エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

43 / 53
更新が遅かったのはエデン条約編を再度見直して、書くたびにうーんってなりながら書き溜めしてました。

絆ストーリーもやりつつですが、やはり本編に入るのがいいかと。

エデン条約編のBGMは悩んだんですが、やはり章ごとに考えようかなと。

※注意! 
エデン条約編はエメトセルクが怒るシーンも多くなります。それは生徒に対しても他のキャラに対してもです。
多分、エメトセルクにとって幾つか地雷な発言があったりもするだろうからです。




Vol.3 エデン条約編 第1章 エメトセルクの補習授業
1-1 お茶会


楽園と聞いて何を思い浮かべるか。

私にとっての楽園は、私が愛した『過去』にある。

記憶を取り戻し、星海での出来事を踏まえればヘルメス、アテナという例があるとしても私には私たちの時代が楽園である事に変わらない。

 

ある者は希望の園エデンを思い浮かべるかもしれない。

そして同じ楽園の名を関する条約こそキヴォトス……いや、トリニティとゲヘナにとっては過去の遺恨を捨て去るための手段なのだろう。

 

だがそうして出来た楽園は仮初にすぎないだろう。

たかが条約で過去の全てが消えるわけでもあるまい。

それが出来ると言うのならば、それこそ条約などなくても自分たちだけで成し遂げられたはずだ。

 

だが、そうはならなかったのだ。

 

エメトセルクの手記7

 

00Ⅰ

 

「……つまるところ。エデン条約と言うのは、『憎み合うのはもうやめよう』という条約。トリニティとゲヘナの間で、長きにわたって存在してきた、確執にも近い敵対関係。そこに終止符を打たんとするもの。互いが互いを信じられないが故に久遠に集積していくしかなかった憎悪を解消するため、それに変わって新たに信頼を築き始めようとするプロセス」

 

見知らぬ夜の茶会の場。

これが夢であることくらいは理解しながら、見たこともない狐のような生徒と私は向き合い、彼女の話を聞いていた。

 

「より簡単に言おうか。つまりはゲヘナとトリニティの平和条約だ」

 

心底無価値な条約だと私は思う。

互いを知りもしないで争って、そして今度は知りもしないのに争いをやめて信頼し合おうなど、無理に決まっている。

そんなことをする暇があるのならば、相手を知る努力をしろと言いたい。

 

「ただ、連邦生徒会長の失踪をきっかけに、この条約は何の意味も持たなくなってしまった。『エデン』……それは太古に出てくる楽園の名。そこにどんな意味を閉じ込めていたのかはわからないけれど、まあ連邦生徒会長のいつもの悪趣味だろうね」

 

その言葉こそ本質。

連邦生徒会長がいなくなったら意味のない条約……互いに本当に信頼する気などない、形骸化された楽園。

そんなものを未だ信じて締結にこぎつけようとしているのか。

 

私は口には出さないが、元々の反対意思をより強くするだけだった。

結ぶなら勝手にすればいいし、妨害もしない。

だが、私は協力などこれっぽっちもしたくない。

 

その条約で謳われる文句など散々使ってきた。

そうやって私たちは種を撒いたが、いつだって悪意の花を咲かせたのは私たちではなくその場にいるものだった。

だからこそ、この条約すらそう言った利用のされ方をする。

 

そんな私の表情から察してか少女は話題を変える。

 

「キヴォトスの、『七つの古則』はご存知かい?その五つ目は、まさに『楽園』に関する質問だったね。『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』。他の古則もまたそうであるように、少々理解に困る言葉の羅列だ。ただ一つの解釈として、これを『楽園の存在証明に対するパラドックス』であると見ることができる。もし楽園というものが存在するのならば、そこに辿り着いた者は、至上の満足と喜びを抱くが故に、永遠に楽園の外に出ることはない」

 

私たちの楽園は失われた。

楽園の中に住む者が抱いた疑問から生じた可能性によって。

別に私はヘルメスを責めるつもりはない。

ただ事実としてはそうであると言うだけだ。

 

それにある種別の見方をすれば、私たちの楽園が続いていればいつかまた別の終末があったのだろうとも言える。

故に楽園に終末が訪れ、分割されたのはある意味では……必然であったのかもしれない。

 

