エメトセルク先生と透き通った青春   作:無名の古代人

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遂に出てきたか。


1-6 進まぬ会議

00Ⅰ

 

「……それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。本日は先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論ができると思うのですが……」

 

既に不穏なワードが飛び出てきたな。

いつもより真面目な……

 

「は~い☆」

「もちろん」

「何よ、いつもは不真面目みたいじゃない……」

「うへ、よろしくねー、先生」

「なんだか怪しい空気を感じるが……建設的な議論をしようじゃないか」

 

 

アーモロートには人民弁論館という自由に弁論を行うための施設すらあるくらいには我々は議論や弁論といったものが好きだ。例え異なる意見を持ったとしても、同じ分だけ認め合えた、そう思えるくらいにはよく議論したものだ。

 

他愛もない事から、星の未来に関することまで。

 

頭を悩ませ紛糾し、それでも相手の立場を分かろうとしていたのだ。

『終末』が起きるまでは。

 

「早速議題に入ります。本日は、私たちにとって非常に重要な問題……『学校の負債をどう返済するか』について、具体的な方法を議論します」

「忌憚のない意見を述べるといい。もちろん、挙手して他の人が述べている間は基本的にはしっかりと聞いてやれよ」

「はい! はい!」

「はい、一年の黒見さん。お願いします」

 

おお。

早速挙手し意見を述べる者が一人。

セリカだ。

これはいい。こいつならきっとまともな意見を出すはずだ。

 

「……あのさ、まず名字で呼ぶの、やめない?ぎこちないんだけど」

「せ、セリカちゃん……でも、せっかく会議だし……」

「いいじゃーん、おカタ~い感じで。それに今日は、先生もいるんだし」

 

いや別に呼び方くらいはどっちでもいいだろう。

固い話し方で意見を自由な弁論が妨げられる空気が出る方が問題だと思うんだが……

 

「ですよね! なんだか委員会っぽくてイイと思いま~す☆」

「はぁ……ま、先輩たちがそう言うなら……とにかく! 対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産の寸前としか言いようがないわっ! このままじゃ廃校だよ! みんな、わかってるよね?」

 

出だしの掴みとしてはいいんじゃないか。

演説では目先の不安感をダシにすることも大いにある。

かくいう私もそうやってガレマール帝国の方向性を国民に支持させたのだから。

 

「うん、まあねー」

「毎月の返済額は、利息だけで788万円! 私たちも頑張って稼いではいるけど、正直利息の返済も追いつかない。これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアするだけじゃ限界があるわ」

 

やってることがあいつと殆ど同じじゃないか。

 

「このままじゃ、らちが明かないってこと!何かこう、でっかく一発狙わないと!」

 

んん? 

いや待て。

大きな事業を始めようという意味かもしれない、株投資とかな。

それは歓迎される意見だろう。

まさか……なあ。

 

「でっかく……って、例えば?」

 

アヤネの当然の質問にセリカは誇らしげにチラシを取り出した。

 

「これこれ!街で配ってたチラシ!」

「これは……!?」

「なんだこれは。……『ゲルマニウム麦飯石プレスレットであなたも一攫千金』……だと?」

「そうっ!これでガッポガッポ稼ごうよ!」

 

一人だけ元気なセリカを除いて、私を含めた全員の心は一つだった。

『これは詐欺だ』と。

 

まず最初に断っておくが、持つものに特殊な効果を与える石というか御守りというのは確かに存在はする。その中には『幸運』に関するものだってあるだろう。

それが魔法が栄えているアーテリスならばな。

しかもそれはゲルマニウム麦飯石などと言う名前では無い。

なんだ、麦飯石って。

もう少しちゃんとした名前があるだろうに。

 

我々の困惑顔を、『理解していない』のだと考えたセリカは更にその説明を続ける。

 

「この間、街で声をかけられて、説明会に連れて行ってもらったの。運気を上げるゲルマニウムプレスレットってのを売ってるんだって!これは、身に着けるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りにの3人に売れば……」

「ダメだ」

「えーっ!何で?どうして!」

 

どうしような。

お前は詐欺に引っかかったんだ!と言えば何とも悲しい気持ちで終わるだけだ。

しっかりと納得のいく理由つけをしてやらないと……

 

