エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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書きたかった生徒との会話シーンに来ることができました。
ひとえにみなさんのお陰です!


皆さんはMTGコラボのエメトセルクを見ましたか?
カードゲームはあまりしない私ですが、始めようと思います。
何と言ってもあのカード効果、作った人がエメトセルクへの解像度が高すぎる!
弱点となるカードの名前も、これまたエメトセルク的でいいなと思いました。

では、1-9をご覧ください。

推奨BGM:雨の中の涙
https://www.youtube.com/watch?v=ll8iUzD0yf0&list=OLAK5uy_k6VLzZ2xBwP1jVU7h1jQ1DWqxYz5k4rrE&index=69


1-9 無邪気だった君へ

その少女は柔らかく、その髪色に相応しい綿菓子のような無邪気を醸し出していた。

 

だが、その瞳。

よりにもよって、私と同じ色のそれからは重い何かを抱えていることが見て取れてしまった。

 

随分と滲み、今にも黒い靄が出そうなその心。

 

ああ、それは……。

悲しみか、後悔か……或いは絶望か。

 

だが、あまり深く知らなかった頃からでもこれだけは胸を張って言えた。

 

お前にその色は似合わない、と

 

エメトセルクの手記8

 

00Ⅰ

 

「わぁっ、水が入ってるー!」

 

よく晴れ渡った空、その光を受け燦燦と煌めくプールサイドにお似合いの少女――聖園ミカは居た。

話があるから来て欲しい、一人で。

そんな内容の連絡を寄越しておきながら随分と悠長な奴だと内心で思いながらも、こいつとは一度面と向かって話したいと思っていたしその機会がこうも簡単に当人から与えられるとは考えても見なかった。

とんだ嬉しい誤算でもあるわけだ。

 

「あはっ、ここに水が入ってるのなんて久しぶりに見たなー。もしかしてこれから泳ぐの?それともみんなでプールパーティー?」

 

アイスブレイクなのだろう。

ナギサとの掛け合いを見るにミカはそういう世間話が好きな性格であり、なんの役目も負っていない状態であれば私も喜んで応えただろう。

だが、今の私は予定が詰まっている。

ミカとの対話は重要であることに変わりはないが、時間を無限に割ける相手ではないのだ。

 

「……要件は?」

「……えへへ。先生は上手くやってるかな、って思って」

「上手くやっているか、だと?」

 

なんだかんだ把握しておきながら、よく言う。

当のミカはどこ吹く風の如く話を続けていく。

 

「にしてもナギちゃん、ずいぶんと入れ込んでるみたいだねー。こんな施設まで貸し出しちゃって……ところで、合宿の方はどう?遠いのを良いことに、何か楽しそうなことしてたりしない?例えばみんな水着でプールパーティーとか!」

「……さあな」

「……あはっ。そこまで警戒しないで欲しいなエメトセルク先生。私こう見えても繊細で、傷つきやすいんだよ?」

「お前だからでも、ティーパーティーだからでもない。単純に私がこうなだけだ」

「ふーん。そうならいい人っていう噂は立たないと思うけど?」

「勝手に言っているだけだろう、そんなものは」

 

繊細で傷付きやすい、か。

嘘偽りないだろう。

初めて会った時、ミカに抱いた違和感の正体は結局の所、表情にもあったが最大の要因は彼女の魂にある。

あの時はこうして盗み見ることはしなかったが、こちらも時間が足りない身、仕方がないものだとその魂を見て私は眉を顰める。

 

アズサのような奴は特殊として、多くの者はその魂に色を付けていく。

綺麗な水色もいれば、くすんだ赤とかまあ人それぞれだが。

 

では、ミカの色はどうだったか。

眉を顰めるほど、美しかった?

いや、違う。

 

元の色の判別すら困難なほどに黒く滲んでいた。

 

悪人だから、ではないだろう。

多かれ少なかれ人は黒い部分を有する。

しかし、ミカのそれは現在進行形でそうなっているのだと言うのは見てきた傾向からよくわかる。

つまりは終末の災厄に襲われた際の、黒い靄に近いものだ。

むしろ、その前段階の様で。

 

ならば、現在進行形で何かに手を汚している。

ではそれは何か。

少なくともナギサにすら言えていない、己一人で抱える故の滲み。

とすれば自ずと警戒するさ。

 

「ところでここ、食事とか大丈夫?何か美味しいものでも送ろっか?ケーキとか紅茶とか」

「……不足してるように見えるか?」

「……そうだよね。長い前置きは辞めとこっか」

 

ミカも私が眉を顰め、随分と顔つきが変わったことを察したからか話題を変えはしたが、私自身がうまく対応することができなかった。

 

知るしかない。

だからこそ、ここからが本題だ。

避けては通れないもの、真相を。

 

「あっ、ちなみに私がここにいることについて、ナギちゃんは知らないよ?見ての通り、付き添いも無しの私の単独行動!」

「だろうな。お前が話したいのはそういうことだろう?」

「――本題だけど。エメトセルク先生、ナギちゃんから取引とか提案されなかった?」

「見ての通り、依頼を受けた身だ」

「違うよ。『トリニティの裏切者』を探して欲しいって」

「……」

 

どこから漏れた?

いや違うな。ミカも既にナギサの考えを掴んでいる。

ナギサから話したわけではないだろう、つまりこれは彼女自身が頭を使って得た結論。

やはり見かけによらず、面倒な相手だ。

 

「……やっぱり。それを提案するナギちゃんもだし、それを受ける先生も先生。何か詳しい情報は貰った?理由とか、目的とか、どうしてこのメンバーなのか。ナギちゃんは教えてくれないかもだけど、先生は聞いた?」

「聞いてない。だが、私が頷いたことに変わりはない」

「……そっかー。何も教えずにエメトセルク先生にこんな重荷を背負わせるなんて……」

「探してやると頷きはした。だが、補習授業部を裏切者として見てはいない」

「……え?そうなの?どうして?」

 

一瞬だけミカの表情が鋭いものになった気がした。

そう、私が補習授業部を裏切者として考えていないと言った時に。

ならばやはりそう言う事なのだろう。

重荷だと?