「もし楽園の外に出たのであれば、つまりそこは真の悦楽を得られるような『本当の楽園』ではなかったということだ。であるならば、楽園に到達した者が、楽園の外で観測されることはない。存在を捕捉されうるはずがない」

 

それは違うのではないかというのが私の考えだ。

楽園など星の数ほどある。

死した者とまた逢えるのが楽園、自分の望むものがすべて手に入るのが楽園……。

それと同時に、その楽園を楽園と思わないものもいる。

 

正しくユールモアこそその代表例だろう。

バウスリーにとっては楽園、金持ちからしても騙されている間は楽園。だが、下層民なりバウスリーの方針に意を唱える者からすれば楽園の皮を被った地獄。

 

よって楽園に辿り着くことは可能であり、それを観測することもできる。

しかしその楽園が観測者にとっての楽園たり得るかまでは不明、というのがその古則への私なりの解答だ。

 

「存在しない者の真実を証明することはできるのか?つまるところ……この五つ目の古則は、はじめから証明することが出来ないことに関する『不可解な問い』なのだよ。しかしここで同時に、思うことがある。証明できない真実は無価値だろうか?この冷笑にも近い文章を通じて、何か真に問いたいことがあるのではないだろうか?」

 

これが夢で無かったのなら、目の前の少女とは幾らでも議論できただろう。

だが私はこれを夢であると知っている以上、議論などせずただ聞いているだけだ。

いや、正しくは『話すことが出来ない』が正解だがな。

 

「エデン……経典に出てくる楽園。どこにも存在せず、探すことも能わぬ場所。夢想家たちが描く、甘い甘い虚像。どうだい?そう聞いてみると、この『エデン条約』そのものが、まさしくそのように思えてこないかい?」

 

鋭い指摘だろう。

むしろそう思える生徒がいた事に私は嬉しさを覚えるよ。

 

「……先生。もしかしたらこれから始まる話は、君のような者には適さない、似つかわしくない話かもしれない。不快で、不愉快で、忌まわしく、眉を顰めるような……相手を疑い、前提を疑い、思い込みを疑い、真実を疑うような……悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような……それでいて、ただただ後味の悪いそんな話だ」

 

形骸化した楽園に纏わる話などそんなものだろう。

そしてそれを私に適さないという少女はキヴォトスでの私しか知らない故の見誤り。

 

不快で、不愉快で、忌まわしく、眉を顰めたくなるような陰鬱にして暗澹たる物語。

 

ああ、私はそんな光景を何度だって見てきた。

どれだけうんざりさせられたか、期待を裏切られたか。

そうして、何度も『人』を疑い判じた。

 

世界を護っていくには足りないのだと。

だが、それでも最期に私は路を譲った。

 

あの日までは、そんな物語を利用してきた側。

だが、ここでは違うのだ。

 

「しかし同時に、紛れもない真実の話でもある。どうか背を向けず、目を背けず……最後のその時まで、しっかり見ていてほしい。それが先生……『この先』を選んだ、君の義務だ」

 

だからそう『義務』としてではなく、

『先生』として『人』として『この先』とやらを見てやろう。

 

私はあいつじゃない。

 

あいつなら例え少女の言うような後味の悪い話でも最後まで信じそして結末を変えるだろう。

私は例えその模倣に過ぎないとしても、それでもこの地では然るべき星になろう。

 

故に私は何が来ようが目を背けはしない。

私は全てを見てそして判じよう。

この物語の結末、そしてそこにある楽園を。

 

00Ⅱ

 

良く晴れた日、陽光が暖かく差し込むテラスにて私は出来る事なら今この時期には会いたくないと思っていた連中……トリニティのティーパーティーからの招待を受けティータイムを興じていた。

 

「こんにちは、エメトセルク先生。こうしてお会いするのは初めまして、ですね。ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサと申します。そしてこちらは、同じくティーパーティーのメンバー、聖園ミカさんです」

 

優雅さと陽気さのコンビネーション。

桐藤ナギサと名乗った少女は、落ち着いた印象と優雅さ。

そして彼女から紹介を受け溢れんばかりの笑顔で挨拶をした聖園ミカという少女は、微かな違和感こそあれ、天真爛漫さと明るさが滲み出ている。

それに対して中々に複雑な顔をして紅茶を飲むこの私。

 

