エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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投稿が遅れて申し訳ございません。
下書きデータが消えてしまい、全部書き直しました。
書き溜めもないから、少し時間がかかります。

祝MTGコラボカードにアシエン・エメトセルク決定。
顔で解釈違い言う人いるけど、あくまであれはエメトセルクの台詞通りなんですよ。
彼はヒカセンやこの小説の読者の方からすれば英雄でも、アーテリスの事情を知らぬ人からしたら悪役なんです。





1-4 最初の挨拶は大切に

00Ⅰ

 

「では、最後に……エメトセルク先生、お願いします」

 

メンバー全員の自己紹介も終わり、残すは恐らく仏頂面で椅子に座っていた私の自己紹介とこの部活動の行動指針についての紹介のみとなった。

それにしても自己紹介か……彼女らの話している内容を聞くに趣味だとか好きなモノ等々をある程度話すのが通例となってしまっており、これまでにしてきた名乗りだけではどうも冷たいだけの印象を与えかねない。

では、肩書を付ければ……と思ったが顧問や担任やらと随分と長くなってしまいそれだけでこの私を仰々しい人物と思わせてしまう。

対策委員会やゲーム開発部、そのほか諸々の皆には悪いが今回ばかりはその部分を省略せざるを得ない。

 

さてどうしたものかと思案しつつも立ち上がり、教壇へとその足を進める。

その足取りは決して重くも、軽くもないものではあったがそれでもこの自己紹介でこの先の未来が変わるのだと思えば少しくらいゆっくりと進めたいものではあったのだ。

 

「さて……」

 

既にその足は止まり、教壇からその背丈を通して彼女達を視る。

正直に言えば、この中の誰かもしくは複数が裏切者だなんて考えたくもないし疑いたくもない。

最初から知らずに接していいのであれば、もっと軽い気持ちで臨めたのかもしれないが知っていて、そして既に5人分の未来をその翼に背負っている以上はここが最後の迷う場所なのだ。

 

お前ならきっとここで面白い自己紹介が出来るだろうし、馬鹿な事くらいは出来るだろう。

そうやって迷いなくこいつらの心に飛び込んでいく。

私にはやはり私なりの矜持があるし、お前みたいにはできないだろうな。

 

それでも、ここは私の言葉で紡いでいかなければならない。

 

「今回の補習授業部……つまりはお前たちの担任を務めるエメトセルクだ。趣味は演劇鑑賞だったが、キヴォトスに来てからは映画やドラマの鑑賞、読書になった。好きな食べ物は、エンペラースープと呼ばれる料理と柴関ラーメン。肩書きは諸々多いが、今回はただ『担任』としてお前たちと向き合うつもりだ。よろしく頼むぞ」

 

可もなく不可もなくな自己紹介と言えるだろう。

趣味については嘘じゃないし、好きな食べ物についても柴関ラーメンは本当だ。

エンペラースープが好物かどうかについては明言はできないが、ソル死後……ひいてはガレマール帝国が崩壊してもなお帝国臣民や兵士達に好かれている食べ物なのだと思えば、ソルを演じた者としてこれくらいは言うべきだろう。

 

「せ、先生」

「なんだ、ヒフミ」

「エンペラースープってどんな食べ物なんですか?」

「確かに気になりますね、皇帝のスープと言えばきっと豪華なものだと思いますが……」

 

まず興味をひいたのはキヴォトスにはない料理について。

確かに気になるだろうな、ハナコの言う通り皇帝のスープなのだからさぞ立派な内容だと考えるのは道理だ。

きっとあいつもそうだっただろう。

 

「レンズ豆と栗のワイン煮だ」

「随分と質素だ」

「じゃ、じゃあなんで皇帝のスープなのよ! どっちかと言えば、平民のスープじゃない?」

 

アズサの言葉通り質素だし、コハルの言い分もよくわかる。

どう見ても皇帝の名を冠するには値しない中身なのだ。

しかし、それでも平民のスープと言うのは食欲も無くなるだろう。

 

「ガレマール帝国と呼ばれる国に伝わる料理で、初代皇帝である(ソル)が寒冷地での軍事訓練の際に兵士達と共に食べたと言う故事……いや、事実に基づいて名付けられた」

「こ、皇帝が兵士と同じ食事を食べたんですか?」

「もともと兵士だったからな。むしろ、宮廷で無駄に豪勢な料理を好きでもない貴族連中と食べるより寒空の下で皆で固まって食べたあのスープのほうが好きだった……らしい」

 

