エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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ん、メインヒロイン満を持して登場。

時系列が前後しますが、シロコです。
アビドス編ではエメトセルクをいい意味で振り回した彼女。
逆も同じで、エメトセルクだからこそ上手く扱えたのかもしれない。



シロコ絆ストーリー:走る古代人/個人面談

 

 

走る古代人:00Ⅰ

 

 

『スクランブルエッグ、牛乳500ml、トマト3切れ→朝ごはん』

『明日の朝、ランニングの後スーパーに寄る』

 

さて、この文章をモモトークで送られた時するべき反応はなんなのか。

 

『送り先を間違えているぞ』

 

と教えてやるべきなのだろう。

 

しかし、私は何故だか知らないが気になったのだ。

シロコはランニングやジョギング、ロードバイクと言った運動全般が好きである。

つまりはよく体を動かす少女でありながら、朝ごはんは何というかとても簡素なものであること。

そして何より牛乳が多くないかと。

 

「……これでは殆ど液体で腹を満たすことになるだろうに」

 

借金問題も目途が付き、アビドスも他校生が訪れる等の賑わいを徐々に取り戻しつつあるのだからもっとしっかり食べてもいいのではないかと思いもしたが、シロコは朝ごはんにそこまで食べないだけなのかもしれない。

だが、ラーメンもそこまでこってりしたものを食べていたイメージもない。

 

「まあ、女子高生の食生活に口を挟まない方が身のためか」

 

余程劣悪な食生活で無いのならばそこまで触れるものでもないだろう。

例えば体重を気にする生徒もいれば、背が低いことを気にする生徒もいる。

それぞれの逆もまた然り。

それに大して食事に拘りを持たずに仕事があれば仕事を優先する私に言われても説得力の欠片もないだろう。

 

結局私は促す方の返事を返した。

 

『送り先を間違えているぞ』

『あ。自分宛のメモだったのに間違えた、ごめん先生』

『別にメモ代わりに使っても構わないぞ』

『ん……そうすると先生のメッセージが埋もれちゃうから。』

 

何とも律儀な奴だ。

そんなに重要なことをモモトークで送っていないと思うのだが。

 

『あ、そういえば、今送っちゃった件なんだけど。書いた通り、明日の朝スーパーに寄って買い物にしようと思ってて。よかったら一緒にどう?』

『買い物?それなら時間的にも問題ないな』

『じゃあ、あの場所でね』

 

朝から買い物というのもたまにはいいか、それに他ならぬシロコの頼みだと軽い気持ちで返信したのはいいが、

あの場所か。

恐らくはランニングコースの場所だろう。

 

「待て。朝、ランニングの後にスーパー……まさか、私にもランニングをしろなどとは言わないだろうな」

 

そう思いながらも、私は個人的な買い物へと出かけた。

 

走る古代人:00Ⅱ

 

本当に走らされるのかと戦々恐々としながら、ランニングウェアを買ったまでは良かった。

そう、それが休みの日ならば。

ランニング後も仕事がある私がランニングウェアを着ていてもいいのかとふと我に返りしばらく悩んだ末、結局シャーレまで飛んで帰るのなら別に良いじゃないかと思い至り、意気揚々と準備万端の姿で現地まで向かったのだった。

 

そんな私、エメトセルクはランニングウェアでシロコの到着を腕を組みながら待っていた。

 

「先生、待った?」

 

私の恰好に困惑するでもなく、案外普通にいつもの少し静かめの声で話しかけるシロコが来た。

 

「いや。私もついさっき到着したところだ」

「そっか。それにしても先生、気合入ってる」

「流石にスーツで走るのは気が引けてな。郷に入っては郷に従えと言ったところだが……お前が制服なのを失念していたな」

 

驚くなかれ。

ロードバイクに乗って走り回っているときのシロコはそれ用の服装なのだが、それ以外の時は基本的に制服である。

まあ今日の場合は平日だからというのかもあるのかもしれないが……。

しかし今日に限ってそれは辛かった。

 

なんせ、私の完全装備が明らかに目立つ。

しかも、ランニング経験者のシロコがではなく、初心者である私がこの恰好なのがいけない。

はしゃぎ過ぎたか。

 

