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錆びついて文字も見えなくなった看板が吊り下がったエントランスアーチを敏速に潜り抜ける。
空にはジェットコースターのレールが縦横無尽に走り抜け、遮られた夕日がパステルカラーで塗装された地面に複雑な影を落としている。影の合間を無遠慮に蹴りつけて、茶色と黒色に染め上がったマスコットたちの横をひとっ跳びで過ぎ去る。
「通報したスタッフによると入場客はゼロ、出勤中のスタッフは十四名。で、避難確認済みは内十二名。一名が『ガストレア』と接触したのを目撃されてる」
耳に嵌め込んだアーモンド型のイヤホンから男の苛立った声が響く。
イチカの
「死亡ではなく感染済みと考えた方がいいですね」
「ああ、今までの行動パターン通りならな。その遊園地は封じ込み済み。『親』も『子』も今日で仕留めるぞ」
「はい。未確認の一名は──」
発見次第、保護します。そう言葉を続ける前にイチカの耳が空気の揺らぎを捉え、無意識のうちに体が跳ねる。赤い眼光の尾を引いて空中へと、およそ九歳女児では不可能な、いやトップアスリートでさえ不可能な高度に跳び上がった。
耳元を風が駆け抜ける轟音とともに、直下、たった今までイチカがいた位置をトラクターサイズの黒い巨体が地面を踏み砕きながら駆け抜け突き当たりの土産屋に大音声を立てて突っ込む。
「ガストレアを発見。数は──」
見下すイチカの視界が一転暗くなる。
首の動きだけでさっと向き直る。視界いっぱいを赤黒い口が埋め尽くしていた。高く飛び上がっているイチカに対して、さらに上から太陽を遮るようにして巨体が大口を開けて飛びかかっているのだ。鼻をつく悪臭と共に口腔内の熱気が届くほどの超至近距離。乱れ並んだ歯はどれもイチカの半身ほどの大きさで、唾液で濡れた表面にはイチカの表情さえ反射して見える。貫かれれば死は避けられない。
だがこの危機的状況に及んでもイチカの心臓は規則正しく動いていた。
空中で体を捻り、振り上げた足の勢いを余さず利用して突進軌道から脱出。
振り足が螺旋を描いて細長い下顎に真横から到達し、着弾と同時に肉同士が衝突した鈍い快音が鳴り響く。下顎がだらしなく蹴り飛ばされ、巨体の脳を揺らしたのを確信する。
重力に蹴りの力が加算され、巨体はたちまち地上へと墜落。
「数は二体。どちらも『子』です」
苦もなく両足で着地したイチカは背負っているギターケースのハンドルを強く握りしめながら乱入者二体をじっと見つめた。
まず一体目。店舗に頭部がすっぽり埋まり込んでいた。中で首を乱暴に動かしているらしく、動作のたびにマスコット人形を散乱させビーズ状のカラフルな砂糖菓子を巻き上がらせている。全身が黒い毛で覆われ、太い尻尾を今も揺らす四つ足歩行の怪物は、一見して巨大化したキツネだ。
ガストレア──ガストレアウィルスによってDNAを改変された異形の怪物たち。その初期段階ステージⅠでは、宿主の遺伝子の改変度合いが低いため元の生物を単に巨大化した姿をとる。この巨大キツネはまさしくモデルフォックス・ステージⅠである。
二体目。三つの足で地面を踏みしめながら静かにこちらの動きを伺っている。トラクターサイズのステージⅠよりサイズがやや大きい。太い尻尾とすらっと前へ伸びた細長い顎でキツネと判断したくなるが、地面すれすれまで伸びた毛から覗くぬめった光沢を見せる三つの足と萎び切った耳が異常を訴えている。遺伝子改変が進みキツネ以外の因子を獲得したのだ。おそらく海棲系の因子。耳の機能が退化した結果、本来ならば三角形を取るはずのキツネの耳が萎びて縮小したのだ。
二体とも『子』で間違いない。既に確認されている親の因子がキツネ、ヘビ、ワシの三つなので、親はステージⅢ以上だと確定している。どちらも違う。
「了解。保護の必要は無くなってしまったな」
「ムクは『親探し』に割り当てますか?」
「そうしたいところだが一人で大丈夫か? 善野と荊都は俺より早く着いてるはずだ。応援なら」
「不要です。今は一刻も早く『親』を探すべきです。こういった事態を防ぐためにも」
ガストレアの最大の特徴はウィルス感染という性質にある。ウィルスを体内に注入された生物はDNAを非常識な速度で書き換えられると共に細胞周期が異常な速度へと改変される。その結果、爆発的に発生したガストレア細胞が全身を再構築、形象崩壊を起こしてガストレアとなる。そうして生まれたガストレアも感染源となるウィルスを持つため、感染の連鎖『
