「イデデデェエ〜〜!」
自力で見よう見まね界王拳を実行した翌日。俺の体は壮絶たる筋肉痛と肉離れによる激痛に苛まれていた。
め、目が覚めたベッドから一切動けん……!界王星にきた頃ものしかかる重力で全く動けなかったけど、今回は動いた途端に激痛が走るためピクリとも動くことができない……。
いや、動けるけど何かを動かすたびに悲鳴みたいな声をあげてしまうんだよね。おっかしいなぁ……あれくらいの負荷なら何とかイケると思ったんだけどなぁ……。
「馬鹿者め、未熟なまま界王拳を使おうとしたからじゃ。言ったじゃろう、今使えば反動で自滅すると」
そう言ってくるのはお湯とタオルを入れた桶を持ってきてくれた界王様だった。悟空との一戦後、目が覚めて悲鳴を上げてた俺をバブルスくんとグレゴリーくんが看病していてくれたんだけど、肉体へのダメージが想像以上であり、こうやって界王様が手ずから治療をしてくれるということに……。
「す、すいません界王様……ただ、どうしても見返してやりたくて」
あのあと、悟空が俺の本来の力を引き出すためにハッパをかけたと界王様から聞いたのだけど、やっぱりそれでも、界王様のことを悪く言われたことが気に入らなくて、仮にハッパだとわかっていたとしても、俺は同じように見返すため無茶をしていたと思う。
界王様は少し間を置いてから、「全く仕方のない」と息をついてベットの横にある椅子に腰掛けた。
「お主の使った界王拳は、本来のものではない。それは使ったお主自身がよくわかっておることだろう?あの気の使い方は正直に言って良くない。生きていれば確実にお主の寿命を縮めることになる」
「え、そんなヤバい気の使い方をしてました?」
「当然じゃ。ここ数年で鍛えたお主の肉体だからその程度のダメージで済んでおるだけじゃ。5年前にやっとったら体が爆発四散しとるぞ」
ひぇ、そんな死に方はいやだなぁ……いやもう死んでるけど。ただ、理論的には体全体から気をジェット噴射みたいに噴き出しているわけだからなぁ。フィジカルで受けないと内からの力の流れに耐えられずに爆発するのは何となく想像がついた。
「というわけで、お主の体が回復したら界王拳の初歩を教えることにする」
「ついに界王拳を教えてもらえるんですね!?あいててて!?」
「こら!無理に動くでないわ!……このまま放っておくと、お主また変なことしでかす可能性があるからな。とりあえず基礎の基礎を身につけるところから始めた方がよかろうて」
そう言ってウンウンと頷く界王様なんだけど、それならそうと早く界王拳を教えてくれたらよかったのに。恨めしそうに見る俺に「お主に授ける界王拳は、より洗練されたものにしたかったのだ」と言ってくる界王様。ま、まぁ?そういうなら仕方ないなぁ?と答えてしまうあたり、俺も界王様との暮らしにすっかり慣れてしまったのだろう。
「じゃあ、とりあえず今の体の負担をどうにかするところから始めるぞぉ〜。魂だけだというのにそれだけダメージ負うとは……やはり、ワシの目に狂いはなかったか」
「え、界王様何か言った?こんなにダメージ負ってるのってヤバいの?」
「魂が傷を負ってるわけじゃからな。下手をするとそのまま魂が砕けて虚無に還ることになるぞ」
「虚無に還るのは嫌だなぁ!なんとかならないんです?」
「安心せい。しっかりとマッサージをすれば治る」
マッサージ?まぁ実際の筋肉痛とかもマッサージとか温熱での治療とかもよく聞くからなぁ。でも界王様直々のマッサージって一体どういう……。
「ほいじゃぁ早速始めるぞぉ〜途中で辞めたら意味ないから頑張れよ〜」
「は、はい!ドンとお願いしまアッイタイイタイイタイイタイイタイイタイッ!?」
「ありゃあ〜こりゃあ酷いな。ガッチガチだわい」
「ヒィイッアッアッアッイタイイタイイタイ!?何!?何何何!?俺は今何をされてるの!?」
な、なんかマッサージじゃ絶対に聞かないような効果音が聞こえる。ズブってなんか刺さってるような音が聞こえる!あっあっあっ、界王様!界王様ぁ!?肩甲骨の隙間にそんなに指入りませんよ!?
