1月は公私共に忙しく投稿出来ておりませんでしたことを心よりお祈り申し上げます。
ブルアカ4周年はFF14プレイヤーとしても嬉しかったですし、私の好きな生徒が実装されたのも嬉しかったです。
セイアちゃんがメーティオンと同じ声優さんになりそうだなーとかは思っていたのですが、会長がスフェーン様になるとは思っていなかったです。
さて、新年最初の投稿は少し長めに。
00Ⅰ
「ようやく着きましたね、ここが私たちの……」
「はい、合宿の場所です。ようやく着きましたね、ふぅ……」
「暫く使われていなかった、と聞いていたが家具類が揃っている辺りは優しさを感じるな」
あの予定通り悲惨な一次試験を何とか潜り抜けた──この場合、潜り抜けたは恐らく相応しくないのだろうが──私たちは寝食を共にして勉強し次の試験を超えようとする合宿へと舞台を進めた。
そしてその始まりに暫く使われていなかった別館を使う旨を告げれら今度は冷たい床で寝ろとでも言われるのかと内心はうんざりしながらヒフミたちの背後を『光あふれる世界』を歩んだその時の様についてきた。
「冷たい床で裸になって寝ないといけないのかと思っていましたが……広いですし、きちんとしてますし、可愛いベッドもあって何よりです」
「少なくとも文明的な生活は送れそ──」
「これならみんなで寝られそうですね、裸で♡」
「……何?」
「さっきから何でちょいちょい『裸』を強調するの!? それにベッドの数もちゃんとあるんだから、みんなで寝る必要無いでしょ!?」
だが、あの旅との大きな違いはやはりハナコのコレだろう。
あいつに着いていった時には決して出る事は無かった『低俗』──確かこのキヴォトスでは『下ネタ』と呼ぶらしい──な言葉から始まる会話には決まってコハルが反応し本来したい会話の妨げとなる事がもうそれはそれは気が遠くなりそうなほど見た。
しかも質の悪いことにハナコはこのコハルの反応を楽しんでいる。
もし誰も反応を示さずに無視していればこの『悪ふざけ』が繰り返されることはないのだろう。アズサは理解できていないから除外とし、ヒフミは大体苦笑いですましコハルが反応。そうなれば当然にハナコはこれを継続するだろうしな。
私?
そんなもの決まっている、現状では我関せず、だ。
なにを話しても、言葉尻を取られてそうなってしまうのならば今は話さない方が吉。
目に余るようならば当然に釘を刺すつもりだが、なにぶんハナコのことを何も知らない。
頭を抱えたい気持ちを抑えて、いつものような顔で見ることしかないのだ。
「せっかくの合宿ですし、そういうお勉強も必要ではないでしょうか?」
「ダメ! エッチなのは禁止! 死刑!!」
「まあ今はまだ明るいですし、そういうことにしておきましょう。夜は長いですからね……♡」
「えっ、は、ど、どういう意味!?!!?」
そんな何度も見た寸劇を少し離れた場所で腕を組んで見つめる私をヒフミが一瞬だけ見やり、『あはは……』とでも言いたげな顔をして会話の道を戻そうと試みる。
「その、これから一週間寝食と勉強を共にするので、みなさん仲良く……ってあれアズサちゃんは?」
「あら、先ほどまでは一緒にいたのですが……」
確かにこの建物に入るまでアズサは同行していた。
しかし、中に入ればすぐに姿を消しここに至るまで私以外に気付かれることないまま、だった。
まったく……怪しい行動はしないで欲しい。そうでなければ立場上は厭でも疑わなければならないのだから。
が、全員がアズサの不在に気が付く頃くらいは本人も計算していたのだろう。
背後の扉から何食わぬ顔でゆっくりとアズサが現れた。
「偵察完了だ」
「て、偵察……?」
「トリニティの本校舎からはかなり離れてるし、流石に狙撃の危険は無さそう。外への入口が二つだけというところも気に入った。いざという時は片方の入口を塞いで、襲撃者たちを一階の体育館に誘導した上での殲滅戦が有効になるかな。まあ他には幾つかセキュリティ上の脆弱性も確認できたけど、改修すれば問題無い範囲だ」
「え、えっと……」
一体全体何のために、という部分は置いておいてアズサの着目点は非常に興味深い。
誰が襲撃するのかなんて考えたくはないが、よく言う攻める側は守る側の三倍は必要なんて理論にも則っている。何者がアズサにこのような知識を与えたにせよ、優れた部分は伸ばしてやるべきだろう。
「いい着目点だな、アズサ。だが、わざわざこんな離れた建物を襲撃するくらいの物好きだ、その程度想定するだろう」
「勿論それは考えられるから、建物内の至るところにトラップを仕掛ける」