実際そうなのだが、私がソルだとバレるのは不味いし何とか伝え聞いた話であると軌道修正出来ただろう。

疑われている様子もないし、上手くいったはずだ。

 

「もともとは兵士だった人が皇帝に……先生はその帝国で働かれていたのでしょうか?」

「まあ、な」

「なら、先生から見てその皇帝はどういう人なんだ?」

 

ヒフミがうまく盛り上げてくれるのかと思いきや、この話に興味を示したのは意外にもハナコとアズサだった。

ハナコに関しては、少なくとも今日初めて見る真剣な眼差し。

アズサについても同様だ、まるで支配者を見てきたことがあるかのように。

何かこいつらにとって気になる部分があるのか、それとも。

こうして聞いてきた以上はきちんと答えてやりたいが、あまり話しすぎてボロが出てもまずいからなぁ。

 

にしても、演じた私から見た(ソル)か。

 

「辺境の一国に過ぎなかったガレマール共和国に技術革新を齎し強大な帝国へと仕立てた手腕は評価されるべきものだろう。それに文化に明るかったのも高評価だ。しかし、対外戦争や後継者問題など新たな問題を作った故に帝国は2代目で終わりを迎えることになった。総じて優秀ではあるが、自分亡き後の帝国の未来についてはもはや興味がなかったと言えるだろうな」

 

興味がなかったわけではない。

アシエンとして利用させてもらうつもりで国を作ったのだから。

しかし、客観的に評価するならば今の言葉通りに落ち着くだろう。

 

後継者のヴァリスは軍事面には長けていたが、内政面については私の真逆の方針をよく取っていたしお世辞にも優れているとは言えなかった。

それでもあいつはあいつなりに人の未来を考えて動いてはいた。

だからあんな死に様でいいとは思わないし、悪意によってその魂まで利用され尽くした事についても同様だ。つくづくいい父でもなかったし、いい祖父でもなかったのだ私は。

だから、ヴァリスが私の棺桶に唾を吐いた事くらい許してやるし全てを終えた今ならばもう少しいい祖父をできるのかもしれない。

それもこれもあいつからしたら後の祭りだろうがな。

 

「尊敬はされていないんですね」

「むしろ、ダメだった部分のほうがよく知っているさ。ソル本人よりもな」

 

何が悲しくて私が私を尊敬するのか。

私が成り変わり、私が成した覇業。

しかもそれは神がかり的なものに見えても実際は用意周到に準備されていた茶番。

興した国も統合の為の道具の一つに過ぎず、碌な父親ですらなかった私を。

私はそこまで自尊心が高いわけではない。

 

「さて、私の昔話はこれくらいでいいだろう。他に何か質問はあるか?」

 

これ以上話すとやはり私の感情的なものが多分に混じってしまい公平な評価など出来ないと判断し、ソル関係の話を打ち切る。

 

「え、映画やドラマ、読書で見るのって……ど、どんなやつ?」

 

次はコハルからの質問。

しかもこれについてなら、感情的にならずに済むと言うありがたいものだ。

 

「どんな、と言われてもな。基本的に選り好みせず自分で興味を持ったものか、生徒たちに薦められたものを見ているつもりだ」

 

ノンフィクションや恋愛物、映画に限らずドラマやアニメ、ひいては書籍類まで。

もともとキヴォトス文化に興味があったし、先生として最近の流行を理解しようと思ったと言うのもある。

後は薦められたものなら、薦めたあいつはどのシーンが好きなのかなどを予想しながら見ると言う楽しみ方も見つけた。

何より、私は文化が好きだしな。

 

「逆にお前は何を見ていると考えたのか疑問だが……至極普通の物ばかりだ」

「な、ナニって!? そ、それは……」

 

顔を赤らめて言葉にどもり始めるコハルを見て、大体を察した。

先程のハナコの件を見てもそうだが、コハルはどうにも『特定のモノ』に対して敏感に反応する傾向がある。

例えばそう、彼女の言葉を借りるならば『エッチなのはダメ』らしい……のだが、本人がむしろこの類に一番興味を持っているのではなかろうか。

普通、どんなものを見るんですかと聞けばいいのだが探りの返しにこうも分かりやすく反応されてはこちらとしても拍子抜けだ。

だが、その反応も今後においては問題だ。

どうでもいい些細な言葉狩りをされてしまったら最後、そのやり取りで無駄に時間を使ってしまう事を考えれば私も最大限言葉を選ぶべきだろう。

 