「そもそも、お前は運気の上がる石を手に入れたらそれを周りに教えるか?」

「……あ」

「大体の人はそれを独占するか、ごく親しい人の中でのみ共有する。わざわざ、それを見ず知らずの人に教えて何の得があるとんだ。そういうのはな、大体裏がある」

「そういうこと~」

 

我々だって、蛮神を召喚させるためにありとあらゆる手を講じてきた。

その過程で『願い』の力を利用してきたのだから、よくわかるぞ。

ユールモア……ヴァウスリーの件だって半ば『詐欺』みたいなものだ。

滅びゆく世界で『幸福』を与える事で目をそらさせて、結局は統合の時まで『停滞』させられている。

そして『幸福』で居られる場所があると人々は拡散し、多くの者が更にそこに集ってしまうのだから。

 

「そ、そんなあ……そんな風には見えなかったのに……せっかくお昼に抜いて貯めたお金で2個も買ったのに……」

「大丈夫ですよセリカちゃん。お昼、一緒に食べましょう? 私がご馳走しますから」

「ぐすっ……ノノミせんぱぁい……」

 

真面目で素直な奴ほど引っかかってしまうものだから、仕方ないと言えば仕方ない。

それにまだ若いし、そこまで法外な価格を取られたわけではない。

今回は仕方がなかったんだセリカ。

 

「それにしても、先生詳しい。もしかして、詐欺の被害者?」

「は?」

 

突如、シロコから思わぬ攻撃を受けた。

言えるわけがないだろ、どちらかと言えば詐欺をしていた側だなんて。

世界をまたにかける詐欺グループ『アシエン』……ありそうな名前なのが少し悔しいが。

それに金の為にしたことじゃないんだ、別に恥じて等いない。

ただ、こんな若者に言うものでもないだけで。

 

「前職でそういう被害にあった者たちを見ていただけだ」

「先生の前職って何だったんですか~?」

「それはおじさんも気になるねえ」

 

またこの流れか。

だが、この程度はユウカとの会話で既に学習済みだ。

 

「政府のとある機関……その一員として誇りをもって働いていた。幸か不幸か、その過程で様々な者と交流する機会に恵まれていたんでな」

「政府の!?」

「いくら前職でも規定で詳しい事は話せない。お前たちも大人になればわかるさ……。それよりも、他に案はないか? できれば、詐欺の被害にも合わずに、我々が詐欺グループになる事もないような」

 

早々に切り上げよう。

いつか誰かに打ち明ける日は来るかもしれないが、今日じゃない。

 

「それも、そうですね……それでは、他にご意見のある方」

「はい! はい!」

「えっと……はい、3年の小鳥遊委員長。ちょっと嫌な予感がしますが……」

 

ホシノなら詐欺被害でもなければ、詐欺を働くこともないだろう。

アヤネが心配するような事など起きるはずないだろ。

 

「うむうむ、えっへん! 我が校の一番の問題は、全校生徒がここにいる数人だけってことなんだよねー。生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに、生徒を桁違いに増やせば、毎月のお金だけでもかなりの金額になるはずー」

「え……そ、そうなんですか?」

「そういうことー! だからまずは生徒の数を増やさないとねー、まずはそこからかなー。そうすれば議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられるしね」

「至極真っ当な意見だ」

「鋭いご指摘ですが……でもどうやって……」

 

まあ手段については難しいかもしれないが、やりようはある。

住む場所なら無限にあるし、新入生や転校生に厳しくするような奴もいない。

アピールポイントを絞って、きちんと広告宣伝すればだんだんと増やしていくこともできるかもしれない。

今の『現状』をある程度は開示しなければならないが、それをしないと詐欺になるから仕方ない。

流出した分はそれこそ、学生主体の学校とかで売ればいいだろう。

 

カイザーコーポレーション周りが面倒な要素だが、それでもやらないよりはマシ。

いい案じゃないか──

 

「簡単だよー、他校のスクールバスを拉致すればオッケー!」

「はい!?」「なんだと?」

 

思わず同時に言葉が出てしまった。

何、ハイジャック? いや、バスジャックか。

『詐欺』の次は『拉致』ときた。

 

「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないとバスから降りられないようにするのー。うへ~、これで生徒数がグンと増えること間違いなーし!」

