かずに聞け」
「なんですか、先生?」
「お前にクエスト『00撃退戦』を与える。ネルを撃退しゲーム開発部を救え」
「はい!」
無茶だ、一人でか、そんな言葉を言うでもなくただ前だけを見据えアリスはクエストを受諾したのだ。
ならば私が何かを言うのは無粋、ここでその背を見守るくらいだ
00Ⅳ
「確かに、並大抵の火力じゃねぇが……ただ、それだけだ」
まああれくらいで倒れる事はないと踏んではいたが、それでもあそこまで元気な状態を保っているというのは想定外だな。
幾ら最強とは言え、アリスの武器を受けておきながら元気に動けるとは。
そう考えを巡らせつつも、ネルの指摘は最もな言い分であると私自身は理解している。
高火力、それだけだ。
別に小回りがいいわけでも、連射がきくわけでもない。
よって、一度放ってしまえば次の発射まではその性能を完全な状態で活かすことはできないのだ。
「も、もう一度、魔力を充電……!」
そんな中でアリスが選んだのはもう一度エネルギーをチャージして放つという手。
威力自体はネルが認めているのだから、それをもう一度溜めて直撃させれば今度こそは撃退できるのではないかと推測し行動すること自体は決して悪い事ではない。
それが出来るのであれば、だが。
「遅ぇよ」
「あっ……!」
相手がカイザーPMCの兵士程度ならばその行動は可能だったのだ。
しかし、相手はC&Cの部長。そんな隙を与えてくれるほどやさしい相手ではない。
ほんの一周の隙でも、距離を詰められ至近距離で二丁のサブマシンガンからの射撃を受けている。
「てめぇの武器は確かに強い。だが引き金を引いた後、発射までに最低でもコンマ数秒はかかる。その上、その強すぎる火力のせいで、相手にある程度の距離まで入られたら撃てねぇ。爆圧に自分まで巻き込まれるからな。そしてこの間合いであたしに勝てる奴なんざ、キヴォトス全体でもそう多くは……いや、一人もいねぇ」
そう宣うに相応しい動きでアリスの動ける隙を潰すように制圧射撃を行う。
……やはり強い。
現状、私が知る中でも上澄みだろう。
だが、それでも『撃退』出来ない理由にはならないはずだ。
「うぅ……」
「アリス!先生、何とかしてよ!!」
一切の身動きを封じられたアリスを見かねモモイが腕を組んで眺めている私に助けを求める。
こう言いたいのだろう、自分やミドリを救った時の様に一瞬でもいいからどうにかして欲しい。
確かに私が介入すればアリスを勝たせることは容易い。
障壁なり、鎖なりでネルに隙を作ってしまえばアリスは勝てるだろう。
だが、この勝負は少なくとも1対1の戦いでそれをアリスは承諾している。
そこに私が気付かれないとしても介入するのは違うはずだ。
だから私はその助けを意図的に無視した。
「思った以上にがっかりだったな。この程度で、あいつらがやられたとは到底……」
しかし、アリスもまたその程度で終わるような柔な生徒ではない。
飛び掛かりながら銃撃するネルに対して先ほどまで盾にしていた『光の剣』をまさに剣かこん棒の如く振り回しネルへと襲い掛かる。
「ぐっ!その銃身を、振り回せんのかよ……!」
撃てないのならば殴ってしまえばいいのだ。
相手が近接が得意でも、単純な腕力ならばアリスの方が上のはず。
そしてあの鉄の塊で殴られたならば例えネルとは言えそれなりのダメージを与えられるはず、そうなれば発射までの流れを行える。
最初からアリスの勝ち筋は一つなのだ。
『光の剣』をもう一度使い当てる事、ただそれだけ。
ならばそれを予定通り行うしかあるまい。
使える技をとにかく使うのではない、適切なタイミングかつ順序良く確実に。
あいつと同じだ。
「接近戦としては悪くねぇ判断だ……けどな。相変わらずこの距離じゃ、あたしの方が圧倒的に有利。てめぇは発射しようにも、あたしに照準を合わせられねえ」
無理やり掴みかかっていければいいんだがな。
アリスもネルも小柄だからリーチ上はそんなことはできない。
「……照準は、必要ありません」
「だから無理だって……ん?」
「何をするつもりだ……?」
「この状況で発射準備……?おい、まさかてめぇ……!?あたしじゃなくて……床に!?」
床だと?