イチカたち民間警備会社──通称、『民警』の仕事はガストレアを速やかに抹殺し、人類の生存圏を守り抜くことだ。
そして今、イチカの前に立つ二体のガストレアを生み出した『親』とも言うべき個体はその消息を掴めていない。
『こういった事態』が既に五回も繰り返されていた。どのケースでも『親』は『子』を生んですぐに逃走し、時間をあけて再び現れては『子』を生んでいる。『親』の因子がいくつか判明しているのは過去の犠牲者からの逆算だ。
いまだ『感染爆発』には至っていないが、今まさに起ころうとしているのではないかという不安が拭えない。加えて、犠牲者の数が少ないからといってバンザイできるような感性をイチカは残念ながら会得していない。
ステージⅠが土産屋から脱出し、赤く輝く両の目でイチカを睨み前半身を低く落とす。威嚇、攻撃準備の姿勢。
背後から覗く土産屋は端的に言って破壊し尽くされていた。あの巨体はどう足掻いても凶器なのだ。そんなもののタックルなど満足に受けたら九歳児のこの肉体はバラバラになるだろう。
おそらくこのステージⅠこそが未確認の一名だった人間の成れの果てだ。間に合わなくてごめんなさいと心の中で念じる。
「いま終わらせます」
言い終わる前にステージⅠの三角形の耳がぴんと立つ。ステージⅠが地面を蹴り頭からイチカ目掛けて突っ込んでくる。
一瞬の判断で着弾位置を推測し、余裕を持って後ろに飛び退く。
やや前方の地面にキツネガストレアの頭部が突き刺さる。巨体に違わぬ重量を持つ頭部の直撃は地面を揺らしイチカの足元にまで亀裂を走らせる。
不意に地面が膨張し、たたらを踏みそうになる。唐突に下から突き上げるような衝撃に膝がよろける。
ステージⅠが地中の頭部のみを起き上がらせ床材を跳ね散らかしているのだと理解したときには、鋭利な破片が飛び込んできた。
爆発的勢いで吹き飛ぶ瓦礫はイチカからすれば散弾銃に撃たれたようなもの。咄嗟に頭部と胸部を両腕で遮るが、ガードできなかった部位をいくつもの尖った瓦礫が食い破り矮躯が痛覚反射で激しく痙攣。瓦礫の大質量による衝撃がイチカの体内を駆け巡り蹂躙する。激痛に思わず目を細めか細い息を漏らす。
それを瓦礫の雲越しにステージⅠの赤い瞳が捉えていた。
絶好のチャンスにステージⅠが瓦礫の雲に飛び込みイチカの頭部を喰らわんと唸りをあげる。
瓦礫の雲は当然ステージⅠにも牙を向く。毛皮を食い破って赤黒い血が噴出。しかし瞬く間に収束する。傷口が異常な速度で閉じたのだ。
ガストレアは非常識的な再生能力を持つ。これは先述した細胞周期の異常速度に起因する。
増殖、再生、加えて規格外の身体能力。この三つがガストレアを脅威足らしめていると言っていいだろう。
そのうち、後者二つをイチカたち『呪われた子供たち』──生まれながらにガストレア因子を取り込んだ子供たちもまた宿している。
イチカの瞳が赤く、燃え上がるように輝く。感覚が捉える肉体が実在以上の範囲に広がる錯覚。全身の細胞が騒がしく動き出すのを感じる。脳内を快楽物質が駆け巡り噴き出す多幸感に身も心も投げ出したくなる。
先ほどの瓦礫による出血は勢いを無くしていた。四肢が通常通りの稼働状況にあることを感覚で捉え、おもむろに──イチカ自身の感覚ではゆっくりと拳を振り絞り、腰を落として地面を踏み締める。
抜き放つ。
『呪われた子供たち』のガストレアにも劣らない人外の筋力が詰め込まれた拳はステージⅠのキツネ特有の細長く伸びた鼻先に正面から衝突。ガストレアの強靭な骨格も筋肉も打ち負かして鼻をひしゃげさせ、その巨体を浮き上がらせ後方はるか遠く、回転木馬の施設にまで打ち飛ばし木馬をボウリングのピンよろしく弾き飛ばす。大質量の着弾によって大音量が轟き、激震と共に巻き上げられた砂塵がステージⅠの姿を隠す。
突き出した拳を戻し軽く息を吐いてステージⅡに向き直る。三つ足のガストレアに動きはない。イチカとステージⅠとの戦闘を離れた位置でじっと見つめていた。
連携をとる気がないのか。違う、ステージⅡが一方的に利用するだけの関係ではあるが、遭遇時に空中で逃げ場がないタイミングで襲いかかったのは連携といって差し支えないものだっただろう。