「罠は確かに有効な手と言えるだろうが、先も言ったように襲撃者はこちらの人員も当然把握しているだろう。そうした場合、お前の取る行動は『勝手知ったる』ものになるんじゃないか?」
「なら、先生ならどうする?」
「こちらもまた相手を知る他ないな」
「なるほど。そうすればこちらも相手の手を読んで予想外の一手を食らわせる事が出来る、と」
「まあ、ここが襲撃されて面倒な籠城戦になる前に『あれこれ』手を打つ方が安上がりな気もしないでもないがな」
「『あれこれ』、とはなんだ先生」
「読んで字のごとくだ、私は面倒な事は少しでも減らしたい主義だからな」
「先生は策士だな」
策士か。
確かにそのように振舞っていた時期もあるだろう。
アシエン時代やソル時代などがそう。
しかし、本来の私はどうであったかと言われたら違う筈だと思う。
そんな役目はむしろアゼムの側だ。
あの突拍子もない作戦が、全て計算された結果によるものではないにしろアゼムは常にあいつ自身が一番いいと思える結末の為に動いていた。
そして私はむしろそれに合わせてやる側。
だが、誰もその役目を担えなくなったのならば厭でもそれを演じなければならない。
そしてその時間が長く拭えないから故に、こうしてあれこれと考えてしまうのだろう。
「否定できないのが辛い所だが……まあとりあえずお前も荷物を置いて少し休んだらどうだ」
「わかった。そうする」
その魂の色に相応しい程の純粋さ。
そんな少女を疑わなければならない、厭な気分。
昔の私ならもっと上手く出来たのだろうか。
答えのない問いを少女たちを見つめながら思ったのだ。
00Ⅱ
「……というわけで、あらためて。ナギサ様から言われた通りです。第一次特別学力試験には残念ながら落ちてしまったので……この別館で合宿をすることになりました。私たちは二次試験までの一週間、ここに滞在することになります。長い間放置されていたそうですが、少しお掃除すれば全然使えそうですし、体育館やシャワー室なども充実しているようですし……」
「うん、そういえば外にプールもあった。しばらく使われていないようだったけど……」
「あ、そうだったんですね。あと、ここはトリニティの本校舎からも頑張れば歩ける距離ですし、地下に食堂設備のようなものもありましたから、特にお腹を空かせる心配もなさそうです。それに私たちがここにいる間、エメトセルク先生もずっと一緒にいてくれる予定ですので、何かあっても大丈夫だと思います!」
「何かを起きないようにしてほしいんだがな……」
ヒフミの言う通り、この合宿は私も寝泊まりして参加する形を取っている。
それ自体に厭な気持はない。4人の事をより深く知ることが出来るだろうし、各々の問題に向き合う時間を取ることが出来る。しかしその反面、これまで行っていた業務が出来なくなってしまう弊害が存在してしまう。
この一週間はアビドスに行くことも、ゲーム開発部に顔を出すことも出来ない。その旨は事前に向こう側にも伝えてはいるがそれでも私自身も楽しみにして毎週を過ごしていた業務が仕事が増えるにつれて出来なくなってしまうのはかつてのソル時代を思わせる。
なんだかんだ、あいつらの日常と言うのが嫌いではないんだ。そして、私がその一員を担えている事実もな。
「あはは……それで先生のお部屋ですが──」
「ダメっ、絶対ダメ!! 同衾とかエッチじゃん!!!! 死刑!!!」
「えっと、コハルちゃん? 私、まだ何も言っていませんが……?」
「何を言い出すのかだいたい分かるわよ!! ダメったらダメ! そういうことはさせないんだから!」
「コハルちゃんは厳しいですねぇ……」
ヒフミの言葉にハナコが反応を示し、それを口に出す前にコハルが先手を取った。
確かにまだハナコは何も言っていないが、どうせ何か言うのだろうと言うのは火を見るよりも明らかだった。
とは言え、コハルは分かっていない。それを指摘すると言う事はつまり自分自身も同じような事を考える思考回路という事を。
「私は先生もここで一向に構わないけど? ベッドも余ってるし、無駄に部屋をいくつも使うこともない」
「あのなあ……普通、至って常識的な考えをすれば私がお前たちと同じ部屋で寝るわけがないだろう」
それくらいの分別は持ち合わせている。
余程、危機的な状況で無ければそんな事はしない。
まして、交流の時間が必要なこいつらにな。
「で、では一旦そういうことで。そうしたら、荷物を片付けて早速お勉強を……」
「あら、でもその前にやることがあると思いませんか? ヒフミちゃん?」