「ん、似合ってる。先生と黒色は本当に合う」

「それは私の服が黒色ばかりだからだろう……」

「キヴォトスに来る前も、黒色の服?」

「……まあ、そうだったな」

 

思い返せば皇帝の服、アシエンのローブ、ソピステスローブ。

全て黒色を基調としていたな。

それにこっちの世界に来ても、私の服は黒。

スーツもシャツも、ズボンも。

はたまた最近は黒色のネクタイすらし始め正直、黒服よりも黒服である。

もうその名前は私のものだと言いたい。

 

何なら黒服本人すら個人的に会った時にそのことについて言及していた。

 

「じゃあ、本当に黒色しか着てないんだ」

「職務上、そういう服しか着なかっただけだ」

「ならキヴォトスでは色んな色の服を着るべき」

「どうしてだ?」

「青色とか着ている先生も見てみたいから」

 

青色はどちらかと言えばあいつやヴェーネスあたりの色だろう。

それにお前の色でもあるだろうから被るのは避けるほうがいいのではないかとも思う。

まあ、私は今の色合いでもゲヘナ生と共にいると被るのだがな。

 

「……善処する」

「ん、じゃあ先生の自転車は青で」

「乗らんぞ」

 

私自身が自転車──とりわけロードバイクで移動するなどなかなか想像がつく光景ではない。

私の移動は電車、徒歩、そしてあまりにも面倒さが勝ると『テレポ』だ。

自分で操縦する乗り物など、あいつの領分だ。

 

……とは言え、魔導アーマーくらい用意しておいてもいいかなとは思うし、キヴォトスに来たのだから未体験の分野に挑んでみるのも良いかも知れないとも思う。

 

ならば別にロードバイクを買うのは厭では無いのだが、それを青色で買うというのはな。

 

「……」

 

しかし我が忠犬生徒はその返答が不満だったらしい。

その目から言いたいことはわかる。

乗れそして青色を買え、と。

 

そしてシロコの場合は中々引かない、諦めない。

断られても何度かはチャレンジするし私自身諦めずに何度もチャレンジされると何故かは知らないが了承してしまう癖がある。

 

「まあ、もし買うことになった場合はちょうど詳しい生徒がいるからな。選ぶ時そいつに一任すれば何色になっても文句は言えないだろう」

 

結果、私自身こうして妥協と言うか折れると言うか。

やはり、シロコだけはヒュトロダエウスから私との関わり方を学んだのではないか。

それくらい上手く私の対応を予測している。

別に厭な気持ちになるわけでもないが。

 

「ん、なら先生に一番良いやつを選ぶ」

「明言は避けるとして……そろそろ行くか?」

「スーパーはすぐそこだから、ランニングってほどにはならないけどいい?」

「むしろ助かるくらいだ。最初から飛ばすわけにもいかんしな」

「じゃあ、先生は後ろを着いてきて」

 

そう言ってシロコがそれなりの速度で走り始めたので、私も慣らし感覚で後を追い始める。

一体どれほどの速度になるのかと思い内心では戦々恐々としていたが、エルピスであいつに着いていった時と比べればなんのその。

突然、滝の下に飛び降りるわけでもなく平坦な道、時々坂道を走るだけ。

これくらいどうという事はない、と思っていたのも最初の1時間を過ぎるまでだった。

 

「ハァ……ハァ……おい!まだ着かないのか!」

「先生、結構頑張るね。きちんと着いてこれると思ってなかった」

「この程度……ハァ……どうという事は……ない。で、スーパーは何処だ!!」

「うーん。これで半分くらい?」

「ふざけるな!!」

「今度は少しゆっくり走るから、一緒に行こう、先生」

「おい、待てーー!」

 

どこがゆっくりなんだと問いかけたいほどにシロコの速度は速かった。

キヴォトス人……いや、シロコの体力はどうなっている?