なんて馬鹿な無茶な方法だ……それではアリスは自爆覚悟の攻撃になる。
だが、馬鹿な無茶事態は嫌いではない。
それにまず間違いなくネルに当てられる手ではある。
良いだろう。ならその後は私に任せろ。
「正気か!?そのまま撃ったらてめぇも……!」
「アリス、後の事は気にせずやれ」
「はい!光よ!!」
極光が大地を穿ち途轍もない爆発を巻き起こす。
振動と煙で現在の状況の把握すら困難な状態が校舎に齎される。
だが、それは向こう側も同じ撤退するなら今か。
「アリスちゃん!うっ、煙で視界が……!」
「床がほぼ崩れて……見つけたアリス!」
そこには武器を支えにボロボロになりながらも決して膝を着かずに立ち続けるアリスが居た。
あの攻撃を恐らくネルよりも受けたのはアリス自身、それでここまで意地でも立つと言うのは立派だな。
「に、肉体損傷48%……後退を望みます!」
「良く戦ったな、アリス。私が背負って行くから安心しろ」
「お願いします、急いで!」
「大丈夫だ。必ず連れて帰るさ」
この煙ならわざわざ私が魔法を使うまでもないだろう。
今度はC&Cと対峙する側で無い方で会いたいものだな。
00Ⅴ Side:C&C
「リーダー!」
エメトセルク一向がアリスを連れて早々に退散したのと同じ頃。
C&C側も殆ど同じような対応をしていた。
「だ、大丈夫でしょうか、まさか瓦礫に巻き込まれて……」
「さっき一瞬アリスちゃんが見えたけど、だいぶダメージ受けてたよ。今頃きっと、うちの小っちゃいリーダーもぺちゃんこに……」
全員が全員心配はしているものの、約一名軽口を挟む形にはなった。
確かにC&Cのメンバーは部長であるネルを除いて背が高い。
最も、彼女らの先生でもあるエメトセルクほどの長身ではないのだが。
「……誰が小っちゃいって!?」
そして『小さい』というワードにすぐに反応するのもいつものこと。
「あっ」
「わ~お、さすがうちのリーダー!全然ピンピンしてるじゃん!」
「てめぇはいったいどっちの味方なんだよ……!」
「今のアリスは戦闘力を失った状態だけど、このまま追いかける?だいぶ負傷してたし、保健室に向かってるはず」
「はい、ミレニアムには二桁以上の保健室があるとはいえ……すぐに見つかるでしょう」
負傷度合いで行けばネルの傷は殆ど無いようなもの。
となれば、4人揃ったC&Cを相手にアリスが戦えない状態のゲーム開発部では勝てないのは血を見るよりも明らかだった。
「…………」
「リーダー?」
だが、ネルはその提案がどうも好きではないらしい。
そもそもの話、アリスに一騎打ちの提案をしたのはネルだったのだ。
確かにアリスはネルを倒せてはいない。しかし、一発食らわせたのは事実。
それに言い出した手前のプライドもあった。
「いや、いい。追撃は無し、もう戻る。ひと暴れしたら、すっきりしたしな」
「……」
「目的は概ね達成した。リオがゲーム開発部に興味を持つ理由も分かったし……。それに……」
「分かった!気になっちゃったんでしょ~、エメトセルク先生のこと!」
「ばっ、違ぇよ!そ、そういうんじゃなくてだな……!」
気にならない訳ではない。
キヴォトスに突然現れた存在であり、着任して早々にアビドス関係で大きな動きを見せ世間の注目を集めた。
そして今度はミレニアムに来たと思えば、ゲーム開発部とゲーム制作に手を貸すというフットワークの軽さを見せたのだ。
そのくせ、あの先生についての情報は極度に少ない。
芝居がかった台詞回しと身振りが特徴的、『厭だ』が口癖でありながら生真面目で真摯な性格をしている……程度の情報しかない。
先生の過去についての情報などこれっぽっちもないのだ。
だからこそ気にならないと言えば嘘になる。
「ふふ、お気持ちは分かります。でも、少々心配ですね。あの子たちの体躯を見るに、先生の好みはおそらく……」
恐らくこの発言は現地にエメトセルクが居たならば声を上げて否定するだろう。
と言うよりはエメトセルクから見たら大体どの生徒も小柄の枠に入る。
そして誰もあずかり知らぬことではあるが、ソル時代の彼は結婚しているのだ。
最も、この情報が外に漏れたらどうなるかは分からないが。
「少なくともリーダーにとっては、悪い情報じゃない」
「うるせぇ!いつまでもそういうこと言ってっとぶっ飛ばすぞ!?はぁ……」
仲のいい限り。
先輩や上司を適度にネタに出来る環境と言うのは良いものである。
それこそエメトセルクがかつて旧友たちから揶揄われていたように。
(ゲーム開発部に、エメトセルク先生か……。先生はどうやってあたしの銃弾をあの一瞬で弾いたんだ……?……はっ。どっちにしろ、あたしをチビ扱いした償い、絶対にさせてやっからな)
『いや、私はそんなこと言っていないんだがな……』
とその心の声を聞いていたら彼は呟くだろうか。
何にしてもこうして得た縁はきっと次の冒険でまた繋がるだろう。
かつて『光の戦士』がそうして多くの出会いと縁が繋がっていった様に、この世界で懸命に使命を果たそうとするエメトセルクもきっと。
この物語はまだ始まったばかりである。
直近の文字数の3倍くらいになってしまった。
思う事として、パヴァーヌはなんでかレガシー後半と似てるなとか思う部分があります。
実際、書くときに聞いてるのは最後の討滅戦のBGMだったり。
そんな内容自体は似ていないと思うんですけどね。
エメトセルクが何処まで見たかに寄りますけど、そういうのも搦めてもいいのかどうか迷います。
次回まで少々お待ちください!
弊ヒカセン像について(選択肢や行動、人物像)
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出しても良き
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ダメ!死刑!
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良いが、幾つかの選択肢を混ぜて欲しい