絵面は、お世辞にも絵になる茶会とは言えなかった。

 

「あらためまして、お初にお目にかかります。私たちがトリニティの生徒会、ティーパーティーです」

「ご丁寧にどうも、エメトセルクだ」

 

声からはこれから頼まれるであろう面倒事への不満が漏れてしまっていた。

厭だとも言えないが、楽しみとは到底言えない。

面倒事はいつだって、嫌いなんだ。

 

「へー、これが噂の先生かー。あんまり私たちと変わらない感じなんだね?強いて言うなら背が凄く高くて眉間の皺がすごいくらい?」

 

随分と興味津々に私を見るのは、聖園ミカ。

 

映像や新聞の記事、果てはこいつらが持っているであろう私に関する報告書とは違う本物の私。

 

確かに、外見上は確かにあまり変わらない。

それこそ、ミカが言う通り背が高く……眉間に皺があることくらいか。

 

しかし、中身は大きく異なる。

まさか目の前の人が、1万2000年も生きた存在だとは思いもしないだろう。

 

「なるほどー、ふーん……うん、私は結構良いと思う!!ナギちゃん的にはどう?」

「……ミカさん、初対面でそういった話はあまり礼儀がなっていませんよ。愛が溢れるのは結構ですが、時と場所は選びましょうね」

「うぅっ、それはまあ確かに……。先生、ごめんね?まあとりあえず、これからよろしくってことで!」

「……そうだな」

 

ミカの挨拶に返答した私だがその内心は決して穏やかなものではなかった。

この時期の、このメンツ……十中八九頼まれる事は目に見えている。

ああ、確かに夢の中でその話題には触れたし目を逸らしたりなどしないと決めた。

 

だが、それでも。

このキヴォトスに来て初めてその条約を知った時から思ったことは早々消えるものでは無いのだ。

 

「……トリニティの外の方が、このティーパーティーの場に正体されたのは、私の記憶では先生が初めてです。普段は、トリニティの一般の生徒たちも簡単には招待されない席でして……」

「あー、何それナギちゃんちょっといやらしい!恩着せがましい感じー!」

「……失礼しました、先生。そういった意図は無かったのですが……それはさておき、ミカさん?」

「あー……ごめん、大人しくしてるね。できるだけ」

「……では、あらためて。こうして先生をご招待したのは、少々お願いしたいことがありまして」

 

正直なところ、この本題をずっと待っていた。

どれだけ面倒な内容なら私を直々にご招待してくださるのか、それについて興味があったからだ。

別に嫌っているとかではない。

これがもし、本当に他意のないお茶会の誘いならここまで警戒する必要もなかったのだ。

何ならアビドスの時に世話になっているからな。

だが、他意しか感じないのだ。

 

「おおっ、ナギちゃんいきなりだね!?もうちょっとこう、アイスブレイクとか要らないの?ちょっとした小粋な雑談とかは?」

「ご配慮痛み入るが、生憎そういう性分でも無くてな……」

「えー!先生、お芝居好きとか聞いたのに!!」

 

しくじったな。

噂とやらで何処まで知られているのかまでは考慮していなかったが、私の趣味を調べたりは流石にしていたか。

こっちに来て、そういうところが抜けてしまっていた、それだけわきが甘くなったということだろう。

 

バツが悪そうに紅茶を飲みながら、先ほど感じた違和感の正体を探るためミカの顔を見てみる。

ナギサとの会話を見るに、ナギサの方が賢い筈なのだがどうしてもこう、綺麗に呑み込みきれない違和感を感じる。

 

いい意味で、綿菓子のような柔らかい雰囲気を纏っているのだが、本質的にはそんなことはない。

まるで何かを隠す、それも私ではなくナギサに対して。

 

そう感じるのは私がそもそも邪推する側だからなのか、それとも本当に彼女が何かを企んでいるからなのか。

もしくはトリニティそのものにそういう気風があるのか。

 

「せ、先生、そんなに見られると恥ずかしいかな~」

「……確かに噂が好きそうな顔だなと」

「なにそれー!!じゃあ先生の顔は……」

「ミカさん?」

「うぅ……はい」

 