「まあいい。諸々聞きたい事がある奴もいるだろうが、それについてはおいおい時間を作るからその時に聞け。以上で私の軽い自己紹介は終わり、次はこの部活についてなのだが……」

 

さて、自己紹介などまあ言うならば触りに過ぎない。

ここからが最大の問題点。

馬鹿正直に暴露するわけにもいかず、ある程度の危機感を持たせつつも私なりに探りを入れて行かなければならないのが面倒な部分であり面白い部分でもある。

 

「放課後に補習を行い、合計3回のテストにうちどれかに全員同時に合格すればお前たちは晴れて自由の身だ。ただし、この与えられたチャンスを全て落とせば……わかるな?」

 

嘘はついていない、こいつら全員が合格しなければ纏めて全員退学──と言う部分を除けば。

だからこそ、私はこいつらに対して親切でもなければ優しくもないから厭な気分になる。

なら、最初から言えばいいと思うかもしれないが裏切者がいる可能性がある以上はそこまで言えるはずもない。

更に言えば、もし本気で臨んでそれでもなお届かない奴が居たとしてそいつを責めるような事態になって欲しくもない。

 

だから最初に言えるのは合格を目指そう、でないとどうなるかくらいはわかるよな、しかない。

これなら、落第したくないと思う奴はきちんと頑張ろうとするだろう。

問題は、やる気がない奴が居る場合だ。

全く……今回の依頼は考えることが多すぎる。

 

「だから最初に言っておく。お前たちがこの危機を本気で乗り越えようと思っているのなら、私は幾らでも、持てる力を全て使って手を貸そう。だが、もし別に落第でもいい、ひいてはこの学園に居なくてもいい……そう思っている奴が居るなら、別にいい。今この場を去ってもう来なくていい」

 

ナギサに聞かれたらなんと言われるか、大体想像はつく。

裏切者候補をこの場から解放するなど、本来の想定とは異なるはずだ。いや、だからこそ敢えてそうする。

 

──本質はあくまで『成績の振るわない生徒たちを救済すること』にあります。

──助けが必要な生徒たちに、手を差し伸べていただけませんか? 

 

ナギサの言葉はある意味では私の取るべき方針を示していた。

例えこの部活が『退学させるため、裏切者を隔離し見つけ出すため』に作られた檻だとしても、こいつらはトリニティの裏切者候補である以前に『生徒』、

ならば、まずは全員が退学にならずに済む……つまりは既定の学力になるまで面倒を見るべきだ。

並行して、裏切者を見つけ出し出来るならば考えを改めさせる方向に収めた後に各々とナギサがそれぞれ謝るなり誤解を解くなりすればいいだろう。

 

そしてもちろん、今の言葉で出て行く奴が居るのなら何とか説得はするつもりだ。

今はこんな学園に居たくないなんて思ってるやつが居たとして、明日はどうだ? 

きっといつか、青春の思い出について後悔するだろう。

 

しかし、驚くべきことに少しの時間を置いたにも関わらず誰一人として退出はしなかった。

流石にこの場で出て行くほどの勇気はないのか、それとももしかしたら……。

 

「いいだろう。残ったお前たち全員、このエメトセルクが必ず合格させてやる。その代わり……」

 

ほんの少しだけ、アシエンだった頃の悪い笑みを浮かべ続ける。

 

「途中下車は認められない。この列車は終点までただ直進あるのみだ」

 

00Ⅱ

 

「さて、ヒフミの補足も含めて初日に話しておくべきことは全て伝えたつもりだが……何か気になる点などはないか?」

「大丈夫。これからは普通の授業に加えて、毎日放課後に特殊訓練があるってだけでしょ」

「えっと、訓練と言って良いのか分かりませんが、そうです。私たちが目指すのは、これから行われる特別学力試験で、『全員同時に合格する』こと。先生も手伝ってくれますし、み、みんなで頑張って落第を免れましょう……!」

 