では、お前の背負うそれはなんなのか。

 

「自分の生徒たちを疑いたくないから?それとも――」

「さあな。無罪の証拠を手にしたかもしれないし、お前の言う通り疑いたくないのかもしれない。だが、決して重荷でなどあるものか」

 

重荷などでは決してない。

今更他人を疑う事なんてどうという事はない。

そんな役目を生徒がするべきではないし、慣れている私がするのは合理的だ。

そう、今更……。

何度だってしてきたことだからな。

 

「……へえ?どうして重荷じゃないの?そう思いたくても、頭の中からは消えないんだよ?一人で背負うんだよ?」

「そんなものとうの昔に経験したさ」

「……面白い答えだね。年齢不詳、経歴不明、言葉には重みがある……自分で聞いて噂通りだなって思った。だから聞くね?先生は誰の味方?」

「どういう意味だ?」

「トリニティの味方じゃないんだとしたら……ゲヘナの味方?連邦生徒会の味方?それとも、誰の味方でもない……とか?」

 

――生徒たちの味方だよ、ミカにとっても

 

アゼムやあいつならきっとそう言うだろう。

私だってこの場の最適解がそれであることくらいわかるさ。

だが、どうしてもそれを言えるほどの存在ではないこともわかる。

悲しいことに私ではその星足りえない。

 

私はあいつのような太陽ではない。

 

故に私は別の言葉を紡ぐほかない。

不格好ながらも。

 

「私はお前たちの先を生きた者。お前たちを見て、その選択を判じる者。そして……お前たち全員の味方でありたいと願う者だ」

「……先を生きた者、判じる者、味方でありたいと願う者、かぁ。……そっか、それは予想外だったなー。先生なら『私の味方に決まってるだろう?』ってはぐらかしちゃうかなって思ってた」

 

言うか言わないかで言えば確かに私ならばそういう可能性が高い。

だが、ミカの問いは本心から生じたもの。

ならばそれから逃げることはしない、してはならない。

 

「だったらさ、先生は私の味方でもありたいし、その選択を見て判じたい……って考えても良いのかな?私も一応この立場とはいえ、生徒に変わりはないんだけど……」

「例外なく、お前もだミカ。お前が聞く耳を持つ限り私は何度でも語り掛け、味方であろうとするさ」

「……わーお。さらっとすごいことを言ってのけるね、先生……大人だねぇ。そういう話術?って思う気持ちもあるけど……うん、ちょっと純粋に嬉しいかも。えへへ……」

 

嬉しいという割には随分と悲しい笑顔だ。

私の言葉でその心の濁りは晴れていない。

 

「でも、それを額面通りに受け取るのもちょーっと難しいかなぁ……だってそれは同時に、誰の味方でもないって解釈もできるよね?だから、そのまま受け取るんじゃなくて、私から先生に、取引を提案させてもらおうかな」

「取引?」

「補習授業部の中にいる『裏切者』が誰なのか、教えてあげる」

「……」

 

もしそれが私の想定と同じ答えなら長らく疑問であった部分もまた判明し、同時に厭な仮定もまた現実味を帯びる。

どうしてそれをお前が知っているのか、そしてそれを知っているということは……と。

 

「ナギちゃんの言う『トリニティの裏切者』、今必死に探して退学にさせようとしているその相手。実際のところ、もう少し複雑で大きな問題もあるんだけど……。今このまま、エメトセルク先生が頑張る姿を見てる……なんていうのはちょっと申し訳ないなって……そもそも、先生のことを補習授業部の担任として招待したのは私だからね。このことは知ってた?」

「お前が……?」

「うん、ナギちゃんにはずっと反対されてたんだけどね。せっかくの借りをこんな風につかうのはどうとかこうとかで。多分だけど、配信されてたアビドスのことでしょ?まあ、それはいいよ。それに私の方にも色々あって。トリニティでもゲヘナでもない、第三の立場が欲しかったの」

「一つ一つ順を追って解説してもらいたいが……まずは裏切者についてだ」

「補習授業部にいる『トリニティの裏切者』、それは――白洲アズサ」

 

……よりにもよって予想通りの名前だった。

つまり、全ての仮定が繋がり初め現実味を帯びてしまう。

ああ、なんて面倒なことに。

 

「そうか」

「……!びっくりしないの?」

「アズサには幾つか不明な点が多い。転校生であるにも関わらず何処からの転校かも不明、その割に戦い慣れている。勉学や一部常識に関しても特定分野以外はまるでまっさらな状態、数え始めたらキリがない」

「本当に頭が切れるんだね、ナギちゃんが警戒するのもわかるよ。それであの子はね、随分前にトリニティから分かれた、いわゆる分派……『アリウス分校』出身の生徒なの。うーん、よく考えると『生徒』って呼んで良いのか分からないんだけどね。『何かを学ぶ』という事がない生徒の事を、生徒って呼べるのかな?」

 

『Vanitas Vanitatum』

その言葉をまるで実践したかのような学校ということか。

そして、あの戦闘に関する知識も恐らくそこで。

しかし、今なお存続する理由がわからないな。

 

「それを私に教えたのは何故だ?」

 

故に問わなければならない。

お前の目的を、想いを。

そして、私はどうするべきなのかを己自身に。

 

「……ふふっ。良い眼だね、本当に。期待しちゃうな。先生には直球で言うけど、あの子を護って欲しいの」

 

00Ⅱ

 

「そんなもの頼まれるまでもない。もとよりそのつもりだからな」

 

アズサを護る。

そんなことはあいつを裏切者と考察した時点で考えていたことだ。

あいつの魂の色ならば、他人を踏みにじる行為は出来ないはず。

となれば、何らかの事情がある。

それを知り、そのうえで今の笑顔を護るべき。

 

「訳も聞かず、裏切者って言われた子をそれでも護るんだ」

「先生だからな。それに私は、あいつに期待している節もある」

「期待?」

「アズサは、知らないものを知ろうとする奴だ。どんなものにでも疑問を持ち、盲目的に信じる奴じゃない。掲げられた大義、心地の良い欺瞞、そして謳われた絶望……それでもアズサはきっと自分の答えにたどり着ける。あいつなら、あの色の持ち主なら」

「ふ~ん?エメトセルク先生でも、誰かに期待するんだ。意外だなあ、どっちかと言えばそんなのしなさそうだけど?」

「幾たびも裏切られ、その度に判じたさ、愚かで弱く、醜いと。それでも、そんな私の期待に応えた奴がいた。そいつを知っているからこそ、次の場所……このキヴォトスではもう一度くらい『人』に期待してもいいかとまあ、そんなところだ」