「それ、興味深いね。ターゲットはトリニティ? それともゲヘナ? ミレニアム? 狙いをどこに定めるかによって、戦略を変える必要があるかも」

「何が、間違いなし、だ!! シロコ、お前も乗るんじゃない!! 『拉致』と『恐喝』でそれこそ廃校一直線だ!」

「……それに、他校の風紀委員が黙っていませんよ……」

 

頭が痛い。

途中まではいい案だったんだ……それがどうしてこんなおかしな方向に……

しかも何が腹立たしいかと言えば、『まあキヴォトスだし、あるかもしれないな』と一瞬でも納得しかけた自分に腹が立つ。

こんなところで順応したくなかったぞ……

 

「うへ~やっぱそうだよねー?」

「やっぱそうだよねー、じゃありませんよ、ホシノ先輩……もっと真面目に会議に臨んでいただかないと……」

「いい考えがある」

 

この流れのシロコだ。よりにもよって、先ほどの案に興味を示していた、シロコだ……

頼む。

お前はこの私に懐いてくれたんだから、冗談で興味を示しただけなんだよな? 

 

「この流れを変えてくれ、シロコ……」

「ん、任せて先生」

 

流石はシロコだ。

私の意を汲んでくれた──

 

「銀行を襲うの」

「はいっ!?」

 

わけないよな。

 

「銀行を……襲うだと?」

「銀行を襲う。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから」

「さっきから一生懸命見てたのは、それですか!?」

「5分で1億は稼げる。はい、覆面も準備しておいた」

 

そう言って私以外の5人分の覆面まで取り出す。

準備が良すぎないか、いくら何でも。

しかし、5分で1億か……単純計算で1時間で借金を返せる算段だ。

もちろん、最大の問題に目を瞑れば……

瞑れないがな。

 

「被るな! 犯罪だぞ、これは!」

「先生、何が不満?『拉致』と『恐喝』じゃない」

「私は、『生徒』が犯罪をするんじゃないって言ってるんだ!!」

「そうよ!!却下!却下ー!!」

「そっ、そうですっ!犯罪はいけませんっ!」

 

もし私一人ならどうにもなってなかったかもしれないが、至ってまともな感性の持ち主2人がいてくれて良かった。

初日の不良、ヘルメット団、カイザーコーポレーションと来て、ホシノ、シロコの案を聞くともはやキヴォトスでの犯罪やそれに近しい行為もある程度許されるかもしれないと思えてしまうのが本当に辛い。

だからこそ、私がおかしいんじゃないかと思うのを、アヤネとセリカがいてくれたから何とか踏みとどまれる。

 

「はあ……みなさん、もうちょっとまともな提案をしていただかないと……」

「あのー! はい! 次は私が!」

「……犯罪行為以外でな」

「はい! 犯罪ではない、とってもクリーンかつ確実な方法があります! アイドルです! スクールアイドル!」

「アイドル?」

 

アーテリスにも『踊り子』なり『歌姫』と呼ばれる者たちがいた。そして、それらの興行はかなりの収益を上げていることも。

かなりいい案が来たような気がするぞ。

 

 

「そうです! アニメで観たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです! 私たち全員がアイドルとしてデビューすれば……」

「興行収入が見込めるくらいに成長すると仮定すれば悪くない」

「先生もそう思いますか☆」

「アニメ? と言うのはまだ見たことがないが、要するに歌を歌ったり、芝居をしたりするんだろう? なら可能性としては十分悪くないと思うが……犯罪行為でもないし」

 

私から思いがけない賛成を貰えたのが意外そうなノノミだが、私は芝居などが好きだし、前職の一つ……皇帝時代は文化面の育成に力を入れていた。

特にお気に入りだった『劇団マジェスティック』に劇場艇プリマビスタを与えたほどに。

その『劇団マジェスティック』があいつに手を貸した時はなんとも奇妙な縁だと思ったものだが……

 

それに、対策委員会はみな容姿端麗で『被り』もいない。

正直な所、これはかなりまともなアイディアだろう。

 

「却下」

 

とホシノの言葉が響く。

 

「あら……これも駄目なんですか?」

「なんで? ホシノ先輩なら、特定のマニアに大ウケしそうなのに」

「うへーこんあ貧弱な体が好きとか言っちゃう輩なんて、人間としてダメっしょー。ないわー、ないない」

「決めポーズも考えておいたのに……水着少女団のクリスティーナで~す♧」

「やはり、却下だ」

 

『水着少女団』の『クリスティーナ』だと? 