この言い合いも恐らく二人にとってはよくあることなのだろう。

お互いに顔に対して内心はそこまで怒っていないことくらいは見て取れる。

だが、その仲の良さにも役職や立場が邪魔している部分もある。

何とも役職など持ちたくないものだな。

最後まで『エメトセルク』を貫いた私が言うのもあれだがな。

 

「さて……何を私に『お願い』したいんだ?」

「……わーお。先生の方が単刀直入に聞いてきたね」

「……いいでしょう。私たちが先生にお願いしたいことは、簡単なことです」

「簡単だけど、重要なことだよ」

「はい、そうですね。……補習授業部の、顧問になっていただけませんか?」

「補習授業部……?」

 

なんともおかしな部活だ。

そもそも、補習する時点で部活などは行けずに集中的に勉強をするべきだ。

だが、ここではそれを部活として作っているのだ。

 

「はい。つまり、落第の危機に陥っている生徒たちを救っていただきたいのです。『部』という形ではありますが、今回は顧問というより『担任の先生』と言った方が良いかもしれませんね。トリニティ総合学園は、昔からキヴォトスにおいて『文武両道』を掲げる、歴史と伝統が息づく学園です。それなのにあろうことか、よりにもよってこの時期に、成績の振るわない方が4名もいらっしゃいまして……」

「私たちとしてはちょっと困ったタイミングでっていうか……。『エデン条約』の件で、今はバタバタしててね。あの子たちの件も何とか解決しないといけないんだけど、人手も時間も足りなくって……その時にちょうど見つけたの!新聞に載ってた『シャーレ』の活躍っぷりを!」

「で、お前たちは閃いた訳だ。『ああ、シャーレになら面倒事を任せられる』と」

 

賢い選択ではあるとは思う、シャーレは確かに些細な問題に駆り出されることもある。

かと思えば、アビドスの時の様に些細な依頼の予定がキヴォトスを揺るがす事件だったりしたりもする。

そこで、この私に依頼してしまおうというのは良いと思う。

当の本人は厭だと思っているのだが。

 

「……『面倒事』なんてまさかそんな」

「ま、まあでも、ある意味本当のことでもあるし……それに、『先生』なんでしょ?今はみんなBDで学習する時代だし、学校の職員とか、教授とかならまだしも、『先生』って概念は珍しいんだよね。先の道を生きると書いて『先生』……つまり、『導いてくれる役割』ってことだよね?尊敬の対象、あるいは生きる指針としてみんなに手を差し伸べ、導く……『補習授業部』の顧問として、これはぴったりだなって思って!」

 

先に生きる者という私の考えに近い意見を述べる生徒が居るとはな……。

確かにミカの言い分では、私というより『先生』ほど今回の任務……つまりは推定落ちこぼれ候補たちを導く役割に向いている者は他にないだろう。

 

「噂では、よく文句を言っているとの話は聞きますが……」

「あー、そうだったね。でも、どの噂にも共通して『きちんとやり遂げる人』って」

「……噂なら幾らでも言えるからな。実際はそんな大層な奴じゃない」

 

謙遜などではなく、単純に要らぬ期待などされたくないのだ。

基本的に私は自分に出来る事を最大限しているだけ。

誰かを救っているというのなら、それは救われる奴がしっかりと自分で選択しているだけなのだから。

 

「とにかく!今はちょっと忙しいこともあって、ぜひ先生に、この子たちを引き受けて欲しいの!」

「もう少々説明しますと……この『補習授業部』は常設されているものではなく、特殊な事態に応じて創設し、救済が必要な生徒たちを加入させるものです。少々特殊な形ではありますが、急ぎということもあり、シャーレの超法規的な権限をお借りしつつ……といった形ですね。色々とややこしいですが、本質はあくまで『成績の振るわない生徒たちを救済すること』にあります。だからこそ、こういった特殊な形での創設が許されたわけですが……いかがでしょう、先生?助けが必要な生徒たちに、手を差し伸べていただけませんか?」

 

ミカへの違和感とは違う違和感がまた芽生える。

 

ナギサの説明は一見すると特に何の問題もなく聞こえはする。

だが、よく聞くとおかしな部分があると思うのだ。

 