持久力とかそんなレベルの話ではない。

休むことなく1時間もかなりの速度で走り続けるなんてとてもじゃないが私には、厳しい部分がある。

 

これでも、ソルの身体は元軍人。

この身が当時のソルでないにせよ、それなりに動けるにも関わらず全力で走らねば見失うほどに驚異的である。

 

だが、私とてこの程度で音を上げるほど柔な人生を送っていない。

シロコを止めて歩かせればいいものをまた一時間走り続け、ようやっとスーパーまでたどり着いた。

 

「到着。ここが例のスーパーだよ。先生……大丈夫?顔色が悪いけど……」

「……どれだけ走った?」

「うーん、15kmくらい……?」

「何が、15kmくらいだ。すぐそこが15kmも離れていると誰が思う!」

 

本当によくやったと自分を褒めてやりたい。

まず間違いなくスーツでは諦めてテレポしていただろう。

それくらいの距離を私は走破したのだ。

歩いていけばどれだけ楽だったのかと思いながらも。

 

「朝ランニングして帰り道に寄るのに、ちょうどいい距離なんだよね。本当はもっと遠く離れたコンビニに行こうと思ってたけど先生と一緒だから。これくらいだったら案外乗り物なしで行けるでしょ?」

「……ここまで走った以上は無理とは言えないのが厭な所だな。はぁ、これで漸く休めると言うわけだ」

「ん、先生。帰りも15kmある」

「……帰りは歩くぞ」

 

本日の学び。

合計30kmを休まずに走破など、あいつくらいの物好きでなければすることではないということだ。

 

個人面談:00Ⅰ

 

ランニング以降、シロコと話す機会が増えた。

元々、話す機会に恵まれていた生徒でもあったしアビドスでは最初に懐いてくれた生徒でもあった。

そこに趣味の部分が合わさって私と共にランニングしたりロードバイクで旅をしたり、銀行強盗の計画を未然に防ぐと言った最後を除けば日常的な付き合いが増えただけに過ぎなかった。

 

アビドス復興の傍らで変わらない日常は良くも悪くもカイザー理事や黒服の企みを粉砕するために動き回っていたあの日の成果の一つでもある。

だから私はシロコ以外の対策委員会のメンバーや元ヘルメット団の奴らも含め、彼女たちの日常に混ざりキヴォトスでしか味わえない空気感を満喫はしていた。

しかしシロコと接しているとどうしてもホシノの言葉が脳裏に浮かぶのだ。

 

――シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えてないと、どうなっちゃうか分からない子で。悪い道に逸れちゃったりしないように、支えてあげてほしい。

 

その言葉を手紙で見た時は正直なところ、ホシノがそれを言うのかと思った部分もあった。

あいつこそ誰かが横にいないと何をしでかすか分からない危うさを持っていたからな。

とは言え、託されたことに違いはないのだ。

 

実際、シロコの危険な行動については私の目で見てきた部分もある。

元が悪いとかそういうわけではなく、ある意味ではホシノと同じで『自分がやらないと』という意識が強いのだろう。

そのため、私も別に怒るわけでもなく見守る方針を立ててはいたがそれでも最近の危険な行動は目に余る。

 

電光掲示板に登って銀行強盗のシミュレーション。

執拗に輸送車を追いかけその為なら、多少の危険な行為すら意に介さずに行うその姿勢は確かに危うさはあるだろう。

 

だからこそ、私は『個人面談』の為にシロコを空き教室に呼び出した。

 

「とはいえ、私が言ってもな……」

 

正直なところ、私も多少の危険な行為など気にも留めない。

勿論それは私の実力ならば容易に切り抜けられるからなのだが、深く事情を知らないシロコからすればきっとお前が言うなと思うことだろう。

シロコは物わかりがいいから言いたい事は理解してくれるはずだが、伝え方というのがこれまた難しい。

 

どうしたものかと思案していたら、シロコが入ってきてしまった。

 

「ん……。約束通り来たよ先生。どうしたの?シャーレのお仕事の話?それともアビドスに関係すること?」

「まあ、座れ。そんな警戒する話でもない」

「分かった……」

 

そう言いながら椅子ではなく机に座るのを見て、それはどうなんだと思いつつも私の言い方的にも仕方ないのかと思い直した。

それにこれくらい楽な格好で聞いてくれる方が私も色々話易いかもしれない。

とはいえやはり切り出し方は難しいのだ。

 

相手がアゼムやヒュトロダエウス、あいつならもっと楽に言い出せた。

だが相手は生徒で、友人ではない。

幾ら行動を共にしようとも、月日で言えばアゼムやヒュトロダエウスに勝てないのだ。

 