何処にノノミの要素があるんだ。それに、『水着少女団』などと言う外見で売ってるだけで中身は伴っていなさそうなグループ名など到底認められるわけがない。

 

「えー、徹夜で考えたのに……」

 

途中までは興味深かったんだがな。

終わりの部分が少し、気に食わない。

 

「あのう……議論がなかなか進まないんですけど、そろそろ結論を……」

「それは先生に任せちゃおうー。先生、これまでの意見で、やるならどれがいい?」

「私が決めるのか!?」

 

全ての意見が却下されてきただろう……

その中から私が引っ張り出して、それをこいつらにさせる……

事実上、選択肢は一つしかないじゃないか。

 

「大丈夫だよー。先生が選んだものなら、間違いないって」

「ちょ、ちょっと待ってください! 何でそう言い切れるんですか!?」

「まさかアイドルをやれなんて言わないよね?」

「アイドルで☆お願いします♧」

「……」

「だから、お前は覆面を被るな……」

 

・スクールバスをジャック

・銀行強盗

・アイドル

 

何なんだ、この選択肢と言えない二つは……

 

もし襲撃する銀行を選べば? 

随分と手荒い方法にはなるが、カイザーローンやその関連金融会社に突撃すれば何らかの証拠を確保できる可能性もある。

しかしリスクが大きすぎる。

それなら私が変装して一人でやった方が絶対的にいい。

私なら、上手くやれるはずだからな。

 

スクールバスについては、私の職務上却下だ。

もしミレニアムを相手にやってみろ、怒りに震えながら私の部屋に突撃してくる奴に一人心当たりがある。

 

アイドル……

『水着少女団』の『クリスティーナ』は置いておくとして。

芸能の道に一家言ある私が直接プロデュースしてやれば各々の強みを引き出して何とか軌道に乗せられる可能性はある。

だが……一人以外はそこまで乗り気ではない。

 

「犯罪と言うのを考えずに言う意見だ。ホシノの案は……残念だが私の『職務』上許可できない。すまんな」

「うへ~いいよ。言った後でなんだけど選ばれなくてよかったよー」

 

それでも忌憚のない意見を述べるように言ったのは私だ。自らの意見をしっかりと述べた者への敬意を忘れるわけにはいかない。

 

「次いで、ノノミ。私は芝居好きで、個人的に『とある劇団』に様々な寄付をしたこともあるほどだ。だから、この案を一番いいものだと思ってはいたが……」

「駄目ですか?」

「私がプロデュースしてもいいとも思う。だが、そうなるとゴールが変わっていきそうでな。学校を救う為に始めたのに、いつの間にか業界のトップになるなんて言う目的に変わりそうで……」

 

実際そうなるだろう。

一家言ある以上は他のグループに負けないように育てようとするのが目に見えている。

そうなるとこいつらの『今』を壊してしまう。

だから……却下するしかない。

 

「まあ、落ち着いてから始めると言うなら幾らでも支援するぞ」

「わかりました。きちんと考えていただいてありがとうございます☆」

「さて最後に……シロコ」

「計画は大胆なほどいい。流石、先生」

「もし仮にだぞ? 相手を変えろと言えば……計画はできるのか?」

「うん、できるよ先生」

「計画だけしろ、実行することは認めない」

「どういう事ですか、先生?」

 

アヤネが疑問の声を投げかける。

当然か。

このままいけば私はシロコの案を採用し、銀行を襲う様に思っていたのかもしれないが……

 

「私が、お前たち『生徒』にそんな犯罪をさせると思っているのか?」

「でも、先生が計画しろって……」

「だから、頭の中や紙に書いて計画するのは別に犯罪ではないだろう。実行さえしなければな」

「……先生、それって」

 

ホシノが私を見る。

本当に察しのいい奴だな……

 

「そうだ。何故か置かれていた紙を見た『どこかの馬鹿な大人』がそのアイデアを盗んで、標的に襲撃するかもしれないが、それはお前たちの誰の責任でもない」

 

今のでこの場の全員が理解しただろう。

そうだ。

私自身がカイザーローンやその関連会社へ単独で潜入し何らかの『裏情報』を奪って戻れたらそれが一番いい結果だ。

 