「え……?」
「なるほど、敵襲を想定してトラップの設置を?」
「そんなわけないだろう……」
ハナコの考えていることが私と同じならそれは何よりも必要なことだ。
そして、それを口に出すタイミングはきしくも同じだった。
「掃除だな」
「お掃除、ですよ♡……あら、先生も同じことを?」
「当然だ。埃被った部屋で眠るなどごめん被る。一週間も見続けるんだ、せめてマシな景観にはしておきたい」
「ふふ、では今日はまずお掃除から始めて、気持ち良い環境で勉強を始めるということでよろしいですか?」
「なるほど、確かにそうですね。まずは身の回りの整理整頓から始めるのは定石ですし、そうでないと途中で気になってしまいますし……」
「なにより、来て早々勉強というのも気分的に良くないだろう。どうせ一週間あるんだ、悠長にし続けるわけにはいかないが時に回り道が正解の場合もある」
なんて、いい言葉を吐いてはいるが実際のところ、心の底から埃塗れの場所で寝たくないだけだ。
致し方無い場合ならまだしも生活をする場がそんな見るも無残な状態なのを放置など出来ない。あいつの『ハウジング』と同じだ。
気になった場所は永遠と気になってしまう。
今回の場合、さっさと掃除するに限る。
「ほら、部長殿。号令を出せ」
「あうぅ……先生の方がそういうことは得意だと思いますが……こほん、それではまず、大掃除から始めるとしましょう!」
「各自汚れてもいい『掃除に適した服』に着替えて10分後に建物前に集合だ」
同意の声が響き渡れば、各々準備を開始する。
私はそんな光景を背に部屋を後にする。
覗きなんて趣味、ないからな。
00Ⅲ
「で、いつ私が水着で来いといった……!」
薄々そうなるかもしれない、と思ってはいた。
初対面がそうだったのだ、もういつどこでそうなってもおかしくはなかったんだ。
だが、流石に掃除をしようと言う時に水着で来るなんて思いつくはずもないだろう。
これから汚れ仕事をするのに自分の肌まで汚れる恰好など誰がしたいというんだ……。
アイツですらしない筈だ。
「そうよ!! なんで掃除をするのに水着なの!? バカなの!? バカなんでしょ!? バーカ!!」
「ですが動きやすいですし、何かで汚されても大丈夫ですし、洗い流すのも簡単で──」
「そういう問題じゃないでしょ!? 水着はプールで着るものなの! っていうか、だっ、誰かに見られたらどうするの!?」
「誰かも何も、ここには私たち以外いませんよ……?」
「そういう問題でもないだろ……」
コハルは赤面しハナコに食ってかかり、私は頭を押さえこの混乱をどう収めるかに悩む。
ハナコの言い分については理解できる。
確かに動きやすく汚れても洗いやすい、だがあくまでそれだけだ。
もし例えば掃除中に何か鋭利なものがその肌に触れてしまったらどうなるだろうか。
他のメンバーのように素肌を隠していれば服が破れる程度ですむかもしれないが、水着ではまず間違いなくケガするだろう。
監督するものとして、むやみやたらな怪我は避けるべきだ。
「と、とにかくダメ! アウトったらアウト! あんたはもう水着の着用禁止!」
「あら……それはそれで、まあ……」
「先生もそれでいいでしょ?」
「私に振るのか……」
とんだ交通事故だ。
別にコハルの流れでハナコが服を変えるならそれでもいいのに、わざわざこちらに同意の確認をされてしまうと私がどちらかにつかないとダメじゃないか。
いや、この場合まず間違いなくコハルなんだが。
「着用禁止にする必要はない」
「ど、どうして!? ま、まさか先生が見たいから──」
「断じて違う!! ハァ……極論誰がどういう風な格好をしようが私個人には関係がない。だから、ハナコ。お前が水着で掃除をしたいと言うのなら私は止めない」
「ふふ、先生は意外と甘い方なんですね」
「だが、私は事前に言ったはずだぞ? 『掃除に適した服』に着替えろ、と」
「それについては私も言いましたよ、動きやすくて汚れても簡単に洗い流せる、と。それに水着も『衣服』には含まれますよ?」
流石はハナコ、と言った所か。
彼女との議論はお互いの発言をしっかりと覚えその部分を潰し合うような形で進んでいく。
こいつの恰好を除外すればそれは立派な弁論だ。
アーモロートの人民弁論館にでも来れば、中々に面白い議論を見せるだろう……議題はともかくとして。
「なるほど、確かにお前の言う水着は衣服という考えも一理ある立派な反駁だ。しかし、本当に適していると思うか?」
「……?」