 

このキヴォトスは、私の想定を超えるほどの奴が居る。

アビドス然り、ゲーム開発部然り。

時に私を失望させることもあるだろう。だがそれでも、尚向かってくるのだ。

まるであの時のあいつみたいに。

 

その姿が酷く眩しくて、厭になる。

 

なのに、私はそれを望んでしまっている。

だから、期待を寄せてしまう。

 

『お前たちなら、超えられるだろう?』

 

と。

 

じゃあ、私は裏切っちゃうね……

 

どうやっても私では聞き取れない声でミカは何かを呟く。

辞めろ。

こういう場合きっと、碌でもない事なんだ。

 

「何か言ったか?」

「ううん。そんな生徒を信じる先生のために、ナギちゃんやセイアちゃんみたいに、頭が良いわけじゃなんだけど……ちゃんと伝わるように説明してみるね――まず、この『トリニティ総合学園』について。その一番の特徴は『たくさんの分派が集まってできた学校』だってこと。パテル、フィリウス、サンクトゥス……この三つの分派がトリニティの中心なの。で、『救護騎士団』とか『シスターフッド』とかに当たる派閥……大小さまざまな派閥がある……元々そういうたくさんの派閥が、まるで今のトリニティとゲヘナみたいな形で、お互いにお互いを敵視してて」

「その結果、争いか自らかは知らないが『アリウス』はトリニティから除外されたわけだな?」

「そう。争わず仲良く一つの学校になろう……そんな話をしたのが、いわゆる『第一回公会議』。その結果が今なんだけど、分派だった頃の余波を気にしてないって声も多くはなったね。先生も言った通り、最後まで反対していた学園が『アリウス』。元々は私たちとあまり変わらなかったはずの、一つの分派。経典に関するちょっとした解釈の違いがあったくらいで、結構いろんなところが似てたんだって。ちゃんとチャペルの授業もあったし、見た目も殆ど一緒で……それでいて、ゲヘナのことを心底嫌ってた。でも、そのアリウスは連合を作ることに猛烈に反対して……最終的には先生の予想通り争いに繋がっちゃったの」

「……そうか」

 

久しくは触れなかったこの感覚。

『なりそこない』への失望。

アビドス対策委員会も、ゲーム開発部でも私は生徒たちの輝く面ばかりを見ていた……いや、その部分しか見られないほどに大きな失望などしなかった。

個々の些細な部分には確かに失望したり、怒ったりはしたが、それ自体で見捨てるなどはなかった、そうさせないくらいには、あいつらは眩しかった。

 

カイザー理事の間抜けぶりには随分と失望したがな。

 

だが、そんなキヴォトスもアーテリスと変わらず何処まで行こうが『人』が生きる世界。

感情を有する以上は、当然に争いは避けられず、歴史ある学園ともなれば当然争いの規模も大きく傷跡は残り続ける。

 

『お前たちなら、超えられるだろう?』

 

と同時にやはり並行して存在してしまうのだ。

 

『所詮、この程度が限界か』

 

という失望もまた。

 

『生徒』と『先生』或いは『大人』という尺度だけではなく、キヴォトスでも生徒としてだけではなく、『人』として判じなければならない時が近いのかもしれない。

その過程で例え、失望しようともそれを上回る輝きが、眩しさがそこにあると信じて。

 

「連合になって強大な力を持つようになったトリニティ総合学園は、その大きな力でアリウスを徹底的に弾圧し始めた。あまりにも大きな力を持ちすぎると、その強さを確認したがる……なんていうのはよくあるお話で。つまるところ、アリウスは悲しいことにちょうどいいターゲットだったって言えるのかもしれない。そしてアリウスは潰された。トリニティの自治区から追放されて、今は……詳細は分からないけど、キヴォトスのどこかに隠れてるみたい。相当激しい戦いだったんだろうね。その後全然見つからないような場所に隠れたみたいで、多分、連邦生徒会ですら未だにその自治区がどこにあるのか分かってないくらいなの。大半の生徒たちにとっては、『そんな学園あったっけ?』って感じだと思う。ほとんどはきっと、そんな争いがあったことすら知らない……そうして表舞台には姿を現さなくなって、今となってはその陰すらも薄くなってしまった存在……それが、アリウス分校だよ」

 

簡単なのは、力で打ちのめして、相手の主張を葬ること。

 

結局の所、どの世界も変わらず大勢はこの意見を支持する。

そして、負けた側が忘れ去られ憎悪や妬み、怒りを募らせ心を絶望で曇らせる。

もし終焉を謳うものが居たならば真っ先に終末の災厄が発生する地帯と言えるだろう。

それも年端もいかぬ子供たちだけで、だ。

 

救いようのない話なのだ。

 

だが、同時に希望もある。

アズサだ。

その様な悲惨な学校で育ったはずの彼女があれほど輝く魂を持つ者であるならば、きっとそうあいつの様に絶望を終わらせ未来への希望を繋ぐ役目を担えるはずだ。

皆が絶望する時、しない誰かがいたのなら繋いでいける……あの負けず嫌いが言った通り。

 

「アズサがそんな学校の出身とはな」

「うん。それで……ナギちゃんが推進している『エデン条約』、あれはさっき話してた『第一回公会議』の再現なの。エデン条約……大きな二つの学園が、これからは仲良くしようねって約束……何だか、いいお話に聞こえるよね?……ううん、先生はそう思ってないよね」

「どうしてそう思う?」

「なんでだろう、雰囲気かな~。後はやっぱり、初めて会った時の話し方とか?……ごめん、本筋に戻すね。エデン条約の核心、それはゲヘナとトリニティの武力を合わせたエデン条約機構、通称『ETO』と呼ばれる全く新しい武力集団を作ること。言ってみればある種の武力同盟。トリニティとゲヘナの戦力を合わせた、一つの大きな武装集団の誕生が目的……そんな、圧倒的な力を持つ集団が誕生するの……連邦生徒会長が行方不明っていう、こんな混迷の時期に。その大きな力を使って、ナギちゃんは果たして何をしようとしてるのかな?」

 

友人であるはずのミカがナギサの『真意』を知らない。

想いを言葉にすることなく行動する結果がこの状態であることは明確だ。

だが、それにしてもおかしなものだ。

ミカの話の進め方はまるで私がナギサを疑う様に仕向けるかの様で他ならないからだ。

違和感はより強い確信に似た感覚へと移ろいゆく。

 