『補習授業部は常設ではなく、特殊な事態に応じて創設し、救済が必要な生徒たちを加入させるもの』という事はこれまでも創設された可能性がある。

という事はわざわざシャーレの権限などを借りずとも良いのだ。

 

しかし、こうも言った。

『少々特殊な形で、急ぎのためシャーレの超法規的な権限を借りた』と。

という事はこれまでのどの特殊な事態にも該当しなかったということ。

だが、それが何なのかすら一言も言わず、助けが必要な生徒たちに手を差し伸べろという。

 

何かを意図的に隠している。

それに先ほどから気になっていたが、ティーパーティーの代表は3人のはず。

だが、私の前に居るのは2人で3人目が不在の理由は触れもしない。

 

「……」

「先生……?」

 

では何を隠しているのか。

3人目がどうなっているのか、そして今回創設される特殊な事態。

それだけではない、何故か勝手に利用されたシャーレの権限。そして、エデン条約。

ティーパーティーが一人欠けている状態ということを考慮すれば、トリニティ内部でティーパーティーがどれだけの立場を保てているのだろうか。

エデン条約締結を主導するティーパーティーとしては、要らぬ誤解や騒動はごめん被るのだろう。

 

つまりは、大義名分をもっての内部への牽制か?

それだけではない。

選ばれた生徒も気になる。

個人情報かもしれないが、それでも手の付けられない程の不良だった場合も想定しなければ。

 

 

「現時点での情報では受けるつもりはない」

「意外です。噂ではどんな依頼でも受けると、聞いていたのですが……」

「今回の様に明らかに情報が欠けている状態などなかったからな。逆に聞くが、お前は私がこの情報だけで首を縦に振ると考えていたのか?」

「……」

「現状ではお前たちが熱を入れているエデン条約のため、諸々面倒な事を片付ける道化を演じろ、と言われているようにしか思えない」

 

正直に言おう。

私自身がエデン条約に関わりたくないと思っていたとしても、頼まれた以上は『先生』として関わらずを得ないのだ。

それについて厭だなんて言ってられない。

 

そしてこいつらの求めているモノが何であれ、私を利用したいという事実に違いはない。

ならば望む役を演じてやるのは、この際いいだろう。

だが、幾ら何でも私に敢えて知らせない部分が多すぎる。

 

「道化、ですか。先生は随分と……はっきりとモノを仰るのですね」

「そもそもの話、ティーパーティーは3人のはずだが今私の前に居るのは2人。些細な話題で不在ならばまだしも、シャーレの権限を勝手に使うほど特殊な事態だ、通常ならば3人揃って話をするのが道理。しかし、そうではないと言うのなら……3人目に何かあったに違いない。だが、私にそれを明かさずに勝手に話を進めてどれほどの問題児がいるのかも開示せず、成績の振るわない生徒たちを救済しろとだけ言う。これを道化と評さないでなんと言うんだ?」

 

ひとしきり私の意見を言ったところでそろそろ冷めつつある紅茶を再び口に含ませ、二人を見やる。

 

二人を見やる。

各々の表情を無理やり簡潔な言葉で言い表すのならば、困惑と言えばいいのだが実際のところはそんな感情だけではない。

例えばそう、警戒感。

 

噂とやらがどの程度のものであったにせよ、私の趣味まである程度知られていることからすると詳細なものである事が伺える。

であるならば、私が口ではどう言おうが依頼を拒絶することはなく、拒絶の意を示す事はないと考えていたのだろう。

勿論、拒絶されたとしても説得するための手段は用意していただろう。

 

補習を必要とする生徒を前面に押し出して救わなくていいのかとか。

 

だが、私から出た拒絶の言葉はどちらかと言えばティーパーティーの姿勢に対するもの。

お人よしなら、3人目が居ないのも偶々だと思うのかもしれないし道化だと思っても口にはしないのかもしれない。

しかし私は違う。

 

お人よしでもなければ、思った事を敢えて呑み込んでやりもしない。

裏がある物事くらいは直ぐに分かるし、この依頼やティーパーティーの面々に対しての違和感も当然に持ち合わせてしまう。

それくらいには人という存在を知ってしまっている故に。

 