「ほれ、ここ。ここの間。ゴリッゴリッ」
「〜〜〜⭐︎♨︎∂⌘*!?!?ひ、ヒィ!?ピィ!?や、やめ、アッアッアッ死ぬ死ぬ死ぬ!?だめ!辞めて!いやぁ!おウチ帰る!?おウチ帰るぅ!!」
「はいはい死なない死なない。途中で辞めたら逆効果だから頑張ろうなぁ」
え、あ、そんなとこ、にぃ!?指入っちゃう!!穴!穴が空いちゃう!空いちゃうぅう!!おがぁー!グレゴリーくん!いやグレゴリーさん!?観てないでタスケテ!
「はいはい暴れない。いやぁ、しかしこりゃあまいったな。ベッタリへばりついてるなぁ。こことか」
「あぃいぃぃいーーーーーっ!?」
身体の中からベリベリッッて音が聞こえる!?なにか剥がされてる!何かはわからないけど!?こっちの世界のマッサージでこれがデフォルトなの??あ、界王様の手が背中から離れた。不思議と筋肉痛と肉離れの痛みがマシになってる。す、すげぇ〜!!さすがは界王様だぜ!!
「はい、次は足なぁ」
「はぁ〜……あし?」
「はい(ズブゥ)」
オ゛ア゛ァアアーーーー!!!!
せめて何か言ってからやってよ!?あ、ふくらはぎのとこにそんな指入らな……アッアッアッ!こんなの誰にも需要ないシーンですわよ!アイッターイ!!ふくらはぎがぁ!!
くそわよ!!!!!!
▼
後日、界王印の地獄のマッサージを生き抜いた俺の体は、不思議と全回復。精神的にはゴリゴリに死に体なんだけど、そのまま界王様から「界王拳の初歩の初歩」という冊子を渡され、ついに界王拳の修行を開始したのだった。まじでここは地獄である。
さて、界王様の提唱する「界王拳」。あくまで界王様はこの技の理論を開発しただけであり、実際に扱えるのは孫悟空しかいない。
そんな机上の空論めいた界王拳をめちゃくちゃ簡単に言うと、いわゆる倍率を上げて身体スペックを底上げする技なのである。
セミナーじみた界王拳の話を要約すると……。
①高めた気を体内に留め、血液のように体内を循環させる。
②最初はゆっくり、慣れてきたら循環する速度をどんどん上げていく。
③気を循環させるという行為を身体で覚えた頃で、それを外に向けて放出する。
界王拳を使うと気が赤く変色する理由について、界王様いわく高速で循環する気が体外に放出されることで外気との摩擦が生じ、気が赤く発光する……らしい。詳しい話、ワシにもよくわからんとのこと。
そして界王拳は、倍々の技である。1倍、2倍、3倍と段階を踏んで身体能力を掛け算することで驚異の身体能力を獲得する。技を使用する者の扱える気……潜在能力というべきか、気の総量が多ければ多いほど、界王拳の循環、放出、維持には精度が求められる。
故に界王拳は優れた肉体とパワー、そして気を細かく制御できる天賦の才能が必要になるらしい。
なるほどなぁ、なんちゃって界王拳は自身の中にある気を鋭く吐き出すイメージだったのが、どうやら本家の界王拳と考え方が全く異なっていたようだ。
というわけで、さっそく気を体内に巡らせる修行のスタートである。これはある程度は気のコントロールが出来る様になっていたので、今までの修行スピードから見ると驚くほど早く習得できた。そんで、次に循環させる気のスピードを上げていく修行。これがとにかく難しい。気のコントロールがうまくできないと体内の気が外に逃げてしまうのだ。それを防ぐために意識をすれば戦闘どころじゃないし、逆に片手間にするには精度が高すぎる。
「慣れるしかないのぅ」という超原始的な界王様のスペシャルアドバイスを得たことから、今回は寝ている間も気の循環を意識するような修行へと移行した。イメージするならハンター×ハンターのグリードアイランド編の修行みたいなやつ。もしくは鬼滅の刃の全集中常中みたいな。
どうやって修行してるかって?界王様が痛覚レベルを上げて気を循環させないと激痛が走るみたいなスパルタ措置を施してくれましたよクソが!あと、循環速度見誤ったら内側から破裂するような痛みにも襲われるのでマジでコントロール性を身につけないと夜も寝れんくなるし、飯も食えん。
この修行にはかなり参ったよね。最初の数ヶ月は悲鳴をあげない日がなかったもの。日常茶飯事で激痛と内側から破裂する恐怖。そして気をコントロールすることに専念させられたわ。おファックですわ!!!!