ならば隙を待っていたのか。それも違う。イチカが瓦礫の散弾を受けたタイミングで不意をつくことは十分可能だった。イチカもそのつもりで、隙をついてくるのを待っていた。しかし動きはなかった。
こいつは観察しているのだ。イチカという脅威対象の実力はどの程度のものなのか力量を測っている。
なら見せてやろう。
回転木馬を覆う砂塵に巨大な影が浮かび上がる。ステージⅠだ。顔面がひしゃげようが、ガストレアは原則、脳か心臓を破壊されなければ生死に影響しない。その再生能力で致命傷だろうと再生してしまうからだ。
背負ったギターケースの口を腰の横に流し、飛び出た持ち手を握る。抜き取りざまに手首をしならせると、コンパクトに折り畳まれた各部がスライド展開しその全体像を呈する。
長い柄の一端に三日月型に湾曲した漆黒の刃が備わったそれは『大鎌』である。武器としての適性はないが、イチカは在野時代に使い慣れた農具と同じフォルムをしたこの武器が最も感覚に馴染んでいた。
そのとき砂塵を背後に逆巻きにさせステージⅠがイチカめがけて一世一代の大突進を仕掛ける。その足が地面を踏み締めるたびに遠く離れたイチカにさえ胃が飛び上がるような激震が伝わる。
手にした大鎌を、手のひらの上を滑らせるようにして操り回してみせる。次に体表面を滑らせるように、回転の軸を次々と肩や首へと変化させながら大鎌を回転乱舞。ひゅんと風を切る音が耳元を通り過ぎる。
大鎌の存在を体の一部だと脳に認識させるルーチンを済ませると肩で長い持ち柄を担ぎ、活眼。
ステージⅠがイチカの頭部を噛み切ろうと跳躍したのと、イチカの五指が閃き大鎌が螺旋を描き始めたのはほぼ同時だった。
『呪われた子供たち』特有の膂力によって生み出された極大モーメントが大鎌の切先一点に収束。ステージⅠの肉体各部を抵抗なく抉り抜け、切断の衝撃でその四肢すべてが明後日の方向へ弾き飛ぶ。
大鎌は螺旋軌道を描き続け、最終的に下から掬い上げるように振り上げた切先が胸部を突き破り心臓を破壊して肋骨の間に埋まり込み停止する。
足を踏み換え反転、残った突進力をそのまま流用し、車輪の如くステージⅠごと大鎌を振り回し、その先へ──いまだ傍観するステージⅡめがけて投げ飛ばす。
トラクターサイズの重量に引っ張られて思わずつんのめりそうになるが気合いで耐え、地を蹴って追走するように跳躍。ステージⅡの視界からすればステージⅠの影に隠れるかたち。
ステージⅡが地面を踏み締めるのを地表を広がる砂塵の波紋で捉える。
投擲された亡骸は、隕石もかくやといった速度で大気を切り裂き唸りを上げながらステージⅡの眼前に迫る。
轟音が鳴り響き、だが一転して、イチカの視界に映る亡骸が巨大化した。ステージⅡが亡骸を跳ね返したのだ。ステージⅠの巨体が視界を遮るのはイチカとて同条件。
いい判断だった。
しかしそれは相手がイチカレベルのイニシエーターでなければの話だ。
空中で大鎌の刃が瞬く。下から掬い上げるようにして大鎌が空気を切り裂き唸りを上げて回転、飛来するステージⅠの肉体に刃先が埋まり込み、イチカと亡骸を接続。空中にして擬似的な足場を構築する。
大鎌を引き込む運動で自身をステージⅠの真下へ潜り込ませる。剛速で眼前を巨体が駆け抜けて突風が前髪を乱れ吹く。強引すぎる身体操縦に全身が締め上がるような力が働く。
亡骸の影から脱し着地ざま、姿勢を低く、バネをたわませるように全身の筋肉を圧縮。
瞬転して地を蹴り銃弾めいた速度で肉薄しステージⅡを大鎌の間合い内に捉える。胴体直下を通り抜けざま大鎌内刃が地面を舐めるように這いステージⅡの太い足を抵抗なく切り飛ばす。二足歩行を強いられるかたちになったステージⅡは大きく重心を崩す。
跳躍の勢いがあまりステージⅡを通り過ぎるのを大鎌を前方、地面に振り下ろして突き刺し、大鎌を中心にした円運動に無理やり改変。
直後、大鎌を握る腕に出鱈目ともいえる力が作用し音を立てて軋む。視界に映る地面は猛スピードで横滑りしている。放るように投げ出した足は地面に対して平行を維持。
体がバラバラになりそうな遠心力が未発達の体を乱暴に揺らしながらも突進力を回転力に変換して、反転、全身の筋肉を総動員させて大鎌を地面から抜き離し、その勢いのままにほぼ水平を維持した高速飛翔。駆け抜けたばかりのステージⅡの膝関節めがけて流星めいた蹴りを打ち込む。