「確かに水着は汚れても簡単に洗い流せるだろう。では、それ以外の部位はどうだ? お前が露出させている素肌の部分への汚れは? それに掃除の最中に起きる怪我などのリスクを考慮するならば決してこの場での掃除には適さないと言えるんじゃないか?」
「あら……そう切り返されると困りますね」
「簡単に言ってやる。お前に怪我をされると私の目覚めが悪いからみんなと同じ体操着で掃除をしてくれ」
「ふふ、心配してくださっているのですね?」
「……そう思いたければそう思え」
「わかりました。今回は体操着で参加することにします」
その表情を見るに不満などは見受けられず、むしろそれなりに満足のいく回答を得たと言いたげな顔でハナコは再び着替えに戻っていった。
論破したい、無理にでも服を着せたい……そんなこと思っちゃいない。
私にそういう趣味はないが、それでもそうなった経緯があると言うのなら頭ごなしに否定することも出来ないだろう。
「あ、あの先生……」
「なんだ、ヒフミ」
「もしかして、先生はその……スーツのまま掃除をするんですか……?」
「……ダメか?」
「ダメってわけではないですけど……体操服とかは?」
「生憎と──」
そんなものはない、そう言いかけた時に思い出したのだ。
シロコのランニングに付き合う為にわざわざ買ったあのランニングウェアのことを。
合宿と言いながら、宿泊道具など何一つ持ってきていない。
着替えの時はシャーレに飛べば済む話だから要らないと思っていたからだが、こうしてみると面倒だったと少しだけ後悔した。
「……私も着替えて来てもいいか?」
「いいですけど、今持ってないんじゃ……なるほど、先生のアレで行くんですね」
「そう、例のやつだ」
「あはは、先生のアレが使えたら私も補習にはならなかったかも……?」
「私の力を趣味に使うな……」
じゃあ着替えの為だけに使うのはいいのかい?
そんな声が聞こえた気がした。
00Ⅳ
生徒に適切な服装を着ろと指示を飛ばした張本人があろうことかスーツで掃除に参加しようとした珍事から暫くの時間が過ぎ、建物周辺の草むしり、廊下の掃除、各部屋やロビー内の散らかった家具の片付け等……順調かと問われたならば酷く順調に掃除の時間は過ぎ去っていき都度都度、彼女たちのある意味ではお約束の和気あいあいとした会話を少し羨ましくも思いながら私もまた黙々と作業へと従事した。
生徒たちに作業をさせておきながら指示した本人が踏ん反り返って座っているというのは私の主義ではない。それに、私も手伝った方が作業が迅速にするむのは火を見るより明らかだ。
「さて、掃除もこれくらいで終わりか」
「良いんじゃない? ずいぶんキレイになった気がする。うん、気持ちいい」
「……うん。悪くない」
「そうですね、お疲れ様でした!」
誇張抜きで随分と綺麗になったのだ。
これなら私だってどこぞに寝そべっても文句はないし、共同生活を送るうえでも何の問題もない。
殆どが同じことを考えていた。
只一人を除いて。
「あ、まだ一か所だけ残ってますよ?」
「あれ、そうでしたっけ……?」
「我々が使う場所ではもうないんじゃないか?」
「屋外プールが♡」
「プールだと? ……ああ、そういえば確かにあったな」
見るも無残な建造物があったが、あれがプールだったのだろう。
水も張って無ければ長らく掃除もしていない、いうなら廃墟手前に近いもの。
「あれを掃除するのか?」
「はい♡」
ハナコの言葉を否定できる者は誰も居なかったが、
恐らく皆が内心は思ったのだろう、やる意味はあるのか、と。
道中文句を言う事もなく、ただハナコが酷く楽しそうな表情を浮かべながら先導し案内された場所は正しく見るも無残なもの。
「これは……」
「だいぶ大きいな、どこから取り掛かれば良いのか……いやそもそも、補習授業に水泳の科目は無かったはずだけど?」
「試験に関係ないなら、別にこのままでも良いじゃん。掃除する必要ある?」
コハルの言も一理ある。
確かに目に入れば少し厭な気持ちになるかもしれない。だからと言って、こんなだだっ広い場所を当てもなく掃除する労力は無駄ではないか、しかも使う事はないのだから。
使う場所を確実に綺麗に。その考え方に何の問題もない。
「いえいえ、よく考えてみてください、コハルちゃん。キラキラと輝く水で満たされたプール、楽しい合宿。はしゃぎ回る生徒たち……楽しくなってきませんか?」
「……!? え、何!? わかんない、何か私に分からない高度な話をしてる!?」
「ですが確かに、こうして放置されてしまったプールを見ていると……何だか寂しい気持ちになりますね」