借金の元を断つ。

それが私の取ろうとしている方法だ。

 

別に『借金事情』に潜んでいそうな裏が欲しい訳じゃない。カイザー側の上役を脅せる程度のネタであればいいのだ。

『弱み』さえあればあとは、どうとでもなる。ゆっくりとその心の隙間に入っていき最終的には借金を有耶無耶にさせる。

 

「いいわけないじゃないですか!!」

「落ち着けアヤネ。あくまでそういう方法もないわけではないと……」

「生徒に犯罪をさせないために、先生が犯罪を行うなんて本末転倒です!! それに、そんな方法で借金返済できても、嬉しくないです!!」

 

まさかアヤネの爆発の引き金を引くのが私になるとは……

どちらかと言えば、何とか怪しい案を形にしたつもりではあったが。

 

「誰も金を盗むとは言ってないだろう。私は、物事の裏をだなあ」

「駄目です!! 先生も仰っていた様に、犯罪はいけません!」

 

私自身のする犯罪については、特に何か言った覚えはないんだが……

だが流石に表立って、計画しろは不味かったか。

 

「皆さんも、ちゃんと真面目にやってください!いつもふざけてばっかり!銀行強盗とかマルチ商法とかそんなことばっかり言って!」

 

すまん。

私のせいでお前たちを巻き込んでしまった……いや待て、そもそも私がその案を考慮するに至ったのはお前たちの案が原因だろう。

なら、共犯だな。

 

 

00Ⅱ

 

「いやあー、悪かったってば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」

「怒ってません……」

「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」

「赤ちゃんじゃありませんからっ」

「ほら、好きな物を頼め。遠慮するな」

「先生まで……」

 

ぶつくさと怒りを垂れ流すアヤネを我々三人で懸命に宥める。

 

「……なんでもいいんだけどさ。なんでまたウチに来たの?」

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

「ふぁい」

 

正直な所あのまま会議を続けていた所でまともな意見が出る事もなければ、今後いい案が出るとも思えなかった。

アヤネは怒っていたが、魔法や奇跡を除いて『小さな積み重ね』が10億の借金を消す程の力があるかと言われたら……残念ながら無理だろう。

となれば『大きな手段』を取ろうとするのは間違いではなく、その過程で犯罪案が浮上してくるのも理解はできる。

それを生徒がするのだけは認めないがな。

 

結局のところ、私が内心で思っている『借金そのものの原因を消す』以外に方法はなさそうだ。

その結末に至るまでの手段については、例えアヤネに怒られたとしても私自身が『手を汚す』ことも視野に入れなければならない。

もちろん、こいつらでどうにか出来るならそれが一番の結果ではある。

だが、現状では無理だ。

裁定を下すには早々すぎるが、『世界の危機』などとは違い『数字』の問題は想いだけではどうにもならないか……

 

「先生に何か案はなかったんですか?」

「……金策に必死になったことはなかったからなあ。あるとすればあいつか……」

「あいつ?」

「私の……旧友みたいなやつだ」

「その人はどういう方法でお金を?」

「コーヒークッキーを大量に作って納品、ニンジン嫌いの夫に克服してほしいと考えた妻の依頼でキャロットラペを大量に作りこれまた納品。後は、薬や飯の製造販売や潜水艦で沈没船の宝を引き上げて換金とかだったな」

「……と、とても、多才な方ですね……」

「……本当に、厭なくらい多才だったよ……まあ、あいつの場合その金を直ぐに溶かすんだ。新しい服を買うだとか、装備に特別な力を込めるためにとかな」

「……ちなみにどれが一番収支よさそうだったの?」

「瞬間的なものなら、薬だったな。1セット99個を纏めて買うやつが多いから直ぐに売り切れる。だが、継続して最も収支が多いのは、恐らく潜水艦だな。なんせ、指定した場所に送れば後は勝手に行って帰ってくる。それを繰り返して溜まった財宝を売るだけの……手の暇かからない作業だから。数億は簡単に稼いでいたはずだが?」

「うへ」

 

世界の危機と言われながらも隙を見ては自分の……というか集まりの家に戻ってせっせと出していた記憶がある。あれはもう金が欲しい訳でもなんでもない、習慣というものだった。

故にこの中で参考になりそうな金策はどれもない。

キヴォトスで謎のコーヒークッキーブームが起きたり、ニンジン嫌いの知り合いを克服させようと考える者がいない限りは需要が無く、幻薬など売り出そうものなら何らかの法律に引っかかる可能性があり、今のアビドスには送り出せば勝手に航海探索してくれる潜水艦を四隻も揃える余裕なんてない。

後あいつがやろうとしていたのは、自分より安く売っている商品を大量に買い市場最低価格は自分のつけた値段にする……と言う半ば強引な方法で金策をしようともしていたか……? 