大木ほどの足にイチカの小さな足裏がのめり込み、ガストレアの頑健な骨格がビキビキと音を立ててあっけなく折れ曲がる。重心を崩している最中の情け容赦ない脚撃にステージⅡの巨体が今度こそ致命的な崩落を起こし、パステルカラーの床材に体を擦り付けるように倒れ込む。
乱暴なキックの反動でふらつきながらも着地し、夕陽を受けて漆黒に反射する大鎌を油断なく低く落としながら伏しているステージⅡに近寄る。
ステージⅡの足切断部に再生の予兆は見られない。イチカの大鎌、というより民警の所有する武器はバラニウムというガストレアの再生能力を阻害する性質を持つ金属で構成されている。ガストレアの生理活動を致命的に制限する電磁波を放つ漆黒の金属だ。
あとはこのバラニウム製の大鎌でステージⅡの首を切り落とせば、イチカの任務は半分終わったことになる。
大鎌を振り下ろすためにステージⅡの光を反射する毛を踏みにじりながら胴の横側を登る。もう決着はついたので右耳に嵌め込んだイヤホンからプロモーターと繋ぐ。
「加里屋さん。もう急がなくてもよくなりました」
「なんだよ、もう終わったのか? 焼肉食い放題抜け出すんじゃなかったな」
「討伐報酬でまた行けばいいじゃないですか。ご相伴にあずかってあげてもいいですよ」
「ヤダね。お前焼けた端から肉奪るだろうが」
「成長期なので。お肉大好きです」
「それは偏食っていうんだよ。ん、つーか出禁じゃなかったか?」
「まだ私を把握していない可哀想な狩場がありますから。あ、あとで担当する解剖医にはキツネ絡みだと伝えてください。未確認の因子を継承した個体がいます。特定したら各ルートに流して──」
不意に足首を何かが締め上げた。
ぎょっとして視線を足下に向けると、ステージⅡの半透明な毛がまるで意思を持っているかのようにイチカの足首に巻きつき締め付けている。なんだこれは。なんで動く。
予想だにしなかった事態に一瞬思考がフリーズ。しかし肉体だけは無意識に跳躍して毛の戒めから脱しようとする。
だが毛の引く力の方が数倍強い。
跳躍は期待していた高度に達することなく、空中で縫い付けられたかのように停止。跳躍力と引く力の相反する力がイチカの小さな体を引き裂かんと猛威を振るう。
次の瞬間には強烈なGが襲いかかっていた。横合いから空気の壁が叩きつけられるような衝撃に思わず目を瞑る。全身が上下に引っ張られるような力に反射的に体を固く強張らせた。大鎌だけは手放さないと持ち手をきつく握りしめる。毛によって振り回されたのだと気づくのに数テンポ遅れをとる。
まずい。次に来るのは。
なんとかして目を開けたイチカの視界に映るのは強烈な勢いで迫るパステルカラーの地面だった。
「ガッ」
咄嗟に体を捻り墜落部位を背面に変更して受け身を取るが、ガストレアの非常識的な筋力によって生み出された運動エネルギーは分散しきれない。
叩きつけられたと脳が知覚したと同時に肺を衝撃が押し潰し空気が全て強引に押し出されて唾液を吐き散らして目を剥く。
イチカの意識が一瞬完全に掻き消え、力の覚醒が強制的に途絶する。きっと今のイチカの瞳は元の黒色をしている。
ハッとして意識を取り戻すが、あまりにも遅すぎる。
頭上数メートルの高度をステージⅡの巨体が舞っていた。
数トンをするガストレア・ステージⅡの全重量がイチカの上に落下し、パステルカラーの地面が陥没。呪われた子供たちの強靭な骨格でさえ耐えきれない重量に肋骨が歪み軋み砕ける。
圧倒的な重量差に肉体運動が屈服し、なす術なく地面に押し付けられる。アドレナリンによる痛覚欺瞞がなければ気絶している。
イチカが絶命せずに済んだのは地面がイチカに比べて脆く、着弾の直後には全身が地中に埋まり込んでいたのと、加えてこのガストレアが比較的軽量だったからに過ぎない。
乗り上げたステージⅡは伸び下がった半透明な毛を踏みつけたイチカに差し向ける。ここでイチカは自身の思い違いにようやく気づく。
あの伸び下がったモノは毛ではない。足、もっと言えば触腕だ。
よく見れば筋肉の動きに連動して触腕表面の色が変化している。これは色素胞の特徴だ。色素の詰まった袋が筋肉と直結しているため、動きによって視認性が変わるのだ。
ステージⅡのもう一つの因子はイカ、あるいはそれに準じた種で間違いない。