「このサイズだったし、昔はきっと使われていた時期もあったんだろう。元々は、賑やかな声が響き渡っていた場所なのかもしれない」
その言葉が私の脳裏に愛した過去を思い出させる。
── いい世界だったんだ、穏やかで朗らかで……
さもしい争いを感じさせず、違う意見を認め合う度量もあった。
アイツからすればそれは私の思い出が美化したもので、現実は違っただろうと思うかもしれない。
ヘルメス然り、アテナ然り。
だがそれでも確かに、私にはそうだったんだ。
決して失われていいものではない、愛したもの。
「それでも、こんな風に変わってしまう。『Vanitas Vanitatum』……それが、この世界の真実」
「えっと……?」
「古代の言葉ですね、『全ては虚しいものである』……確かに、そうなのかもしれません」
「いいや、違う。断じて」
「……先生?」
『全ては虚しいものである』
その言葉を聞いて上手くどう違うのかを言葉で伝えるために頭の中で組み合わせを行う前に、私はとっさにその言葉を否定していた。
そんな言葉、私も幾度となく吐いた。アシエンに挑む愚か者に対して、なりこそない共に対して、そして……私自身に対して。
だが、決してそうではない。
同胞の未来の為に戦った私が、アイツに道を譲った私が、一筋の希望の光が暗澹たる絶望を救うその光景を見た私が、『全ては虚しいものである』と認めるわけにはいかない、否認められない!
「確かに人はそう思う時もあるだろう。生きる以上、負の感情のない楽園など存在はしない。私の故郷でさえそれは存在しない『楽園』だと信じていたが違った。だが、そんな感情に負けないくらい何度でも立ち上がり、力を、言葉を尽くし多くを得る。それらの積み重ねが生きるということであり、そして死に行く時初めて自らの旅に答えを出せる」
「先生も思ったことがあるの?」
「何度思ったことか。哀れだ、無価値だ、虚しいだけだ……と。だが、ある時同じような事をお前たちとさして変わらない歳の子供に言われたな。『何度でも立ち上がり、力を、言葉を尽くそう。生きるとはそうやって行いを積み重ねていくことだ。命の形で定められるものではない』と」
「命の形……」
「結局、『全ては虚しいものである』というのは最初から諦めているだけなんだろう。そうすれば何も期待しないでいいし、その分裏切られることもない。だが、そう思い生きる事を私は生きているとは認めない。何と言われようとな」
私たちアシエンが暗躍し、終焉を謳うものがその力を使っていた時とは違う。
キヴォトスではそれこそ命を容易に奪いうるような災厄や戦争はないはずだ。
だが、古代にその言葉がありそれを真実だと信じてしまう子供がいる。
ならば私もあの時アイツの仲間がそういったように言葉と力を尽くそう。
アイツの救った天に相応しくない絶望を払うのは、私に相応しい役目なのだから。
「エメトセルク先生は不思議だ。自己紹介の時とかさっきの話では作戦を立てるのが得意な軍人みたいだったのに、まるで凄く長い時間を生きた人みたいな言葉を言う」
「少なくともどう見てもお前たちより長生きなのは間違っていない」
「確かにエメトセルク先生の年齢は不思議ですよね。以前のお話では初代皇帝の傍に居てその死後の帝国も知っている。ですが、外見上は20代から30代くらいお若く見えます。そう思えば今の様に古代の言葉にも直ぐに反論出来てしまう。本当に不思議ですね」
「た、確かに私も先生の実年齢は聞いたことがありません。以前、政治について語られていたのでそれに触れていた期間は必ずあるわけで……」
古代の言葉を否定する20代から30代にかけての青年と見ると不思議だが、その実態は1万2000年以上は確実に生きている古代人。
古代の言葉を否定する古代人か、我ながら何ともしっくりと来る場面だ。
それにこいつらの言う古代だって、アーテリスの旧き人ほど前とは限らない。
下手をすれば私よりも若造の言葉なのかもしれない。
ナギサには感謝しないとな。
こうした相応しい舞台を用意してくれたことを。
「私が幾つかについてはお前たちならいつか知れるだろう。思ったよりも若造かもしれないし、それこそ古代人かもな」
「そんなわけ無いでしょ!! 古代人ならもう少し古代人らしい見た目のはずよ!!」
「それもそうか。さて、どうする? このプール、このまま放置するか?」
「先生の言葉を聞いて良いことを思いついたんです」
「良いこと?」
これまで見せたどの笑顔よりも、真の意味での笑顔を浮かべたハナコが続きを述べていく。