「会長が不在の連邦生徒会を襲撃して、自分が連邦生徒会長になるとか?それともミレニアムっていう新しい芽を摘んでおくとか?細かい目的は知らないけど……これだけははっきり言えるよ。そんな大きな力を手に入れたら、きっと自分が気に入らないものを排除する。昔、トリニティがアリウスにしたみたいにね。あるいはもしかしたら、セイアちゃんみたいに……」

「セイアだと?……入院中では無かったのか?」

「……ううん、ごめんね。今のは失言だったかな」

「お前たちは私に言ったな、『入院中』だと。だが、病気や軽い怪我程度であれば伝えることを躊躇わない筈、ならばセイアは部外者には明かせない状態と言うことだ。……失言する相手は選べよ」

 

失言、いや違う。

余計な一言だったのだ。

私の目をナギサに向けるために、事態の真相、その闇を悟らせないように。

自分で頭が良くないと言ったが、正直ナギサより上手であると感じる部分もある。

特に雰囲気の作り方とその雰囲気に紛れる姿などは正しく。

 

事実、ナギサかミカどちらの方が暗躍に長けるかと聞けば多くの者はナギサと答えてしまうだろう。

ナギサの方が冷静沈着で、厳格な雰囲気を纏っているときもあるから。

 

しかしやはり違う。

最初に感じた違和感の正体、それは魂の色、そしてこの余計な一言で強くなる。

 

「……前にも話した通りだよ」

 

じっと私の目を見続けてミカは話す。

よくある目を逸らして話を切り上げようとするわけではなく、だ。

故に悪手。

 

「私の目を見て話してるつもりか?誤魔化す為に無駄に注視するのは賢い手ではない。その路の大先輩を相手にな」

「……大先輩、か。……先生は、本当に知りたい?」

「……」

「……この話をしたら、もう私は戻れない」

 

もう戻れない。

いや違う、もう既に戻れないと諦め一つの路を選択した者の小さな悲鳴。

ミカの口から漏れたのは、本当は助けて欲しいという言葉だと私は思った。

 

ああ、救うさ。

お前が何を抱え、どうしてその路を選んだのか。

全てを判じた上で、私はそれでもお前に手を、言葉を差し伸べよう。

その苦しみを知るものとして。

 

「もしこの先の事実を知った先生が、私のことを裏切ったら……私はきっともう終わり。それでも知りたい?」

「お前が進む路でせめて手元の灯になれるよう、私は知る権利がある」

「せめて手元の灯、か。エメトセルク先生は本当に不思議だね、私は先生のこと『お兄さん』くらいの歳だと思うけど、話してるととてもそうは思えないや。でもそうだね、先生はきっと嘘はつかない。きっと手元の灯になってくれる。もしこれで裏切られたって、なんて言うのかな……うん、それはそれで悪くないと思う。年上の人に乗せられたって言うのかな、えへへっ」

 

悲痛な笑顔だった。

こいつには笑顔が似合う、悲しい顔など似合いはしない。

 

「……セイアちゃんは入院中なんかじゃない。ヘイローを、壊されたの」

「……!」

 

この世界におけるヘイローの破壊。

それはつまり、明確な死。

肉体的に強固なキヴォトスの弱点とも言えるだろう。

なるほど、ナギサがあそこまで追い込まれ行動し続ける理由がここで分かるわけだ。

となれば厭でもわかる。

 

ナギサは次が自分であると考えている。

そして、エデン条約を締結さえしてしまえばもしそうなったとしてもミカは残る。

そうすれば、友人のミカだけはその強大な武力で守れるだろうと。

それまでの間は自分は死ねない。

どれほどの手を取ろうとも裏切者を隔離し、私を配置することでその行動すら封じる。

その間に強権的な態度と言えようとも、エデン条約を前に進めその時が来るのを待つ。

 

厭だ厭だ。

そんな奴を相手に私はどう言葉を掛ければいいのか。

自己犠牲などバカのすることだ、とでも言えばいいか?

今以上に追い込むわけにはいかない、だがある程度の手段までで留まらせなければ私が解決してもナギサに待つのは誹謗中傷だけだ。

そんなこと、断じてあっていいはずがない。

英雄無き世界で、それでもと歩を進める者が石を投げられる世界などもう見たくもない。

 

「冗談じゃないよ、本当の事。去年、セイアちゃんは何者かの手によって唐突に襲撃された。先生が聞いたのは対外的な内容ってだけ。ティーパーティーを除けば、誰も知らないこと。もしかしたら、『シスターフッド』には知られてるかもだけど……あそこの情報網は半端じゃないからね。兎に角それくらい秘密事項なの」

「……犯人の目ぼしはついているのか?」

「……目ぼしはついてない訳ではないよ。けど、今の段階で憶測を口にするのもね。それで、話は戻るんだけど。白洲アズサ、あの子を転校させたのは、私なの」

「アズサの『後ろ盾』はやはりお前か。察するに、ナギサはアズサの詳細を知らないんだろう?」

「うん。生徒名簿とかの書類を全部捏造してね」

「そこまでして入れた目的は?」

「アリウス分校は今もまだ、私たちのことを憎んでる。私たちはこうして豊かな環境を謳歌しているのに、彼女たちは劣悪な環境の中で、『学ぶ』という事が何なのかも分からないままでいる……私たちから差し伸べた手も、連邦生徒会からの助けも拒絶し続けてるの。過去の憎しみのせいで」

「……『何故、お前たちばかり、のうのうと生きている?』と思い、やがて『私たちばかり、惨めにはさせない』となる、か」

「……やけに詳しいね先生。それでね……私は、アリウス分校と和解がしたかった」

「和解、だと?」

 

ミカの目的が和解、か。

随分と大きく出たものだ。

イシュガルドと龍族の和解も人の人生で見ればとても長い歴史の上で成り立った奇跡。

それをミカは成したい、と。

 

三頭政治でこうも方向性がバラバラでは、碌に何も進まないだろう。

想いだけでは難しい問題もある。

その想い嫌いじゃないがな。

 