特殊訓練、とは何ともその歳の子供が使うには随分と不似合いな言葉だ。

いや、こういった言葉の使い方をする子供を知らないわけではない。

少年兵、お世辞にも素晴らしいとは言えないその言葉が私の脳裏に過る。

戦時下の国家ならまだしも、多少の銃撃は日常茶飯事とは言え戦争状態にないキヴォトスにおいてそんなものが存在しているなど思いたくもないが……アズサの言葉使いや先ほどまでやっていた『立てこもり』を思えば嫌に当てはまるような気がした。

 

「エメトセルク先生には、スケジュールの調整や、色んな補習を行っていただければと思ってます」

「その点については問題ない、と言いたいが生憎生まれてこの方補習になったことがないんでな、多少手探りにはなる」

「あはは……確かに先生が補習を受けている姿は想像できませんね……」

 

事実、受けたことはない。

ヒュトロダエウスも同じだし、アゼムについては……知らん。

だが、今回のスケジュールについてもある考えがある。

 

「理解した。3回のミッションのうち、一度でも良いから全員で成功を収める。そのために、ここに毎日集まって訓練を重ねる……それほど難しい任務じゃない。この集まりはつまり、各自のリタイアを防ぐための措置……私としては特に、サボタージュする気も理由もない」

「そ、そうですね、頑張りましょう! えっと、アズサちゃんは、転校してからあまり時間も経ってないんですよね? まだこの学園に慣れてなかったせいもあるでしょうし、みんなで頑張ればすぐに何とかなると思います!」

「あら? 白洲さんはこちらに転校されて来たのですか? トリニティに転校だなんて、珍しいですね……?」

 

早速いい話を聞けたな。

私自身、一番疑問に思っていた事でもある。

 

「あ、書類上はそう書いてあって……もしかして、私、余計な事を……?」

「いや、別に隠すことじゃないから気にしないで良い。れっきとした事実だ。こういう言われるのは慣れるべきことだし、そのための努力もする」

「なるほど……。それでは私も、アズサちゃんって呼んでいいですか?」

 

あわよくばアズサの口から何処から来たのかを聞くことが出来ればよしと考えてはいたのだが、そうもいかず話の流れもあまりそれを深くまで追求しない方向へと流れ始めていた。

まあ、そう簡単に行くとは思っていなかったしアズサも積極的に話したい内容でもないことが分かっただけでも十分と思うべきだ。

 

「……? 別に良いけど?」

「では、アズサちゃん。ヒフミちゃん。それからコハルちゃん。うふふふ、何だか良い響きですね。私たちはこれから補習授業部の仲間ということで。アズサちゃんは一見冷たそうに見えますが、なんだか可愛らしいですし。ふふふっ」

 

それに、この会話は見ている側からしても良いモノだ。

仲間意識が芽生えてくれるのならそれだけ、補習を乗り越えられる可能性も高くなると同時に裏切者の心へも揺さぶりをかける事も期待できる。

しかし、それを良しとはしない生徒が一人。

コハルだ。

 

「あら、そんな憎悪に満ちた目で、どうしたんですかコハルちゃん?」

「言っておくけど、私は認めないから……!」

「何をだ、まさかと思うがお前がこの部活に組み込まれた事を認めない、なんて言うなよ」

 

コハルの言いたいのは、馴れ合いなんてしたくないと言う事くらいは私だって分かっている。

だが、必ず仲良くなれとは言わないがそれでも一定の連帯感は最終的には持って欲しいのだ。

そうしなければ、乗り越える事も出来なければお前が余計にナギサから疑われる可能性もあるわけで。

 

「わ、私は、正義実現委員会のエリートだし! 私の方が年下だからって、あんたたちを先輩だなんて呼ぶつもりは無いから! それにそもそも、こんな部活さっさと抜けてやるんだからっ! あんまり馴れ馴れしくしないでもらえる!?」

 

エリート、ねえ。

成績がエリートではないのなら、戦闘力がエリートと解釈も出来るがそれはないだろう。

もしそうなら、アズサの鎮圧に動員されているはずでそうではなく寂しく留守番をしていたのだから。

それにこいつは私やヒフミの話を聞いていたのだろうか。

『全員同時に合格』と言っていたのに、さっさと抜けるも何もないだろう。

 