もしかしたら腕で囲われて見えない部分に隙間があって、そこから空気を吸い込んでは別の場所で吹き出して推進力を得る仕組みを持っている可能性すらある。実在のイカは外套膜(イカの帽子)と頭の間に隙間があって、そこから吸い込んだ海水を漏斗で吐き出してジェット推進の要領で海中を泳ぐのだ。中には海上へ飛び出して、空中で腕を広げて滑空する種まで存在する。とはいえやつは身重、空気を吐き出して空を飛ぶなんて芸当は重量の関係で不可能なはずだが。
「く、ぅ……ぁ……」
イチカの全身を粘液を纏った触腕が駆け巡り、四肢を腰を首を巻き締め圧縮しようとする。イカの吸盤特有の硬いトゲが鉄条網の如く服もろとも肌を裂き、激痛が体表面を走る。血管と気管が物理的に閉塞し無意識的に再開していた覚醒状態が消えかかる。顔面が締め上がるような感覚と共に視界がぼやけ思わず涙が出てしまう。脈動がはっきりと手に取るようにわかる。頭がぼうっとしてくるのをなんとか気合いで食い止めようとするが、無理だ、できない。大鎌を握る力が少しずつ抜けていく。眼球運動が制御できず視線がふらつき始める。意識が落ちかける。
触腕の圧迫とイチカの抵抗はギリギリの均衡の中にあった。力の覚醒が途切れることは即死を意味していた。
まずい。このままでは──。
おもむろにステージⅡが触手の一端をイチカに向ける。
意図を図りかねたが無意識的に延長線上から身を引こうとする。無駄だった。全く動かない。突拍子もなく視界に赤いぐちゃぐちゃが現れる。深刻な酸欠状態から来る幻視現象。
消えゆく意識の端に胃が飛び上がるようなエンジン音が届く。どこかで聞いたことがあるような気がする。幻聴まで聞こえてきたか。
いや、幻聴などではない。
その証拠にステージⅡの動きが止まり、視線を横に投げている。横に、音の発生源に。
きゅるるとゴムが摩擦する音。軽金属がひしゃげる音。煮えたぎるようなエンジン音と共に耳を貫くバイク特有の排気音。なにかそれなりの重量を持つ物体がぶつかった音。
聴覚がそれらを知覚した次の瞬間、イチカにかかる重量が消える。
ステージⅡがその巨体をのけ反らせていた。
触腕の戒めが緩まり酸素が脳を満たして視界が回復、見上げればキツネ似の細長い顔面にバイクが突っ込んでいる。
前輪が高速回転し硬質な毛皮を抉り取ると乱暴な着地、地面にゴム痕を残しながら制動をかけイチカの前で止まる。
筋肉で裂けそうなほど張り詰めたジャケットを着た運転手がバイザーを押し上げてこちらを向く。
果たしてバイクに跨っていたのはイチカのプロモーター、加里屋隆だった。
「加里屋さんッ」
「乗れッ」
無言の頷き。瞬時に目を赤く輝かせ覚醒状態に移行させ、後部座席に飛び乗る。
仰け反っていたステージⅡが触腕を利用してなんとか姿勢を戻すのとバイクが発進するのはほとんど同時。
触手の一端がバイクを向き、先端が花開くと細長い蕾のようなものが見える。
強烈に嫌な予感がして大鎌を握る手が汗ばむ。大鎌が螺旋を描いて、ある一点、触手の延長線上に刃を捩じ込ませる。
直後、ガキンと硬い音がして大鎌に反動が走る。大鎌が高速飛来する物体を弾いたのだ。
見ればステージⅡがバイクに向けていた触手の先端部分だけが消えていた。今弾いた飛来物がその消失部位なのだと悟るのに数テンポを要した。弾丸。まさかの射撃能力。
その損失部位が瞬く間に再生する。次弾装填といったところか。
イカが交接するときオスは精子の詰まった精莢を交接腕と呼ばれる特殊な腕でメスに差し出す。空気を吐き出す漏斗にあたる器官が、この交接腕と一体化したために機銃めいた触手が成立してしまったのだろう。
「銃持ってる生物ってなんだよわけわかんねーなッ」
「あれはイカです。精子の塊、精莢を発射してるんです」
「じゃあなんだッ。あいつはお前に発情してるってことか。とんでもねー精力だな」
「気持ち悪いこと言うのやめてください。叩き落としますよ。あととんでもねーってどういう意味ですかッ」
「お前には言ってねーよッ」
「避けてッ。来ますッ」
「了解ッ」
バイクの進行方向に精莢がライフルの連射めいた速度と数量突っ込んでくるのを加里屋が刹那のハンドル捌きでかわす。法定速度を余裕で超過した乱暴な運転は、しかしステージⅡの銃乱射を神がかった精度でやり過ごしている。
慣性で何度も投げ出されそうになるのを加里屋の胴に抱きついて凌ぐ。
このまま避け続けて隙を窺う? いやその前にこちらの集中が切れる。どうする。