「別に道化を演じるのが厭だ、と言いたいんじゃない。それくらい不本意ながら演じた事はあるからな。それにあれこれと推察したが、今のお前たちがそれを私に言えないという事情もあるだろうしな」

 

勝手に権限を使った癖にと思う部分もあるが、まあこいつらからすれば私は部外者。

部外者に明かしたくないこと等、いくらでもあるだろう。

 

「……では、私たちが事情を話したとして先生はご協力していただけるのでしょうか」

「さあな。だが、今明かす方が後々私に説明するよりはマシだとは言える」

 

望んでいた答えを言わない私にナギサは「さて、どうするか」と思案するように紅茶を飲み、隣にいるミカを見る。

ナギサからすればここで情報を開示することは、リスクでしかない。

説明したとして私が手を貸す確証などなく、むしろ外部に漏れる原因になるかもしれない。

しかし、明かさないこともリスクだ。

 

現状では私を動かす事は難しいだけではなく、勝手に権限を使った以上は今後のシャーレとの関係にも影響を及ぼす可能性がある。

言うか言わないか、よりリスクの少ない方は……言うほうだな。

だが、ナギサは口を開くのではなく先に資料を4部手渡してきた。

 

「そちらの方々が対象です」

 

生徒の顔にいくつかの情報、資料を見れば大体必要な情報が目に飛び込んでくる。

3人まで見て、その経歴に少し頭を抱えつつ最後の一人を見れば何とも見知った顔。

 

阿慈谷ヒフミ。

 

アビドスの一件では、大恩ある生徒であり無類のペロロ好き。

名簿には『テスト不参加』と。

 

「はぁ……」

 

基本的に真面目で常識的な部分があるヒフミが、テストに参加しないというとんでもない行動に出るとするならば、候補は限られる。

一つは体調不良。

だが、体調が悪いだけならば学校側も何らかの救済措置を取るはずだ。

よって必然的に候補は残り一つ。

 

ペロロ、だろうな。

 

なんせ、あの見るも無残なアイスクリームを食べるペロロぬいぐるみのためにブラックマーケットに単身乗り込んだ奴だ。

授業やテストをサボることなんて造作もないだろう。

それくらい彼女のペロロへの信仰心は篤い。

とは言え、生徒としての義務くらいはこなして欲しいんだがなぁ。

 

だが、これは困った。

ヒフミには恩がある。そんなヒフミを見捨てると言うのは私も避けたい。

例え理由が自分のせいであったとしても、そのペロロがあったからこそヒフミに出会いアビドスを救うきっかけとなったのも事実なのだから。

 

「ん?何か気になる子でもいた、先生?」

「……随分と個性豊かな奴らを集めたものだと感心していたんだ」

「まぁ、確かに個性は……豊かだね」

 

トリニティと言うのはゲヘナと比べて治安が良いと思っていたのだが、存外そうではないのだと思い知らされる内容ばかりだった。

しかもこれがもし、何らかの理由があってそうなっているのならばなお頭が痛い。

 

水着姿で学校を徘徊、暴力行為を働いた上、現在進行形で教材用催涙弾の弾薬倉庫を占領し立てこもり、推定ペロロの為にテストを無断欠席。

最後は置いておいて、手前二つが問題だ。

 

水着で徘徊はアーテリスであれば見かける光景かもしれないがキヴォトスでよく見かける光景ではない。

しかも、こいつに限っては明らかにテストの点数がおかしい。

元々は賢いことが資料から見て取れるから恐らく何らかの心境の変化があっての行動と言うわけで。

それを元々の状態に戻すのは正直なところ至難の業だろう。

 

次に、立てこもり犯。

トリニティ内でも戦闘に長ける奴はいるだろうが、こいつの場合どうにも手段がこなれている。

約1トンの催涙弾を爆破させ、自分はその影響を受けずに戦い、更には様々な武器で抵抗するなど中々出来る芸当ではないだろう。

つまり、最初からその場所を理解しておりどのようにすれば立てこもれるかを計画出来る頭がある。

それを武力組織所属のやつがしたのなら分かるが、そうではない。

何ならこいつは転校生だ。

 

しかも、どこからかはこの資料には書かれていない。

邪推するならば、ゲヘナでもミレニアムでもないだろう。

写真から見ても分かるが、その特徴を持ち合わせていないのだから。

 