そんな私を見て何を考えているのか気になったのか、それとも真意を測りかねたのか先にシロコが口を開いた。

 

「何かやって欲しいことある?先生を手伝う為にここにいるから」

「お前はどうしてそこまで私を助けようとする?」

 

まずは素朴な疑問をぶつける事にした。

最初から思っていたことではある。見ず知らずの男を拾い、学校まで案内しすぐに懐き私の言うことは素直に受け止める。

それがアビドスでの仕事を終えてからなら納得はできる。

しかし、初めて会った日からなのだ。

 

私は万人に好かれるほど、優しくも素直でもない。

 

「先生がアビドスの為に一生懸命頑張ってくれたから」

「お前の場合、最初から私を信じていたじゃないか。正直、大半がセリカのような反応だろうと思っていたしそれでも文句は言えなかったぞ」

 

セリカ、ここでは言及しなかったがホシノ。

当時の二人の反応こそが正しいと言えば正しい。

もし私ではなくアゼムやあいつ、ヴェーネスだったと言うのなら話はわかる。

目に見えて人助けをしそうな奴らだ。

しかし私はそんな雰囲気を纏ってなどいないどころか、人によっては怖そうと思うのが通り。

実際ホシノは手紙で『悪そうで怖い顔の人』と例えていたようにな。

 

だがシロコ、ノノミ、アヤネは違った。

とりわけシロコは警戒など感じなかったし、むしろ懐に飛び込んできた。

それが謎だったのだ。

 

私の問いにシロコは少し照れたような、困惑したような顔をして続けた。

 

「初めて先生を見た時、悪い人じゃない良い人だって思ったから」

「何をもってそう思えたんだ?」

「……雰囲気?」

 

驚きの回答だった。

何なら初対面の時は暑さでやられてだいぶ声を上げたような気もするのだが……。

 

「それに先生は私が現状を恥ずかしいって言ったらそんな事はないって私たちのことを認めてくれた。その後だってそう。借金問題にも怒ってくれて、私たちから目を逸らさずにずっと見守ってくれた。それだけじゃない。今アビドスがこうして存在して前よりも良い環境になったのは先生のおかげだから」

 

面と向かって言われると恥ずかしいものだ。

いつもなら否定しただろう、私じゃないお前たちが掴んだ結末だと。

しかしそれはこうして打ち明けてくれたシロコに対して失礼だという想いが私の中にあった。

 

「……そう思ってくれる奴がいるのなら、私がキヴォトスに来た意味もあったのだろうな」

「それは間違いない。先生が居たから、先生だから出来た事だと思う。先生の話ってこのこと?」

「いや、少し気になってた事を先に聞いただけだ」

 

アイスブレイクなどと言うのはあまりする事もないが、今回ばかりはいいアイスブレイクだったと言える。

そこまで私を信じてくれているのなら、少しくらい踏み込んで話をしてもいいだろうと改めて思えたからな。

 

「さて、本題だが……昨日の夜何をしていた?」

「昨日の夜?ライディングをして、家に帰ってシャワーを夕飯には焼き魚を……」

「その前だ」

「その前?ライディングの前はKVハイウェイの電光掲示板に登って、現金輸送車両を奪取するシミュレーションを……あ」

 

そこまで言ってシロコも気付いた。

私はそれを知っていて今話をしに来ているのだと。

だから少しバツの悪そうな顔になる。

以前やめておけよと言われていた事をやってしまったから、そして何よりそれを私が知っていたことに。

 

「今のアビドスの状況で強盗は必要ない。それでもカイザー系列の会社に痛手を負わせてやりたいと言う気持ちはわかるから、叱ったりはしない。だが、それでもお前が危険な行動をすれば心配する奴がいることを忘れるなよ」

「う……うーん。言いたいことはわかるけど……うん。何を話しても言い訳になる……」

 

これがシロコの危うさなのだろう。

責任感というか、やり遂げようとする思いが強いからこそ、今よりももっと良くしようと率先して動きすぎた。

そんな彼女を見て私は内心苦笑いを浮かべる。

 

本当によく似たホシノとよく似た後輩だよ。

 