「でもその憎しみは、簡単には拭えないほどに大きくて……これまでの間に積みあがった誤解と疑念もあまりに多い。私の手には、負えないくらいに」

「当然だろうな。お前の人生以上の時を『絶望』していたのだから」

「それでもさ……私は和解したかった。けどナギちゃんもセイアちゃんも私の意見には反対だった……政治的な理由でね。でも、それも分からない訳じゃない。私たちは、ティーパーティーだから。確かに私は不器用だし、政治とかはちょっと得意じゃないけど……でも、また今から仲良くするのってそんなに難しいのかな?前みたいにお茶会でもしながら、お互いの誤解を解くことはできないのかな?」

 

本心からの目的だろう。

つまりミカの本来の魂はきっと綺麗な色のはず。

だが、こうも黒く滲んでしまった。

ミカは今もその目的の為に裏で動いているのは明白だ。

その過程で黒く滲ませたのならば、かなり大きな事件を起こしたのだろう。

そして、その大きな事件はついさっき当人の口から漏れたな。

 

……しかし解せない。

仮定として、ミカがセイアを襲撃した場合だが、これほどの想いを持つ者が人を簡単に殺める事が出来るのだろうか。

別に犠牲を出さずとも済む目的だ、それこそセイアと茶会でもして懇々と語り合えばいい。

そうならなかった、とすれば恐らくミカにも協力者がいる。

アリウスだろう。

アズサが?いや、それは有り得ない。

となればまだ知らぬアリウス生がミカの計画外にセイアを襲撃し殺害した、もしくは大人やゲマトリア……。

黒服ならば互いに言葉によって決着は着くだろうが、それ以外のゲマトリアは知らない。

もしかしたら、下劣で品性を感じない奴もいるかもしれない。

そう言う奴がもし、アリウス側に居たのならば……。

 

純粋で優しい想いは悪意によって歪められる。

ああ、何度とそういう事をした。

その度に、こういう魂の滲み方をさせてきた。

利用するだけして捨てたさ。

こんな『なりそこない』より生きるべきは私たち真なる人だと。

 

「私はあの子……白洲アズサに、和解の象徴になって欲しかったの。あの子についてはそれほど詳しいわけでもないんだけど、アリウスでもかなり優秀な生徒だったみたいだし、その可能性に賭けたかった。ナギちゃんを説得してちゃんと正式に進めるっている手段もあったかもしれないけど……そこについてはちょっと疑っちゃったというか……ナギちゃんはそういうの、聞いてくれないだろうなって」

「……」

 

想いは言葉にしなければ伝わらない。

仲間なら、友人なら、どうしてそうしなかったのだ。

その想いは一度反対されただけで闇の道を選んででもする事だったのか。

いいや違う、時間はかかるかもしれないがそれでもお前がナギサを信じていればきっと出来ただろう。

お前たち二人とも本心を打ち明けないから、こうなってるんだ。

 

そう言えたらどれだけ楽か。

 

「もしエデン条約が締結されちゃったら……その時はもう今度こそ本当に。アリウスとの和解は不可能なものになっちゃう。だから、どうにかその前に実現させたかった。アリウスの生徒がトリニティでもちゃんと暮らしていけて、幸せになれるんだって……みんなに証明してみせたかった。でも、そんな中にナギちゃんがトリニティに『裏切者』がいるって言い始めて……ナギちゃんが、どうしてそう考え始めたのかは分からない。私がそうやって動いている時に、何かやらかしちゃったのかもしれない。それでナギちゃんは条約の邪魔をさせまいとして、『補習授業部』を作ったの。最初は『補習授業部』って何のことかと思っちゃったけど……あ、そういえば先生。なんであの子たちなのかって聞いたことある?」

「無いが予測は出来る。全員もれなくナギサが疑った奴らだ。ハナコは元の優秀さに対して現在の状態だ、そうなれば誰しも疑問に思うだろう。もしかしたら優秀な時の人脈がありそれを危惧したのかもな。コハルは純粋な学力と……正義実現委員会への牽制だろう。ゲヘナ嫌いが多いとも聞くしナギサからすれば抑えとして使える。ヒフミはナギサのお気に入りだろうが……大方知りたくもないが疑わざるを得ない情報を手に入れたとかじゃないか?」

「殆ど正解だよ。補足するなら、ヒフミちゃんはブラックマーケットに足を運んでいたり、犯罪組織……それに新しく現れたアシエン?ともつながってるとかなんとか」

 

頭を抱えるほかない。

ブラックマーケットに関してはヒフミが悪いが、犯罪組織『覆面水着団』や『アシエン』は私の責任だ。

とは言え、今更どうこう言っても仕方ないだろうしな。

ヒフミの誤解ならば、ナギサに信じたいと思う心が残ってさえいれば解消できるか。

 

「……ここまでが、今の状況。これで私の知ってることは全部話せたかな」

「お前は『裏切者』をどう解釈する?」

「……その言葉が何を指すのか。それを多少はっきりさせた上でなら、ちゃんと解答は出せるよ。まずナギちゃんはきっと、『自分たちを、トリニティを騙そうとしている者がいる』って思ってる。誰かがスパイなんじゃないかって。そういう意味でなら、白洲アズサになるね。あの子は私のせいで何もしらないまま、こんな複雑で政治的な争いのど真ん中に立つことになっちゃって……。でも、こんな形であの子を退学なんてことにさせちゃいけない。だから、護ってほしいの。それは今、先生にしかできないことだから。それから、ある意味では……ナギちゃんにとっての『裏切者』は、私でもある。先生と一緒で、エデン条約に賛成の立場じゃないから。でもさ、それとは別の観点からは同時に、こういうことも言えるよね?『トリニティの裏切者』……それは、ナギちゃんだって言うこともできる。そう思わない?これまで調和を保っていたトリニティを、巨大な怪物に変えようとしている存在……そういう見方があっても、そんなにおかしくはない」

 

私が探すべきはナギサ視点の『トリニティの裏切者』だ。

そんなまやかしの言葉による『裏切者』ではない。

事実、こうしてナギサ視点の『トリニティの裏切者』は見つかった。

だが、その『裏切者』にも信念はある。

故に複雑かつ面倒なのだ。

 

「でも、これは全部私からの一方的なお話。だから、もちろん最終的には先生が決めて。白洲アズサを護るのか、裏切者を見つけるのか……ナギちゃんを信じるのか。それとも私を信じるのか」

「……お前はどうして欲しいんだ?」

「わたしのことを心配してくれてる?あはっ。本当に先生は優しいね……うーん、何だかつい勘違いしちゃいそう。私の心配は大丈夫。こう見えても私、結構強いんだから♪」

 