裏事情を考慮するならば大変な生徒だが、前述の徘徊と比べたらまだやりようはありそうだ。

もしかしたら、単純な学力が低い……つまりは転校したので前の学校と進行度があっていないだけの可能性もある。

 

ヒフミに関しては別に良いだろう。

恐らくそんなに問題はなく、勉強自体はできるはず。

 

4人目は、単純に赤点だ。

つまり、勉強に追い付いていない。

人間関係諸々にもし何かあるのだとしても、正義実現委員会に参加しているような生徒だ。

大きな問題はないと信じたい。

 

「それで、いかがでしょうか先生?」

「まあ対象生徒を見て断る事はなくなったな」

 

口では何と言おうと、補習対象の生徒を理由に断るつもりなど元よりなかった。

確かに全員が濃い面子ではあるが、困った問題児の旧友を持っていた身からすれば頭を抱えることはあれどまだ可愛らしさを感じられる部分もある。

 

結局のところ、私がこの依頼を拒んだのは何かを意図的に隠しているからだ。

 

この4人からはシャーレの権限を使わなければならない程の特殊性を見る事は出来ない。

確かに、問題行動や不透明な経歴こそあれどティーパーティーの通常の権限で対処が可能な範囲だと思う。

 

ならばやはり、ここには居ない3人目こそが鍵を握っているだろう。

 

「それで……3人目はどこにいった?」

「それは……」

 

答えられない……いや、言いたくないもしくは言えない状態にある。

何かあったと言う推測は間違いではないのだろう。

 

「セイアちゃんは今、トリニティにいないの。入院中で……」

「入院か」

 

キヴォトス人でも確かに入院はするのだろう。

酷い傷を負えば流石に寝て直るほどの異常な再生力があるわけでもなく、深刻な病ならば当然絶対安静が必要だ。

病の場合なら、良くはないがそれでも仕方のない部分もあるだろう。

 

しかし、もし傷を負ったのなら?

これは大問題だ。

一般の学生が大怪我を負う時点でも大問題なのに、例えるならば一国の主、その一人がケガをするのはな。

 

「はい。本来であれば、今のホストはそのセイアさんだったのですが……そういった事情で不在のため、私がホストを務めているところです」

「元々ティーパーティーのホストは、順番でやるものだからね」

 

セイアという少女について、これ以上は聞き出せないだろう。

怪我か病か、そこを言わないのは個人情報でもあるだろうがそれと同時にティーパーティー内でも恐らくはごく少数のものしか知り得ない情報と見える。

なら、これ以上踏み込んでも必死に回避されるだけだ。

 

「セイアについてはもういい。話が前後するようで悪いが、もしこいつらが補習を受けてもなお既定の学力に達しなければどうする気だ?恐らく幾つかの試験で計るのだろうが……」

 

次は補習対象の身の振り方について。

 

「簡単なお話です。試験で不合格を繰り返す、落第を逃れられそうにない、助け合うこともできない……だとすればみなさん一緒に、退学していただくしかありません」

「そうか」

「おや、そこは素直に受け止めていただけるのですね」

「まあ、試験に合格しなければ不合格、そしてその先も……くらいは想定できることだ」

 

現に私もしたしな。

光満ちたあの世界で。

あいつらは最後の試験でそれを突破したわけだが……。

 

「それでも手続きが長く面倒でして、たくさんの確認と議論を経なければなりません。ゲヘナと違って、我々は手続きを重要視しますので」

「そこでお前は考えた、シャーレの権限を使えば全て吹き飛ばして退学にできると。つまりお前が作った補習授業部は……」

 

そういうことだろう。

むしろ、そのための。

 

「はい。補習授業部は……生徒を退学させるために、作ったものです」

 

本当に、本っ当に面倒な事を……。




エメトセルクなら恐らく気が付くはずです、この補習授業部に裏があることくらい。

まだまだ先にはなりますが、エメトセルクがどのようにして4章まで進んでいくのか。
その過程で彼は何を思い、どうするのか。

アビドス編やパヴァーヌ1章の様になんだかんだ常に味方ではない予定です。

黄金のレガシーのネタバレネタは有り?

  • 有り
  • ダメ!死刑!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。