んで、界王拳の修行開始から半年。ようやく気の循環が片手間で出来るような精度になってきたので、界王様から「そろそろ格闘戦もやりながら出来る様にせんとな」と言い出した。うん。それはわかる。日常生活を送るために界王拳を手にしたいわけじゃないし、いくらハッパをかけるためとはいえ、悟空にあんなこと言われたんだもの。今度はしっかりとぶん殴ってやらんと気が済まんぜ。
だから、手頃な相手を連れてきてやると言われてどんな人が来るかとワクワクしたんよ。天津飯かな?ヤムチャかな?それともピッコロさん?俺ドラゴンボールの中ならピッコロさんとミスターサタンが好きなんだよね!格闘技やりながらどっかでサインとか貰えないかなって思ってたりしたんすよ。
「さて、私を呼び出した以上、下手な相手なら粉微塵にしてさしあげますよ?」
連れてきてくれたの人じゃねんだわ。宇宙人なんだわ。しかも宇宙の帝王様なんだわ。
(そんなに俺を殺したいのですか!界王様ぁああ!)
しかもなんで初手から最終形態のフリーザ様なんですか!戦闘力53万ですよ!バカか!死ぬわ!普通に死ぬわ!俺の戦闘力いくらか知らんけど、たぶん53万より下ですわよ!指先一つでダウンどころか消し炭になるわ!クソわよ!!!!
「まぁまぁ地獄にいるよりは退屈せんじゃろうて」
「もし下らない相手なら界王星ごと貴方たちを粉々にして差し上げますからね」
「バブルスくん、グレゴリーくん、すまねえ……この星と運命を共にしてくれ」
そう言ってこの小さな星で出来た友達たちに最後の挨拶交わす俺に、「構わずにやれ」と脳内に直接死刑宣告をしてくる界王様。アンタ、悟空の時は絶対に手を出すな!って忠告してたのに俺には無しですか!それどころから後ろから蹴って崖から落とそうとしてるじゃないですか!やだぁーー!!
「少しは遊べるといいですが……すぐに死なないでくださいね」
ええい!ままよ!
「こうなったら死なば諸共!!」
気の循環速度を一気に上げる!ギアを上げるぞ!ついてこれるか!俺の体ぁああ!!(切実)
「界王拳だぁあああ!!」
循環し、高速になり、そして体外へと放出された気は赤く染まり、そして全身を駆け巡る。体が嘘のように軽い。1倍でもこれだけの力だ。こりゃあベジータと戦う前の悟空もなんとかなるって思ったのかもしれねぇなぁ。
トントン、とその場で飛んで体の動きを確認する。うん、悪くない。すると、目の前にいるフリーザは少し驚いた顔をしているように見えた。
「あ、すいません……孫悟空と同じ界王拳を使うので……よろしくお願いします」
「お、驚きましたよ。まさかあの忌々しいサル.…孫悟空と同じ技を使うとは」
なら、50パーセントで試してみましょうか。そう言って、足を閉じ、両手を広げてかの有名なフリーザ様の立ち姿を披露される。か、かっけぇええ!!この立ち姿こそフリーザ様って感じだぜぇ!!目の前に立って戦う相手にはなりたくはなかったけど!!
「では、まずは5分じゃ。はじめ!」
界王様がストップウォッチを押したと同時。
「キェエエエエッ!」
一気に間合いを詰めてきたフリーザが固めた拳を斜め上から振り下ろしてくる。フッ、普通なら見えずに頭がもげてると思うが……今は界王拳を使ってるからな!