強い、か。

単純な力、魔力……それですべての問題が解決してくれるならばどれだけいいか。

終末の災厄を、分割された世界を、同胞の無念を、想いを……。

 

「力が強くても、それは『強さ』じゃない。仮初の全能があったとしても、全てを解決することは出来ない……いや、出来なかったんだ」

「出来なかった?」

「……口が滑ったな。お前が気にする問題じゃない。ただ、これだけは覚えていろ。力の強さでは救えないものは多い、ということを」

 

話過ぎてしまった。

この依頼において私はこれまで以上に私の過去に触れることが多くなっている。いや、そうなってしまっている。

補習授業部、ナギサ、ミカ。

それぞれの想いを私は理解でき、そのどれにも味方になってやりたいと思う。

だが、そのどれかに味方をすれば他の味方にはなれない。

 

どうすればいいのか。

その葛藤が私の心に隙を生み、彼女たちとの会話で『深層』が漏れる。

 

ナギサやミカに対しては恐らくよりそうなのだろう。

歩む姿が、目的が、酷く見知ったものに思えてならない故に。

 

「先生は自分のこと、本当に喋らないんだね」

「お前たちが私の年齢や過去について話題にしていることくらいは知っているさ。多くの生徒が関心を持ち、そして時に私に聞く。だが、それを知ってどうする。きっと、お前たちは幻滅するだろう」

 

確かにホシノは幻滅しなかった。

あいつはメーティオンとの接触で全てを知った、『光の戦士』を通しての私を。

だが、それでも目の前の『先生』は大勢の人を殺め、世界の理にすらも干渉した不滅なる者であったなど知って楽しい話ではないのだ、決して。

お前たちの苦悩は全て私が過去に通ってきた路であり、その度に私は『役目』に徹し続けたのだと。

決して参考にしていいわけでも、憧れても、まして尊敬していい存在ではない。

 

しかし、ミカから返ってきた言葉は意外にもこの会話を継続しようとするものであった。

 

「……幻滅するかどうかは何ともだけど、先生とおしゃべりするのは楽しいし、なんて言うか本当に言葉に重みを感じる。だから、聞かせて欲しいな。先生は私の考え方……アリウスと和解したいって言う想い、どう思う?」

 

00Ⅲ

 

「だから、聞かせて欲しいな。先生は私の考え方……アリウスと和解したいって言う想い、どう思う?」

 

どうか私を肯定して欲しい、味方であって欲しい。

そんな思いがあるように聞こえたその問いを前に私はミカから目線を外し、プールの水面を眺める。

そう、その問いへの私の考えや言葉は既にある。

 

あの時、ラダー大昇降機の前であいつへと投げた言葉を、光景を思い出して。

ああ、結局私はこうして過去を思い出しては投げかけるのだろうな。

 

「どうあっても意見が異なる……いくら話しても納得できない……そんな相手との決着のつけ方を、知ってるか?」

「え?そんなの決まってるじゃん。それはもう……」

 

ミカもその問いに答えはあるのだろう。

トリニティがアリウスに行った事と同じこと。

それしか方法はないと、理解はしている。

 

「そう。簡単なのは、力で打ちのめして、相手の主張を葬ることだ。以前いた帝国でもトリニティでも、結局大勢はそれを支持したし、事実、手っ取り早く繁栄をもたらした」

「だよね。どれだけ話しても意見が違って納得して貰えないなら……仕方ないよね」

 

仕方ないとまるで自分に言い聞かせるかの様にミカはその言葉を吐きだした。

そう、こちらは努力したのだと。

悪いのは向こうで仕方のない事だ、そうしなければ無駄な労力を使うだけだからと。

 

「一方、戦いの末に、勝者の願いが優先されることになっても、敗者もまた尊重され、ある種の和解に至ることがある」

「……先生。確かにそれは良いことだしあって欲しいことだけど――」

「そういう決着にもっていくのは、とても難しい……。勝者が敗者を見下さず、憐れまず、敗者が勝者を仇としない。その両方が必要だからだ」

「……そんなの、そんなの理想論だよ……もしそんなことが出来るんだったら、出来てたなら……

 

ミカの表情に陰りが見える。

そうだ。

そんな決着に至るに必要なものをトリニティは持ち合わせていなかった。

そのせいで、ミカやナギサは先人のつけを払わされている状態で二人とも追い詰められている。

それが出来るなら自分たちの苦労はなんだったのか、と。

 

「そうだな。トリニティに少しでもアリウスを見下さず、憐れまない気持ちがあればお前一人で戦う事も無かっただろう。だが、今は違う。例えまだお前一人であったとしても。仲良くしたいのだと、元は同じだったのだから、と」

「それは……」

「だが、この決着には敗者の……アリウス側も変わらないといけない。お前の話を聞くに向こうは当然お前たちを仇としている。だからこそ、難しい。しかし、ここにも希望の光があるじゃないか」

「白洲アズサ、だよね?」

「そうだ。あいつならきっとお前の想いを汲めるしトリニティを仇としない。存外早く実現するかもしれないぞ」

「ナギちゃんがエデン条約を結ぶ前に……?」

「お前はエデン条約締結がタイムリミットだと思っているようだが、そんな事はない。アリウスは今なおゲヘナ嫌いかもしれないが、それすらも互いを知らないから起きるさもしい争いにすぎない。締結されようがされなかろうが、相手を知ろうとしないから争う。無知ゆえに争い、知りて絆を結ぶ、だ」

 

トリニティとゲヘナの問題などそんなものだ。

相手を先入観や噂で決めつけ、本当の中身を知ろうとしない。

確かにゲヘナにはとんでもない生徒は多い。

それこそ、温泉を開発するといったり、飲食店を爆破したり。

だが、それでもその個人の考えや想いというのは触れて見なければ分からない。

 

それに表立っていないだけでトリニティにだってそういう生徒はいるかもしれない。

言い方は悪いが、所詮は人なんだ。

何処まで行っても、人種が違おうが考え方や感情まで大きく異なることはない。

 

故に互いを知らずに結ばれる条約など意味はなく、楽園になどなりはしない。

知る余裕がないから、知ろうとしたけど……そんな言い方も出来るだろう。

そういう時にその場を作るくらいはしてやるさ。

 

