エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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大変遅れて申し訳ございません。

11月は仕事、親族とバタバタで執筆できる状態ではありませんでした。
そのため、新パッチもまだ触れられていません。

本当にすいませんでした。


1-5 補習前に自習

 

00Ⅰ

 

放課後の補習……もとい、自習時間が始まって数日。

第一次試験までは、あくまで根を詰めずに自主的に勉強をする時間を設ける事で果たしてどれだけの実力を発揮できるのかを計る事にした私は、生徒同士の教え合いこそ推奨すれど私自身が敢えて何か教えると言う事を行ってはいなかった。

 

このような回りくどい計劃には当然理由がある。

まず第一に、自らで勉強できる時間を与えた場合どの程度の点数を出すことが出来るのか。つまりは、本人の実力を知る機会になると言う事。

第二に、一つ目の理由に被る事ではあるがそれぞれに何が必要かを見極める事が出来るという事。

第三に、そもそも一度目で合格されてはナギサの依頼をこなせない。あいつの現状を考慮すれば、あえてこの檻にこいつらを入れておく方がこいつらのためにもなる。

それに大変失礼な話だが、最も簡単であろう第一次試験での合格はまず有り得ないと思ったからだ。

 

それは何故か。

ナギサの性格や状態を考慮すれば、恐らく試験の際に妨害行為を行ってくる可能性が高いだろう。

となれば、第一次試験で合格させるべきなのだが……諸々の理由で不可能だ。

つまり、どうあれこいつらを合格させるには第二次が大きな山になるはずだ。

その時にナギサからどのような妨害工作が行われていようとも、こいつらは単純に試験を受ければ合格することの出来る学力さえあればいい。

妨害に対処するのは私一人で良いからな。

 

とは言え、どのラインの妨害をナギサが行ってくるかについては流石の私も想像できない。

足切りライン、つまり合格点を上げることくらい当然行ってくるとして何処までするか、何らかの罪状を付けて4人を拘束……流石にそこまで表立っては出来ないだろう。

そんな事をすればそれこそ、私の権限の出番になってしまうことくらいは想像してくるはず。

だから、ある意味ではナギサの手腕と言うのも楽しみにしつつこうして第一回の捨て試験までお茶を濁していると言うわけだ。

 

ヒフミにはまだその事を話してはいない。

正直な所、スケジュール管理については私に一任されているからと思う気持ちあり、誠実さという面においては話すべきだと思う気持ちもありの複雑な心境だ。

出来るだけ早くこの件については話をすべきであることは分かってはいる。

 

「ハナコ、この問題はどう解けばいい?」

 

ふと、教室内を見やればアズサが問題の解き方についてハナコに尋ねているではないか。

これは良い傾向と言える。

確かに私は自習しろ、と言ったが分からないところを他の生徒に聞いてはいけないなどとは一言も言っていないし、むしろ推奨したいくらいだ。

各々の些細な会話が、もしかしたらその生徒の楽しみになるかもしれないし何らかの関係性を構築するきっかけになるかもしれない。

だから、止める理由などありはしないのだ。

 

「どれですか?ああ、なるほど。こういう時はですね、倍数判定法を用いてこのように……」

 

それに対して、ハナコも別に嫌な表情を見せる事もなく対応していた。

特に手を抜いて教えるでもなく、むしろ彼女の説明を聞けば基本的に倍数判定法さえ理解していれば解くことが出来るレベルの丁寧な教え方だったのだ。

 

「なるほど……うん、理解した」

 

そう、アズサが理解さえしていればな。

彼女の言葉が本当か嘘か、こんな些細な事でいちいち詮索する気などないから今回は本当だとして、今後も教えた方程式が問題ないかはアズサが既に学んでいるのかに左右され過ぎる。

これなら最初から何も知らない奴に教える方がまだ楽だ。

全部を教えてしまえば済むし、いちいちこれなら知っているかなどを考える必要もないのだから。

 

そんな事を考えながら彼女たちの『支え合い』を見ていた私だが、その光景を見ているのは私だけではない。

ヒフミとコハルもだ。

もちろん、二人とも考えている事はバラバラではあるもののアズサとハナコの光景は新しい風と言うかいい意味での刺激になる事に違いは無いはずだ。

まあコハルの場合は自分も聞きたいが聞けない、と言った所だろうがな。

一度自分でエリートと言い出した手前、やはり難しい部分もあると言う事だろう。そういう気持ちが分からないでもない。

私だってもしそう言ってしまうと中々言い出せないだろうし。

 