「アズサちゃん、ヒフミちゃん、コハルちゃん、エメトセルク先生も! 今から遊びませんか?」
「え、えぇっ!?」
「今から掃除して、プールに水を入れて、みんなで飛び込んだりしましょう! 明日からは頑張ってお勉強をしないといけませんし、となると今日が最後のチャンスかもしれないじゃないですか。今のうちにここで楽しく遊んでおかないと! 途中からはまた別のことで、色々と疲れてしまうかもしれませんし……!」
「随分と、刹那的じゃないか?」
「あら、先生が言ったんじゃないですか。『得たものの積み重ねが生きること』だと」
「確かに言ったが……」
今を楽しむという考えをハナコが持っている事自体はとても良い兆候だろう。
つまり酷い話が自暴自棄で今の状態ではないのだという確信を持てる。
それにこちらの言葉に耳を傾けていることも知れたしな。
「さあさあ、早く濡れても良い恰好に着替えてきてください! プール掃除を始めましょう!」
「……うん、先生やハナコの言う通り。たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない」
「……ほう」
その魂に相応しい言葉だ。
嘘偽りなく本心から出たその言葉こそ、アイツやその仲間たちが希望を継ぐに至った理由のはずだ。
今日最善を尽くす……言葉でこそ簡単でも実際にするのは難しい。
だからこそ、それを例え不格好でも実践するのだ。
ハァ……こういう奴らを疑う必要があるのはやはりいい気持ではないな。
「さぁ、ヒフミちゃんにコハルちゃん。水着……いえ、何でも良いので濡れてもいい恰好に!」
「うーん、でも確かにここだけ掃除しないのも何だか気持ち悪いですし……私も、着替えてきます!」
「え、えぇっ!? 補習授業とは全然関係ないじゃん……うぅ、何で……」
「ふふっ、コハルちゃん♡」
名前だけ呼んで無言で近づいてくるハナコにコハルはじりじりと追い詰められ、結局諦めて大きな声を上げながら着替えに行った。
「さあ、エメトセルク先生も」
「水着なんてもってないぞ全く……私はこの恰好でいい」
「ふふ、先生も意外と乗り気なんじゃないですか?」
「……さあな」
長い物には巻かれよ、だったか。
この場合はハナコの勢いに従う方がいいと、私の経験がそう告げていた。
──―
──
ー
「見てください、虹ですよ! 虹!」
ホースから出た水が太陽の光を浴びて、小さな虹を形成する。
そんなよくありつつも、見ていて綺麗な光景を他の奴らとは違う水着を着たハナコは随分と楽しそうに周りへと水を吹きかけている。
「ひゃっ!? ちょっ、ハナコちゃん冷たいですよ!」
「おい! 私に向けて撃つんじゃない!!」
「ふふっ、トリニティの湖から引っ張ってきている水みたいですので、そのまま口を開けて飲んでも大丈夫ですよ?」
「水の性質の話をしてるんじゃない! 第一飲むならコップに入れるだろう!」
とまあ、水着だから対して問題のない彼女たちとは違って一応汚れてもいいが濡れたくはない恰好の私にとってこの水ほど何とか避けたいものはなかった。
しかし、逃げようとすればするほどにハナコはホースの狙いをこちらに向けて放つものだから終いには私も逃げる事を諦めて運命を受け入れることにした。
なぜ私だけ執拗に狙われるのかはいまいち納得は出来なかったが、それでもなんだかんだ小言を言いつつも流れに呑まれているコハルも含めてそれなりに楽しい時間を送ることが出来た。
ただ一つ、水を張ろうとしたら異常なほど時間がかかり日暮れを迎えることになった点を除けば。
「結局、実際にプールに入って遊ぶことは出来ませんでしたね……」
「そういえば、水を入れるのは結構時間がかかるものでしたね……ごめんなさい、失念していました」
「いや、謝ることはない。十分楽しかった」
「……綺麗」
辺りが暗くなり、月明かりが私たちを照らす頃になり漸くプールに水を張ることができた。
人工的な海の様なもの……いや、どちらかと言えば池か。
しかしそんなものですら月明かりに照らされればある種神秘的な雰囲気を感じる。
リムサロミンサやトライヨラで見るものとは似て非なるものだ。
「そうですね。真夜中のプールなんて、なかなか見られない光景で……」
感嘆しておきながらもやはり疲れたのだろう。
コハルは既に意識の半分近くが眠りへと落ちつつあった。
実際、コハルは口では文句を言っていながらも良く働きそれなりに遊んでいた。
良くも悪くも純粋な子、私とは程遠いな。