「……じゃあ、先生はそんな決着の付け方を知ってるの?ただの理想論じゃないって、証明できる?」

 

そこまで言うのなら、私は知っているのかと。

ああ、私はそれを見た。

いや、経験した。

 

「私自身が最期にその結末の当事者だった。長年争い、互いを知り、それでも相容れない奴と……できたさ。物的証拠など何もないがな」

 

その言葉を皮切りに暫しの沈黙が流れる。

 

ミカの考えは嫌いじゃない、そうあることこそ『人』としてあるべき姿だ。

だが、負の感情がない楽園は存在しない。だからこそ、人は悩み前へと進むほかない。

それにこんな言葉ではもうミカは止められないだろう。

きっといつかミカの路と私の路がぶつかる日が来てしまう。

それもそう遠くない、むしろ近い日に。

 

「……そっか。ほんと、先生は物知りなんだね。ごめんね、色々聞いて。楽しかったよ」

 

まだ何かを語りたい顔をしながらもミカは私に背を向け、プールサイドを後にしようとする。

納得は出来ていない。

それは当然だ。結局のところ、私の言葉は知っている側に過ぎず知らない側にとっては早々に理解できる内容でもない。

 

だからこそ、私はその背に向かい言葉を投げる。

 

「ミカ」

「何かな、先生?」

「それがお前の選んだ路と言うならば見せてみろ。その路が至る先、あるいは私の路と交わった時にお前を判じよう。私が来る前の、関わる前のお前ではなく、今のお前が進み続けた路、そうなってでも信じたもの、そしてお前自身を」

「……!先生は……ううん、そっか。そうだよね、エメトセルク先生だもんね……わかった。じゃ、またね先生。もし次に会って、全てを見て判じたとしても……それでも私と話してくれるなら……先生の事をもっと知りたいな」

「その日が来たなら、話そう。私自身を、そしてそれでもなおお前の味方でありたい理由を」

 

ミカにも伝わったのだろう。

私が『トリニティの裏切者』をミカだと思っていることを。

 

故にこれは宣戦布告。

 

ミカは私を警戒しより慎重に、あるいはより大胆に動く。

一度に全てを救うのは難しい、だから今回割を食うのはミカとナギサになるだろう。

 

太陽はいない。

 

だが、だからといって他の者が彼女たちに石を投げていいわけではない。

 

投げられるべきは、只一人。

こんな彼女をそれでもやってみればいいと背を押し、知っているからと厳しい言葉を時にナギサに吐いた唯一の悪役である私だけだ。

 

00Ⅳ:ある少女の独白

 

私が最初に彼──エメトセルク先生を知ったのは、あの人が『シャーレ』の先生になったと言う話を記事でみた時。

 

普段は碌に興味なんて無かったんだけど、どうしてか興味を惹かれて記事を見たのを覚えてる。

 

黒もしくは濃い茶色の髪、何故か前髪だけは白い短めの髪型。

それにおでこに石みたいなのが付いてたのを見て少し笑ったっけ。

なにこれ、変なのみたいな。

けど、その目を見た時には笑えなかった。

私と同じ色の目。

何でだろうね、不思議な感じがした。

 

同じ目の色なんてキヴォトスを探せば幾らでもいると思うけど、どうしてかエメトセルク先生の目だけは違って見えた。

 

その次にその名前を聞いたのは、ティーパーティーに上がっていた『噂話』を聞いた時。

何処かの学校……確かあれはアビドスっていう所での内容だった。

 

借金まみれで廃校寸前の学校に突然現れた凄く背の高い大人が、カイザーコーポレーションの計画をめちゃくちゃにして危機から生徒を救った。

その時の映像はキヴォトス中で話題になってて、もちろん私も見たんだ。

 

── 私の可愛い生徒を嗤ったんだ。お前ごときが。お前が求めた結末になど、至らせるものか。お前の結末は、ただ一つだけだ

 

──カイザー理事よ、彼女たちの物語はお前によって終わらない! そして、必ず5人揃って未来を掴む。それが、アビドス対策委員会から送る答えだ!

 

ナギちゃんは確か、頭の切れる人……みたいなこと言ってたっけ。

 

確かにそうかもしれないけど、私はその映像からは別の感情を抱いた。

 

多分この人は生徒を見捨てない人なんだろうっていうのと同時に、嫌いな人に対しては徹底して冷たくて怖い人なんだって。

結局、その後カイザーの理事は指名手配が解除されて元にいた場所に戻ったらしいけど、発見された時は別人みたいに変わっていたんだって。

 

きっとそれは彼がしたんだろう。

それこそが彼が用意した理事への『結末』。

……もし私が彼にもっと早く会っていたらどうなってたんだろうね。

 

こうはならなかったのかな?

それとも……。

 

その後も彼の『噂話』は事欠かなかった。

お芝居が好きなこと、いつも文句を言ってるし眉間の皺が凄い。

だけど決して見捨てない。

 

何より一番びっくりしたのは、

先生から紡がれる言葉は、その見た目に反してすっごく重くて、すんなりと聞き入ってしまうっていう噂。

 

先生の年齢は最初から不明のまま。

キヴォトスに来る前にしていたことも、ある政府の組織に属していたとかで結構ぼかしてる。

私は先生の外見から見て、『お兄さん』だと思ってるけど、それを20代〜30代前後と考えるとどうしても辻褄は合わないような気もする。

 

そういう興味と自分の計画の為に、彼を呼び出して本人を見られると思った時はそれなりに楽しみにしていた。

 

ナギちゃんと早めに会議の場で待っていた時だって、ワクワクしていた。

おかしいよね、だって相手は得体の知れない存在。もしかしたら、私にとっては『手に負えない』存在かも知れない。

なのに、どうしてか待ってたんだ。

 

そんな私が見たのは、評判通り眉間に皺があって、背が高くて、やっぱり私と同じ目の色をした人だった。

 

『うーん、この人が本当に噂通りの人なのかな』

 

って思った。

別にあの映像みたいに怖いと感じることも、生徒を見捨てなさそうなんて思うこともない。

普通の『大人』。

 

けど、話していく中で私を見るその目からは何かを感じた。

 

物事の奥深くまで見る目、こちらをどう言う存在か分析する目、そして何よりその見た目からは想像できないくらい色んなものを見てきた目。

 

何を見てきたら、何を知れば、何を考えて生きていればそんな目を出来るのだろう。

 