「えっと、コハルちゃん?何か分からない問題でもありましたか?」

「い、いやっ!別に!?」

「ちなみに今見てるそのページは、今回のテスト範囲ではありませんよ」

「えっ、うそっ!?」

 

テスト範囲すら分かっていないのか、それともただ上の空だったのか。

どちらにせよ、コハルが第一回の試験で合格に辿り着くのはかなり難しそうだと再認識することになった。

危機感がないわけではないとは思うのだ。

これまでのコハルの言動を見るに見栄は張っても自分自身の実力はきっと把握できている性格のはず。

彼女が損をしている部分はその見栄っ張りな部分というよりも素直に言い出せない所だろう。

それを変えるのは一朝一夕にはいかないだろうが、この補習を通して損をする見栄の張り方くらいは無くなるといいなと思う。まあ、それを私が言うなと言われるかもしれないがな。

 

だが、そういう部分も含めてこの光景は良いモノだと思う。

今私が抱えている問題に目を瞑ればとても青春を感じさせる光景だからだ……それが補習であったとしても。

 

だから私は心の底から望む。

例えそれが、あり得ない事であったとしても。

この中に裏切者など居ないで欲しいと、な。

 

00Ⅱ

 

補習が開始して以降早いもので、数日が過ぎた。

その過程で裏切者の尻尾を掴むことなど出来なかったが、それでもアズサとハナコの協力は見ていてとてもいいものだったし私自身も意外なアズサの一面を見る事が出来た。

 

それはアズサがハナコに古代語の一節を質問した時のこと。

その光景自体はこの補習で何度も目撃された光景ではあるのだが、何と質問したアズサがハナコが解説を開始した途端に内容を直ぐに理解……いや思い出したかのように解けたと言うこと。

しかもそれは何と昔習った、と。

 

わざわざ古代語を習う事などあるのだろうか。

私たち古代人の言語を今を生きるアーテリスの者たちが理解するのは中々に難しいだろうし、もしそれを理解できたとしてもかなり専門的な学問を修める必要があるだろう。

ことキヴォトスにおいてそうではないと言われたらそこまでなのだが、それを『昔』習うなど。

もしそれが転校前の学校ならばかなり……トリニティ同様に伝統を重視する学校だったのだろう。

とは言え、旧きを知ると言う事はよいことだ。

過去の教訓が今を生きる者の道筋になる事も有り得るのだから。

 

「まあ、当初の予定と照らし合わせても上々だな」

 

正式名称:第一次特別学力試験は現時点での実力がどの程度なのかを本人が自覚するためのもの……もちろん私が彼女らの実力を把握する意味合いもある。そして何より、依頼の件がある。

 

何より嬉しい誤算、とまでは言わなくても各々が会話をし苦手な分野の支え合いというものを見れたのだ。

その点において当初の予定……つまりは只自習をしているだけと比べたら上々。

 

「はい!ハナコちゃんが何だかとってもすごくって……!それにアズサちゃんも学習意欲たっぷりです!」

「ヒフミ、聞いていたのか」

 

聞くなというのがむしろ無理は話だろう。

幾ら独り言を言おうが狭い教室で彼女もまた、この光景を見ている側。

それに色々わけあって私の補佐と言ってもいいのだから。

 

「あはは……聞いてちゃまずかったですか?」

「いや、お前にとっても死活問題。当然、この場の雰囲気というのは気になるだろうしな。それでお前は現状をどう判じる?」

「ハナコちゃんとアズサちゃんは、さっき言った感じで……コハルちゃんは実力を隠していたそうですし……これならもしかして、余裕で合格できてしまうかもしれません……!」

「ハァ……」

 

ヒフミの評価を聞いた私は頭を抱え、ため息を吐く。

懐かしいな、この感覚。

そうまるで、懐かしきあの頃の様に……。

 

「……エメトセルク先生はそう思いませんでしたか?」

 

この光景を見て、余裕と判じるのは幾らなんでも早計が過ぎるというもの。

ヒフミの様に性格が良い奴なら確かにそう思うのも分からなくもない、本人も不安に思っていただろうし少しくらい好意的に見たいという気持ちも十分にな。

だが、生憎私はそう優しい奴ではない。

 

それこそこんな光景は何度だって見てきた。

そしてその度に判じてきたのだ。

 

「詳しくは今日の補習が終わってから話そうじゃないか」

 

それでも、信じる事を悪しきこととは言えないのだ。

夕暮れの近付く空は私たちの進む暗闇を暗示しているかのように、ただ物悲しくあった。

 

00Ⅲ

 

「先生、さっきの話ですが……」

 

補習終了後、全員が帰った所でヒフミが戻ってきた。

わざわざ他の人に聞かれないように話を合わせて一度は出て行くところに素直さというか、律義さというか……嫌いではないがな。

 