「なるほど……確かに補習授業部の中でまで、先輩後輩なんて扱いにする必要は無いと思います。私としては何も問題ありません」

「私も別に。そもそもそういう文化は不慣れだし。そもそも仲良くするために集まっている会じゃない。あくまでお互いの利益のためなんだから、親しいふりをする必要もないはず。違う?」

「あ、あうぅ……」

 

前途多難な光景だな。

アズサの発言は何も間違ってはいない、むしろ正しくもある。

名目上は『落第危機のダメな集団の補習をするための会』であるため、そこで仲良くなる必要もない。だが、同じように敵視し合う必要性も皆無。

であるならば、ある程度は友好的な関係に収めておいた方が今後の試験の為にも、己自身の勉強の為にも役に立つはずだと思うのだが生憎とそう簡単にはいかないのだろう。

 

「じゃあ決まり! それに、そもそもの話なんだけど……私が試験に落ちたのはあくまで……飛び級のために、一つ上の2年生用のテストを受けたせいだから!」

「なんのために、そんな事をした?」

「ど、どうしても何も……! 私はこれから、正義実現委員会を背負う立場になるわけだし……!」

「でも、それで落第してしまったんですよね? 一度試しにチャレンジするということであれば理解できますが、なぜそれを何度も……?」

「う、うるさいうるさい! 私が言いたいのはそういうことじゃなくて!」

「なら、お前は何が言いたいんだ……」

 

飛び級だろうが何だろうが、落ちた以上は言い訳に過ぎない。

大体、己の実力では部不相応だと言う事は一回落第すれば十分理解できるだろう。

それがあと一歩及ばずという事ならばともかく、落第では目も当てられない。

 

「つまり私は今まで、本当の力を隠してたってこと!! 今度のテストはちゃんと、1年生用のテストを受けるから! そうすればちゃんと優秀な成績を収めてはい終わりってわけ。分かる? それで、すぐにこんな補習授業部なんて辞めてやるんだから!」

「えっと、個人で優秀な成績を出したとしても、それでこの部を卒業できるわけではなくって──」

「なるほど、経歴を隠してわけか。ちなみに私も今は、前のところとの学習進度の違いが大きかったから、1年生の試験を受けてる」

「あ、じゃあ同じ……い、いや! どうせすぐに関係なくなるけど! それに、短い付き合いで残念だったけど、あんたたちはそう言う感じじゃないみたいだし? あははっ! じゃあね、精々頑張って!」

 

調子ノリの勇躍……いや、この場合は只の虚勢か。

コハルが本当にエリートである確率は、限りなく低いだろう。どれくらいかと聞かれたらこう答えるだろうな。

私が魔法でしくじる確率くらい、と。

 

「あ、あの……! い、行ってしまいましたね……」

「ふふ、コハルちゃんはテンションの上下がすごくて、見ていて面白いですね。アズサちゃんは対照的に、一貫して全然ブレないですし」

「あうぅ……」

「これから楽しみですね、ふふふっ」

「……今日は解散だ。私も帰るからな」

 

楽しみ、か。

何とも呑気な当事者の言葉だ。

ただまあ、その雰囲気を維持できていれば口の固い裏切者も話を打ち明ける時が来るのかもしれない。

要は信頼だ、と有り体に言えばそうなる。

 

それでも、こちらは粛々と進めて行かねばな。

 

00Ⅲ

 

シャーレの部室、その高みより夜景を見ながら私は現在の時点での推察を立てていた。

 

「まず、4人の中に居るであろうとされる裏切者についてか」

 

人柄を知っているヒフミ、そして今日の短い時間だけでもまずあり得ないと踏んだコハル。

この二人は除外しても良いだろう。

特にヒフミに至っては疑われる理由について私も知っているし、何よりアビドスであれほど他人の苦しみに親身になれたあいつが裏切者になどなれるはずがないと思う。

 

では、残り二人……アズサとハナコ。

それぞれ疑われるに足る理由を持っていて、現在の時点でそれは誤解だと私の中で言えるほど人柄を知らない。

 

「トリニティに転校は珍しい、か」

 

ハナコ曰くだが、それについてヒフミやコハル、アズサ本人も否定はしていない。

確かに名門校と言っても過言ではないトリニティに転校するなど中々に難しい事だろうからこれについては嘘ではないだろう。

 

ここまでなら難癖だが、ナギサから渡された資料にも元の学園は記載されていない。

 