思案していると突然、地面に突き刺さった精莢が爆竹めいた音を立てて炸裂。中からミニサイズの針状精莢が弾け飛ぶ。
完全な不意打ちにバイクのタイヤを突き破られ、しまったと思った時にはバランスを崩して二人とも空へ投げ出されていた。
それを見逃すガストレアではなかった。
空中で遮蔽物がないイチカと加里屋めがけて無数の精莢が大気に螺旋の尾を残して殺到。
ゾッとしながらも一瞬の戦闘予測で着弾位置を割り出し、それら全てを結びつけるように螺旋軌道を描いて大鎌がそれぞれの攻撃軌道上の一点と衝突。イチカの腕に重い反動が跳ね返るも腕力任せに弾き返す。
なんとか致命的な軌道にあった精莢は弾くことに成功するが、漏れた数発がイチカと加里屋の体表面をかすり思わず歯噛みする。
重力に引かれて直下、錆びた文字看板が立つ屋根に墜落し突き破って店内に突入、木製の卓を割って横たわる。腐った匂いのする木の粉がイチカの身に降りかかる。先の触手蹂躙でぐちょぐちょに濡れた体表に木粉が張り付いて不快指数が跳ね上がった。
ぱっと跳ね起きて周囲を見れば、卓とともに椅子が規則的に敷き詰められていた。レストランのホールだ。
傷口は燃えるような痛みを発していた。体内にその熱が浸透していく。この違和感をイチカはどこかでその身に体験したような気がする。焦燥感に不思議と心臓が跳ね上がる。
脳裏に、触手で拘束されたイチカに向けられた交接腕が浮かぶ。
違う。ステージⅡがあのときしようとしていたのは攻撃などではなく。
『死亡ではなく感染済みと考えた方がいいですね』
『ああ、今までの行動パターン通りならな』
聴覚が瓦礫の崩れ落ちる音を捉える。
いくつか向こうの座席で加里屋が頭の裏を抑えながら起き上がっていた。その持ち上げられた右上腕はジャケットが裂け血が垂れ落ちている。他に負傷はないらしい。
よかった。腕だけで。
加里屋がこちらに近寄ろうと体を向ける。やりやすい位置取り。心が氷点を突破して凍てつく。腰を落とし地面を踏み締め飛び掛かる。一瞬で加里屋隆を刃圏に捉え、大鎌を握る手が爆ぜるように翻り刃が彼の右脇を掬い上げるようにして螺旋軌道を描く。
仰け反るようにして身を引いた加里屋の相貌が歪みいくつもの感情がその顔面を一瞬で駆け抜ける。──なぜ。なにをした。イニシエーターによるプロモーター殺害。自由のための反乱。俺はちゃんとしたはず。裏切られた。やはり赤目。死神。信じたのは間違いだった。裏切られた。裏切られた。裏切られた。
その全てが右腕と共に吹き飛ぶ。
変化はその直後に起こった。
切断の衝撃で弾け飛んだ右腕が空中で爆発的に収縮。筋骨たくましかった腕が枯れ木の如く萎び、瞬間、爆発的に膨れ上がる。勢いで粘性の液体を飛び散らせる腕は半透明かつ細長く、裏面には円形のトゲ付き吸盤が不規則的に並ぶ。イカの腕である。
精莢に詰まっていたのはガストレアウィルスだった。被弾でウィルスを体内に取り入れた腕が瞬く間に細胞を総入れ替えし、イカ因子に基づいたガストレアの腕として再構築したのだ。
加里屋は腕切断という重傷に顔色を失い苦悶の声を漏らす。絶叫したり意識を失ったりしていないのは流石だ。
悲壮な姿を見て胸がずきりと軋む。もっと自分に力があれば、から始まるいつもの後悔を無理やり心の底に押し込める。
あるいは、逆であったならと。
「…………すみません。説明する暇がありませんでした。立てますか」
「ああ。今度、からは……アイコンタクト、な……」
「今度はないと思いますけど」
その腕ではもう……。
ともかく加里屋を戦場外に出さねばと彼に手を差し伸べかけ、そのときイニシエーター特有の条理を超えた超直感が警鐘。ゾッとして息を呑みながらも、思い切り加里屋の胸を突き飛ばす。
直後に横殴りの衝撃がイチカを襲う。
その矮躯がレストランの壁を突き破り屋外へ投げ出され数度パステルカラーの上をバウンドしてメリーゴーランドの支柱に叩きつけられる。背中に走る衝撃に矮躯がのけ反り、口の端から唾液が落ちる。全身が殴打され腹の奥がきりきり痛み出す。
既にステージⅠの墜落で半壊していた遊戯機械はイチカの激突によって完全に破壊され、駆動円盤の下部に隠されたギアが亀裂から覗けるほど。ステージⅡがレストランを強引に突き抜けてイチカを跳ね飛ばしたのだ。