「あら、コハルちゃんおねむですか?」
「そ、そんなことないもん……でも、ちょっとつかれた……」
「事実、お前たちは動きっぱなしだったからな。今日は部屋に戻って各々風呂に入るなり雑談するなりして過ごせ。明日からが本番、今日とはまた違った疲れが襲ってくるんだからな」
「うん」
「そうですね、では今日はこれくらいで」
「私はお前たちの部屋の近くに居るから、何かあれば呼ぶといい」
00Ⅴ
「さて……」
生徒たちは寝てもいいが私にはまだすべきことがある。
まあ、約2名ほど動き回っているようだがそれは一旦おいておいて『トリニティの裏切者』についてだ。
今日の光景を見れば、あいつらが退学していい生徒ではないことは改めて実感できた。
それに、疑いを向けたくない存在であることも。
だが、それはそれこれはこれ。
残念だがその交流の中でも私の一部……つまりは暗躍していた頃の私はしっかりと各々の動きを見ていた。
コハル、ヒフミは裏切者ではない、これはそう信じたいのではなく見ていてよくわかる。
コハルの性格は演技などでは到底身に着けることの出来ないもの、生きてきた過程で培ったものだ。
ヒフミがそうなら『裏切者の大義』と『ペロロ』を天秤にかけてペロロを取る……つまりは趣味を取る裏切者などそうそういない。
そんな奴は裏切者失格だ。
まあ、こいつの場合私が恩を感じているという分がどうしても含まれてしまっているのだろうが……。
では次いで、ハナコ。
一番危惧していた、ボタンの掛け違いによって他人すら不幸にしてしまえばいいという考えを持つ奴ではない。
プール掃除のときなどがいい例だろう。アズサと私の会話を聞いて気を配りあのような提案が出来る奴、善良な奴だ。
勿論、言動については少し言わねばならないかもしれないがな。
そこまで思考を纏め、アズサについてを考えようとしたとき、不意に扉を叩く音が耳に入り私を現実へと引き戻す。
「入れ」
「あ、えと、失礼します……」
「ヒフミか」
「その、夜中にすみません……」
「その顔はあれこれ考えて寝られなかった顔だな。まあ、座れ」
ヒフミを椅子に座らせつつ、何か飲み物を入れてやろうと考えコーヒーに手を掛けたが思いとどまる。
ここで悩みを聞いて眠れるようになっても、コーヒーで起きてしまうのでは?
とは言え、白湯を出すのも問題だし紅茶も似たようなものだ。
結局私は、インスタントのカフェラテを用意しヒフミに手渡す。
アコのコーヒーよりは上手くできたと思いたいが……
「ありがとうございます……。先生、今日もお疲れさまでした」
「別に、実際の所一番動いていたのはお前たちだ」
「明日から本格的な合宿、なのですが……私たち、このままで大丈夫なのでしょうか……。もし一週間後の二次試験に落ちてしまったら、三次試験……万が一、それにも落ちてしまったら……」
「退学だな」
「……はい。先生は最初からそれを知っていて皆にも暈しながらも伝えていました。それにいつだって余裕を持っていますし……」
つらつらとヒフミは胸の内を明かし始める。
実際、緊張感はかなりのものだろう。
「学力試験なのに、どうしてこういう『全員一斉に』みたいな評価システムなのかもよく分かっていませんし、私たちの試験のためだけにこんな合宿施設まで提供してもらえるなんて……それに……」
「……お前はナギサからどう聞いた?」
この合宿についてもそうだった。
ナギサが私とヒフミに伝えている情報は同じではない。
「いえ、そ、その……!? な、ナギサ様からはその、えっと……」
「別に言いたくなければいいが……私に隠し事を出来るほどお前は狡猾じゃない」
「……はい。ナギサ様から、『誰にも言わないように』と言われていたのですが……私の手に負えるようなお話では、なくって……その、何と言えば良いのか……」
「『トリニティの裏切者』を見つけて欲しい、だろ?」
「……!? 先生も、そう言われたってこと、ですよね……はい、ナギサ様とお話をしていた時に──」
──ヒフミさん……補習授業部にいる裏切者を、探していただけませんか?
──今あの補習授業について、試験の結果など特に気にしてはいません。試験に合格しなければ退学というのは、つまるところ最終手段
──ヒフミさんがシャーレと繋がっていたから、ですね
──第三者であるエメトセルク先生がいる限り、裏切者は動く事はない。ゴミがゴミ箱から飛び出さないための蓋のようなもの
──それにやむを得なかったとはいえ、失敗してしまった場合はヒフミさんも同じことになってしまうのですよ?