 

まあ、どちらにせよ『物作り』もしくは『原料調達』のスキルが求められそれらを対策委員会が持っているかと言われると首を縦には振れないのが現状だ。

それこそホシノの謎の鳴き声に現れている様にに、おおよそ真似出来ない類の金策方法だ。

 

万が一作れたとしても、ハイクオリティな製品になるとは限らないしな。

 

「だが、いくつか提案できそうなものは頭の中にある。まだ形になっていないだけだ……実現可能なラインで提案できるときが来たらするさ」

 

今はそれくらいしか言えない。

私の力を使おうが使わなかろうが、こいつらの『明日』への道標にありそうなものを用意してやるつもりだ。

それを何にするか、思い浮かんでいないだけで……

 

「あ……あのう……」

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

「……こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

「一番安いのは……580円の柴関ラーメンです!看板メニューなんで、美味しいですよ!」

「あ、ありがとうございます!」

 

考えを張り巡らせていれば、軍服の様な格好をした少女がセリカに値段の質問をした後で店を出た。

苦学生か何かか? 

だが、あの恰好……アビドスではなくて、ゲヘナ味を感じさせたが……

まあ、学校の勢力圏から出るのが悪いわけではない。こういった他校生の存在もまた、アビドスの店が生きていくためには必要だ。

にしても、580円のラーメンで店を出ると言うのは中々に苦労しているな。

カタカタヘルメット団といい、今の奴といい。

キヴォトスの治安の悪さの理由は、こう言った明日に困る者たちの多さにあるのかもしれない。

 

「えへへっ、やっと見つかった、600円以下のメニュー!」

「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」

「そ、そうでしたか、さすが社長、何でもご存知ですね……」

「はぁ……」

 

さっきの苦学生が仲間を連れ添って戻ってきたようだ。

4人揃っても600円以下で食事とは世知辛い世の中じゃないかまったく……

 

「4名様ですか? お席にご案内しますね」

「んーん、どうせ一杯しか頼まないし大丈夫」

「一杯だけ……? でも……どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし」

「おー、親切な店員さんだね! ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて。あ、わがままのついでに、箸は四膳でよろしく。優しいバイトちゃん」

「えっ? 四膳ですか?ま、まさか一杯を四人で分け合うつもり?」

「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!! お金がなくてすみません!!」

「あ、い、いや……!その、別にそう謝らなくても……」

 

4人で一杯、それはかなり悲しい懐事情だな……

幾らなんでもそれは腹が膨れないだろう。

 

私は頼んでおいた炭酸飲料を飲み干す。

炭酸が喉で暴れるが、それもある意味では心地の良いものだ。

この炭酸飲料がラーメンとそこまで変わらない値段と言う点を除けばな。

 

「いいえ! お金がないのは首がないのも同じ! 生きる資格なんてないんです! 虫けらにも劣る存在なのです! 虫けら以下ですみません……!」

「はあ……ちょっと声デカいよ、ハルカ。周りに迷惑……」

 

何と言うネガティブ思考だ。

別に金が無くとも生きる資格はあるだろう。生きる資格とはその程度で左右されるようなものではない。

 

紫髪の──ハルカと呼ばれた少女以外をを見る。

小柄な灰色髪に、私と同じ──私はこげ茶だが──白が混ざった黒髪、そして赤い髪……

その内二人は角が生えている。

これはゲヘナ生によくみられる特徴の一つだったはず。トリニティ生の中にはこの角が嫌いだと忌み嫌う派閥があると聞いたが……アウラ族を見たら恐らく卒倒するのだろうか。

 

兎も角、治安の悪くとも一定の統治が為されているゲヘナからわざわざアビドスに来るくらいだ。

込み入った事情があるのだろう。

 