加里屋は接触の直前に突き飛ばしたので難を逃れた、はずだ。相棒の無事を思いつつイチカは支柱に背中を押し付けながらなんとか身を起こし顔を顰めた。
すこしまずい状況にあった。
ガストレアによる度重なるダメージもイチカの肉体を蝕んではいたが、それは呪われた子供たちの再生能力と気合いでなんとかなる。これは問題ない。衣服の損傷具合はちょっと問題かもしれないが、誰に見られているわけでもないのでこれもやはり問題ない。
問題なのはイチカの両手にあった。
大鎌がなかった。
先の突進でレストラン内に取り残してしまったのだ。
「あまりこの手は使いたくないんですが……」
愚痴を漏らしつつ両拳を固く握りしめる。もうこうなれば自棄だ。この拳で奴を殴り殺すしかない。
レストランを突き抜けたステージⅡは既にメリーゴーランドのイチカに気付き、地面を無数の触腕で砕きながらダンゴムシの如く這い迫り来る。跳ね上がった瓦礫が直後に別の触腕に砕かれ砂塵と化して後方に流れる。
来い。その頭蓋骨殴り割ってやる。
目を見開いて薄く呼吸。殺意のボルテージが上がる。全身の筋肉が制御下に置かれ殴殺の予備動作に入る。
絶好の間合いまで、三、二──。
「イチカぁ、落とし物ここにあるよぉ」
そこで殺し合いには不似合いな間延びした声が割って入った。
イチカとステージⅡの動きが共に止まり、声の発生源、レストランに意識が向く。
ステージⅡが通り抜けてできた大穴から一人の少女が乗り出していた。ボブカットを覆う灰色ニット帽にイヤーマフ、マフラーと膝まであるコートと完全フル装備。なのにコートから覗くのは細い生足だ。
その少女の瞳は赤く輝き、イチカの大鎌と、もう一本全く同じものの計二本の大鎌を鳥類の両翼よろしく水平に掲げていた。
「ムク! 触手に気をつけて。ウィルスの弾丸を撃ってきます。あと炸裂します」
最小限の口数で少女、荊都椋にガストレアの脅威を伝える。
ステージⅡの意識が完全にムクに移ったのを感じる。重傷のイチカと比べ、無傷かつ武器を持ったムクを最優先排除対象に据えたのだ。一転して突進方向をムクへ、レストランへ向ける。
まずい。そこにはまだ加里屋がいる。
「多芸でめんどくさいなあ。イチカぁ、どーにかしてよぉ。早く取りに来てぇ」
「そっちが来てくださいッ」
「えぇ〜、遠いなぁ。……なーげちゃお」
ムクは悪戯っぽく舌を出すと、右手に掲げた大鎌を手の甲で一回転、持ちやすいよう掴む向きを整え、野球選手の投球よろしく投擲する。
瞬間、ムクの足元が爆ぜたように巻き上がり、大鎌は螺旋の尾を引いてイチカへ、正確にはその間を突進するステージⅡに飛来。
イチカはムクが投擲の予備動作に入ったときには既に大鎌へ向かって飛び出していた。
回転して迫り来る大鎌と疾走するイチカに挟まれた格好になるステージⅡは赤い目を見開き一瞬だけイチカへと意識を向け、すぐさまムクへと戻す。
そして頭上を擦過する大鎌を尻尾一振りで弾き、交接腕の銃口でムクの頭部を睨みつける。
このときイチカは完全にステージⅡの意識外にあった。
イチカは大鎌が何の妨害もなく己の手中に戻ってくるとは考えていなかった。ステージⅡがかわす以外の手段を講じてくるのは分かっていた。
だからイチカはワンテンポ早く跳んでいた。
ステージⅡの頭上、舞い上がる大鎌。そのさらに上をイチカの小さな体が飛躍する。
すっと息を吐く。吹き荒れる風が襟をはためかせ、天地が逆になった視界で大鎌を知覚におさめた。
オーバーヘッドキックの要領で振り上げた蹴り足は大鎌の最下端、石突に直撃。芯を捉えた脚撃はその力を余すところなく大鎌に伝え、直進する力を形成する。
直下、ムクへと向けられた交接腕にギロチンじみた速度で大鎌の外峰が振り落とされ、触手の半ばあたりに食い込みそのまま地面に縫い止め切断。痙攣を起こして体液が飛び散る。刃がない外峰といえどイニシエーターの脚力で打ち出されれば刃物を凌ぐ凶器となる。
「※※※※ちょん切るなんてひどいねぇ〜」
観客気分のムクを無視して受け身を取りつつ着地。
直立する大鎌を握った瞬間、爆発かと思うほどの轟音と共に足元を衝撃が過ぎ去り、地面が浮き上がり視界が傾斜する。ステージⅡがパステルカラーの地面を叩き割り、足場ごとイチカを跳ね上げたのだ。
瞬く間に急角度の斜面と化し、重力に引かれてイチカの体が滑り落ちる。落下方向にはステージⅡの赤口。