「……なるほどな」
ゴミ箱の蓋と例えておきながら私が道化だと言えば、そうではないとどの口が言えたのか。
まあ、私の事はどうでもいい。
やはりナギサはヒフミすら疑っているのだろう。
親しかったと聞いていたが、一体何が原因で疑う事になったのかは知らんが本当に重症だ。
さて、どう着地させるのが丸いのか。
それが分かればもっと楽だったんだがな。
「わ、私はその、裏切者なんて、そんな話……みんな、同じ学校の生徒じゃないですか……今日だって、みんなでお掃除をして、一緒にご飯を食べて……これで、誰が裏切者なのかを探れだなんて、そんな、そんなこと……」
ヒフミは気が付いていない。
自分はテストを受けていないから入れられたのではない、彼女自身もまた裏切者の候補であるということを。
それを教えてやるのは容易いが、まだそうするわけにはいかない。
ヒフミには自暴自棄にならずに協力してもらわないと、この先の結末までは進めない。
……結局、ナギサも私も同じなのだ。ヒフミを利用しているという点について言えば。
「そんなこと、私には……」
「なら、お前はしなくていい」
「……え」
「裏切者は私が探し出す。その報告の時にお前も随伴すればお前に危害が加わる事はないだろう」
「じ、じゃあ先生は探せるんですか? あんなにみんなの事を見ていたのに……」
「確かにあいつらは懸命に生きているさ。だが、それが他人の想いを打ち砕いて良い大義になどなりはしない」
「どうしてですか! どうして、そこまで先生は落ち着いて割り切れてしまんですか!!」
ヒフミの非難は最もだ。
こいつからすれば私は血も涙もない男、そう見えるだろう。
正しいのだ、間違いなどない。
信じたい気持ちは同じだが、私はヒフミほど優しく等ない。
「ブラックマーケットで私がアビドス対策委員会に言った言葉を覚えているか?」
「ブラックマーケット……? ……! 『もう数え切れないほどこの手を汚してきた』……あれは対策委員会のみなさんを止めるために言ったんじゃ……」
「……お前や『裏切者』が想像もつかない時間を生き、そしてその度に手を汚してきた。だから私はお前ほど優しくも無ければ、純粋でもない。そうしなければならないならば、その役目に徹するさ」
「……でも先生は」
「いいか、ヒフミ。お前はお前のままでいろ。自分が正しいと思うことを信じて動け。そうすることが、あいつらを救う事に繋がるはずだ」
「……私が正しいと思うこと」
「色々話したが、結局の所は面倒事は私に任せろと言いたいだけだ」
私も誰かに話しをしたかったのかもしれない。
それがたまたま同じ任務を与えれたヒフミだったのだろう。
「なら私は先生を信じます!」
「……正気か?」
「先生がキヴォトスに来るまでどういった方だったのかは分かりません。ですが、先生は決して私たちを見捨てない人だって知ってますから」
「何がそう思わせたのか甚だ疑問だが……」
「あはは……何というか先生は面倒見が良いというか、見捨てられない人なんだって思います」
「見捨てられない……だと?」
「先生はいつもご自分を語る時は必ず『悪い大人』と思わせるように言いますけど……もしそうならアビドスの皆さんを助けませんし、私たちの事も早々に見捨てるはずです。そんな先生が役目に徹してでも裏切者を探すのはナギサ様の為じゃないですか?」
一体誰がこいつをここまでの人物にしたのか。
嘘偽りない純真無垢な優しさで私を見るヒフミに、何かを言い返すことは出来なかった。
見捨てられない人、か。
それはアイツにこそふさわしい称号だろうに。
私はむしろ、そう思われるには多くを捨て過ぎた側だ。
「……勝手にそう思っていればいい。だが、本当に私はお前の思うほど善人ではない」
「あはは……今日の所はそういう事にしておきます。先生?」
「なんだ……」
「ありがとうございます。先生と話すと何故かは知りませんが今の悩みもどうにか切り抜けられそう、そう思えました……!」
「買いかぶり過ぎだ。とっとと寝ろ」
「お、押さないでください!」
これ以上話しても私の方がどうにかなりそうだ。
そう思いながら相談者を無理やり押し出して、再び動き回る二つの魂を眺めることにした私、エメトセルクであった。
いかがでしたでしょうか。
Vanitas Vanitatumに対するエメトセルクの考え方は恐らくこうだなと個人的には解釈してます。
彼自身、きっとアシエン時代は虚しいと思った事もあるでしょうが全てを虚しいとはおもってなかった筈。それに終焉を謳うものを知っている彼がその言葉を肯定するはずもないでしょう。
少しずつですが、エメトセルクが補習授業部の子たちに深層を見せ始めている所を大事に書いていきたいと思います。
次回もお楽しみに。
黄金のレガシーのネタバレネタは有り?
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有り
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ダメ!死刑!