「わざわざ出て行くところがお前らしい……。それで、お前はまず何を聞きたいんだ?」

「先生は、今の時点で合格できないと考えているのでしょうか……?」

「ああ」

「ど、どうしてですか?」

 

先生たる者、本来なら信じてやるべきなのだろうか。

あの光景を見て、こいつらなら受かるはずだと。……先に断っておくが私だってあいつら全員を合格させてこの青春を続けさせてやりたい……いや、続けさせてやると思ってはいるさ。

しかし、現状の実力を度外視して出来る出来るなんて無責任な事を言えるわけもない。

 

「今日の3人を見て、先生は合格できるって思えない理由を知りたいです」

 

ヒフミは楽観視、己の安心の為……それもあれど信じている。

アズサがしっかりと学習していて、ハナコは問題なく合格、コハルも隠していた実力を発揮して、ヒフミ自身もまあ問題はないのだろう。

となればきっと簡単に合格できるはずなのだと。

 

……若いな。

私はあの3人を見てそんな事を思えない。

むしろ、あの光景にこそ問題点は詰まっていた。

例え微笑ましい光景でも、そこには全員何かを抱えている。

生きた年数は短くとも、しっかりと己が歩んできたモノを。

 

そして、もう一つの考え。

ナギサから私とヒフミに伝えた内容に違いがあるのではないか、という事だ。

同じ情報を聞いていたのなら、3人を問題ない余裕で合格できると考えるのは少し難しい。

いや……人の良いヒフミならそれでも信じるか。

だからこそ、なんとも酷な話だ。

 

人を疑う事をしないに等しいくらいのヒフミを私に協力させるなど。

 

「私はこの第一回の試験で合格できるなど到底思ってもいないからな」

「ど、どうしてですか?」

「補修とは名ばかりの自習だけで合格できる実力があるのなら、そもそも補習になったりはしないだろう?」

「そ、それは……実力を隠しているからじゃないですか?」

 

そう、お前はそう返すだろう。

アズサはさておき、コハルとヒフミはそれに該当すると。

 

「実力を隠す……といえば聞こえはいいが、本当にそういう奴はそれこそ補習などにはならない。せいぜい本来なら100点を取れるところを80〜60点位に収めるくらいだ」

「……」

「もちろん、お前の様に随分と不純な理由で補習になった可能性もあるだろうがそれは実力を隠すということではなくただ、学生の本分に対する怠慢、と厳しく言えばそうなる」

「あ、あうう……」

 

別に今更それをぐちぐちと小言を言いたいわけではない。そんな無茶苦茶な事をペロロ案件ならば躊躇なくできるのがヒフミだからな。

 

「百歩…いや、千歩譲って本当に実力を隠していたとして、本番に弱い可能性もある」

「た、確かに。二人ともその可能性が……!?」

「いや、まず間違いなくないと思うがな……」

 

ハナコの振る舞いを見るに、それには該当しない。コハルの場合は確かに緊張するタイプに見えるがそれなら3回も赤点を叩き出す様な事態にはならないだろう、それも本人曰く飛び級などもっての他。

本番に弱い奴は大体こいつらの歳くらいになるとある程度自覚もしているだろうしな。

 

実力を隠していたと虚勢を張るよりも、正直に本番に弱いと言った方がまだ自分の格を落とすこともない。

更に言えば本番の緊張など誰にでもある。その中でどの程度の実力が出せるかと言うのが試験なんだ。

 

「でもそうなると……」

 

元々あまり表情が優れていなかったヒフミの表情が更に暗いものに変わる。

随分と元気のない、と言うよりは本当に嫌で避けたいことだったのだろう。

一番受かりやすいであろう、一次試験を捨てるのは。

 

「そうなるとなんだ?」

「……実は、『もし一次試験で不合格者が出てしまったら、合宿をしてください』とティーパーティーから言われてまして……」

「合宿だと?」

 

私はそんな事言われていない。

しかもそれを被疑者であるヒフミにだけ伝えているとは。

さては伝えた時の動揺を見るためか、或いは……。

更に言えば、『不合格者が出てしまったら』と言う部分。私と同様にナギサも、一次試験で全員が合格などとは露ほども思っていないらしい。

まあ、当然だろうな。

ナギサの場合、受からせたくもないだろうがそれ以上にどうあっても無理だろうとわかっているのだ。

 

だが、逆に言えば私からしても都合がいい。

数日間学校に拘束する、それも集団生活で。

これなら無理なくナギサの依頼──裏切者の発見にあたれる。

 