まるで私たちの人生なんて比べものにならないくらい、それこそ100年以上生きてるんじゃない?って思うくらいに。

 

結局その日は碌に話せずに、先生が仕事を請け負ったことだけを聞いた。

話し合いの中でも、エメトセルク先生は私たちが隠してることを簡単に見抜いてたし、もしかしたら私は危険な人を呼んだんじゃないかなって思いも強まった。

 

だからこそ、今日は一対一で見極めようと呼び出した。

 

──私はお前たちの先を生きた者。お前たちを見て、その選択を判じる者。そして……お前たち全員の味方でありたいと願う者だ

 

随分と遥か先を生きたような目線で。

それでいて、思ったより『先生』っていう立場に苦悩していて。

 

── 幾たびも裏切られ、その度に判じたさ、愚かで弱く、醜いと。それでも、そんな私の想定を遥か越えた奴がいたからこそ、このキヴォトスではもう一度くらい『人』に期待してもいいかとまあ、そんなところだ

 

何度となく裏切られて、その度に否定した。

けど、何でか今はもう一回は期待するようになった人。

 

その期待を私は裏切ることになる。

先生の目で見られるたびに、覚悟を決めた心が揺らいでしまう。

この人なら今話せば、私を救ってくれるかもって。

もしかしたら、私の考えをわかってくれるかもって。

 

だから聞いたんだ、どう思うって。

 

──どうあっても意見が異なる……いくら話しても納得できない……そんな相手との決着のつけ方を、知ってるか?

 

そんなの決まってる。

いくら話しても無理なら、取れる手段は一つだけ。

私だってそうなんだから。

 

現に先生は私と同じことを言った。

そうだよね、それは仕方のないこと。

 

──一方、戦いの末に、勝者の願いが優先されることになっても、敗者もまた尊重され、ある種の和解に至ることがある

 

私じゃなくて、プールの水面を見る先生の目にはここではない違う何処か、はるか高い建物を前に、それこそ懐かしい雰囲気を纏う人に向かって言っているような。

 

けど、例えそんな深い言葉だろうと私は認められなかった。

だってそうじゃん。

もし本当に理想論じゃなくてそんな事が出来るんだったら、どうして私はいまこうなってるんだろうって。

 

でも先生はそれを見たって断言する。

しかも、それは私と白州アズサがいたら出来るって。

エデン条約の締結は関係ないとかね。

違うんだよ、先生。

締結されたら、もう無理なんだよ。

なのに言うんだよ。

 

『互いを知らないから起きるさもしい争い』

とか

『無知ゆえに争い、知りて絆を結ぶ』

なんてさ。

 

だから私はもう帰ろうとした。

先生の言う言葉はきっと正しい、けど私にはもう出来ないことなの。

 

そんな私に先生は言葉を投げる。

 

──それがお前の選んだ路と言うならば見せてみろ。その路が至る先、あるいは私の路と交わった時にお前を判じよう。私が来る前の、関わる前のお前ではなく。今のお前が進み続けた日没後の路、そうなってでも信じたもの、そしてお前自身を

 

バレてる。

先生は明言はしてない、けどその言葉はどう聞いたって、私が本当の裏切者だってわかってる。

なのに、先生は私を止めなかった。

むしろ、今の私がどういう状態かまで理解して尚、やってみろって。

 

どこでバレたのかな。

私がしくじった?

うん、確かに先生を相手に話すとどうしても取り繕いきれない。

きっとその目からは逃げられない。

だからさっきの失言も含めて、証拠はなくても先生は確信した。

 

驚きをなんとか隠して、なんとか先生を見ていたら彼の影が随分と違う形に見えた。

 

とんでもないほど大きな腕に、それ以上に大きな翼。

それは確実に先生ではない異形なのに、どうしてかその影は先生なんだって確信できる。

目をこすってもう一度見れば、今度はきちんと先生の影で。

 

けど、いつもは背筋を伸ばしている先生が少し猫背に見えた。

その顔は真面目で私がどんなことをしていたとしても決して幻滅などしないと物語るように。

何をしていても、彼は言ってくれるだろう。

 

『そんなもの、私もしてきたさ』

 

そう思えるような『闇』を感じた。

 

『ならさ、先生。もしその時が来て、私と戦うことになっても私を見捨てないでくれる?』

 

けど、私は言いたかった言葉は言えなかった。




ミカはお気に入りの生徒の一人です。
そして、エメトセルクはFFで最も好きなキャラの一人です。
その二人が絡むとどうしてかこう言う陰鬱と言うか、物悲しげになってしまいました。

2人について。
現状ではどうこう言えませんが、結構似た部分があると思います。

ミカについて。
エデン条約編を通しての主人公というか、ヒロインとして書いてます。
言うなら、アビドス編通してのホシノと同じ感じです。
1から2章にかけて、補習授業部の眩しさを見ていくことになるエメトセルクですが、ミカと関わる時はそうではないというか、皆さん的には漆黒時代成分が濃くなるのかなと。
原作との大きな相違点として、エメトセルクは既に感づいているうえでやりたいようにやれと背を押しています。
これは彼自身がそうであったように、背負ったものを下ろすためにはもう進み過ぎたのだと感じたからです。
止めるべきであることくらいは彼も分かっているでしょうが、やらせたうえで救うのがエメトセルクらしいのかなとも。
原作とはだいぶ違った扱いになる予定です。

エメトセルクについて。
基本的に漆黒時代の猫背ではなく、暁月時の背筋で書いていたのですがやっぱりエデン条約では猫背の方が似合うのではないかと思います。
勿論あれは、重いものを背負っていたからだと思うのですが、それくらいの重みを知らず知らずに本人は背負っているのです。

新しいアンケートについて。
これまでアゼムやヒカセン像は個人の考えを出さず、様々なヒカセン像をベースに書いてます。(着ぐるみや金策、マーケット関係)
ですが、今後の展開的にもヒカセンの話を出すうえではやはり多少なりとて私主観のヒカセンが出てきてしまったり、選んだ選択肢などもそう書いてしまういう悩みがあります。
忌憚のないご意見をください!

では、次回もお楽しみに。

弊ヒカセン像について(選択肢や行動、人物像)

  • 出しても良き
  • ダメ!死刑!
  • 良いが、幾つかの選択肢を混ぜて欲しい
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