ステージⅡが触手で背後を叩きつけ無理やりの跳躍。足場を喪失したイチカめがけて突っ込んでくる。
満足に踏ん張れない現状は最悪だった。命の危機にイチカの背筋を冷たいものが走り抜ける。迫り来る死を前に脳活動が爆発的活性、起死回生の一手が脳を過ぎる。
咄嗟に大鎌を小さくその場で翻して斜面に振り下ろす。腰のすぐ横の面に突き刺し、さらに力を込めて刃を深部へ流す。
腕力だけで全身を持ち上げ、体を放り上げる勢いで突進軌道外へと脱出。
直後に巨大な頭部がすぐ真下を擦過し、押し出された破片が至近距離にあるイチカの全身を叩く。
激痛で目を剥きながらも空中で腰を捻り超至近距離にあるステージⅡの顔面上半分を蹴り飛ばす。水平に振り払われた蹴り足は唸りを上げガストレアの赤い目を食い破り余波で眉間が陥没。
満足に力が入っていない一撃にも関わらず、トラクターに勝るサイズのガストレアの巨体が浮き上がり大気を震わせながら空へと飛翔する。
大鎌を持つ手を支えに斜面に足をつけ、共に一心の跳躍。鬼人の踏み鳴らしが空気を破裂させパァンという炸裂音が鳴り響き、背後に螺旋の暴風を残してイチカの体が跳ね上がる。
土産店上空数メートルを飛びあがったガストレアに一瞬で追いつきざま、その首に大鎌の内刃をあて上空にいながら制動をかける。
突進力が回転力に変換され始め、生じた遠心力によって体がバラバラになりそうなほどの衝撃がイチカを駆け巡る。
内刃がガストレアの硬質な毛皮に深々と食い込み、イチカはその首の上に足を蹴り付けるようにして乗りあがる。
ここに来てガストレアが不恰好な重低音の悲鳴をあげるが、既に執行体勢に入っている。
「腕で済むと思うな」
気付けば低い声が出ていた。両足が毛皮を踏み締め、柄を握る両腕が唸りを上げ大鎌を引きずりあげる。イニシエーター特有の膂力によってガストレアはギロチンにかけられたが如く首を裁断。最後の声を喚く間もなく一瞬で死亡する。衝撃で頭部が切り飛ばされ、おびただしい量の紫色の血液が噴出して空色のキャンバスを汚す。
戦闘の終結に伴う高揚感で夕日がやけに美しく感じる。祝福されているかのような錯覚が引いていき、浮遊感に置き換わった。付与されていた運動エネルギーがポテンシャルエネルギーに変換され尽くし、重力の楔が再び現れ落下運動を開始。
ガストレアごと墜落し、遊園地特有のパステルカラーで塗装された地面に何個目か分からない亀裂を走らせ砂塵が舞い上がり視界を覆う。
やがて砂塵が引いた視界で、ムクと彼女に背負われた加里屋が出迎えた。
加里屋の切断された肩には包帯がきつく縛られていてその白地を赤く染めている。目を閉じていたので一瞬まさか死んだのではないかと肝が冷えるが、かすかに聞こえる呼吸音でホッとする。緊縛止血と
ムクが胸の前で指を開いてVサインを見せた。
「おつかれイチカぁ。どーにかしたねぇ。怪我は大丈夫ぅ」
「大丈夫です。気合いでなんとかなります」
「そのとりあえず気合いでなんとかしようとする癖早いとこ直した方がいいと思う。ホントに。ムク珍しく本気で言ってるからね?」
「大丈夫です。それも気合いでなんとかなります」
「……………………アホ」
「アホじゃないです。何度も言ってますが、アホじゃないです」
「少なくとも俺のこの怪我は気合いでどうにかなる域じゃねえぞ」
意識を喪失しているとばかり思っていた加里屋の声に驚く。色の薄い唇で睨んでくる姿を見て思わず目を逸らした。
「…………すみません。加里屋さん、私が」
「あークソッ。そういうのは勘弁してくれ。アホはアホらしくしてりゃいいんだよ」
イチカは思わずムッとした。
「……アホじゃ、ないですッ」
「よろしい。で、さっさと病院にでも運んでくれねーか? いや生きてるだけありがてーことは確かなんだがよ」
あ、という自分の声で我に帰る。完全に忘れていたので挙動がおかしくなり、手を突き出したり振ったりして慌て出す。
加里屋とムクが「やはり」と言いたげな目でこちらを見ていた。
「いっ、今すぐ連れていきますから、捕まってください!」
二〇三〇年、十二月。大戦の影響で既に降雪も珍しくなくなった東京エリアを、一匹のガストレアが潜伏し次々と人々を襲っていた。
民警は対処療法的に発生するガストレアを駆除するが、『親』となるガストレア、通称『キツネ』はその正確な姿すら確認されていなかった。
後にこの事件群は『狐狩り事件』と呼ばれた──。