もし、アズサが特別優秀な生徒ならばまだ分かる。

しかし、現状ではこうして補習を受ける身である以上は勉学に長けているわけではないと今は考えるとして、となれば他に優れた才能があるか、元の学園とトリニティの間で何か政治的な駆け引きを行った可能性が考えられる。

 

前者ならば資料に記載されると考えられるため除外する。

となれば後者になるがその場合、誰かがアズサの後ろ盾であるはずでその人物の立場は必然的にトリニティ内でも上と見るべきで、かつそれはナギサではない。

 

自分が後ろ盾をしている生徒をわざわざ裏切者候補の中に送り込む……それも言うなら元部外者に。

そんなトリニティの恥を晒す真似を彼女がするはずもない。

 

では、入院中のセイアかミカのどちらか。

ティーパーティー以外でそんな事を出来るほどの『政治力』を保有する組織はトリニティ内ではないだろう、『発言力』と『政治力』はそれだけ違う。

 

だが、それはそれでおかしな点が浮かんでくる。

セイアにせよ、ミカにせよそのどちらかが後ろ盾ならばあのナギサが知らない筈がないだろう。

それを裏切者に入れる事は二人を疑っていることになるのだが、会話からその様な素振りを感じなかった。

では、仮にナギサが知らなかった場合。

どちらかが知られずにアズサの編入を手引きしたのなら、合点はいくのだがでは何故アズサを、なんの目的があって、と言う謎に繋がる。

 

私すら知らぬ学園の生徒をよりにもよってこんな怪しい時期に編入させる。

何らかの目的があるのだが、その目的は未だ不明。

 

「アズサについては今後探るしか手はないか……」

 

つくづくアイツの『過去視』は便利だ。

あれがあればアズサ程の魂に触れればすぐに視えたはず。

しかし、私はその術がない。

いや、どんな手を使ってもいいと言うのならば見つけられるだろう。

カイザー理事に使った手を使えば恐らくキヴォトスの人でも問題なく効果がある。

だが、生徒にするべき一手ではない。

ゲマトリアの連中にするのならまだしも、な。

 

「さて、次はハナコか……」

 

こっちはこっちで面倒な相手だ。

元々賢かったが、『何か』があってこうなった。

つまり、全員を合格させる上での最大の障壁は彼女の価値観というわけだ。

幸か不幸か、彼女は下車を選ばなかった。

ならば、まだ少しばかりはトリニティに残りたいと思っている節があると私は信じたい。

それに、彼女の問題を解決しさえすれば残る学業上の問題はアズサとコハル。

アズサが単純に遅れているだけでと仮定すればコハルに補習を注力しさえすれば合格を得るのは容易い。

 

「そのためにも、ゆっくりと距離を縮めその心の内を知らねばならない、か」

 

あいつとは違う。

最初から敵対している訳でもなければ、私の同胞が消滅させられた訳でも、アゼムの魂の持ち主という訳でもない。

過剰な期待を押し付ける必要もないし、私の判断力を鈍らせる様な事も無いはずなんだ。

それにもし、ハナコが裏切者ならば随分と悲しいじゃないか。

 

たった一つのボタンの掛け間違いから生じる悩みが、己の青春ひいては人生を賭してでも他人の想いを砕こうとする凶行に走らせるなんて……。

 

キヴォトスの摩天楼を眺めつつも、その目は既にこの空間とは違う場所を眺め思う。

これほど魂が犇めくこの世界に、終焉から救われた世界に、何の因果かこの私が再び生を受けたこの世界に。

大地は崩れ、水は血となり、文明は燃え尽きる……そんな事を起こしてなるものか。

 

「もう二度と、決して……私の手から零れ落ちさせはしない」

 

冥王の言葉は漆黒の中へと溶けて消えたが、されとて確かに刻まれた。




エンペラースープについては好きかどうかは諸説あると思いますが、なんだかんだそう言うのを大切にするのが私のエメトセルク像です。

エメトセルクは生徒を信じてはいます、しかしそれはそれとして裏切者を探すと言う役目を淡々とこなしていきます。
傍から見れば非情であったり、冷たく映るのかもしれませんがしかし彼の内面としては今回の終わりの様になっている……。

エデン条約編はエメトセルクのメンタルも大変しんどいのではないかと思いつつ進めていきます!

黄金のレガシーのネタバレネタは有り?

  • 有り
  • ダメ!死刑!
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