「はい、そうなんです……それに、もし三次試験まで全て落ちてしまったら……あうう……」

「そんなくだらない結末にならない為に、私がいるんだろう」

 

最悪の結末を思い、不安を募らせるヒフミに私は少しばかり柔らかい表情で返答した。

おそらくヒフミは一次試験を合格できるだろう。

そうなれば二次、三次もあまり問題もなく。

だが、それ即ち他の3人への不安が募るばかり。

その辛さは理解できるからこそ、寄り添ってやりたいとは思う。

 

「どうして先生はいつも余裕を持てるんですか?」

 

ヒフミの口から些細な、それでいて彼女にとっては大きな疑問の言葉が漏れる。

余裕、か。

正直、キヴォトスに来てから余裕を持って対処した事例があったかと言われると私的には多くはない。

アビドスの件では確かに、カイザーコーポレーション側の計画を早期に看破し利用したかもしれない。

しかし、最良の結末に到達するために綱渡りにも近い無茶な行動をした部分も多くあった。

ゲーム開発部についてもそうだ。

あっちに関してはむしろ焦っていたことの方が多い。

なんせ私の得意ではない、何なら知らない分野での仕事であり実務をするのは生徒たち。

事実、急かしていたしな。

 

それでも確かに余裕を持っていると思われているのなら、それは良いことなのだろう。

頼ろうと思っていた相手が、明らかに焦り余裕がない状態というのは到底いい状況ではない。

あいつだって心の内を知らぬ者から見れば、なぜ笑えるのか、なぜそこまで他人を思えるのか、どうして余裕があるのか……そう思う奴らもいただろうしな。

 

「……焦るほど時間に縛られていない時間の方が長かった」

「時間に縛られていない時間……」

「まあ、要するに色々と融通の利く体だったんだ。今は違ってもな」

「む、難しいです」

 

当然だろう。

目の前の男がかつて『不滅なる者』であり、1万と2000年以上の時を生きた存在だとは誰も思わない。

そして、その人生は驚くほど長く時に眠りに費やした数年や数百年があったのだ。

人生は短い、だからこそ今を焦る事の出来るお前たちとはどうしても価値観や気持ちの持ちようが違う。

しかしだからこそ、こうして大きく構えてお前たちを救おうと思える。

 

「安心しろ。全部落ちたらどうなるかも分かっているしそのために取るべき手を考えてもいる」

「それは……合宿を受ける事も計算に入れてますか?」

「正直、初耳だがむしろ私にとっては好都合だ。諸々に向き合えるしな」

「諸々ですか」

「さ、今日はもう帰れ。プレッシャーをかけるつもりは無いが、体調面だけはしっかりと気を使ってもらわないとな」

 

今日より進む闇夜は酷く長く、容易には越えられない故に。

 

00Ⅳ

 

それから数日が経ち、私自身は特に感慨深いこともなく第一次特別学力試験の当日を迎えた。

予定通り行われ、予定通り落ちて、予定通りに合宿……つまらない進行ではあるが、ここ数日のハナコとアズサの会話はきっと近い未来で私を、いや彼女たちを救うだろう。

 

「……っ」

「うぅ……」

「ふふっ」

「……」

 

四者四様、緊張する者2名と余裕がある者1名、ただ時を待つ者1名と。

予想ではヒフミ以外が全員不合格と踏んではいるがそれはそれ、頑張って欲しいという気持ちは持っている。

だからこそ、彼女たちの最初の船出に相応しい言葉を贈ろう。

 

「今日の試験は言うなら最初の一歩だ、ダメで元々くらいの気持ちでも構わない。私は決してお前たちの点数に失望することも無ければ、投げ出す事もしない。やるだけやってみろ。そのうえで敢えて助言をするならば、分からない問題があればそれに時間をかけるな、自分自身が解ける問題を優先して解いて時間に余裕を作ってから対処しろ、だ」

 

教師としての言葉としては不合格と自分で分かっている。

だが、ありもしない幻想を見せるのはアーテリスでの経験でもう十分だ。

だからこそ、幻想ではなく現実を見せそのうえで決して見捨てないと再び決意を述べるだけだ。

 

それに、案外役に立つアドバイスはしてやっただろ?

 

「え、エリートの力を見せてやるんだから!」

「あ、あはは……頑張ります」

「ふふっ、はい」

「準備は完璧」

 

さて、では嵐へと出航しようじゃないか。




本編との違いはナギサの考えを知っているからこそ、長期的なスパンでの計画が立てられること、そしてそれはエメトセルクの得意分野だと考えています。

黄金のレガシーのネタバレネタは有り?

  • 有り
  • ダメ!死刑!
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