「お前、ホシノが退部届を書いていた時なぜ怒った?」

「それはみんなで頑張ろうってしてるのに、一人で全部どうにかしようとしてるように思えたから……」

「なら、お前が一人で強盗までして金を手に入れた事を知ったホシノやノノミ、アヤネにセリカはどう思う?」

「……心配するし……怒るね」

「そういうことだ」

 

ホシノとシロコの立ち位置が逆だったとしても、退部届は書かれていただろうしあの喧嘩は起きていただろう。

つまりは、一人で何事も抱え込みすぎるなと私は言いたかった。

 

「先生も心配する?」

「私の場合はそれを察して止めるのが仕事なわけだが……心配はするさ。怒ることの方が多そうではあるだろうが」

 

止めるし、必ず危機からは救い出そうとするだろう。

そうしなければ怒ることすらできまい。

怒れるのだって、相手が生きているから出来ること。

だから私はそういう難しい役回りだ。

 

「分かった。先生は私のことを心配して言ってるんだから、肝に命じる。ん……ごめん、こんな不良な生徒で」

「お前を不良認定するには私の経験からまだまだ余裕がある、だからそんな縮こまる必要はない」

「先生は不良な生徒を教えた経験あるの?」

「生徒と言うよりは旧友だが……一人で突っ走って心配ばかりかけさせるくせに、問題は解決してくる厄介な奴がいたんだよ」

 

アゼムとの経験は私がキヴォトスで先生をやる上で本当に大きな優位になっている。

なんせ何をされてもまあ、アゼムと比べたらまだこちらで対処できるだけマシかと思えてしまうのだから。

 

「先生もなかなか大変な経験をしてるんだね……」

「まあその経験のおかげで、キヴォトスのある意味で常識はずれの手段や行動にも対応できると思えば……な」

 

それでもこちら側でしか味わえない事件や問題は数多く存在する。

私の許容範囲が広くて本当に良かったと最近ではある種の感謝すらしているくらいだ。

 

「私からもいい?」

 

伝えたいことを言い終えた私に今度はシロコから話を切り出した。

 

「どうした、何か不満な点があったか?」

「ううん。ただ……先生も一人で抱え込まないで少しくらい私たちを頼ってほしい」

「……」

 

困ったことに何も言い返せなかった。

考慮していなかったわけではない、むしろ言われることくらいは想定していたし返しも用意していたつもりだったんだ。

だが、厄介なことにこうして切実に頼まれると上手く切り返せない。

何を言おうと言い訳になる、とシロコではないが私自身がそういう状態になった。

 

だから私はひとしきりシロコの顔を眺め、考えを巡らせた。

私に出来るのは彼女の想いに真摯に向き合って自分の中で答えを探すこと、例えそれが中途半端であろうとも。

 

「正直なところ、今日言われて明日から改善というのは難しい。それに私は先生で、お前たちを守るためならば打てる手を全て打つ必要があるからな。だが……そうだなキヴォトスでくらいは私も頼る事を覚えるべきなのかもしれない」

 

それが出来たら苦労はしないのだ。

英雄などいなかった私たちに、それでも私が犠牲になれば救われるのだとしたらと。

そんな私が全てを託し終えてきたキヴォトスなのだ。

しかし、性格というものはそう簡単に変わるものでは無かったがそれでも先生としての在り方をある程度見つけられた今ならばこそ。

 

そんな事を考えながら徐に伸ばした手でシロコの頭を撫でてやる。

 

「わ、何、先生。こ、こんなに撫でられても……」

 

文句なのか、それとも続ければいいのか分からない返答を聞きながら改めて思いを巡らせる。

あの日この手からすり抜けて行った日常は戻ってはこない。だが、新たなに日常を守り抜く事は出来る筈だ。

手が届く限り、いや届かせるのだと。

 

「何故かは知らないが無性に撫でてやりたくなった。恐らくお前が、出来の良い生徒だからだろうな」

「ん、ならもっと撫でるべき」

 

そうしてしばらくの間、その頭を撫でることになった。

だがまあ、たまにはこういう日常も悪くはないな。




なんだかんだ良いコンビなんじゃないかと思うこの二人。
エメトセルクがストッパーしてるなと思います。

多分これが、ヒカセンとかアゼムだとそうはいかないなと。

黄金のレガシーのネタバレネタは有り?

  • 有り
  • ダメ!死刑!
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