「そんな! お金がないのは罪じゃないよ! 胸を張って!」

「へ? ……はい!?」

「お金は天下の回りもの、ってね。そもそもまだ学生だし! それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ? そういうのが大事なんだよ! もう少し待っててね。すぐ持ってくるから」

 

……深みのある言葉だな。

それでいて、一切の悪意がない他者への励ましの言葉。

お前はいい奴だよ、セリカ。

その真っ直ぐさを忘れないで欲しいものだ。

 

注文を取り厨房へと報告に行くであろうセリカを私は呼び止めた。

 

「セリカ、金は私が出すから──」

「大丈夫! ここは私と、大将に任せて!」

 

ならここはお前に任せるさ。

今現在でも私の懐は本当に余裕があるから問題はないが、セリカと大将ならきっと私が何かをするよりもいい結果になるだろう。

 

なら私は席について談笑する推定ゲヘナ生をもう少し観察するとするか。

もしかしたら、アビドスにまで来た理由が分かるかもしれん。

 

「何か妙な勘違いをされてるみたいだけど?」

「まあ、私たちもいつもはそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね。しいて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」

「『アルちゃん』じゃなくて社長でしょ? ムツキ室長、肩書はちゃんと付けてよ」

「ん? だってもう仕事終わった後じゃん? ところで、社長のクセに社員にラーメン一杯奢れないなんて」

「…………」

「今日の襲撃任務に投入する人員を雇うために、ほぼ全財産使っちゃったし……」

「ふふふ。でもこうして実際ラーメンは口にできるわけでしょ? それぐらい想定内よ」

 

『今日の襲撃任務』

随分と引っかかる言い回しじゃあないか。もしそれが既に終わった事なら『さっきの』等の言葉で言うはず。そしてまだ終わっていないのに、アビドスに来た。この店の常連というわけではなく。

 

『カイザーコーポレーション、もっと言えばカイザーPMC。それが雇い主』

 

つい先日、助けてやった少女の言葉を思い出す。カタカタヘルメット団を雇って襲撃を繰り返したが失敗した以上、今度は別の奴を雇う可能性があるわけでそれが目線の先の4人の可能性も十分にあり得る。

もしそうなら、面倒な場所に来られたものだ。アビドス生の憩いの場を知られてしまったのだから。

だが、相手が『生徒』である以上私が手を出すわけにもいかない。

 

つまり、本当に面倒な事になったというわけだ。

 

「ぶっちゃけ、忘れたんでしょ?ねえ、アルちゃん。夕飯代取っておくの、忘れたんでしょ?」

「……ふふふ」

「はあ。ま、リスクは減らせたほうがいいし。今回のターゲットは、ヘルメット団みたいなザコみたいには扱えないってことには同意する。でも全財産をはたいて人を雇わなきゃいけないほど、アビドスは危険な連中なの?」

 

確定だな。

こいつらはこれからアビドスを襲撃するつもりで、そのための人員を雇ってもいる。

その口からヘルメット団よりも強いのだろうから、更に面倒だ。こいつらが食べ終わる前に逆に奇襲でもした方が有意義なはず。

 

私は徐に席を立ち、会計を済ませるための名目にしつつ彼女たちの傍を『通りすぎる』。

余り得意な魔法ではないが、それで心を垣間見る事が出来ればそれでよし。不可能でもより近くで魂を見る事で『幻』の生成くらいはできるようになるだろうからな。

 

だが、不幸な事に赤い髪の少女と目が合ってしまった。

 

「あ……」

「なんだ、私の顔をじっくり見て」

 

厭な予感がする。

 

「黒一色のスーツに、黄色いネクタイ!しかも、前髪の一部だけ白くて、眉間にも皴がある……」

「だから、なんなんだ……」

 

おっさんと言いたいのか? 

 

「なんて、ハードボイルドな人なの!!」

「……はあ?」

 

どうしてこれから戦いそうなやつに絡まれることになるんだ……




エメトセルクって顔がいいですから、黒シャツに黒ズボンだとほんとにハードボイルドになるような。

今後の展開について(絆エピソードや番外編は書きます。アビドス編後の流れについて聞きたいです)花のパヴァーヌ(花)、エデン条約(エ)、カルバノグの兎(兎)

  • 原作通り(パ1→エ→パ2→兎→パ2)
  • 変則(エ→パ1,2→兎)
  • その他(コメントでお願いします)
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