「腕試しのつもりでしょうが……受けさせてもらいます!」
振り下ろされた拳を手のひらで受けた俺は、そのまま格闘戦へと移行する。拳、蹴りの応酬。界王拳の力である程度競り合えているが、フリーザの顔に焦りはない。おそらく50パーセントで様子見されてるんだろうなぁ。じゃあ、別に色々躊躇うのはよくないな!胸を借りるつもりでいこう!
「ぜりゃあ!!」
「……!?」
一気に体を下に寝かせてブレイクダンスのように足を振り回してフリーザの両足をはらい、そのまま真上へと打ち上げる。よし、ここまではイメージ通り。
そして!
「気をコントロールできる俺なら、リベンジもできるってわけだ!」
両手の手首を重ねて小脇に抱える。気を手のひらに集め、封じ込めた気の中でエネルギーを循環させていく。これも体内に気を巡らせる修行で得た技の一つだ。まとめた気を肉体と見立て、その中に溜めた気をぐるぐると循環させて圧縮する。さらに気を入れて、気を入れて……より強固なものへと昇華する。
構えはまだ途中だけど、今はイメージしやすい「かめはめ波」と同じ構えをしている。将来的にはその構えも変えたいんだけどなぁ。ほら、界王様の教えてくれた武術だからね!
だけど、もう名前は決めてる。
「受けてみろ!この……覇界光閃(はかいこうせん)を!」
循環し圧縮され極光に達したそれを突き出し、上空にいるフリーザ目掛けて打ち出す。これで軽く弾かれたら泣くけど!そんなの関係ないぜええ!!
「ゼェエェアアアァァーーーーッ!!」
前回のかめはめ波とは違い、手から一直線に光が走り、その先にいるフリーザが奇声を発しながら俺自慢の覇界光閃を両手で受け止める。一瞬、黄金の光を発した後……覇界光閃はフリーザに完全に止められてしまった。
くそ!やはりまだまだ未熟か!技の練度も足りない……もっと溜めを短くして……。
「調子に乗るなよ!このサルめ!」
そんな思考に走ってたら急降下してきたフリーザに右頬を思いっきり蹴られたでござる。
ノーガードで受けた為に吹っ飛ばされて、頭から界王星の地面に刺さることになった俺は、今後2度と戦闘中に打開策や解決策を考えるのは止めるようにしたのだった。
やはりここは地獄である。くそわよ!
▼
地面に突き刺さった地球人を見て、フリーザはかつて身に刻まれた圧倒的な敗北感を思い返していた。
孫悟空。
地球生まれで、穏やかな心を持ち、そしてスーパーサイヤ人に至った仇敵。
そのスーパーサイヤ人を目撃したときのような衝撃を地獄に行っても味わう羽目になるとは……つくづく、この世界は自分のことを嫌っているようだ。
「まさか初手からあれほどの界王拳を使えるとは……驚いたものじゃわい」
立会人である界王も、愛弟子の姿をどこか誇りつつも戦慄するような顔色をしている。
「あの男……何者ですか?あの赤く変色する気。孫悟空も使っていましたが……彼のものは遥かに上回るものでしたよ」
「あれはそうじゃのう……奴の場合のスタート地点は20倍界王拳じゃ」
なるほど……道理で過去の記憶を思い出す羽目になってしまった。フリーザは小さく笑う。界王拳を使った相手をボコボコにしたことはあるが、まさか、それを上回るルーキーがいるとは。
「よくぞこのような原石を見つけられましたねぇ。復活した暁にはフリーザ軍に入っていただきたいものです」
「いやぁ、それは無理じゃろう。奴の感性は人のそれじゃからな」
尚のこと欲しいではないですか、フリーザは思ったが……口には出さなかった。代わりにフンと鼻を鳴らして腕を組む。さっき蹴ってわかったが、彼はまだまだ発展途上だ。こんな場面で自分の手駒にするには……まだまだもったいない。
(まぁ、せいぜい楽しませてもらうかな。あんな退屈なところにいるよりはマシか)
そんなことを考えつつ、気弾で頭が埋まっている相手を吹き飛ばし、フリーザは容赦なくスパーリング相手を無理くりに立ち上がらせるのだった。